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【借地借家問題】賃料(地代・家賃)の増減額請求
借地契約や借家契約において,現行の賃料(地代・賃料)の額が不相当となった場合には,賃貸人が賃借人に対し賃料の増額を請求することや,賃借人が賃貸人に対し賃料の減額を請求することができます。
一 賃料(地代・家賃)の増減額請求
1 賃料の増減額請求
借地契約や借家契約において,現行の賃料が不相当となったときは,契約の条件にかかわらず,当事者は,将来に向かって地代等の額の増減を請求することができます(借地借家法11条1項,32条1項)。
借地借家法11条1項,32条1項は強行規定であり,当事者は,現行の賃料が不相当となったときは,契約の条件にかかわらず,賃料の増減請求をすることができます。
ただし,一定期間,賃料を増額しない旨の特約は有効であり,その旨の特約がある場合には,一定期間内,増額請求はできません(借地借家法11条1項但書,32条1項但書)。また,定期建物賃貸借契約については,賃料の増減請求を排除する特約も有効です(借地借家法38条7項)。
2 増減請求権の効果
賃料の増減請求権は形成権であり,増減請求の意思表示が相手方に到達した日から将来に向かって賃料を増減させる効果が生じます。
3 増減請求の意思表示
賃料増減請求の意思表示は口頭でも書面でもかまいませんが,請求の有無や相手方に到達した時期が争いとなるおそれがありますので,証拠を残しておくため,配達証明付きの内容証明郵便で請求しておいたほうがよいでしょう。
二 賃料が不相当となった場合
借地契約や借家契約において,現行の賃料が,事情の変更により不相当となったときは,賃料の増額請求や減額請求をすることができます。
賃料が不相当かどうかを判断する事情として,借地借家法11条1項では,借地契約の場合は①土地に対する租税公課の増減,②土地の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動,③近傍類似の土地の地代等との比較が例示されていますし,借地借家法32条2項では,借家契約の場合は①土地・建物に対する租税その他の負担の増減,②土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動,③近傍同種の建物の賃料と比較が例示されています。
賃料が不相当かどうかは,諸般の事情を考慮して判断されますので,現行の賃料額を定めた経緯や賃料額決定の重要な要素となっていた当事者間の個人的事情の変化等の事情も考慮されます。賃料を定めてから相当期間が経過したことも不相当かどうかを判断する事情の一つとはなりますが,賃料を定めてから相当期間が経過していなくても,その間に賃料が不相当となっていれば賃料増減請求ができます。
三 相当な賃料額
相当な賃料額は,不動産鑑定評価基準によって算出した継続賃料の額を基に,契約締結の経緯等諸般の事情を考慮して判断されます。継続賃料とは,継続中の契約の賃料改定等をする場合の賃料であり,新しく借りる場合の賃料(新規賃料)とは異なります。
賃料額を算定する手法としては,①利回り法(積算法),②賃貸事例比較法,③スライド法,④差額配分法等,様々な手法がありますが,専門的な知識が必要であり,不動産鑑定士に鑑定を依頼するのが基本です。
もっとも,鑑定費用がかかりますので,地代については,協議や調停のように当事者の合意により地代の額を決める場合には,固定資産税・都市計画税額に一定倍率を乗じて地代の額を算出する方法がとられることもあります。
四 増減請求の手続
賃料の増減請求の手続としては,①協議,②調停,③訴訟があります。
手続の流れとしては,①賃貸借契約の当事者の一方が他方に対し賃料の増減請求の意思表示をしてから,当事者で協議をして解決を図り,②協議で解決できない場合には,裁判所に調停の申立をして民事調停手続での解決を図り,③調停手続で解決できなかった場合には裁判所に訴訟提起をして民事訴訟手続で解決を図るのが原則です。
賃料増減請求事件については調停前置主義がとられているため,訴訟提起をする前に調停の申立をしなければならず(民事調停法24条の2第1項),調停の申立をせずに訴訟提起をした場合には,調停に付すことが適当でない場合を除いて調停に付されます(民事調停法24条の2第2項)。
五 増減請求を受けた場合の対応
1 賃貸人から賃料の増額請求を受けた場合の賃借人の対応
賃貸人が賃借人に賃料の増額請求をしてきた場合,賃借人は,これに同意できないときは,増額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の賃料を支払えば足ります(借地借家法11条2項本文,32条2項本文)。
ただし,裁判が確定したときに不足額があるときは,賃借人は不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して支払わなければなりません(借地借家法11条2項但書,32条2項但書)。
2 賃借人から賃料の減額請求を受けた場合の賃貸人の対応
賃借人が賃貸人に賃料の減額請求をしてきた場合,賃貸人は,これに同意できないときは,減額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の賃料の支払を請求することができます(借地借家法11条2項本文,32条2項本文)。
ただし,裁判が確定したときに超過額があるときは,賃貸人は超過額に年1割の割合による受領期からの利息を付して返還しなければなりません(借地借家法11条2項但書,32条2項但書)。
【不動産問題】私道トラブルと私道通行権
私道とは,土地所有者等,権原を有する人が私的に利用する道路のことです。
私道は私有地ですので,所有者(または共有者)以外の人の通行をめぐってトラブルになることがありますが,どのような場合に私道の通行が認められるのでしょうか。また,通行が妨害された場合,どのような対応をすることができるのでしょうか。
一 私道通行権
私道は私有地ですので,私道を通行するには,原則として通行権がなければなりません。
私道通行権としては,①囲繞地通行権,②通行地役権,③債権的通行権,④通行の自由権等があります。
1 囲繞地通行権
(1)囲繞地通行権
他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者は,公道に至るため,その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行することができます(民法210条1項)。
池沼,河川,水路,海を通らなければ公道に至ることができないときや,崖があって土地と公道に著しい高低差があるときも通行ができます(民法210条2項)。
この通行権は,法律上当然に認められる通行権(法定通行権)です。
(2)通行の場所・方法
通行の場所,方法は,通行権者のために必要であり,かつ他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(民法211条1項)。
(3)通路の開設
通行権者は,必要があるときは,通路を開設することができます(民法211条2項)。
(4)償金の支払
通行権者は通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければなりません(民法212条)。
(5)分割による場合
分割によって公道に通じない土地が生じたときは,その土地の所有者は,公道に至るため,他の分割者の所有地のみを通行することができます。この場合,償金の支払は不要です(民法213条1項)。
また,土地の所有者がその土地の一部を譲渡した場合にも準用されます(民法213条2項)。
2 通行地役権
(1)通行地役権
地役権とは,他人の土地(承役地)を自己の土地(要役地)の便益に供する権利であり(民法280条),通行地役権とは,他人の土地を自己の土地のために通行の用に供する権利のことです。
通行地役権は,承役地の所有者と要役地の所有者との間の明示または黙示の設定契約による場合や時効取得による場合があります。
また,地役権は物権ですので,登記しないと第三者に対抗できないのが原則です(民法177条)。
(2)通行地役権の時効取得
地役権は,継続的に行使され,かつ,外形上認識することができるものに限り,時効によって取得することができます(民法283条)。
「継続」といえるには,要役地所有者が,承役地上に通路が開設したことを要すると解されています。
また,時効期間は,10年(善意無過失の場合)または20年(善意無過失でない場合)です(民法163条)。
3 債権的通行権
私道の所有者との賃貸借契約や使用貸借契約による通行権(債権的通行権)もあります。
債権的通行権は契約による通行権であり,通行権の内容は契約によって異なりますし,契約当事者間で効力を有するものですから,所有者がかわった場合に通行権が認められるか問題となります。
4 通行の自由権
現実に開設されている建築基準法上の道路(道路位置指定を受けている私道等)を通行することについて,日常生活上不可欠の利益を有している人は,道路の通行を所有者に妨害されているか,またはそのおそれがある場合,特段の事情がない限り,通行の妨害の排除または予防を求める人格的権利を有するものと解されています。
建築基準法上の道路について公衆が通行することは公法上の反射的な利益にすぎませんが,その道路の通行に日常生活上不可欠の利益を有している人については人格的な権利として私法上保護されます。
二 通行を妨害された場合の対応
1 通行権の確認請求
通行権の存否について争いがある場合には,通行権の確認請求をすることが考えられます。
2 通行地役権設定登記請求
通行地役権について未登記の場合には通行地役権設定登記請求をすることが考えられます。
3 妨害排除請求
私道に塀や柵を作る等,現実に通行を妨害されている場合には,妨害排除請求をすることが考えられます。
緊急性が高い場合には,仮処分を検討すべきでしょう。
4 損害賠償請求
通行を妨害されたことにより損害を被った場合には,損害賠償請求をすることが考えられます。
借地権(建物所有目的の地上権・土地賃借権)
建物所有を目的とする地上権又は土地賃借権(借地権)については,借地借家法または旧借地法が適用されます。
一 借地権とは
借地権とは,建物所有を目的とする地上権または土地賃借権です(借地借家法2条1号)。
地上権や土地賃借権については,民法で規定されていますが,このうち建物所有を目的とするものについては,賃借人を保護する必要性が高いことから,借地借家法(または旧借地法)が適用されます。
借地借家法が適用される場合には,法定更新や更新拒絶に正当事由が必要となる等,賃借人が厚く保護される一方で,賃貸人は土地の返還を受けることが困難となりますので,借地借家法の適用があるかどうかは当事者にとって重要な問題となります。
例えば,貸主が,借地借家法の適用のない土地賃貸借契約のつもりで,契約期間を5年とし,契約が満了したら土地を返してもらえると思って貸したとしても,その契約が建物所有目的の土地賃貸借契約であると解釈される場合には,借地借家法が適用され,契約期間は30年となりますし(借地借家法3条),期間満了後も正当事由がなければ更新拒絶をして契約を終了させることができません(借地借家法5条,6条)。
二 建物所有目的とは
1「建物」とは
「建物」とは,土地に定着して建築された永続性を有する建物で,屋根,周壁を有し,住居や営業等の用に供することができるもののことをいいます。
「建物」については,用途の限定はありません。住宅に限らず,店舗,事務所,工場,倉庫等営業用・事業用の建物であってもかまいません。
「建物」は,借地権者保護の観点から広く解されており,撤去が容易な仮設建物であっても「建物」にあたると判断されることがあります。
他方,掘立式の車庫,簡易な露天設備や土地に置かれたコンテナについては,「建物」とはいえないでしょう。
2 どのような場合に「建物所有目的」であるといえるのか
「建物所有目的」とは,借地契約の主たる目的が建物所有であることを意味します。建物所有が主な目的とはいえないときには借地借家法の適用はありません。
建物所有が主な目的といえるかどうかは,契約時に目的についてどのように定めたか,建物が事業を行う上で付随的なものなのかどうか,土地面積に占める建物の敷地面積の割合等,具体的な事情から判断されます。
例えば,ゴルフ練習場の経営を目的として土地を賃借し,その土地上に事務所を建てた場合には,ゴルフ練習場として土地を利用することが主たる目的であり,建物を所有することは従たる目的にすぎないということであれば,借地借家法の適用がないと判断されます。これに対し,自動車教習所として土地を賃借し,その土地上に校舎や事務所を建てた場合には,教習所経営には,実地練習のコースと交通法規等の教習するための校舎や事務所のいずれも不可欠であり,建物所有が従たる目的とはいえないということであれば,借地借家法の適用があると判断されます。
また,当初は建物所有目的とはいえない借地契約であっても,賃借人が建物を建て,それを賃貸人が異議を述べず,黙認していた場合には,建物所有目的の借地契約であると判断されるおそれがありますので,注意しましょう。
借地権の種類
建物所有を目的とする地上権または土地賃借権を借地権といいます(借地借家法2条1号)。
借地権には借地借家法(または旧借地法)が適用され借地人の保護が図られていますが,借地権の種類によって保護の内容が異なります。
一 普通借地権
1 普通借地権とは
普通借地権とは,借地借家法上,単に「借地権」と規定されている基本的な借地権のことです。普通借地権については,正当事由制度が適用され,契約の更新が可能です。
2 存続期間
(1)旧借地法が適用される場合
①堅固建物所有目的の場合
借地権の存続期間は60年ですが(借地法2条1項),契約で30年以上と定めたときはその期間となります(借地法2条2項)。
契約を更新する場合,存続期間は30年となりますが(借地法5条1項,6条),契約でこれより長い期間を定めることができます(借地法5条2項)。
②非堅固建物所有目的の場合
借地権の存続期間は30年ですが(借地法2条1項),契約で20年以上と定めたときはその期間となります(借地法2条2項)。
契約を更新する場合,存続期間は20年となりますが(借地法5条1項,6条),契約でこれより長い期間を定めることができます(借地法5条2項)。
(2)借地借家法が適用される場合
借地借家法では,堅固建物と非堅固建物の区別はなくなりました。
普通借地権の存続期間は30年ですが,契約でこれより長い期間を定めることができます(借地借家法3条)。
契約を更新する場合は,その期間は,最初の更新の場合は20年,2回目以降の更新の場合は10年となりますが,契約でこれより長い期間を定めることができます(借地借家法4条)。
3 更新拒絶の正当事由
借地権の存続期間が満了する場合に,賃借人が更新の請求をしたときや,借地上に建物があり借地人が土地の使用を継続するときは,賃貸人が遅滞なく異議を述べなければ借地契約は更新されます(借地借家法5条)。
賃貸人の更新拒絶が認められるためには,①賃貸人及び賃借人が土地の使用を必要とする事情のほか,②借地に関する従前の経過及び土地の利用状況,③賃貸人が土地の明渡しの条件又は明渡しと引換えに賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出を考慮して,正当事由があると認められなければなりません(借地借家法6条)。
4 建物買取請求
借地契約が終了した場合,賃借人は,賃貸人に対し,借地上の建物を買取るよう請求することができます(借地借家法13条)。
三 定期借地権
定期借地権とは,正当事由条項が適用されず,一定期間の経過により契約が終了する借地権のことです。借地借家法により新設されました。
定期借地権には,①一般定期借地権(借地借家法22条),②事業用定期借地権(借地借家法23条),③建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)があります。
1 一般定期借地権
一般定期借地権とは,存続期間が50年以上で,①契約の更新がない,②建物の築造(建物滅失後の再築)による存続期間の延長がない,③建物買取請求をしないことを公正証書等の書面で契約をした借地権です(借地借家契約22条)。
2 事業用定期借地権
(1)借地借家法23条1項の事業用定期借地権
専ら事業用建物(居住用を除く。)の所有を目的とし,存続期間が30年以上50年未満とする借地権であり,①契約の更新がなく,③建物の築造による存続期間の延長がない,③建物買取請求をしないことを定め,公正証書で契約締結しなければなりません(借地借家法23条1項,3項)。
(2)借地借家法23条2項の事業用定期借地権
専ら事業用建物(居住用を除く。)の所有を目的とし,存続期間が10年以上30年未満とする借地権であり,公正証書で契約締結したものです(借地借家法23条2項,3項)。
この借地権については,借地借家法3条(借地権の存続期間),4条(借地権の更新後の期間),5条(借地契約の更新請求等),6条(借地契約の更新拒絶の要件),7条(建物の再築による借地権の期間の延長),8条(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等),13条(建物買取請求権),18条(借地契約の更新後の建物の再築の許可)の規定は適用されません。
3 建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権とは,借地契約をする場合に,借地権を消滅させるため,借地権設定後30年以上を経過した日に借地上の建物を賃貸人に相当の対価で譲渡する特約をしたものです(借地借家法24条1項)。
賃貸人が建物を買い取り,借地権が消滅した場合に,借地人や建物使用賃借人が建物の使用継続を請求したときは,建物賃貸借契約が成立したものとみなされます(借地借家法24条2項)。
この建物賃貸借契約は,期間の定めのない契約とみなされますが,賃借人が請求した場合で借地権の残存期間があるときは,その残存期間が存続期間となります(借地借家法24条2項)。また,定期借家契約を締結することもできます(借地借家法24条3項)。
四 自己借地権
借地権を設定する場合においては,他の者と共に有することとなるときに限り,土地所有者自らが,自己の土地に借地権を設定することができます(借地借家法15条1項)。また,借地権が賃貸人に帰した場合であっても,他の者と共にその借地権を有する場合には,その借地権は消滅しません(借地借家法15条2項)。
借地借家法により新設されました。
五 一時使用目的の借地権
一時使用目的の借地権とは,臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな借地権のことです(借地借家法25条)。
一時使用目的の借地権には,借地借家法3条(借地権の存続期間),4条(借地権の更新後の期間),5条(借地契約の更新請求等),6条(借地契約の更新拒絶の要件),7条(建物の再築による借地権の期間の延長),8条(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等),13条(建物買取請求権),17条(借地条件の変更及び増改築の許可),18条(借地契約の更新後の建物の再築の許可),22条(定期借地権),23条(事業用定期借地権等),24条(建物譲渡特約付借地権)の規定は適用されません。
借家契約の種類
建物賃貸借契約(借家契約)は,賃貸人が建物の使用及び収益を賃借人にさせることを約し,賃借人がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって成立します(民法601条)。
借家契約には,賃借人を保護するため,民法の特別法である借地借家法が適用されますが,借家契約の種類により保護の内容は異なります。
一 普通借家契約
1 期間の定めのある建物賃貸借契約
(1)期間の定めのある建物賃貸借契約とは
期間の定めのある建物賃貸借契約とは,契約の存続期間の定めがある建物賃貸借契約のことですが,期間は1年以上でなければなりません。
期間を1年未満とする建物の賃貸借は,期間の定めがない建物の賃貸借とみなされます(借地借家法29条1項)。
(2)法定更新
期間の定めのある建物賃貸借においては,賃貸人が期間満了の1年前から6カ月前までの間に賃借人に対して更新拒絶の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条1項)。
また,賃貸人が更新拒絶の通知をした場合であっても,建物の賃貸借の期間満了後,賃借人が使用を継続する場合は建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなければ法定更新されます(借地借家法26条2項)。
(3)法定更新後の契約内容
法定更新後の契約は,従前の契約と同一の条件となりますが,期間は定めがないものとなります(借地借家法26条1項)。
(4)更新拒絶の正当事由
更新拒絶の通知には正当の事由がなければならないとされており(借地借家法28条),賃借人の保護が図られています。
正当事由があるかどうかは,①賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情,②建物の賃貸借に関する従前の経過,③建物の利用状況,④建物の現況,⑤賃借人に対して財産上の給付(立退料)の申し出を考慮して判断されます。
2 期間の定めのない建物賃貸借契約
(1)期間の定めのない建物賃貸借契約とは
建物賃貸借契約において,契約の存続期間を定めなかった場合には,期間の定めのない建物賃貸借契約にあたります。
また,期間を1年未満とする建物の賃貸借は,期間の定めがない建物の賃貸借とみなされます(借地借家法29条1項)。
(2)解約の申入れ
期間の定めのない建物賃貸借においても,賃貸人は,賃借人に対して,解約の申入れをすることができ,契約は解約の申入れの日から6カ月を経過することによって終了します(借地借家法27条1項)。
(3)解約の申入れの正当事由
解約の申し入れについても,更新拒絶の通知と同様,正当事由が必要とされており(借地借家法28条),賃借人の保護が図られています。
二 定期借家契約
1 定期借家契約とは
定期借家契約とは,契約期間の満了により,更新されることなく終了する建物賃貸借契約です(借地借家法38条)。
2 要件
定期借家契約が成立するには,以下の要件をみたす必要があります。
①期間の定めがある建物賃貸借契約であること(借地借家法38条1項)
②契約の更新がない旨の定めがあること(借地借家法38条1項)
③公正証書等書面によって契約すること(借地借家法38条1項)
④賃貸人が賃借人に対し,あらかじめ更新がなく期間の満了により賃貸借は終了する旨の書面(事前説明文書)を交付して説明すること(借地借家法38条2項,3項)
なお,定期借家契約では借地借家法29条1項の適用はありませんので,1年未満の期間を定めることも可能です。
3 契約の終了
期間が1年以上である場合には,賃貸人は,その期間満了の1年前から6カ月前までの間(通知期間)に,賃借人に対し,期間満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ,契約の終了を賃借人に対抗できません。
ただし,通知期間経過後に通知した場合には,通知をした日から6カ月を経過すれば,契約の終了を賃借人に対抗できます(借地借家法38条4項)。
4 賃借人の中途解約
床面積200平方メートル未満の居住用に供する建物の定期借家契約について,転勤,療養,親族の介護その他のやむを得ない事情により,自己の生活の本拠として使用することが困難となった場合には,賃借人は解約の申入れをすることができ,解約の申入れの日から1か月を経過することにより契約は終了します(借地借家法38条5項)
三 取壊し予定の建物賃貸借契約
1 取壊し予定の建物賃貸借契約とは
取壊し予定の建物賃貸借契約とは,取壊し予定の建物について建物を取り壊すときに終了する旨の特約がある建物賃貸借契約です(借地借家法39条)。
2 要件
取壊し予定の建物賃貸借契約といえるには以下の要件をみたす必要があります。
①法令又は契約により一定期間経過後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合であること(借地借家法39条1項)
②建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨の特約があること(借地借家法39条1項)
③建物を取り壊すべき事由を記載した書面により合意すること(借地借家法39条
2項)
3 効果
借地借家法39条の特約が有効である場合には,建物を取り壊すときに借家契約が終了します(借地借家法39条1項)。
四 一時使用目的の建物賃貸借契約
1 一時使用目的の建物賃貸借契約とは
一時使用目的の建物賃貸借契約とは,一時使用目的であり,借地借家法の借家契約に関する規定の適用がない建物賃貸借契約です(借地借家法40条)。
2 一時使用目的とは
建物賃貸借契約が「一時使用目的」であるとされるには,建物賃貸借の目的,動機その他諸般の事情から「一時使用」と客観的に判断されなければなりません。
契約期間が短いか長いかで判断されるわけではありませんし,契約書に「一時使用」と記載されていたとしても,それをもって一時使用目的の建物賃貸借契約であると判断されるわけではありません。
借地契約にかかわるお金(地代・承諾料・立退料など)
人の土地を借りると,いろいろな名目でお金がかかります。借地契約にかかわるお金の問題は,金額が大きくなることが多く,トラブルになりやすいので,よく理解しておきましょう。
1 借地契約を締結するとき
(1)権利金
権利金とは,土地を借りるときに借地人から地主に支払われるものです。
返還されないことが一般的ですが,どのような性質があるかは,契約によりますので,契約内容をきちんと確認しましょう。
(2)敷金
敷金とは,賃借人の賃料債務などの債務を担保するために,賃借人から賃貸人に差し入れるもので,土地の明渡までに生じた賃借人の債務が充当され,残額について賃借人に返還されます。
(3)礼金
礼金とは,契約してもらうお礼として借地人から地主に支払われるものです。契約が終了しても返還されません。
(4)保証金
保証金とは,土地を借りるときに借地人から地主に支払われるもので,契約によって,敷金としての性質,権利金ないし礼金としての性質,更新料としての性質をもつ場合があります。
2 土地を借りている間
(1)地代
地代とは,土地を使用収益する対価として借地人から地主に支払われるものです。
租税公課の増減,地価の上昇・低下その他の経済状況の変動により地代が不相当になった場合や,近隣類似の土地の地代に比較して地代が不相当になった場合には,地代の増減請求をすることができます(借地借家法11条)。
(2)修繕費
修繕費とは,借地人が使用収益することができる状態に維持するために必要な費用です。
地盤が緩むなどして借地人の使用に差しつかえる程度になった場合は,原則として地主が修繕費を負担しなければなりません。
(3)承諾料
承諾料とは,借地人が借地契約で禁止されていることを地主に承諾してもらう見返りとして支払うものです。
借地条件の変更の許可(借地借家法17条),借地上の建物の増改築の許可(借地借家法17条),借地契約更新後の建物の再築の許可(借地借家法18条),借地権の譲渡又は転貸の許可(借地借家法19条)等地主の許可が必要な場合に支払われます。
(4)更新料
更新料とは,契約の期間が満了して契約が更新される場合に借地人から地主に支払われるものです。
更新料の支払いが契約で定められていなければ,支払う必要がないと考えられています。
3 借地契約を終了するとき
(1)立退料
立退料とは,借地人に土地を立退いてもらう場合に,地主から借地人に支払われるものです。
地主が建物の所有を目的とする借地契約の更新を拒絶するには,地主自身が土地を使用することを必要とする事情のほか正当の事由ある場合でなければなりません(借地借家法6条)。正当事由を補完する要素として,立退料が支払われることがあります。
(2)建物買取請求権行使による買取代金
建物の所有を目的とする借地契約の契約期間が満了して契約の更新がない場合,借地人が地主に対して借地上の建物等を買い取ることを請求できる権利のことを,建物買取請求権といいます(借地借家法13条)。第三者が借地上の建物等を取得し地主が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しない場合は,その第三者が地主に対して建物買取請求をすることができます(借地借家法14条)。
建物買取請求権を行使すると,借地人ないし第三者と地主との間に建物等の売買契約が成立したのと同様の効果が発生し,その借地人ないし第三者は,地主に対して,建物等の売買代金請求権を取得することになります。
この代金額は,借地上の建物等の時価であるとされています。
私道トラブル 私道通行権
私人が所有する道路のことを私道といいます。所有者以外の人が私道を通行しようとする場合には,所有者との間でトラブルになることがあります。私道トラブルにおいては,私道の通行権があるかどうかを検討しなければいけません。
1 私道通行権の種類
私人が所有する道路(私道)を通行する権利には,次のようなものがあります。
(1)所有権,共有持分権
私道の所有権者や共有持分権者は,その所有権(民法206条)や共有持分権(民法249条)に基づいて私道を通行することができます。
(2)袋地通行権(囲繞地通行権)
他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者は,公道に至るため,その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行することができます(民法210条1項)。
池沼,河川,水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき,又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも囲繞地を通行することができます(民法210条2項)。
これは法律上当然に発生する権利ですが,通行の場所及び方法は,通行権者のために必要であり,かつ,他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(民法211条1項)。
また,分割によって公道に通じない土地を生じたときは,その土地の所有者は,公道に至るため,他の分割者の所有地のみを通行することができます(民法213条1項)。
(3)通行地役権
他人の土地(承役地)を自己の土地(要役地)の便益に供する権利のことを,地役権といい,通行を目的とする地役権を通行地役権といいます(民法280条)。地役権者は,承役地を通行することができます。
(4)賃貸借契約等による通行権
私道部分の土地を借りるという契約を締結することによって,私道を通行することができます。対価を支払う場合が賃貸借契約(民法601条)であり,無償の場合が使用貸借契約(民法593条)になります。
(5)その他
建築基準法上の道路とされる私道についての通行の自由権,慣習上の通行権などにより,私道の通行権が認められる場合があります。
2 私道の通行を妨害された場合の対応
私道の通行を妨害された場合には,次のような対応をとることができます。
(1)通行妨害排除請求
私道の通行権者が通行を妨害された場合には,妨害者に対して,その妨害行為の排除や予防を請求することができます。
通行妨害排除請求権の内容は,通行権が認められる根拠によって異なります。
また,手続としては,訴訟のほか,通行妨害禁止の仮処分や妨害物除去の仮処分の申立をすることが考えられます。
(2)損害賠償請求
私道の通行権者が通行を妨害され,それによって損害をこうむった場合には,妨害者に対し,損害賠償を請求することができます(民法709条)。
借家契約にかかわるお金(家賃・敷金・更新料など)
人から建物(一軒家やマンションなど)を借りると,いろいろな名目でお金がかかります。
借家契約にかかわるお金の問題は,トラブルになりやすいので,よく理解しておきましょう。
1 借家契約を締結するとき
(1)権利金
権利金とは,建物を借りるときに賃借人から賃貸人に支払われるものです。
どのような性質があるかは,契約によりますので,契約内容をきちんと確認しましょう。権利金は返還されないのが一般です。
(2)敷金
敷金とは,賃借人の賃料債務などの債務を担保するために,賃借人から賃貸人に差し入れるもので,建物の明渡までに生じた賃借人の債務が充当され,残額について賃借人に返還されます。
(3)礼金
礼金とは,契約してもらうお礼として賃借人から賃貸人に支払われるものです。契約が終了しても返還されません。
(4)保証金
保証金とは,建物を借りるときに賃借人から賃貸人に支払われるものです。契約によって,敷金としての性質,権利金ないし礼金としての性質,更新料としての性質をもつ場合があります。
2 建物を借りている間
(1)家賃(賃料)
家賃とは,建物を使用収益する対価として賃借人から賃貸人に支払われるものです。
(2)管理費・共益費
管理費・共益費とは,建物の共有部分を管理するための費用で,家賃に加えて支払うことが多いです。
(3)修繕費
修繕費とは,賃借人が使用収益することができる状態に維持するために必要な費用です。
建物が古くなったり傷んだりして賃借人の使用に差しつかえる程度になった場合は,原則として賃貸人が修繕費を負担しなければなりません。
3 借家契約を更新するとき
(1)更新料
更新料とは,契約の期間が満了して契約が更新される場合に賃借人から賃貸人に支払われるものです。
借家契約では,更新料を支払う場合がほとんどです。
4 建物を明渡すとき
(1)立退料
立退料とは,賃借人に建物を明渡してもらう場合に,賃貸人から賃借人に支払われるものです。
賃貸人が契約の更新を拒絶する場合や解約を申し入れる場合に正当事由を補完するものとして立退料の支払が行われることがあります(借地借家法28条)。
(2)原状回復費用
原状回復費用とは,借家契約が終了する際に,建物をできるだけ借りた時の状態に戻すために必要な費用です。
賃借人は,通常の使用をしていて汚れたり傷んだりしたものについては原則として負担する必要はありませんが,わざと(故意)または不注意で(過失)汚したり破損したりした場合には,原状回復費用を負担しなければなりません。通常は,敷金と相殺されます。
【不動産問題:借家トラブル】契約期間の満了時の立退問題
一 事例
私は,自分の所有する建物を賃貸しておりますが,建物を取り壊そうと考えております。
そのため,賃借人には出ていってもらいたいと考えておりますが,近々,契約期間が満了しますので,契約期間満了時に賃借人に立退きを求めることができるでしょうか。
二 契約の更新
期間の定めのある賃貸借契約は,契約期間の満了により終了することになりますが,契約の更新をすることができます。
契約の更新は,当事者間の合意で行うことが一般的ですが(合意更新),賃借人保護の観点から自動的に更新される場合があります(法定更新)。
そのため,賃借人が期間満了後,契約を更新せずに,賃借人に立退きを求めたいと考えていても,契約が法定更新されると,立ち退いてもらうことができなくなります。
三 法定更新
1 法定更新される場合
(1)期間満了の1年前から6月前までに更新しない旨の通知をしない場合
賃貸人は,期間の定めのある賃貸借契約について契約を更新したくない場合には,期間満了の1年前から6月前までに賃借人に対し契約を更新しない旨通知しなければなりません。通知しないと,契約が法定更新されます(借地借家法26条1項)。
契約を更新しない旨の通知には,契約の更新を拒絶することについて正当な事由がなければなりません(借地借家法28条)。
(2)期間満了後の建物使用継続に遅滞なく異議を述べない場合
賃貸人が契約を更新しない旨通知した場合であっても,賃借人が期間満了後も建物の使用を継続する場合には,賃貸人が遅滞なく異議を述べないと,契約が法定更新されます(借地借家法26条2項)
2 法定更新された場合の契約の内容
法定更新された場合,契約内容は期間の点を除き,従前の契約と同じです。
期間については,期間の定めがないものとなります(借地借家法26条1項)。
四 解約の申入れ
法定更新された場合,期間の定めがない賃貸借契約となります。
その場合,賃貸人は,賃貸借の解約の申入れをすることができ,申入れの日から6月を契約することのよって,賃貸借契約は終了します(借地借家法27条)。
ただし,解約の申入れをするには,正当な事由がなければなりません(借地借家法28条)。
また,解約の申入れをした場合であっても,申入れの日から6月を経過した後も賃借人が建物の使用を継続する場合には,賃貸人が遅滞なく異議の述べないと,契約は法定更新されます(借地借家法27条2項,26条2項)。
五 正当な事由
賃貸人による更新拒絶の通知や解約の申入れは,正当な事由があると認められる場合でなければすることはできません。
正当事由があるかどうかについては,
・賃貸人が建物の使用を必要とする事情
・賃借人が建物の使用を必要とする事情
・建物の賃貸借に関する従前の経過
・建物の利用状況
・建物の現況
・建物の明渡しと引換に建物の賃借人に対して財産上の給付(いわゆる「立退料」です。)をする旨の申出をした場合にはその申出
が考慮されます。
なお,立退料の提供は正当事由の補完事由であり,立退料を提供するだけで正当事由が認められるわけではありませんし,事案によっては立退料の提供がなくても正当事由が認められることがあります。また,立退料の金額につきましても,立退料以外に正当事由がどの程度あるかによって変わってきます。
六 まとめ
以上のとおり,契約期間満了時に賃借人に立退きを求めるには,期間満了の1年前から6月前までに,賃借人に対し,契約を更新しない旨の通知をしなければなりません。
もっとも,更新拒絶には,正当な事由が必要ですから,通知をするだけで立退いてもらえるわけではありません。
賃貸人としては,正当な事由があるかどうかを検討し,立退料の提供が必要となることも考えておきましょう。