労働事件では就業規則を確認しましょう

2017-07-14

労働事件では,労働者がどのような労働条件で働いていたのか問題となりますが,労働条件は就業規則の定めによることが通常ですから,就業規則にどのように定められているかが非常に重要となります。

 

一 就業規則とは

就業規則とは,職場の規律や労働条件などについて使用者が定める規則のことです。

就業規則は一つとは限らず,賃金規程や退職金規程等の別規程として定めることもあります。また,正社員,契約社員,パート等従業員の種類ごとに異なる定めをすることも可能です。

就業規則は,労働者や使用者の権利義務関係を明確にするためのものであり,後述のように労働契約の最低限の基準となったり,労働契約の内容を補充したりする等の効力があります。

 

二 就業規則を作成・届出しなければならない場合

常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成し,所轄の労働基準監督署に届け出る義務を負います(労働基準法89条,労働基準法施行規則49条1項)。
「常時10人以上の労働者」がいるかどうかは,企業全体で判断するのではなく,事業場単位で判断します。
「常時10人以上」とは,通常10人以上いるということであり,一時的に10人未満になったことがあったとしても,就業規則作成・届出義務を負います。
また,「労働者」の人数は,正社員だけでなく,契約社員やパート等の非正規社員も含めて判断します。

なお,常時10人未満で就業規則の作成義務がない場合であっても,使用者が就業規則を作成することはできます。作成した場合には労働契約法上の効力が認められます。

 

三 就業規則ではどのようなことを定めるのか

就業規則では,以下の点を定めなければなりません(労働基準法89条)。
①始業・終業の時刻,休憩時間,休日,休暇,労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合は,就業時転換に関する事項
②賃金(臨時の賃金等を除く)の決定,計算,支払の方法,賃金の締切り・支払の時期,昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む)
③の2 退職手当の定めをする場合には,適用される労働者の範囲,退職手当の決定・計算,支払の方法,退職手当の支払の時期に関する事項
④臨時の賃金等(退職手当を除く),最低賃金額の定めをする場合は,これに関する事項
⑤労働者に食費,作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は,これに関する事項
⑥安全・衛生に関する定めをする場合は,これに関する事項
⑦職業訓練に関する定めをする場合は,これに関する事項
⑧災害補償,業務外の傷病扶助に関する定めをする場合は,これに関する事項
⑨表彰・制裁の定めをする場合は,その種類・程度に関する事項
⑩その他当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合は,これに関する事項

 

四 就業規則作成・変更の手順

使用者は,就業規則の作成・変更について,事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合,ない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聴き,その意見を記した書面を添付して所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法90条)。
「過半数代表者」は,①労働基準法41条2号の管理監督者にあたらないこと,②労働基準法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票,挙手等の方法による手続により選出された者であることが必要となります(労働基準法施行規則6条の2)
なお,意見を聴かなければならないとされているだけですので,過半数労働組合や過半数代表者と協議や同意が必要というわけではありません。
また,過半数労働組合や過半数代表者が意見表明を拒んだり,書面を出すことを拒んだりした場合には,意見を聴いたことが証明できれば受理されます。

 

五 就業規則の周知義務

使用者は,就業規則を,①常時各作業所の見やすい場所へ掲示し,または備え付けること,②書面を交付すること,③磁気テープ,磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し,かつ,各作業場に労働者が記録の内容を常時確認できる機器を設置すること(パソコンで就業規則を見ることができるようにしておくこと等)によって,労働者に周知させなければなりません(労働基準法106条1項,労働基準法施行規則52条の2)。

なお,労働者の人数が常時10人未満であり,就業規則の作成・届出義務がない場合であっても,周知義務はあります。

 

六 就業規則の効力

1 就業規則の定めが労働条件の最低限となります。

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については無効となり,無効となった部分は就業規則で定める基準となります(労働契約法12条)。

就業規則で定める労働条件が最低限になるということですから,就業規則よりも労働者に有利な労働条件を労働契約で定めた場合には,労働契約で定めた労働条件が適用されることになります。

 

2 就業規則の定めが労働契約の内容となる場合

労働者と使用者が労働契約を締結する場合に,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていたときには,労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件になります(労働契約法7条本文)。
ただし,労働者と使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた場合には,労働契約法12条に該当する場合を除き,合意した内容になります(労働契約法7条但書)。
就業規則よりも労働者に不利益な合意は労働契約法12条により無効となりますので,労働者に有利な合意をした場合には,その合意の内容が労働契約の内容となります。

 

3 就業規則の変更による労働条件の変更

(1)原則

労働契約の内容である労働条件を変更するには労働者と使用者の合意が必要です(労働契約法8条)。

使用者が就業規則を変更することにより労働者に不利益に変更することは,労働者との合意がなければ原則としてできません(労働契約法9条)。

 

(2)例外

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,
①変更後の就業規則を労働者に周知させ,
②就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更にかかる事情に照らして合理的なものであるときは,
労働契約の内容である労働条件は,変更後の就業規則に定めるところによるものとなります(労働契約法10条本文)。
ただし,労働者と使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については,労働契約法12条に該当する場合を除き,合意した内容になります(労働契約法10条但書)。

 

4 就業規則が法令や労働協約に違反する場合

(1)就業規則と法令・労働協約の関係

就業規則は,法令または当該事業場に適用される労働協約に違反してはなりません(労働基準法92条1項)。
所轄の労働基準監督署長は法令または労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができます(労働基準法92条2項,労働基準法施行規則50条)。
法令(強行法規)や労働協約が就業規則に優越するということです。

 

(2)法令・労働協約に違反する就業規則と労働契約の関係

就業規則が法令または労働協約に違反する場合,違反する部分については,法令・労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約に労働契約法7条,10条,12条の規定は適用されませんので(労働契約法13条),就業規則のうち法令や労働協約に違反する部分については労働契約の内容となることはありません。

労働基準法や労働協約で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については無効となり,無効となった部分は労働基準法や労働協約で定める基準によることになります(労働基準法13条,労働組合法16条)。

 

 

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