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【労働問題】有期労働契約と雇止め
非正規労働者の多くは使用者との間で有期労働契約を締結しております。使用者は,労働者と有期労働契約を締結することで,必要に応じて,契約を更新して雇用を継続することも,契約更新を拒絶すること(雇止め)で人員削減することもできますが,労働者の保護はどのように図られているのでしょうか。
一 有期労働契約
有期労働契約とは,期間の定めのある労働契約のことです。
有期労働契約では,期間が満了すると労働契約が終了しますが,契約を更新することで雇用が続いていきます。
正社員が無期労働契約(期間の定めのない労働契約)であるの対し,契約社員やアルバイト等の非正規労働者は有期労働契約であることが通常です。無期労働契約の正社員については,解雇権濫用法理等により解雇が制限されているのに対し,有期契約労働者については,期間が満了すれば労働契約が終了するので,使用者は,必要があれば契約を更新し,必要がなければ契約を終了させることで,労働者の数を調整することができますが,労働者からすれば不安定な立場に置かれることになります。
そのため,有期労働契約については労働基準法や労働契約法で規制されています。
二 契約期間
1 契約期間の上限
有期労働契約は,一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは,3年(高度の専門的知識等を有する労働者,60歳以上の労働者と契約する場合は,5年)を超える期間について締結することはできません(労働基準法14条1項)。
使用者が労働者を辞めさせないようにするため,長期間の有期労働契約を締結することがあるので,契約期間の上限が設けられています。
2 契約期間の下限
契約期間の下限について規定はありませんが,使用者は,有期労働契約について,その契約により労働者を使用する目的に照らして,必要以上に短い期間を定めることにより,契約を反復して更新することのないよう配慮しなければなりません(労働契約法17条2項)。
契約期間を短くし,更新を繰り返すことは,労働者からすれば,いつまで働けるのか分からず,地位が不安定になるからです。
三 契約期間中の解雇の制限
有期労働契約では,使用者は,やむを得ない事由がある場合でなければ,契約期間が満了するまで,労働者を解雇することはできません(労働契約法17条1項)。
「やむを得ない事由」とは,期間満了を待つことなく直ちに契約を解消せざるを得ない特別重大な事由がある場合であり,解雇権濫用規制における客観的合理的な理由・社会通念上の相当性よりも厳格に解されます。
四 無期労働契約への転換
1 無期労働契約への転換申込権
(1)転換の申込みができる場合
同一の使用者との間で締結された有期労働契約の契約期間が通算して5年を超える場合,労働者は使用者に対し,その契約期間中,無期労働契約(期間の定めのない労働契約)の締結を申し込むことができます。申込みがあったときは,使用者はこの申込みに承諾したものとみなされ(労働契約法18条1項),期間満了日の翌日から無期労働契約に転換されます。
なお,この規定は平成24年改正によるものであり,平成25年4月1日から施行されております。通算契約期間は施行日以後に開始する有期労働契約が対象となり,施行日前に開始する契約は対象となりません(改正附則2項)。
(2)転換申込ができる期間
契約期間中に通算契約期間が5年を超える場合,その期間中に無期転換の申込みをすることができます(労働契約法18条1項)。
契約期間中に転換の申込みをせず,契約が更新された場合には,更新された期間内に転換の申込みをすることができ,その期間満了日の翌日から無期労働契約に転換されます。
(3)転換後の労働条件
無期労働契約に転換された場合,契約期間以外の労働条件は,別段の定めがない限りは,従前と同じです(労働契約法18条1項)。
2 空白期間がある場合
ある有期労働契約と次の有期労働契約の間に空白期間があり,この空白期間が6か月(直前に満了した契約期間が1年未満であるときは,その2分の1の期間)以上である場合には,通算契約期間がリセットされ,一から通算契約期間がカウントされることになります(労働契約法18条2項)。
五 雇止めの制限
1 雇止め
雇止めとは,使用者が有期労働契約の更新を拒絶することです。
有期労働契約は期間満了により終了するものであり,契約を更新するかどうかは使用者の自由であるとも思われます。
しかし,有期労働契約が反復更新されており,実質的に無期労働契約と異ならない場合や,労働者が雇用継続を期待することに合理性がある場合にまで,使用者が無制約に更新を拒絶できるとすると,労働者があまりにも不安定な地位に置かれることになってしまいます。
そこで,以前は,これらの場合,更新拒絶に解雇権濫用法理を類推適用する判例法理(雇止め法理)により労働者の保護を図っていましたが,同法理は労働契約法で法定化されたため,現在は労働契約法19条により雇止めが制限されています。
2 労働契約法19条による雇止めの制限
①有期労働契約が過去に反復して更新されており,期間満了時に更新せず終了させることが無期労働契約の解雇による契約終了と社会通念上同視できると認められる場合,または,労働者が有期労働契約の期間満了時に契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合で
②労働者が,期間満了日まで更新の申込みをしたか,労働者が期間満了後遅滞なく契約の締結の申込みをしており
③使用者の申込みの拒絶が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは
使用者は労働者の申込みを承諾したものと見なされます(労働契約法19条)。
六 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
有期契約労働者の労働条件と無期契約労働者の労働条件との相違は,職務の内容(業務内容と責任の程度),職務の内容・配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはなりません(労働契約法20条)。
不合理と認められる場合には,その労働条件は無効になりますし,損害賠償請求ができると解されています。

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【労働問題】歩合給・出来高給と残業代(割増賃金)
契約件数・契約高に応じて賃金が定まる営業社員や,売上の一定割合が賃金として支払われるタクシー運転手のように,労働時間ではなく,売上等の出来高で賃金が決まる歩合給・出来高給の場合でも,時間外労働等をすれば残業代(割増賃金)が支払われるのでしょうか。
一 歩合給・出来高給の場合にも割増賃金が発生するか
労働基準法37条は,時間外労働,休日労働,深夜労働をした場合の割増賃金について規定しております。割増賃金は,使用者に通常の労働時間・労働日の賃金よりも割増の賃金を支払う義務を負わせることで,時間外労働等を抑制させるためのものです。
歩合給・出来高給の場合であっても,通常の労働時間にあたる賃金部分と時間外労働の割増賃金にあたる部分が区別されておらず,労働者が時間外労働等をしても金額が増えないときには,割増賃金を請求することができます。
二 歩合給・出来高給の場合の割増賃金の計算方法
割増賃金は,以下の計算式で計算します。
割増賃金=基礎賃金額×時間外労働・休日労働・深夜労働時間×割増率
月給制の場合,基礎賃金額は,月によって定められた賃金額を所定労働時間数(月によって異なる場合は1年間における1月平均所定労働時間数)で割った金額です(労働基準法施行規則19条1項4号)。
また,時間外労働をした場合,所定賃金に時間外労働時間分の賃金は含まれていませんので,通常の時間当たりの賃金に加え,割増分の賃金が請求できます(割増率は1.25となります。)。
例えば,ある月の労働時間が240時間(所定労働時間160時間,時間外労働時間80時間)で,賃金が36万円の場合,基礎賃金額は2250円(=36万円÷所定労働時間160時間)となり,割増賃金として22万5000円(=2250円×80時間×1.25)を請求することができます。
これに対し,歩合給・出来高給は,総労働時間における労働の対価です。
そのため,基礎賃金は,賃金算定期間における賃金総額を総労働時間で割った金額となります(労働基準法施行規則19条1項6号)
また,時間外労働をした場合には,割増分についてのみ請求できます(割増率は0.25となります。)。
例えば,ある月に240時間働き,歩合給として36万円もらった場合,1時間当たりの基礎賃金額は1500円(=36万円÷240時間)となります。時間外労働時間が80時間の場合,割増賃金として3万円(=1500円×80時間×0.25)を請求することができます。
三 固定給と歩合給の場合
賃金に固定給部分と歩合給部分がある場合には,固定給部分と歩合給部分に分けてそれぞれ割増賃金を算定します。
例えば,ある月の労働時間が240時間(所定労働時間160時間,時間外労働時間80時間)で,賃金が固定給24万円,歩合給12万円の場合, 固定給部分については,基礎賃金額は1500円(=24万円÷160時間)であり,割増賃金額は15万円(=1500円×80時間×1.25)となり,歩合給部分については,基礎賃金額は500円(=12万円÷240時間)となり,割増賃金額は1万円(=500円×80時間×0.25)となり,合計で16万円の割増賃金を請求することができます。
四 まとめ
以上のように,歩合給・出来高給の場合でも,時間外労働等をしていたときには割増賃金を請求することができますが,月給制の場合とでは計算方法が異なりますので,同じ時間,同じ賃金で働いたとしても,月給の場合と歩合給・出来高給の場合とでは残業代の金額は異なります。

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預貯金の遺産分割
これまで預貯金は一部を除いて法定相続分により当然分割されるので,遺産分割は不要であるという扱いでしたが,平成28年12月19日の最高裁判所の決定が出たことにより,今後は,預貯金についても遺産分割が必要になりました。
一 これまでの扱い
1 遺産分割の要否
預貯金は,可分債権であり,法定相続分の割合により当然に分割されるので,遺産分割は不要であるという扱いでした。
ただし,旧郵便局の定額郵便貯金については,預入から10年が経過して通常貯金となるまで分割払戻しができないので,遺産分割の対象となるとされていました。
2 遺産分割の可否
旧郵便局の定額郵便貯金を除く預貯金は遺産分割の対象ではありませんでしたが,相続人全員の合意で預貯金を遺産分割の対象とすることはできました。
例えば,相続財産が不動産と預貯金の場合に,ある相続人が不動産を取得し,他の相続人が預貯金を取得するという遺産分割をすることができました。
3 金融機関への払戻請求
旧郵便局の定額郵便貯金を除く預貯金は,可分債権であり,相続開始と同時に法定相続分の割合により当然に分割されるので,各相続人は金融機関に対し法定相続分の割合に相当する預貯金の払戻しを請求することができました。
金融機関が相続人全員の同意がなければ払戻請求に応じないという対応をしてきた場合には,各相続人は訴訟を提起することで,法定相続分の割合に相当する預貯金の払戻しを受けることができました。
二 これからの扱い
1 遺産分割の要否
①平成28年12月19日の最高裁判所の決定
普通預金,通常貯金,定期貯金について,相続開始と同時に当然に分割されることはなく,遺産分割の対象となるとされました。
②平成29年4月6日の最高裁判所の判決
定期預金,定期積金について,相続開始と同時に当然に分割されることはなく,遺産分割の対象となるとされました。
③その他の預貯金
すべての預貯金について判断されたわけではないですが,今後は,すべての預貯金について遺産分割の対象になると考えられます。
2 可分債権への影響
最高裁判所の決定や判決は,可分債権が遺産分割の対象となると判断したわけではありません。預貯金は,可分債権ではなく,相続人に準共有されていると解したものと思われます。
そのため,貸金債権や損害賠償請求権等の可分債権については,今後も当然分割され遺産分割の対象とはならないと解されます。
3 金融機関への払戻請求
預貯金について遺産分割が必要となるため,今後は,相続人全員の同意に基づき払戻請求するか,遺産分割をしてから払戻請求をしなければなりません。
一部の相続人が,金融機関に対し,法定相続分の割合の預貯金の払戻請求をすることはできなくなりました。
被相続人の預貯金から葬儀費用を支払う必要がある等,早期に預貯金の払戻しをする必要がある場合や,相続人の対立が激しい,行方不明の相続人がいる等の理由で,相続人全員の同意や遺産分割ができない場合には,相続人にとって困ったことになります。
そのような場合には,仮分割の仮処分の申立てをすることが考えられます。また,被相続人としては,遺言を作成して,預貯金を取得する人を決めておいたほうがよいでしょう。

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借地権(建物所有目的の地上権・土地賃借権)
建物所有を目的とする地上権又は土地賃借権(借地権)については,借地借家法または旧借地法が適用されます。
一 借地権とは
借地権とは,建物所有を目的とする地上権または土地賃借権です(借地借家法2条1号)。
地上権や土地賃借権については,民法で規定されていますが,このうち建物所有を目的とするものについては,賃借人を保護する必要性が高いことから,借地借家法(または旧借地法)が適用されます。
借地借家法が適用される場合には,法定更新や更新拒絶に正当事由が必要となる等,賃借人が厚く保護される一方で,賃貸人は土地の返還を受けることが困難となりますので,借地借家法の適用があるかどうかは当事者にとって重要な問題となります。
例えば,貸主が,借地借家法の適用のない土地賃貸借契約のつもりで,契約期間を5年とし,契約が満了したら土地を返してもらえると思って貸したとしても,その契約が建物所有目的の土地賃貸借契約であると解釈される場合には,借地借家法が適用され,契約期間は30年となりますし(借地借家法3条),期間満了後も正当事由がなければ更新拒絶をして契約を終了させることができません(借地借家法5条,6条)。
二 建物所有目的とは
1「建物」とは
「建物」とは,土地に定着して建築された永続性を有する建物で,屋根,周壁を有し,住居や営業等の用に供することができるもののことをいいます。
「建物」については,用途の限定はありません。住宅に限らず,店舗,事務所,工場,倉庫等営業用・事業用の建物であってもかまいません。
「建物」は,借地権者保護の観点から広く解されており,撤去が容易な仮設建物であっても「建物」にあたると判断されることがあります。
他方,掘立式の車庫,簡易な露天設備や土地に置かれたコンテナについては,「建物」とはいえないでしょう。
2 どのような場合に「建物所有目的」であるといえるのか
「建物所有目的」とは,借地契約の主たる目的が建物所有であることを意味します。建物所有が主な目的とはいえないときには借地借家法の適用はありません。
建物所有が主な目的といえるかどうかは,契約時に目的についてどのように定めたか,建物が事業を行う上で付随的なものなのかどうか,土地面積に占める建物の敷地面積の割合等,具体的な事情から判断されます。
例えば,ゴルフ練習場の経営を目的として土地を賃借し,その土地上に事務所を建てた場合には,ゴルフ練習場として土地を利用することが主たる目的であり,建物を所有することは従たる目的にすぎないということであれば,借地借家法の適用がないと判断されます。これに対し,自動車教習所として土地を賃借し,その土地上に校舎や事務所を建てた場合には,教習所経営には,実地練習のコースと交通法規等の教習するための校舎や事務所のいずれも不可欠であり,建物所有が従たる目的とはいえないということであれば,借地借家法の適用があると判断されます。
また,当初は建物所有目的とはいえない借地契約であっても,賃借人が建物を建て,それを賃貸人が異議を述べず,黙認していた場合には,建物所有目的の借地契約であると判断されるおそれがありますので,注意しましょう。

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借地権の種類
建物所有を目的とする地上権または土地賃借権を借地権といいます(借地借家法2条1号)。
借地権には借地借家法(または旧借地法)が適用され借地人の保護が図られていますが,借地権の種類によって保護の内容が異なります。
一 普通借地権
1 普通借地権とは
普通借地権とは,借地借家法上,単に「借地権」と規定されている基本的な借地権のことです。普通借地権については,正当事由制度が適用され,契約の更新が可能です。
2 存続期間
(1)旧借地法が適用される場合
①堅固建物所有目的の場合
借地権の存続期間は60年ですが(借地法2条1項),契約で30年以上と定めたときはその期間となります(借地法2条2項)。
契約を更新する場合,存続期間は30年となりますが(借地法5条1項,6条),契約でこれより長い期間を定めることができます(借地法5条2項)。
②非堅固建物所有目的の場合
借地権の存続期間は30年ですが(借地法2条1項),契約で20年以上と定めたときはその期間となります(借地法2条2項)。
契約を更新する場合,存続期間は20年となりますが(借地法5条1項,6条),契約でこれより長い期間を定めることができます(借地法5条2項)。
(2)借地借家法が適用される場合
借地借家法では,堅固建物と非堅固建物の区別はなくなりました。
普通借地権の存続期間は30年ですが,契約でこれより長い期間を定めることができます(借地借家法3条)。
契約を更新する場合は,その期間は,最初の更新の場合は20年,2回目以降の更新の場合は10年となりますが,契約でこれより長い期間を定めることができます(借地借家法4条)。
3 更新拒絶の正当事由
借地権の存続期間が満了する場合に,賃借人が更新の請求をしたときや,借地上に建物があり借地人が土地の使用を継続するときは,賃貸人が遅滞なく異議を述べなければ借地契約は更新されます(借地借家法5条)。
賃貸人の更新拒絶が認められるためには,①賃貸人及び賃借人が土地の使用を必要とする事情のほか,②借地に関する従前の経過及び土地の利用状況,③賃貸人が土地の明渡しの条件又は明渡しと引換えに賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出を考慮して,正当事由があると認められなければなりません(借地借家法6条)。
4 建物買取請求
借地契約が終了した場合,賃借人は,賃貸人に対し,借地上の建物を買取るよう請求することができます(借地借家法13条)。
三 定期借地権
定期借地権とは,正当事由条項が適用されず,一定期間の経過により契約が終了する借地権のことです。借地借家法により新設されました。
定期借地権には,①一般定期借地権(借地借家法22条),②事業用定期借地権(借地借家法23条),③建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)があります。
1 一般定期借地権
一般定期借地権とは,存続期間が50年以上で,①契約の更新がない,②建物の築造(建物滅失後の再築)による存続期間の延長がない,③建物買取請求をしないことを公正証書等の書面で契約をした借地権です(借地借家契約22条)。
2 事業用定期借地権
(1)借地借家法23条1項の事業用定期借地権
専ら事業用建物(居住用を除く。)の所有を目的とし,存続期間が30年以上50年未満とする借地権であり,①契約の更新がなく,③建物の築造による存続期間の延長がない,③建物買取請求をしないことを定め,公正証書で契約締結しなければなりません(借地借家法23条1項,3項)。
(2)借地借家法23条2項の事業用定期借地権
専ら事業用建物(居住用を除く。)の所有を目的とし,存続期間が10年以上30年未満とする借地権であり,公正証書で契約締結したものです(借地借家法23条2項,3項)。
この借地権については,借地借家法3条(借地権の存続期間),4条(借地権の更新後の期間),5条(借地契約の更新請求等),6条(借地契約の更新拒絶の要件),7条(建物の再築による借地権の期間の延長),8条(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等),13条(建物買取請求権),18条(借地契約の更新後の建物の再築の許可)の規定は適用されません。
3 建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権とは,借地契約をする場合に,借地権を消滅させるため,借地権設定後30年以上を経過した日に借地上の建物を賃貸人に相当の対価で譲渡する特約をしたものです(借地借家法24条1項)。
賃貸人が建物を買い取り,借地権が消滅した場合に,借地人や建物使用賃借人が建物の使用継続を請求したときは,建物賃貸借契約が成立したものとみなされます(借地借家法24条2項)。
この建物賃貸借契約は,期間の定めのない契約とみなされますが,賃借人が請求した場合で借地権の残存期間があるときは,その残存期間が存続期間となります(借地借家法24条2項)。また,定期借家契約を締結することもできます(借地借家法24条3項)。
四 自己借地権
借地権を設定する場合においては,他の者と共に有することとなるときに限り,土地所有者自らが,自己の土地に借地権を設定することができます(借地借家法15条1項)。また,借地権が賃貸人に帰した場合であっても,他の者と共にその借地権を有する場合には,その借地権は消滅しません(借地借家法15条2項)。
借地借家法により新設されました。
五 一時使用目的の借地権
一時使用目的の借地権とは,臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな借地権のことです(借地借家法25条)。
一時使用目的の借地権には,借地借家法3条(借地権の存続期間),4条(借地権の更新後の期間),5条(借地契約の更新請求等),6条(借地契約の更新拒絶の要件),7条(建物の再築による借地権の期間の延長),8条(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等),13条(建物買取請求権),17条(借地条件の変更及び増改築の許可),18条(借地契約の更新後の建物の再築の許可),22条(定期借地権),23条(事業用定期借地権等),24条(建物譲渡特約付借地権)の規定は適用されません。

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残業代請求と管理監督者
残業代請求事件で労働者が管理職や店長である場合には,使用者が,労働者は管理監督者であると主張して,残業代支払義務を争ってくることがあります。
一 管理監督者とは
労働基準法41条は,労働時間,休憩及び休日に関する規定の適用が除外される労働者を規定しております。そのうちの一つが「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」であり(労働基準法41条2号),これを「管理監督者」といいます。
管理監督者は,経営者に代わって労働者の労務管理を行う地位にあり,経営者と一体の立場にある者のことです。
管理監督者については労働時間等の規制になじまないので,労働時間等に関する規定が適用されません。
二 管理監督者にあたる場合
管理監督者にあたる場合には,労働基準法の労働時間,休憩,休日に関する規定が適用されません。
そのため,管理監督者は時間外労働や休日労働の割増賃金の支払を請求することはできません。
もっとも,深夜業の規制に関する規定は適用除外ではありませんので,管理監督者が深夜労働をした場合,深夜労働の割増賃金が所定賃金に含まれていなければ,割増賃金の支払を請求することができます。
また,年次有給休暇の規定(労働基準法39条)も適用除外ではありませんので,管理監督者は有給休暇を取ることができます。
三 管理監督者にあたるための要件
管理監督者にあたるかどうかは,労働者の肩書で判断するのではなく,実際の職務の内容や権限等から判断されます。
裁判等の実務では,
①事業主の経営に関する決定に参画し,労務管理に関する指揮監督権限があること
②自己の労働時間について裁量権を有すること
③地位や権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること
が管理監督者にあたるための要件であるとされています。
具体的には,①については,経営会議に参加しているか,職務の内容がある部門全体の統括的な立場にあるか,部下に関する労務管理上の決定等について一定の裁量権を有しているか,部下の人事考課や機密事項に接しているか,②については,自己の出退勤を自分で決める権限があるか,労働時間を管理されているか,③については,管理職手当・役職手当等の支給があり,これらの手当により時間外手当等が支給されないことが十分に補われているか,一般従業員と比べて賃金が高いかといったこと等から判断されます。
これらの要件にあたるかどうは厳しく認定されますので,肩書が管理職や店長であっても,管理監督者とは認められない場合が多いです。
四 まとめ
労働者が管理職や店長であったとしても,肩書だけで管理監督者にあたるとわけではありません。管理監督者にあたるための要件は厳しく,実際に管理監督者にあたると判断される場合はそれ程多くありませんので,管理職や店長であっても残業代請求が認められる可能性は十分にあります。
管理職や店長という肩書にして残業代を支払わないという,いわゆる「名ばかり管理職」「名ばかり店長」である可能性がありますので,注意しましょう。

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労働事件では就業規則を確認しましょう
労働事件では,労働者がどのような労働条件で働いていたのか問題となりますが,労働条件は就業規則の定めによることが通常ですから,就業規則にどのように定められているかが非常に重要となります。
一 就業規則とは
就業規則とは,職場の規律や労働条件などについて使用者が定める規則のことです。
就業規則は一つとは限らず,賃金規程や退職金規程等の別規程として定めることもあります。また,正社員,契約社員,パート等従業員の種類ごとに異なる定めをすることも可能です。
就業規則は,労働者や使用者の権利義務関係を明確にするためのものであり,後述のように労働契約の最低限の基準となったり,労働契約の内容を補充したりする等の効力があります。
二 就業規則を作成・届出しなければならない場合
常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成し,所轄の労働基準監督署に届け出る義務を負います(労働基準法89条,労働基準法施行規則49条1項)。
「常時10人以上の労働者」がいるかどうかは,企業全体で判断するのではなく,事業場単位で判断します。
「常時10人以上」とは,通常10人以上いるということであり,一時的に10人未満になったことがあったとしても,就業規則作成・届出義務を負います。
また,「労働者」の人数は,正社員だけでなく,契約社員やパート等の非正規社員も含めて判断します。
なお,常時10人未満で就業規則の作成義務がない場合であっても,使用者が就業規則を作成することはできます。作成した場合には労働契約法上の効力が認められます。
三 就業規則ではどのようなことを定めるのか
就業規則では,以下の点を定めなければなりません(労働基準法89条)。
①始業・終業の時刻,休憩時間,休日,休暇,労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合は,就業時転換に関する事項
②賃金(臨時の賃金等を除く)の決定,計算,支払の方法,賃金の締切り・支払の時期,昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む)
③の2 退職手当の定めをする場合には,適用される労働者の範囲,退職手当の決定・計算,支払の方法,退職手当の支払の時期に関する事項
④臨時の賃金等(退職手当を除く),最低賃金額の定めをする場合は,これに関する事項
⑤労働者に食費,作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は,これに関する事項
⑥安全・衛生に関する定めをする場合は,これに関する事項
⑦職業訓練に関する定めをする場合は,これに関する事項
⑧災害補償,業務外の傷病扶助に関する定めをする場合は,これに関する事項
⑨表彰・制裁の定めをする場合は,その種類・程度に関する事項
⑩その他当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合は,これに関する事項
四 就業規則作成・変更の手順
使用者は,就業規則の作成・変更について,事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合,ない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聴き,その意見を記した書面を添付して所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法90条)。
「過半数代表者」は,①労働基準法41条2号の管理監督者にあたらないこと,②労働基準法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票,挙手等の方法による手続により選出された者であることが必要となります(労働基準法施行規則6条の2)
なお,意見を聴かなければならないとされているだけですので,過半数労働組合や過半数代表者と協議や同意が必要というわけではありません。
また,過半数労働組合や過半数代表者が意見表明を拒んだり,書面を出すことを拒んだりした場合には,意見を聴いたことが証明できれば受理されます。
五 就業規則の周知義務
使用者は,就業規則を,①常時各作業所の見やすい場所へ掲示し,または備え付けること,②書面を交付すること,③磁気テープ,磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し,かつ,各作業場に労働者が記録の内容を常時確認できる機器を設置すること(パソコンで就業規則を見ることができるようにしておくこと等)によって,労働者に周知させなければなりません(労働基準法106条1項,労働基準法施行規則52条の2)。
なお,労働者の人数が常時10人未満であり,就業規則の作成・届出義務がない場合であっても,周知義務はあります。
六 就業規則の効力
1 就業規則の定めが労働条件の最低限となります。
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については無効となり,無効となった部分は就業規則で定める基準となります(労働契約法12条)。
就業規則で定める労働条件が最低限になるということですから,就業規則よりも労働者に有利な労働条件を労働契約で定めた場合には,労働契約で定めた労働条件が適用されることになります。
2 就業規則の定めが労働契約の内容となる場合
労働者と使用者が労働契約を締結する場合に,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていたときには,労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件になります(労働契約法7条本文)。
ただし,労働者と使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた場合には,労働契約法12条に該当する場合を除き,合意した内容になります(労働契約法7条但書)。
就業規則よりも労働者に不利益な合意は労働契約法12条により無効となりますので,労働者に有利な合意をした場合には,その合意の内容が労働契約の内容となります。
3 就業規則の変更による労働条件の変更
(1)原則
労働契約の内容である労働条件を変更するには労働者と使用者の合意が必要です(労働契約法8条)。
使用者が就業規則を変更することにより労働者に不利益に変更することは,労働者との合意がなければ原則としてできません(労働契約法9条)。
(2)例外
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,
①変更後の就業規則を労働者に周知させ,
②就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更にかかる事情に照らして合理的なものであるときは,
労働契約の内容である労働条件は,変更後の就業規則に定めるところによるものとなります(労働契約法10条本文)。
ただし,労働者と使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については,労働契約法12条に該当する場合を除き,合意した内容になります(労働契約法10条但書)。
4 就業規則が法令や労働協約に違反する場合
(1)就業規則と法令・労働協約の関係
就業規則は,法令または当該事業場に適用される労働協約に違反してはなりません(労働基準法92条1項)。
所轄の労働基準監督署長は法令または労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができます(労働基準法92条2項,労働基準法施行規則50条)。
法令(強行法規)や労働協約が就業規則に優越するということです。
(2)法令・労働協約に違反する就業規則と労働契約の関係
就業規則が法令または労働協約に違反する場合,違反する部分については,法令・労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約に労働契約法7条,10条,12条の規定は適用されませんので(労働契約法13条),就業規則のうち法令や労働協約に違反する部分については労働契約の内容となることはありません。
労働基準法や労働協約で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については無効となり,無効となった部分は労働基準法や労働協約で定める基準によることになります(労働基準法13条,労働組合法16条)。

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配転命令の拒否
使用者から転勤等の配転命令が出された場合,労働者は従わなければならないのでしょうか?
労働者が配転命令を拒否した場合,解雇されてしまうのでしょうか?
一 配転とは
「配転」とは,労働者の職務内容または勤務場所を相当の長期間にわたり変更することです。
同一の勤務地内で所属部署を変更する場合を「配置転換」といい,勤務地を変更する場合を「転勤」といいます。
二 配転命令の有効性
使用者が労働者に配転を命じることを「配転命令」といいますが,配転命令が有効となるには,①労働契約上使用者に配転命令権があること,②権利の濫用にあたらないことが必要となります。
使用者に配転命令権がなかったり,配転命令権が濫用されたと認められた場合には,配転命令は無効となります。
また,強行法規に違反する場合にも配転命令は無効となります。
1 使用者の配転命令権
使用者に配転命令権があるかどうかについては,労働契約自体に配転命令についての合意が含まれているとする考え(包括合意説)と配転命令についての合意が必要であるとする考え(契約説)があります。
いずれの説によっても,就業規則に配転命令の規定があれば,使用者に配転命令権があると解されます。
また,職種や勤務地を限定する合意がある場合には,使用者は合意に反する配転命令をすることはできません。
2 配転命令権の濫用にあたらないこと
①業務上の必要性がない場合,②労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じる場合,③不当な動機・目的による場合には,配転命令権の濫用にあたります。
(1)業務上の必要性
業務上の必要性については,高度の必要性までは要求されておらず,企業の合理的運営に寄与するものであれば足りると解されています。
(2)労働者に通常甘受すべき著しく超える不利益が生じる場合
別居や単身赴任になる場合であっても,それだけでは通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とはあたらないと解されています。病気の家族を介護している等,特別な事情が必要となります。
(3)不当な動機・目的による場合
労働者に嫌がらせをするために配転命令を出したり,労働者を退職に追い込むために配転命令を出したりする等,不当な動機や目的で配転命令を出した場合には権利の濫用にあたります。
3 強行法規に違反する場合
不当労働行為にあたる場合(労働組合法7条)や差別的取扱いにあたる場合(労働基準法3条,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律6条,短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条)等,強行法規に違反する場合には配転命令は無効となります。
三 配転命令を拒否したことを理由とする解雇
配転命令が無効である場合には,配転命令を拒否したことを理由とする解雇も無効となります。
これに対し,配転命令が有効である場合には,配転命令の拒否は業務命令違反となり,懲戒解雇事由や普通解雇事由にあたりますが,手続的な相当性を欠き,懲戒解雇が無効と判断された裁判例もありますので,使用者が労働者に十分な説明や再考を促すこともせず,いきなり解雇した場合には解雇が無効となる可能性があります。

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借家契約の種類
建物賃貸借契約(借家契約)は,賃貸人が建物の使用及び収益を賃借人にさせることを約し,賃借人がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって成立します(民法601条)。
借家契約には,賃借人を保護するため,民法の特別法である借地借家法が適用されますが,借家契約の種類により保護の内容は異なります。
一 普通借家契約
1 期間の定めのある建物賃貸借契約
(1)期間の定めのある建物賃貸借契約とは
期間の定めのある建物賃貸借契約とは,契約の存続期間の定めがある建物賃貸借契約のことですが,期間は1年以上でなければなりません。
期間を1年未満とする建物の賃貸借は,期間の定めがない建物の賃貸借とみなされます(借地借家法29条1項)。
(2)法定更新
期間の定めのある建物賃貸借においては,賃貸人が期間満了の1年前から6カ月前までの間に賃借人に対して更新拒絶の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条1項)。
また,賃貸人が更新拒絶の通知をした場合であっても,建物の賃貸借の期間満了後,賃借人が使用を継続する場合は建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなければ法定更新されます(借地借家法26条2項)。
(3)法定更新後の契約内容
法定更新後の契約は,従前の契約と同一の条件となりますが,期間は定めがないものとなります(借地借家法26条1項)。
(4)更新拒絶の正当事由
更新拒絶の通知には正当の事由がなければならないとされており(借地借家法28条),賃借人の保護が図られています。
正当事由があるかどうかは,①賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情,②建物の賃貸借に関する従前の経過,③建物の利用状況,④建物の現況,⑤賃借人に対して財産上の給付(立退料)の申し出を考慮して判断されます。
2 期間の定めのない建物賃貸借契約
(1)期間の定めのない建物賃貸借契約とは
建物賃貸借契約において,契約の存続期間を定めなかった場合には,期間の定めのない建物賃貸借契約にあたります。
また,期間を1年未満とする建物の賃貸借は,期間の定めがない建物の賃貸借とみなされます(借地借家法29条1項)。
(2)解約の申入れ
期間の定めのない建物賃貸借においても,賃貸人は,賃借人に対して,解約の申入れをすることができ,契約は解約の申入れの日から6カ月を経過することによって終了します(借地借家法27条1項)。
(3)解約の申入れの正当事由
解約の申し入れについても,更新拒絶の通知と同様,正当事由が必要とされており(借地借家法28条),賃借人の保護が図られています。
二 定期借家契約
1 定期借家契約とは
定期借家契約とは,契約期間の満了により,更新されることなく終了する建物賃貸借契約です(借地借家法38条)。
2 要件
定期借家契約が成立するには,以下の要件をみたす必要があります。
①期間の定めがある建物賃貸借契約であること(借地借家法38条1項)
②契約の更新がない旨の定めがあること(借地借家法38条1項)
③公正証書等書面によって契約すること(借地借家法38条1項)
④賃貸人が賃借人に対し,あらかじめ更新がなく期間の満了により賃貸借は終了する旨の書面(事前説明文書)を交付して説明すること(借地借家法38条2項,3項)
なお,定期借家契約では借地借家法29条1項の適用はありませんので,1年未満の期間を定めることも可能です。
3 契約の終了
期間が1年以上である場合には,賃貸人は,その期間満了の1年前から6カ月前までの間(通知期間)に,賃借人に対し,期間満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ,契約の終了を賃借人に対抗できません。
ただし,通知期間経過後に通知した場合には,通知をした日から6カ月を経過すれば,契約の終了を賃借人に対抗できます(借地借家法38条4項)。
4 賃借人の中途解約
床面積200平方メートル未満の居住用に供する建物の定期借家契約について,転勤,療養,親族の介護その他のやむを得ない事情により,自己の生活の本拠として使用することが困難となった場合には,賃借人は解約の申入れをすることができ,解約の申入れの日から1か月を経過することにより契約は終了します(借地借家法38条5項)
三 取壊し予定の建物賃貸借契約
1 取壊し予定の建物賃貸借契約とは
取壊し予定の建物賃貸借契約とは,取壊し予定の建物について建物を取り壊すときに終了する旨の特約がある建物賃貸借契約です(借地借家法39条)。
2 要件
取壊し予定の建物賃貸借契約といえるには以下の要件をみたす必要があります。
①法令又は契約により一定期間経過後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合であること(借地借家法39条1項)
②建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨の特約があること(借地借家法39条1項)
③建物を取り壊すべき事由を記載した書面により合意すること(借地借家法39条
2項)
3 効果
借地借家法39条の特約が有効である場合には,建物を取り壊すときに借家契約が終了します(借地借家法39条1項)。
四 一時使用目的の建物賃貸借契約
1 一時使用目的の建物賃貸借契約とは
一時使用目的の建物賃貸借契約とは,一時使用目的であり,借地借家法の借家契約に関する規定の適用がない建物賃貸借契約です(借地借家法40条)。
2 一時使用目的とは
建物賃貸借契約が「一時使用目的」であるとされるには,建物賃貸借の目的,動機その他諸般の事情から「一時使用」と客観的に判断されなければなりません。
契約期間が短いか長いかで判断されるわけではありませんし,契約書に「一時使用」と記載されていたとしても,それをもって一時使用目的の建物賃貸借契約であると判断されるわけではありません。

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業務上の負傷・病気(業務災害)と解雇
労働者が業務上負傷や病気をして働けなくなった場合,使用者はその労働者を解雇することができるでしょうか?
一 業務災害による療養中の解雇制限
1 労働基準法19条1項
労働基準法19条1項は「使用者は,労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間…は解雇してはならない。ただし,使用者が第81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては,この限りではない。」と規定しており,労働者が業務上負傷や病気をした場合には,療養のために休業する期間及びその後30日間は原則として解雇できません。
業務災害にあって療養中の労働者が解雇されないよう保護するための規定です。
2 「業務上」とは
労働基準法19条の解雇制限は「業務上」負傷または病気になった場合であり,業務災害による場合です。
通勤中に負傷・病気になった場合(通勤災害)は「業務上」ではないため,労働基準法19条の解雇制限の適用はありません。
通勤災害の場合は業務外の傷病として私傷病と同じ扱いになります。
3 「療養」とは
労働基準法19条の「療養」とは,労働基準法,労働災害補償保険法の療養補償・休業補償の「療養」と同じ意味であり,治癒(症状固定)した後の通院等は含まれないと解されています。
そのため,治癒(症状固定)した後に職場復帰できないことを理由に解雇しても,労働基準法19条の解雇制限に違反することにはなりません。ただし,解雇権濫用(労働契約法16条)にあたるか問題となります。
4 「休業」とは
労働基準法19条の「休業」には全部休業だけでなく,一部休業も含むと解されております。
そのため,全く出勤できない場合だけでなく,半日しか出勤できない場合であっても,解雇制限期間中は解雇できないと解されます。
5 「解雇」とは
解雇制限期間中は普通解雇のみならず,懲戒解雇もできないと解されていますが,解雇制限期間満了後に解雇予告の効力が生じるよう解雇制限期間中に解雇予告することはできると解されています。
なお,労働基準法19条は解雇制限規定ですので,定年により労働契約が終了する場合や有期労働契約が期間満了により終了する場合には適用はないと解されます。
6 解雇制限の例外
(1)使用者が打切補償を行った場合
使用者が打切補償を行った場合には労働基準法19条の解雇制限はなくなります(労働基準法19条1項但書前段)。
労働基準法81条は「第75条の規定によって補償を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては,使用者は,平均賃金の1200日分の打切補償を行い,その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」と規定しておりますので,療養開始後3年を経過しても負傷・疾病がなおらない場合に使用者は打切補償が行うことで労働基準法19条の解雇制限をなくすことができます。
労働基準法75条1項は「労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかった場合においては,使用者は,その費用で必要な療養を行い,又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」と規定していますが,労災保険の給付は労働基準法上の災害補償に代わるものといえますから,労働者が労働災害補償保険法による療養補償給付を受けていた場合にも「第75条の規定によって補償を受ける労働者」にあたり,使用者は打切補償をして労働基準法19条の解雇制限を外すことができると解されています。
また,療養開始後3年を経過した日に傷病補償年金を受けている場合やその日以降に労災保険の傷病補償給付を受けることになった場合には打切補償をしたものとみなされますので(労働災害補償保険法19条),その場合にも労働基準法19条の解雇制限はなくなります。
(2)やむを得ない事由により事業の継続が不可能になった場合
天災事変その他やむを得ない事由の為に事業の継続が不可能になった場合に労働基準法19条の解雇制限はなくなります(労働基準法19条1項但書後段)。
その事由について行政官庁の認定を受けなければなりません(労働基準法19条2項)。
二 解雇権濫用規制
労働基準法19条の解雇制限の適用がなくなった場合であっても,労働契約法16条の解雇権濫用規制の適用はありますので,解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には解雇権の濫用にあたり無効となります。
労働者が労務を提供できないことは解雇理由となり得ますが,使用者が復帰支援をする,配置転換で対応する等解雇を回避するための努力をしなかった場合には解雇権の濫用にあたる可能性があります。

東武東上線・有楽町線・副都心線・武蔵野線沿線を中心に、新座市・志木市・朝霞市・和光市などの地域で、離婚・相続・借金問題・交通事故など、暮らしに身近なご相談を多くお受けしています。事前予約で平日夜間や土日祝のご相談にも対応。法律を身近に感じていただけるよう、丁寧な説明と親身な対応を心がけています。お困りごとがあれば、どうぞ気軽にご相談ください。