【相続・遺言】相続の対象となる財産(相続財産)

2015-07-23

民法896条は「相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし,被相続人の一身に専属したものは,この限りではない。」と規定しております。

そのため,被相続人が相続開始時に属していた権利義務は,被相続人の一身に専属するものを除いて相続人に承継され(包括承継),相続の対象となります。

また,相続財産については,相続人の共有状態になり,遺産分割が必要なものもあれば(遺産共有),相続人が相続開始時に法定相続分に応じて承継し,遺産分割が不要なものもあります(当然分割)。

これから,相続財産について簡単に説明します。

一 相続の対象となる財産(相続財産)

1 遺産分割が必要な財産(遺産共有となるもの)

相続財産のうち,相続人が共有することになる財産については,遺産分割が必要となります。

遺産分割が必要な財産については,以下のような財産があります。

(1)不動産

土地や建物等の不動産は,相続開始後は相続人の共有となり,遺産分割が必要となります。

また,所有権だけではなく,賃借権も遺産分割の対象となります。

(2)現金

現金も遺産分割の対象となります。

そのため,相続開始後,相続人の一人が被相続人の現金を保管していても,遺産分割するまでは,他の相続分は,自己の相続分に相当する現金の引渡しを請求することはできません。

(3)株式

株式は,相続開始後は共同相続人が準共有し,遺産分割が必要であると解されています。

(4)社債

社債については,相続開始後は共同相続人が準共有し,遺産分割が必要であると解されています。

(5)国債

国債については,相続開始後は共同相続人が準共有し,遺産分割が必要であると解されています。

(6)動産

貴金属,美術品,家財道具等の動産についても,相続開始後は相続人が共有し,遺産分割の対象となります。

(7)その他

投資信託については相続財産にあたりますが,遺産分割が必要かどうかは投資信託の内容によります。

ゴルフ会員権については,会員権の形態や会則の内容によっては,相続の対象となり,遺産分割が必要な場合があります。

 

2 遺産分割が不要な財産(当然分割されるもの)

(1)金銭債権

預貯金債権,貸金債権,損害賠償請求権等の金銭債権については,可分債権であるため,相続開始時に各相続人が相続分に応じて分割して取得します。

そのため,金銭債権については,遺産分割は不要であり,遺産分割審判の対象とはなりません(もっとも,相続人が合意すれば,遺産分割の対象とすることができます。)。

なお,旧郵便局の定額郵便貯金については,預入れから10年が経過するまでは分割払戻ができないため,相続人の共有状態となり遺産分割が必要となります。

*最高裁判所平成28年12月19日大法廷判決は,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となると判断し,判例が変更されました。

(2)債務

債務は,相続開始とともに,各相続人に相続分に応じて,当然に分割されます。

相続人間でこれとは異なる合意をすることができますが,債権者の承諾がない限り,相続人は債務を免れることはできません。

 

二 相続財産とならないもの

1 一身専属権(民法896条但書)

(1)扶養請求権

養育費請求権や婚姻費用分担請求権等の扶養請求権は,一身専属権であり,相続の対象とはならないと解されております。

ただし,既に請求権の内容が確定し,履行期も到来したものについては,通常の債権同様,相続の対象となると解されております。

(2)生活保護の受給権

生活保護は一身専属権であり,相続の対象とはならないと解されております

(3)ゴルフ会員権

ゴルフ会員権については,会員権の形態や会則の内容によっては,会員の地位は一身専属的であるとして相続の対象とならないことがあります。ただし,ゴルフ会員権が相続の対象とならない場合であっても,預託金返還請求権や滞納年会費支払義務などの債権債務は可分債権・可分債務として相続の対象となります。

 

2 相続開始時の被相続人の財産とはいえないもの

(1)受取人の固有の権利

①生命保険金

被相続人が保険契約者,被保険者であり,相続人が受取人である生命保険については,受取人である相続人の固有の権利となりますので,相続財産とはなりません。

なお,受取人が被相続人である場合等,生命保険が相続財産となる場合もあります。

②死亡退職金

支給規定から受給権者の固有の権利と解される場合には,相続財産とはなりません。

③遺族給付

遺族年金等,社会保障上,遺族に対してなされる給付は,遺族固有の権利と解され,相続財産とはなりません。

 

(2)葬儀費用

葬儀費用は,相続開始後に生じる債務ですから,原則として相続の対象とはなりません。

葬儀費用の負担者については,喪主が負担すべきとする見解等,様々な見解があります。

なお,相続人全員が合意すれば,葬儀費用を考慮して遺産分割をすることもできます。

 

(3)遺産管理費用

遺産である不動産の固定資産税や火災保険料等の費用については,相続開始後に生じるものですから,相続財産にはならず,相続人が相続分に応じて負担することになります。

なお,相続人全員が合意すれば,遺産管理費用を考慮して遺産分割をすることもできます。

 

(4)遺産収益

遺産から生じた果実及び収益(相続開始後の賃料,利息及び配当金等)は,相続開始後に生じるものですから,相続財産にはなりません。

そのため,相続開始後遺産分割が成立するまでの間に生じた遺産収益は,各相続人が相続分に応じて取得します。

なお,相続人全員が合意すれば,遺産分割の対象とすることもできます。

 

(5)遺産の代償財産

相続開始後,遺産分割までの間に,遺産を売却した場合の売却代金等,遺産の代償財産については,相続発生後に生じたものですから,相続財産とはなりません。

遺産の代償財産については,各相続人が相続分に応じて取得することになります。

なお,相続人全員の合意があれば,遺産分割の対象とすることはできます。

 

3 祭祀財産,遺骨

位牌,仏壇,墓等の祭祀財産は,祭祀の主催者に帰属しますので(民法897条),相続の対象とはなりません。

また,遺骨についても,祭祀の主催者に帰属すると解されており,相続の対象とはなりません。

 

三 まとめ

遺産分割の対象とならない金銭債権や,相続財産とはならない葬儀費用,遺産管理費用,遺産収益についても,相続人が合意すれば遺産分割の中で解決を図ることができるため,遺産分割協議や遺産分割調停をする際には,相続財産にあたるか否か,遺産分割の対象となるか否かについて,あまり意識しないことが多いのではないかと思われます。

しかし,相続人間で合意ができない場合には,相続財産にあたるか否か,遺産分割の対象となるか否かによって,とるべき手続が大きく異なりますので,ご注意ください。

 

ページの上部へ戻る

Copyright(c) 2016 ながせ法律事務所 All Rights Reserved.