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【成年後見】居住用不動産処分の許可
老人ホームの入所費用にあてるため自宅を売却する場合等,後見事務をするにあたって不動産の処分が必要になることがありますが,居住用不動産を処分するには家庭裁判所の許可が必要です。
一 居住用不動産処分の許可
成年後見人が,成年被後見人に代わって,その居住の用に供する建物又はその敷地について,売却,賃貸,賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには,家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。
居住環境の変化は本人の精神状況に重大な影響を与えることから,居住用不動産の処分について後見人の代理権を制限し,家庭裁判所の許可が必要とされています。
なお,民法859条の3は,保佐人,補助人,成年後見監督人,保佐監督人,補助監督人が居住用不動産を処分する場合にも準用されておりますので(民法876条の5第2項,876条の10第1項,852条,876条の3第2項,876条の8第2項),これらの者が居住用不動産を処分する場合にも家庭裁判所の許可が必要となります。
二 居住用不動産とは
「居住の用に供する建物又はその敷地」は,生活の本拠として現に居住の用に供している不動産だけでなく,現在居住していなくても,生活の本拠として居住していた不動産や将来,生活の本拠として居住する予定のある不動産も含まれると解されます。
三 処分
許可が必要な処分は,①売却,②賃貸,③賃貸借の解除,④抵当権の設定,⑤その他これらに準ずる処分(贈与,使用貸借,譲渡担保権等抵当権以外の担保権の設定,解体工事を業者に依頼すること等)です。
賃貸借の解除にも許可が必要となりますので,老人ホーム等の施設に入る等の理由で借家の賃貸借契約を解除する場合にも家庭裁判所の許可が必要となります。
また,生活費を工面するために,リバースモーゲージ(自宅を担保に融資を受ける制度)を利用する場合にも家庭裁判所の許可が必要となります。
四 許可を得ないでした処分の効力
家庭裁判所の許可を得ないでした居住用不動産の処分は無効であると解されています。
五 手続
1 申立て
居住用不動産を処分するにあたって,成年後見人は,後見開始の審判をした家庭裁判所に居住用不動産処分許可の審判を申立てます(家事事件手続法117条2項)。
申立てにあたっては,不動産の全部事項証明書,固定資産評価証明書,処分に関する契約書案の写し,不動産業者の査定書等の資料を添付します。また,後見監督人が選任されているときは,その同意が必要となりますので(民法864条,13条1項3号),後見監督人の同意書も添付します。
2 審判
家庭裁判所は,処分の必要性や相当性,本人への影響等の事情を考慮して,処分を許可するか判断します。
3 不服申立て
条文上の規定がないので,即時抗告をすることはできません。
【後見】後見制度支援信託
後見人が本人(被後見人)の財産を横領するという事案が度々,新聞やテレビ等で報道されます。
成年後見において,本人の財産管理が適切に行われることは非常に重要なことであり,そのための制度の一つとして,後見制度支援信託があります。
1 後見制度支援信託とは
後見制度支援信託とは,本人の財産のうち,日常的な支払に必要な金銭を預貯金等として後見人が管理し,通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する制度です。
後見人は,日常的に必要な金銭の管理を行いますが,本人の収入よりも支出が多い場合には,信託銀行等は,信託財産から必要な金額を定期的に交付することができます。
通常使用しない金銭については,信託銀行等が管理し,信託契約締結後の定期交付金の金額の変更,一時金の交付,信託財産の払戻や信託契約の解約をするには家庭裁判所の指示書が必要となります。
2 どのような場合に利用されているのか
成年後見と未成年後見の場合で,親族が後見人となるときに利用することが想定されております。なお,信託契約の締結は専門職後見人が行います。
すべての件で後見制度支援信託が利用されるわけでなく,後見制度支援信託に適している場合に利用されます。
なお,保佐,補助,任意後見の場合には,利用できません。
3 どのような財産が信託されるのか
金銭に限られます。
不動産や動産,株式等の金融商品は信託されません。
4 手続の流れ
(1)後見開始または未成年後見人選任の申立て
申立ては,家庭裁判所の許可がなければ取り下げることはできませんので(家事事件手続法121条,180条),申立人は後見制度支援信託の利用が嫌だからといって申立てを取り下げることはできません。
(2)審理
後見開始の申立て等があった場合には,家庭裁判所は後見制度支援信託の利用を検討すべきかも審理します。
(3)審判
家庭裁判所は,後見制度支援信託の利用を検討すべきと判断した場合には,専門職(弁護士,司法書士等)を後見人に選任します。
また,専門職と親族を後見人に選任すること(複数選任)もあります。
(4)専門職後見人の検討
①専門職後見人は,後見制度支援信託の利用に適しているか検討します。
②専門職後見人が,後見制度支援信託の利用に適していると判断した場合には,信託する信託銀行等,信託する財産の額,親族後見人が日常的に支出に充てる額等を設定し,家庭裁判所に信託契約を締結する旨の報告書を提出します。
③専門職後見人が,後見制度支援信託の利用に適していないと判断した場合には,家庭裁判所は再検討します。
後見制度支援信託の利用に適していない場合とは,本人に遺言がある場合や親族間で紛争があり,親族が後見人となることに適していない場合,等です。
(5)信託契約の締結
家庭裁判所は,報告書の内容を確認し,後見制度支援信託の利用に適していると判断した場合には,専門職後見人に指示書を発行します。
専門職後見人は信託銀行等に指示書を提出し,信託契約を締結します。
(6)専門職後見人の辞任
専門職後見人は辞任します。
専門職後見人のみしか選任されていなかった場合には,親族後見人を選任します。
専門職後見人は,管理していた本人の財産を親族後見人に引き渡します。
【後見】法定後見と任意後見の関係
成年後見制度には,法定後見制度と任意後見制度がありますが,両制度の関係は以下のとおりです。
一 法定後見と任意後見の関係
任意後見では,本人は,誰を任意後見人とするか,どのような代理権を与えるかについて,本人が自らの意思で決めることができます。
そのため,本人の自己決定を尊重する観点から,法定後見が本人の利益のために特に必要であると認められる場合を除き,任意後見が法定後見に優先します。
1 法定後見開始後に任意後見契約を締結した場合
法定後見開始後であっても,本人に判断能力があれば,任意後見契約を締結し,任意後見監督人選任の申立てをすることができます。
その場合,法定後見を継続することが,本人の利益のために特に必要であると認められるときは,家庭裁判所は任意後見監督人を選任することができませんが(任意後見契約に関する法律4条1項2号),任意後見監督人が選任される場合には,家庭裁判所は,後見開始の審判等を取り消します(法4条2項)。
2 任意後見契約締結後に後見開始の審判等を申し立てた場合
任意後見契約が登記されている場合,家庭裁判所は,本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り,後見開始の審判等をすることができます(法10条1項)。
後見開始の審判等の申立ては,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人もすることができます(法10条2項)。
任意後見監督人が選任された後に,本人が後見開始の審判等を受けたときは,任意後見契約は終了します(法10条3項)。
三 本人の利益のために特に必要がある場合
本人の利益のために特に必要がある場合としては,以下のような場合が考えられます。
1 任意後見人の代理権の範囲が狭い場合
任意後見人の代理権は,任意後見契約で定められた範囲に限定されます。
また,任意後見契約の内容については変更することもできますが,本人の判断能力がない場合には,変更することもできません。
そのため,任意後見人の代理権の範囲が狭いが,代理権の範囲を変更することができず,本人の身上監護や財産管理が適切に行えない場合には,法定後見を開始することが必要となります。
2 同意権や取消権が必要な場合
任意後見人には代理権しかなく,同意権や取消権はありません。
そのため,本人のために同意権や取消権が必要な場合には,法定後見を開始する必要があります。
3 任意後見受任者が任意後見人となることに適しない場合
任意後見受任者が①未成年,②家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人,補助人,③破産者,④行方の知れない者,⑤本人に対し訴訟をし,またはした者及びその配偶者並びに直系血族,⑥不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者である場合には,家庭裁判所は,任意後見監督人を選任することができないため(法4条1項),任意後見契約の効力が生じません。
そのような場合には,本人を援助するために,法定後見を開始することが必要となります。
【後見】任意後見監督人選任申立て
任意後見契約の効力を発生させるためには,任意後見監督人の選任申立てをして,家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらう必要があります。
1 任意後見監督人選任申立てとは
任意後見契約が登記されている場合において,本人が精神上の障害により事理を弁識する能力(判断能力)が不十分な状況にあるときは,本人,配偶者,4親等以内の親族,任意後見受任者は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人選任の申立てをすることができ(任意後見契約に関する法律4条1条),家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで,任意後見契約の効力が発生します(法2条1号)。
2 本人の判断能力
「本人が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況にあるとき」とは,本人の判断能力が補助開始相当程度以上に不十分な状況にある場合をいいます。
3 申立人
本人,配偶者,4親等以内の親族,任意後見受任者は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人選任の申立てをすることができます(法4条1条)。
4 管轄裁判所
管轄裁判所は,本人の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法217条1項)。
5 本人の同意
本人以外の者が申立てをする場合には,本人が意思表示できないときを除き,本人の同意が必要となります(法4条3項)。
6 申立ての取下げの制限
家庭裁判所の許可がなければ,取り下げることはできません(家事事件手続法221条)。
7 意見,陳述の聴取
家庭裁判所は,①本人の精神の状況につき医師その他適当な者の意見,②本人の陳述(心身の障害により陳述を聴くことができない場合を除きます。),③任意後見監督人となるべき者の意見,④任意後見契約の効力が生ずることについて任意後見受任者の意見を聴いた上で(家事事件手続法219条,220条),任意後見監督人選任の審判をします。
8 任意後見監督人を選任することができない場合
家庭裁判所は,以下の場合には,任意後見監督人を選任することができません(法4条1項但書各号)。
①本人が未成年
②本人について,法定後見が行われており,その継続が本人の利益のために特に必要であると認められるとき
③任意後見受任者が,次に掲げる者である場合
ⅰ 未成年
ⅱ 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人,補助人
ⅲ 破産者
ⅳ 行方の知れない者
ⅴ 本人に対し訴訟をし,またはした者及びその配偶者並びに直系血族
ⅵ 不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
9 登記
任意後見監督人が選任されたときは,登記されます。
【後見】任意後見制度
高齢で認知症になる等して判断能力が低下した場合,ご本人で身の回りのことや財産の管理を行うことができなくなってしまいます。
そのような場合に,本人を援助するための制度として,任意後見制度があります。
一 任意後見制度とは
任意後見制度とは,本人が任意後見人と任意後見契約を締結して,委任事項を定めておき,本人が精神上の障害により判断能力が不十分になったときに,任意後見監督人を選任して,その監督の下,任意後見人が本人を援助する制度であり,成年後見制度の一つです。
法定後見制度では,誰を後見人に選任するかについては裁判所が決めますし,後見人等の権限の範囲も法律で定められております。
これに対し,任意後見制度では,本人が,判断能力のあるうちに,自分の意思で,誰を任意後見人とするか,どの範囲で委任するか決めておくことができます。
二 任意後見契約
1 任意後見契約とは
任意後見契約とは,委任者(本人)が受任者(任意後見受任者)に対し,精神上の障害により事理を弁識する能力(判断能力)が不十分になったときに,自己の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部の代理権を付与する委任契約であって,任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めがあるものをいいます(任意後見契約に関する法律2条1号)。
2 任意後見契約の締結方法
任意後見契約は,公正証書によることが必要です(法3条)。
任意後見契約が締結されると,公証人を通じて,任意後見契約が登記されます。
3 任意後見契約の効力発生
任意後見契約が登記されている場合,本人が精神上の障害により判断能力が不十分となったときは,本人,配偶者,4親等以内の親族,任意後見受任者は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人選任の申立てをし(法4条1条),家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで任意後見契約の効力が発生します(法2条1項1号)。
三 任意後見人
1 任意後見人の資格
任意後見人の資格については特に制限はありません。
自然人だけでなく,法人も任意後見人になることができます。
また,複数人が任意後見人になることもできます。
ただし,任意後見受任者に以下の事由がある場合には,家庭裁判所は,任意後見監督人申立てを却下しますので,任意後見人になることはできません(法4条1項)。
①未成年
②家庭裁判所に法定代理人,保佐人,補助人を免ぜられた者
③破産者
④行方の知れない者
⑤本人に対し訴訟をし,またはした者及びその配偶者並びに直系血族
⑥不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2 任意後見人の職務
任意後見人は,任意後見契約の効力が発生した後,任意後見契約で付与された代理権に基づいて,委託された事務を行います。
事務を行うにあたって,任意後見人は,本人の意思を尊重し,心身の状態,生活の状況に配慮しなければなりません(法6条)。
また,任意後見人は,任意後見監督人の監督を受け,任意後見監督人に事務を報告しなければなりません。
四 任意後見監督人
1 任意後見監督人の資格
任意後見監督人の資格について法律上規定はありませんが,以下の人は,任意後見監督人になることはできません。
①任意後見受任者(法5条)
②任意後見人の配偶者,直系血族,兄弟姉妹(法5条)
③未成年(法7条4項で準用される民法847条 以下,同じ)
④家庭裁判所に法定代理人,保佐人,補助人を免ぜられた者
⑤破産者
⑥本人に対し訴訟をし,またはした者及びその配偶者並びに直系血族
⑦行方の知れない者
2 任意後見監督人の職務
任意後見監督人の職務は,以下のとおりです(法7条1項)。
①任意後見人の事務を監督すること
②任意後見人の事務に関し,家庭裁判所に定期的に報告すること
③急迫の事情がある場合に任意後見人の代理権の範囲内で必要な処分をすること
④任意後見人・その代表者と本人との利益相反行為について本人を代表すること
任意後見監督人は,いつでも,任意後見人に対し,任意後見人の事務の報告を求め,任意後見人の事務,本人の財産の状況を調査することができます(法7条2項)。
3 家庭裁判所の監督
家庭裁判所は,必要があると認めるときは,任意後見監督人に対し,任意後見人の事務に関する報告を求め,任意後見人の事務,本人の財産の状況の調査を命じ,その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命じることができます(法7条3項)。
【成年後見】補助開始の審判の申立て
高齢で認知症になる等して,判断能力が不十分になった場合には,援助が必要となります。
そのような場合には,家庭裁判所に申立てをして補助人を選任してもらい,本人の援助をしてもらうことが考えられます。
そこで,補助をお考えの方のために,申立手続について簡単にご説明します。
1 補助の開始
(1)審判の申立て
補助を開始するには,家庭裁判所に補助開始の審判の申立てをします。
家庭裁判所が補助開始の審判をすると,補助が開始します(民法876条の6)。
家庭裁判所は,補助開始の審判をするときは補助人を選任します(民法876条の7第1項)。
また,補助開始の審判は,同意権付与の審判(民法17条1項),代理権付与の審判(民法876条の9第1項)とともにしなければなりませんので(民法15条3項),補助開始の審判の申立てとともに,同意権付与の審判の申立て,代理権付与の審判の申立てをしなければなりません。
(2)本人の同意
補助の場合,本人には不十分とはいえ判断能力があります。
そこで,本人の自己決定権を尊重するため,補助開始,同意権付与,代理権付与にあたっては,本人以外の者による申立ての場合,本人の同意が必要です(民法15条2項,民法17条2項,民法876条の9第2項(民法876条の4第2項を準用))。
2 被補助人
補助の対象となる「本人」のことを被補助人といいます(民法16条)。
補助が開始するのは,本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である」場合です(民法15条1項)。
簡単にいうと,本人の判断能力が不十分な場合です。
判断能力の有無については,審判を申し立てるにあたって提出する診断書や,申立後に行われる鑑定により判断されます。
診断にあたっては,長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式テスト,HDS-R)が用いられることがよくあります。
判断能力の程度によっては,補助ではなく,後見や保佐になることがあります。
3 補助人
(1)誰が補助人になるのか
補助人は家庭裁判所が選任しますが(民法876条の7第1項),補助人を選任するには,被補助人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,補助人となる者の職業及び経歴並びに被補助人との利害関係の有無(補助人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と被補助人との利害関係の有無),被補助人の意見その他一切の事情を考慮しなければならなりません(民法876条の7第2項で民法843条4項を準用)。
また,欠格事由に該当する場合には補助人になることはできません(民法876条の7第2項で民法847条を準用)。
審判の申立てをするにあたって,申立書に補助人候補者を記載することができます。
そのため,申立人が,自身を補助人候補者として,申立てをすることもできます。
ただし,誰を補助人に選任するかは裁判所が決めますので,申立人が希望する補助人候補者が補助人に選任されるとは限りません。
事案によっては,弁護士等の専門家が,補助人として選任されます。
また,法人が補助人となることもできますし(民法876条の7第2項で民法843条4項を準用),補助人が複数人選任されることもあります(民法876条の7第2項で民法843条3項を準用)。
なお,事案によっては,補助監督人が選任されることもあります(民法876条の8)。
(2)補助人の権限
補助の場合,被補助人は自ら法律行為を行うことができますが,被補助人を保護するため,補助人は,以下の権限を有します。
①同意権
家庭裁判所は,被補助人が特定の法律行為をするには補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができます(民法17条1項本文)。
同意が必要な事項については,民法13条1項に規定する行為(保佐の場合に保佐人の同意を要する行為)の一部に限られます(民法17条1項但書)。
本人以外の者が同意権付与の審判を申立てた場合には,本人の同意がなければなりません(民法17条2項)。
なお,補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず,同意をしないときは,家庭裁判所は,被補助人の請求により,補助人の同意に代わる許可を与えることができます(民法17条3項)。
②取消権
補助人の同意を得なければならない行為であって,同意や同意に代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができます(民法13条4項,民法120条1項)。
③代理権
補助人には当然に代理権があるわけではありませんが,家庭裁判所は特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができます(民法876条の9第1項)。
本人以外の者が代理権付与の審判を申し立てた場合には,本人の同意が必要となります(民法876条の9第2項で民法876条の4第2項を準用)。
なお,本人の居住用不動産を処分する場合には,別途,家庭裁判所の許可が必要となります(民法876条の10第1項で民法859条の3を準用)。
(3)補助人と被補助人の利益が相反する場合
補助人と被補助人の利益が相反する場合には,補助監督人がいるときは,補助監督人が被保佐人を代表し又は被保佐人がこれをすることに同意しますが(民法876条の8第2項,民法851条4号),補助監督人がいないときは,臨時補助人の選任が必要となります(民法876条の7第3項)
4 手続について
(1)手続の流れ
①申立権者が,管轄裁判所に,補助開始の審判の申立てをします。
申立書やその他の必要書類を提出し,手続費用を納付します。
なお,申立てをすると,裁判所の許可を得なければ取り下げることはできないので,ご注意ください。
また,補助開始の申立てとともに,同意権付与の申立てや代理権付与の審判の申立てをします。
本人以外の者が申立てをする場合には,本人の同意が必要です。
②家庭裁判所の調査や鑑定が行われます(なお,事案によっては鑑定は行われないこともあります。)。
③審判が出されます。
④補助開始の審判が確定した場合には,登記がなされます。
(2)申立権者
本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,検察官は申立てができます(民法15条1項)。
任意後見契約が登記されている場合は,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人も申立てができます(任意後見契約法10条2項)。
市町村長が申立できる場合もあります。
(3)管轄裁判所
本人の住所地の家庭裁判所です(家事手続法136条1項)。
例えば,本人が埼玉県新座市,志木市,朝霞市,和光市にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所が管轄裁判所になりますが,本人が埼玉県富士見市,ふじみ野市,三芳町にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所川越支部が管轄裁判所になります。
(4)手続費用
申立手数料として収入印紙,予納郵便切手,登記手数料として収入印紙が必要となります。
また,鑑定を行う場合は,鑑定費用が必要となります。
詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。
(5)必要書類
申立書のほか,本人や候補者の事情説明書,本人の戸籍謄本,本人の住民票又は戸籍の附票,本人の登記されていないことの証明書,診断書(成年後見用)と診断書別紙,本人の健康状態が分かる資料,財産目録,本人の収支・財産の資料(通帳の写し,遺産分割が問題となる事案では遺産目録等),候補者の戸籍謄本,候補者の住民票又は戸籍の附票,候補者が法人である場合には商業登記簿謄本,親族関係図,親族(本人の推定相続人)の同意書等を提出します。
詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。
(6)調査
申立人,候補者,本人の面接や,親族(推定相続人)への書面照会等の調査を行います。
予め推定相続人の同意書をとっておくと手続がスムーズに進みます。
(7)鑑定
本人の精神の状況が明らかな場合には行わないこともあります。
鑑定を行うかどうかは,申立時に提出した診断書の内容や推定相続人が反対しているかどうかによります。
(8)審判
家庭裁判所は,調査等をした上で,審判を下します。
補助開始の審判,申立てを却下する審判,いずれに対しても2週間以内に不服申立てをすることができます(家事事件手続法86条1項,家事事件手続法141条1項1号,2号)。不服申立ての期間を過ぎると審判は確定します。
(9)登記
補助開始の審判等の効力が生じた場合には,裁判所書記官が,登記所に対して登記の嘱託をします。
【成年後見】保佐開始の審判の申立て
高齢で認知症になる等して,判断能力が著しく不十分になった場合には,援助が必要となります。
そのような場合には,家庭裁判所に申立てをして保佐人を選任してもらい,本人の援助をしてもらうことが考えられます。
そこで,保佐をお考えの方のために,申立手続について簡単にご説明します。
1 保佐の開始
保佐を開始するには,家庭裁判所に保佐開始の審判の申立てをします。
家庭裁判所が保佐開始の審判をすると,保佐が開始します(民法876条)。
また,保佐開始の審判がされると保佐人が選任されます(民法876条の2第1項)。
2 被保佐人
保佐の対象となる「本人」のことを被保佐人といいます(民法12条)。
保佐が開始するのは,本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」場合です(民法11条)。
簡単にいうと,本人の判断能力が著しく不十分な場合です。
判断能力の有無については,審判を申し立てるにあたって提出する診断書や,申立後に行われる鑑定により判断されます。
診断にあたっては,長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式テスト,HDS-R)が用いられることがよくあります。
判断能力の程度によっては,保佐ではなく,後見や補助になることがあります。
3 保佐人
(1)誰が保佐人になるのか
保佐人は家庭裁判所が選任しますが(民法876条の2第1項),保佐人を選任するには,被保佐人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,保佐人となる者の職業及び経歴並びに被保佐人との利害関係の有無(保佐人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と被保佐人との利害関係の有無),その他一切の事情を考慮しなければならなりません(民法876条の2第2項で民法843条4項を準用)。
また,欠格事由に該当する場合には保佐人になることはできません(民法876条の2第2項で民法847条を準用)。
審判の申立てをするにあたって,申立書に保佐人候補者を記載することができます。
そのため,申立人が,自身を保佐人候補者として,申立てをすることもできます。
ただし,誰を保佐人に選任するかは裁判所が決めますので,申立人が希望する保佐人候補者が保佐人に選任されるとは限りません。
事案によっては,弁護士等の専門家が,保佐人として選任されます。
また,法人が保佐人となることもできますし(民法876条の2第2項で民法843条4項を準用),保佐人が複数人選任されることもあります(民法876条の2第2項で民法843条3項を準用)。
なお,事案によっては,保佐監督人が選任されることもあります(民法876条の3)。
(2)保佐人の権限
保佐の場合,被保佐人は自ら法律行為を行うことができますが,被保佐人を保護するため,保佐人は,以下の権限を有します。
①同意権
被保佐人が金銭の貸借,不動産の売買等重要な法律行為を行うには,保佐人の同意が必要となります(民法13条1項)。
同意が必要な事項については,民法13条1項各号に規定されていますが,家庭裁判所は,それ以外の行為についても同意を得なければならない旨の審判をすることができます(民法13条2項)。
なお,保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず,同意をしないときは,家庭裁判所は,被保佐人の請求で,保佐人の同意に代わる許可を与えることができます(民法13条3項)。
②取消権
保佐人の同意を得なければならない行為であって,同意や同意に代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができます(民法13条4項,民法120条1項)。
③代理権
保佐人には当然に代理権があるわけではありませんが,家庭裁判所が特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます(民法876条の4第1項)。
本人以外の者の請求による代理権付与の審判には,本人の同意が必要となります(民法876条の4第2項)。
なお,本人の居住用不動産を処分する場合には,別途,家庭裁判所の許可が必要となります(民法876条の5第2項で民法859条の3を準用)。
(3)保佐人と被保佐人の利益が相反する場合
保佐人と被保佐人の利益が相反する場合には,保佐監督人がいるときは,保佐監督人が被保佐人を代表し又は被保佐人がこれをすることに同意しますが(民法876条の3第2項,民法851条4号),保佐監督人がいないときは,臨時保佐人の選任が必要となります(民法876条の2第3項)。
4 手続について
(1)手続の流れ
①申立権者が,管轄裁判所に,保佐開始の審判の申立てをします。
申立書やその他の必要書類を提出し,手続費用を納付します。
なお,申立てをすると,裁判所の許可を得なければ取り下げることはできないので,ご注意ください。
また,代理権の付与を求める場合には,代理権付与の審判の申立てをします。
②家庭裁判所の調査や鑑定が行われます(なお,事案によっては鑑定は行われないこともあります。)。
③審判が出されます。
④保佐開始の審判が確定した場合には,登記がなされます。
(2)申立権者
本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,補助人,補助監督人,検察官は申立てができます(民法11条)。
任意後見契約が登記されている場合は,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人も申立てができます(任意後見契約法10条2項)。
市町村長が申立できる場合もあります。
(3)管轄裁判所
本人の住所地の家庭裁判所です(家事事件手続法128条1項)。
例えば,本人が埼玉県新座市,志木市,朝霞市,和光市にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所が管轄裁判所になりますが,本人が埼玉県富士見市,ふじみ野市,三芳町にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所川越支部が管轄裁判所になります。
(4)手続費用
申立手数料として収入印紙,予納郵便切手,登記手数料として収入印紙が必要となります。
また,鑑定を行う場合は,鑑定費用が必要となります。
詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。
(5)必要書類
申立書のほか,本人や候補者の事情説明書,本人の戸籍謄本,本人の住民票又は戸籍の附票,本人の登記されていないことの証明書,診断書(成年後見用)と診断書別紙,本人の健康状態が分かる資料,財産目録,本人の収支,財産の資料(通帳の写し,遺産分割が問題となる事案では遺産目録等),候補者の戸籍謄本,候補者の住民票又は戸籍の附票,候補者が法人である場合には商業登記簿謄本,親族関係図,親族(本人の推定相続人)の同意書等を提出します。
詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。
(6)調査
申立人,候補者,本人の面接や,親族(推定相続人)への書面照会等の調査を行います。
予め推定相続人の同意書をとっておくと手続がスムーズに進みます。
また,本人以外の者が代理権付与の審判の申立てをした場合には,本人が代理権付与に同意するか確認されます。
(7)鑑定
本人の精神の状況が明らかな場合には行わないこともあります。
鑑定を行うかどうかは,申立時に提出した診断書の内容や推定相続人が反対しているかどうかによります。
(8)審判
家庭裁判所は,調査等をした上で,審判を出します。
保佐開始の審判,申立てを却下する審判,いずれに対しても2週間以内に不服申立てをすることができます(家事事件手続法86条1項,家事事件手続法132条1項1号,2号)。不服申立ての期間を過ぎると審判は確定します。
(9)登記
保佐開始の審判等の効力が生じた場合には,裁判所書記官が,登記所に対して登記の嘱託をします。
【成年後見】後見開始の審判の申立て
高齢で認知症になる等して,判断能力がなくなった場合には,ご本人で身の回りのことや財産の管理を行うことができなくなってしまいます。
そのような場合には,家庭裁判所に申立てをして成年後見人を選任してもらい,後見人に,本人の身上監護や財産管理をしてもらうことが考えられます。
そこで,成年後見をお考えの方のために,申立手続について簡単にご説明します。
1 後見の開始
成年後見を開始するには,家庭裁判所に成年後見開始の審判の申立てをします。
家庭裁判所が後見開始の審判をすると,後見が開始します(民法838条2号)。
後見開始の審判がされると後見人が選任されます(民法843条1項)。
2 被後見人
成年後見の対象となる「本人」のことを被後見人といいます。
後見開始が開始するのは,本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」場合です(民法7条)。
簡単にいうと,本人に判断能力が全くない場合です。
判断能力の有無については,審判を申し立てるにあたって提出する診断書や,申立後に行われる鑑定により判断されます。
診断にあたっては,長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式テスト,HDS-R)が用いられることがよくあります。
判断能力の程度によっては,後見ではなく,保佐や補助になることがあります。
3 後見人
(1)誰が後見人になるのか
後見人は家庭裁判所が選任しますが(民法843条1項),「成年後見人を選任するには,成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無),その他一切の事情を考慮しなければならない。」とされております(民法843条4項)。
また,民法847条は後見人の欠格事由を規定しており,欠格事由に該当する場合には後見人になることはできません。
審判の申立てをするにあたって,申立書に後見人候補者を記載することができます。
そのため,申立人が,自身を後見人候補者として,申立てをすることもできます。
ただし,誰を後見人に選任するかは裁判所が決めますので,申立人が希望する後見人候補者が後見人に選任されるとは限りません。
事案によっては,弁護士等の専門家が,後見人として選任されます。
また,法人が後見人となることもできますし(民法843条4項),後見人が
複数人選任されることもあります(民法843条3項)。
なお,事案によっては,後見監督人が選任されることもあります(民法849条)。
(2)後見人の職務と権限
後見人は,被後見人の身上監護及び財産管理に関する事務を行います(民法858条,859条)。
その職務を行うため,後見人は以下の権限を有します。
①代理権
後見人は,被後見人の財産に関する法律行為について代理権を有します(民法859条1項)。
ただし,以下の規定や制度があります。
ア 居住用不動産の売却等の処分をするには,家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。
イ 後見監督人がいる場合,後見人が被後見人に代わって営業をする等一定の行為をする場合には,後見監督人の同意を得なければなりません(民法864条)。
ウ 後見人と被後見人の利益が反するときは,後見監督人がいるときは,後見監督人が被後見人の代理人となりますし(民法851条4号),後見監督人がいない場合には,特別代理人の選任を請求しなければなりません(民法860条,826条)。
エ 後見制度支援信託といって,後見人が本人の財産を信託銀行等に信託し,信託銀行等が後見人に対して生活に必要な金銭を定期金として分割交付する制度があります。
②取消権
後見人は「日用品の購入その他日常生活に関する行為」を除き,被後見人のした法律行為を取り消すことができます(民法9条,民法120条1項)。
法律行為というのは,法律上の効果が生ずる行為のことで,契約などがこれに当たります。
なお,後見人は,被後見人のした法律行為を追認することもできます(民法122条)。
4 手続について
(1)手続の流れ
①申立権者が,管轄裁判所に,後見開始の審判の申立てをします。
申立書やその他の必要書類を提出し,手続費用を納付します。
なお,申立てをすると,裁判所の許可を得なければ取り下げることはできないので,ご注意ください。
②家庭裁判所の調査や鑑定が行われます(なお,事案によっては鑑定は行われないこともあります。)。
③審判が出されます。
④後見開始の審判が確定した場合には,後見登記がなされます。
(2)申立権者
本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人,検察官は申立てができます(民法7条)。
任意後見契約が登記されている場合は,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人も申立てができます(任意後見契約法10条2項)。
市町村長が申立できる場合もあります。
(3)管轄裁判所
本人の住所地の家庭裁判所です(家事手続法117条1項)。
例えば,本人が埼玉県新座市,志木市,朝霞市,和光市にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所が管轄裁判所になりますが,本人が埼玉県富士見市,ふじみ野市,三芳町にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所川越支部が管轄裁判所になります。
(4)手続費用
申立手数料として収入印紙,予納郵便切手,登記手数料として収入印紙が必要となります。
また,鑑定を行う場合は,鑑定費用が必要となります。
詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。
(5)必要書類
申立書のほか,本人や候補者の事情説明書,本人の戸籍謄本,本人の住民票又は戸籍の附票,本人の登記されていないことの証明書,診断書(成年後見用)と診断書別紙,本人の健康状態が分かる資料,財産目録,本人の収支,財産の資料(通帳の写し,遺産分割が問題となる事案では遺産目録等),候補者の戸籍謄本,候補者の住民票又は戸籍の附票,候補者が法人である場合には商業登記簿謄本,親族関係図,親族(本人の推定相続人)の同意書等を提出します。
詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。
(6)調査
申立人,候補者,本人の面接や,親族(推定相続人)への書面照会等の調査を行います。
予め推定相続人の同意書をとっておくと手続がスムーズに進みます。
(7)鑑定
本人の精神の状況が明らかな場合には行わないこともあります。
鑑定を行うかどうかは,申立時に提出した診断書の内容や推定相続人が反対しているかどうかによります。
(8)審判
家庭裁判所は,調査等をした上で,審判を下します。
後見開始の審判,申立てを却下する審判,いずれに対しても2週間以内に不服申立てをすることができます(家事事件手続法86条1項,123条1項1号,2号)。不服申立ての期間を過ぎると審判は確定します。
(9)成年後見の登記
後見開始の審判等の効力が生じた場合には,裁判所書記官が,登記所に対して登記の嘱託をします。