【労働問題】解雇を争う方法 地位保全仮処分,賃金仮払仮処分

2018-09-28

解雇された労働者が,解雇についての争いを裁判所で解決する法的手続として,①労働審判,②仮の地位を定める仮処分,③民事訴訟があります。

仮の地位を定める仮処分とは,争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるために必要であるときに,暫定的に必要な措置を命ずるものです(民事保全法23条2項)。解雇について争いがある場合には,地位保全仮処分と賃金仮払仮処分の申立てが考えられますので,これらについて説明します。

 

一 地位保全仮処分

解雇について争いがある場合,解雇された労働者は,従業員の地位にあることを仮に定める仮処分(地位保全仮処分)を申し立てることが考えられます。

地位保全の仮処分は任意の履行を期待する仮処分であるため,従業員の地位にあることを仮に定めても,それだけでは,使用者に賃金の支払いを強制することはできないため,地位保全の仮処分とあわせて賃金仮払いの仮処分を申し立てることが多いです。
もっとも,賃金の仮払いがなされれば,従業員の地位にあることを仮に定める必要は通常ありませんので,地位保全の仮処分は認められないことが多いです。

 

二 賃金仮払仮処分

1 賃金仮払仮処分とは

解雇されると労働者は使用者から賃金の支払いを受けられなくなります。
そこで,解雇された労働者としては,使用者に賃金の仮払いを命ずる仮処分(賃金仮払仮処分)の申立てをすることが考えられます。

 

2 被保全権利,保全の必要性

賃金仮払仮処分が認められるには,申立てをした労働者の側で,被保全権利(賃金請求権があること)や保全の必要性を疎明しなければなりません。

仮の地位を定める仮処分は債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避ける必要があるときに発せられますので(民事保全法23条2項),保全の必要性として,解雇により収入がなくなって生活が困窮し,本案判決の確定を待てないことを疎明しなければなりません。
解雇されて収入がなくなったとしても,他の固定収入や多額の資産がある等して,生活に困窮していなければ,保全の必要性が認められないことがあります。

 

3 審尋

仮の地位を定める仮処分は必要的審尋事件です(民事保全法23条4項)。
そのため,通常,審尋期日に債権者(労働者),債務者(使用者)双方が同席して,主張書面や疎明資料の提出等を行います。

 

4 仮払金額,仮払期間

賃金仮払いの仮処分が認められるとしても,仮払いがなされる金額や期間は,保全の必要性が認められる範囲に限定されます。

 

(1)仮払金額

賃金の仮払いが認められる金額については,生活に必要な金額に限られますので,賃金全額について仮払いが認められるとは限りません。

 

(2)仮払期間

仮払いが認められる期間については,本案訴訟の一審判決の言渡しまでとされる場合や,決定から1年間とされる場合等があります。

 

5 担保

民事保全手続では,債務者が被る可能性のある損害を担保するため,担保を立てるのが原則ですが,賃金仮払仮処分は,生活に困窮している場合に発令されますので,無担保で発令されるのが通常です。

 

6 和解

保全事件についても和解ができます。
仮処分は暫定的なものであり,仮処分後に本案訴訟で解決するのが原則ですが,訴訟が終了するまで争うと長期間かかり,債権者,債務者双方にとって負担や敗訴した場合の
リスクが大きくなりますので,早期解決の観点から,和解による解決を検討したほうがよい場合もあります。

 

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