【民法(債権法)改正】代理

2021-02-15

改正民法が令和2年4月1日に施行されたことにより、代理の規定が改正されました。

 

一 代理行為の瑕疵

1 代理行為に瑕疵があった場合

改正前の民法101条1項では「意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定されていました(旧民法101条1項)。

この規定は、意思表示の瑕疵や善意・悪意や過失の有無は代理人について判断するのが原則であるという規定ですが、適用範囲が不明確でした。

 

改正により、代理人が相手方に意思表示をした場合と相手方が代理人に意思表示した場合が区別され、適用範囲が明確になりました。

改正後の民法101条1項では「代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定され、民法101条2項「相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定されました。

 

2 特定の法律行為を委託した場合

改正前の旧民法101条2項では「特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失により知らなかった事情についても、同様とする。」と規定されておりましたが、本人の指図は不要であると解されていました。

 

改正により、「本人の指図に従って」の文言が削除され、改正後の民法101条3項では「特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。」と規定されました。

 

二 代理人の行為能力

改正前の旧民法102条では「代理人は、行為能力者であることを要しない。」と規定しておりました。

この規定は、代理人が制限行為能力者であっても、法律行為を取り消すことはできないということですが、文言上は、取消しができるのかどうか不明確でした。

また、旧民法102条では任意代理人の場合と法定代理人の場合とで区別していませんが、制限行為能力者が法定代理人になった場合にも取消しができないとすると、本人の保護が図れないおそれがありました。

 

そこで、改正後の民法102条では「制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りではない。」と規定されました。

 

また、この改正に伴い、民法13条1項(保佐人の同意を要する行為について同条10号「前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。」を追加)、民法120条1項(行為能力の制限によって取り消すことができる行為の取消権者に「他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む」こととされました。)が改正されました。

 

三 復代理

1 復代理人を選任した代理人の責任

改正前の旧民法105条1項では「代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。」と規定し、同条2項では「代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠っときは、この限りではない。」と規定されていましたが、任意代理人が復代理人を選任した場合に任意代理人の責任を軽減すべき理由がないことから、改正により、旧民法105条は削除されました。

改正後は、任意代理人が復代理人を選任した場合の代理人の責任は債務不履行の一般原則によることになります。

 

また、旧民法106条(法定代理人による復代理人の選任)は、改正後は民法105条になりました。旧民法105条が削除されたことにより,文言が一部変わりましたが,内容は同じです。

 

2 復代理人の権限等

改正前の旧民法107条2項は「復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。」と規定されていましたが、復代理人と代理人の権利義務が必ずしも同じでないことを明確にするため、改正後の民法106条2項では「復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。」と規定されました。

なお、旧民法107条1項は改正後は民法106条1項となりましたが、文言は同じです。

 

四 代理権の濫用

改正前は、代理人が代理権を濫用した場合について明文の規定がありませんでした。

改正前は、代理権が濫用された場合も代理権の範囲内の行為であることから本人に効果が帰属するのが原則ですが、民法93条但書を類推適用して、相手方が代理人の目的を知り又は知ることができた場合は代理行為の効果を否定することで、本人の保護を図っていました。

 

改正により、代理権の濫用についての規定が新設されました。改正後の民法107条では「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と規定されました。

 

五 自己契約及び双方代理等

1 自己契約及び双方代理の禁止

改正前の旧民法108条では「同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」と規定し、自己契約及び双方代理を禁止していましたが、違反した場合の効果についての規定がなく、判例上、無権代理と同様に扱われていました。

 

改正により、違反した場合の効果について規定されました。改正後の民法108条1項では「同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」と規定されました。

 

2 利益相反行為の禁止

改正前の民法では代理人と本人の利益相反についての規定はありませんでしたが、旧民法108条の規制が及ぶと解されていました。

 

改正により、利益相反行為禁止の規定が新設されました。改正後の民法108条2項では「前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない。」と規定されました。

 

六 表見代理

1 代理権授与の表示による表見代理等

改正前の民法では、表示された代理権の範囲外の行為をした場合の規定がなく、判例上、旧民法109条(代理権授与の表示による表見代理)と旧民法110条(権限外の行為の表見代理)が重畳適用されていました。

 

改正により、表示された代理権の範囲外の行為をした場合について規定されました。改正後の民法109条2項では「第三者に対して他人に代理権を与えた旨の表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。」と規定されました。

 

2 代理権消滅後の表見代理

改正前の民法112条では「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。」と規定されていましたが、改正により、「善意」の意味が明確化されました。

改正後の民法112条1項では「他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。」と規定されました。

 

また、改正前の民法では、代理権消滅後に代理権の範囲外の行為をした場合の表見代理の規定がなく、判例上、旧民法112条と旧民法110条が重畳適用されていました。

改正により、代理権消滅後に代理権の範囲外の行為をした場合について規定されました。改正後の民法112条2項では「他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。」と規定されました。

 

七 無権代理人の責任

1  民法117条1項の改正

改正前の旧民法117条1項では「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う。」と規定されていましたが、相手方が追認がなかったことを立証しなければならないのか、代理人が責任を免れるために追認があったことを立証しなければならないのか文言上明確ではありませんでした。

改正により、代理人が追認があったことの立証責任を負うことが明確になりました。改正後の民法117条1項では「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」と規定されました。

 

2 民法117条2項の改正

改正前の旧民法117条2項は「前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。」と規定していました。

 

改正により、相手方に過失がある場合であっても、無権代理人が代理権がないことを知っていたときは、無権代理人は責任を負うことが規定されました。改正後の民法117条2項は、「前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。 一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。 二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りではない。 三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。」と規定されました。

 

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