Archive for the ‘離婚’ Category

【離婚】不貞行為の証拠

2017-10-13

離婚事件において,不貞行為があったかどうかは,離婚原因や慰謝料請求に影響しますので,不貞行為の有無は大きな争点となります。
不貞行為の事実について当事者間に争いがある場合,不貞行為の証拠があるかどうかが重要になりますが,どのようなものが証拠となるのでしょうか。また証拠を収集するにあたって,どのようなことに注意すべきでしょうか。

 

一 不貞行為の証拠

1 写真・動画・録音

配偶者とその不貞相手が旅行中に撮影した写真,自宅やホテルに宿泊している写真,性交渉や性交類似行為をしている写真は,不貞行為を裏付ける証拠になります。
また,写真以外に動画を撮影していたり,録音していた場合には,動画や録音データも証拠となります。

 

2 興信所・探偵社の調査報告書

興信所や探偵社の調査報告書により不貞行為の存在を立証することができる可能性があります。
もっとも,調査が功を奏するかわかりませんし,調査期間が長くなると多額の調査費用がかかりますので,利用するかどうかは慎重に検討すべきでしょう。

 

3 メール

配偶者と不貞相手が,携帯電話やパソコンでメールのやりとりをしていることがあります。メールの内容が不貞関係の存在をうかがわせるものであれば,重要な証拠となります。

 

4 不貞相手からの手紙

不貞相手から配偶者に宛てた手紙は,内容によっては,不貞行為の存在を推認させる証拠となります。

 

5 レシート・領収証

ホテルや避妊具等のレシートや領収証は,不貞行為の存在を推認させる証拠となります。

 

6 ICカードやETCの履歴

配偶者が電車等の公共交通機関を利用して相手方の自宅等に行っている場合には,ICカードの履歴が証拠となります。
また,自動車で行っている場合には,ETCの履歴が証拠となります。

 

7 手帳・日記

配偶者の手帳に不貞相手の連絡先や密会の日時や場所について記載があったり,日記に不貞相手と会ったことや不貞相手への気持ちが書いてあれば,不貞関係を推認させる証拠となります。

 

8 覚書・謝罪文

不貞行為の発覚後,配偶者の一方が他方に対し,不貞行為を認めた覚書や謝罪文を渡すことがあります。配偶者が不貞行為を認めているので重要な証拠となります。
紛失したり,破棄されたりしないよう厳重に保管しておくべきですし,写真に撮ったり,コピーをとったりしておいたほうがよいでしょう。

 

9 不貞行為を認める内容のメールや録音データ等

夫婦間の話合いにおいて,配偶者が不貞行為を認める内容のメールを送っていたり,不貞行為を認める発言が録音されていれば,メールや録音データが不貞行為の証拠となります。

 

10 その他

配偶者が別居し,不貞相手と同棲している場合には,同棲していることの証拠も不貞行為の証拠となりますし,不貞相手との間に子ができた場合にはその証拠も不貞行為の証拠となります。
また,証人尋問や本人尋問により,不貞行為を立証することができるかもしれませんので,客観的な証拠がないからといって諦める必要はありません。

 

二 違法収集証拠として証拠能力が争いになる場合

不貞行為の証拠は,メールや手紙等,個人のプライバシーに関するものが多く,当事者の一方が他方に無断で見てよいのかという問題があり,違法収集証拠として証拠能力(証拠調べの対象となる資格)の有無が争いになることがあります。
相手方の同意なく収集されたからといって直ちに証拠能力が否定されるわけではありませんが,収集行為の違法性が強い場合には違法収集証拠として証拠能力が否定される可能性がありますので,注意しましょう。

 

三 まとめ

不貞行為は,通常,密室で行われますので,相手が不貞行為の存在を認めない場合には,立証は容易ではありません。
そのため,証拠を収集しておく必要がありますが,どのような証拠が有力な証拠となるかは,証拠の種類(写真,メール,手紙など)で決まるわけではなく,内容がどのようなものかによります。
また,一つひとつの証拠だけでは不貞行為の事実を立証するのに不十分だったとしても,複数の証拠をつなぎ合わせると不貞行為の事実を立証できることもありますので,決定的な証拠がないからといって諦める必要はありません。
ただし,不貞行為の証拠はプライバシーに関わるものが多いので,証拠の収集や扱いには細心の注意を払いましょう。

【離婚】離婚事件の検討事項

2017-10-06

離婚事件では,①どうやって離婚するのか(離婚手続),②離婚できるのか(離婚原因),③離婚以外にどういったことを決めるのか(離婚条件),④生活をどうするか,⑤弁護士に依頼する必要があるか考えましょう。

 

一 離婚の手続

1 離婚協議

当事者の協議により離婚することを協議離婚といいます。
離婚協議がまとまった場合,離婚届を作成し,役所に提出します。

 

2 離婚調停

離婚協議がまとまらなかった場合には,家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
①離婚する旨の調停が成立(調停離婚),②調停に代わる審判が確定(審判離婚)することにより離婚できます。

 

3 離婚訴訟

離婚調停で解決しなかった場合,離婚訴訟を提起します。
①離婚を認める判決が確定(判決離婚),②離婚する旨の和解が成立(和解離婚),③被告が請求を認諾(認諾離婚)することにより離婚できます。

 

二 離婚原因

夫婦が合意により離婚する場合には離婚原因は不要ですが,合意ができず,判決で離婚する場合には,離婚原因(民法770条1項)が必要となります。
離婚原因は,①不貞行為,②悪意の遺棄,③3年以上の生死不明,④回復の見込みのない強度の精神病,⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由の5つです。
判決離婚以外の協議離婚,調停離婚,和解離婚等の場合には離婚原因は不要です。
もっとも,離婚協議や離婚調停がまとまらなければ離婚訴訟となり,最終的に離婚原因があれば判決で離婚が認められてしまうため,協議や調停で離婚するかどうかについても離婚原因の有無が影響してきます。
また,離婚原因がない場合,相手方が離婚に応じなければ,離婚できませんので,相手方が離婚を渋っているときには,離婚に応じるよう離婚条件を譲歩しなければならなりますので,離婚原因の有無は離婚条件にも影響してきます。

 

三 離婚条件

離婚をする際には,①親権者の指定,②養育費,③面会交流,④慰謝料,⑤財産分与,⑥年金分割の按分割合を定めることがなります。
このうち①親権者の指定をしなければ離婚することができませんので,離婚と同時に決めなければなりませんが,②から⑥については,離婚後に決めることもできます。

1 親権者の指定

未成年の子がいる夫婦が離婚するときには,その一方を親権者と定めなければなりません。どちらが親権者となるかは夫婦の合意で定めますが,合意ができない場合は裁判所が判断します。
父母の双方が親権を主張している場合,一般的には母親が有利であるといわれていますが,父親が親権者となることがないわけではありません。

 

2 養育費

離婚後に子を監護する親は,監護しない親に対し,養育費の支払を請求することができます。子の親権者が子を監護することが通常であり,親権者がそうでない親に対し養育費の支払を請求するのが通常です。
夫婦双方の収入を基に,簡易算定表や簡易算定方式により算定するのが通常です。

 

3 面会交流

離婚後,夫婦の一方が子を監護しますが,子を監護しない親は,子を監護する親に対し,子との面会交流を求めることができます。

 

4 慰謝料

夫婦の一方の有責行為により離婚に至った場合には,慰謝料請求をすることができます。
慰謝料請求する場合としては,不貞行為やDVがあった場合が考えられます。
性格の不一致が原因で離婚した場合に慰謝料請求することは難しいでしょう。

 

5 財産分与

離婚の時から2年以内であれば,離婚した夫婦の一方は,他方に対し,財産分与請求をすることができます。
財産分与には,①清算的財産分与(夫婦が婚姻中に築いた財産の清算),②扶養的財産分与(離婚後の扶養を考慮した財産分与),③慰謝料的財産分与(慰謝料的な要素を考慮した財産分与)があります。このうち財産分与の中心となるのは①清算的財産分与であり,②,③は補充的に考慮されるにとどまります。
清算的財産分与では,相手方にどのような財産があるか把握する必要があります。

 

6 年金分割

夫婦の一方または双方が婚姻期間中に厚生年金や共済年金に加入している場合には,原則として離婚から2年以内であれば,年金分割請求をすることができます。
年金分割には,①合意分割(当事者が合意または裁判で分割割合を定める年金分割)と②3号分割(第3号被保険者である期間についての年金分割)があります。
②3号分割では,年金分割請求をすれば,自動的に2分の1の割合で按分されるので,按分割合を決める必要はありません。
これに対し,①合意分割については,当事者の合意で按分割合を定めますが,合意ができなければ裁判所が按分割合を定めます。裁判所が按分割合を定める場合,2分の1となることがほとんどです。

 

四 生活をどうするか

1 離婚するまでの間の生活

離婚事件では,夫婦が別居している場合が多いですが,別居中の生活費については,夫婦の一方から他方に対し,婚姻費用分担請求をすることができます。
婚姻費用の分担額は,夫婦双方の収入を基に,簡易算定表や簡易算定方式により算定するのが通常です。

 

2 離婚後の生活

夫婦は,子の監護については別として離婚後は自分の生活は自分で維持しなければなりませんので,仕事,住居,生活費等,離婚後の生活をどうするか予め考えておく必要があります。
離婚後の生活のことを考えないで,離婚や離婚条件を決めてしまうと,離婚後の生活が成り立たず後悔することになりかねません。特に,離婚したいという気持ちが強い場合や自分に離婚原因があるなど後ろめたいことがある場合には,後先を考えずに,相手の言いなりの条件で離婚してしまうことがありますが,後で非常に困ることになります。

 

五 弁護士に依頼するか否か

離婚協議,離婚調停,離婚訴訟の順で弁護士の関与が増えていきます。
協議離婚では弁護士の関与は少ないですし,離婚調停でも弁護士に依頼しない人が多いですが,弁護士に依頼した場合には主張できたはずのことが主張できず,不利な条件で離婚が成立していることが少なくありません。
離婚原因や離婚条件が争いとなっている場合には,弁護士に相談・依頼したほうがよいでしょう。

 

【離婚】財産分与の請求期間(離婚の時から2年間)

2017-09-28

離婚に伴う財産分与は離婚後に請求することもできますが,財産分与請求には請求期間がありますので,請求期間を過ぎないよう注意しましょう。

 

一 財産分与の請求期間

1 離婚後2年以内

財産分与についての協議が調わないとき又は協議ができないときは,家庭裁判所に協議に代わる処分の請求をすることができますが,離婚の時から2年を経過すると請求できなくなります(民法768条2項)。
そのため,財産分与の調停や審判の申立ては離婚の時から2年以内にしなければなりません。
離婚後2年以内に申立てをしていれば,調停の成立や審判の確定が離婚後2年を経過してもかまいませんが,申立てを取り下げた時点で離婚から2年を経過していると再度の申立てができなくなるので注意しましょう。

なお,離婚後2年を経過している場合,財産分与調停ではなく,離婚後の紛争調整調停の申立てをすることは可能ですが,一般調停事件であり,調停が不成立になっても審判には移行しませんので,相手方が調停に応じない場合には,財産分与を受けることは難しいでしょう。

 

2 除斥期間

離婚の時から2年の期間は,消滅時効期間ではなく,除斥期間であると解されています。
そのため,時効の中断の規定(民法147条)や催告の規定(民法153条)の適用はありません。
ただし,財産分与契約が錯誤無効となる場合に民法161条(時効の停止についての規定)を類推適用する余地があるとする裁判例があります。

 

二 財産分与の協議・調停・和解成立後,審判・判決確定後の消滅時効

財産分与により,当事者の一方が他方に金銭を支払うことになった場合,金銭の支払をいつまで請求できるかについては消滅時効の問題となります。
財産分与の協議成立による場合には,民法167条1項により消滅時効期間は10年となります。
また,調停成立,審判確定,訴訟上の和解成立,判決確定による場合には,民法174条の2第1項により消滅時効期間は10年となります。

 

三 まとめ

財産分与請求は離婚後にすることもできますが,離婚後2年間が経過すると請求することができなくなります。
そのため,財産分与請求を考えている場合には,できる限り離婚と同時に財産分与についても解決しておいた方がよいでしょう。

【離婚】再婚と養育費の減額

2017-09-14

離婚して養育費の支払額を決めた後に,養育費の支払を受ける側(権利者)が再婚した場合,養育費を支払っている側(義務者)は権利者に対し養育費の減額を請求することができるでしょうか。

また,義務者が再婚した場合,義務者は権利者に対し養育費の減額を請求することができるでしょうか。

 

一 養育費の増額・減額請求

民法880条は「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは,家庭裁判所は,その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる」と規定しており,養育費の場合も「事情の変更」があれば,養育費を増額または減額することができます。
「事情の変更」とは養育費を決めた当時予測できなかった事情が発生したことであり,収入の増減,病気やケガ,家庭環境の変動,進学による教育費の増加等があった場合です。

養育費の増額・減額をするには,当事者間で協議して養育費の額を変更する合意をするか,家庭裁判所に養育費の増額請求または減額請求の調停または審判を申し立てます。

 

二 権利者が再婚した場合

1 再婚相手が子と養子縁組をしない場合

権利者が再婚したけれども,再婚相手が子と養子縁組をしていない場合には,義務者は子の扶養義務を免れません。
そのため,権利者が再婚したというだけでは事情の変更があったとはいえず,他に事情の変更がなければ養育費の減額は難しいでしょう。

 

2 再婚相手が子と養子縁組をした場合

再婚相手が子と養子縁組をした場合には,養親となった再婚相手は子の扶養義務を負います。
その場合,養親が第1次的に子の扶養義務を負い,実親である義務者の扶養義務は2次的なものとなりますので,養親の経済状況によって義務者は養育費支払の免除や減額が認められるでしょう。

 

三 義務者が再婚した場合

1 再婚相手が働いていない場合

再婚相手が働いておらず,無収入の場合には,義務者は再婚相手を扶養する義務を負います。また,義務者と再婚相手との間に子ができた場合には,義務者はその子を扶養する義務を負います。
そのため,養育費を決めた時に予測できた場合を除き,義務者が再婚したことや再婚相手との間に子ができたことは事情の変更にあたり,養育費の減額ができるでしょう。

 

2 再婚相手が働いている場合

再婚相手が働いており,自分の生活をまかなえる程度の収入がある場合には,養育費の算定において,再婚相手の扶養を考慮する必要はないでしょう。
再婚相手との間に子ができた場合には義務者はその子の扶養義務を負いますので,養育費を決めた時に予測できた場合でなければ事情の変更にあたり,養育費の減額が認められるでしょう。その際,再婚相手も子を扶養する義務を負いますので,再婚相手の収入も考慮されるでしょう。

【離婚】離婚せずに不貞の慰謝料請求をする場合に考えておくこと

2017-09-08

夫婦の一方が不貞行為をした場合であっても,不貞行為をされた側は,①小さい子がいるので離婚できない,②オーバーローンの自宅があり,離婚に伴い処分すると負債だけが残るので,離婚したくても離婚できない,③専業主婦であり,離婚したら生活が成り立たない等,さまざまな理由から,離婚しないという選択をすることが少なくありません。

その場合,せめて配偶者の不倫相手に慰謝料請求をしたいと考えるかもしれませんが,離婚せずに慰謝料請求する場合には,どのようなことに気を付けておくべきでしょうか。

 

一 不貞行為の慰謝料請求

不貞行為(配偶者以外の者と肉体関係をもつこと)は婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害する行為であり不法行為となります。
そのため,不貞行為をされた配偶者は,不貞行為をした配偶者とその不倫相手に対し,不貞行為により精神的苦痛を被った慰謝料請求をすることができます。
もっとも,離婚せず,今後も婚姻関係を継続していく場合には,夫婦は経済的に一体であるので,実際には不貞行為をした配偶者に対し慰謝料請求しないことが多いのではないでしょうか。

 

二 離婚する場合としない場合で慰謝料請求には,どのような違いがあるか

1 慰謝料額

不貞行為の慰謝料額については,不貞行為の期間,不貞行為の態様,不貞行為への主導性,婚姻生活の状況,婚姻関係破綻の有無,請求者側の落ち度の有無等様々な事情を考慮して決まります。
慰謝料額について統一的な基準があるわけではありませんが,不貞行為が原因で離婚に至った場合と離婚に至らなかった場合を比較すると,一般的には,離婚に至った場合のほうが,精神的苦痛が大きいと考えられますので,離婚しない場合の慰謝料額は,離婚した場合より低くなる傾向にあります。
慰謝料額の大まかな目安は,具体的な事情にもよりますが,離婚に至った場合には,200万円から300万円,離婚に至らなかった場合には100万円から150万円ほどになることが多いものと思われます。

 

2 求償

不貞行為は,不貞行為をした配偶者とその不倫相手の共同不法行為であり,両者の損害賠償債務は不真正連帯債務となります。共同不法行為の場合,被害者は各共同不法行為者に損害賠償額全額を請求できますが,共同不法行為者の一人が自分の負担部分を超えて支払った場合には,他の共同不法行為者に求償することができますので,不倫相手のみに慰謝料を請求して支払わせたときには,不倫相手は不貞行為をした配偶者に求償することができます。
離婚せず,婚姻関係を続けようと考えている場合,不倫相手に慰謝料を支払わせた後に不倫相手から求償があると,最終的な解決が長引き,夫婦関係に悪影響が生じかねません。
不倫相手に慰謝料請求はするが,夫に対して求償されたくないときには,求償しないことを条件として慰謝料額を相当程度減額して和解することが多いでしょう。

 

3 夫婦関係への影響

離婚しないで婚姻関係を継続しようと考えている場合,不倫相手に慰謝料請求をするときには夫婦関係への影響を考慮する必要があります。
不倫相手に慰謝料請求をすることで,不倫相手が配偶者から離れ不倫関係が終了することも多いでしょうが,場合によっては,不倫相手に慰謝料請求をして争っていることで夫婦関係が悪化し,離婚に至ってしまうこともないわけではありません。
この点については,一概には言えませんが,具体的な状況を見て対応を検討するほかないでしょう。

 

三 まとめ

離婚をしない場合,不貞行為をした配偶者との婚姻関係が続いていくことになります。
不貞行為は不貞行為した配偶者とその不倫相手の共同不法行為であり,不倫相手だけに慰謝料請求をした場合であっても,不貞行為をした配偶者が無関係というわけではありません。
そのため,不倫相手に慰謝料請求をする場合には,弁護士に相談・依頼する等して慎重に対応したほうがよいでしょう。

【離婚】不貞行為による慰謝料と離婚による慰謝料

2017-09-05

妻が夫の不倫相手に慰謝料請求をし,その後に離婚した場合,妻は夫と不倫相手に対し,離婚による慰謝料を請求することができるでしょうか。

 

一 不貞行為による慰謝料

不貞行為(配偶者以外の者と肉体関係をもつこと)は婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害する行為であり不法行為となります。
そのため,不貞行為をされた配偶者は,不貞行為をした配偶者とその不倫相手に対し,不貞行為により精神的苦痛を被った慰謝料請求をすることができます。
ただし,肉体関係をもった時点で婚姻関係が破綻していた場合には,婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益がありませんので,特段の事情がない限り不法行為とはなりません。

 

二 離婚による慰謝料

夫婦の一方の有責行為により離婚することになった場合,慰謝料請求をすることができます。
離婚による慰謝料としては,①離婚原因となった有責行為(不貞行為等)から生じた精神的苦痛の慰謝料と②離婚したことによる精神的苦痛の慰謝料があります。
①,②のいずれを根拠とするか余り区別はされていませんが,消滅時効や遅延損害金の起算点に影響はあるでしょう。

 

三 不貞行為による慰謝料請求をした後に離婚する場合

不貞行為による慰謝料請求をした後に離婚する場合,改めて離婚による慰謝料請求をすることはできるでしょうか。
広島高等裁判所平成19年4月17日判決は,妻が夫とその不倫相手を被告とする慰謝料請求訴訟(前訴)の判決確定後に離婚による慰謝料請求訴訟(後訴)を提起した事案について,①前訴と後訴では訴訟物が異なるため,前訴の既判力は後訴には及ばないとしつつ,②前訴では不貞行為および婚姻関係が破綻したことによる精神的苦痛に対する慰謝料請求をしているので,新たな精神的苦痛は生じていないと判断しました。
この裁判例からすれば,不貞行為による慰謝料請求について,未だ婚姻関係が破綻していないとして低額の慰謝料しか認められなかった場合には,婚姻関係が破綻したことによる精神的苦痛の慰謝料は含まれていませんので,その後,婚姻関係が破綻し離婚に至った場合には,改めて離婚による慰謝料請求をすることはできるのではないかと考えられます。

なお,平成31年2月19日の最高裁判所の判決で,不倫相手に対しては,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料請求はできないとされました。

別居した配偶者に同居を求める方法(同居調停・審判,円満調停)

2017-06-10

夫婦の一方が家から出ていって戻ってこない場合,家庭裁判所に調停や審判の申立てをして同居を求めることができるでしょうか。

 

一  同居調停・審判

夫婦は同居し,互いに扶助,協力する義務を負いますので(民法752条),夫婦の一方が正当な理由なく別居した場合には同居義務に違反します。

 

家事事件手続法別表第2記載の事件は家庭裁判所に調停及び審判の申立てができますが,別表第2の1項「夫婦間の協力扶助に関する処分」には同居に関する処分も含まれると解されていますので,夫婦の一方が別居した場合,夫婦の他方は家庭裁判所に同居を求める調停や審判の申立てをすることができます。

 

調停で,相手方が同居に合意すれば解決しますが,相手方が同居に応じず,調停が不成立となった場合には審判に移行します(家事事件手続法272条4項)。

審判では,別居しているというだけで同居が命じられるわけではありません。婚姻関係が破綻しておらず,同居を拒否することに正当な理由がない場合には同居が命じられることがありますが,婚姻関係が破綻している場合,別居の原因が申立人にある場合,相手方の同居拒否の意思が強く翻意する可能性がない場合等には申立てが却下されます。

 

また,同居を命じる審判がなされても,相手方を強制的に同居させることはできませんので(直接強制も間接強制もできません。),相手方が任意に履行することを期待するほかありません。

なお,同居を命じる審判がなされたのに相手方が同居しない場合は,相手方の同居義務違反となり,離婚原因として考慮されることがあります。

 

二 円満調停

同居を命じる審判がなされても,相手方の意に反して強制的に同居させることができるわけではありません。また,相手方が同居を拒んでいるからといって,審判をして同居させようとするのでは,夫婦関係を悪化させることになりかねません。

本当に相手方に同居してもらいたいのであれば,相手方との関係を修復して,相手方に同居に応じてもらえるようにすべきでしょう。

そのようなことから,相手方に同居を求める場合であっても,同居の調停・審判の申立てではなく,夫婦関係調整(円満)調停の申立てをすることが多いです。

円満調停は,調停が不成立になっても審判には移行しないため,調停のみの手続ですが,家庭裁判所の関与のもと,相手方との関係を修復し,同居に応じてもらえるよう話し合いをすることができます。

【離婚】不貞行為の慰謝料請求をした場合の不倫相手からの反論

2017-05-22

夫が不倫をした場合,妻は,不法行為に基づき(民法709条),夫の不倫相手に対して不貞行為の慰謝料請求をすることができますが,慰謝料請求をされた不倫相手のよくある反論として,以下のようなものがあります。

 

1 不貞行為はしていない(不貞行為の不存在)

不倫相手が不貞行為はしていないと言って不貞行為の事実を否認した場合,妻は,不貞行為の存在を裏付ける証拠を相手方や裁判所に示さなければなりません。

証拠となるのは,夫と不倫相手との間に性的関係があったことを直接示すもの(性行為そのものを撮影した写真や動画など)や,それを強く推認させるもの(肉体関係の存在を示す内容のメール,同室に宿泊したことがわかる写真など)が必要になります。不貞行為の事実を否認する不倫相手は,証拠が出されても,様々な弁解をしてきますので,そのような弁解を封じられるような確実な証拠を取得しておくことが重要です。

不倫相手が不貞行為の存在を否認し,後から不貞行為の確実な証拠が出された場合には,不倫相手の悪質性が顕著ということになり,慰謝料増額事由になるでしょう。

 

2 婚姻関係は破綻していた

不貞行為開始時において,夫婦の婚姻関係がすでに破綻していた場合には,妻の婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないため,特段の事情がない限り,不倫相手は不法行為責任を負いません。

不貞行為の慰謝料請求事件において,不倫相手からこの種の反論がなされることは非常に多いのですが,破綻とは,夫婦関係を全体として客観的に評価して,完全に修復の見込みがないと判断される場合に限られます。裁判所は,夫婦関係が円満ではなかった,夫婦関係に不満があったという程度では,婚姻関係の破綻を容易には認めない傾向にあります。

 

3 結婚していたとは知らなかった(故意過失の不存在)

不法行為責任は,故意過失が要件となりますので,不倫相手に対する慰謝料請求が認められるためには,不倫相手が,夫が既婚者であること(婚姻関係が破綻していないこと)を知っていたか,あるいは知りえたにもかかわらず関係をもったという事情が必要です。

不倫相手が,当初は夫が既婚者であることを知らなかったとしても,その事実を知った後も夫との不貞関係を続けていれば,知った後の行為について,不法行為が成立します。不倫相手がいつ知ったのかが問題となりますが,妻から不倫相手に対して不貞行為をやめるように通知をしていた場合には,少なくとも通知を受け取った以降も夫との関係を続けていれば,その行為自体が不法行為に当たると主張することができます。

不倫相手が,夫から,婚姻関係が破綻していると聞かされていたのでそれを信じたという反論もよくありますが,夫の話を鵜呑みにしただけで事実関係を確認していなければ,裁判所はほとんど不倫相手の反論を認めません。

 

このように,不倫相手は,様々な反論をして,責任を免れようとすることが多いですから,慰謝料請求をする場合には事前に対応を検討しておきましょう。

【離婚】DV防止法の保護命令

2017-05-01

DV(ドメスティック・バイオレンス)の事案では,配偶者から危害を受けないよう身の安全を守ることが重要です。

配偶者から危害を受けるおそれがある場合には, 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)による保護命令の申立てをすることが考えられます。

 

一 DV防止法の保護命令とは

DV防止法の保護命令とは,配偶者から身体に対する暴力や生命・身体に対する脅迫を受けた被害者が,配偶者からの身体に対する暴力により,生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに,生命・身体に危害が加えられることを防止するために,裁判所が配偶者に対し接近禁止や退去等を命じる命令です(DV防止法10条)。

保護命令に違反した場合,違反者には刑事罰が科されます(DV防止法29条)。

 

「配偶者」は,法律婚の配偶者のみならず,事実婚の配偶者も含みます(DV防止法1条3項)。また,同居中の交際相手(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいない場合は除きます。)から暴力等を受けている場合にも,保護命令の申立てができます(DV防止法28条の2)。

 

二 保護命令の種類

保護命令には,①接近禁止命令,②退去命令,③子への接近禁止命令,④親族等への接近禁止命令,⑤電話等禁止命令があります(DV防止法10条)。

③から⑤の命令は,①の命令の実効性を確保するために出されますので,①の命令と同時か既に出されている場合にのみ発令されます。

 

1 接近禁止命令

(1)接近禁止命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から6か月間,被害者の住居(加害者と共に生活の本拠としている住居は除きます。)その他の場所において被害者の身辺につきまとい,又は被害者の住居,勤務先その他その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないとする命令です(DV防止法10条1項1号)。

(2)要件

①配偶者から身体に対する暴力または生命・身体に対する脅迫を受けた被害者にあたること(DV防止法10条1項)

②配偶者からの身体に対する暴力により,生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと(DV防止法10条1項)

③配偶者暴力相談支援センターか警察に相談等を求めたこと(DV防止法12条1項5号)

または,被害者が,配偶者から暴力を受けた状況等の供述書面を作成し,公証人の認証を受けたこと(DV防止法12条2項)

 

2 退去命令

(1)退去命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から2か月間,被害者と同居している住居(被害者と共に生活の本拠としている住居)から退去すること,当該住居の付近を徘徊してはならないことを命じる命令です(DV防止法10条1項1号)。

被害者が引越しの準備をするためにもうけられたものです。

 

(2)要件

被害者への接近禁止命令の要件と同じですが,加害者を自宅から退去させるものであり,加害者への影響が大きいので,厳しく判断されます。

 

3 子への接近禁止命令

(1)子への接近禁止命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から6か月間,子の住居(加害者と共に生活の本拠としている住居は除きます。),就学する学校その他の場所において子の身辺につきまとい,または子の住居,就学する学校その他その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないとする命令です(DV防止法10条3項)。

「子」は,被害者と同居中の未成年の子を指します(DV防止法10条3項)。別居中の子や成年の子への接近禁止命令が必要な場合には,親族等への接近禁止命令の申立てをします。

また,子が15歳以上の場合は,子の同意が必要となります。

子への接近禁止命令は,被害者が子に関して加害者と会わざるを得なくなる状態を防ぐためになされるものであり,子の保護を目的とするものではありません。

 

(2)要件

①被害者への接近禁止命令の要件をみたすこと

②被害者が未成年の子と同居していること

③被害者が,子に関して配偶者と会わざるを得なくなる状態を防ぐ必要があること

④子が15歳以上であるときは,その子の書面による同意があること(DV防止法10条3項但書,保護命令手続規則1条2項,3項)

 

4 親族等への接近禁止命令

(1)親族等への接近禁止命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から6か月間,親族等の住居(加害者と共に生活の本拠としている住居は除きます。)その他の場所において親族等の身辺につきまとい,または親族等の住居,勤務先その他その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないとする命令です(DV防止法10条4項)。

「親族等」とは,親族その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者をいいます。被害者と同居している子や加害者と同居している者は除きます(DV防止法10条4項)。

また,申立てには,親族等(被害者の15歳未満の子は除きます。)の同意が必要となります(DV防止法10条5項)

親族等への接近禁止命令は,被害者が親族等に関して加害者と会わざるを得なくなる状態を防ぐためになされるものであり,親族等の保護を目的とするものではありません。

 

(2)要件

①被害者への接近禁止命令の要件をみたすこと

②被害者の親族その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者(被害者と同居している子や加害者と同居している者は除きます。)であること

③被害者が親族等に関して加害者と会わざるを得なくなる状態を防ぐ必要があること

④親族等(被害者の15歳未満の子は除きます。)の書面による同意があること(DV防止法10条5項,保護命令手続規則1条2項,3項)

 

5 電話等禁止命令

(1)電話等禁止命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から起算して6か月間,以下の各行為をしてはならないとする命令です(DV防止法10条2項)。

①面会を要求すること

②行動を監視していると思わせるような事項を告げ,又はその知りうる状態に置くこと

③著しく粗野又は乱暴な言動をすること

④電話をかけて何も告げないこと,又は緊急やむを得ない場合を除き,連続して,電話,ファックス送信,電信メールの送信をすること

⑤緊急やむを得ない場合を除き,午後10時から午前6時までの間に,電話,ファックス送信,電子メールの送信をすること

⑥汚物,動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し,又は知りうる状態に置くこと

⑦名誉を害する事項を告げ,又は知り得る状態に置くこと

⑧性的羞恥心を害する事項を告げ,若しくは知りうる状態に置くこと,又は性的羞恥心を害する文書,図画その他の物を送付し,若しくは知り得る状態に置くこと

 

(2)要件

被害者への接近禁止命令の要件と同じです。

 

四 保護命令申立ての手続

1 申立権者(申立てができる人)

(1)配偶者から身体への暴力等を受けている被害者

配偶者(事実婚の配偶者も含みます。)から身体への暴力や生命・身体に対する脅迫を受けている人は,今後も身体に暴力を受け,生命・身体に暴力を受けるおそれが大きいときには,保護命令の申立てをすることができます。

(2)同居中の交際相手から暴力等を受けている被害者

生活の本拠を共にする交際相手(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものは除きます。)から身体への暴力や生命・身体に対する脅迫を受けている人は,今後も身体に暴力を受け,生命・身体に暴力を受けるおそれが大きいときには,保護命令の申立てをすることができます(DV防止法28条の2)。

(3)離婚・婚姻の取消・関係解消した場合

離婚・婚姻の取消・関係解消前から,身体への暴力や生命・身体に対する脅迫を受けており,離婚・婚姻の取消・関係解消後も,引き続き身体に対する暴力を受け,生命・身体に暴力を受けるおそれが大きいときには,保護命令の申立てをすることができます(DV防止法10条1項,28条の2)。

これに対し,婚姻中や交際中は暴力や脅迫はなく,離婚・婚姻の取消・関係解消後に暴力・脅迫を受けるようになった場合は,保護命令の申立てはできません。そのような場合には,ストーカー規制法での対応を検討することになります。

 

2 管轄裁判所

①相手方の住所(日本国内に住所がないときや住所が知れないときは居所)の所在地

②申立人の住所または居所の所在地

③配偶者からの身体に対する暴力または生命等に対する脅迫が行われた地

のいずれかを管轄する地方裁判所に申立てをします(DV防止法11条)

 

3  申立ての方法

保護命令の申立ては,裁判所に必要事項を記載した書面(申立書)を提出して行います(DV防止法12条)。申立てにあたっては,手数料(収入印紙)や郵券の納付も必要となります。

(1)申立書の記載事項

申立書には,以下の事項を記載します(DV防止法12条1項,配偶者暴力等に関する保護命令手続規則1条1項)。

①配偶者からの身体に対する暴力または生命などに対する脅迫を受けた状況(DV防止法12条1項1号)

②配偶者からの更なる身体に対する暴力または配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後の配偶者から受ける身体に対する暴力により,生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる申立時における事情(DV防止法12条1項2号)

③子への接近禁止命令を申し立てる場合は,被害者が同居する子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため発令の必要があると認めるに足りる申立時における事情(DV防止法12条1項3号)

④親族等への接近禁止命令を申し立てる場合は,被害者が親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため発令の必要があると認めるに足りる申立時における事情(DV防止法12条1項4号)

⑤配偶者暴力相談支援センターの職員や警察職員に対し,相談,援助,保護を求めた事実の有無,相談等をした機関名,日時,場所,内容,とられた措置(DV防止法12条1項5号)

⑥その他(当事者や代理人の氏名・住所,申立ての趣旨・理由,「子」の氏名・生年月日,「親族等」の氏名・被害者との関係等 保護命令手続規則1条1項)

 

(2)添付書類

申立書には,①警察等に相談等をした事実がないときは,申立人の供述を記載し,公証人の認証を受けた宣誓供述書(DV防止法12条2項),②子への接近禁止命令の申立てをする場合で,子が15歳以上のときは,その同意書(保護命令手続規則1条2項,3項),③親族等への接近禁止命令の申立てをする場合は,親族等の同意書(保護命令手続規則1条2項,3項),④書証(診断書や陳述書等)の写し,⑤その他(戸籍謄本,住民票等)の書類を添付します。

 

(3)申立人の住所

申立書には申立人の住所を記載しますが,DV事案では,被害者がどこにいるのか配偶者に知られないように配慮しなければなりません。

そのため,被害者が,住居から避難した場合には,避難先の住所ではなく,元いた住居の住所を記載する等,居場所を知られないようにしましょう。

また,申立書や提出書類は,当事者が閲覧・謄写ができますので(DV防止法19条),申立人の居場所やその手掛かりとなるような情報の記載がないか十分注意しましょう。

 

4  裁判所から警察等への書面提出の請求

申立てを受理した後,裁判所は,申立書に記載された支援センターや警察署に相談・保護を求めた状況やどのような措置を執ったのか書面で回答を求めます(DV防止法14条2項)。

 

5 審尋

裁判所は,申立人の面接を行い,次いで,相手方の意見聴取のための審尋期日を開き,相手方の言い分を聞いてから,保護命令を発令するか決めます。

 

6 決定

裁判所は,審理の結果,保護命令発令の要件を満たしていると判断した場合には,申立を認容する決定(保護命令)をします。

保護命令は,相手方に対する決定書を送達するか,期日に言い渡すことにより,効力が生じます(DV防止法15条2項)。

決定に不服がある者は即時抗告をすることができます(DV防止法16条)。

また,決定がでても,保護命令が取り消されることもあります(DV防止法17条)。

 

7 再度の申立て

保護命令の効力には期間制限がありますので,保護命令の発令後,再度の申立てをすることができます。

再度の申立てをする場合には,再度の申立ての時点で保護命令の要件をみたす必要があります。

また,退去命令の再度の申立ての場合には,転居しようとする被害者が責めに帰すことができない事由により2か月以内に転居を完了できないときその他退去命令を再度発令する必要があると認められなければなりませんし(DV防止法18条1項本文),配偶者の生活に特に著しい支障が生じると認められるときは命令が発せられないことがあります(DV防止法18条1項但書)。

 

五 保護命令の効果

1  警察や支援センターへの通知

保護命令が発令された場合,裁判所書記官は,申立人の住所や居所を管轄する警察に通知します(DV防止法15条3項)。また,申立人が支援センターに相談していたことが申立書に記載されていた場合には,支援センターにも通知されます(DV防止法15条4項)。

 

2 刑事罰

保護命令に違反した場合には,1年以下の懲役まはた100万円以下の罰金に処されます(DV防止法29条2項)。

保護命令には民事上の執行力はないので,強制執行はできませんが(DV防止法15条5項),違反した場合には刑罰が科されるにより,保護命令の実行性が担保されることになります。

 

三 まとめ

配偶者から暴力等を受けている被害者の方が,配偶者から危害を加えられるおそれがある場合には,DV防止法の保護命令の申立てを検討しましょう。

保護命令の申立てが必要となるような事案では,本人だけで対応することは難しい場合が多いでしょうから,弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

【離婚】離婚届 創設的届出と報告的届出

2017-04-07

離婚する方法には,①協議離婚,②調停離婚,③審判離婚,④和解離婚,⑤認諾離婚,⑥判決離婚があります。

いずれの方法による離婚でも,届出(離婚届の提出)が必要となりますが,協議離婚の場合には,届出によって離婚の効力が生じるのに対し(創設的届出),協議離婚以外の離婚の場合には,届出がなくても離婚の効力は生じており,届出は離婚したことの報告となります(報告的届出)。

 

一 協議離婚の場合(創設的届出)

協議離婚は,戸籍法の定めるところにより,届け出ることによって,その効力を生じます(民法764条,739条1項)。

届け出は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で,または,これらの者から口頭でしなければなりませんが(民法764条,739条2項),届け出は書面(離婚届)で行うのが一般的です。

協議離婚する場合には,役所や役場から離婚届の用紙をもらってきて,その用紙に必要事項を記入し,夫婦双方が署名押印し,証人2人に署名押印をしてもらい,本籍地または所在地の市区町村の役所や役場に離婚届を提出します。本籍地以外の役所や役場に届け出る場合は,戸籍謄本または戸籍事項全部証明書が必要となります。

また,夫婦に未成年の子がいる場合,協議離婚するときには,一方を親権者と定めなければなりませんので(民法819条1項),離婚届には,夫が親権を行う子の氏名または妻が親権を行う子の氏名を記載します。

 

離婚届は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で,または,これらの者から口頭でなされたこと(民法764条において準用する民法739条2項),親権者の定めがあること(民法819条1項)その他の法令の規定に違反しないことが認められた後でなければ,受理されませんが(民法765条1項),違反して受理された場合であっても,離婚の効力は妨げられません(民法765条2項)。

 

また,離婚届作成後に離婚意思がなくなった場合,役所・役場に離婚届が受理される前に不受理申出をしておけば,離婚届は受理されなくなりますので(離婚届不受理申出制度),離婚届を作成後に離婚意思がなくなった場合や,離婚意思がないが相手方や第三者が勝手に離婚届を出すおそれがある場合には,離婚届を出される前に不受理申し出をしておきましょう。

 

二 協議離婚以外の離婚の場合(報告的届出)

①調停離婚は調停の成立,②審判離婚は審判の確定,③和解離婚は和解の成立,④認諾離婚は請求の認諾,⑤判決離婚は判決の確定により,それぞれ離婚の効力が生じます。

これらの場合,離婚の効力が成立した日から10日以内に報告的届出をしなければなりません(戸籍法77条1項,63条1項)。

 

届出は,離婚届(用紙は協議離婚の用紙と同じです。)に必要事項を記入し,①調停調書の謄本,②審判書の謄本と確定証明書,③和解調書の謄本,④認諾調書の謄本,⑤判決書の謄本と確定証明書,のいずれかを添付して,本籍地または所在地の役所や役場に提出します。

協議離婚の場合とは異なり,証人は不要です。

届け出は,原則として申立人(原告)が行いますが,申立人が10日以内に届け出を行わない場合には相手方(被告)も届け出をすることができます(戸籍法77条1項,63条2項)。

また,相手方が届出をしたい場合には,調停条項や和解条項で「相手方(被告)の申出により離婚する」としておけば,相手方(被告)が届け出をすることができます。

 

なお,当事者が協議離婚の形をとることを望み,調停条項や和解条項で協議離婚の合意をすることがありますが,その場合には調停離婚や和解離婚ではありませんので,協議離婚の場合の届出をしないと離婚の効力は生じません。

 

« Older Entries Newer Entries »
Copyright(c) 2016 ながせ法律事務所 All Rights Reserved.