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【後見】法定後見と任意後見の関係

2016-06-14

成年後見制度には,法定後見制度と任意後見制度がありますが,両制度の関係は以下のとおりです。

一 法定後見と任意後見の関係

任意後見では,本人は,誰を任意後見人とするか,どのような代理権を与えるかについて,本人が自らの意思で決めることができます。

そのため,本人の自己決定を尊重する観点から,法定後見が本人の利益のために特に必要であると認められる場合を除き,任意後見が法定後見に優先します。

 

1 法定後見開始後に任意後見契約を締結した場合

法定後見開始後であっても,本人に判断能力があれば,任意後見契約を締結し,任意後見監督人選任の申立てをすることができます。

その場合,法定後見を継続することが,本人の利益のために特に必要であると認められるときは,家庭裁判所は任意後見監督人を選任することができませんが(任意後見契約に関する法律4条1項2号),任意後見監督人が選任される場合には,家庭裁判所は,後見開始の審判等を取り消します(法4条2項)。

 

2 任意後見契約締結後に後見開始の審判等を申し立てた場合

任意後見契約が登記されている場合,家庭裁判所は,本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り,後見開始の審判等をすることができます(法10条1項)。

後見開始の審判等の申立ては,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人もすることができます(法10条2項)。

任意後見監督人が選任された後に,本人が後見開始の審判等を受けたときは,任意後見契約は終了します(法10条3項)。

 

三 本人の利益のために特に必要がある場合

本人の利益のために特に必要がある場合としては,以下のような場合が考えられます。

 

1 任意後見人の代理権の範囲が狭い場合

任意後見人の代理権は,任意後見契約で定められた範囲に限定されます。

また,任意後見契約の内容については変更することもできますが,本人の判断能力がない場合には,変更することもできません。

そのため,任意後見人の代理権の範囲が狭いが,代理権の範囲を変更することができず,本人の身上監護や財産管理が適切に行えない場合には,法定後見を開始することが必要となります。

 

2 同意権や取消権が必要な場合

任意後見人には代理権しかなく,同意権や取消権はありません。

そのため,本人のために同意権や取消権が必要な場合には,法定後見を開始する必要があります。

 

3 任意後見受任者が任意後見人となることに適しない場合

任意後見受任者が①未成年,②家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人,補助人,③破産者,④行方の知れない者,⑤本人に対し訴訟をし,またはした者及びその配偶者並びに直系血族,⑥不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者である場合には,家庭裁判所は,任意後見監督人を選任することができないため(法4条1項),任意後見契約の効力が生じません。

そのような場合には,本人を援助するために,法定後見を開始することが必要となります。

【後見】任意後見監督人選任申立て

2016-06-13

任意後見契約の効力を発生させるためには,任意後見監督人の選任申立てをして,家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらう必要があります。

 

1 任意後見監督人選任申立てとは

任意後見契約が登記されている場合において,本人が精神上の障害により事理を弁識する能力(判断能力)が不十分な状況にあるときは,本人,配偶者,4親等以内の親族,任意後見受任者は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人選任の申立てをすることができ(任意後見契約に関する法律4条1条),家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで,任意後見契約の効力が発生します(法2条1号)。

 

2 本人の判断能力

「本人が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況にあるとき」とは,本人の判断能力が補助開始相当程度以上に不十分な状況にある場合をいいます。

 

3 申立人

本人,配偶者,4親等以内の親族,任意後見受任者は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人選任の申立てをすることができます(法4条1条)。

 

4 管轄裁判所

管轄裁判所は,本人の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法217条1項)。

 

5 本人の同意

本人以外の者が申立てをする場合には,本人が意思表示できないときを除き,本人の同意が必要となります(法4条3項)。

 

6 申立ての取下げの制限

家庭裁判所の許可がなければ,取り下げることはできません(家事事件手続法221条)。

 

7 意見,陳述の聴取

家庭裁判所は,①本人の精神の状況につき医師その他適当な者の意見,②本人の陳述(心身の障害により陳述を聴くことができない場合を除きます。),③任意後見監督人となるべき者の意見,④任意後見契約の効力が生ずることについて任意後見受任者の意見を聴いた上で(家事事件手続法219条,220条),任意後見監督人選任の審判をします。

 

8 任意後見監督人を選任することができない場合

家庭裁判所は,以下の場合には,任意後見監督人を選任することができません(法4条1項但書各号)。

 

①本人が未成年

②本人について,法定後見が行われており,その継続が本人の利益のために特に必要であると認められるとき

③任意後見受任者が,次に掲げる者である場合

ⅰ 未成年

ⅱ 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人,補助人

ⅲ 破産者

ⅳ 行方の知れない者

ⅴ 本人に対し訴訟をし,またはした者及びその配偶者並びに直系血族

ⅵ 不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

 

9 登記

任意後見監督人が選任されたときは,登記されます。

 

 

【後見】任意後見制度

2016-06-02

高齢で認知症になる等して判断能力が低下した場合,ご本人で身の回りのことや財産の管理を行うことができなくなってしまいます。

そのような場合に,本人を援助するための制度として,任意後見制度があります。

 

一 任意後見制度とは

任意後見制度とは,本人が任意後見人と任意後見契約を締結して,委任事項を定めておき,本人が精神上の障害により判断能力が不十分になったときに,任意後見監督人を選任して,その監督の下,任意後見人が本人を援助する制度であり,成年後見制度の一つです。

法定後見制度では,誰を後見人に選任するかについては裁判所が決めますし,後見人等の権限の範囲も法律で定められております。

これに対し,任意後見制度では,本人が,判断能力のあるうちに,自分の意思で,誰を任意後見人とするか,どの範囲で委任するか決めておくことができます。

 

二 任意後見契約

1 任意後見契約とは

任意後見契約とは,委任者(本人)が受任者(任意後見受任者)に対し,精神上の障害により事理を弁識する能力(判断能力)が不十分になったときに,自己の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部の代理権を付与する委任契約であって,任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めがあるものをいいます(任意後見契約に関する法律2条1号)。

 

2 任意後見契約の締結方法

任意後見契約は,公正証書によることが必要です(法3条)。

任意後見契約が締結されると,公証人を通じて,任意後見契約が登記されます。

 

3 任意後見契約の効力発生

任意後見契約が登記されている場合,本人が精神上の障害により判断能力が不十分となったときは,本人,配偶者,4親等以内の親族,任意後見受任者は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人選任の申立てをし(法4条1条),家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで任意後見契約の効力が発生します(法2条1項1号)。

 

三 任意後見人

1 任意後見人の資格

任意後見人の資格については特に制限はありません。

自然人だけでなく,法人も任意後見人になることができます。

また,複数人が任意後見人になることもできます。

ただし,任意後見受任者に以下の事由がある場合には,家庭裁判所は,任意後見監督人申立てを却下しますので,任意後見人になることはできません(法4条1項)。

①未成年

②家庭裁判所に法定代理人,保佐人,補助人を免ぜられた者

③破産者

④行方の知れない者

⑤本人に対し訴訟をし,またはした者及びその配偶者並びに直系血族

⑥不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

 

2 任意後見人の職務

任意後見人は,任意後見契約の効力が発生した後,任意後見契約で付与された代理権に基づいて,委託された事務を行います。

事務を行うにあたって,任意後見人は,本人の意思を尊重し,心身の状態,生活の状況に配慮しなければなりません(法6条)。

また,任意後見人は,任意後見監督人の監督を受け,任意後見監督人に事務を報告しなければなりません。

 

四 任意後見監督人

1 任意後見監督人の資格

任意後見監督人の資格について法律上規定はありませんが,以下の人は,任意後見監督人になることはできません。

①任意後見受任者(法5条)

②任意後見人の配偶者,直系血族,兄弟姉妹(法5条)

③未成年(法7条4項で準用される民法847条 以下,同じ)

④家庭裁判所に法定代理人,保佐人,補助人を免ぜられた者

⑤破産者

⑥本人に対し訴訟をし,またはした者及びその配偶者並びに直系血族

⑦行方の知れない者

 

2 任意後見監督人の職務

任意後見監督人の職務は,以下のとおりです(法7条1項)。

①任意後見人の事務を監督すること

②任意後見人の事務に関し,家庭裁判所に定期的に報告すること

③急迫の事情がある場合に任意後見人の代理権の範囲内で必要な処分をすること

④任意後見人・その代表者と本人との利益相反行為について本人を代表すること

 

任意後見監督人は,いつでも,任意後見人に対し,任意後見人の事務の報告を求め,任意後見人の事務,本人の財産の状況を調査することができます(法7条2項)。

 

3 家庭裁判所の監督

家庭裁判所は,必要があると認めるときは,任意後見監督人に対し,任意後見人の事務に関する報告を求め,任意後見人の事務,本人の財産の状況の調査を命じ,その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命じることができます(法7条3項)。

 

 

【交通事故】交通事故と保険

2016-05-11

交通事故に関する保険として,主なものは以下のとおりです。

 

一 自動車損害賠償責任保険・共済(自賠責保険・自賠責共済)

強制保険(保険契約の締結が強制される保険)であり,自賠責保険・共済に加入していない自動車の運行は禁止されています。

人損についての保険であり,保険金の限度額が定められておりますが,被害者保護の観点から過失相殺が制限されています。

また,後遺障害等級認定制度があります。

二 任意保険(自動車保険)

自賠責保険(共済)は保険金の限度額が定められており,自賠責保険(共済)だけでは,損害の填補ができない場合がありますので,自賠責保険(共済)に上乗せして,任意保険(自動車保険)に加入するのが一般的です。

任意保険(自動車保険)の内容は,保険会社や保険契約により異なりますが,概ね以下のようなものがあります。

なお,他にも様々な特約があります。

 

1 人損

(1)対人賠償責任保険

自動車事故の人損について,被保険者が被害者に対し損害賠償責任を負うことによる損害を填補する保険です。

保険会社の示談代行サービスがあることが通常です。

 

(2)傷害保険

被保険者自身の人損について填補する保険です。

 

①自損事故保険

被保険者が死傷した場合で,単独事故や加害者に運行供用者責任を問えないときに支払われます。

 

②搭乗者傷害保険

被保険車の搭乗者が搭乗中の事故で死傷した場合に支払われます。

 

③無保険者傷害保険

相手方自動車が無保険自動車である場合に支払われます。

保険会社は,保険金を支払ったときには,被保険者の加害者に対する損害賠償請求を代位取得します。

 

④人身傷害保険

被保険者の人損について,責任の有無や過失割合を問わず,保険契約上の損害算定基準により算定された金額が支払われます。

保険会社は,保険金を支払ったときには,被保険者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得します。なお,過失相殺がある場合には,保険会社が代位する範囲が問題となります。

 

2 物損

(1)対物賠償責任保険

自動車事故の物損について損害賠償責任を負うことによる損害を填補する保険です。

(2)車両保険

被保険自動車に生じた物損を填補するものです。

保険会社は,保険金を支払ったときには,被保険者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得します。

 

3 弁護士費用等補償特約(弁護士費用特約)

被保険者が交通事故にあった場合,被保険者(被保険者が亡くなった場合には,相続人)が加害者に損害賠償請求をして弁護士費用等を負担したときに,一定の限度で保険金が支払われます。

 

三 社会保険

1 労働者災害補償保険(労災保険)

労働者が業務上または通勤途上で災害にあい,死傷した場合に保険給付がなされます。

交通事故も災害にあたるため,労働者が業務上または通勤途上で交通事故にあった場合には,労災保険を利用することが考えられます。

 

2 健康保険

交通事故にあった場合にも,健康保険を利用することができます。

被害者に過失がある場合,治療費が高額になることが見込まれる場合,加害者の支払能力に問題がある場合には,自由診療ではなく,健康保険を利用することを検討したほうが良いでしょう。

 

四 その他

生命保険や医療保険も利用できます。

損害を填補する趣旨ではないので,被害者の加害者に対する損害賠償請求額に影響はありません。

 

【相続・遺言】生命保険と相続

2016-04-04

被相続人が生命保険契約を締結していた場合,相続財産として遺産分割を行う必要はあるのか問題となります。

生命保険契約とは,被保険者の生死を保険事故とし,保険事故が発生した場合に,保険者(生命保険会社等)が,保険金受取人に保険金を支払うことを約し,保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約す契約であり,まずは,保険契約者,被保険者,保険金受取人が,それぞれ誰であるかを確認することが必要となります。

なお,生命保険については,民法と相続税法では扱いが異なりますが,以下は,民法を念頭に説明します。

 

一 保険契約者と被保険者が被相続人である場合

被保険者である被相続人が亡くなった場合には,保険金受取人に死亡保険金が支払われます。

 

1 保険金受取人が被相続人以外の者の場合

(1)保険金受取人として特定の相続人が指定されていた場合

被保険者である被相続人が亡くなったことで,保険金請求権が生じますが,保険金請求権は,受取人の固有の権利ですので,相続財産ではなく,遺産分割の対象とはなりません。

そのため,相続人は,相続放棄をしても,死亡保険金を受け取ることができます。

また,特定の相続人が生命保険金を受け取った場合,生命保険金が特別受益にあたるかという問題がありますが,原則として,民法903条の特別受益にあたらないと解されております。ただし,相続人間の不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認できないほどに著しいと評価すべき特段の事情がある場合には特別受益に準ずるものとして,民法903条の類推適用により持戻しの対象となることがあると解されております。

 

(2)保険金受取人が「相続人」と指定されていた場合

相続人が固有の権利として生命保険金を受け取るため,保険金は,相続財産ではなく,遺産分割の対象とはなりません。

相続人が複数いる場合,民法427条により各相続人は等しい割合で保険金を取得することになるのか(相続人が3人いる場合には3分の1ずつ),法定相続分により保険金を取得することになるのか(相続人が配偶者と子2人の場合,配偶者は2分の1,子は4分の1ずつ)問題となりますが,特段の事情がない限り,民法427条の「別段の意思表示」があるものとして,各相続人は法定相続分の割合で保険金を受け取るものと解されております。

 

(3)保険金受取人の指定がなく,約款に基づいて相続人が受け取る場合

保険金受取人が相続人と指定されている場合と同じく,相続人は固有の権利として生命保険金を受け取るため,保険金は相続財産ではなく,遺産分割の対象とはなりません。

 

2 保険金受取人が被相続人の場合

被相続人が受取人となっている場合には,保険金は被相続人の財産ですので,相続財産であり,遺産分割の対象となると考えられます。

ただし,被相続人の意思を合理的に解釈し,相続人の固有の権利とする考えもあります。

 

二 保険契約者は被相続人であるが,被保険者が被相続人以外の者の場合

被保険者が被相続人以外の者である保険契約は,被相続人が亡くなっても保険金が支払われるわけではありませんが,財産的価値がありますので,保険契約に関する権利は相続財産であり,遺産分割の対象となります。

 

【相続・遺言】遺言事項

2016-03-31

どのような遺言をするかは遺言者の自由ではありますが,どのような内容であっても,法的な効力が認められるわけではなく,民法やその他の法律により,遺言によって法的な効力が生じる事項が定められております。

民法やその他の法律により遺言によって法的な効力が生ずる事項のことを,遺言事項といいます。

遺言事項については,以下のとおりです。

 

一 民法による遺言事項

1 認知(民法781条2項)

民法781条2項は,「認知は,遺言によっても,することができる。」と規定しております。

2 未成年後見人,未成年後見監督人の指定(民法839条1項,848条)

民法839条1項は,「未成年者に対して最後に親権を行う者は,遺言で,未成年者後見人を指定することができる。ただし,管理権を有しない者は,この限りではない。」と規定しております。

また,民法848条は,「未成年後見人を指定することができる者は,遺言で,未成年後見監督人を指定することができる。」と規定しております。

 

3 相続人の廃除,廃除の取消し(民法893条,894条2項)

民法893条は,「被相続人が遺言で推定相続人を排除する意思を表示したときは,遺言執行者は,その遺言が効力を生じた後,遅滞なく,その推定相続人の排除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において,その推定相続人の排除は,被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と規定しております。

また,民法894条2項は,「前条の規定は,推定相続人の排除の取消しについて準用する。」と規定しております。

 

4 祭祀承継者の指定(民法897条1項)

民法897条1項は,「系譜,祭具及び墳墓の所有権は,前条の規定にかかわらず,慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし,被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは,その者が承継する。」と規定しております。

 

5 相続分の指定,指定の委託(民法902条1項)

民法900条は法定相続分,民法901条は代襲相続人の相続分について規定しておりますが,民法902条1項は,「被相続人は,前二条の規定に関わらず,遺言で,共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし,被相続人又は第三者は,遺留分に関する規定に違反することができない。」と規定しております。

 

6 特別受益者に対する持戻しの免除(民法903条3項)

民法903条1項,2項は,特別受益者に対する持戻しを規定しておりますが,同条3項は,「被相続人が前二項と異なった意思を表示したときは,その意思表示は,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で,その効力を有する。」と規定しております。

持戻しの免除の方式については定めがなく,遺言で持戻し免除をすることもできます。

 

7 遺産分割方法の指定,指定の委託,遺産分割の禁止(民法908条)

民法908条は,「被相続人は,遺言で,遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託し,又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて,遺産の分割を禁止することができる。」と規定しております。

 

8 相続人相互の担保責任の指定(民法914条)

民法911条から913条は,共同相続人間の担保責任について規定しておりますが,民法914条は,「前三条の規定は,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは,適用しない。」と規定しております。

 

9 遺贈(民法964条)

民法964条は,「遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし,遺留分に関する規定に違反することができない。」と規定しております。

 

10 遺言執行者の指定,指定の委託(民法1006条1項)

民法1006条1項は,「遺言者は,遺言で,一人又は数人の遺言執行者を指定し,又はその指定を第三者に委託することができる。」と規定しております。

 

11 遺言執行者の復任権(民法1016条1項)

民法1016条1項は,「遺言執行者は,やむを得ない事由がなければ,第三者にその任務を行わせることができない。ただし,遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは,この限りでない。」と規定しております。

 

12 遺言執行者が複数ある場合の任務の執行(民法1017条1項)

民法1017条1項は,「遺言執行者が数人ある場合には,その任務の執行は,過半数で決する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。」と規定しております。

 

13 遺言執行者の報酬(民法1018条1項)

民法1018条1項は,「家庭裁判所は,相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし,遺言者がその遺言に報酬を定めたときは,この限りではない。」と規定しております。

 

14 遺言の撤回(民法1022条)

民法1022条は,「遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と規定しております。

 

15 遺留分減殺方法の指定(民法1034条)

民法1034条は,「遺贈は,その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。」と規定しております。

 

 

二 民法以外の法律による遺言事項

1 一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)

遺言により,一般財団法人を設立することができます。

 

2 生命保険受取人の変更(保険法44条1項)

保険法44条1項は,「保険金受取人の変更は,遺言によっても,することができる。」と規定しております。

 

3 信託の設定(信託法2条2項2号,3条2号)

遺言により,信託を設定することができます。

【交通事故】休業損害(事業所得者)

2016-03-30

1 事業所得者の休業損害

休業損害とは,交通事故による傷害の治療のため,休業し,収入を得ることができなかったことによる損害です。

事業所得者の場合,①前年の所得と休業した年の所得を比較し,その減少分から休業損害額を算定する方法や,②確定申告書等の資料に基づいて,1日あたりの基礎収入額を計算し,その金額に休業日数を乗じて休業損害額を計算する方法があります。

 

2 休業損害算定の資料

確定申告書とその添付書類(収支内訳書,青色申告決算書),課税証明書等の資料を基に計算します。

通常は,事故の前年の確定申告を基に計算しますが,変動がある場合には複数年分の資料に基づいて計算することもあります。

過少申告の場合には,実際の収入や所得に基づいて休業損害を算定することが考えられますが,申告以上の収入があったことを立証できるかどうか問題となります。

また,働いていたが確定申告をしていない場合には,収入をどのように立証するか問題となります。

 

3 固定費等の扱い

賃料,従業員の給料,減価償却費等の固定費については,休業中も支出を免れることができなかったので損害にあたると考えられます。

そこで,収入(売上)から固定費を差し引かない,または,申告所得に固定費を加えて休業損害を算定します。

例えば,1年間の収入(売上)が1000万円で経費が400万円(うち固定費が130万円)で所得が600万円の場合,1日当たりの基礎収入額は,2万円となり,これに休業日数を乗じて,休業損害額を計算します。

 

計算式:休業損害額=(所得600万円+固定費130万円)÷365日×休業日数

=2万円/日×休業日数

 

また,青色申告の場合には,収入(売上)から青色申告特別控除額を差し引かない,または,所得に青色申告特別控除額を加えて休業損害を算定します。

 

4 家族で事業をしている場合

事業所得の中に,家族の寄与がある場合には,被害者本人の寄与割合を考慮する必要があります。

また,家族に給与が支払われているが,家族は実際に働いていない場合には,被害者本人の申告所得額に家族に支払った給与額を加えて,休業損害額を算定することも考えられます。

 

五 赤字申告の場合

実際は,黒字であるのに赤字申告をしていた場合には,実際の収入や所得に基づいて休業損害を算定することが考えられますが,実際の収入を立証することができるかどうか問題となります。

また,申告内容が正しい場合であっても,固定費を考慮すれば,休業損害が認められることがありますし,休業により赤字が拡大した場合には,損失の拡大分について損害と認められることがあります。

【相続】自筆証書遺言の方式

2016-03-18

自筆証書遺言は,遺言者がひとりで作成することができるため,手軽な方法であると思われるかもしれませんが,方式が厳格に定められているため,よく理解して作成しないと,遺言が無効となってしまうことがありますので,注意が必要です。

 

第1 自筆証書遺言の方式

自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければなりません(民法968条1項)。

遺言者の最終意思であるかどうかを明確にする必要があるため,遺言は,民法に定める方式に従わなければ無効になります(民法960条)。

※相続法の改正により,平成31年1月13日から方式が緩和され,財産目録について自書を要しないことになりました(民法968条2項)。

 

1 全文の自書

遺言者の真意に基づくものであることを保障するため,遺言のすべての部分を遺言者が自書する必要があります。

パソコンで作成した場合や他人が書いた場合には,自書したとはいえません。

 

2 日付

日付は,遺言作成時の遺言能力の有無や,内容の抵触する複数の遺言の先後(前の遺言は撤回,民法1023条)を確定するための基準として必要な要件です。

日付が特定される必要がありますので,年月の記載しかない場合には無効となりますし,「○年○月吉日」という日付の特定ができない記載は無効となります。

 

3 氏名

氏名は,遺言者本人の同一性が確認できる程度に記載される必要があります。

戸籍上の氏名と同一でなくても,遺言者との同一性が確認できれば,通称や雅号等でも有効と判断されることがあります。

 

4 押印

押印も,遺言者の同一性と真意を確認するための要件です。

使用する印章には制限がなく,認印や,指印でもよいとされています。

 

第2 加除変更の方式

自筆証書遺言については,遺言の偽造変造を防止するため,加除変更についても,厳格な方式を定めており,自筆証書中の加除その他の変更は,遺言者がその場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければなりません(民法968条2項)。相続法の改正により,民法968条3項となりました。

加除変更が法律に定められた方式に従ってなされていない場合,原則として,加除変更がなされなかったものとして扱われます。

【相続・遺言】寄与分

2016-02-12

共同相続人が被相続人の財産の維持や増加に寄与した場合には,寄与分が問題となります。

 

一 寄与分とは

共同相続人の中に被相続人の家業に従事したり,療養看護をする等して,被相続人の財産の維持または増加に貢献した人がいる場合に,その貢献を評価して,相続人間の公平を図るための制度が,寄与分の制度です。

寄与分については,民法904条の2第1項が「共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」と規定しております。

二 寄与分の要件

寄与分は,相続人が被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合にその貢献を評価する制度ですから,①相続人が寄与行為をしたこと,②寄与行為が特別の寄与にあたること,③被相続人の財産が維持されたことまたは増加したこと,④相続人の寄与行為と被相続人の財産の維持または増加との間に因果関係があることが要件となります。

 

1 相続人の寄与行為

(1)寄与行為の種類

寄与行為には,①被相続人の事業に関する労務の提供,②財産上の給付,③被相続人の療養看護,④その他(扶養,財産管理等)があります。

(2)寄与者

寄与分を主張することができるのは,相続人に限られますので,寄与行為は,寄与分を主張する相続人の行為であることが原則として必要です。

被相続人の内縁の配偶者等,相続人以外の者が寄与行為をしても,寄与分は認められません。

相続人の妻や子等,相続人以外の者の行為については,寄与分が認められないのが原則ですが,相続人の妻子を相続人の補助者とみて相続人の寄与行為と評価できる場合には,寄与分が認められることがあります。

2 特別の寄与

特別の寄与と評価できるかどうかは,

①寄与分を主張する相続人と被相続人の身分関係において通常期待される程度を超える貢献をしたかどうか(夫婦の協力扶助義務や親族の扶養義務の範囲内の行為をしただけでは,特別な寄与をしたとはいえません。),

②無償の寄与行為であったかどうか(対価が支払われた場合には,特別な寄与とはいえませんが,対価が低い場合には特別な寄与と評価されることがあります。)

③被相続人の家業や療養看護等への従事が,ある程度の期間,継続して行われたかどうか(短期間の従事では特別な寄与とはいえません。)

④寄与分を主張する者が,被相続人の家業や療養看護等に専従していたかどうか

といった観点から判断されます。

 

3 被相続人の財産の維持または増加

被相続人が精神的に幸せな生活を送れたとしても,財産の維持または増加がなければ,寄与分は認められません。

 

4 因果関係

寄与分は,被相続人の財産の維持・増加への相続人の貢献を評価するものですから,寄与行為によって被相続人の財産が維持・増加したことが要件となります。

 

三 寄与分の算定

1 算定方法

寄与分の算定方法については,①遺産に対する割合で定める方法,②金額で定める方法,③相続財産中の特定の財産を寄与分と定める方法があります。

寄与分を定める手続としては,共同相続人全員の協議または家庭裁判所での調停,審判があり,共同相続人全員の合意で寄与分を定めるか,家庭裁判所が,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,寄与分を定めます(民法904条の2第2項)。

2 寄与分の上限

寄与分は,被相続人が相続開始時に有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません(民法904条の2第3項)。

 

【相続・遺言】特別受益の持戻し

2016-02-05

共同相続人が被相続人から遺贈や贈与を受けた場合,他の共同相続人との間で不公平にならないよう特別受益の持戻しが問題となります。

 

一 特別受益の持戻しとは

民法903条1項は「共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続人財産とみなし,前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定しており,これを特別受益の持戻しといいます。

特別受益の持戻しは,被相続人から遺贈または贈与を受けた相続人とそうでない相続人間の公平を図るための制度です。

例えば,遺産総額が5000万円で,相続人が子2名の場合,特別受益がないときには,各人の具体的相続分は2500万円となりますが(計算式:5000万円×2分の1=2500万円),子の1名が被相続人から1000万円の生前贈与を受けていたときには,

生前贈与を受けた子の具体的相続分は,2000万円となり(計算式:(5000万円+1000万円)×2分の1-1000万円=2000万円),もう一人の子の具体的相続分は3000万円となります(計算式:(5000万円+1000万円)×2分の1=3000万円)。

 

また,遺贈または贈与の価額が,相続分の価額に等しいか,またはこれを超えるときは,受遺者または受贈者は,相続分を受け取ることはできませんが(民法903条2項),特別受益の持戻しは計算上,特別受益額を加算するものにすぎず,特別受益にあたる財産自体を遺産分割の対象とするわけではないので,超過分があっても,他の共同相続人が特別受益者に超過分の返還を求めることはできません。

 

例えば,遺産総額が5000万円で,相続人が子2名の場合で,子の1名が被相続人から7000万円の生前贈与を受けていたときには,贈与の価額(7000万円)が相続分の価額(計算式:(5000万円+7000万円)×2分の1=6000万円)を超えているため,生前贈与を受けていた子の具体的相続分は0円となり,もう一人の子の具体的相続分は5000万円となります。

二 特別受益者

特別受益の持戻しは共同相続人間の公平を図るための制度ですので,特別受益者は,共同相続人に限られるのが原則です。

共同相続人の配偶者や子に対する遺贈や贈与は,原則として特別受益にはあたりませんが,実質的には共同相続人に対する遺贈や贈与にあたり,その相続人の特別受益にあたるとみなされることもあります。

 

三 特別受益の種類

特別受益にあたるのは,①遺贈,②婚姻のための贈与,③養子縁組のための贈与,④生計の資本としての贈与です(民法903条1項)。相続させる旨の遺言についても,遺贈と同様,特別受益に含まれると解されております。

贈与については,すべての贈与が特別受益にあたるわけではありませんので,特別受益にあたるのかどうか問題となりますが,遺産の前渡しと同視される程度のものであることが必要です。

ある程度まとまった価額のものであることや,扶養義務に基づく給付ではないことが,特別受益にあたるかどうかの判断要素となります。

例えば,被相続人が相続人に対し毎月数万円の援助を続けていたという場合には,扶養義務に基づく援助であり,特別受益にはあたらないものと思われます。

四 特別受益の評価の基準時

実務では,相続開始時を基準に特別受益の額を評価して,具体的相続分を計算します。

 

五 特別受益の主張方法

特別受益の有無や金額は,具体的相続分算定の前提問題にすぎず,それ自体を確認しても紛争解決にはなりませんので,特別受益を確認する訴えはできないと解されております。

そのため,特別受益の有無や金額を争う場合には,遺産分割調停や審判の中で争うことになります。

 

六 持戻しの免除

1 持戻しの免除とは

民法903条3項は「被相続人が前二項の規定と異なった意思表示をしたときは,その意思表示は,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で,その効力を有する。」と規定しており,被相続人が特別受益の持戻しを免除する旨の意思表示をした場合には,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で効力を有し,特別受益があっても,持戻しはされません。

これは,被相続人の意思を尊重する趣旨です。

 

2 持戻し免除の意思表示の方式

持戻し免除の意思表示に特別な方式はありません。

持戻し免除の意思表示は,贈与と同時である必要はなく,遺言ですることもできます。

また,明示の意思表示のみならず,黙示の意思表示でもできます。

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