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【離婚】離婚事件の検討事項

2017-10-06

離婚事件では,①どうやって離婚するのか(離婚手続),②離婚できるのか(離婚原因),③離婚以外にどういったことを決めるのか(離婚条件),④生活をどうするか,⑤弁護士に依頼する必要があるか考えましょう。

 

一 離婚の手続

1 離婚協議

当事者の協議により離婚することを協議離婚といいます。
離婚協議がまとまった場合,離婚届を作成し,役所に提出します。

 

2 離婚調停

離婚協議がまとまらなかった場合には,家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
①離婚する旨の調停が成立(調停離婚),②調停に代わる審判が確定(審判離婚)することにより離婚できます。

 

3 離婚訴訟

離婚調停で解決しなかった場合,離婚訴訟を提起します。
①離婚を認める判決が確定(判決離婚),②離婚する旨の和解が成立(和解離婚),③被告が請求を認諾(認諾離婚)することにより離婚できます。

 

二 離婚原因

夫婦が合意により離婚する場合には離婚原因は不要ですが,合意ができず,判決で離婚する場合には,離婚原因(民法770条1項)が必要となります。
離婚原因は,①不貞行為,②悪意の遺棄,③3年以上の生死不明,④回復の見込みのない強度の精神病,⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由の5つです。
判決離婚以外の協議離婚,調停離婚,和解離婚等の場合には離婚原因は不要です。
もっとも,離婚協議や離婚調停がまとまらなければ離婚訴訟となり,最終的に離婚原因があれば判決で離婚が認められてしまうため,協議や調停で離婚するかどうかについても離婚原因の有無が影響してきます。
また,離婚原因がない場合,相手方が離婚に応じなければ,離婚できませんので,相手方が離婚を渋っているときには,離婚に応じるよう離婚条件を譲歩しなければならなりますので,離婚原因の有無は離婚条件にも影響してきます。

 

三 離婚条件

離婚をする際には,①親権者の指定,②養育費,③面会交流,④慰謝料,⑤財産分与,⑥年金分割の按分割合を定めることがなります。
このうち①親権者の指定をしなければ離婚することができませんので,離婚と同時に決めなければなりませんが,②から⑥については,離婚後に決めることもできます。

1 親権者の指定

未成年の子がいる夫婦が離婚するときには,その一方を親権者と定めなければなりません。どちらが親権者となるかは夫婦の合意で定めますが,合意ができない場合は裁判所が判断します。
父母の双方が親権を主張している場合,一般的には母親が有利であるといわれていますが,父親が親権者となることがないわけではありません。

 

2 養育費

離婚後に子を監護する親は,監護しない親に対し,養育費の支払を請求することができます。子の親権者が子を監護することが通常であり,親権者がそうでない親に対し養育費の支払を請求するのが通常です。
夫婦双方の収入を基に,簡易算定表や簡易算定方式により算定するのが通常です。

 

3 面会交流

離婚後,夫婦の一方が子を監護しますが,子を監護しない親は,子を監護する親に対し,子との面会交流を求めることができます。

 

4 慰謝料

夫婦の一方の有責行為により離婚に至った場合には,慰謝料請求をすることができます。
慰謝料請求する場合としては,不貞行為やDVがあった場合が考えられます。
性格の不一致が原因で離婚した場合に慰謝料請求することは難しいでしょう。

 

5 財産分与

離婚の時から2年以内であれば,離婚した夫婦の一方は,他方に対し,財産分与請求をすることができます。
財産分与には,①清算的財産分与(夫婦が婚姻中に築いた財産の清算),②扶養的財産分与(離婚後の扶養を考慮した財産分与),③慰謝料的財産分与(慰謝料的な要素を考慮した財産分与)があります。このうち財産分与の中心となるのは①清算的財産分与であり,②,③は補充的に考慮されるにとどまります。
清算的財産分与では,相手方にどのような財産があるか把握する必要があります。

 

6 年金分割

夫婦の一方または双方が婚姻期間中に厚生年金や共済年金に加入している場合には,原則として離婚から2年以内であれば,年金分割請求をすることができます。
年金分割には,①合意分割(当事者が合意または裁判で分割割合を定める年金分割)と②3号分割(第3号被保険者である期間についての年金分割)があります。
②3号分割では,年金分割請求をすれば,自動的に2分の1の割合で按分されるので,按分割合を決める必要はありません。
これに対し,①合意分割については,当事者の合意で按分割合を定めますが,合意ができなければ裁判所が按分割合を定めます。裁判所が按分割合を定める場合,2分の1となることがほとんどです。

 

四 生活をどうするか

1 離婚するまでの間の生活

離婚事件では,夫婦が別居している場合が多いですが,別居中の生活費については,夫婦の一方から他方に対し,婚姻費用分担請求をすることができます。
婚姻費用の分担額は,夫婦双方の収入を基に,簡易算定表や簡易算定方式により算定するのが通常です。

 

2 離婚後の生活

夫婦は,子の監護については別として離婚後は自分の生活は自分で維持しなければなりませんので,仕事,住居,生活費等,離婚後の生活をどうするか予め考えておく必要があります。
離婚後の生活のことを考えないで,離婚や離婚条件を決めてしまうと,離婚後の生活が成り立たず後悔することになりかねません。特に,離婚したいという気持ちが強い場合や自分に離婚原因があるなど後ろめたいことがある場合には,後先を考えずに,相手の言いなりの条件で離婚してしまうことがありますが,後で非常に困ることになります。

 

五 弁護士に依頼するか否か

離婚協議,離婚調停,離婚訴訟の順で弁護士の関与が増えていきます。
協議離婚では弁護士の関与は少ないですし,離婚調停でも弁護士に依頼しない人が多いですが,弁護士に依頼した場合には主張できたはずのことが主張できず,不利な条件で離婚が成立していることが少なくありません。
離婚原因や離婚条件が争いとなっている場合には,弁護士に相談・依頼したほうがよいでしょう。

 

【交通事故】物損 代車使用料

2017-10-05

物損事故にあい,車両の修理期間中または買替期間中,代車を使用した場合,レンタカー代等の代車使用料について損害賠償請求することが考えられます。

 

一 代車使用料が損害と認められる場合

1 代車を使用したこと

代車使用料が損害として認められるには,代車を使用していることが,原則となります。
事故後,修理せずに被害車両を使用している場合等,代車を使用していない場合には,代車使用料が発生しておらず,損害が発生しているとはいえないからです。
もっとも,裁判例には,加害者との間で修理の範囲等について争いがあり,証拠を残すために未修理のまま使用してきたものと認められ,現に訴訟で検証を行っており未修理にしておく必要があったと認められることから,今後修理の際に当然要するはずの代車使用料を損害として否定するのは相当ではないとして,将来分の代車使用料を損害と認めたものがあります。

 

2 代車使用の必要性

代車を使用した場合であっても,代車を使用する必要性がなければ,代車使用料は損害とは認められません。
車両の用途,代替車両の有無,代替交通機関の有無等,具体的な事情から代車を使用する必要性の有無が判断されます。
例えば,被害者が被害車両以外に車両を保有している場合には,代車使用の必要性が否定されることがあります。

 

二 代車が使用できる期間

損害として認められる代車の使用期間は,修理や買替えに必要な相当期間です。
加害者側との交渉期間についても,合理的な範囲で相当期間に含まれます。

実際に代車を使用した全期間についての代車使用料が損害と認められるわけではありませんので,被害者が相当期間を超えて代車を使用している場合には超えた分の代車使用料は被害者が負担しなければなりません。

 

三 代車の種類・グレード

代車は,原則として,被害車両と同程度の車種・グレードのものであれば認められます。
もっとも,被害車両が高級外国車の場合には,国産高級車の使用料の限度で損害と認められる傾向にあります。

【民事訴訟】債務不存在確認訴訟

2017-10-03

貸金返還請求や損害賠償請されている事案で債務の存在や金額について争いがある場合に,請求されている側から紛争の解決を求める手段として,債務不存在確認訴訟があります。

 

一  債務不存在確認訴訟とは

債務不存在確認訴訟とは,債務が存在しないことの確認を求める訴訟です。
債務の存在や金額について当事者間に争いがある場合,請求する側(債権者)が債務の履行を求めて訴訟(給付訴訟)を提起するのが通常ですが,債権者が訴訟を提起しようとしないときに,請求される側(債務者)のほうから紛争を解決する手段がなければ,債務者は,いつまでも紛争が解決せず,不安定な立場におかれることになってしまいます。
そのような場合に債務者から紛争を解決する手段として,債務不存在確認訴訟があります。

債務不存在確認訴訟では,債務者が原告,債権者が被告となり,給付訴訟とは原告・被告が逆になります。給付訴訟では債権者(原告)が権利の発生を根拠づける事実を主張立証しなければなりませんので,債務不存在訴訟でも債権者(被告)が債務の発生を根拠づける事実を主張立証しなければなりません。
また,債務不存在確認訴訟では,被告(債権者)の主張が認められても,債務の履行を求められるわけではありませんので,被告(債権者)が原告(債務者)に対し債務の履行を求める場合には,給付訴訟を提起する必要があります。

 

二 債務の特定

債務不存在確認訴訟では,争いの対象となる債務を特定する必要があります。
そのため,「原告被告間の○○年○○月○○日付○○契約に基づく原告の被告に対する元金○○○万円の債務が存在しないことを確認する。」(債務全体について争う場合),「原告被告間の○○年○○月○○日付○○契約に基づく原告の被告に対する元金○○○万円の債務が○○万円を超えて存在しないことを確認する。」(債務の一部を認めている場合)といったように,請求の趣旨に債務の発生原因と金額を記載して,争いの対象となる債務を特定するのが原則です。
もっとも,債務者では債務の金額がわからない場合もありますので,「原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故による損害賠償債務が存在しないことを確認する。」といったように,債務の発生原因だけを記載して,債務の額を記載しないこともできます。

 

三 確認の利益

1 債務の存在について争いがあること

債務不存在確認訴訟を提起するにあたっては,訴えの利益(確認の利益)がなければなりませんので,原告・被告間で債務の存在について争いがあることが必要となります。

 

2 反訴提起された場合

債務不存在確認訴訟よりも給付訴訟のほうが紛争の解決につながります。
そのため,給付訴訟の被告(債務者)が反訴として債務不存在確認訴訟を提起することは,確認の利益を欠くので認められません。
また,債務不存在確認訴訟の被告(債権者)が反訴として給付訴訟を提起し,反訴が認容される場合には,本訴である債務不存在確認訴訟については確認の利益がないことになり,訴えが却下されます。

 

3 濫用的な場合

交通事故の被害者が損害額の把握ができておらず,訴訟の準備ができていない状況で加害者が債務不存在確認訴訟を提起した場合等,債務者が濫用的に債務不存在確認訴訟を提起した場合には,確認の利益が否定される可能性があるでしょう。

 

四 判決

1 請求の趣旨で債務の金額が明示されている場合

例えば,原告が100万円の債務が存在しないこと求めている場合に,裁判所が50万円の債務が存在すると判断したときは,債務は50万円を超えて存在しないことを確認する旨の一部認容判決がなされます。
これに対し,裁判所が150万円の債務が存在すると判断した場合には,処分権主義の観点より,原告が確認を求めている範囲を超えて判決を出すことはできませんので,請求が棄却されます。

 

2 請求の趣旨で債務の金額の明示がない場合

原告が債務の金額を明示せずに債務の不存在の確認を求めている場合に,裁判所が債務が存在すると判断したときは,事案によって,請求棄却の判決がなされることもあれば,債務の額を確定する一部認容判決がなされることもあります。

 

五 まとめ

以上のように,債務の存在や金額について争いがある場合,債務者は債務不存在確認訴訟を提起することで紛争を解決することができます。
債務の存在や金額に争いがあり,話合いでの解決が困難であるにも関わらず,債権者が債務者の根負けを狙って,訴訟提起することなく,執拗に請求を繰り返す場合には,債務者側は債務不存在確認訴訟の提起を検討しましょう。

【離婚】財産分与の請求期間(離婚の時から2年間)

2017-09-28

離婚に伴う財産分与は離婚後に請求することもできますが,財産分与請求には請求期間がありますので,請求期間を過ぎないよう注意しましょう。

 

一 財産分与の請求期間

1 離婚後2年以内

財産分与についての協議が調わないとき又は協議ができないときは,家庭裁判所に協議に代わる処分の請求をすることができますが,離婚の時から2年を経過すると請求できなくなります(民法768条2項)。
そのため,財産分与の調停や審判の申立ては離婚の時から2年以内にしなければなりません。
離婚後2年以内に申立てをしていれば,調停の成立や審判の確定が離婚後2年を経過してもかまいませんが,申立てを取り下げた時点で離婚から2年を経過していると再度の申立てができなくなるので注意しましょう。

なお,離婚後2年を経過している場合,財産分与調停ではなく,離婚後の紛争調整調停の申立てをすることは可能ですが,一般調停事件であり,調停が不成立になっても審判には移行しませんので,相手方が調停に応じない場合には,財産分与を受けることは難しいでしょう。

 

2 除斥期間

離婚の時から2年の期間は,消滅時効期間ではなく,除斥期間であると解されています。
そのため,時効の中断の規定(民法147条)や催告の規定(民法153条)の適用はありません。
ただし,財産分与契約が錯誤無効となる場合に民法161条(時効の停止についての規定)を類推適用する余地があるとする裁判例があります。

 

二 財産分与の協議・調停・和解成立後,審判・判決確定後の消滅時効

財産分与により,当事者の一方が他方に金銭を支払うことになった場合,金銭の支払をいつまで請求できるかについては消滅時効の問題となります。
財産分与の協議成立による場合には,民法167条1項により消滅時効期間は10年となります。
また,調停成立,審判確定,訴訟上の和解成立,判決確定による場合には,民法174条の2第1項により消滅時効期間は10年となります。

 

三 まとめ

財産分与請求は離婚後にすることもできますが,離婚後2年間が経過すると請求することができなくなります。
そのため,財産分与請求を考えている場合には,できる限り離婚と同時に財産分与についても解決しておいた方がよいでしょう。

【労働問題】固定残業代

2017-09-21

会社が固定残業代制度を採用している場合,労働者は時間外労働をしても残業代を請求できないのでしょうか。

 

一 固定残業代制度とは

固定残業代制度とは,実際の時間外労働の有無にかかわらず,一定時間分の時間外労働等をしたものとみなして,定額の割増賃金を支給する制度です。定額残業代,みなし残業代とも呼ばれています。
残業代を定額で支払うことも労働基準法37条により算定した割増賃金額を下回らない限り適法であるとされているため,残業代の抑制や事務処理上の便宜から固定残業代制度が採用されています。

 

二 固定残業代制度を採用している場合の残業代請求

残業代を固定額で支払うこともできますが,労働基準法37条に違反することはできません。
そのため,実際の労働時間に基づいて算定される割増賃金額が固定残業代の額を超える場合には,労働者は使用者に対し,その差額の支払を請求することができます。
例えば,基本給16万円,固定残業代4万円,1か月の所定労働時間160時間の場合,1時間当たりの割増賃金額は1250円となり,40時間の時間外労働をした場合には未払残業代は1万円となります。

計算式
・割増賃金単価
16万円÷160時間×1.25=1250円/時間
・未払残業代
1250円/時間×40時間-4万円=1万円

 

三 固定残業代が有効となるための要件

1 固定残業代支払の合意があること

(1)合意の存在

固定残業代制度を採用するには,使用者と労働者との間で固定残業代を支払うことの合意がなければなりません。
そのため,労働契約や就業規則等において,使用者と労働者の間で,固定残業代の支払があることを定めておく必要があります。

(2)合意が公序良俗に違反しないこと

①通常の労働時間についての賃金が著しく低額であり,固定残業代の額が多額である場合や,②固定残業代の基となる時間外労働時間が長すぎる場合には,固定残業代制度が公序良俗に違反するものとして無効と判断される可能性があります。

 

2 通常の労働時間についての賃金と明確に区別ができること

(1)差額の算定ができるようにするため

実際の労働時間に基づいて算定される割増賃金額が固定残業代の額を超える場合には,労働者は使用者に対しその差額の支払を請求することができますが,そのためには通常の労働時間についての賃金と割増賃金に相当する部分が明確に区別されていなければなりません。
そこで,固定残業代として有効となるには,通常の労働時間についての賃金と割増賃金に相当する部分が明確に区別ができることが必要です。

(2)基本給の中に含まれているとの主張

労働者が残業代を請求した場合に,使用者が基本給の中に割増賃金が含まれていると主張することがあります。
その場合,例えば,「基本給のうち○万円は○○時間分の時間外手当として支給する」といったように,割増賃金額が算定できるよう明確に区別されていればよいですが,単に「基本給の中に割増賃金が含まれている。」というだけでは使用者の主張は認められないでしょう。

(3)固定残業代を手当として支給する場合

使用者が固定残業代を手当として支給する場合,その手当が固定残業代の趣旨であることが分からなければなりません。
手当が割増賃金の趣旨であるかどうかわからない場合や,手当に割増賃金以外の性質のものも含まれていると解される場合には,明確な区別ができているとはいえないので,固定残業代とは認められないでしょう。

 

3 差額支払の合意や実態があること

実際の労働時間に基づいて算定される割増賃金額と固定残業代の額との差額を支払う旨の合意がない場合や,差額を支払っているという実態もない場合には,固定残業代制度が無効と判断されることがあります。
差額支払の合意や実態がない場合には,使用者は,労働時間の把握や割増賃金の算定をしておらず,そもそも割増賃金を支払う意思がないものと解されるため,固定残業代制度自体が無効と判断される可能性があります。

 

四 固定残業代が無効となる場合

固定残業代制度が無効となる場合,固定残業代の手当相当額を基礎賃金に組み入れて割増賃金を算定することになります。
例えば,基本給16万円,固定残業代4万円,1か月の所定労働時間160時間の場合,固定残業代が無効となるときには,1時間当たりの割増賃金額は1562.5円となり,40時間の時間外労働をした場合には未払残業代は6万2500円となります。

計算式
・割増賃金単価
(16万円+4万円)÷160時間×1.25=1562.5円/時間
・未払残業代
1562.5円/時間×40時間=6万2500円

 

五 まとめ

使用者が固定残業代制度を採用している場合であっても, 実際の労働時間に基づいて算定される割増賃金額が固定残業代の額を超えるときには,労働者はその差額を請求することができます。
その際,固定残業代制度の有効性が問題となり,有効となるか無効となるかによって,未払残業代の額が大きく異なります。

【離婚】再婚と養育費の減額

2017-09-14

離婚して養育費の支払額を決めた後に,養育費の支払を受ける側(権利者)が再婚した場合,養育費を支払っている側(義務者)は権利者に対し養育費の減額を請求することができるでしょうか。

また,義務者が再婚した場合,義務者は権利者に対し養育費の減額を請求することができるでしょうか。

 

一 養育費の増額・減額請求

民法880条は「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは,家庭裁判所は,その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる」と規定しており,養育費の場合も「事情の変更」があれば,養育費を増額または減額することができます。
「事情の変更」とは養育費を決めた当時予測できなかった事情が発生したことであり,収入の増減,病気やケガ,家庭環境の変動,進学による教育費の増加等があった場合です。

養育費の増額・減額をするには,当事者間で協議して養育費の額を変更する合意をするか,家庭裁判所に養育費の増額請求または減額請求の調停または審判を申し立てます。

 

二 権利者が再婚した場合

1 再婚相手が子と養子縁組をしない場合

権利者が再婚したけれども,再婚相手が子と養子縁組をしていない場合には,義務者は子の扶養義務を免れません。
そのため,権利者が再婚したというだけでは事情の変更があったとはいえず,他に事情の変更がなければ養育費の減額は難しいでしょう。

 

2 再婚相手が子と養子縁組をした場合

再婚相手が子と養子縁組をした場合には,養親となった再婚相手は子の扶養義務を負います。
その場合,養親が第1次的に子の扶養義務を負い,実親である義務者の扶養義務は2次的なものとなりますので,養親の経済状況によって義務者は養育費支払の免除や減額が認められるでしょう。

 

三 義務者が再婚した場合

1 再婚相手が働いていない場合

再婚相手が働いておらず,無収入の場合には,義務者は再婚相手を扶養する義務を負います。また,義務者と再婚相手との間に子ができた場合には,義務者はその子を扶養する義務を負います。
そのため,養育費を決めた時に予測できた場合を除き,義務者が再婚したことや再婚相手との間に子ができたことは事情の変更にあたり,養育費の減額ができるでしょう。

 

2 再婚相手が働いている場合

再婚相手が働いており,自分の生活をまかなえる程度の収入がある場合には,養育費の算定において,再婚相手の扶養を考慮する必要はないでしょう。
再婚相手との間に子ができた場合には義務者はその子の扶養義務を負いますので,養育費を決めた時に予測できた場合でなければ事情の変更にあたり,養育費の減額が認められるでしょう。その際,再婚相手も子を扶養する義務を負いますので,再婚相手の収入も考慮されるでしょう。

【離婚】離婚せずに不貞の慰謝料請求をする場合に考えておくこと

2017-09-08

夫婦の一方が不貞行為をした場合であっても,不貞行為をされた側は,①小さい子がいるので離婚できない,②オーバーローンの自宅があり,離婚に伴い処分すると負債だけが残るので,離婚したくても離婚できない,③専業主婦であり,離婚したら生活が成り立たない等,さまざまな理由から,離婚しないという選択をすることが少なくありません。

その場合,せめて配偶者の不倫相手に慰謝料請求をしたいと考えるかもしれませんが,離婚せずに慰謝料請求する場合には,どのようなことに気を付けておくべきでしょうか。

 

一 不貞行為の慰謝料請求

不貞行為(配偶者以外の者と肉体関係をもつこと)は婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害する行為であり不法行為となります。
そのため,不貞行為をされた配偶者は,不貞行為をした配偶者とその不倫相手に対し,不貞行為により精神的苦痛を被った慰謝料請求をすることができます。
もっとも,離婚せず,今後も婚姻関係を継続していく場合には,夫婦は経済的に一体であるので,実際には不貞行為をした配偶者に対し慰謝料請求しないことが多いのではないでしょうか。

 

二 離婚する場合としない場合で慰謝料請求には,どのような違いがあるか

1 慰謝料額

不貞行為の慰謝料額については,不貞行為の期間,不貞行為の態様,不貞行為への主導性,婚姻生活の状況,婚姻関係破綻の有無,請求者側の落ち度の有無等様々な事情を考慮して決まります。
慰謝料額について統一的な基準があるわけではありませんが,不貞行為が原因で離婚に至った場合と離婚に至らなかった場合を比較すると,一般的には,離婚に至った場合のほうが,精神的苦痛が大きいと考えられますので,離婚しない場合の慰謝料額は,離婚した場合より低くなる傾向にあります。
慰謝料額の大まかな目安は,具体的な事情にもよりますが,離婚に至った場合には,200万円から300万円,離婚に至らなかった場合には100万円から150万円ほどになることが多いものと思われます。

 

2 求償

不貞行為は,不貞行為をした配偶者とその不倫相手の共同不法行為であり,両者の損害賠償債務は不真正連帯債務となります。共同不法行為の場合,被害者は各共同不法行為者に損害賠償額全額を請求できますが,共同不法行為者の一人が自分の負担部分を超えて支払った場合には,他の共同不法行為者に求償することができますので,不倫相手のみに慰謝料を請求して支払わせたときには,不倫相手は不貞行為をした配偶者に求償することができます。
離婚せず,婚姻関係を続けようと考えている場合,不倫相手に慰謝料を支払わせた後に不倫相手から求償があると,最終的な解決が長引き,夫婦関係に悪影響が生じかねません。
不倫相手に慰謝料請求はするが,夫に対して求償されたくないときには,求償しないことを条件として慰謝料額を相当程度減額して和解することが多いでしょう。

 

3 夫婦関係への影響

離婚しないで婚姻関係を継続しようと考えている場合,不倫相手に慰謝料請求をするときには夫婦関係への影響を考慮する必要があります。
不倫相手に慰謝料請求をすることで,不倫相手が配偶者から離れ不倫関係が終了することも多いでしょうが,場合によっては,不倫相手に慰謝料請求をして争っていることで夫婦関係が悪化し,離婚に至ってしまうこともないわけではありません。
この点については,一概には言えませんが,具体的な状況を見て対応を検討するほかないでしょう。

 

三 まとめ

離婚をしない場合,不貞行為をした配偶者との婚姻関係が続いていくことになります。
不貞行為は不貞行為した配偶者とその不倫相手の共同不法行為であり,不倫相手だけに慰謝料請求をした場合であっても,不貞行為をした配偶者が無関係というわけではありません。
そのため,不倫相手に慰謝料請求をする場合には,弁護士に相談・依頼する等して慎重に対応したほうがよいでしょう。

【離婚】不貞行為による慰謝料と離婚による慰謝料

2017-09-05

妻が夫の不倫相手に慰謝料請求をし,その後に離婚した場合,妻は夫と不倫相手に対し,離婚による慰謝料を請求することができるでしょうか。

 

一 不貞行為による慰謝料

不貞行為(配偶者以外の者と肉体関係をもつこと)は婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害する行為であり不法行為となります。
そのため,不貞行為をされた配偶者は,不貞行為をした配偶者とその不倫相手に対し,不貞行為により精神的苦痛を被った慰謝料請求をすることができます。
ただし,肉体関係をもった時点で婚姻関係が破綻していた場合には,婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益がありませんので,特段の事情がない限り不法行為とはなりません。

 

二 離婚による慰謝料

夫婦の一方の有責行為により離婚することになった場合,慰謝料請求をすることができます。
離婚による慰謝料としては,①離婚原因となった有責行為(不貞行為等)から生じた精神的苦痛の慰謝料と②離婚したことによる精神的苦痛の慰謝料があります。
①,②のいずれを根拠とするか余り区別はされていませんが,消滅時効や遅延損害金の起算点に影響はあるでしょう。

 

三 不貞行為による慰謝料請求をした後に離婚する場合

不貞行為による慰謝料請求をした後に離婚する場合,改めて離婚による慰謝料請求をすることはできるでしょうか。
広島高等裁判所平成19年4月17日判決は,妻が夫とその不倫相手を被告とする慰謝料請求訴訟(前訴)の判決確定後に離婚による慰謝料請求訴訟(後訴)を提起した事案について,①前訴と後訴では訴訟物が異なるため,前訴の既判力は後訴には及ばないとしつつ,②前訴では不貞行為および婚姻関係が破綻したことによる精神的苦痛に対する慰謝料請求をしているので,新たな精神的苦痛は生じていないと判断しました。
この裁判例からすれば,不貞行為による慰謝料請求について,未だ婚姻関係が破綻していないとして低額の慰謝料しか認められなかった場合には,婚姻関係が破綻したことによる精神的苦痛の慰謝料は含まれていませんので,その後,婚姻関係が破綻し離婚に至った場合には,改めて離婚による慰謝料請求をすることはできるのではないかと考えられます。

なお,平成31年2月19日の最高裁判所の判決で,不倫相手に対しては,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料請求はできないとされました。

【民事訴訟】訴状を受け取ったとき,被告はどう対応すべきか

2017-09-01

原告が訴訟を提起すると,裁判所は,被告に訴状の副本と第一回口頭弁論期日の呼出状等の書類を送ってきます。

被告が何もしないで放置していると欠席判決になり,原告の請求が認められ,強制執行により財産の差押え等を受けるおそれがありますので,被告としては無視しておくことはできません。訴状を受け取った場合,被告としては,どのように対応をすべきでしょうか?

一 答弁書の作成・提出

被告は,答弁書を作成して,第一回口頭弁論期日前に裁判所に提出しなければなりません(民事訴訟規則79条1項)。また,原告にも答弁書を送ります(民事訴訟規則83条)。

答弁書を提出せず,第一回口頭弁論期日に欠席すると,欠席判決となり,原告の請求内容がそのまま認められてしまうのが通常ですから,答弁書の提出は忘れないようにしましょう。
答弁書は,裁判所から送られてきた用紙に記入して作成することもできますが,自分で必要事項を記載して作成することもできます。答弁書の記載内容は訴訟の結果に影響しますので,答弁書にどのようなことを記載すべきか分からない場合には,弁護士に相談や依頼をしたほうがよいでしょう。

また,答弁書の提出は,第1回口頭弁論期日の前に提出しておきましょう。できる限り指定された提出期限までに提出すべきなのはいうまでもありませんが,間に合わないからといって当日持参しようとすると,期日に出席できなかったり,遅刻した場合に,答弁書の提出のないまま第1回口頭弁論期日に欠席したものと扱われ,欠席判決になってしまいます。その場合,争うには控訴しなければなりません。

 

二 第1回口頭弁論期日への出席

裁判所から第1回口頭弁論期日を指定した呼出状が送られてきますので,指定された期日に出席しましょう。
ただし,第1回口頭弁論期日より前に答弁書を提出しておけば,期日に欠席しても答弁書の記載内容を陳述したものと擬制されますので(民事訴訟法158条),出席しないこともできます。

 

三 弁護士への相談・依頼

被告本人で訴訟に対応することも可能ですが,弁護士に相談し,できれば依頼したほうがよいでしょう。弁護士に依頼することには,以下のようなメリットがあります。

 

1 適切な主張や証拠の提出

訴訟では,どのような主張をし,どのような証拠を提出するかによって,結果が変わってきます。本来であれば勝訴できる場合であっても,適切な主張や証拠を提出しないために敗訴することもあります。
適切な主張や証拠の提出をするには,法律や訴訟についての専門知識や経験が必要であり,弁護士に依頼せず,本人だけで行うことは難しいでしょう。
分からないことがあれば裁判所に聞けばよいと思われるかもしれませんが,裁判所は公正中立の立場で当事者に接しますので,基本的に一方当事者の肩を持つことはしませんから,裁判所がどうすればよいか教えてくれることは期待できません。自分の権利は自分で守らなければなりませんので,自分の権利を守るために,弁護士に依頼したほうがよいでしょう。

 

2 訴訟の準備の負担を軽減できる

被告は,答弁書や準備書面の作成・提出,証拠の提出等,訴訟の準備をしなければなりませんが,弁護士に依頼すれば,弁護士がこれらを行います。
弁護士に依頼したからといって,弁護士に任せきりでよいわけではなく,弁護士との打合せや,どういった事実があったのか記載したメモの作成,証拠を探してくる等,本人も活動しなければなりませんが,一人で全部抱えるよりも負担が大幅に軽減されます。

 

3 期日に出席しないで済む

仕事で忙しく裁判所に行くのが難しい場合や,裁判所に行くたくない場合には,弁護士に依頼すれば,弁護士が代理人として期日に出席しますので,基本的に本人は裁判所にいかなくて済みます。
当事者の尋問がある場合には当事者本人の出席が必要となりますし,和解期日に本人の出席が求められることもありますので,弁護士に依頼したからとって全く裁判所にいかないで済むとは限りませんが,出席しないで訴訟が終わることもありますし,毎回出席しないで済みますので,本人の負担は大幅に軽減されます。
なお,弁護士に依頼した場合であっても,本人が出席することは当然できます。

【交通事故】家事従事者の休業損害

2017-08-29

専業主婦等の家事従事者が交通事故により負傷して家事ができなくなった場合,休業損害が認められるでしょうか。

 

一 家事従事者に休業損害が認められるか

家事従事者とは,家事労働に従事する人のことです。性別,年齢は問いませんので,男性であっても家事従事者にあたりますし,高齢者であっても家事従事者にあたります。また,専業主婦だけでなく,兼業主婦であっても家事従事者にあたります。

家事従事者には現実に金銭収入はありませんが,家事労働は労働社会において金銭的に評価されるものであり,他人に依頼すれば相当の対価を支払わなければならないものですから,家事労働には経済的な利益があるといえます。
そのため,負傷により家事労働ができなかった期間がある場合,その期間について財産上の損害を被ったといえますので,休業損害が認められます。

 

二  一人暮らしの場合

一人暮らしの場合でも休業損害を認めた裁判例もないわけではありませんが,「家事労働」といえるには同居の家族等他人のために家事をしていることが必要であり,一人暮らしで自分の身の回りのことをしているだけでは「家事労働」と評価されず,休業損害が認めらない場合がほとんどです。
なお,一人暮らしの人が交通事故にあって家事ができず,家政婦を雇った場合には,その家政婦の費用が損害と認められることはあります。

 

三 家事従事者の休業損害の算定方法

休業損害額は1日当たりの基礎収入額に休業期間を乗じて算定します。
家事従事者の場合,休業損害額はどのように算定するのでしょうか。

 

1 基礎収入

(1)専業主婦の場合

家事従事者の基礎収入は,通常,賃金センサス第1巻第1表の産業計,企業規模計,学歴計,女性労働者の全年齢平均の賃金額(高齢者の場合には年齢別の平均賃金)を基礎収入として,休業損害を算定します。
例えば,平成27年の賃金センサスの女性労働者の平均賃金額は372万7100円ですので,1日当たりの基礎収入は,1万0211円(=372万7100円÷365)となります。

 

(2)兼業主婦の場合

パート等外で仕事をしながら,家事をしている兼業主婦の場合には,現実の収入額と女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方の金額を基礎収入として休業損害を計算します。

 

(3)主夫(男性家事従事者)の場合

男性が家事労働を行う場合と女性が家事労働を行う場合とで経済的価値に違いがあるとはいえません。
そのため,男性の家事従事者の場合も,女性労働者の平均賃金額を基礎収入として,休業損害額を計算します。

 

(4)高齢者の場合

高齢者の家事労働は通常の主婦より労働量が少なく,経済的価値が低めに評価されることがあります。
高齢者の場合,女子労働者の全年齢平均ではなく,年齢別の平均賃金を基礎収入として休業損害を算定することがあります。また,平均賃金の何割を基礎収入として休業損害を算定することもあります。

 

2 休業期間

受傷日から治療終了日(症状固定日)までの期間のうち負傷により家事労働ができなかった期間が休業期間となります。
負傷の内容や程度が重大な場合には,受傷日から治療終了日(症状固定日)までの全期間が休業期間となることもありますが,むち打ち症等,負傷の内容や程度が重大とはいえない場合には,治療終了日(症状固定日)まで全く家事労働ができないということはないでしょうから,全期間が休業期間となるわけではありません。
家事従事者の場合には,給与所得者の休業損害証明書のように休業日数を把握する資料はありませんので,休業期間をどのように算定するかは難しい問題です。
例えば,①症状固定日までの期間の○○%,②入院期間中は100%,退院後,○か月間は○○%,その後は○○%というように,家事労働ができない割合を段階的に逓減させる等して,休業損害を計算することがあります。この割合については特段基準はありませんので,具体的な事情を基に合理的な割合を主張していくことになります。

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