【成年後見】後見開始の審判の申立て
高齢で認知症になる等して,判断能力がなくなった場合には,ご本人で身の回りのことや財産の管理を行うことができなくなってしまいます。
そのような場合には,家庭裁判所に申立てをして成年後見人を選任してもらい,後見人に,本人の身上監護や財産管理をしてもらうことが考えられます。
そこで,成年後見をお考えの方のために,申立手続について簡単にご説明します。
1 後見の開始
成年後見を開始するには,家庭裁判所に成年後見開始の審判の申立てをします。
家庭裁判所が後見開始の審判をすると,後見が開始します(民法838条2号)。
後見開始の審判がされると後見人が選任されます(民法843条1項)。
2 被後見人
成年後見の対象となる「本人」のことを被後見人といいます。
後見開始が開始するのは,本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」場合です(民法7条)。
簡単にいうと,本人に判断能力が全くない場合です。
判断能力の有無については,審判を申し立てるにあたって提出する診断書や,申立後に行われる鑑定により判断されます。
診断にあたっては,長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式テスト,HDS-R)が用いられることがよくあります。
判断能力の程度によっては,後見ではなく,保佐や補助になることがあります。
3 後見人
(1)誰が後見人になるのか
後見人は家庭裁判所が選任しますが(民法843条1項),「成年後見人を選任するには,成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無),その他一切の事情を考慮しなければならない。」とされております(民法843条4項)。
また,民法847条は後見人の欠格事由を規定しており,欠格事由に該当する場合には後見人になることはできません。
審判の申立てをするにあたって,申立書に後見人候補者を記載することができます。
そのため,申立人が,自身を後見人候補者として,申立てをすることもできます。
ただし,誰を後見人に選任するかは裁判所が決めますので,申立人が希望する後見人候補者が後見人に選任されるとは限りません。
事案によっては,弁護士等の専門家が,後見人として選任されます。
また,法人が後見人となることもできますし(民法843条4項),後見人が
複数人選任されることもあります(民法843条3項)。
なお,事案によっては,後見監督人が選任されることもあります(民法849条)。
(2)後見人の職務と権限
後見人は,被後見人の身上監護及び財産管理に関する事務を行います(民法858条,859条)。
その職務を行うため,後見人は以下の権限を有します。
①代理権
後見人は,被後見人の財産に関する法律行為について代理権を有します(民法859条1項)。
ただし,以下の規定や制度があります。
ア 居住用不動産の売却等の処分をするには,家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。
イ 後見監督人がいる場合,後見人が被後見人に代わって営業をする等一定の行為をする場合には,後見監督人の同意を得なければなりません(民法864条)。
ウ 後見人と被後見人の利益が反するときは,後見監督人がいるときは,後見監督人が被後見人の代理人となりますし(民法851条4号),後見監督人がいない場合には,特別代理人の選任を請求しなければなりません(民法860条,826条)。
エ 後見制度支援信託といって,後見人が本人の財産を信託銀行等に信託し,信託銀行等が後見人に対して生活に必要な金銭を定期金として分割交付する制度があります。
②取消権
後見人は「日用品の購入その他日常生活に関する行為」を除き,被後見人のした法律行為を取り消すことができます(民法9条,民法120条1項)。
法律行為というのは,法律上の効果が生ずる行為のことで,契約などがこれに当たります。
なお,後見人は,被後見人のした法律行為を追認することもできます(民法122条)。
4 手続について
(1)手続の流れ
①申立権者が,管轄裁判所に,後見開始の審判の申立てをします。
申立書やその他の必要書類を提出し,手続費用を納付します。
なお,申立てをすると,裁判所の許可を得なければ取り下げることはできないので,ご注意ください。
②家庭裁判所の調査や鑑定が行われます(なお,事案によっては鑑定は行われないこともあります。)。
③審判が出されます。
④後見開始の審判が確定した場合には,後見登記がなされます。
(2)申立権者
本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人,検察官は申立てができます(民法7条)。
任意後見契約が登記されている場合は,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人も申立てができます(任意後見契約法10条2項)。
市町村長が申立できる場合もあります。
(3)管轄裁判所
本人の住所地の家庭裁判所です(家事手続法117条1項)。
例えば,本人が埼玉県新座市,志木市,朝霞市,和光市にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所が管轄裁判所になりますが,本人が埼玉県富士見市,ふじみ野市,三芳町にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所川越支部が管轄裁判所になります。
(4)手続費用
申立手数料として収入印紙,予納郵便切手,登記手数料として収入印紙が必要となります。
また,鑑定を行う場合は,鑑定費用が必要となります。
詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。
(5)必要書類
申立書のほか,本人や候補者の事情説明書,本人の戸籍謄本,本人の住民票又は戸籍の附票,本人の登記されていないことの証明書,診断書(成年後見用)と診断書別紙,本人の健康状態が分かる資料,財産目録,本人の収支,財産の資料(通帳の写し,遺産分割が問題となる事案では遺産目録等),候補者の戸籍謄本,候補者の住民票又は戸籍の附票,候補者が法人である場合には商業登記簿謄本,親族関係図,親族(本人の推定相続人)の同意書等を提出します。
詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。
(6)調査
申立人,候補者,本人の面接や,親族(推定相続人)への書面照会等の調査を行います。
予め推定相続人の同意書をとっておくと手続がスムーズに進みます。
(7)鑑定
本人の精神の状況が明らかな場合には行わないこともあります。
鑑定を行うかどうかは,申立時に提出した診断書の内容や推定相続人が反対しているかどうかによります。
(8)審判
家庭裁判所は,調査等をした上で,審判を下します。
後見開始の審判,申立てを却下する審判,いずれに対しても2週間以内に不服申立てをすることができます(家事事件手続法86条1項,123条1項1号,2号)。不服申立ての期間を過ぎると審判は確定します。
(9)成年後見の登記
後見開始の審判等の効力が生じた場合には,裁判所書記官が,登記所に対して登記の嘱託をします。