Author Archive

【相続・遺言】相続の対象となる財産(相続財産)

2015-07-23

民法896条は「相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし,被相続人の一身に専属したものは,この限りではない。」と規定しております。

そのため,被相続人が相続開始時に属していた権利義務は,被相続人の一身に専属するものを除いて相続人に承継され(包括承継),相続の対象となります。

また,相続財産については,相続人の共有状態になり,遺産分割が必要なものもあれば(遺産共有),相続人が相続開始時に法定相続分に応じて承継し,遺産分割が不要なものもあります(当然分割)。

これから,相続財産について簡単に説明します。

一 相続の対象となる財産(相続財産)

1 遺産分割が必要な財産(遺産共有となるもの)

相続財産のうち,相続人が共有することになる財産については,遺産分割が必要となります。

遺産分割が必要な財産については,以下のような財産があります。

(1)不動産

土地や建物等の不動産は,相続開始後は相続人の共有となり,遺産分割が必要となります。

また,所有権だけではなく,賃借権も遺産分割の対象となります。

(2)現金

現金も遺産分割の対象となります。

そのため,相続開始後,相続人の一人が被相続人の現金を保管していても,遺産分割するまでは,他の相続分は,自己の相続分に相当する現金の引渡しを請求することはできません。

(3)株式

株式は,相続開始後は共同相続人が準共有し,遺産分割が必要であると解されています。

(4)社債

社債については,相続開始後は共同相続人が準共有し,遺産分割が必要であると解されています。

(5)国債

国債については,相続開始後は共同相続人が準共有し,遺産分割が必要であると解されています。

(6)動産

貴金属,美術品,家財道具等の動産についても,相続開始後は相続人が共有し,遺産分割の対象となります。

(7)その他

投資信託については相続財産にあたりますが,遺産分割が必要かどうかは投資信託の内容によります。

ゴルフ会員権については,会員権の形態や会則の内容によっては,相続の対象となり,遺産分割が必要な場合があります。

 

2 遺産分割が不要な財産(当然分割されるもの)

(1)金銭債権

預貯金債権,貸金債権,損害賠償請求権等の金銭債権については,可分債権であるため,相続開始時に各相続人が相続分に応じて分割して取得します。

そのため,金銭債権については,遺産分割は不要であり,遺産分割審判の対象とはなりません(もっとも,相続人が合意すれば,遺産分割の対象とすることができます。)。

なお,旧郵便局の定額郵便貯金については,預入れから10年が経過するまでは分割払戻ができないため,相続人の共有状態となり遺産分割が必要となります。

*最高裁判所平成28年12月19日大法廷判決は,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となると判断し,判例が変更されました。

(2)債務

債務は,相続開始とともに,各相続人に相続分に応じて,当然に分割されます。

相続人間でこれとは異なる合意をすることができますが,債権者の承諾がない限り,相続人は債務を免れることはできません。

 

二 相続財産とならないもの

1 一身専属権(民法896条但書)

(1)扶養請求権

養育費請求権や婚姻費用分担請求権等の扶養請求権は,一身専属権であり,相続の対象とはならないと解されております。

ただし,既に請求権の内容が確定し,履行期も到来したものについては,通常の債権同様,相続の対象となると解されております。

(2)生活保護の受給権

生活保護は一身専属権であり,相続の対象とはならないと解されております

(3)ゴルフ会員権

ゴルフ会員権については,会員権の形態や会則の内容によっては,会員の地位は一身専属的であるとして相続の対象とならないことがあります。ただし,ゴルフ会員権が相続の対象とならない場合であっても,預託金返還請求権や滞納年会費支払義務などの債権債務は可分債権・可分債務として相続の対象となります。

 

2 相続開始時の被相続人の財産とはいえないもの

(1)受取人の固有の権利

①生命保険金

被相続人が保険契約者,被保険者であり,相続人が受取人である生命保険については,受取人である相続人の固有の権利となりますので,相続財産とはなりません。

なお,受取人が被相続人である場合等,生命保険が相続財産となる場合もあります。

②死亡退職金

支給規定から受給権者の固有の権利と解される場合には,相続財産とはなりません。

③遺族給付

遺族年金等,社会保障上,遺族に対してなされる給付は,遺族固有の権利と解され,相続財産とはなりません。

 

(2)葬儀費用

葬儀費用は,相続開始後に生じる債務ですから,原則として相続の対象とはなりません。

葬儀費用の負担者については,喪主が負担すべきとする見解等,様々な見解があります。

なお,相続人全員が合意すれば,葬儀費用を考慮して遺産分割をすることもできます。

 

(3)遺産管理費用

遺産である不動産の固定資産税や火災保険料等の費用については,相続開始後に生じるものですから,相続財産にはならず,相続人が相続分に応じて負担することになります。

なお,相続人全員が合意すれば,遺産管理費用を考慮して遺産分割をすることもできます。

 

(4)遺産収益

遺産から生じた果実及び収益(相続開始後の賃料,利息及び配当金等)は,相続開始後に生じるものですから,相続財産にはなりません。

そのため,相続開始後遺産分割が成立するまでの間に生じた遺産収益は,各相続人が相続分に応じて取得します。

なお,相続人全員が合意すれば,遺産分割の対象とすることもできます。

 

(5)遺産の代償財産

相続開始後,遺産分割までの間に,遺産を売却した場合の売却代金等,遺産の代償財産については,相続発生後に生じたものですから,相続財産とはなりません。

遺産の代償財産については,各相続人が相続分に応じて取得することになります。

なお,相続人全員の合意があれば,遺産分割の対象とすることはできます。

 

3 祭祀財産,遺骨

位牌,仏壇,墓等の祭祀財産は,祭祀の主催者に帰属しますので(民法897条),相続の対象とはなりません。

また,遺骨についても,祭祀の主催者に帰属すると解されており,相続の対象とはなりません。

 

三 まとめ

遺産分割の対象とならない金銭債権や,相続財産とはならない葬儀費用,遺産管理費用,遺産収益についても,相続人が合意すれば遺産分割の中で解決を図ることができるため,遺産分割協議や遺産分割調停をする際には,相続財産にあたるか否か,遺産分割の対象となるか否かについて,あまり意識しないことが多いのではないかと思われます。

しかし,相続人間で合意ができない場合には,相続財産にあたるか否か,遺産分割の対象となるか否かによって,とるべき手続が大きく異なりますので,ご注意ください。

【交通事故】運行供用者責任

2015-07-17

交通事故により他人に損害を与えた場合,民法の不法行為責任を負いますが(民法709条,民法715条等),それとは別に,自動車損害賠償保障法3条は運行供用者責任を規定し,人身事故の被害者の保護を図っております。

これから,運行供用者責任について簡単に説明します。

 

一 運行供用者責任とは

自己のために自動車を運行の用に供する者(「運行供用者」といいます)は,その運行によって他人の生命または身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負います(自動車損害賠償保障法3条本文)。この責任を運行供用者責任といいます。

運行供用者責任には,以下のような特徴があります。

①証明責任の転換,事実上の無過失責任

民法709条の不法行為責任では被害者が加害者の過失を立証しなければなりませんが,運行供用者責任では証明責任が転換されており,運行供用者は免責要件に該当することを証明しない限り,責任を負います(自動車損害賠償保障法3条)。

また,免責の要件も厳格に解されており,事実上の無過失責任とされております。

②責任を負う者の範囲の拡大

自動車を運転していなくても,運行供用者であれば責任を負います。

③人身事故に限定

運行供用者責任は,人身損害(人損)に限定されております。

物損については,民法の不法行為(民法709条等)の規定により責任追及することになります。

 

二 運行供用者責任の要件

自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)は,その運行によって他人の生命または身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負います(自動車損害賠償保障法3条本文)。

 

1 運行供用者とは

運行供用者とは,自動車の運行について運行支配と運行利益が帰属する者をいうと解されています。

これは危険責任(危険な物を支配する者は重い責任を負うべきであるとする考え)や報償責任(利益を得る者は,それによる損失も負うべきであるとする考え)を根拠とします。

もっとも,被害者救済の観点から,運行供用者性を広く認める傾向にあり,運行供用者性の判断基準については運行支配の要件だけで足りるとする見解等,様々な見解があります。

自動車の所有者は,通常,自動車の運行を支配し,運行による利益が帰属しますので,運行供用者であると認められますが,自動車が盗難された場合や所有権留保の場合等,運行供用者性が否定されることもあります。

 

2 「運行によって」とは

(1)「運行」とは

「運行」とは「人又は物を運送するとしないとにかかわらず,自動車を当該装置の用い方に従い用いること」をいいます(自動車損害賠償保障法2条2項)。

「当該装置」とは,エンジンやハンドル,ブレーキ等の走行装置のほかに,クレーン車のクレーンやフォークリフトのフォーク等,特殊自動車に固有の装置までも含むと解されています。

また,走行中の場合だけでなく,駐停車している場合であっても,運行にあたると解されております。

(2)「によって」とは

「によって」とは,運行と事故との間に相当因果関係があることをいうと解されています。

自動車の危険な運転を避けるために転倒した場合(非接触事故),走行中に積み荷が落下した場合等,運行と事故との間に相当因果関係があれば,運行供用者責任が認められます。

3 「他人」とは

「他人」とは運行供用者及び自動車の運転者(「他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者」自動車損害賠償保障法2条3項)以外の人のことをいうと解されております。

運行供用者や運転者の生命または身体が害されても,「他人」にあたらないため,運行供用者責任は認められません。

 

三 運行供用者責任が免責される場合

運行供用者が,

①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと

②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと

③自動車に構造上の欠陥又は機能に障害がなかったこと

を証明したときは,責任を負いません(自動車損害賠償法3条但書)。

これらの免責要件は,厳格に解されており,事実上の無過失責任であるといえます。

 

四 自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)・自動車損害賠償責任共済(自賠責共済)

人身事故の被害者救済の観点から,運行供用者責任が規定されておりますが,加害者に資力がなければ被害回復が図れないため,それだけでは不十分です。

そこで,自動車損害賠償保障法は,自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)または自動車損害賠償責任共済の契約の締結を強制することで,被害者救済を図っています(自動車損害賠償保障法5条)。

もっとも,自賠責保険・自賠責共済には限度額があり,それだけでは被害者に十分な賠償ができないことが通常であるため,自動車の保有者は,任意保険に加入しておくべきです。

 

【損害賠償請求】未成年の子の行為についての親の責任

2015-07-01

未成年の子が,人の物を壊したり,人に怪我させたりする等して,第三者に損害を加えた場合,親はどのような責任を負うでしょうか。

子が成人している場合には,親が責任を負うことは原則としてありませんが,子が未成年の場合には,子の親権者である親は子を監督する義務を負いますので,子の行為について責任を負うことがあります。

以下,簡単に説明します。

 

一 責任能力

未成年者は,他人に損害を加えた場合であっても,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負いません(民法712条)。

行為者に責任能力があることは不法行為責任の要件であり,責任能力のない未成年の子は不法行為責任を負いません。

責任能力があるかどうかは,年齢で一律に決まるわけではなく,個別具体的な事情から判断されます。12歳が責任能力があるかどうかの一応の目安であるといわれていますが,11歳で責任能力が認められた事例もあります。

 

二 未成年の子に責任能力がない場合

1 監督義務者・代理監督者の責任

責任無能力者が責任を負わない場合,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(監督義務者)または,監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者(代理監督者)が,責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法714条1項本文,同条2項)。

監督義務者とは親権者や後見人等であり,代理監督者とは託児所,幼稚園,小学校等です。

親権者である親は監督義務者にあたりますので,未成年の子に責任能力がない場合には,親権者である親が,民法714条1項により責任を負います。

2 監督義務者・代理監督者が免責される場合

監督義務者・代理監督者が,義務を怠らなかったとき,または,その義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは,監督義務者・代理監督者は責任を負いません(民法714条1項但書,同条2項)。

通常,被害者が行為者の過失を立証しなければなりませんが,民法714条が適用される場合では,立証責任が転換され,監督義務者が無過失を立証しなければなりません(中間責任)。

 

三 未成年の子に責任能力がある場合

未成年の子に責任能力がある場合には,未成年の子は不法行為責任を負いますが,実際に未成年の子に賠償できる資力があることは,あまりないでしょう。

その場合,親は,民法714条による責任は負いませんが,監督義務者に監督義務違反(過失)があり,監督義務違反と未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係がある場合には,監督義務者である親は,民法709条の不法行為責任を負います。

なお,民法714条の規定の適用がある場合と異なり,立証責任が転換されているわけではないので,被害者が,監督義務者に監督義務違反(過失)があること,未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係があることを立証しなければなりません。

 

四 まとめ

未成年の子に責任能力がない場合には,親権者である親は,義務を怠らなかったとき,または,その義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことを立証しない限り,民法714条1項により監督義務者としての責任を負います。

また,未成年の子に責任能力があった場合であっても,親権者である親に監督義務違反(過失)があり,監督義務違反と子の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係がある場合には,親は民法709条の不法行為責任を負います。

そのため,親としては,子の監督をしなければ,責任を負うことになりますので,ご注意ください。

【離婚】面会交流(面接交渉)

2015-06-26

一 面会交流(面接交渉)とは

面会交流(面接交渉)とは,別居中または離婚後に,子を養育・監護していない親(非監護親)が子と会ったり,手紙で文通したり,電話で話したりする等して交流することをいいます(離婚後の面会交流については,民法766条が規定しております。別居中の面会交流については民法766条が類推適用されると解されております。)。

面会交流は,非監護親の権利と考えられていますが,民法766条1項が,面会交流について定める際には,子の利益を最も優先して考慮しなければならないと規定しているように,面会交流については子の利益を第一に考えなければなりません。

 

二 面会交流の取決めをする手続

面会交流をするにあたっては,回数・頻度,日時,場所,方法等を決める必要があります。以下の手続があります。

 

1 協議

父又は母と子との面会及びその他の交流について,協議で定めることができます(民法766条1項)。

2 調停,審判

面会交流について,協議が調わないとき,または協議ができないときは,家庭裁判所が定めます(民法766条2項)。

そのため,非監護親は,面会交流を求め,家庭裁判所に調停や審判の申立てをすることができます。

3 離婚訴訟の附帯処分

離婚訴訟を提起する際,離婚訴訟の附帯処分として,面会交流を求めることも考えられます。

もっとも,非監護親としては,面会交流よりも,まず自分が親権者と指定されることを求めるでしょうから,訴え提起の段階で,附帯処分として面会交流を求めることは余りないでしょう。

 

三 面会交流が制限される場合

面会交流について定める際には,子の利益を最も優先して考慮しなければならないため(同条1項),子の福祉に反する場合には面会交流が制限されることがあります。

子の福祉に反する場合としては,非監護親が子を虐待するおそれがある場合,非監護親が子を連れ去るおそれがある場合,非監護親が監護親に対し暴力を振るっていたような場合(ドメスティック・バイオレンス(DV)事案)が考えられます。

これに対し,非監護親が養育費を支払わない場合については,面会交流が子の福祉に反するわけではないので,面会交流が制限されることにはならないでしょう。

また,監護親が再婚する場合であっても,面会交流が制限されるわけではありませんが,再婚家庭との関係を考慮する必要はあるでしょう。

また,面会交流が制限される場合であっても,全面的に制限するだけではなく,面会交流の回数や時間を減らす,手紙や電話で間接的に交流させる,第三者を立ち会わせる等の制限も考えられます。

 

四 監護親が面会交流させない場合に取りうる方法

子を養育・監護する親(監護親)が,非監護親に子と面会交流をさせない場合,非監護親としては,以下のような方法をとることが考えられます。

 

1 履行勧告(家事事件手続法289条)

調停や審判で決まった面会交流を監護親が拒否する場合には,非監護親は申出をして,家庭裁判所に履行勧告をしてもらうことが考えられます。

ただし,履行勧告に強制力はありません。

2 強制執行

調停や審判でき待った面会交流を監護親が拒否する場合には,非監護親は強制執行をすることが考えられます。

その際,子を強制的に連れてきて面会させること(直接強制)はできませんが,面会交流の日時や頻度,時間,子の引渡しの方法等が具体的に定められており,監護親の給付内容が特定されている場合には,履行しない監護親に一定額の金銭を支払わせること(間接強制)ができると解されております。

3 損害賠償請求

面会交流させない監護親に対し,不法行為責任に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。

4 再度の調停の申立て

再度,調停を申立てて,監護親が面会交流に応じるように面会交流の回数,日時,方法等を決め直すことも考えられます。

 

 

【離婚】婚約(婚姻予約),婚約の破棄

2015-06-24

一 婚約(婚姻予約)

婚約(婚姻予約)とは,将来婚姻しようと約束することをいいます。

 

二 婚約の成立

婚約は,当事者の合意のみで成立します。

もっとも,婚約の成立が認められるには,当事者が本気で将来婚姻する意思を有していたと認められる場合でなければなりません。

単に口約束をしただけでは,睦言にすぎないとみなされて,婚約が成立したとは認められないでしょう。

婚約が成立したかどうかは,当事者が婚姻を約束したかどうかということだけではなく,交際状況,親族や友人への紹介,結納の授受,結婚へ向けての準備等,具体的客観的な事実の存在により判断されます。

 

三 婚約破棄

婚約したからといって婚姻が強制されるわけではありませんが,正当な事由がなく,婚約を破棄した場合には,婚約を破棄された人は,婚約を破棄した人に対し,債務不履行責任または不法行為責任の追及として,財産的損害(準備のために支出した費用等)や精神的損害(慰謝料)について損害賠償請求をすることができます。

正当な事由がない場合としては,例えば,相手方が浮気をした場合や相手方が暴行,侮辱をした場合をいいます。親が反対した,性格があわないというだけでは,正当事由がないとはいえず,損害賠償請求は難しいでしょう。

また,結納金を交付した場合には,結納金を交付した人は,結納金を受け取った人に対し,不当利得返還請求をすることも考えられます。もっとも,結納金を交付した人に,婚約解消に責任がある場合には,信義則上,返還請求が制限されることがあるでしょう。

【離婚】内縁(事実婚)と内縁の解消

2015-06-22

一 内縁(事実婚)とは

内縁(事実婚)とは,事実上婚姻と同様の関係にあるが,婚姻届が出されていない場合をいいます。

これに対し,婚姻届が出されている場合を法律婚といいます。

内縁については,かつては婚約(婚姻の予約)と捉えられていたこともありました。

内縁も婚姻の予約も,婚姻届が出されておらず,法律上の婚姻が成立していない点では共通しておりますが,婚姻の予約は,将来婚姻しようという意思がある場合をいうのに対し,内縁の場合は,婚姻としての実体がある場合をいいますので,現在では,内縁は,婚姻に準じるものとして扱われております。

 

二 内縁の成立要件

1 内縁の成立要件

内縁が成立するための要件としては,以下の要件をみたす必要があります。

①当事者間に社会通念上の婚姻の意思があること

②事実上の夫婦共同生活が存在すること

 

2 婚姻障害事由がある場合

婚姻障害事由がある場合には,法律上婚姻が認められませんが,婚姻障害事由のうち,婚姻適齢(民法731条),再婚禁止期間(民法733条),未成年者の婚姻についての父母の同意(民法737条)の各規定に違反する場合であっても,内縁の成立が認められると解されています。

これに対し,近親婚の制限(民法734条から736条)に違反する場合(近親婚的内縁)や,重婚の禁止の規定(民法732条)に違反する場合(重婚的内縁)には,倫理的な観点から,内縁として保護されるかどうかが問題となります。

三 内縁が成立する場合の法的効果

1 内縁が成立する場合に認められる法的効果

内縁が成立する場合,婚姻に準じるものとして扱われます。

そのようなことから,婚姻に準じて,内縁の夫婦間には,同居・協力・扶助義務,貞操義務,婚姻費用分担義務等が認められると解されます。

また,社会保障の法令や借地借家法36条等,内縁配偶者を保護する規定があります。

 

2 内縁には認められない効果

内縁が成立したとしても,法律上の夫婦と同様に扱われるわけではありません。

①内縁が成立しても,氏は変更しない,②内縁夫婦の子は嫡出子とならない,③内縁配偶者には相続権がない等,法律婚とは違いがあります。

 

四 内縁の解消

1 内縁が解消する場合

内縁関係が解消する場合としては,①一方が死亡した場合,②当事者の意思による場合があります。

 

2 死亡による内縁の解消

内縁夫婦の一方が死亡した場合には,内縁は解消します。

その際,亡くなった者の財産について,他方の内縁配偶者は相続権を有しません。

また,離婚の財産分与の規定(民法768条)を類推適用も,判例上,否定されております。

そのため,他方に財産を遺すためには,遺言を作成しておくべきです。

もっとも,死亡による解消の場合,内縁配偶者が全く保護されないわけではありません。

内縁配偶者に遺族年金の受給権が認められる等,社会保障上,内縁配偶者は保護されています。

また,亡くなった内縁配偶者に相続人が存在しない場合には,特別縁故者による相続財産分与請求権(民法958条の3)や,借家権の承継(借地借家法36条)による保護があります。

さらに,借家権を有する内縁配偶者が亡くなり,相続人が借家権を相続した場合,他方内縁配偶者は,貸し主に対し,相続人の借家権を援用することができますし,相続人からの明渡請求を権利の濫用として拒むことができると解されております。

 

3 当事者の意思による場合

内縁は,当事者の合意または一方の意思により解消することができます。

その際,以下のような点が問題となります。

(1)財産分与請求

内縁を解消した場合には,離婚の財産分与の規定(民法768条)を類推適用して財産分与請求をすることができます。

(2)慰謝料請求

当事者の一方が,正当な理由がなく,一方的に内縁を解消した場合(内縁の不当破棄)には,他方は,慰謝料請求をすることができます。

また,第三者が内縁関係を破綻させた場合には,その者に対する慰謝料請求もできます。

(3)親権,養育費

内縁夫婦の子の親権者は母であり,子は母の氏を名乗ります(民法790条2項)。

父が親権者となるには,父が子を認知した後,協議または家庭裁判所の審判で,親権者を父にしなければなりませんし(民法819条4,5項),子を父の氏とするには,家庭裁判所で子の氏の変更の許可を受けなければなりません(民法791条1項)。

また,父が子を認知した場合には,子に対する扶養義務を負いますので,父に対し,養育費の請求ができす。

(4)年金分割請求

内縁配偶者であっても,3号被保険者であった期間については,年金分割請求ができます。

 

 

 

【親子問題】普通養子縁組の離縁

2015-06-17

一 離縁とは

離縁とは,養子縁組を解消することです。

普通養子縁組の離縁と特別養子縁組の離縁とでは,離縁ができる場合や手続が異なります。

特別養子縁組の離縁については,特別養子縁組のページで説明しますので,以下は,普通養子縁組の離縁について説明します。

 

二 離縁の手続

1 協議離縁

(1)協議による離縁

養子縁組の当事者は,協議で離縁をすることができます(民法811条1項)。

(2)養子が15歳未満のとき

養子が15歳未満のときは,離縁は,養親と養子の離縁後に法定代理人となるべき者との協議で行います(民法811条2項)。

養子の父母が離婚しているときは,協議または家庭裁判所の審判で,離縁後に親権者となるべき者を定めます(民法811条3項,4項)。

また,法定代理人となるべき者がいないときは,家庭裁判所は離縁後に未成年後見にとなるべき者を選任します(民法811条5項)。

(3)夫婦である養親と未成年者との離縁

養親が夫婦である場合,未成年者と離縁するには,夫婦が共に離縁しなければなりません(民法811条の2本文)。

ただし,夫婦の一方が意思表示をすることができない場合を除きます(民法811条2の但書)。

(4)離縁の届出

離縁は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,効力を生じます(民法812条で準用する民法739条1項)。

また,届出は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面またはこれらの者からの口頭でしなければなりません(民法812条で準用する民法739条2項)。

離縁の届出は,法令の規定に違反しないことが認められなければ受理されませんが(民法813条1項),違反して受理された場合であっても,離縁の効力は妨げられません(民法813条2項)。

 

2 調停離縁・審判離縁

離縁事件は人事訴訟の対象ですが(人事訴訟法2条3号),調停前置主義の適用があるため(家事事件手続法257条1項),訴訟提起をする前に,離縁を求める調停を申し立てます。

離縁をする旨の調停が成立した場合,調停に代わる審判が確定した場合により,離縁の効力が生じます。

調停成立または調停に代わる審判確定後,離縁の届出をします(戸籍法73条1項,63条)。

 

3 裁判離縁

(1)離縁原因

離縁の訴えをするにあたっては,以下の離縁事由がなければなりません(民法814条1項)。

①他の一方から悪意で遺棄されたとき(民法814条1項1号)

②他の一方の生死が3年以上明らかでないとき(民法814条1項2号)

③その他縁組みを継続し難い重大な事由があるとき(民法814条1項3号)

なお,①②の事由がある場合であっても,裁判所は,一切の事情を考慮して養子縁組の継続を相当と認めるときは,請求を棄却することができます(民法814条2項,民法770条2項)。

(2)有責当事者からの離縁請求

また,有責当事者からの離縁の請求は,原則として認められないと解されております。

(3)養親が15歳未満である場合の離縁の訴えの当事者

養子が15歳に達しない間は,養親と離縁の協議をすることができる者が,離縁の訴えの当事者となります(民法815条)。

(4)夫婦共同縁組の場合

養親が夫婦である場合,未成年者と離縁するには,夫婦が共に離縁しなければならないため(民法811条の2本文),必要的共同訴訟となります。

(5)訴えの終了

離縁の訴えは,判決によって終了するほか,訴訟上の和解,請求の放棄・認諾もできます(人事訴訟法44条,37条1項)。

 

三 死後離縁

養子縁組の当事者の一方が死亡した後に,生存当事者が離縁をするには,家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法811条6項)。

離縁を許可する審判が確定した後,離縁の届出をすることにより(戸籍法72条),離縁の効力が生じます。

四 離縁による慰謝料請求

相手方が有責である場合には,離縁の請求のほかに,慰謝料請求をすることが考えられます。

 

五 離縁の効果

1 離縁による親族関係の終了

養子とその配偶者,養子の直系卑属とその配偶者と養親及びその血族との親族関係は離縁により終了します(民法729条)。

ただし,離縁後も婚姻障害は続きます(民法736条)。

2 離縁による復氏

養子は,離縁により縁組前の氏に復します(民法816条1項本文)。

ただし,配偶者とともに養子をした養親の一方とのみ離縁した場合は除きます(民法816条1項但書)。

縁組の日から7年を経過した後に縁組前の氏に復した者は,離縁の日から3か月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離縁の際に称していた氏を称することができます(民法816条2項)。

3 祭祀供用物の承継

養子縁組によって氏を改めた者が祭祀供用物を承継した後,離縁をした場合には,当事者その他の関係人の協議で,その権利を承継すべき者を定めなければなりません(民法817条で準用する民法769条1項)。

協議が調わないとき,または協議ができないときは,家庭裁判所が定めます(民法817条で準用する民法769条2項)。

 

【親子問題】特別養子縁組

2015-06-16

一 特別養子縁組とは

特別養子縁組とは,子の利益を図るための養子縁組であり,養子となる者と実父母やその血族との親族関係が終了する養子縁組です。

 

二 特別養子縁組の成立

1 家庭裁判所の審判

特別養子縁組は,以下の要件があるとき,養親となる者の請求により,家庭裁判所の審判により成立します(民法817条の2第1項)。

2 要件

(1)夫婦共同縁組

養親となる者は,配偶者のある者でなければならず(民法817条の3第1項),夫婦の一方は他方が養親とならないときは,養親となることができません(民法817条の3第2項本文)。

ただし,夫婦の一方が他方の嫡出子(特別養子以外の養子は除く。)の養親となる場合を除きます(民法817条の3第2項但書)。

(2)養親の年齢

25歳に達しない者は養親となることができません(民法817条の4本文)。

ただし,養親となる夫婦の一方が25歳に達していなくても,その者が20歳に達していれば養親になることはできます(民法817条の4但書)。

(3)養子の年齢

特別養子縁組の請求時に6歳に達している者は養子となることができません(民法817条の5本文)。

ただし,その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合には養子となることができます(民法817条の5但書)。

(4)父母の同意

特別養子縁組の成立には,養子となる者の父母の同意がなければなりません(民法817条の6本文)。

ただし,①父母が意思を表示することができない場合,②父母による虐待,悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は,同意は不要です(民法817条の6但書)。

(5)子の利益のための特別の必要性

父母による養子となる者の監護が著しく困難または不適当であることその他特別の事情がある場合に,子の利益のため特に必要があると認められなければなりません(民法817条の7)。

(6)試験養育期間

特別養子縁組の成立には,養親となる者が養子となる者を6か月以上の期間監護した状況を考慮しなければなりません(民法817条の8第1項)。

この期間は,特別養子縁組の請求前の監護の状況が明らかである場合を除き,請求時から起算します(民法817条の8第2項。

 

三 特別養子縁組の効果

特別養子縁組が成立すると,養方との関係では,普通養子縁組の場合と同様,養子は縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得する(民法809条)等の効果が生じます。

これに対し,実方との関係では,普通養子縁組の場合とは異なり,養子と実方の父母及びその血族との親族関係は終了します(民法817条の9本文)。

ただし,夫婦の一方が他方の嫡出子(特別養子以外の養子は除く。)の養親となる場合は,他方とその血族との親族関係は終了しません(民法817条の9但書)。

実方との親族関係が終了するため,養子となった者は,実方の相続をすることはありません。

もっとも,特別養子縁組によって実方との親族関係が終了しても,婚姻障害の規定は適用されます(民法734条,民法735条)。

 

四 特別養子縁組の離縁

1 離縁ができる場合

①養親による虐待,悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する場合で,かつ,②実父母が相当の監護をすることができる場合において,養子の利益のため特に必要があると認められるとき,家庭裁判所は,養子,実父母,検察官の請求により,離縁の審判をすることができます(民法817条の10第1項)。

それ以外の場合,離縁をすることはできません(民法817条の10第2項)。

 

2 離縁の効果

離縁の審判の確定により,養子と養親及びその血族との親族関係は終了します(民法729条)。

また,離縁により,実方との親族関係が回復します(民法817条の11)。

【親子問題】普通養子縁組

2015-06-15

一 普通養子縁組とは

養子縁組とは,親子としての血のつながりのない者の間で嫡出子と同一の法律関係を発生させる法律行為です。

養子縁組には,普通養子縁組と特別養子縁組があります。

普通養子縁組とは,特別養子縁組以外の一般の養子縁組のことです。

 

二 普通養子縁組の要件

1 縁組の意思の合致

養子縁組をするには,養親となる者と養子となる者との間の縁組意思の合致が必要です。

縁組の意思とは,養子縁組の法的効果を享受する意思のことです。

扶養や相続を目的とする養子縁組も認められています。

2 届出

養子縁組は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,効力を生じます(民法799条で準用する民法739条1項)。

また,届出は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面またはこれらの者からの口頭でしなければなりません(民法799条で準用する民法739条2項)。

縁組の意思は,届出の時点で存在することが必要であり,届出の時点で縁組の意思を欠くと養子縁組は無効となります。

3 その他の要件

(1)養親の年齢

養親は成年者でなければなりません(民法792条)。

(2)尊属または年長者を養子とすることの禁止

尊属または年長者を養子とすることはできません(民法793条)。

(3)後見人が被後見人を養子とする縁組

後見人が被後見人を養子とする場合には家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法794条)。

(4)配偶者のある者が未成年者を養子とする縁組

配偶者のある者が未成年者を養子とする場合には,配偶者とともに養子縁組しなければなりません(民法795条本文)。

ただし,配偶者の嫡出子を養子とする場合,配偶者が意思表示ができない場合を除きます(民法795条但書)。

(5)配偶者のある者の縁組

配偶者のある者が縁組をする場合には,配偶者の同意を得なければなりません(民法796条本文)。

ただし,配偶者とともに縁組をする場合,配偶者が意思を表示することができない場合は不要です(民法796条但書)。

(6)15歳未満の者を養子とする縁組

養子となる者が15歳未満であるときは,法定代理人が代わって縁組の承諾をすることができますが(民法797条1項。「代諾養子縁組」といいます。),養子となる者の父母で監護すべきものがあるとき,または養子となる者の父母で親権を停止されているものがあるときは,その同意を得なければなりません(民法797条2項)。

(7)未成年者を養子とする縁組

未成年者を養子とする場合には,家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法798条本文)。

ただし,自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は不要です(民法798条但書)。

三 普通養子縁組の効果

1 嫡出子の身分の取得

養子は,縁組の日から,養親の嫡出子の身分を取得します(民法809条)。

2 縁組による親族関係の発生

養子と養親及びその血族との間には,養子縁組の日から,血族間におけるのと同一の親族関係を生じます(民法727条)。

なお,養子縁組前の養子の子(連れ子)と養親との間には親族関係は生じません。

3 実親との関係

普通養子縁組の場合,実親との親子関係は存続します。

そのため,養子は,養親の相続人となるのみならず,実親の相続人にもなります。

4 養子の氏

養子は,養親の氏を称します(民法810条本文)。

ただし,婚姻により氏を改めた者が,婚姻の際に定めた氏を称すべき間は除きます(民法810条但書)。

 

四 養子縁組の無効

1 無効原因

当事者間に縁組をする意思がないときや,当事者が縁組の届出をしないときは,養子縁組は無効となります(民法802条)。

なお,夫婦共同養子縁組の場合で,夫婦の一方に縁組をする意思がなかったときは,他方の養子縁組も原則として無効となります。

2 手続

無効な養子縁組は,訴訟や審判を経なくても当然に無効であると解されております。

養子縁組の無効を確認する法的手続としては,①養子縁組の無効を求める調停,②養子縁組の無効の訴えがあります。

 

五 養子縁組の取消し

1 取消事由

民法803条は,「縁組は,次条から第808条までの規定によらなければ,取り消すことができない。」と規定しており,

①養親が未成年者である場合(民法804条)←民法792条違反

②養子が尊属または年長者である場合(民法805条)←民法793条違反

③後見人と被後見人との間の無許可縁組(民法806条)←民法794条違反

④配偶者の同意がなく縁組した場合←民法796条違反

同意が詐欺・強迫による場合(民法806条の2)

⑤子の監護をすべき者の同意がなく縁組した場合←民法797条2項違反

同意が詐欺・強迫による場合(民法806条の3)

⑥養子が未成年者である場合の無許可縁組(民法807条)←民法798条違反

⑦養子縁組が詐欺または強迫によりなされた場合(民法808条)

には,取消権者は,家庭裁判所に養子縁組の取消しを請求することができます。

 

2 手続

養子縁組を取り消すには,家庭裁判所に養子縁組の取消しを請求しなければなりません。

養子縁組を取消す法的手続としては,①養子縁組の取消しを求める調停,②養子縁組の取消しの訴えがあります。

 

六 離縁

離縁とは,養子縁組を解消させることです。

離縁の手続や離縁の効果については,別に説明します。

【離婚】W不倫(既婚者同士の不倫)と慰謝料請求

2015-06-13

一 事例

私(X)の夫(Y)が不倫しました。不倫相手(A)も既婚者のようです。

私は,不倫が許せないので,夫の不倫相手に慰謝料を請求したいと考えています。

私は,夫と離婚しようか迷っていますが,離婚しない場合でも,不倫相手に慰謝料請求をすることはできるでしょうか。

夫によると,不倫相手の夫(B)はまだ不倫のことは知らないようです。

 

二 不貞行為をされたことによる慰謝料請求

1 不貞行為をした配偶者とその不倫相手に対する慰謝料請求

不貞行為をされた人(X)は,自身の配偶者(Y)とその不倫相手(A)により,共同で不法行為をされたことになりますので,自身の配偶者(Y)とその不倫相手(A)に対し慰謝料請求をすることができます。

両者の債務は不真正連帯債務となり,不貞行為をされた人(X)は不貞行為をした配偶者(Y)とその不倫相手(A)のどちらに対しても慰謝料請求をすることができますが,一方が支払った場合,その分,他方に対し請求できなくなります。

なお,詳しくは配偶者の不貞行為のページをご覧ください。

2 離婚しない場合

不貞行為をされた人(X)は,不貞行為をした配偶者(Y)と離婚しない場合であっても,配偶者の不倫相手(A)に対し慰謝料請求をすることはできます。

もっとも,一般に,不貞行為により離婚に至った場合と離婚に至らなかった場合とでは,離婚に至った場合のほうが精神的苦痛が大きいと考えられますので,離婚しない場合は離婚した場合よりも慰謝料額は低くなる傾向にあります。

また,不貞行為をした配偶者(Y)に対する慰謝料請求も考えられますが,離婚しない場合には,夫婦として経済的に一体ですので,実際に慰謝料請求することはないでしょう。

 

三 W不倫の場合の問題点

W不倫の場合,不倫相手の配偶者(B)に対する不法行為にもなりますので,不倫相手の配偶者(B)も,自分の配偶者(A)とその不倫相手(Y)に対し慰謝料請求をすることができます。

不貞行為をされた人(X)からすれば,配偶者(Y)と離婚する場合には,離婚により他人となるので,配偶者(Y)が不倫相手の配偶者(B)から慰謝料請求されたとしても基本的には関係ありません(ただし,YはXとB双方から慰謝料請求されるため,Yの支払能力に影響を与えることはあります。)。

これに対し,離婚しない場合には,夫婦として経済的に一体ですので,自分の配偶者(Y)が不倫相手の配偶者(B)から慰謝料請求される可能性を考え,不倫相手(A)に対し慰謝料請求をすべきかどうか慎重に検討する必要があります。

慰謝料額は具体的な事情によって異なり,双方の慰謝料額が同じになるとは限りませんので,不貞行為をされた人(X)が配偶者の不倫相手(A)から得られる慰謝料額より,配偶者(Y)が不倫相手の配偶者(B)に支払う慰謝料額の方が高くなり,夫婦全体としてみればマイナスとなることもあります(例えば,XとYが離婚せず,BとAが離婚した場合には,AがXに対して負う慰謝料額よりも,YがBに対して負う慰謝料額のほうが高くなる可能性があります)。

そのため,不倫相手の配偶者(B)が不倫に気付いていない等の理由で慰謝料請求してこない場合には,配偶者の不倫相手(A)に対し慰謝料請求をすると,不倫相手の配偶者(B)からの慰謝料請求を誘発する可能性があることから,不倫相手(A)に対し慰謝料請求することが躊躇われ,慰謝料請求に踏み切れないことがあります。

 

四 まとめ

事例の場合,Xは,Yと離婚しなくても,Aに対し慰謝料請求をすることはできますが,Bも,YとAの不倫に気付けば,Yに対し慰謝料請求する可能性があるため,Yと離婚しないのであれば,Aに対し慰謝料請求するかどうか慎重に検討すべきでしょう。

« Older Entries Newer Entries »
〒352-0001 埼玉県新座市東北2丁目31番24号 第2安部ビル3階
Copyright(c) 2016 ながせ法律事務所 All Rights Reserved.