【債権回収】貸金返還請求事件

2017-05-12

「お金を貸したのに返してくれない。返してもらいたけれども,どうすればよいか。」

 

貸主が借主に対し貸金の返還を求めることを貸金返還請求といいます。貸金返還請求事件では,どのようなことが問題となるのでしょうか。

 

一 貸金返還請求権

1 消費貸借契約

貸金返還請求権は,金銭の消費貸借契約に基づきます。

消費貸借契約は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって効力を生ずる要物契約であり(民法587条),①当事者間で金銭の返還の合意をしたこと(返還約束),②金銭を交付したことが契約成立の要件となります。

 

また,売買代金債務等貸金債務以外の債務を当事者の合意で金銭消費貸借債務に改めることもできます(民法588条)。これを準消費貸借契約といいます。

 

2 貸主は,いつ借主に貸金返還請求ができるのか

(1)返還時期の合意

金銭消費貸借契約が成立していても,いつでも貸金返還請求ができるというわけではありません。

当事者間で返還時期を合意した場合には,合意した返還時期が到来しなければ貸金返還請求はできません。

(2)返還時期の合意をしなかった場合

当事者が返還時期について合意をしなかった場合には,貸主は,相当の期間を定めて返還の催告をすることができ(民法591条1項),その期間が経過しなければ借主に返還請求することはできません。

なお,条文では「相当の期間を定めて返還の催告」となっていますが,相当の期間を定めないで催告した場合であっても,相当期間が経過すれば,貸主は借主に返還請求することができると解されております。

(3)分割返済の合意をした場合

「毎月〇万円ずつ返済する」といったように当事者が分割返済の合意をした場合,借主が分割金の支払を滞らせても,貸主は返還時期が到来した分についてしか返還請求ができないのが原則です。

もっとも,期限の利益喪失条項(借主が分割弁済を怠ったときは,期限の利益を失い,残額につき弁済期が経過したものとする旨の合意)があれば,借主が分割弁済を怠ったときに,貸主は残額全部について借主に返還請求ができるようになります。

貸主としては,分割返済の合意をする場合には期限の利益喪失条項をいれることを忘れないようにしましょう。

 

3 利息

(1)利息の支払を請求できる場合

当事者間で利息支払の合意をした場合や,商人間で金銭の消費貸借をした場合(商法513条1項)には,貸主は借主に利息の支払を請求することができます。

(2)利率

利率については,合意があればそれによりますが(利息制限法による制限があります。),合意がない場合は民事法定利率の年5分(民法404条)または商事法定利率の年6分(商法514条)となります。

(3)利息が生じる期間

利息の生じる期間は,契約成立日から弁済期までです。

 

4 遅延損害金

弁済期を経過しても借主が返還しない場合には,貸主は借主に遅延損害金の支払を請求することができます。

遅延損害金の額は,法定利率によって定められますが,約定利率が法定利率を上回るときは約定利率によって定められます(民法419条1項)。

 

二 貸金返還請求をするにあたって検討すべきこと

1 借主が争ってきている場合

貸金返還請求をした場合,借主が,金銭を受け取っていない,受け取ったけれでも貰ったものだ等と主張して契約の成立を争ってくることがあります。

金銭消費貸借契約書や借用書がある場合には,契約の成立が争いになることはあまりないでしょうが,契約書や借用書がない場合には,どうやって契約の成立を立証するか問題となります。

また,借主が,契約書等があっても公序良俗違反,錯誤,詐欺,脅迫等の抗弁を主張して契約の効力を争ったり,弁済,相殺,消滅時効等の抗弁を主張して債務は消滅したと争ってくることもあります。

借主が争ってきている場合,貸主は,借主の主張を検討し,対応を検討する必要があります。

 

2 回収可能性

貸金返還請求事件では,借主が支払能力がないと主張してくることがよくあります(いわゆる無資力の抗弁です。)。

借主が支払能力がないと主張してきている場合,本当に資力がないのか,支払いたくないのでそのような主張をしているだけなのか見極める必要があります。

安易に減額に応じるべきではありませんが,勝訴しても回収できないこともありますので,回収可能性を考慮して,ある程度譲歩し,借主が返済可能な条件で和解したほうが良い場合もあります。この点については判断が難しいところです。

 

3 どのような手続をとるか

交渉で解決できない場合には,法的手続をとることになりますが,支払督促,少額訴訟,民事訴訟,民事保全,民事執行等様々な手続があり,どの手続をとるのか検討が必要となります。

借主が争ってくる可能性や債権の回収可能性(差押え可能な財産の有無等)を考慮して,手続を選択する必要があります。

 

三 トラブルになるリスクを減らすにはどうすればよいか

1 金銭消費貸借契約書・借用書の作成

金銭消費貸借契約書・借用書を作成しておけば,契約の成立や内容で争われる可能性が低くなりますし,執行認諾文言付きの公正証書にしておけば,訴訟等をせずに強制執行ができます。

また,分割返済の合意をする場合には,期限の利益喪失条項を入れておきましょう。

 

2 担保をとること

お金を貸す場合には,抵当権等の物的担保や連帯保証人等の人的担保をとっておきましょう。

担保をとっておけば,回収不能のリスクを減らすことができます。

 

四 まとめ

お金がないから,お金を借りるのが通常ですから,貸金返還請求事件では,借主に返済できる資力があるかどうかが大きな問題となります。

そのため,請求が認められるかどうかということだけでなく,債権回収ができるかどうかということも考えなければなりません。

トラブルになった場合には,弁護士に相談や依頼をすることをおすすめします。

 

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