【成年後見】補助開始の審判の申立て

2014-11-19

高齢で認知症になる等して,判断能力が不十分になった場合には,援助が必要となります。

そのような場合には,家庭裁判所に申立てをして補助人を選任してもらい,本人の援助をしてもらうことが考えられます。

そこで,補助をお考えの方のために,申立手続について簡単にご説明します。

 

1 補助の開始

(1)審判の申立て

補助を開始するには,家庭裁判所に補助開始の審判の申立てをします。

家庭裁判所が補助開始の審判をすると,補助が開始します(民法876条の6)。

家庭裁判所は,補助開始の審判をするときは補助人を選任します(民法876条の7第1項)。

また,補助開始の審判は,同意権付与の審判(民法17条1項),代理権付与の審判(民法876条の9第1項)とともにしなければなりませんので(民法15条3項),補助開始の審判の申立てとともに,同意権付与の審判の申立て,代理権付与の審判の申立てをしなければなりません。

(2)本人の同意

補助の場合,本人には不十分とはいえ判断能力があります。

そこで,本人の自己決定権を尊重するため,補助開始,同意権付与,代理権付与にあたっては,本人以外の者による申立ての場合,本人の同意が必要です(民法15条2項,民法17条2項,民法876条の9第2項(民法876条の4第2項を準用))。

 

2 被補助人

補助の対象となる「本人」のことを被補助人といいます(民法16条)。

補助が開始するのは,本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である」場合です(民法15条1項)。

簡単にいうと,本人の判断能力が不十分な場合です。

判断能力の有無については,審判を申し立てるにあたって提出する診断書や,申立後に行われる鑑定により判断されます。

診断にあたっては,長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式テスト,HDS-R)が用いられることがよくあります。

判断能力の程度によっては,補助ではなく,後見や保佐になることがあります。

 

3 補助人

(1)誰が補助人になるのか

補助人は家庭裁判所が選任しますが(民法876条の7第1項),補助人を選任するには,被補助人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,補助人となる者の職業及び経歴並びに被補助人との利害関係の有無(補助人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と被補助人との利害関係の有無),被補助人の意見その他一切の事情を考慮しなければならなりません(民法876条の7第2項で民法843条4項を準用)。

また,欠格事由に該当する場合には補助人になることはできません(民法876条の7第2項で民法847条を準用)。

審判の申立てをするにあたって,申立書に補助人候補者を記載することができます。

そのため,申立人が,自身を補助人候補者として,申立てをすることもできます。

ただし,誰を補助人に選任するかは裁判所が決めますので,申立人が希望する補助人候補者が補助人に選任されるとは限りません。

事案によっては,弁護士等の専門家が,補助人として選任されます。

また,法人が補助人となることもできますし(民法876条の7第2項で民法843条4項を準用),補助人が複数人選任されることもあります(民法876条の7第2項で民法843条3項を準用)。

なお,事案によっては,補助監督人が選任されることもあります(民法876条の8)。

(2)補助人の権限

補助の場合,被補助人は自ら法律行為を行うことができますが,被補助人を保護するため,補助人は,以下の権限を有します。

 

①同意権

家庭裁判所は,被補助人が特定の法律行為をするには補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができます(民法17条1項本文)。

同意が必要な事項については,民法13条1項に規定する行為(保佐の場合に保佐人の同意を要する行為)の一部に限られます(民法17条1項但書)。

本人以外の者が同意権付与の審判を申立てた場合には,本人の同意がなければなりません(民法17条2項)。

なお,補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず,同意をしないときは,家庭裁判所は,被補助人の請求により,補助人の同意に代わる許可を与えることができます(民法17条3項)。

②取消権

補助人の同意を得なければならない行為であって,同意や同意に代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができます(民法13条4項,民法120条1項)。

③代理権

補助人には当然に代理権があるわけではありませんが,家庭裁判所は特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができます(民法876条の9第1項)。

本人以外の者が代理権付与の審判を申し立てた場合には,本人の同意が必要となります(民法876条の9第2項で民法876条の4第2項を準用)。

なお,本人の居住用不動産を処分する場合には,別途,家庭裁判所の許可が必要となります(民法876条の10第1項で民法859条の3を準用)。

(3)補助人と被補助人の利益が相反する場合

補助人と被補助人の利益が相反する場合には,補助監督人がいるときは,補助監督人が被保佐人を代表し又は被保佐人がこれをすることに同意しますが(民法876条の8第2項,民法851条4号),補助監督人がいないときは,臨時補助人の選任が必要となります(民法876条の7第3項)

 

4 手続について

(1)手続の流れ

①申立権者が,管轄裁判所に,補助開始の審判の申立てをします。

申立書やその他の必要書類を提出し,手続費用を納付します。

なお,申立てをすると,裁判所の許可を得なければ取り下げることはできないので,ご注意ください。

また,補助開始の申立てとともに,同意権付与の申立てや代理権付与の審判の申立てをします。

本人以外の者が申立てをする場合には,本人の同意が必要です。

②家庭裁判所の調査や鑑定が行われます(なお,事案によっては鑑定は行われないこともあります。)。

③審判が出されます。

④補助開始の審判が確定した場合には,登記がなされます。

 

(2)申立権者

本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,検察官は申立てができます(民法15条1項)。

任意後見契約が登記されている場合は,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人も申立てができます(任意後見契約法10条2項)。

市町村長が申立できる場合もあります。

 

(3)管轄裁判所

本人の住所地の家庭裁判所です(家事手続法136条1項)。

例えば,本人が埼玉県新座市,志木市,朝霞市,和光市にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所が管轄裁判所になりますが,本人が埼玉県富士見市,ふじみ野市,三芳町にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所川越支部が管轄裁判所になります。

 

(4)手続費用

申立手数料として収入印紙,予納郵便切手,登記手数料として収入印紙が必要となります。

また,鑑定を行う場合は,鑑定費用が必要となります。

詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。

 

(5)必要書類

申立書のほか,本人や候補者の事情説明書,本人の戸籍謄本,本人の住民票又は戸籍の附票,本人の登記されていないことの証明書,診断書(成年後見用)と診断書別紙,本人の健康状態が分かる資料,財産目録,本人の収支・財産の資料(通帳の写し,遺産分割が問題となる事案では遺産目録等),候補者の戸籍謄本,候補者の住民票又は戸籍の附票,候補者が法人である場合には商業登記簿謄本,親族関係図,親族(本人の推定相続人)の同意書等を提出します。

詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。

 

(6)調査

申立人,候補者,本人の面接や,親族(推定相続人)への書面照会等の調査を行います。

予め推定相続人の同意書をとっておくと手続がスムーズに進みます。

 

(7)鑑定

本人の精神の状況が明らかな場合には行わないこともあります。

鑑定を行うかどうかは,申立時に提出した診断書の内容や推定相続人が反対しているかどうかによります。

 

(8)審判

家庭裁判所は,調査等をした上で,審判を下します。

補助開始の審判,申立てを却下する審判,いずれに対しても2週間以内に不服申立てをすることができます(家事事件手続法86条1項,家事事件手続法141条1項1号,2号)。不服申立ての期間を過ぎると審判は確定します。

 

(9)登記

補助開始の審判等の効力が生じた場合には,裁判所書記官が,登記所に対して登記の嘱託をします。

 

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