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【交通事故】相手方が対応しない場合どうするか?

2024-10-29

交通事故被害にあった場合、被害者は相手方(加害者)に対し損害賠償請求をすることができます。通常、相手方は自身が加入している自動車保険(任意保険)を使って対応することが多いですが、全く対応しようとしない相手方もいます。そのような場合、被害者はどうすればよいのでしょうか?

 

一 相手方への損害賠償請求

相手方が対応を拒んでおり、話合いができない場合には、被害者は、損害額が確定してから、相手方に損害賠償請求訴訟を提起することになります。

 

治療費については、相手方が対応しない以上、被害者がいったん自分で支払わなければなりませんが、交通事故被害にあった被害者にとって治療費の負担は大きいものです。その場合、治療費の金額を抑えるために、自由診療ではなく、健康保険をつかうことが考えられます。(交通事故で健康保険を使う場合には、第三者行為の届出をする必要があります。)また、自賠責保険に仮渡金の請求をし、治療費に充てることや、治療費を支払った後に自賠責保険に被害者請求をすることもできます。

さらに自分の保険(人身傷害保険等)や労災保険が使える場合には、それらを使って治療費を支払ってもらうことが考えられます。

 

自賠責保険、人身傷害保険、労災保険を使えば治療費以外の損害についても支払いを受けられますし、填補されない損害がある場合には、被害者は相手方に対し、損害賠償請求することができます。

 

物損については、車両を修理し、被害者が自ら修理費を支払った後、相手方に損害賠償請求することもありますが、被害者が修理費を負担することができない場合には車両を修理しないで、修理費相当額を相手方に請求することもあります。

 

二 任意保険会社への直接請求

被害者が相手方に対し損害賠償請求した場合、相手方が自動車保険(任意保険)に入っているときは、自動車保険を使って支払をすることが多いですが、相手方が対応しない場合には、相手方の任意保険会社に直接請求することが考えられます。

 

自動車保険の約款では、対人賠償や対物賠償について、被保険者と損害賠償請求権者との間で損害賠償請求責任について、判決が確定した場合や裁判上の和解又は調停が成立した場合等、一定の条件をみたす場合には、損害賠償請求権者が保険会社に損害賠償額の支払いについて直接請求をすることができる旨の条項があります。

そのため、相手方が被害者への損害賠償を拒否している場合でも、被害者が相手方に対する損害賠償請求訴訟を提起して判決が確定又は裁判上の和解が成立すれば、被害者は相手方の任意保険会社に対し損害賠償金を直接請求することができます。

 

なお、相手方の自動車保険の契約の有無や契約している保険会社がわからない場合には、相手方車両の車台番号、登録番号等の情報をもとに弁護士会照会で調べることが考えられます。

 

任意保険会社に対し損害賠償金を直接請求するには、相手方との間で判決が確定又は裁判上の和解が成立していればよいので、基本的には相手方に対し訴訟提起すれば足り、任意保険会社に対し訴訟提起する必要はありません。

もっとも、相手方に対する損害賠償請求訴訟の判決が確定等しても、必ずしも任意保険会社がその内容を認め、直接請求に応じるとは限りません。そのため、相手方との間で判決が確定等しても、任意保険会社が直接請求に応じないおそれがある場合には、相手方のみならず任意保険会社も被告として訴訟提起することが考えられます。

 

三 弁護士への依頼の検討

相手方が対応しない場合には、被害者が自分で解決することは困難ですし、無理に対応を求めるとトラブルとなることがありますので、弁護士に依頼することが考えられます。

被害者が弁護士費用保険(弁護士費用特約)を使える場合には、弁護士費用が保険契約の範囲で保険会社から支払われますので、弁護士への依頼を検討すべきでしょう。

【交通事故】休業損害と逸失利益

2024-02-27

交通事故被害者が休業して収入を得られなかった場合は休業損害が損害となります。また、交通事故被害者が後遺症や亡くなったことで収入を得られなくなった場合は逸失利益が損害となります。

 

一 休業損害と逸失利益

 

休業損害とは、交通事故被害者が負傷により休業し、収入を得られなかった損害です。

逸失利益は、交通事故被害者が後遺症又は死亡により、将来得られたはずの収入を得られなくなった損害です。逸失利益の考え方には、差額説(事故前後の収入の差額を損害ととらえる考え方)と労働能力喪失説(労働能力が喪失したこと自体を損害ととらえる考え方)がありますが、判例では差額説の立場がとられています。

休業損害と逸失利益は、いずれも交通事故被害にあっていなければ得られたはずの収入を得られなかった損害(消極損害)ですが、休業損害は事故が発生してから治療終了時まで期間の収入を得られなかった損害であるのに対し、逸失利益は治療終了(症状固定)後又は死亡後に収入を得られなくなった損害です。

休業損害については、損害賠償請求をする時点では治療が終了しているのが通常であるため、現実の収入減少額を把握することが可能であるのに対し、逸失利益については、将来の収入がどうなるか不確実であり、将来の収入減少額を正確に把握することが困難であるという違いがあります。

そのため、休業損害額については、現実の収入減少額が損害額となるのに対し、逸失利益の場合には将来の収入減少額を推計で計算します。

また、現実に収入が減少していなければ休業損害は認められないのが原則であるのに対し、現在収入が減少していなくても将来収入が減少しないとはいえないので、将来の収入減少につながる事情があれば逸失利益は認められます。

 

二 損害額の算定方法

 

1 休業損害

休業損害の損害額は、交通事故が発生してから治療終了時までの間の収入の減少額です。

休業損害の金額は「1日あたりの基礎収入額×休業日数」の計算式で計算するのが原則ですが、職業によって計算方法が異なります。

(1)基礎収入額

基礎収入額については、事故前の収入を基に計算します。給与所得者は、休業損害証明書や源泉徴収票、事業所得者は確定申告書等が資料になります。

会社役員の役員報酬については、労務提供の対価としての部分と利益配当としての部分があり、原則として、労務対価部分について休業損害が認められます。

不動産賃貸業等の不労所得者は休業しても収入が得られるので休業損害は認められないのが原則ですが、不動産の管理等、労務の提供があった場合にはその範囲で損害と認められることがあります。

家事従事者については、家事労働は現実の収入は得られないものの、経済的な価値があることから、交通事故被害により家事労働できなかった場合には休業損害が認められます。家事従事者の基礎収入額は、賃金センサスの女性労働者の全年齢又は年齢別の平均賃金を基に計算します。

(2)休業日数

休業日数については、現実に休業した日数です。

給与所得者の場合には休業損害証明書に休業日数が記載されるため、把握が容易ですが、家事従事者の場合等のように休業日数を把握することが困難な場合があります。休業日数の把握が困難な場合には、休業期間の何割かを休業日数とすることがあります。

 

2 逸失利益

差額説の立場からすれば、逸失利益の損害額は収入の減少額ですが、逸失利益は将来にわたって発生するものであり、将来の収入の減少が現実にどの程度発生するか把握することは困難ですので、推計で計算することになります。

(1)後遺症逸失利益

後遺症逸失利益は、被害者の収入(基礎収入)が労働能力の低下の割合(労働能力喪失率)に応じて一定期間(労働能力喪失期間)減少するものと推定します。また、一時金払いの場合には現在価値に換算するため、中間利息を控除します。

そのため、後遺症逸失利益の金額は、「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式で計算するのが原則です。

基礎収入額は、事故前の年収とするのが原則です。ただし、将来、事故前の収入額以上の収入を得られる蓋然性がある場合には、その金額が基礎収入額となります。また、家事従事者や若年者労働者の場合には賃金センサスの平均賃金額が基礎収入額となります。

労働能力喪失率は,自賠責保険の後遺障害等級の労働能力喪失率によるのが基本ですが、被害者の職業・年齢・性別、後遺症の部位・程度、事故前後の稼働状況、収入の減少等の事情から総合的に評価されます。

労働能力喪失期間は、症状固定時の年齢から67歳までの期間とするのが原則ですが、高齢者の場合は平均余命の2分の1とします。また、若年者の場合は、18歳又は大学卒業予定時(大学卒業の蓋然性がある場合)の年齢から67歳までの期間が労働能力喪失期間となり、後遺症逸失利益を「平均賃金×労働能力喪失率×(症状固定時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳又は大学卒業予定時の年齢までのライプニッツ係数)」の計算式で計算します。

また、むち打ち症の場合には症状が永続するかどうか分かりませんので、後遺障害等級12級の場合で5年から10年程度、14級の場合で5年程度に制限する例が多いです。

(2)死亡逸失利益

死亡逸失利益は、被害者が亡くなったことにより、将来得られたはずの利益(基礎収入)を一定期間(就労可能年数)、得られなくなった一方で、被害者は生きていれば発生していた生活費の負担を免れることになりますので、生活費を控除します。また、将来にわたって得られたであろう利益を現在価値に換算することになるため,中間利息を控除します。

そのため、死亡逸失利益の金額は、「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」の計算式で計算するのが原則です。

基礎収入額についての考え方は、後遺症逸失利益の場合と基本的に同じですが、死亡逸失利益の場合には、年金収入(退職年金、老齢年金、障害年金等、被害者が保険料を拠出しているもの)の逸失利益が認められます。

生活費の控除率については、被害者の家族構成(被害者が一家の支柱かどうか、被扶養者の人数)や性別等により異なります。また、年金収入が逸失利益となる場合は稼働収入の逸失利益の場合と比較して生活費控除率を高くする傾向があります。

就労可能年数は、死亡時の年齢から67歳までの期間とするのが原則ですが、高齢者の場合は平均余命の2分の1とします。また、若年者の場合は、18歳又は大学卒業予定時(大学卒業の蓋然性がある場合)の年齢から67歳までの期間が就労可能年数となりますので、死亡逸失利益の金額は「平均賃金×(1-生活費控除率)×(死亡時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳又は大学卒業予定時の年齢までのライプニッツ係数)の計算式で計算します。

 

三 収入が減少していない場合

 

1 休業損害

休業損害は収入を得ることができなかったことによる損害ですので、現実に収入が減少していない場合には休業損害が認められないのが原則です。

例えば、給与所得者が交通事故後も仕事を休まず、収入の減少がなかった場合には、痛みを堪えて働いていたとしても、基本的に休業損害は認められません。

ただし、事故後、有給休暇を利用した場合には収入の減少がなくても休業損害が認められます。

事故前、働いていなかった場合は収入の減少がないので、休業損害が認められないのが原則です。ただし、事故前に就職が決まっていたけれども、事故により働けなくなった場合等、就労する蓋然性があった場合には、休業損害が認められます。

 

2 逸失利益

差額説の立場からすれば、現実に収入の減少がなければ、逸失利益は認められないのが原則です。

もっとも、逸失利益は将来にわたって発生するものですから、請求した時点で収入が減少していなからといって、将来も収入が減少しないとはいえません。

そのため、収入が減少していなくても、後遺症により業務に支障が生じている場合、収入が減少しないことが、被害者が特別の努力や勤務先の特別な配慮による場合、昇給や昇格等で不利益な取扱を受けるおそれがある場合、転職や再就職で不利益な取扱を受けるおそれがある場合等、将来の収入減少につながる事情がある場合には後遺症逸失利益が認められます。

事故時は働いておらず、収入がない場合であっても、将来、就労する蓋然性がある場合には逸失利益が認められます。

【交通事故】物損 評価損

2023-10-17

交通事故被害にあい、事故車両を修理した場合、評価損が認められるか争いとなることがあります。

 

一 評価損とは

評価損とは、車両を修理した場合に事故前よりも車両の価値が下落したことです。

 

評価損には、技術上の評価損(修理しても技術上の限界から機能や外観に欠陥が残る場合)と取引上の評価損(事故歴があることにより取引上の価格が低下する場合)があります。

 

二 評価損の請求権者

評価損を請求できるのは、原則として車両の所有者です。

 

ローン会社に所有権留保されている車両の買主やリース車両のユーザーは、車両の所有者でないことから、評価損を請求できるか争いとなります。

 

三 評価損が認められる場合

修理後、機能や外観に欠陥が残る場合(技術上の評価損)には評価損は認められやすいですが、機能や外観に問題はないけれども事故歴があることにより交換価値が低下する場合(取引上の評価損)は評価損が認められるか争いとなることが多いです。

 

取引上の評価損が認められるかどうかは、車種、初度登録からの年数、走行距離、損傷部位等の事情を総合考慮して判断されます。

外国産、国産の人気車種の場合、初度登録からの年数や走行距離が短い場合、損傷部位が中古車販売業者に表示義務がある部位の場合には、評価損が認められやすくなります。

 

四 損害額

評価損の損害額の算定方法については、事故前の車両の時価と修理後の車両の時価の差額を損害額とする方法、車両の時価の一定割合を損害額とする方法、修理費の一定割合を損害額とする方法、諸要素を考慮して損害額を定める方法があります。

 

損害額算定にあたっては、事故減価額証明書が参考となりますが、事故減価額証明書の金額がそのまま損害と認められるとは限りません。

 

裁判では、修理費の一定割合を損害額とすることが多いです。割合については、車種、初度登録からの年数、走行距離、損傷部位等の事情が考慮されます。損害額を修理費の1割から3割程度とされることが多いですが、事案によっては、修理費の3割を超える額が損害と認められることがあります。

【交通事故】労災保険の利用

2023-01-25

労働者として働いている人が勤務中や通勤中に交通事故被害にあった場合、労災保険を利用することができます。

 

一   労災保険

労働者が業務中又は通勤中の事故により、負傷したとき、病気になったとき、後遺障害が残ったとき、死亡したときには、労働者は労働者災害補償保険(労災保険)による給付を受けることができます。

 

交通事故等、事故が第三者の行為によって生じた場合(第三者行為災害)にも労災保険を利用することができます。労災保険の給付は被害者の損害を填補するものであり、損害賠償と労災保険の給付を二重に受けることはできませんので、被害者の第三者に対する損害賠償請求と労災保険の給付との間で調整が行われます。そのため、労災保険の給付がなされた場合には、保険者である政府が給付の価額の限度で第三者に対し求償権を取得しますし(労働者災害補償保険法12条の4第1項)、損害賠償を受けた場合には、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができます(同条2項)。

 

二 保険給付

業務災害(労働者の業務上の負傷、疾病、障害、死亡)の場合、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護補償給付を受けることができます(労働者災害補償保険法12条の8第1項)。

また、通勤災害(労働者の通勤による負傷、疾病、障害、死亡)の場合には、療養給付、休業給付、障害給付、遺族給付、葬祭給付、傷病年金、介護給付を受けることができます(労働者災害補償保険法21条)。

 

療養補償給付・療養給付は、療養の給付(現物支給)又は療養の費用の支給です。

 

休業補償給付・休業給付は、傷病による療養のため労働できず賃金をもらえないときに受けられる給付です。休業4日目から1日につき給付基礎日額の60%が支払われます。

 

障害補償給付・障害給付は、症状固定後に障害が残ったときに受けられる給付です。認定された障害等級によって、一時金として給付される場合(14級から8級)と年金として給付される場合(1級から7級)があります。

 

遺族補償給付・遺族給付は、労働者が死亡した場合に遺族が受けられる給付です。年金として給付される場合と一時金として給付される場合があります。

 

葬祭料・葬祭給付は、労働者が死亡した場合に葬祭を行う人が受けられる給付です。

 

療傷病補償年金・傷病年金は、療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、傷病による障害の程度が重い場合(傷病等級1級から3級に該当する場合)に受けられる給付です。

 

介護保障年金・介護年金は、労働者に常時又は随時介護を要する重度の障害があり、介護を受けている場合に受けられる給付です。

 

また、労災保険の社会復帰等促進事業として特別支給金制度があります。

休業補償給付・休業給付、障害補償給付・障害給付、遺族補償給付・遺族給付、傷病補償年金・傷病年金に上乗せして、特別支給金が給付されます。

 

四 労災保険を利用した場合の損害賠償請求への影響

1  損益相殺

事故が第三者の行為によって生じた場合(第三者行為災害)に保険給付がなされたときは、保険者である政府は給付の価額の限度で第三者に対し求償権を取得しますので、被害者が加害者に損害賠償請求するにあたって、損害額から給付額が控除されます。

 

労災保険の給付が年金の場合には、既に給付された分だけでなく、給付が確定した部分(訴訟の場合は、事実審の口頭弁論終結時の時点で給付が確定した部分)が控除されます。給付が確定していない将来分については控除されません。

 

控除は、給付と同一性のある損害項目に限られます。

療養補償給付・療養給付は治療費(入院雑費、通院交通費、文書料等からも控除するかどうか、控除の範囲については見解が分かれています。)から、休業補償給付・休業給付、障害補償給付・障害給付、遺族補償給付・遺族給付、傷病補償年金・傷病年金は休業損害や逸失利益から、葬祭料・葬祭給付は葬儀関係費用から、介護補償給付・介護給付は将来介護費用から、それぞれ控除されます。これらの給付が慰謝料から控除されることはありません。また、労災保険は人損についての給付ですので、物損からは控除されません。

 

特別支給金については、損害を填補するものではなく、政府は第三者に対し求償権を取得しません。そのため、特別支給金の給付を受けても損害額から控除されませんので、被害者には労災保険を利用するメリットがあります。

 

2 過失相殺

交通事故被害者に過失があった場合、過失相殺後の損害額から給付額を控除します。

その際、控除されるのは給付と同一性のある損害項目に限られ、同一性のない損害項目から控除されることはありません。そのため、被害者に過失がある場合には、労災保険を利用するメリットがあります。

 

3 後遺障害の等級認定

労災保険を利用した場合は障害等級の認定がなされますが、交通事故の場合は自賠責保険の後遺障害の等級認定に基づいて損害賠償請求するのが通常です。

そのため、交通事故被害者が労災保険の等級認定を受けた場合でも、加害者に損害賠償請求をする際は、別途、自賠責保険の等級認定を受けることになります。

その際、労災保険と自賠責保険の等級認定の結果が異なることがあります。労災保険で認定される等級のほうが自賠責保険で認定される等級よりも高くなる傾向があります。

 

 

【交通事故】交通費

2022-12-06

交通事故被害者が通院等で交通費を負担した場合には、交通費が損害となります。

 

一 通院交通費

1 通院交通費とは

交通事故被害者が、入院、退院、転院、通院した場合の交通費は損害にあたります。

 

原則として実費が損害となりますが、どのような交通手段を利用した場合でも全額が損害と認められるわけではなく、相当性のある範囲で損害となります。

 

2 交通手段

電車やバス等の公共交通機関を利用した場合には、電車代やバス代等が損害となります。「運賃×2(往復)×通院日数」で計算します。

 

自家用車を利用した場合にはガソリン代や高速道路代・有料道路代、駐車場代が損害となります。ガソリン代については正確な金額を算定することが困難ですので、1kmあたり15円で計算することが多いです。

 

タクシーを利用した場合には、怪我の内容や程度等具体的な事情のもと相当性があるときはタクシー代が損害となりますが、相当性がないときは公共交通機関の料金の範囲で損害となります。

 

3 通院交通費を請求するための資料

通院交通費を請求するため、いつ、どのような交通手段を利用したのか記録に残しておくことが必要です。また、タクシー等、領収証が取れるものについては領収証を取っておくことが必要です。

 

自賠責保険に被害者請求する場合や任意保険会社に請求する場合には、通院交通費明細書を作成する必要があります。

公共交通機関やタクシーを利用した場合は、日付、区間、運賃等を記載します。電車代、バス代については領収証の添付は不要ですが、タクシー代については領収証の添付が必要です。

自家用車を利用した場合には、日付、区間、距離等を記載します。ガソリン代については領収証の添付は必要ありませんが、駐車場代、高速道路代・有料道路代については領収証等の添付が必要となります。

 

4 将来の通院交通費

治療終了日(症状固定日)後に通院した場合の交通費については損害とならないのが原則です。

もっとも、症状の内容や程度等によっては、治療終了日(症状固定日)後の治療費が損害となることがあり、その場合には交通費も損害となりえます。

 

二 通院交通費以外の交通費

1 近親者の付添や見舞の交通費

近親者の付添や見舞の交通費についても事故と相当因果関係があれば損害となりますが、付添費や入院雑費に含まれるものとして扱われ、別途、損害とは認められないことがあります。

近親者が遠隔地から付添や見舞に来た場合には交通費が高額となりますので、交通費が損害と認められるか問題となります。

 

2 通勤、通学等の交通費

被害者が通勤や通学をした場合の交通費等、通院以外の交通費についても、事故と相当因果関係があれば損害となります。

怪我のためタクシーで通勤した場合等、事故により通常とは異なる交通手段を利用することになった場合に交通費が損害と認められるか問題となります。

【交通事故】健康保険の利用

2022-10-31

交通事故被害者が治療を受ける場合、健康保険を利用することができますが、どのような場合に健康保険を利用すればよいのでしょうか。また、健康保険を利用する場合には、どのようなことに注意すればよいでしょうか。

 

一 健康保険の利用

1 健康保険が利用できる場合

交通事故被害者が治療を受ける場合、自由診療によることが多いですが、健康保険を利用することもできます。

 

ただし、交通事故が業務災害や通勤災害にあたり、労災保険を利用できる場合には健康保険を利用することはできません(健康保険法55条1項、国民健康保険法56条1項)。また、被害者が無免許運転や飲酒運転等の故意の犯罪行為をした場合にも健康保険は利用できません(健康保険法116条、国民健康保険法60条)。

 

2 第三者の行為による傷病届

交通事故等、第三者の行為によって負傷した場合にも被害者は健康保険を利用することができますが、健康保険組合等の保険者が保険給付をしたときは、保険者は加害者に求償します。

そのため、被害者は保険者に対し第三者の行為による傷病届の届出をしなければなりません。

 

二 健康保険を利用すべき場合

健康保険を利用する場合、保険給付があるため、被害者は治療費の一部の負担で済みますし、高額療養費制度もあります。

また、一般に健康保険の診療報酬の単価は自由診療の場合より低いので、自由診療によるよりも健康保険を利用したほうが治療費が低額になります。

 

例えば、自由診療の単価が1点20円、健康保険の単価が1点10円だとすると、自由診療の治療費が80万円となる場合でも、健康保険を利用すれば治療費は40万円となります。また、健康保険の自己負担割合が30%だとすると、40万円のうち28万円が保険給付されますので、被害者の自己負担は12万円となります。

 

そのため、以下のような場合には、健康保険を利用することが考えられます。

 

1 加害者が治療費を支払わない場合

加害者が交通事故の責任を否定している場合や加害者が任意保険に加入していない場合等で加害者が治療費を支払わないときは、被害者は後で加害者に損害賠償請求することができるにしても、とりあえずは自分で治療費を負担しなければなりません。その場合、自由診療ですと、被害者は高額な治療費を負担しなければなりませんが、健康保険を利用すれば、治療費の負担を少なくすることができます。

 

また、加害者の任意保険会社が治療費を支払ってくれていたことから、被害者が自由診療で治療を受けていた場合であっても、保険会社から治療費の支払を打ち切られてしまうことがあります。そのようなときは、被害者は自由診療から健康保険に切り替えて治療を続けることが考えられます。

 

2 自賠責保険に被害者請求する場合

被害者が自賠責保険に被害者請求する場合、傷害の保険金の上限は120万円ですので、治療費が高額なときには治療費以外の損害について十分な支払を受けられないことがあります。

そのため、健康保険を利用して治療費を低く抑え、治療費以外の損害について支払を受けられるようにすることが考えられます。

 

3 被害者に過失がある場合

交通事故被害者が加害者に損害請求するにあたって、被害者に過失がある場合には過失相殺されるため、被害者は治療費のうち自身の過失割合に相当する部分を負担しなければなりません。

健康保険を利用した場合には、自由診療より治療費の額が少なくなりますし、治療費から保険給付を控除した後の金額(自己負担部分)について過失相殺を行うことから、被害者は自己負担部分のうち過失割合に相当する部分を負担することですみます。

例えば、先の例で被害者の過失割合が4割の場合、自由診療のときは、被害者は治療費80万円の4割にあたる32万円を負担しなければならなくなりますが、健康保険を利用したときは自己負担部分12万円の4割にあたる4万8000円を負担することですみます。

そのため、被害者に過失がある場合には、被害者は健康保険を利用することで、手元に残る金額を増やすことができます。

 

三 健康保険を利用する場合の注意点

前述のとおり、勤務中や通勤中の交通事故で労災保険が使える場合には健康保険の利用ができない等、事案によっては健康保険が利用できない場合がありますので注意しましょう。

また、健康保険を利用する場合には第三者行為による傷病届を出さなければならなかったり、加害者と示談するときには事前に保険者に連絡することが求められたりする等、手間がかかります。

さらに、健康保険を利用する場合には保険適用の治療しか受けられませんので、自由診療によるか健康保険を利用するかどうかで治療の内容に影響がでることがあります。

 

そのため、自由診療にするか、健康保険を利用するかどうか、具体的な事情に応じて検討することになります。

【交通事故】年少者の逸失利益

2022-05-13

幼児や学生等の年少者が交通事故被害にあい、後遺症が残ったり、亡くなったりした場合、後遺症逸失利益や死亡逸失利益はどのように計算するのでしょうか。

 

一 年少者の後遺症逸失利益

1 後遺症逸失利益の計算方法

後遺症逸失利益とは、交通事故による後遺症が残存しなければ、被害者が就労して得られた収入のことです。

後遺症逸失利益は、被害者の収入(基礎収入)が労働能力の低下の割合(労働能力喪失率)に応じて減少するものと推定します。

また、後遺症逸失利益の賠償は一時金払いが通常であり、一時金払いの場合には中間利息を控除します。中間利息の控除は、ライプニッツ係数を用いるのが通常です。

このようなことから、後遺症逸失利益は以下の計算式で算定します。

 

後遺症逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間のライプニッツ係数

 

交通事故被害にあった年少者が未就労であっても、将来、就労して収入が得られるものと考えられることから、後遺症により労働能力が喪失した場合には後遺症逸失利益が損害と認められます。

 

労働能力喪失期間については、原則として18歳から67歳まで就労可能であるとされていますので、症状固定時に18歳未満の年少者の場合には、逸失利益は以下の計算式で計算します。

 

後遺症逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×(症状固定時の年齢から67歳になるまでの期間のライプニッツ係数-症状固定時の年齢から18歳になるまでの期間のライプニッツ係数)

 

基礎収入については、賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、男女別の全年齢平均の平均賃金とするのが原則です。

なお、女子年少者については、女性の平均賃金ではなく、男女を含めた全労働者の平均賃金で算定されることもあります。

 

2 大学・大学院を卒業する蓋然性がある場合

年少者が大学(大学院)を卒業する蓋然性がある場合には、賃金センサスの産業計、企業規模計、大学卒(大学院卒)、男女別の全年齢平均賃金を基礎収入とすることもありますが、労働能力喪失期間は大学(大学院)卒業時の年齢が始期となります。その場合、後遺症逸失利益は以下の計算式で計算します。

 

後遺症逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×(症状固定時の年齢から67歳になるまでの期間のライプニッツ係数-症状固定時の年齢から大学(大学院)卒業時までの期間のライプニッツ係数)

 

二 年少者の死亡逸失利益

1 死亡逸失利益の計算方法

死亡逸失利益とは、交通事故により亡くならなければ、被害者が就労により得られた収入のことです。

被害者は亡くなったことにより収入を得られなくなった一方、生きていれば発生していた生活費の負担を免れることになりますので、生活費を控除します。

また、死亡逸失利益の賠償は一時金払いによることが通常であり、中間利息を控除します。中間利息の控除は、ライプニッツ係数を用いるのが通常です。

このようなことから、死亡逸失利益は以下の計算式で算定します。

 

死亡逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能期間のライプニッツ係数

 

交通事故被害にあった年少者が未就労であっても、将来、就労して収入が得られるものと考えられることから、交通事故により亡くなった場合には死亡逸失利益が損害と認められます。

 

就労可能期間については、原則として18歳から67歳まで就労可能であるとされていますので、死亡時に18歳未満の年少者の場合には、逸失利益は以下の計算式で計算します。

 

死亡逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×(死亡時の年齢から67歳になるまでの期間のライプニッツ係数-死亡時の年齢から18歳になるまでの期間のライプニッツ係数)

 

基礎収入については、賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、男女別の全年齢平均の平均賃金とするのが原則です。

なお、女子年少者については、女性の平均賃金ではなく、男女を含めた全労働者の平均賃金で算定されることもあります。

 

生活費控除率については、男性の年少者よりも女性の年少者の方が低くなります。なお、女性の年少者の基礎収入を全労働者の平均賃金とする場合には、女性の平均賃金とする場合よりも生活費控除率が高くなる傾向があります。

 

2 大学・大学院を卒業する蓋然性がある場合

年少者が大学(大学院)を卒業する蓋然性がある場合には、賃金センサスの産業計、企業規模計、大学卒(大学院卒)、男女別の全年齢平均賃金を基礎収入とすることもありますが、就労可能期間は大学(大学院)卒業時の年齢が始期となります。その場合、死亡逸失利益は以下の計算式で計算します。

 

死亡逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×(死亡時の年齢から67歳になるまでの期間のライプニッツ係数-死亡時の年齢から大学(大学院)卒業時までの期間のライプニッツ係数)

【交通事故】醜状障害

2021-11-25

交通事故の被害者に傷あとが残った場合、醜状障害として後遺障害が認定されるか問題となります。

また、醜状障害が後遺障害と認定された場合、被害者が損害賠償請求するにあたって、どのようなことが問題となるのでしょうか。

 

一 醜状障害とは

醜状障害は、症状固定後に残った傷あとのことです。

事故によって直接生じたものだけでなく、治療(処置や手術)によるものも含まれます。

 

醜状障害には、外貌の醜状、上肢下肢の露出面の醜状、日常露出しない部位の醜状があります。

 

二 醜状障害の後遺障害等級

1 外貌の醜状障害

「外貌」とは、頭部、顔面部、頸部のように、上肢及び下肢以外の日常露出する部分のことです。

 

外貌の醜状障害には、7級12号「外貌に著しい醜状を残すもの」、9級16号「外貌に相当程度の醜状を残すもの」、12級14号「外貌に醜状を残すもの」があります。

かつては男女で区別されていましたが、男女の区別はなくなりました。

 

どの等級に該当するかは、瘢痕の面積や線状痕の長さ等で判断されます。

なお、線状痕や瘢痕が複数ある場合、それらが隣接しまたは相まって一つの線状痕や瘢痕と同程度以上の醜状となる場合には、長さや面積を合計して評価されます。

 

また、後遺障害として認定されるには、人目につく程度以上のものであることが必要です。眉毛、頭髪等に隠れる部分は、醜状とは扱われません。

 

(1)7級12号「外貌に著しい醜状を残すもの」

原則として、①頭部に、てのひら大(指の部分は含みません。)以上の瘢痕または頭蓋骨のてのひら大以上の欠損、②顔面部に、鶏卵大面以上の瘢痕または10円硬貨大以上の組織陥没、③頸部に、てのひら大以上の瘢痕がある場合で、いずれの場合も、人目につく程度以上のものをいいます。

 

(2)9級16号「外貌に相当程度の醜状を残すもの」

原則として、顔面部に、長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。

 

(3)12級14号「外貌に醜状を残すもの」

原則として、①頭部に、鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損、②顔面部に、10円硬貨大以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕、③頸部に、鶏卵大面以上の瘢痕がある場合で、いずれの場合も、人目に付く程度以上のものをいいます。

 

2 上肢下肢の露出面の醜状障害

「上肢の露出面」は、肩関節から指先までの部分、「下肢の露出面」は股関節から足の背までの部分です。

 

上肢下肢の醜状障害については、14級4号「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」または14級5号「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」の後遺障害があります。

 

また、てのひらの大きさの3倍程度以上の大きさの場合は、12級相当と認定されます。

 

3 日常露出しない部位の醜状障害

胸部及び腹部または背部及び臀部の全面積の4分の1以上の範囲に瘢痕が残る場合は14級相当、2分の1以上の範囲に瘢痕が残る場合は12級相当と認定されます。

 

三 醜状障害の後遺障害逸失利益,後遺障害慰謝料

後遺障害が認定された場合、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料が損害となりますが、醜状障害の場合は、どうでしょうか。

 

1 後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益は、認定された後遺障害等級に応じた労働能力喪失率をもとに算定するのが通常ですが、醜状障害の場合には労働能力に直接影響がないことを理由に逸失利益が否定されることがあります。

もっとも、外貌の醜状障害があることが原因で配置転換されることや、就職や転職が不利になること等、労働能力に直接影響を及ぼす場合がありますので、被害者の性別、年齢、職業等によっては逸失利益が認められることがあります。

また、逸失利益が認められる場合でも、労働能力喪失が低く認定されることがあります。

 

2 後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は認定された等級に応じて相場があります。

醜状障害の場合も、他の後遺障害の場合と同様、認定された等級に応じて慰謝料額が算定されるのが通常です。

 

醜状障害について逸失利益が否定された場合には、労働能力に直接的な影響はないが、労働能力に間接的な影響を及ぼすおそれがあることを理由に、慰謝料が増額されることがあります。

 

【交通事故】会社役員の休業損害、逸失利益

2021-10-15

交通事故被害者が会社役員の場合、休業損害や逸失利益はどのように算定するのでしょうか。

 

一 会社役員の基礎収入

休業損害は「基礎収入×休業期間」、後遺症逸失利益は「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」、死亡逸失利益は「基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」で計算しますので、休業侵害や逸失利益を算定するにあたって基礎収入を把握する必要があります。

 

被害者が給与所得者(会社従業員)の場合には給与額を基礎収入とするのが基本ですが、被害者が会社役員の場合には役員報酬額がそのまま基礎収入となるわけではありません。

 

役員報酬には労務対価部分と利益配当部分があるとされており、基礎収入となるのは労務対価部分であり、利益配当部分は基礎収入に含まれないと解されています。

 

二 労務対価部分と利益配当部分

役員報酬のうち、どの部分が労務対価部分で、どの部分が利益配当部分なのかについては、明確な基準があるわけではありません。

 

会社の規模、同族企業か否か、会社の利益状況、被害者である役員の地位・職務内容・年齢・役員報酬額、他の役員の報酬額や従業員の給与額との比較、事故後の報酬額の推移、同種企業との比較等の事情を総合考慮して、個別具体的に判断することになります。

事案によって、役員報酬全額が労務の対価だと判断され、役員報酬全額が基礎収入とされることもありますし、役員報酬に利益配当部分も含まれると判断され、役員報酬の何割かが基礎収入となることもあります。

また、労務対価部分の判断をするにあたっては、賃金センサスの平均賃金を参考とすることもあります。

 

例えば、大企業の雇われ役員の場合には役員報酬は労務対価と判断されやすいでしょう。これに対し、小規模な同族会社の親族役員の場合には役員報酬に利益配当部分が含まれると判断されやすいでしょう。

 

役員報酬が役職、職務内容、年齢からして高額な場合や他の役員の役員報酬や従業員の給与と比較して高額すぎる場合には役員報酬のうち相当な部分が利益配当部分にあたると判断されやすいでしょう。

また、名目だけの役員で職務を行っていない場合は、役員報酬は労務対価とはいえないでしょう。

 

また、休業したことにより役員報酬が支払われなかった場合には、支払われなかった役員報酬は労務対価と判断されやすいでしょう。

【交通事故】自賠責保険の重過失減額

2021-05-31

交通事故の被害者が損害賠償請求する場合に被害者に過失があるときは,被害者の過失割合に応じて過失相殺されますが,自賠責保険では被害者に重過失がない限り,減額されません。

 

一  自賠責保険の重過失減額

自賠責保険では,被害者保護の観点から過失相殺が制限されており,被害者に重大な過失がある場合に限り,減額されます。

 

1 減額の対象

自賠責保険の支払基準で算定された損害額から減額されます。

損害額が保険金額以上となる場合には,保険金額から減額されます。

 

2 減額割合

(1)傷害にかかるもの

被害者の過失が7割未満の場合には減額されませんが,被害者の過失が7割以上ある場合には2割減額されます。

ただし,被害者の損害額が20万円以下の場合には減額されません。

 

(2)後遺障害または死亡にかかるもの

被害者の過失が7割未満の場合には減額されませんが,7割以上の場合には以下の割合で減額されます。

 

①7割以上8割未満の場合  2割

②8割以上9割未満の場合  3割

③9割以上10割未満の場合 5割

 

二 重過失減額の認定

1 損害保険料率算出機構の自賠責損害調査センターの損害調査

自賠責保険から支払われるかどうかは,損害保険料率算出機構の自賠責損害調査センターの損害調査によります。

損害保険料率算出機構の自賠責損害調査センターでは,全国に地区本部と自賠責損害調査事務所があります。損害調査は自賠責損害調査事務所で行われますが,自賠責保険(共済)から支払われないか減額される可能性がある事案等,自賠責損害調査事務所では判断が困難な事案は地区本部,本部で審査が行われます。

また,死亡事案で全く支払われないか減額される可能性がある事案等については,外部の専門家の参加する自賠責保険(共済)審査会で審査が行われます。

 

2 認定に不服がある場合

重過失減額の認定に不服がある場合は,保険会社に異議申立てをすることや,自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理申請をすることができます。

 

また,裁判所は,自賠責保険の支払基準に拘束されずに損害賠償額の算定をすることができますので,訴訟を提起して訴訟手続の中で過失割合を争うことも考えられます。

 

三 被害者に重過失がある場合に訴訟提起する場合の注意点

訴訟手続では,裁判所は自賠責保険の支払基準に拘束されずに損害賠償額の算定をすることができますが,被害者の過失割合に応じた過失相殺をします。

そのため,被害者の過失が大きい場合には,損害額自体は自賠責保険の支払基準よりも高額であっても,過失相殺により,訴訟手続で認定される損害賠償額が自賠責保険の支払額を下回ってしまうことがあります。

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