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【民事訴訟】簡易裁判所の民事訴訟手続

2018-04-11

訴額が140万円以下の民事訴訟の第一審は,簡易裁判所に管轄があります(裁判所法33条1項1号)。
簡易裁判所の民事訴訟は,比較的少額な事案を対象としておりますので,簡易な手続により迅速に紛争を解決するものとされております(民事訴訟法270条)。
そのため,簡易裁判所における民事訴訟の手続は,地方裁判所における手続とは異なる点があります。

 

一 訴訟代理人

1 認定司法書士の訴訟代理権

訴訟委任に基づく訴訟代理人は,地方裁判所の民事訴訟では,弁護士に限られますが(民事訴訟法54条1項本文),簡易裁判所の民事訴訟では,訴額が140万円を超えないものについては,認定司法書士にも訴訟代理権が認められています(司法書士法3条1項6号,2項から7項)。
弁論の併合,反訴等により訴額が140万円を超える場合や,地方裁判所に移送された場合には,認定司法書士の訴訟代理権は消滅します。

 

2 許可代理

簡易裁判所の民事訴訟では,簡易裁判所の許可があれば,訴訟代理人となることができます(民事訴訟法54条1項但書)。この許可はいつでも取り消すことができます(民事訴訟法54条2項)。
許可される者としては,同居の親族や会社の従業員等紛争の内容に詳しい人が考えられます。

 

二 訴え提起の簡略化

1 口頭による訴え提起

訴え提起は訴状を提出してすることが原則ですが(民事訴訟法133条1項),簡易裁判所の民事訴訟では,口頭で訴え提起をすることができます(民事訴訟法271条)。

 

2 訴え提起において明らかにすべき事項

訴状には請求の趣旨と請求の原因を記載するのが原則ですが(民事訴訟法133条2項2号),簡易裁判所の民事訴訟の訴え提起においては,請求の原因に代えて,紛争の要点を明らかにすれば足ります(民事訴訟法272条)。
請求の原因は訴訟物を特定するためのものであり,適切に記載するには法律の知識が必要となりますが,簡易裁判所では本人訴訟も多く,法的な知識がない人が訴えを提起することを容易にするものです。

 

三 移送

1 管轄違いの移送

裁判所は,管轄違いの場合には,管轄裁判所に移送しますが(民事訴訟法16条1項),簡易裁判所の管轄に属する場合には,専属管轄に属する場合は除き,地方裁判所は相当と認めるときは,申立てまたは職権で,自ら審理・裁判をすることができます(同条2項)。

 

2 簡易裁判所の裁量移送

簡易裁判所は,管轄がある場合であっても,相当と認めるときは,申立てまたは職権で地方裁判所に移送することができます(民事訴訟法18条)。裁量移送の決定をするにあたっては,当事者の意見が聴取されます(民事訴訟規則8条)。
事案が複雑等の理由で簡易裁判所の簡易・迅速な手続になじまない件については,地方裁判所で審理したほうがよいからです。

 

3 不動産訴訟の必要的移送

簡易裁判所は,不動産訴訟につき管轄があっても,被告の申立てがある場合には,被告が申立て前に本案について弁論した場合を除き,地方裁判所に移送しなければなりません(民事訴訟法19条2項)。
訴額が140万円以下の不動産訴訟については,簡易裁判所と地方裁判所の双方に管轄がありますが(裁判所法24条1項1号,33条1項1号),不動産訴訟には複雑な件が多いことから,被告が地方裁判所での審理を受けたい場合には移送が認められています。

 

4 反訴提起があった場合の移送

被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合に相手方の申立てがあるときは,簡易裁判所は,決定で本訴及び反訴を地方裁判所に移送します(民事訴訟法274条1項)。この決定に不服申立てはできません(同条2項)。

 

四 口頭弁論の簡略化

1 準備書面等の省略

簡易裁判所の民事訴訟では,口頭弁論は書面で準備することを要しませんので(民事訴訟法276条1項),準備書面等の提出は不要です。
もっとも,相手方が準備しなければ陳述することができないと認めるべき事項については,書面で準備するか,口頭弁論前に直接相手方に通知しなければならず(民事訴訟法276条2項),相手方が口頭弁論に在廷していない場合には,準備書面(相手方に送達されたものか,相手方が受領した旨を記載した書面が提出されたものに限ります。)に記載するか,口頭弁論前に直接相手方に通知しなければ,主張することができません(民事訴訟法276条3項)。

 

2 続行期日における陳述擬制

簡易裁判所の民事訴訟では,第1回口頭弁論期日のみならず,続行期日(第2回以降の期日)でも陳述擬制が認められます(民事訴訟法277条)。

 

五 尋問の簡略化

1 尋問調書作成の省略

簡易裁判所の民事訴訟では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て証人,当事者,鑑定人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に証人等の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この場合の録音テープ等は訴訟記録の一部とはなりませんので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。当事者としては,録音テープ等を複製してもらい,その反訳書面を書証として提出することになります。

 

2 書面尋問

簡易裁判所の民事訴訟では,書面尋問ができる範囲や要件が緩和されており,裁判所が相当と認めれば,証人のみならず当事者本人や鑑定人についても書面尋問をすることができますし,当事者の異議がないことは要件とはされていません(民事訴訟法278条)。

 

六 司法委員の関与

簡易裁判所の民事訴訟では,裁判所は,必要があると認めるときは,司法委員に和解の補助をさせることや,司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができます(民事訴訟法279条1項)。
また,裁判官は,必要があると認めるときは,司法委員が証人等に対し直接に問いを発することを許すことができます(民事訴訟規則172条)。

 

七 和解に代わる決定

金銭支払請求訴訟で被告が原告の請求を争わないときは,簡易裁判所は,被告の資力その他の事情を考慮して相当と認めるときは,原告の意見を聴いて,5年を超えない範囲内で支払時期の定めや分割払い等を定める決定をすることができます(民事訴訟法275条の2第1項,2項)。
当事者が決定の告知を受けた日から2週間以内に異議申立てをすれば,決定は効力を失いますが,申立てがなければ,決定は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事訴訟法275条の2第3項から5項)。

 

八 判決書の記載の簡略化

簡易裁判所の民事訴訟では,判決書に事実・理由を記載するには,請求の趣旨・原因の要旨,原因の有無,請求を排斥する理由である抗弁の要旨を表示すれば足りるとされており(民事訴訟法280条),判決書の記載が簡略化されています。

【損害賠償】共同不法行為責任と求償

2018-01-26

加害者が複数いる場合,被害者は共同不法行為責任を追及し,原則として各加害者に損害の全額について賠償請求をすることができます。
また,加害者の一人が損害賠償をした場合には,他の加害者に求償請求をすることができます。

 

一 共同不法行為責任

数人が共同の不法行為によって,他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負います(民法719条1項前段)。
共同行為者のうち誰が損害を加えたのか知ることができないときであっても,同様とされています(民法719条1項後段)。
また,行為者を教唆した者や幇助した者も共同行為者とみなされます(民法719条2項)。

民法719条は,被害者救済の観点から,共同不法行為者に連帯責任を負わせた規定です。共同不法行為者の損害賠償債務は不真正連帯債務であり,弁済やそれと同視できる事由(代物弁済,相殺,供託)を除いては,債務者の一人に生じた事由は他の債務者に影響を及ぼさないと解されています。
被害者が共同不法行為者の一人の債務を免除した場合も,不真正連帯債務であることから,他の共同不法行為者には影響を与えないのが原則ですが,被害者が他の共同不法行為者との関係でも残債務を免除する意思を有していたときには,他の債務者との関係でも免除の効力が生ずると解されています。

 

二 共同不法行為者間の求償

1 求償

条文に規定はされていませんが,公平の観点から,共同不法行為者の一人が被害者の損害の全部または一部を賠償した場合には,他の共同不法行為者に求償することができると解されています。

 

2 求償できる金額

求償できる金額については,各共同不法行為者の過失割合に応じて各人の負担部分が決まり,賠償した行為者は,自分の負担部分を超えて支払った分について,他の行為者に求償することができると解されています。
例えば,損害額が1000万円で,共同不法行為者AとBの過失割合が4:6の場合,Aの負担部分は400万円,Bの負担部分は600万円となりますので,Aが400万円を超えて支払った場合には,その超える分をBに求償することができますが,Aが被害者に支払った金額が400万円以下のときは,Aは自分の負担部分を超える支払はしていないので,Bに求償することができません。

 

3 免除の場合

被害者が共同不法行為者の一人の債務を免除したとしても,共同不法行為者の損害賠償債務は不真正連帯債務であることから,他の共同不法行為者の債務には影響を与えません。
そのため,被害者は他の共同不法行為者に損害全額の賠償請求をすることができますので,賠償した共同不法行為者は,損害額のうち自分の負担割合にあたる分を超えて支払った場合には,その超えた金額を求償することができます。
例えば,損害額が1000万円で,共同不法行為者AとBの過失割合が4:6の場合に,Aが被害者が600万円を支払い,残債務を免除されたときは,Aに対する免除の効力はBには及びませんので,AはBに対し,Aの負担部分400万円(=1000万円×0.4)を超える200万円の求償をすることができます。

これに対し,被害者が,共同不法行為者の一人が債務を免除した場合に,他の共同不法行為者の債務を免除する意思を有していたときには,他の共同不法行為者にも免除の効力が及びます。
そのため,賠償した共同不法行為者は,免除されていない金額のうち自分の負担割合に当たる分を超えて支払った場合には,その超えた金額を求償することができます。
例えば,損害額が1000万円で,共同不法行為者AとBの過失割合が4:6の場合に,Aが被害者に600万円を支払い,被害者がAだけでなくBも含めて残債務を免除する意思を有していたときには,Aが支払った600万円のうちAの負担部分は240万円(=600万円×0.4)となりますから,AはBに対し,360万円(=600万円-240万円)を求償することができます。

【民事訴訟】反訴(訴訟係属中の被告から原告への訴え)

2018-01-23

訴訟係属後,被告は原告の請求に対し防御活動をすることになりますが,原告に対する請求がある場合には反訴を提起することができます。

 

一 反訴とは

反訴とは,訴訟係属中に,その訴訟(「本訴」といいます。)の手続において,被告が原告に対して提起する訴えのことです(民事訴訟法146条)。
被告は,原告に対する請求がある場合,反訴を提起すれば,反訴と本訴は併合して審理されますので,審理の重複による訴訟不経済を避けることができますし,判断の矛盾を避けることができます。
また,例えば,売買代金請求訴訟において被告が売買契約の効力を争う一方,契約が有効と判断された場合には,予備的に目的物の引渡しを求める反訴をするというように,予備的反訴もできます。

なお,被告は,原告に対する請求がある場合には,別訴を提起し,裁判所に弁論を併合してもらうこともできますが,弁論の併合を認めるかどうかは裁判所の裁量によるものであり,当事者に申立権はありません。

 

二 反訴の要件

1 要件

反訴は,以下の要件をみたすことが必要となります。
①本訴が係属しており,本訴の口頭弁論終結前に反訴を提起したこと(146条1項)
②反訴請求が本訴請求または防御方法と関連するものであること(146条1項)
③反訴請求が他の裁判所の専属管轄に属さないこと(146条1項1号)
④著しく訴訟手続を遅滞させないこと(146条1項2号)
⑤本訴と反訴が同種の訴訟手続であること(136条)
⑥反訴が禁止されていないこと(351条,367条,369条)

本訴請求と関連する場合とは,本訴と反訴の請求原因が法律上または事実上共通する場合です。
例えば,交通事故の損害賠償請求訴訟の被告が,同一の交通事故について損害賠償請求の反訴を提起する場合です。

防御方法と関連する場合とは,本訴の抗弁事由と反訴の請求原因が法律上または事実上共通する場合です。
例えば,被告が本訴で相殺の抗弁を主張し,その自働債権について反訴を提起する場合です。

 

2 要件を欠く場合

反訴の要件を欠く場合,反訴は不適法であり,終局判決で却下されます。
なお,独立の訴えとして,弁論の分離や移送で対応すべきとの考えもあります。

 

三 手続

1 反訴の提起

(1)反訴状の提出

反訴は訴えに関する規定によりますので(民事訴訟法146条4項,民事訴訟規則59条),反訴提起は反訴状を裁判所に提出して行います(民事訴訟法146条4項,133条1項)。
反訴提起する際,訴額に応じた印紙を貼用して手数料を納めますが,本訴と目的を同じくするときは本訴の手数料額を控除します(民事訴訟費用法3条1項,別表第1の6)。
また,反訴状を裁判所に提出したときに,反訴請求について時効中断等の効力が発生します(民事訴訟法147条)。

 

(2)控訴審での反訴提起

控訴審で反訴を提起する場合には,相手方の審級の利益を保障する必要があることから,相手方(反訴被告)の同意がなければなりません(民事訴訟法300条1項)。
相手方が異議を述べないで反訴の本案について弁論をしたときは,反訴の提起に同意したものとみなされます(民事訴訟法300条2項)。
また,第一審で反訴請求について実質的に審理されている場合等,相手方の審級の利益を保障する必要がなければ,相手方の同意は不要とされることがあります。

 

(3)簡易裁判所での反訴提起

簡易裁判所は,被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合,相手方の申立てがあるときは,決定で本訴と反訴を地方裁判所に移送しなければなりません(民事訴訟法274条)。
相手方の地方裁判所で争う利益を保障するためです。

 

2 反訴の審理

反訴は本訴と併合して審理されます。
ただし,裁判所が弁論を分離することも,基本的にはできると解されています。

 

3 訴えの取下げ

本訴が取下げられても,反訴には影響せず,単独で審理されます。
反訴の取下げは基本的に訴えの取下げと同じですが,本訴の取下げがあった場合には相手方の同意が不要となります(民事訴訟法261条2項但書)。

 

4 終局判決

本訴と反訴は併合審理されておりますので,一個の判決で両請求について判決(全部判決)がなされます。
ただし,一方の請求について判決すること(一部判決)も可能です(民事訴訟法243条2項,3項)。

 

5 上訴

本訴請求と反訴請求に対して1個の判決がなされ,その一方について上訴が提起された場合,他方の請求を含む全部の請求について判決の確定が遮断されますし,移審の効力が生じます。

【民事事件】請負代金請求事件

2017-10-31

建築工事やリフォーム工事等の請負契約で,請負人が注文者に報酬(請負代金)の支払を請求する場合には,どのようなことが問題となるのでしょうか。

 

一 請負契約とは

請負契約は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,その効力を生ずる契約です(民法632条)。
請負人は工事を完成させる義務を負うのに対し,注文者は報酬(請負代金)を支払う義務を負います。

 

二 請負代金請求するための要件

請負代金の支払は後払いが原則であり(民法633条),請負代金請求をするには,基本的に①請負契約の成立,②仕事の完成が要件となります。
なお,仕事の完成前に支払う請負代金の全部または一部を支払う旨の特約がある場合には,①請負契約の成立,②特約の成立,③特約の内容となる事実の存在が要件となります。

 

1 請負契約の成立

請負契約の成立を主張するにあたっては,①契約の当事者,②契約締結日,③仕事の内容,④請負代金額を特定することになります。
なお,請負代金額を定めていない場合であっても,相当な報酬額を支払う合意があれば請負契約は成立しているものと解されます。商法512条は「その営業の範囲において他人のために行為をしたときは,相当な報酬を請求することができる。」と規定しておりますので,請負人が商人である場合には同条を根拠に報酬を請求することができます。

 

2 仕事の完成

注文者が請負人の仕事に納得していない場合には,仕事が完成したのか,未完成なのか争いとなることがあります。
建築請負工事の場合には,請負工事が予定されていた最後の工程まで終了していれば,仕事は完成したと判断されます。最終工程まで終えていない場合には未完成になりますが,最終工程まで一応終えている場合には完成となり,補修の必要があれば瑕疵修補請求や損害賠償請求の問題になります。

 

三 追加工事や変更工事をした場合

工事の途中で当初の予定を変更し,追加工事や変更工事が行われることがありますが,その場合,追加の請負代金を請求することができるかどうか争いとなることがあります。

当初の契約の内容が曖昧な場合には,当初の契約内容に含まれるのか,追加・変更工事には当たるのか争いになります。
また,追加・変更工事に当たる場合であっても,追加・変更工事を行うことについて合意がなければ,請負人が追加・変更工事の代金を請求することは難しいでしょう。
これに対し,追加・変更工事を行うことについて合意がある場合には,追加・変更工事の代金についても合意していれば,その代金の支払を請求することができるでしょうし,代金について合意がないときであっても,相当額の支払を請求することができるでしょう。

 

四 途中で終了してしまった場合

請負代金を請求するにあたっては,仕事が完成していることが要件となりますが,仕事が未完成であっても,請負代金を請求することができる場合があります。

①工事が可分であり,完成した部分の給付について注文者に利益がある場合には,完成部分の報酬を請求することができます。

②注文者の責に帰すべき事由により履行不能となった場合には,民法536条2項(危険負担の債権者主義)により,請負人は請負代金の全額を請求することができます。
もっとも,請負人は自己の債務を免れたことによって得た利益を注文者に償還しなければなりませんので(民法536条2項但書),請負人が請負代金全額の請求をしてきたときには,注文者は償還請求権をもって請負代金請求権と対当額で相殺する旨の意思表示(相殺の抗弁)をすることができます。

 

五 補修が問題となる場合

仕事の目的物に瑕疵がある場合には,瑕疵が重要でなく,修補に過分の費用を要するときを除き,注文者は請負人に対し,瑕疵の修補を請求することができます(民法634条1項)。
また,注文者は,瑕疵の修補に代えて,またはその補修とともに損害賠償請求をすることができます(民法634条2項)。
そのため,仕事の目的物に瑕疵があり補修が必要となる場合には,注文者は,瑕疵修補請求権との同時履行を主張することや,損害賠償請求権との同時履行や相殺を主張して,請負代金の支払を拒むことができます。

【民事訴訟】債務不存在確認訴訟

2017-10-03

貸金返還請求や損害賠償請されている事案で債務の存在や金額について争いがある場合に,請求されている側から紛争の解決を求める手段として,債務不存在確認訴訟があります。

 

一  債務不存在確認訴訟とは

債務不存在確認訴訟とは,債務が存在しないことの確認を求める訴訟です。
債務の存在や金額について当事者間に争いがある場合,請求する側(債権者)が債務の履行を求めて訴訟(給付訴訟)を提起するのが通常ですが,債権者が訴訟を提起しようとしないときに,請求される側(債務者)のほうから紛争を解決する手段がなければ,債務者は,いつまでも紛争が解決せず,不安定な立場におかれることになってしまいます。
そのような場合に債務者から紛争を解決する手段として,債務不存在確認訴訟があります。

債務不存在確認訴訟では,債務者が原告,債権者が被告となり,給付訴訟とは原告・被告が逆になります。給付訴訟では債権者(原告)が権利の発生を根拠づける事実を主張立証しなければなりませんので,債務不存在訴訟でも債権者(被告)が債務の発生を根拠づける事実を主張立証しなければなりません。
また,債務不存在確認訴訟では,被告(債権者)の主張が認められても,債務の履行を求められるわけではありませんので,被告(債権者)が原告(債務者)に対し債務の履行を求める場合には,給付訴訟を提起する必要があります。

 

二 債務の特定

債務不存在確認訴訟では,争いの対象となる債務を特定する必要があります。
そのため,「原告被告間の○○年○○月○○日付○○契約に基づく原告の被告に対する元金○○○万円の債務が存在しないことを確認する。」(債務全体について争う場合),「原告被告間の○○年○○月○○日付○○契約に基づく原告の被告に対する元金○○○万円の債務が○○万円を超えて存在しないことを確認する。」(債務の一部を認めている場合)といったように,請求の趣旨に債務の発生原因と金額を記載して,争いの対象となる債務を特定するのが原則です。
もっとも,債務者では債務の金額がわからない場合もありますので,「原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故による損害賠償債務が存在しないことを確認する。」といったように,債務の発生原因だけを記載して,債務の額を記載しないこともできます。

 

三 確認の利益

1 債務の存在について争いがあること

債務不存在確認訴訟を提起するにあたっては,訴えの利益(確認の利益)がなければなりませんので,原告・被告間で債務の存在について争いがあることが必要となります。

 

2 反訴提起された場合

債務不存在確認訴訟よりも給付訴訟のほうが紛争の解決につながります。
そのため,給付訴訟の被告(債務者)が反訴として債務不存在確認訴訟を提起することは,確認の利益を欠くので認められません。
また,債務不存在確認訴訟の被告(債権者)が反訴として給付訴訟を提起し,反訴が認容される場合には,本訴である債務不存在確認訴訟については確認の利益がないことになり,訴えが却下されます。

 

3 濫用的な場合

交通事故の被害者が損害額の把握ができておらず,訴訟の準備ができていない状況で加害者が債務不存在確認訴訟を提起した場合等,債務者が濫用的に債務不存在確認訴訟を提起した場合には,確認の利益が否定される可能性があるでしょう。

 

四 判決

1 請求の趣旨で債務の金額が明示されている場合

例えば,原告が100万円の債務が存在しないこと求めている場合に,裁判所が50万円の債務が存在すると判断したときは,債務は50万円を超えて存在しないことを確認する旨の一部認容判決がなされます。
これに対し,裁判所が150万円の債務が存在すると判断した場合には,処分権主義の観点より,原告が確認を求めている範囲を超えて判決を出すことはできませんので,請求が棄却されます。

 

2 請求の趣旨で債務の金額の明示がない場合

原告が債務の金額を明示せずに債務の不存在の確認を求めている場合に,裁判所が債務が存在すると判断したときは,事案によって,請求棄却の判決がなされることもあれば,債務の額を確定する一部認容判決がなされることもあります。

 

五 まとめ

以上のように,債務の存在や金額について争いがある場合,債務者は債務不存在確認訴訟を提起することで紛争を解決することができます。
債務の存在や金額に争いがあり,話合いでの解決が困難であるにも関わらず,債権者が債務者の根負けを狙って,訴訟提起することなく,執拗に請求を繰り返す場合には,債務者側は債務不存在確認訴訟の提起を検討しましょう。

【民事訴訟】訴状を受け取ったとき,被告はどう対応すべきか

2017-09-01

原告が訴訟を提起すると,裁判所は,被告に訴状の副本と第一回口頭弁論期日の呼出状等の書類を送ってきます。

被告が何もしないで放置していると欠席判決になり,原告の請求が認められ,強制執行により財産の差押え等を受けるおそれがありますので,被告としては無視しておくことはできません。訴状を受け取った場合,被告としては,どのように対応をすべきでしょうか?

一 答弁書の作成・提出

被告は,答弁書を作成して,第一回口頭弁論期日前に裁判所に提出しなければなりません(民事訴訟規則79条1項)。また,原告にも答弁書を送ります(民事訴訟規則83条)。

答弁書を提出せず,第一回口頭弁論期日に欠席すると,欠席判決となり,原告の請求内容がそのまま認められてしまうのが通常ですから,答弁書の提出は忘れないようにしましょう。
答弁書は,裁判所から送られてきた用紙に記入して作成することもできますが,自分で必要事項を記載して作成することもできます。答弁書の記載内容は訴訟の結果に影響しますので,答弁書にどのようなことを記載すべきか分からない場合には,弁護士に相談や依頼をしたほうがよいでしょう。

また,答弁書の提出は,第1回口頭弁論期日の前に提出しておきましょう。できる限り指定された提出期限までに提出すべきなのはいうまでもありませんが,間に合わないからといって当日持参しようとすると,期日に出席できなかったり,遅刻した場合に,答弁書の提出のないまま第1回口頭弁論期日に欠席したものと扱われ,欠席判決になってしまいます。その場合,争うには控訴しなければなりません。

 

二 第1回口頭弁論期日への出席

裁判所から第1回口頭弁論期日を指定した呼出状が送られてきますので,指定された期日に出席しましょう。
ただし,第1回口頭弁論期日より前に答弁書を提出しておけば,期日に欠席しても答弁書の記載内容を陳述したものと擬制されますので(民事訴訟法158条),出席しないこともできます。

 

三 弁護士への相談・依頼

被告本人で訴訟に対応することも可能ですが,弁護士に相談し,できれば依頼したほうがよいでしょう。弁護士に依頼することには,以下のようなメリットがあります。

 

1 適切な主張や証拠の提出

訴訟では,どのような主張をし,どのような証拠を提出するかによって,結果が変わってきます。本来であれば勝訴できる場合であっても,適切な主張や証拠を提出しないために敗訴することもあります。
適切な主張や証拠の提出をするには,法律や訴訟についての専門知識や経験が必要であり,弁護士に依頼せず,本人だけで行うことは難しいでしょう。
分からないことがあれば裁判所に聞けばよいと思われるかもしれませんが,裁判所は公正中立の立場で当事者に接しますので,基本的に一方当事者の肩を持つことはしませんから,裁判所がどうすればよいか教えてくれることは期待できません。自分の権利は自分で守らなければなりませんので,自分の権利を守るために,弁護士に依頼したほうがよいでしょう。

 

2 訴訟の準備の負担を軽減できる

被告は,答弁書や準備書面の作成・提出,証拠の提出等,訴訟の準備をしなければなりませんが,弁護士に依頼すれば,弁護士がこれらを行います。
弁護士に依頼したからといって,弁護士に任せきりでよいわけではなく,弁護士との打合せや,どういった事実があったのか記載したメモの作成,証拠を探してくる等,本人も活動しなければなりませんが,一人で全部抱えるよりも負担が大幅に軽減されます。

 

3 期日に出席しないで済む

仕事で忙しく裁判所に行くのが難しい場合や,裁判所に行くたくない場合には,弁護士に依頼すれば,弁護士が代理人として期日に出席しますので,基本的に本人は裁判所にいかなくて済みます。
当事者の尋問がある場合には当事者本人の出席が必要となりますし,和解期日に本人の出席が求められることもありますので,弁護士に依頼したからとって全く裁判所にいかないで済むとは限りませんが,出席しないで訴訟が終わることもありますし,毎回出席しないで済みますので,本人の負担は大幅に軽減されます。
なお,弁護士に依頼した場合であっても,本人が出席することは当然できます。

【示談交渉】訴訟提起前に示談交渉をする理由

2017-06-02

法的な紛争が起こり,弁護士に依頼した場合,弁護士は,示談交渉に適しない事案でなければ,いきなり訴訟提起するのではなく,まずは示談交渉から始めることを勧めるのが通常です。

 

1 早期解決の可能性

示談交渉で解決することができれば,通常は,訴訟をするよりも早く解決できますし,費用も安くすみますので,できることなら訴訟提起をせず,示談交渉で解決したほうがよいでしょう。

 

紛争の当事者は感情的になってしまい直接交渉することは難しい場合が多いですが,紛争の当事者ではない弁護士であれば,感情的にならず,冷静に相手方と交渉することが期待できます。

また,弁護士は,法的な根拠があるかどうか,訴訟になったらどの程度請求が認められるか検討した上で交渉するのが通常であるため,妥当な落ち着きどころを見い出し,解決することが期待できます。

そのため,当事者間で直接交渉して解決できない場合であっても,弁護士が交渉することで解決できる可能性はあります。

 

2 相手方への配慮

交渉もせず,いきなり訴訟提起をすると,相手方を怒らせることがあります。

相手方の感情を害すると,訴訟で不必要に争われる,和解ができなくなる等の弊害が生じるおそれがあります。

紛争になっている以上,お互い相手に良い感情はもっていないでしょうが,紛争を解決するためには,不必要に相手方の感情を害さないよう配慮はすべきです。

そのため,示談交渉に適しない事案でない限りは,相手方への礼儀として,相手方に交渉で解決する機会を与え,交渉がまとまらなかったので,やむを得ず訴訟提起したというように手順を踏んでおいたほうが無難です。

 

3 訴訟の準備活動

事前に示談交渉をしておくことは,訴訟の準備活動としても意味があります。

 

弁護士は,依頼を受けた時点では,依頼者から話を聞き,依頼者が持っている資料を見てはいますが,相手方から話を聞いていませんし,相手方がどのような証拠を持っているか分かりませんので,事案の全体について把握できているわけではありません。

相手方の主張や証拠を見てみたら,依頼者から聞いていた話と違うということが少なくありません。

訴訟提起後に相手方の主張や証拠を見てから,主張を変えることは裁判所の心証がよくないでしょうし,かといって訴えを取り下げて訴訟をやり直すことは困難です(被告が本案について準備書面を提出し,弁論準備手続において申述をし,または口頭弁論をした後は,被告の同意を得なければ,訴えの取り下げはできません。民事訴訟法261条2項本文)。

訴訟提起前に相手方と交渉し,相手方がどのような主張をしているか把握しておけば,訴訟でどのような主張・立証をすればよいか対策を講ずることができ,訴訟提起後に主張が崩れるリスクを減らすことができます。

 

なお,示談交渉で相手方に送った書面は訴訟で証拠となりますので,不利な証拠にならないよう書面の記載には注意しましょう。例えば,訴訟での主張と矛盾していることを交渉段階で述べていた場合には訴訟での主張の信用性に影響しますので,交渉段階では不確実なことは記載しない,必要なこと以外は記載しないといった配慮が必要となります。

 

【債権回収】貸金返還請求事件

2017-05-12

「お金を貸したのに返してくれない。返してもらいたけれども,どうすればよいか。」

 

貸主が借主に対し貸金の返還を求めることを貸金返還請求といいます。貸金返還請求事件では,どのようなことが問題となるのでしょうか。

 

一 貸金返還請求権

1 消費貸借契約

貸金返還請求権は,金銭の消費貸借契約に基づきます。

消費貸借契約は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって効力を生ずる要物契約であり(民法587条),①当事者間で金銭の返還の合意をしたこと(返還約束),②金銭を交付したことが契約成立の要件となります。

 

また,売買代金債務等貸金債務以外の債務を当事者の合意で金銭消費貸借債務に改めることもできます(民法588条)。これを準消費貸借契約といいます。

 

2 貸主は,いつ借主に貸金返還請求ができるのか

(1)返還時期の合意

金銭消費貸借契約が成立していても,いつでも貸金返還請求ができるというわけではありません。

当事者間で返還時期を合意した場合には,合意した返還時期が到来しなければ貸金返還請求はできません。

(2)返還時期の合意をしなかった場合

当事者が返還時期について合意をしなかった場合には,貸主は,相当の期間を定めて返還の催告をすることができ(民法591条1項),その期間が経過しなければ借主に返還請求することはできません。

なお,条文では「相当の期間を定めて返還の催告」となっていますが,相当の期間を定めないで催告した場合であっても,相当期間が経過すれば,貸主は借主に返還請求することができると解されております。

(3)分割返済の合意をした場合

「毎月〇万円ずつ返済する」といったように当事者が分割返済の合意をした場合,借主が分割金の支払を滞らせても,貸主は返還時期が到来した分についてしか返還請求ができないのが原則です。

もっとも,期限の利益喪失条項(借主が分割弁済を怠ったときは,期限の利益を失い,残額につき弁済期が経過したものとする旨の合意)があれば,借主が分割弁済を怠ったときに,貸主は残額全部について借主に返還請求ができるようになります。

貸主としては,分割返済の合意をする場合には期限の利益喪失条項をいれることを忘れないようにしましょう。

 

3 利息

(1)利息の支払を請求できる場合

当事者間で利息支払の合意をした場合や,商人間で金銭の消費貸借をした場合(商法513条1項)には,貸主は借主に利息の支払を請求することができます。

(2)利率

利率については,合意があればそれによりますが(利息制限法による制限があります。),合意がない場合は民事法定利率の年5分(民法404条)または商事法定利率の年6分(商法514条)となります。

(3)利息が生じる期間

利息の生じる期間は,契約成立日から弁済期までです。

 

4 遅延損害金

弁済期を経過しても借主が返還しない場合には,貸主は借主に遅延損害金の支払を請求することができます。

遅延損害金の額は,法定利率によって定められますが,約定利率が法定利率を上回るときは約定利率によって定められます(民法419条1項)。

 

二 貸金返還請求をするにあたって検討すべきこと

1 借主が争ってきている場合

貸金返還請求をした場合,借主が,金銭を受け取っていない,受け取ったけれでも貰ったものだ等と主張して契約の成立を争ってくることがあります。

金銭消費貸借契約書や借用書がある場合には,契約の成立が争いになることはあまりないでしょうが,契約書や借用書がない場合には,どうやって契約の成立を立証するか問題となります。

また,借主が,契約書等があっても公序良俗違反,錯誤,詐欺,脅迫等の抗弁を主張して契約の効力を争ったり,弁済,相殺,消滅時効等の抗弁を主張して債務は消滅したと争ってくることもあります。

借主が争ってきている場合,貸主は,借主の主張を検討し,対応を検討する必要があります。

 

2 回収可能性

貸金返還請求事件では,借主が支払能力がないと主張してくることがよくあります(いわゆる無資力の抗弁です。)。

借主が支払能力がないと主張してきている場合,本当に資力がないのか,支払いたくないのでそのような主張をしているだけなのか見極める必要があります。

安易に減額に応じるべきではありませんが,勝訴しても回収できないこともありますので,回収可能性を考慮して,ある程度譲歩し,借主が返済可能な条件で和解したほうが良い場合もあります。この点については判断が難しいところです。

 

3 どのような手続をとるか

交渉で解決できない場合には,法的手続をとることになりますが,支払督促,少額訴訟,民事訴訟,民事保全,民事執行等様々な手続があり,どの手続をとるのか検討が必要となります。

借主が争ってくる可能性や債権の回収可能性(差押え可能な財産の有無等)を考慮して,手続を選択する必要があります。

 

三 トラブルになるリスクを減らすにはどうすればよいか

1 金銭消費貸借契約書・借用書の作成

金銭消費貸借契約書・借用書を作成しておけば,契約の成立や内容で争われる可能性が低くなりますし,執行認諾文言付きの公正証書にしておけば,訴訟等をせずに強制執行ができます。

また,分割返済の合意をする場合には,期限の利益喪失条項を入れておきましょう。

 

2 担保をとること

お金を貸す場合には,抵当権等の物的担保や連帯保証人等の人的担保をとっておきましょう。

担保をとっておけば,回収不能のリスクを減らすことができます。

 

四 まとめ

お金がないから,お金を借りるのが通常ですから,貸金返還請求事件では,借主に返済できる資力があるかどうかが大きな問題となります。

そのため,請求が認められるかどうかということだけでなく,債権回収ができるかどうかということも考えなければなりません。

トラブルになった場合には,弁護士に相談や依頼をすることをおすすめします。

【損害賠償請求】使用者責任

2017-04-25

ある会社の従業員が勤務中に交通事故を起こした場合,被害者は,直接の加害者である従業員だけでなく,その使用者である会社に対しても使用者責任を追及して損害賠償請求をすることができます。

 

一 民法715条の使用者責任

民法715条1項は「ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。」と規定しております。この使用者が負う責任のことを使用者責任といいます。

使用者責任については,選任・監督上のミスをした使用者の自己責任であり,立証責任を転換して,使用者に免責事由があることの立証責任を負わせる中間責任であるとする見解もありますが,一般的には,報償責任(利益を得る者は損失も負う)または危険責任(危険を支配する者は責任も負う)に基づくものであり,使用者が被用者に代わって責任を負う代位責任であると解されております。

 

二 要件

1 使用関係(事業のため他人を使用)

「事業のために他人を使用」している関係が必要です。

使用関係があるかどうかは,実質的な指揮監督関係があるかどうかで判断されます。

使用関係がある場合としては,雇用契約がある場合が典型ですが,実質的な指揮監督関係がある場合であれば,請負契約(元請人と下請人)や委任契約でも使用関係があると判断されます。

被害者保護の観点から使用関係の要件は広く解されており,実質的な指揮監督関係があれば,一時的な関係でも,営利性がなくても,違法な関係でも,契約関係がなくてもかまいません。

 

2 業務執行性

被用者の行為は「事業の執行について」なされたものでなければなりません。

(1)外形理論(外形標準理論)

「業務の執行について」なされたといえるかどうかは,使用者の事業の範囲に属し,被用者の職務の範囲内であるかで判断されますが,被用者の職務の範囲に属しないものであっても,行為の外形から観察して,被用者の職務の範囲内であるとみられる場合には事業の執行につきなされたものと判断されます(外形理論・外形標準説)。

外形理論(外形標準理論)は,被害者の外形に対する信頼を保護するものですから,被害者が被用者の職務の範囲内に属しないことを知っていた場合(悪意)や重大な過失により知らなかった場合(重過失)には,被害者の信頼を保護する必要はありませんので,「事業の執行について」なされた行為にはあたらないと解されております。

例えば,被用者から取引を持ちかけられて金銭を騙し取られた場合(取引的不法行為),被害者が,被用者の職務の範囲内だと思っていた場合には,重過失がない限り,「事業の執行について」なされたと判断されます。

 

(2)事実的不法行為の場合

交通事故や暴力行為等,事実行為による不法行為のことを,事実的不法行為といいます。

事実的不法行為の場合にも,外形理論(外形標準理論)で判断する判例はありますが,取引的不法行為の場合とは異なり,被害者が外形を信頼したかどうか問題とならず,外形理論(外形標準理論)が基準として適当ではないことがあります。

そのような場合には,加害行為が,使用者の支配領域内の危険に由来するものであるかどうか(被用者が交通事故を起こした場合),使用者の事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連性を有するかどうか(被用者が暴力行為をした場合)といった基準で,「業務の執行について」なされたといえるか判断されます。

 

3 被用者の不法行為

使用者責任は,代位責任であると解されておりますし,使用者は被用者に求償することができるので(民法715条3項),被用者が不法行為責任を負うことが前提となっております。

そのため,被用者について不法行為の要件を満たすことが必要となります。

 

4 免責事由の不存在

使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきときは使用者は責任を免れます(民法715条1項但書)。

免責事由が存在することは,責任を免れる側である使用者が立証しなければなりませんが,使用者責任は無過失責任に近いものと考えられているため,免責事由の存在は容易には認められません。

 

三 使用者の責任

1 不真正連帯債務

使用者責任の要件を満たす場合,使用者は,被害者に対し損害賠償義務を負いますが,被用者も民法709条により不法行為責任を負います。

使用者の責任と被用者の責任は,不真正連帯債務の関係にあたると解されており,被害者は,使用者と被用者のどちらに対しても,全額について損害賠償請求をすることができますが,一方が支払った場合,他方はその限度で責任を免れます。

 

2 求償

使用者が被害者に対し損害賠償義務を履行した場合,使用者は被用者に対し求償権を行使することができますが(民法715条3項),損害の公平な分担の見地から,信義則上,使用者の求償権の行使が制限され,全額は求償できないことがあります。

逆に,被用者が被害者に対し損害賠償義務を履行した場合,被用者は使用者に対し求償すること(逆求償)ができるのかどうか問題となります。被用者が使用者に求償できるとする条文はありませんが,逆求償を認めた裁判例もあります。被用者が故意に不法行為をした場合は別として,過失の場合,被用者と使用者のどちらが先に損害賠償するかによって被用者の負担が異なるのはおかしいので,事案によって逆求償は認められるべきでしょう。

 

四 代理監督者の責任

民法715条2項は「使用者に代わって事業を監督する者も,前項の責任を負う。」と規定しており,使用者に代わって事業を監督する者(代理監督者)も民法715条1項の責任を負います。

代理監督者は,客観的にみて,使用者に代わって現実に被用者を選任・監督する地位にある者のことをいい,肩書だけで判断されるわけではありません。

例えば,法人である使用者の代表取締役の場合,代表取締役という肩書があるだけでは代理監督者にはあたりませんが,現実に被用者の選任・監督をしていた場合には,代理監督者にあたります。

 

五 まとめ

直接の加害者に賠償能力がない場合であっても,使用者責任を追及することができる場合には,被害者は,加害者の使用者から損害賠償を受けることができますので,直接の加害者だけでなく,使用者に責任を追及することができる事案かどうか確認しましょう。

また,使用者からすれば,被用者が不法行為をした場合には,使用者自身も責任を追及されるおそれがありますので,被用者が問題を起こさないよう選任や監督に注意すべきですし,保険に入る等の対応をすべきでしょう。

【民事訴訟】判決に不服がある場合(控訴)

2017-03-29

民事訴訟では,三審制がとられており,第一審,控訴審,上告審があります。

第一審の判決に不服がある場合には,控訴をすることができます。

 

1 控訴ができる場合(控訴の利益,不服の利益)

第一審の判決に不服がある場合には,控訴をすることができます(民事訴訟法281条)。

控訴をするにあたっては不服(控訴の利益,不服の利益)がなければなりませんので,第一審が全部勝訴(全部認容判決)の場合には控訴はできません。

また,第一審で一部勝訴(一部認容判決)の場合は,原告,被告双方に敗訴部分がありますので,原告,被告とも控訴ができます。

 

2 控訴裁判所

控訴裁判所は,第一審の裁判所が簡易裁判所である場合は地方裁判所となり(裁判所法24条3号),第一審の裁判所が地方裁判所である場合は高等裁判所となります(裁判所法16条1号)。

 

3 控訴期間

控訴は,控訴人となる当事者が判決正本の送達を受けた日から2週間以内に提起しなければなりません(民事訴訟法285条)。

ただし,控訴期間の末日が,日曜日,土曜日,祝日,1月2日,1月3日,12月29日から31日までにあたるときは,その翌日に満了します(民事訴訟法95条3項)。

控訴期間は不変期間(法定期間のうち,裁判所が伸長・短縮できないもの)です。控訴期間を過ぎると,追完ができる場合(民事訴訟法97条)を除いて控訴することができなくなりますので,控訴期間を徒過しないようよう注意しましょう。

 

4 控訴提起

控訴提起は,控訴期間内に,控訴裁判所宛ての控訴状を第一審の裁判所に提出して行います(民事訴訟法286条1項)。

第一審の裁判所は,控訴状を審査して,控訴が不適法で補正ができない場合は控訴を却下の決定をしますが(民事訴訟法287条1項),問題がなければ,控訴裁判所へ訴訟記録が送付され(民事訴訟規則174条),事件番号が付され,期日が指定されます。

また,控訴状に第一審判決の取消しまたは変更を求める理由を記載しなかった場合には,控訴提起後,50日以内に控訴理由書を提出する必要があります(民事訴訟規則182条)。

 

5 控訴審の審理

控訴審は,続審主義が採用されており,第一審の裁判資料に加えて,控訴審で収集された新たな資料に基づいて,控訴審の口頭弁論終結時を基準として,第一審判決の当否が判断されます。

 

6 控訴審の終了

(1)訴えの取下げ,請求の放棄・認諾,訴訟上の和解

控訴審も第一審同様,訴えの取下げ,請求の放棄・認諾がある場合や訴訟上の和解が成立した場合には,終了します。

なお,控訴審で訴えを取り下げた場合,第一審で本案判決がなされたときには,本案について終局判決があった後に訴えを取り下げたことになるので,同一の訴えを提起することができなくなります(再訴禁止効。民事訴訟法262条2項)

 

(2)控訴の取下げ

控訴は,控訴審の終局判決があるまで取り下げることができます(民事訴訟法292条1項)。

取り下げると,初めから控訴はなかったものとされます(民事訴訟法292条2項,262条1項)。

控訴を取り下げた時点で控訴期間が過ぎている場合には,あらためて控訴提起することはできなくなるので,第一審の判決は確定します。

控訴の取下げは,控訴自体を取り下げるものであり,訴えの取下げ(訴え自体の取り下げ)とは違いますので注意して下さい。

 

(3)終局判決

①控訴却下判決

控訴が不適法な場合には,却下判決がなされます。

②控訴棄却判決

控訴に理由がない場合には,棄却判決がなされます。

③控訴認容判決

控訴に理由があり,第一審判決の判断が不当な場合(民事訴訟法305条)や,第一審判決の手続が法律に違反する場合(民事訴訟法306条)には認容判決がなされ,第一審判決は取り消されます。

第一審判決が取り消された場合,自判(控訴審が自ら裁判をすること),差戻し(事件を第一審裁判所に戻すこと),移送(管轄違いを理由に第一審判決を取り消す場合に,管轄のある第一審裁判所に移送すること。民事訴訟法309条)のいずれかの措置がとられます。

控訴審は事実審ですので,自判が原則ですが,第一審判決が訴え却下判決の場合は,事件について更に弁論をする必要がない場合を除き,事件を第一審裁判所に差し戻さなければなりませんし(必要的差戻し。民事訴訟法307条),それ以外の場合でも,更に弁論をする必要があるときには,第一審裁判所に差し戻すことができます(任意的差戻し。民事訴訟法308条1項)。

 

第一審判決の取消し,変更は,不服申立ての限度でのみできますので(民事訴訟法304条),控訴人が不服を申し立てた範囲を超えて不利益な判決を受けることはありませんし(不利益変更禁止の原則),不服を申し立てていない部分につき有利な判決を受けることもありません。

 

7 附帯控訴

控訴された当事者(被控訴人)は,控訴手続を利用して,自分に有利な判決を求めて,附帯控訴をすることができます(民事訴訟法293条)。

附帯控訴は,控訴に付随するものであるため,控訴期間の制限はなく,控訴期間徒過後でもできますが,控訴審の口頭弁論終結後は附帯控訴できなくなります(民事訴訟法293条1項)。

また,控訴の取下げや却下の場合には附帯控訴の効力もなくなりますが(民事訴訟法293条2項),附帯控訴が控訴の要件を満たしていれば独立の控訴として扱われ,控訴審は続行します(民事訴訟法293条2項但書)。

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