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【民事訴訟】弁護士費用を相手方に請求できるか(訴訟費用)
訴状の請求の趣旨に「訴訟費用を被告の負担とする」と書いてあるので,相手方に弁護士費用を負担させることができるのかと質問されたり,逆に相手方の弁護士費用を負担しなければならないのかと質問されたりすることがよくありますが,弁護士費用は各自が負担しなければなりません。
「訴訟費用」は,訴え提起の際に裁判所に納める収入印紙代などの手数料,裁判所が書類を送付・送達するための費用など訴訟において要した費用のことであり,弁護士費用は含まれません。
また,弁護士費用を敗訴者に負担させるという敗訴者負担制度をつくるべきではないかという議論もありますが,現在のところ採用されていません。
日本では,弁護士に依頼せず,本人で訴訟を追行することができ,弁護士に依頼するかどうかは当事者本人の自由ですので,弁護士費用は,弁護士に依頼した人が負担することになります。
したがって,勝訴しても相手方に弁護士費用を負担させることはできませんし,敗訴しても相手方の弁護士費用を負担しなければならないわけではありません。
ただし,交通事故などの不法行為に基づく損害賠償請求では,被害者は,一定範囲で弁護士費用の損害として加害者に賠償請求することができますので,その限りでは弁護士費用を相手方に負担させることができます。
【民事訴訟】訴訟告知
保証債務の履行請求訴訟で保証人が敗訴した場合,保証人は主債務者に求償することが考えられますが,主債務者が主債務の存在を否定し求償を拒まれ,二重に敗訴するおそれがあります。
また,ある物を買った者が,売り主以外の者から所有権に基づく返還請求訴訟を提起されて敗訴した場合,買い主は売り主に損害賠償請求をすることが考えられますが,売り主が自分に所有権があったと主張して損害賠償義務を争われ,二重に敗訴するおそれがあります。
そのような場合,訴訟告知をすることが考えられます。
一 訴訟告知とは
訴訟告知とは,当事者が,訴訟の係属中に,補助参加等,参加することができる第三者にその訴訟係属の事実を通知することです(民事訴訟法53条1項)。
訴訟告知は,訴訟告知をされた人(被告知者)に訴訟に参加する機会を与えるとともに,訴訟告知をした人(告知者)が敗訴した場合には,被告知者が訴訟に参加しなかったとしても,被告知者に参加的効力を及ぼすことができるという制度です(民事訴訟法53条4項)。
例えば,保証債務の履行請求訴訟で,保証人が主債務者に訴訟告知をした場合,主債務者は参加的効力により,主債務の存在を否定して求償を拒むことができなくなりますし,所有権に基づく返還請求訴訟で,買い主が売り主に訴訟告知をした場合,売り主は参加的効力により,自分の所有物であったと主張することができなくなり,損害賠償を拒むことができなくなります。
二 訴訟告知の要件
1 訴訟の係属中であること
訴訟告知は,被告知者に訴訟係属の事実を通知して,訴訟に参加する機会を与えるものですから,訴訟の係属中でなければなりません。
なお,控訴審や上告審でも訴訟告知をすることはできますが,被告知者が十分な攻撃防御をすることができない時期に訴訟告知をした場合には,被告知者に対する参加的効力が及ぶか問題となるでしょう。
2 告知者
訴訟告知は,当事者(民事訴訟法53条1項)のほか,補助参加人も当事者のためにできますし(民事訴訟法45条1項),被告知者もさらに訴訟告知をすることができます(民事訴訟法53条2項)。
3 被告知者
被告知者は,訴訟に参加することができる第三者のことです(民事訴訟法53条1項)。
参加は,補助参加の場合が多いですが,独立当事者参加や共同訴訟参加も含まれます。
三 訴訟告知の方式
訴訟告知は,「告知の理由」および「訴訟の程度」を記載した書面(訴訟告知書)を裁判所に提出して行います(民事訴訟法53条3項)。
「告知の理由」としては,被告知者が参加するかどうかを判断することができるようにするため,被告知者が訴訟にどのような利害関係を有しているか,訴訟の結果,告知者と被告知者との間でどのような紛争が生じる可能性があるかを具体的に記載します。
「訴訟の程度」としては,訴訟が係属している裁判所名と,審理の段階(一般的には次回期日の予定)を記載します。
裁判所に訴訟告知書の原本のほか,被告知者に送達する副本を提出するとともに,相手方当事者には訴訟告知書の写しを送付します(民事訴訟規則22条)。
訴訟告知には,手数料は不要ですが,送達費用(郵券)の予納は必要となります。
四 訴訟告知の効果
1 参加的効力
被告知者は,訴訟に参加しなければならないわけではありませんが,参加しなかった場合でも,参加することができるときに参加したものとみなされ,被告知者に参加的効力(民事訴訟法46条)が生じます(民事訴訟法53条4項)。
参加的効力とは,判決が確定した場合に,被告知者が告知者に対して判決が不当であると主張することを禁じる効力であり,判決理由中の判断についても及びます。
なお,被告知者に参加的効力が生じるのは,被告知者が補助参加することができることが前提ですから,被告知者が補助参加する利益を有する場合でなければならず,告知者が敗訴した場合に被告知者が告知者に対し求償義務や損害賠償義務を負う関係にあることが必要となります。
また,訴訟が和解で終了した場合には,参加的効力は生じません。
2 時効中断
手形法や小切手法では,裏書人について訴訟告知に時効中断の効力があります(手形法86条,小切手法73条)。
また,訴訟告知が,告知者から被告知者からの催告と認められる場合には,訴訟終了後6か月以内に裁判上の請求等をすれば,時効中断の効力が生じます(民法153条)。
五 訴訟告知された場合
訴訟告知された場合には,訴訟に参加しなくても参加的効力が及びますので,補助参加等をするかどうか検討しましょう。訴訟告知をされた場合には,弁護士に相談することをおすすめします。
【民事訴訟】和解のメリット・デメリット
民事裁判では,判決でなければ終了しないというわけではなく,和解で解決することが多いですが,和解で解決することには,どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
一 和解のメリット
1 早期の解決ができる。
和解調書の記載は確定判決と同一の効力を有しますので(民事訴訟法267条),和解が成立することにより民事訴訟は終了します。
判決の場合は,終局判決が確定することにより民事訴訟が終了しますが,終局判決をするには,争点整理や証人尋問・当事者尋問を行う等,時間がかかりますし,判決が出ても,控訴や上告をされると判決が確定しないので,解決まで長期間を要します。
これに対し,裁判所は,訴訟がいかなる程度にあるかを問わず,和解を試みることができますので(民事訴訟法89条),早期に和解をして紛争を解決させることができます。
2 相手方からの任意の履行が期待できる。
判決の場合,相手方に支払能力があるかどうかや,相手方が納得するかどうか関係ありません。
そのため,判決が確定しても,相手方に支払能力がなければ,相手方は履行できませんし,支払能力があっても,相手方が判決に納得していない場合には,なかなか支払おうとせず,強制執行しなければならないことがあります。
これに対し,和解の場合,相手方は,支払可能な金額や条件でなければ和解しないでしょうし,和解で決めたことを履行するつもりがなければ和解しないでしょうから,和解成立後は,相手方が和解したとおりに履行してくることが期待できます。
3 柔軟な解決ができる。
和解は,当事者の合意による解決であり,当事者が合意できれば,請求内容以外についても取り決めをすることができます。
そのため,和解は,柔軟な解決をすることができますので,事案によっては,判決よりも和解で解決するほうが,妥当な解決ができることがあります。
4 敗訴を回避することができる。
判決では,どのような判決がなされるのかわかりませんし,一審で勝訴したとしても,控訴審や上告審で,判決の内容が変わる可能性があります。
敗訴の危険性がある場合,和解をすることで,相手方にある程度譲歩させた解決をすることができますので,最悪の結果を避けることができます。
二 和解のデメリット
和解は互譲が前提であるため,譲歩させられるというデメリットがあります。
相手方に金銭の支払を請求している事案で和解をする場合,相手方が請求額を全て認め,支払時期や支払方法(分割払い等)の約束をする和解ができることもありますが,相手方の反論や支払能力を考慮して,請求額を減額させられることがよくあります。
また,相手方から金銭の支払を請求されている事案で和解をする場合,相手方への支払い義務がないことを確認する和解ができることもありますが,通常は,相手方への支払義務をある程度認め,支払の約束をさせれられます。
勝訴の可能性が高い場合,和解で譲歩させられることは納得できないかもしれませんが,和解のメリットを念頭に置いて,どの範囲であれば譲歩してもよいか考えるべきでしょう。
【示談交渉】郵送する場合,郵便物を受け取った場合
示談交渉の際,相手方に書面を郵送する場合や,相手方から郵便物を受け取った場合は,以下の点を注意しましょう。
一 相手方に書面を郵送する場合
相手方に書面を郵送する場合,プライバシー保護の観点から,相手方以外の人に中身が見られないよう,葉書ではなく,封書で送るのが原則です。あとで何を送ったか分からなくならないように,郵送した書面のコピーはとっておきましょう。
また,郵送の方法としては,普通郵便で送ることもありますが,後に裁判になった場合,相手方にどのような内容の書面を送ったのか証明しなければならないことがありますので,目的に応じて,郵便を使い分けます。
1 内容証明郵便
内容証明郵便は,誰が,誰に対し,いつ,どのような内容の書面を送ったのか証明する証拠となりますので,後で裁判となった時の証拠とするため,請求や主張を書面にまとめて,内容証明郵便で送ります。
また,時効の中断や契約の解除,遺留分減殺請求等,意思表示が相手方に到達したことが重要な事実となる場合には,配達証明付きの内容証明郵便を送ります。
なお,内容証明郵便を送る場合には以下の点を注意しましょう。
①内容証明郵便を送ると,相手方が心理的な圧力を受けることがあるため,穏やかに話を進めたい場合には,内容証明郵便ではなく,普通郵便で送ることも考えられます。
②内容証明郵便には,写真や図面等の資料を同封することはできませんので,資料を送る場合には,別途,普通郵便や書留で郵送することになります。
③相手方が内容証明郵便を受け取らない場合がありますので,内容証明郵便とあわせて,同様の書面を普通郵便または特定記録郵便で郵送することもあります。
2 書留郵便
書留は,手渡しされますので,相手方に対し,示談書や原本類等,重要な書類を郵送する場合には,書留で郵送します。
3 特定記録郵便
内容証明郵便や書留の場合,受取人が受け取らなければ,差出人に戻ってきますが,特定記録郵便の場合,郵便受けに入れるだけですので,受取人の関与がなくても,配達することができます。
また,特定記録により,配達された日時が記録されますので,郵便物が配達されたことを明らかにすることができます。
二 相手方から郵便物を受け取った場合
相手方から郵送された郵便物は,後で裁判になった場合の証拠となりますので,大事 にとっておくことが必要です。
その際,以下の点に注意しましょう。
1 原本に書き込みをしないこと
法律相談で,相談者の方から相手方から送られた書面を見せてもらった際,相手方から送られてきた書面(原本)に,相談者の方が反論等自分の主張の書き込みをしていたり,マーカーやアンダーラインを引いたりしていることが,時々あります。
しかし,相手方から送られてきた書面に書き込みをしてしまうと,誰が書いたのかわからなくなったり,元の書面の内容が分からなくなったりして,混乱や誤解を招くおそれがあります。
書き込みをする場合には,原本には書き込みをせず,書面のコピーをとって,コピーに書き込みをしましょう。
2 封筒は捨てないこと
相手方から送られてきた書面の封筒を捨ててしまわれる方がいますが,封筒は大切な証拠ですので,捨てないでください。
封筒がなければ,書面をどうやって入手したのか分からなくなりますが,封筒があれば,郵送されてきたことがわかりますし,封筒には,差出人の記載や郵便局の消印がありますので,何時,誰から書面が送られてきたのか分かります。
また,書面に作成者や作成日の記載がなく,作成者や作成日が分からないことがありますが,封筒があれば,差出人の記載や郵便局の消印により,書面の作成者や作成日を推測することができます。
封筒と中に入っている書面は,一体として証拠になりますので,封筒は必ずとっておきましょう。
【損害賠償】使用者責任
人を使用する者(使用者)は,従業員(被用者)が不法行為をした場合,その使用者も損害賠償責任を負うことがありますが,使用者は,どのような場合に,どのような責任を負うのでしょうか。
一 使用者責任とは
ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条1項本文)。この責任を使用者責任といいます。
個人責任の観点からすれば,被用者が不法行為をした場合には,被用者が不法行為責任を負うことになりますが,被用者に損害賠償請求をするだけでは被害者の保護に欠ける場合がありますので,報償責任(利益を得ている者は損失も負うべき),危険責任(危険を支配する者は責任を負うべき)の観点から,使用者も損害賠償責任を負います。
使用者責任は「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」には免責されるため(民法715条1項但書),無過失責任ではありませんが,使用者に立証責任が転換されていますし(中間責任),使用者の免責は容易には認められません。
二 使用者責任の要件
使用者責任とは,①ある事業のために他人を使用する者が,②その事業の執行について③被用者が第三者に損害を加えた場合に負う責任ですが,④使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときには免責されます。
1 「ある事業のために他人を使用する者」(使用関係の存在)
「ある事業」とは,広く仕事全般を意味します。事業は,一時的でもかまいませんし,適法か否か,営利的か否かは問われません。
また,「他人を使用する者」といえるためには,雇用契約が不可欠というわけではなく,使用者と被用者の間に実質的な指揮監督関係があればよいとされています。例えば,元請,下請の関係であっても,実質的な指揮監督関係があれば,使用関係が認められます。
2 「その事業の執行について」(事業執行性)
「事業の執行について」の要件をみたすかどうかは,被用者の行為の性質から検討されます。
(1)取引的不法行為の場合
取引行為の過程で行われる不法行為の場合には,使用者の事業の範囲に属するか,被用者の職務の範囲に属するかで判断され,被用者の職務の範囲に属しない場合であっても,その行為の外形から観察して,あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合には,「事業の執行について」の要件をみたすと解されております(外形理論)。なお,外形理論は,外形を信頼した者を保護する理論であるため,被害者が,職務の範囲外であることを知っていた場合や重過失で知らなかった場合には,要件はみたさないと解されております。
(2)事実的不法行為の場合
交通事故や暴力行為等,被用者の事実行為が不法行為にあたる場合には,加害行為が使用者の支配領域内の危険に由来するかどうか,事業の執行行為と密接に関連するかどうかで判断されます。
3 被用者が第三者に損害を加えたこと(被用者の不法行為)
使用者責任は,被用者に代わって使用者に責任を負わせるものですから,被用者の行為が不法行為の要件(民法709条)をみたしていることが必要であると解されております。
4 免責事由
使用者が,被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたこと,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったことを立証すれば免責されます。
もっとも,免責が認められることは少ないです。
三 使用者の負う責任
1 不真正連帯債務
使用者責任が成立する場合,使用者は被害者に対し損害賠償債務を負います。
被用者も被害者に対し損害賠償債務を負い,使用者と被用者の債務は不真正連帯債務であると解されております。
そのため,被害者は,使用者と被用者にいずれに対しても,全額の損害賠償請求をすることができますが,いずれかが損害賠償金を支払えば,その限りで他方は免責されます。
2 求償
使用者が被害者に対し損害賠償した場合,使用者は被用者に対し求償することができます(民法715条3項)。
ただし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に制限されます。
【損害賠償請求】未成年の子の行為についての親の責任
未成年の子が,人の物を壊したり,人に怪我させたりする等して,第三者に損害を加えた場合,親はどのような責任を負うでしょうか。
子が成人している場合には,親が責任を負うことは原則としてありませんが,子が未成年の場合には,子の親権者である親は子を監督する義務を負いますので,子の行為について責任を負うことがあります。
以下,簡単に説明します。
一 責任能力
未成年者は,他人に損害を加えた場合であっても,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負いません(民法712条)。
行為者に責任能力があることは不法行為責任の要件であり,責任能力のない未成年の子は不法行為責任を負いません。
責任能力があるかどうかは,年齢で一律に決まるわけではなく,個別具体的な事情から判断されます。12歳が責任能力があるかどうかの一応の目安であるといわれていますが,11歳で責任能力が認められた事例もあります。
二 未成年の子に責任能力がない場合
1 監督義務者・代理監督者の責任
責任無能力者が責任を負わない場合,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(監督義務者)または,監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者(代理監督者)が,責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法714条1項本文,同条2項)。
監督義務者とは親権者や後見人等であり,代理監督者とは託児所,幼稚園,小学校等です。
親権者である親は監督義務者にあたりますので,未成年の子に責任能力がない場合には,親権者である親が,民法714条1項により責任を負います。
2 監督義務者・代理監督者が免責される場合
監督義務者・代理監督者が,義務を怠らなかったとき,または,その義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは,監督義務者・代理監督者は責任を負いません(民法714条1項但書,同条2項)。
通常,被害者が行為者の過失を立証しなければなりませんが,民法714条が適用される場合では,立証責任が転換され,監督義務者が無過失を立証しなければなりません(中間責任)。
三 未成年の子に責任能力がある場合
未成年の子に責任能力がある場合には,未成年の子は不法行為責任を負いますが,実際に未成年の子に賠償できる資力があることは,あまりないでしょう。
その場合,親は,民法714条による責任は負いませんが,監督義務者に監督義務違反(過失)があり,監督義務違反と未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係がある場合には,監督義務者である親は,民法709条の不法行為責任を負います。
なお,民法714条の規定の適用がある場合と異なり,立証責任が転換されているわけではないので,被害者が,監督義務者に監督義務違反(過失)があること,未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係があることを立証しなければなりません。
四 まとめ
未成年の子に責任能力がない場合には,親権者である親は,義務を怠らなかったとき,または,その義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことを立証しない限り,民法714条1項により監督義務者としての責任を負います。
また,未成年の子に責任能力があった場合であっても,親権者である親に監督義務違反(過失)があり,監督義務違反と子の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係がある場合には,親は民法709条の不法行為責任を負います。
そのため,親としては,子の監督をしなければ,責任を負うことになりますので,ご注意ください。
【民事訴訟】本人訴訟
民事訴訟をする場合には,弁護士に依頼することもできますが,当事者本人だけで行うこともできます。
当事者本人だけで訴訟追行することを本人訴訟といいます。
一 本人訴訟とは
本人訴訟とは,訴訟代理人をつけずに,当事者本人が訴訟を追行することをいいます。
訴訟代理人には,①法令上の訴訟代理人(支配人(商法21条1項,会社法11条1項)や船長(商法713条1項)等)と②訴訟委任による訴訟代理人がおり,②の場合は弁護士でなければ訴訟代理人となることができないのが原則です(民事訴訟法54条1項本文。「弁護士代理の原則」といいます。なお,認定司法書士は簡易裁判所の訴訟で訴訟代理人になることができる等,弁護士以外の者が訴訟代理人になることができる場合があります。)。
もっとも,民事訴訟では訴訟代理人を付けることが強制されているわけではないので,当事者本人が訴訟代理人をつけずに,自ら訴訟追行することも可能です。
そのため,かなりの割合で本人訴訟が行われておりますし,裁判所も訴状や答弁書等の書式を用意しており,本人でも訴訟ができるようにしています。
二 本人訴訟をしようかどうかお考えの方へ
弁護士費用をかけたくない,本やインターネットで調べれば自分でできそうだ等と考えて本人訴訟をされる方もいらっしゃいます。
確かに,経済的利益が少額で弁護士を依頼しても費用倒れになる等,弁護士費用との兼ね合いで本人訴訟をするのがやむを得ないケースもあります。
しかし,なかには,弁護士費用をかけてでも弁護士に依頼した方がよいと思われるケースも少なくありません。
民事訴訟では当事者主義が原則であり,どのような内容の判決を求めるか,どのような事実を主張しどのような証拠を提出するかは当事者の判断に委ねられており(処分権主義,弁論主義),これらを適切に行うには専門的知識が必要です(裁判所は公正中立な立場で審理を行いますので,当事者の一方に肩入れすることはなく,本人訴訟だからといって,裁判所が特別な便宜を図ってくれることは通常,ありません。)。
どのような請求をするか,どのような法律構成をとるか,どのような主張,立証をするかは,訴訟の結果に大きく影響しますが,これらをご本人だけで行うのは困難であり,本来得られたはずの利益が得られなくなる結果になることもあります。また,和解で解決するにしても,どのような和解をすべきかについても,専門的知識がないと適切な判断は困難でしょう。
なお,いざとなったら訴訟を取下げてやり直せば良いと思われるかもしれませんが,取り下げができない場合もあります(民事訴訟法261条2項等)。
そのため,弁護士に依頼しようか,本人訴訟にしようかお悩みの方は,弁護士に相談した上で,どうすべきか良く検討すべきでしょう。
また,既に本人訴訟をやっているが,上手くいかなくて困っている方は,手遅れにならないうちに弁護士に依頼することを検討すべきでしょう。
【民事訴訟】訴えの取下げ
民事訴訟は,①終局判決,②訴えの取下げ,③請求の放棄,④請求の認諾,⑤訴訟上の和解により終了します。
どのような事由により終了するかによって,解決までの期間や解決内容が異なってきますので,当事者としては,どのように訴訟を終わらせるかということを意識する必要があります。
ここでは,訴えの取下げについて簡単に説明します。
一 訴えの取下げとは
訴えは,判決が確定するまで,その全部又は一部を取り下げることができます(民事訴訟法261条1項)。
訴訟は,訴えの取下げがあった部分については,初めから係属していなかったものとみなされますので(民事訴訟法262条1項),訴えの全部を取り下げると訴訟は終了します。
訴えを提起したものの,その後,訴えを続ける必要性や理由がなくなった場合(例えば,訴え提起後に,当事者が訴訟外で和解をして紛争を解決させた場合)に訴えの取下げが利用されます。
二 訴え取下げの方法
訴えの取下げは書面でしなければなりません(民事訴訟法261条3項本文)。
ただし,口頭弁論,弁論準備手続または和解の期日では,口頭で訴えを取り下げることができます(民事訴訟法261条3項但書)。
訴え取下げが書面でなされたときは,その書面が被告に送達されます(訴え取下げが口頭でなされたときは,被告がその期日に出頭したときを除き,期日の調書の謄本が相手方に送達されます。)(民事訴訟法261条4項)。
三 相手方の同意
原告が訴えを取り下げてしまうと,訴えなかったこととみなされてしまいますので,紛争として解決したことになりませんが,被告としては,本案判決(請求内容についての判決)を得て紛争を解決したいと考えることがあります。
そのため,被告が本案について争う姿勢を示した後は,被告の同意がなければ訴えを取り下げることはできません。
具体的には,被告が本案について準備書面を提出し,弁論準備手続において申述をし,又は口頭弁論をした後は,被告の同意を得なければ,訴え取下げの効力が生じないとされています(民事訴訟法261条2項本文)。
ただし,訴えの取下げの書面の送達を受けた日(訴えの取下げが口頭弁論等の期日に口頭でなされた場合,被告が期日に出頭したときは訴えの取下げがあった日から,被告が出頭しなかったときは期日の調書の謄本が送達された日)から2週間以内に被告が異議を述べないときは,訴えの取下げに同意したものとみなされます(民事訴訟法261条5項)
四 訴え取下げの効果
1 訴えは初めから係属していなかったものとみなされます。
訴訟は,訴えの取下げがあった部分については,初めから係属していなかったものとみなされます(民事訴訟法262条1項)。
要するに,初めから訴えがなかったものと扱われます。
そのため,訴え取下げ後に,再び同一の訴えを提起することも原則としてできます。
また,訴え提起により時効中断効が生じますが,訴えを取下げると初めから訴えなかったものと扱われるため,時効中断の効果は消滅します(民法149条)。
2 再訴禁止効
訴え取下げ後に,再び同一の訴えを提起することも原則としてできるため,訴え提起,訴え取下げが繰り返されるおそれがないとはいえません。
そのため,訴え取下げの濫用を防止する観点から,本案について終局判決があった後に訴えを取下げた者は,同一の訴えを提起することは禁止されています(民事訴訟法262条2項)。
五 訴えの取下げの擬制
当事者が訴訟追行に不熱心な場合,訴訟をする気がないものとして,訴えを取下げたものとみなされることがあります。
具体的には,当事者双方が,口頭弁論・弁論準備手続の期日に出頭しなかった場合や,弁論・弁論準備手続で申述しないで退廷・退席した場合に,1月以内に期日指定の申立てをしなかったときは,訴えの取下げがあったものとみなされますし,当事者双方が,連続して二回,口頭弁論・弁論準備手続の期日に出頭しなかった場合や,弁論・弁論準備手続で申述しないで退廷・退席した場合も訴えの取下げがあったものとみなされます(民事訴訟法263条)。
【民事訴訟】訴訟の終了
民事訴訟は,裁判所の終局判決により終了するほか,和解をする等,当事者の意思により終了させることができます。
どのような事由により終了するかによって,解決までの期間や解決内容が異なってきますので,当事者としては,どのように訴訟を終わらせるかということを意識する必要があります。
そこで,これから訴訟の終了について簡単に説明します。
一 裁判所の終局判決による終了
終局判決とは,ある審級の手続を終結させる効果をもつ判決のことです。
本案判決(請求の当否についての判決で,請求認容判決,請求棄却判決,一部認容・一部棄却判決があります。),訴訟判決(訴えが不適法な場合に,訴えを却下する判決です。)があります。
ただし,三審制(第一審,控訴審,上告審)ですので,終局判決が言い渡されたからといって,直ちに訴訟が終了するわけはなく,上訴があれば,上級審で争うことになり,判決が取消される可能性があります。
そのため,上訴により取消される可能性がなくなり,判決が確定することで,訴訟は終了します。
二 当事者の意思による終了
民事訴訟では,処分権主義がとられているため,訴訟を終わらせるかどうかについても当事者の意思に委ねられております。
原告の意思による終了として,訴えの取下げ,請求の放棄
被告の意思による終了として,請求の認諾
当事者双方の合意による終了として,訴訟上の和解
があります。
1 訴えの取下げ
訴えは,判決が確定するまで,その全部又は一部を取下げることができます(民事訴訟法261条1項)。
訴訟は,訴えの取下げがあった部分については,初めから継続していなかったものとみなされますので(民事訴訟法262条1項),訴えの全部を取り下げると訴訟は終了します。
なお,被告にも本案判決を得る利益がありますので,被告が本案について準備書面を提出し,弁論準備手続において申述をし,又は口頭弁論をした後は,原則として,被告の同意を得なければ,訴え取下げの効力が生じません(民事訴訟法261条2項本文)。
また,訴え取下げの濫用を防止する観点から,本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者は,同一の訴えを提起することはできません(民事訴訟法261条2項)。
2 請求の放棄
請求の放棄とは,原告が,裁判所に対し,請求に理由がないことを認める意思表示をすることです。
原告が請求の放棄をすると,訴訟は終了します。
請求の放棄が調書に記載されたときは,その記載は確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。
3 請求の認諾
請求の認諾とは,被告が,裁判所に対し,原告の請求を認める意思表示をすることです。
被告が請求の認諾をすると,訴訟は終了します。
請求の認諾が調書に記載されたときは,その記載は確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。
4 訴訟上の和解
訴訟上の和解とは,訴訟係属中に,当事者が訴訟物である権利関係について互譲して和解をするとともに,訴訟を終了させる合意をすることです。
和解が調書に記載されたときは,その記載は確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。
和解の場合には,必ずしも訴訟物に拘束されず,上訴されることもないので,早期かつ柔軟な解決をすることができます。そのため,和解で解決することも多いです。
【債権回収】少額訴訟
一 少額訴訟とは
60万円以下の金銭の支払を求める請求についての特別な訴訟手続です。
少額の金銭請求について,簡易かつ迅速に解決することを目的とする手続であり,原則として1回の審理で終了します。また,反訴の禁止,証拠調べの制限,控訴の禁止等の特徴があります。
事実関係に余り争いのない事案では利用しやすい手続であるといえますが,複雑な事案,争点が多い事案等,事案によっては通常訴訟にしたほうが良いことがありますので,事案に応じて,少額訴訟にするか,通常訴訟にするか検討すべきでしょう。
また,訴えられた者(被告)は,通常の訴訟手続によることを求めることができます。
二 少額訴訟が利用できる場合(少額訴訟の要件)
1 訴額の制限
訴額(訴訟の目的の価額)が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えに限られます(民事訴訟法368条1項本文)。
2 回数の制限
同一裁判所に対する利用回数は年間10回までです(民事訴訟法368条1項但書,民事訴訟規則223条)。
回数について虚偽の届出をしたときは,裁判所の決定で10万円以下の過料に処されます(民事訴訟法381条1項)。
三 訴えの提起
簡易裁判所に訴えを提起します。
簡易裁判所では,訴えは口頭で提起することができますが(民事訴訟法271条),訴状を提出して行うのが一般的です。
本人で訴訟をする場合には,裁判所が用意している書式を利用するのが良いでしょう。
また,訴え提起の際,少額訴訟による審理,裁判を求める旨の申述をしなければなりませんし(民事訴訟法368条2項),その申述の際には訴えを提起する簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理,裁判を求めた回数を届け出なければなりません(民事訴訟法368条3項)。
そのため,訴状には,少額訴訟による審理,裁判を求めること,訴えを提起した簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理,裁判を求めた回数を記載します。
四 手続の特徴
1 反訴の禁止
少額訴訟においては,反訴を提起することはできません(民事訴訟法369条)。
2 一期日審理の原則
特別の事情がある場合を除き,1回の期日で審理が終結します(民事訴訟法370条1項)。
口頭弁論が続行される場合を除き,当事者は,期日前または期日に,すべての攻撃防御方法を提出しなければなりません(民事訴訟法370条2項)。
3 証拠調べの制限
証拠調べは,即時に取り調べ得ることができる証拠に限定されます(民事訴訟法371条)。
4 証人等の尋問
証人には特別の定めがある場合を除き宣誓をさせなければなりませんが(民事訴訟法201条1項),少額訴訟では,証人の尋問は,宣誓をさせないですることができます(民事訴訟法372条1項)。
証人及び当事者本人の尋問を行うときは,まず証人の尋問をするのが原則ですが(民事訴訟法207条2項),少額訴訟では,証人や当事者の尋問は,裁判官が相当と認める順序でします(民事訴訟法372条2項)。
少額訴訟では,裁判所は,相当と認めるときは,最高裁判所規則の定めるところにより,裁判所,当事者双方,証人とが音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって証人を尋問することができます(民事訴訟法372条3項,民事訴訟規則226条)。
5 判決
判決の言渡しは,相当でないと認める場合を除き,口頭弁論終結後,直ちになされます(民事訴訟法374条1項)。
判決の言い渡しは,判決書の原本に基づかないですること(調書判決)ができます(民事訴訟法374条2項)。
判決において,必要があると認めるときは,判決言渡し日から3年を超えない範囲で支払の猶予や分割払いとすることができます(民事訴訟法375条)。
また,請求を認諾する判決には仮執行宣言が付されます(民事訴訟法376条)
なお,少額訴訟においても,和解はできますので,判決ではなく,和解で解決することもできます。
6 不服申立て
判決に対し控訴はできません(民事訴訟法377条)。
判決送達を受けた日から2週間以内に,判決をした裁判所に対する異議を申し立てることができます(民事訴訟法378条)。
適法な異議があった場合には,口頭弁論終結前の程度に復し,通常の訴訟手続により審理,裁判がなされますが(民事訴訟法379条),判決に対しては控訴はできず(民事訴訟法380条1項),特別上告ができるだけです(民事訴訟法380条2項で327条を準用)。
五 通常訴訟への移行
以下の場合には,通常訴訟に移行します。
1 被告が通常訴訟への移行を申述したとき
被告は,最初の口頭弁論期日で弁論するか,その期日が終了するまでは,訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができ(民事訴訟法373条1項),その申述があったときには通常の手続に移行します(民事訴訟法373条2項)。
2 裁判所の職権で移行する場合
以下の①から④の場合には,裁判所は職権で通常訴訟に移行させます。
①民事訴訟法368条1項の規定(少額訴訟の要件)に違反して少額訴訟による審理,裁判を求めたとき
②民事訴訟法368条3項の回数の届出を相当期間を定めて命じたが,その届出がなかったとき
③公示送達によらなければ被告に対する最初の口頭弁論期日の呼出しができないとき
④少額訴訟により審理,裁判をするのが相当でないと認めるとき
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