【労働問題】固定残業代

2017-09-21

会社が固定残業代制度を採用している場合,労働者は時間外労働をしても残業代を請求できないのでしょうか。

 

一 固定残業代制度とは

固定残業代制度とは,実際の時間外労働の有無にかかわらず,一定時間分の時間外労働等をしたものとみなして,定額の割増賃金を支給する制度です。定額残業代,みなし残業代とも呼ばれています。
残業代を定額で支払うことも労働基準法37条により算定した割増賃金額を下回らない限り適法であるとされているため,残業代の抑制や事務処理上の便宜から固定残業代制度が採用されています。

 

二 固定残業代制度を採用している場合の残業代請求

残業代を固定額で支払うこともできますが,労働基準法37条に違反することはできません。
そのため,実際の労働時間に基づいて算定される割増賃金額が固定残業代の額を超える場合には,労働者は使用者に対し,その差額の支払を請求することができます。
例えば,基本給16万円,固定残業代4万円,1か月の所定労働時間160時間の場合,1時間当たりの割増賃金額は1250円となり,40時間の時間外労働をした場合には未払残業代は1万円となります。

計算式
・割増賃金単価
16万円÷160時間×1.25=1250円/時間
・未払残業代
1250円/時間×40時間-4万円=1万円

 

三 固定残業代が有効となるための要件

1 固定残業代支払の合意があること

(1)合意の存在

固定残業代制度を採用するには,使用者と労働者との間で固定残業代を支払うことの合意がなければなりません。
そのため,労働契約や就業規則等において,使用者と労働者の間で,固定残業代の支払があることを定めておく必要があります。

(2)合意が公序良俗に違反しないこと

①通常の労働時間についての賃金が著しく低額であり,固定残業代の額が多額である場合や,②固定残業代の基となる時間外労働時間が長すぎる場合には,固定残業代制度が公序良俗に違反するものとして無効と判断される可能性があります。

 

2 通常の労働時間についての賃金と明確に区別ができること

(1)差額の算定ができるようにするため

実際の労働時間に基づいて算定される割増賃金額が固定残業代の額を超える場合には,労働者は使用者に対しその差額の支払を請求することができますが,そのためには通常の労働時間についての賃金と割増賃金に相当する部分が明確に区別されていなければなりません。
そこで,固定残業代として有効となるには,通常の労働時間についての賃金と割増賃金に相当する部分が明確に区別ができることが必要です。

(2)基本給の中に含まれているとの主張

労働者が残業代を請求した場合に,使用者が基本給の中に割増賃金が含まれていると主張することがあります。
その場合,例えば,「基本給のうち○万円は○○時間分の時間外手当として支給する」といったように,割増賃金額が算定できるよう明確に区別されていればよいですが,単に「基本給の中に割増賃金が含まれている。」というだけでは使用者の主張は認められないでしょう。

(3)固定残業代を手当として支給する場合

使用者が固定残業代を手当として支給する場合,その手当が固定残業代の趣旨であることが分からなければなりません。
手当が割増賃金の趣旨であるかどうかわからない場合や,手当に割増賃金以外の性質のものも含まれていると解される場合には,明確な区別ができているとはいえないので,固定残業代とは認められないでしょう。

 

3 差額支払の合意や実態があること

実際の労働時間に基づいて算定される割増賃金額と固定残業代の額との差額を支払う旨の合意がない場合や,差額を支払っているという実態もない場合には,固定残業代制度が無効と判断されることがあります。
差額支払の合意や実態がない場合には,使用者は,労働時間の把握や割増賃金の算定をしておらず,そもそも割増賃金を支払う意思がないものと解されるため,固定残業代制度自体が無効と判断される可能性があります。

 

四 固定残業代が無効となる場合

固定残業代制度が無効となる場合,固定残業代の手当相当額を基礎賃金に組み入れて割増賃金を算定することになります。
例えば,基本給16万円,固定残業代4万円,1か月の所定労働時間160時間の場合,固定残業代が無効となるときには,1時間当たりの割増賃金額は1562.5円となり,40時間の時間外労働をした場合には未払残業代は6万2500円となります。

計算式
・割増賃金単価
(16万円+4万円)÷160時間×1.25=1562.5円/時間
・未払残業代
1562.5円/時間×40時間=6万2500円

 

五 まとめ

使用者が固定残業代制度を採用している場合であっても, 実際の労働時間に基づいて算定される割増賃金額が固定残業代の額を超えるときには,労働者はその差額を請求することができます。
その際,固定残業代制度の有効性が問題となり,有効となるか無効となるかによって,未払残業代の額が大きく異なります。

 

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