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【離婚】扶養的財産分与

2019-02-25

離婚をした夫婦の一方は相手方に対して財産分与請求をすることができます。
財産分与には,①清算的要素(夫婦が婚姻中に協力して形成した財産の清算),②扶養的要素(離婚後の扶養),③慰謝料的要素(精神的損害の賠償)がありますが,扶養的財産分与はどのような場合に認められるのでしょうか。

一  扶養的財産分与

財産分与の可否,分与の額・方法については,「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して」定められますので(民法768条3項),夫婦が婚姻中に協力して形成した財産の額だけでなく,婚姻期間の長さ,当事者双方の年齢,健康状態,職業,収入,稼働能力,特有財産を含めた財産の状況,有責性等様々な事情が考慮されます。
財産分与は清算的財産分与が中心ですが,清算的財産分与や慰謝料だけでは夫婦の一方が離婚後の生活に困窮することになる場合には,補充的に扶養的財産分与が認められることがあります。

 

二 扶養的財産分与が認められる場合

扶養的財産分与が認められるには,①請求者に扶養の必要性があること,②義務者に扶養能力があることが必要となります。

 

1 扶養の必要性

扶養の必要性があるかどうかは,請求者が受けた清算的財産分与や慰謝料,請求者の収入,稼働能力,特有財産を含む財産の状況,親族からの援助の状況,社会保障等を考慮して,経済的自立が困難かどうかで判断されます。

扶養の必要性が問題となる場合としては,①高齢の専業主婦の場合(年金分割制度の適用がない場合や分割後の年金額が少額の場合等),②病気の場合,③未成熟子を監護して働くことができない場合,④専業主婦で働き始めるまで時間がかかる場合等があります。

 

2 義務者の扶養能力

扶養的財産分与が認められるには義務者に扶養する能力がなければいけません。
義務者の扶養能力の有無は,義務者の収入や財産から判断されます。
義務者の財産については特有財産も含めて判断されます。

 

三 扶養的財産分与の方法

扶養的財産分与は,金銭の支払いで行われることが通常です。
金額については,生計を維持できる程度の金額です。その金額は,婚姻費用より低くなることが通常です。
期間については,経済的に自立することができるまでの期間です。専業主婦が就職できるまでの期間,子を保育園に預けることができるまでの期間,病気が治るまでの期間等,事案によって異なります。
支払については,一括払いの場合と定期金払いの場合があります。

また,金銭の支払以外の方法として,夫婦の一方が所有する住居に使用貸借権等の利用権を設定して,離婚後の相手方の居住が認めること等もあります。

【相続・遺言】相続法改正 自筆証書遺言の方式緩和

2019-02-06

相続法の改正により,平成31年1月13日から,自筆証書遺言の方式が緩和されました。
改正前は自筆証書遺言は遺言者が全文を自書しなければなりませんでしたが,改正により,相続財産の目録について自書する必要がなくなり,パソコン等で作成した目録を添付して,自筆証書遺言を作成することができるようになりました。

 

一 遺言書に添付する財産目録について自書が不要

改正後の民法968条では,1項で「自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。」と規定しておりますが,2項で「前項の規定にかかわらず,自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合のおける同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については,自書することを要しない。この場合において,遺言者は,その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては,その両面)に署名し,印を押さなければならない。」と規定し,遺言書に添付する財産目録については自書を要しないとして方式を緩和しています。
改正前は財産目録を含め全文自書しなければならなかったので,不動産や預金等財産が多数ある場合には相当な負担となりましたが,改正により自筆証書遺言を作成する負担が軽減されました。

財産目録について自書を要しないことから,財産目録として,ワープロで作成したもの,遺言者以外の者が代筆したもの,不動産の登記事項証明書,預金通帳の写し等を遺言書に添付することができます。

 

二 自書によらない財産目録添付の方法

1 ページ毎の署名押印

自書によらない財産目録を添付するにあたっては,財産目録のページ毎(自筆によらない記載が両面にある場合は両面)に遺言者が署名押印しなければなりません(民法968条2項)。
遺言者の署名押印が必要とされるのは,遺言書の偽造や変造を防ぐためです。

 

2 財産目録の加除その他の変更

改正後の民法968条3項は「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。」と規定しており,自筆によらない財産目録についても加除その他の変更をすることができます(なお,改正前は加除その他の変更の規定は2項でしたが,改正後は3項になりました。)。

【交通事故】遺族年金の損益相殺

2019-01-29

交通事故で亡くなった被害者の相続人が遺族年金を受給した場合,損害賠償額の算定にあたって遺族年金の受給額が控除されます。

 

一 遺族年金の受給による損益相殺

損益相殺とは,不法行為の被害者が,損害を被るのと同一の原因により利益を得た場合に,その利益の額を賠償すべき損害額から控除することをいいます。民法に損益相殺の規定はありませんが,公平の見地から認められています。

交通事故で亡くなった被害者の相続人が遺族年金を受給した場合には,交通事故により利益を受けたといえますので,損益相殺されることになります。

 

二 控除する遺族年金の範囲

損益相殺は損害が現実に補填されたといえる範囲に限られべきであることから,損害額から控除されるのは既に給付を受けた金額または支給を受けることが確定した金額に限られます。
未だ支給が確定していない金額については,給付を受けられるかどうか不確実ですので,控除されません。

 

三 控除される損害

損益相殺は給付と同一性のある損害について行われます。
そのため,遺族年金の受給により控除される損害は逸失利益に限られます。慰謝料等,他の損害項目からは控除されません。
また,控除される逸失利益は,年金収入の逸失利益に限らず,給与収入等他の逸失利益も含まれます。

 

四 控除される相続人の範囲

被害者の相続人の範囲と遺族年金の受給権者の範囲は異なりますので,被害者の相続人には遺族年金を受給できる人とそうでない人がいます。
遺族年金を受給した相続人の損害額から控除されますが,遺族年金を受給していない相続人の損害額からは控除されません。

【交通事故】年金の逸失利益性(死亡事故の損害)

2019-01-20

交通事故の被害者が亡くなり,生きていれば受給できた年金が亡くなったことにより受給できなくなることがあります。その場合,年金を受給することができなくなったことが損害と認められるか問題となります。

 

一 逸失利益性が認められる年金の種類

年金には様々な種類があり,逸失利益性が認められるものと,認められないものがあります。

 

1 逸失利益性が認められる年金

退職年金,老齢年金,障害年金等,被害者が保険料を拠出しているものについては,逸失利益性が認められます。

 

2 逸失利益性が否定される年金

障害年金の加給分や遺族年金等,被害者が保険料を拠出しておらず,社会保障的性格のものや一身専属的なものについては,逸失利益性が否定されています。

なお,遺族年金の受給により,支給が停止された年金がある場合には,遺族年金の逸失利益は認められませんが,支給が停止された年金について逸失利益を認める裁判例があります。

 

二 被害者が亡くなった時点で年金を受給していなかった場合

被害者が亡くなった時点で既に年金を受給している場合は年金の逸失利益性が認められることは問題ないですが,亡くなった時点で未だ年金を受給していない場合には,逸失利益性が認められるか問題となります。

 

1 年金の受給資格がある場合

被害者が亡くなった時点で未だ年金を受給していないが,受給資格があった場合には,将来年金を受給することができたといえますので,逸失失利益性が認められるものと解されます。

 

2 年金の受給資格がない場合

被害者が亡くなった時点で,年金の受給資格がなかった場合には,年金を受給できるか不確実であるので,逸失利益性が否定されるものと解されます。
もっとも,受給資格をみたす直前であった等,年金を受給できる蓋然性が高いときには,逸失利益性が認められることがあります。

 

三 年金の逸失利益の計算方法

死亡逸失利益は,一般的には,「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」という計算式で算定しますが,年金の逸失利益については以下のように計算します。

 

1 基礎収入額

死亡時に既に年金を受給していた場合には,その受給額を基礎収入額として逸失利益を算定します。
死亡時に年金を受給していない場合には,受給できるときの見込額を基礎収入額として算定します。

 

2 生活費控除額

年金収入は生活費に当てられる割合が高くなるのが通常であると考えられますから,年金収入の逸失利益は稼働収入の逸失利益の場合と比較して生活費控除率を高くする傾向があります。

なお,被害者に稼働収入と年金収入がある場合には,①稼働収入の逸失利益と年金収入の逸失利益を分けて計算し,年金収入の生活費控除率を稼働収入の生活費控除率より高く計算する方法と,②稼働している期間と年金収入のみの期間を分けて,年金収入のみの期間の生活費控除率を高く算定する方法があります。

 

3 期間

逸失利益の算定において就労可能年数は原則として67歳までとされていますが,年金の場合は平均余命までの期間で計算します。

【民事訴訟】当事者尋問(本人尋問)

2018-12-19

民事訴訟の証拠調手続として,①書証,②人証(証人尋問,当事者尋問),③鑑定,④検証があります。
ここでは,当事者尋問(本人尋問ともいいます。)について説明します。

 

一 当事者尋問とは

当事者尋問は,証人尋問同様,当事者が経験した事実について当事者本人を尋問し,その供述を証拠とするものです。
裁判所は,申立て又は職権で,当事者本人を尋問することができます(民事訴訟法207条1項)。
また,当事者の親権者,成年後見人,法人の代表者等,訴訟において当事者を代表する法定代理人についても当事者尋問の規定が準用されます(民事訴訟法211条,民事訴訟規則128条)。

 

二 当事者尋問の基本的な流れ

当事者尋問は,当事者双方の主張が出揃い,争点及び証拠の整理が終了した後に,①当事者尋問の申出(証拠申出書,尋問事項書,陳述書の提出),②人証の採否の決定,③同行または呼出による当事者の出頭,④人定質問(人違いでないことの確認),⑤宣誓,⑥尋問(主尋問,反対尋問,補充尋問)という流れで行うのが通常です。
なお,証人尋問と当事者尋問を行うときは,まず証人尋問を行い,次いで当事者尋問を行うのが原則ですが,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,先に当事者尋問を行うこともできます(民事訴訟法207条2項)。

 

三 証人尋問との違い

当事者尋問の手続については,証人尋問の規定が多く準用されていますが(民事訴訟法210条,民事訴訟規則127条),証人尋問とは,①職権での尋問も認められること(民事訴訟法207条1項前段),②宣誓が任意であること(民事訴訟法207条1項後段),③不出頭等の効果(民事訴訟法208条),④宣誓した当事者が虚偽陳述をした場合の制裁内容(民事訴訟法209条),⑤勾引の規定(民事訴訟規則111条)の適用がないこと(民事訴訟規則127条),⑥隔離尋問の規定(民事訴訟規則120条)の適用がないこと(民事訴訟規則127条),⑦書面尋問の規定(民事訴訟法205条,民事訴訟規則124条)の適用がないこと(民事訴訟法210条,民事訴訟規則127条。ただし,簡易裁判所では当事者本人についても書面尋問ができます(民事訴訟法278条)。)が違います。

 

四 集中証拠調べ

証人尋問及び当事者尋問は,できる限り,争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければなりません(民事訴訟法182条,民事訴訟規則101条)。
また,証人及び当事者本人の尋問の申出は,できる限り一括してしなければなりません(民事訴訟規則100条)。

 

五 尋問の申出

1 証拠申出書の提出

当事者尋問するにあたって,当事者は当事者尋問の申出をします。
当事者尋問の申出は証拠申出書を提出して行います。
証拠申出書には,①人証の表示(民事訴訟規則106条),②尋問予定時間(民事訴訟規則106条),③同行か呼出しか,④証明すべき事実(民事訴訟法180条1項,民事訴訟規則99条1項)を記載します。
また,当事者尋問の申出をするときは同時に尋問事項書2通を提出しなければなりません(民事訴訟規則107条)。1通は裁判所用,他の1通は呼出状添付用です。尋問事項書は証拠申出書に添付します。

 

2 陳述書の提出

尋問の申出をする際,当事者本人の陳述書を作成して提出することが通常です。
陳述書は,主尋問で聞く予定のことについて記載します。
陳述書は主尋問を代替,補完するものであり,尋問時間を短縮することができますし,主尋問で相手方当事者がどのようなことを述べるのか予想できますので,反対尋問の準備にも役立ちます。

 

3 人証の採否

当事者尋問の申出に対し,裁判所は当事者本人を採用するか決定します。
当事者本人を採用する場合には,尋問時間や順序等も決めます。
また,呼出が必要な場合には,呼出状が送られます。

 

六 宣誓

当事者に宣誓させるかどうかは裁判所の裁量に委ねられていますが(民事訴訟法207条1項後段),宣誓させるのが通常です。
宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは,裁判所の決定で過料に処せられることがあります(民事訴訟法209条)。なお,虚偽の陳述をした当事者が訴訟係属中に虚偽であることを認めたときは,裁判所は事情により過料の決定を取り消すことができます(民事訴訟法209条3項)。

 

七 尋問の順序

当事者尋問は,①主尋問(尋問の申出をした当事者の尋問),②反対尋問(他の当事者の尋問),③再主尋問(尋問の申出をした当事者の再度の尋問),④補充尋問(裁判長の尋問)の順序でするのが原則です(民事訴訟法210条,202条1項,民事訴訟規則127条,113条1項)。また,当事者は,裁判長の許可を得て,更に尋問することができます(民事訴訟規則127条,113条2項)。
ただし,裁判所は,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて順序を変更することができます(民事訴訟法210条,202条2項)。
また,裁判長は,必要があると認めるときは,いつでも自ら尋問したり(介入尋問),当事者に尋問を許すことができますし(民事訴訟規則127条,113条3項),陪席裁判官は,裁判長に告げて尋問することができます(民事訴訟規則127条,113条4項)。

なお,当事者が自分に対する尋問を行う場合,その当事者に訴訟代理人がいるときは,その訴訟代理人が尋問を行いますが,本人訴訟のときは,裁判長が尋問を行います。

 

八 尋問の方法

1 一問一答式の原則

質問は,できる限り,個別的かつ具体的にしなければなりません(民事訴訟規則127条,115条1項)。

 

2 尋問事項

①主尋問は,立証すべき事項及びこれに関する事項について,②反対尋問は,主尋問に現れた事項及びこれに関する事項,証言の信用性に関する事項について,③再主尋問は,反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行います(民事訴訟規則127条,114条1項)。
これらの事項以外の質問については,相当でないと認められるときは,申立て又は職権により制限されることがあります(民事訴訟規則127条,114条2項)。

 

3 禁止される質問

当事者は,①当事者を侮辱し,又は困惑させる質問,②誘導質問,③既にした質問と重複する質問,④争点に関係のない質問,⑤意見の陳述を求める質問,⑥当事者が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問をすることはできません。ただし,②から⑥については正当な理由がある場合は質問することができます(民事訴訟規則127条,115条2項)。
違反する場合には,申立て又は職権により質問が制限されることがあります(民事訴訟規則127条,115条3項)。

 

4 書類に基づく陳述の禁止,文書等の利用

当事者は,裁判長の許可を受けた場合を除き,書類に基づいて陳述することはできません(民事訴訟法210条,203条)。

当事者は,裁判長の許可を得て,文書等を利用して当事者本人に質問することができます(民事訴訟規則127条,116条1項)。文書等が証拠調べをしていないものであるときは,相手方の異議がないときを除き,質問前に相手方に閲覧する機会を与えなければなりません(民事訴訟規則127条,116条2項)。裁判長は調書への添付その他必要があると認めるときは,当事者に対し,文書等の写しの提出を求めることができます(民事訴訟規則127条,116条3項)。

 

5 対質

裁判長は,必要があると認めるときは,当事者本人と他の当事者本人又は証人との対質を命ずることができます(民事訴訟規則126条)。
対質を命じたときは,その旨調書に記載されます(民事訴訟規則127条,118条2項)。
また,対質を行うときは,裁判長がまず尋問することができます(民事訴訟規則127条,118条3項)。

 

6 文字の筆記等

裁判長は,必要があると認めるときは,当事者に文字の筆記その他の必要な行為をさせることができます(民事訴訟規則127条,119条)。

 

7 尋問を受ける当事者への配慮

尋問を受ける当事者への配慮の観点から,①付添い(民事訴訟法210条,203条の2,民事訴訟規則127条,122条の2),②遮蔽措置(民事訴訟法210条,203条の3,民事訴訟規則127条,122条の3),③テレビ会議システムの利用(民事訴訟法210条,204条,民事訴訟規則127条,123条),④傍聴人の退廷(民事訴訟規則127条,121条)がなされることがあります。

 

九  異議

当事者は,①民事訴訟規則113条(尋問の順序)2項,3項の裁判長の許可,②民事訴訟規則114条(質問の制限)2項の裁判長の制限,③民事訴訟規則115条(質問の制限)3項の裁判長の制限,④民事訴訟規則116条(文書等の質問への利用)1項の裁判長の許可について,異議を述べることができます(民事訴訟規則127条,117条1項,民事訴訟法210条,202条3項)。
異議に対して,裁判所は決定で直ちに裁判しなければなりません(民事訴訟規則127条,117条2項)。

 

十 不出頭等の効果

当事者本人を尋問する場合に,その当事者が,正当な理由がなく,出頭しない場合,宣誓を拒んだ場合,陳述を拒んだ場合には,裁判所は,尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができます(民事訴訟法208条)。

 

十一 尋問の結果について

1 口頭弁論調書への記載

当事者の陳述は口頭弁論調書に記載されます(民事訴訟規則67条1項3号)。
ただし,裁判長の許可があったときは,当事者本人の陳述を録音テープ等に記録し,調書の記載に代えることができますが,裁判長が許可をする際に当事者は意見を述べることができます(民事訴訟規則68条1項)。当事者の申し出があるときは当事者本人の陳述を記載した書面を作成しなければなりません。訴訟が上訴審に係属中の場合に,上訴裁判所が必要があると認めたときも同様です(民事訴訟規則68条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部となります。

 

2 簡易裁判所の場合

簡易裁判所の事件では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て当事者本人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に当事者本人の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部とならないので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。そのため,当事者は,録音テープ等を複製してもらい,自分で反訳書面を作成して,反訳書面を書証として提出することになります。

【民事訴訟】証人尋問

2018-12-07

民事訴訟の証拠調手続として,①書証,②人証(証人尋問,当事者尋問),③鑑定,④検証があります。
ここでは,証人尋問について説明します。

 

一 証人尋問の基本的な流れ

証人尋問は,当事者双方の主張が出揃い,争点及び証拠の整理が終了した後に,①証人尋問の申出(証拠申出書,尋問事項書,陳述書の提出),②証人の採否の決定,③同行または呼出による証人の出頭,④証人への人定質問(人違いでないことの確認),⑤証人の宣誓,⑥証人への尋問(主尋問,反対尋問,補充尋問)という流れで行うのが通常です。

 

二  証人とは

証人とは,自ら経験・認識した過去の事実を訴訟で供述する第三者のことです。
当事者やその法定代理人以外の第三者は証人となります。
裁判所は,特別の定めがある場合を除き,何人でも証人として尋問することができます(民事訴訟法190条)。

 

三 証人の義務

証人は,原則として,出頭義務,証言義務,宣誓義務を負います。

 

1 出頭義務

尋問の申し出をした当事者は,証人を期日に出頭させるよう努めなければなりません(民事訴訟規則109条)。
また,証人は,期日に出頭することができない事由が生じたときは,直ちに,その事由を明らかにして届け出なければなりません(不出頭の届出。民事訴訟規則110条)。
証人が正当な理由なく出頭しないときは,①訴訟費用の負担を命じられたり,過料に処せられたりすること(民事訴訟法192条),②罰金・拘留に処せられること(民事訴訟法193条),③裁判所に勾引を命じられること(民事訴訟法194条)があります。

 

2 証言義務

証人は,原則として証言の義務を負います。
証人が正当な理由なく証言を拒む場合には,訴訟費用の負担を命じられたり,過料に処せられたりすることや罰金・拘留に処せられることがあります(民事訴訟法200条,192条,193条)。
ただし,証人は,刑事訴追を受けるおそれがある場合や守秘義務を負う場合等,一定の事由がある場合には,証言拒絶権が認められ,証言を拒絶することができます(民事訴訟法196条,197条)。

 

3 宣誓義務

証人は,特別の定めがある場合を除き,宣誓する義務を負います(民事訴訟法201条1項)。宣誓した上で,虚偽の証言をした場合には,偽証罪となることがあります(刑法169条,170条)。
証人が正当な理由なく,宣誓を拒んだ場合には,訴訟費用の負担を命じられたり,過料に処せられたりすることや罰金・拘留に処せられることがあります(民事訴訟法201条5項,192条,193条)。

 

四 集中証拠調べ

証人尋問及び当事者尋問は,できる限り,争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければなりません(民事訴訟法182条,民事訴訟規則101条)。
また,証人及び当事者本人の尋問の申出は,できる限り一括してしなければなりません(民事訴訟規則100条)。

五 尋問の申出

1 証拠申出書の提出

証人尋問するにあたって,当事者は証人尋問の申出をします。
証人尋問の申出は証拠申出書を提出して行います。
証拠申出書には,①人証の表示(民事訴訟規則106条),②尋問予定時間(民事訴訟規則106条),③同行か呼出しか,④証明すべき事実(民事訴訟法180条1項,民事訴訟規則99条1項)を記載します。
また,証人尋問の申出をするときは同時に尋問事項書2通を提出しなければなりません(民事訴訟規則107条)。尋問事項書は証拠申出書に添付します。

 

2 陳述書の提出

尋問の申出をする際,証人の陳述書を作成して提出することが通常です。
陳述書は,主尋問で聞く予定のことについて記載します。
陳述書は主尋問を代替,補完するものであり,尋問時間を短縮することができますし,主尋問で証人がどのようなことを述べるのか予想できますので,反対尋問の準備にも役立ちます。

 

3 証人の採否

証人尋問の申出に対し,裁判所は証人を採用するか決定します。
証人を採用する場合には,尋問時間や順序等も決めます。
また,呼出が必要な証人については,呼出状が送られます。

 

六 尋問の順序

証人尋問は,①主尋問(尋問の申出をした当事者の尋問),②反対尋問(他の当事者の尋問),③再主尋問(尋問の申出をした当事者の再度の尋問),④補充尋問(裁判長の尋問)の順序でするのが原則です(民事訴訟法202条1項,民事訴訟規則113条1項)。 また,当事者は,裁判長の許可を得て,更に尋問することができます(民事訴訟規則113条2項)。
ただし,裁判所は,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて順序を変更することができます(民事訴訟法202条2項)。
また,裁判長は,必要があると認めるときは,いつでも自ら証人を尋問したり(介入尋問),当事者に尋問を許すことができますし(民事訴訟規則113条3項),陪席裁判官は,裁判長に告げて,証人尋問することができます(民事訴訟規則113条4項)。

 

七 尋問の方法

1 一問一答式の原則

質問は,できる限り,個別的かつ具体的にしなければなりません(民事訴訟規則115条1項)。

 

2 尋問事項

①主尋問は,立証すべき事項及びこれに関する事項について,②反対尋問は,主尋問事項に現れた事項及びこれに関する事項,証言の信用性に関する事項について,③再主尋問は,反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行います(民事訴訟規則114条1項)。
これらの事項以外の質問については,相当でないと認められるときは,申立て又は職権により制限されることがあります(民事訴訟規則114条2項)。

 

3 禁止される質問

当事者は,①証人を侮辱し,又は困惑させる質問,②誘導質問,③既にした質問と重複する質問,④争点に関係のない質問,⑤意見の陳述を求める質問,⑥証人が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問をすることはできません。ただし,②から⑥については正当な理由がある場合は質問することができます(民事訴訟規則115条2項)。
違反する場合には,申立て又は職権により質問が制限されることがあります(民事訴訟規則115条3項)。

 

4 書類に基づく陳述の禁止,文書等の利用

証人は,裁判長の許可を受けた場合を除き,書類に基づいて陳述することはできません(民事訴訟法203条)。

当事者は,裁判長の許可を得て,文書等を利用して証人に質問することができます(民事訴訟規則116条1項)。文書等が証拠調べをしていないものであるときは,相手方の異議がないときを除き,質問前に相手方に閲覧する機会を与えなければなりません(民事訴訟規則116条2項)。裁判長は調書への添付その他必要があると認めるときは,当事者に対し,文書等の写しの提出を求めることができます(民事訴訟規則116条3項)。

5 対質

対質とは,複数の証人を在廷させて同時に取り調べることです。
裁判長は,必要があると認めるときは,対質を命ずることができます(民事訴訟規則118条1項)。対質を命じたときは,その旨調書に記載されます(民事訴訟規則118条2項)。対質を行うときは,裁判長がまず証人を尋問することができます(民事訴訟規則118条3項)。

 

6 文字の筆記等

裁判長は,必要があると認めるときは,証人に文字の筆記その他の必要な行為をさせることができます(民事訴訟規則119条)。

 

7 後に尋問すべき証人の扱い

証人尋問は,後に尋問する証人を在廷させないので行うのが原則です(隔離尋問の原則)。
後で尋問する証人を在廷させると,先に尋問した証人の証言内容の影響を受ける可能性があるからです。
もっとも,裁判長は,必要があると認めるときは,後に尋問すべき証人の在廷を許すことができます(民事訴訟規則120条)。

 

8 証人への配慮

証人への配慮の観点から,①付添い(民事訴訟法203条の2,民事訴訟規則122条の2),②遮蔽措置(民事訴訟法203条の3,民事訴訟規則122条の3),③テレビ会議システムの利用(民事訴訟法204条,民事訴訟規則123条),④傍聴人の退廷(民事訴訟規則121条)がなされることがあります。

 

八  異議

当事者は,①民事訴訟規則113条(尋問の順序)2項,3項の裁判長の許可,②民事訴訟規則114条(質問の制限)2項の裁判長の制限,③115条(質問の制限)3項の裁判長の制限,④民事訴訟規則116条(文書等の質問への利用)1項の裁判長の許可について,異議を述べることができます(民事訴訟規則117条1項,民事訴訟法202条3項)。
異議に対して,裁判所は決定で直ちに裁判しなければなりません(民事訴訟規則117条2項)。

 

九 尋問の結果について

1 口頭弁論調書への記載

証人の陳述は口頭弁論調書に記載されます(民事訴訟規則67条1項3号)。
ただし,裁判長の許可があったときは,証人の陳述を録音テープ等に記録し,調書の記載に代えることができますが,裁判長が許可をする際に当事者は意見を述べることができますし(民事訴訟規則68条1項),当事者の申し出があるときは証人の陳述を記載した書面を作成しなければなりません(民事訴訟規則68条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部となります。

2 簡易裁判所の場合

簡易裁判所の事件では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て証人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に証人の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部とならないので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。そのため,当事者は,録音テープ等を複製してもらい,自分で反訳書面を作成して,反訳書面を書証として提出することになります。

【離婚】夫婦関係円満調整調停(円満調停)

2018-11-05

夫婦関係がこじれ,当事者どうしで話合いができない場合には,家庭裁判所に夫婦関係円満調整調停(円満調停)の申立てをすることが考えられます。

一 夫婦関係円満調整調停(円満調停)とは

夫婦関係円満調整調停(円満調停)とは,夫婦関係が円満でなくなった場合に円満な夫婦関係を回復するための話合いをするために家庭裁判所に申し立てる調停のことであり,夫婦関係調整調停の一つです。
夫婦関係調整調停には円満調停と離婚調停があります。夫婦関係の修復が難しく,離婚したい場合には離婚調停を申し立てることができますし,離婚はしたくなく,夫婦関係を修復したい場合には,円満調停の申立てをすることができます。
また,離婚しようかどうか迷っている場合に,いきなり離婚調停を申し立てるのではなく,まず円満調整調停の申立てをすることもできます。

 

二 申立て

1 申立権者

夫または妻の一方が申立人となり,他方が相手方となります。

 

2 管轄裁判所(申立てをする裁判所)

相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所(家事事件手続法245条1項)に申立てをします。

 

3 申立てに必要な書類等

申立書と写し各1通,夫婦の戸籍謄本,事情説明書等の必要書類を提出します。
また,収入印紙と郵便切手も納めます。

 

三 調停期日での手続

調停期日では,調停委員が当事者双方から事情を聴き,不和が生じた原因を探したり,関係修復のための解決策を話し合ったりする等して,夫婦関係を修復するための解決を模索していきます。
また,当事者の一方が離婚を望んでいる等,関係修復が難しい場合には,離婚について話し合うこともあります。

 

四 終了

1 調停の成立

調停での話合いにより,当事者で夫婦関係について合意が成立した場合,円満な関係を維持するための遵守事項や同居や別居について取り決めを調停条項として調停調書に記載します。

また,当事者が離婚することに合意した場合,円満調停の手続で離婚を成立させることもできます。

 

2 調停不成立

調停が成立する見込みがない場合には,調停は不成立となります。
円満調停は一般調停事件であり,不成立になっても審判に移行することはありません。

なお,円満調停で,当事者が離婚の話合いをしたけれども,離婚の合意ができずに調停が不成立となった場合,離婚したい側は,改めて離婚調停の申立てをすることなく,離婚訴訟を提起することが可能です。

 

3 申立ての取下げ

調停成立の見込みがないけれども,不成立にしたくない場合や,夫婦関係が改善し,問題が解決したため,調停で取決めをする必要がない場合には,申立てを取り下げることがあります。

【相続・遺言】代襲相続

2018-10-26

相続人となるべき被相続人の子や兄弟姉妹が相続開始前に亡くなった場合,その子が代襲相続人となります(民法887条2項,889条3項)。

 

一 代襲相続とは

相続人となるべき被相続人の子(または兄弟姉妹)が,相続開始以前に死亡等一定の原因により相続権を失ったときは,被相続人の孫以下の直系卑属(または兄弟姉妹の子)が相続人となることを代襲相続といいます。
代襲相続の制度は,相続人となるべき者の子の利益・期待の保護や生活保障,相続人間の公平を図ることを目的としています。

 

二 代襲原因

代襲相続の原因としては,①相続開始以前の死亡,②欠格,③廃除です(民法887条2項)。

相続放棄は,条文に規定されていないので,代襲原因とはなりません。
被相続人に多額の負債があり,相続人が相続放棄した場合,相続放棄した者の子は代襲相続人とはなりませんので,相続放棄の手続をする必要はありません。

 

三 代襲相続人

1 代襲相続人となることができる者

代襲相続人となることができるのは,①被相続人の子(民法887条2項),②被相続人の兄弟姉妹(民法889条2項)。

ただし,被相続人の子の子は被相続人の直系卑属でなければ代襲相続人になれません(民法887条2項但書)。養子の連れ子(養子縁組前に生まれた子)は,被相続人の直系卑属ではないので,代襲相続人になることはできません。

 

2 再代襲

被相続人の子に代襲原因があれば,その子(被相続人の孫)が代襲相続人となりますが,さらに孫に代襲原因がある場合には,その子(被相続人の曾孫)が代襲相続人となります(民法887条3項)。

兄弟姉妹についても再代襲相続があるかどうか問題となりますが,民法889条2項は民法887条2項を準用するものの,民法887条3項は準用していないので,再代襲はありません。

 

四 代襲相続人の法定相続分

代襲相続人の相続分は被代襲者の相続分と同じです(民法901条)。
被代襲者の代襲相続人が複数いる場合には,各代襲相続人の相続分は被代襲者の相続分を等分したものになります(民法901条,民法900条4号)。

例えば,被相続人に子A,Bがいて,Aが被相続人より先に亡くなり,Aの子C,Dが代襲相続した場合,被代襲者Aの法定相続分は2分の1ですので,代襲相続人C,Dの法定相続分は4分の1ずつとなります。

 

五 代襲相続人の特別受益

民法903条1項は「共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続人財産とみなし,前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定していて,これを特別受益の持戻しといいますが,代襲相続の場合はどうでしょうか。

 

1 被相続人が被代襲者に生前贈与した場合

代襲相続人は被代襲者が取得すべきだった相続分を取得することになりますので,被相続人が被代襲者に生前贈与した場合には,代襲相続人の特別受益となるのが原則であると解されます。

 

2 被相続人が代襲相続人に生前贈与した場合

代襲原因が発生した後に被相続人が代襲相続人に生前贈与した場合には,贈与の時点で代襲相続人は相続人の地位にありますので,代襲相続人の特別受益となると解されます。

これに対し,代襲原因が発生する前に被相続人が代襲相続人に生前贈与した場合には,贈与の時点では代襲相続人は相続人の地位にはないことから,特別受益にあたるかどうか見解が分かれています。原則として特別受益にはあたらないけれども,被代襲者への受益と同視できる特段の事情があれば,特別受益にあたるとする見解もあります。

 

六 代襲相続人の寄与分

民法904条の2第1項は「共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」と規定しておりますが,代襲相続の場合はどうでしょうか。

 

1 被代襲者が特別の寄与をした場合

代襲相続人は被代襲者が取得すべきだった相続分を取得することになりますので,被代襲者に特別の寄与があれば,代襲相続人に寄与分が認められるものと解されます。

 

2 代襲相続人が特別の寄与をした場合

代襲相続人が特別の寄与をした場合についても,代襲相続人の寄与が相続人の寄与と同視できる場合には,代襲相続人に寄与分が認められるものと解されます。

 

七 相続させる旨の遺言がある場合

相続させる旨の遺言とは,例えば,「○○に一切の財産を相続させる。」,「○○に□□を相続させる。」といったように,特定の相続人に遺産を相続させる旨記載された遺言のことをいいますが,その特定の相続人が相続開始以前に亡くなった場合,代襲相続人がその遺産を取得するか問題となります。例えば,相続人Aに一切の財産を相続させる旨の遺言がある場合に,相続開始以前にAが亡くなったときは,Aの代襲相続人Bが一切の財産を取得することになるのかという問題です。

この点については,通常,遺言者は,特定の相続人に遺産を取得させる意思を有していたにとどまり,遺言者が代襲者に相続させる意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り,効力が生じないものと解されております。
遺言者が,特定の相続人が先に亡くなったのであれば,その代襲相続人に相続させたい場合には,「遺言者より前または遺言者と同時に○○が死亡していた場合には,○○の子(代襲相続人)△△に□□を相続させる。」旨の予備的遺言を残しておくことが考えられます。

 

八 相続人の資格の重複

被相続人が自分の孫を養子とした後,被相続人より先に養子の親である被相続人の子が亡くなった場合,孫には養子として相続人の資格と代襲相続人としての資格が重複することになります。その場合,養子(孫)が,双方の相続分を取得するか問題となりまります。

この点については,肯定する見解と否定する見解がありますが,登記先例では,双方の相続分を取得すると解されております。
例えば,長男,二男がいる被相続人が二男の子(孫)を養子とした場合,肯定説によると,被相続人より先に二男が亡くなったときは,養子となった孫は,養子としての相続分3分の1と,代襲相続人としての相続分3分の1を取得することになります。

【相続・遺言】不動産の遺産分割

2018-10-13

被相続人の遺産に不動産がある場合,不動産は共同相続人の共有(遺産共有)となります。
不動産の遺産共有状態を解消するためには遺産分割が必要となりますが,不動産の遺産分割はどのようにすればよいでしょうか。

 

一 遺産の特定

まず被相続人の遺産として,どのような不動産があるか調べます。

不動産を調べる方法としては,固定資産税納税通知書の明細書を確認し,そこに記載されている不動産の登記事項証明書をとって調べることが考えられます。
もっとも,固定資産税が課税されていない不動産は固定資産税納税通知書に記載されませんので,非課税不動産である私道の存在に気付かないまま,遺産分割をしてしまうおそれがあるので注意しましょう。
名寄帳には非課税の不動産も記載されていますので,非課税の不動産を見落とさないようにするには名寄帳で確認したほうがよいでしょう。

 

二 遺産の評価

遺産分割をするにあたって,各当事者の具体的相続分を計算するため,遺産を金銭で評価する必要があります。
また,誰がどの遺産を取得するか,代償金支払の必要性やその金額等,遺産分割の方法を決めるためにも,遺産の評価が必要となります。

 

1 評価の方法

遺産の評価の方法としては,当事者の合意による場合と鑑定による場合があります。

 

(1)当事者の合意

遺産分割は当事者の意思に基づいて行うことができますので,遺産の評価についても当事者の合意により決めることができます。
当事者の合意で,不動産の評価額を決める場合には,固定資産評価額,相続税評価額(路線価),不動産業者の査定書,私的鑑定等の資料が参考となります。

 

(2)鑑定

当事者で合意ができない場合は,鑑定を行うことになります。
鑑定を行う場合には,原則として裁判所に鑑定費用を予納します。その際,鑑定費用を誰が負担するか問題となります。

 

2 評価の基準時

基本的には,遺産分割時(現実に分割するとき)を基準時として遺産を評価しますが,寄与分や特別受益が問題となる場合には,相続開始時の評価に基づいて,具体的相続分を計算します。

もっとも,遺産の評価を2時点で行うことは煩雑であり,鑑定費用も余計にかかりますし,相続開始時からあまり時間が経過していない場合には評価額に大きな違いはないでしょうから,当事者の合意があれば,一時点で評価することもあります。

 

三 遺産分割の方法

1 現物分割

遺産分割は,現物分割(個々の財産をそのまま相続人に取得させる方法)が基本です。

遺産である土地が広い場合には,分筆して,現物分割することも考えられます。

 

2 代償分割

現物分割が基本ですが,各相続人の相続分に見合う財産があるとは限りませんので,現物分割と代償分割(相続分を超える遺産を取得した相続人が他の相続人に金銭の支払等債務を負担する方法)を併用することがよくあります。
例えば,ある相続人が不動産を取得し,他の相続人が預金を取得することにした場合に,相続分を超えて取得した側から足りない側に代償金を支払うことで調整します。

 

3 換価分割

不動産以外にめぼしい財産がない場合や不動産を取得する者に代償金を支払う資力がない場合には,不動産を売却して,売却代金を分割することが考えられます。

 

4 共有分割

現物分割,代償分割,換価分割のいずれも方法もとれない場合には,共同相続人で共有すること(共有分割)になりますが,共有状態はトラブルになる可能性がありますので,できる限り避けたほうがよいでしょう。

 

四 登記

遺産分割により不動産を取得した場合,不動産を取得した相続人は,所有権移転登記手続をすることになります。

 

1 相続登記がない場合(被相続人名義の場合)

遺産分割により,ある相続人が不動産を単独で取得したときは,その相続人は,単独で,「相続」を登記原因とする所有権移転登記の申請をすることができます(不動産登記法63条2項)。

 

2 相続登記がある場合(共同相続人名義の場合)

共同相続人が相続登記をした後に,遺産分割により,ある相続人がその不動産を取得したときには,取得した相続人を登記権利者,他の相続人を登記義務者として,共同で,「遺産分割」を登記原因とする所有権移転登記手続の申請をしなければなりません。
そのため,遺産分割調停や審判で,不動産を取得した相続人が単独で登記申請ができるようにするためには,単に「不動産を取得する」と定めるだけではなく,他の相続人に対し「遺産分割を原因とする共有持分の移転登記手続をせよ」と登記手続を命ずる調停条項や審判が必要となります。

【労働問題】解雇を争う方法 地位保全仮処分,賃金仮払仮処分

2018-09-28

解雇された労働者が,解雇についての争いを裁判所で解決する法的手続として,①労働審判,②仮の地位を定める仮処分,③民事訴訟があります。

仮の地位を定める仮処分とは,争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるために必要であるときに,暫定的に必要な措置を命ずるものです(民事保全法23条2項)。解雇について争いがある場合には,地位保全仮処分と賃金仮払仮処分の申立てが考えられますので,これらについて説明します。

 

一 地位保全仮処分

解雇について争いがある場合,解雇された労働者は,従業員の地位にあることを仮に定める仮処分(地位保全仮処分)を申し立てることが考えられます。

地位保全の仮処分は任意の履行を期待する仮処分であるため,従業員の地位にあることを仮に定めても,それだけでは,使用者に賃金の支払いを強制することはできないため,地位保全の仮処分とあわせて賃金仮払いの仮処分を申し立てることが多いです。
もっとも,賃金の仮払いがなされれば,従業員の地位にあることを仮に定める必要は通常ありませんので,地位保全の仮処分は認められないことが多いです。

 

二 賃金仮払仮処分

1 賃金仮払仮処分とは

解雇されると労働者は使用者から賃金の支払いを受けられなくなります。
そこで,解雇された労働者としては,使用者に賃金の仮払いを命ずる仮処分(賃金仮払仮処分)の申立てをすることが考えられます。

 

2 被保全権利,保全の必要性

賃金仮払仮処分が認められるには,申立てをした労働者の側で,被保全権利(賃金請求権があること)や保全の必要性を疎明しなければなりません。

仮の地位を定める仮処分は債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避ける必要があるときに発せられますので(民事保全法23条2項),保全の必要性として,解雇により収入がなくなって生活が困窮し,本案判決の確定を待てないことを疎明しなければなりません。
解雇されて収入がなくなったとしても,他の固定収入や多額の資産がある等して,生活に困窮していなければ,保全の必要性が認められないことがあります。

 

3 審尋

仮の地位を定める仮処分は必要的審尋事件です(民事保全法23条4項)。
そのため,通常,審尋期日に債権者(労働者),債務者(使用者)双方が同席して,主張書面や疎明資料の提出等を行います。

 

4 仮払金額,仮払期間

賃金仮払いの仮処分が認められるとしても,仮払いがなされる金額や期間は,保全の必要性が認められる範囲に限定されます。

 

(1)仮払金額

賃金の仮払いが認められる金額については,生活に必要な金額に限られますので,賃金全額について仮払いが認められるとは限りません。

 

(2)仮払期間

仮払いが認められる期間については,本案訴訟の一審判決の言渡しまでとされる場合や,決定から1年間とされる場合等があります。

 

5 担保

民事保全手続では,債務者が被る可能性のある損害を担保するため,担保を立てるのが原則ですが,賃金仮払仮処分は,生活に困窮している場合に発令されますので,無担保で発令されるのが通常です。

 

6 和解

保全事件についても和解ができます。
仮処分は暫定的なものであり,仮処分後に本案訴訟で解決するのが原則ですが,訴訟が終了するまで争うと長期間かかり,債権者,債務者双方にとって負担や敗訴した場合の
リスクが大きくなりますので,早期解決の観点から,和解による解決を検討したほうがよい場合もあります。

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