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家事事件の手続の流れと分類

2016-11-29

家事事件の手続には,調停,審判,訴訟がありますが,事件の種類によって,とられる手続に違いがあります。

どのような手続をとるのかによって,対応の仕方が違ってきますので,どの事件について,どのような手続がとられるのか意識して対応する必要があります。

 

一 家事事件の手続

1 家事審判手続

家事審判手続は,家庭裁判所が本案について終局的な判断をする裁判ですが,裁判所が後見的に関与する非訟手続です。

家事審判手続には,家事審判の申立てまたは職権により手続が開始する場合と,調停から審判に移行して手続が開始する場合があります。

なお,家事審判には合意に相当する審判(家事事件手続法277条)や調停に代わる審判(家事事件手続法284条)のように調停手続の中で行われるものもあります。

 

2 家事調停手続

調停は,当事者の合意を基礎とする自主的な紛争解決手続であり,家庭に関する事件で家庭裁判所で手続をするものを家事調停といいます。

家事調停手続には,家事調停の申立てによって開始する場合と,審判手続または訴訟手続から調停手続に付されて開始する場合があります。

 

3 訴訟手続

家事事件の訴訟手続には,人事訴訟手続と民事訴訟手続があります。

(1)人事訴訟手続

人事訴訟は,婚姻の取消しの訴え,離婚の訴え,認知の訴え等,身分関係の形成または存否の確認を目的とする訴えに係る訴訟であり(人事訴訟法2条),家庭裁判所が管轄裁判所となります(人事訴訟法4条)。

人事訴訟手続では,弁論主義が制限され(人事訴訟法19条),職権探知主義がとられたり(人事訴訟法20条),判決が第三者に対しても効力を有する(対世効。人事訴訟法24条1項)等,民事訴訟手続とは様々な違いがあります。

(2)民事訴訟手続

不貞行為の慰謝料請求訴訟や,遺留分減殺請求,遺産の範囲の確認,遺言無効確認等の遺産分割に関連する訴訟は,民事訴訟であり,地方裁判所または簡易裁判所が管轄裁判所となります。

ただし,離婚の慰謝料請求のように人事訴訟と関連する損害賠償請求については,人事訴訟と併合して家庭裁判所で審理を行うこともできます(人事訴訟法8条,17条)。

 

二 家事事件の分類

家事事件を手続により分類すると,

Ⅰ 審判のみで,調停はしない事件(家事事件手続法別表第一の事件)

Ⅱ 調停をする事件

ⅰ 調停が不成立となると審判に移行する事件(家事事件手続法別表第二の事件)

ⅱ 人事訴訟を提起することができる事件

①合意に相当する審判をすることができる事件(特殊調停事件)

②それ以外の事件(離婚,離縁事件。一般調停事件)

ⅲ 民事訴訟を提起することができる事件(一般調停事件)

ⅳ 調停のみの事件(その他の家庭に関する事件。一般調停事件)

があります。

 

1 審判のみで調停はしない事件

成年後見,保佐,補助,任意後見,特別養子縁組の成立・離縁,相続放棄の申述受理,遺言書の検認等,家事事件手続法別表第一に掲げる事項についての事件は,公益性が比較的高く,当事者の意思で処分することができない権利や利益に関する事項についての事件であるため,当事者の意思(調停)ではなく,裁判所の判断(審判)で解決すべきであることから,審判手続のみ行い,調停手続は行いません。

そのため,別表第一に掲げる事項についての事件は,家事審判の申立てをして,審判手続を開始させ,審判により解決します。

 

2 調停をする事件

(1)調停が不成立になった場合に審判に移行する事件(家事事件手続法別表第二の事件)

婚姻費用分担,子の監護に関する処分,財産分与,親権者の指定・変更,遺産分割等,家事事件手続法別表第二に掲げる事項についての事件は,公益性が比較的低く,当事者の意思で処分することができる権利や利益に関する事項についての事件であるため,当事者の意思(調停)で解決することができます。

調停と審判どちらの手続をするか当事者が選択することができますが,当事者が家事審判の申立てをした場合,裁判所は調停に付すことができ(家事事件手続法274条),調停に付したときは,調停事件が終了するまで,審判手続を中止することができますので(家事事件手続法275条2項),まず調停をし,調停で解決を図るのが通常です。

調停が不成立となった場合には,審判手続に移行し(家事事件手続法272条4項),裁判所の審判で解決されます。

 

(2)人事訴訟を提起することができる事件

①合意に相当する審判をする事件(特殊調停事件)

人事訴訟とは,婚姻の取消しの訴え,離婚の訴え,認知の訴え等,身分関係の形成または存否の確認を目的とする訴えに係る訴訟をいいます(人事訴訟法2条)。

このうち,離婚,離縁を除く,人事訴訟をすることができる事項についての事件(婚姻の無効・取消し,離婚の無効・取消し,養子縁組の無効・取消し,離縁の無効・取消し,認知,認知の無効・取消し,嫡出否認,親子関係不存在確認等)については,公益性が強く,当事者の意思だけで解決することはできませんが,当事者に争いがない場合には,簡易な手続で処理することが望ましいといえます。

そのため,まず調停手続を行い(調停前置主義。家事事件手続法257条1項),当事者間に申立ての趣旨とおりの審判を受けることについて合意が成立し,原因事実について争いがない場合には,家庭裁判所は,事実の調査をした上,合意が正当と認めるときに,合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。

調停不成立の場合や,合意に相当する審判による解決ができなかった場合には,当事者は,人事訴訟を提起して解決を図ることができます。

 

②離婚事件,離縁事件

離婚や離縁(特別養子縁組の離縁は除きます。)は当事者の意思ですることができるため,調停で離婚や離縁をすることができます。

そのため,まず調停による解決を図ります(調停前置主義。家事事件手続法257条)。

調停による解決ができず,調停が不成立となった場合,離婚や離縁をしたい当事者は,人事訴訟を提起して解決を図ることができます。

 

(3)民事訴訟を提起することができる事件

不貞行為の慰謝料請求事件や遺留分減殺請求事件等,民事訴訟を提起することができる事件であっても,家庭に関する事件については,まず調停による解決を図ります(調停前置主義。家事事件手続法257条)。

調停が不成立になった場合には,当事者は,地方裁判所または簡易裁判所に民事訴訟を提起して解決を図ることができます。

 

(4)調停のみの事件

夫婦関係調整(円満)調停事件等,当事者が任意の行為に期待するしかない事項を目的とする事件は,調停手続のみ行います。

調停が不成立になっても,審判に移行しませんし,訴訟を提起することはできません。

三 まとめ

以上のように,家事事件には,①審判だけで調停はしないもの,②調停が不成立になったら審判に移行するもの,③調停が不成立になっても,審判には移行しないが,人事訴訟や民事訴訟で解決を図ることができるもの,④調停しかできないものがあります。

①については,裁判所が申立てを認めるかどうかが問題となりますし,②や③については,調停が不成立になった場合に審判や訴訟になることを念頭に置いて調停に臨む必要がありますし,④については,調停が不成立になったら何もできないことを念頭に置いて調停に臨む必要があります。

【離婚】財産の持ち出し

2016-11-11

夫婦関係がギクシャクしてしまった場合に,夫婦できちんと話し合ってから別居することができればよいのですが,現実には,それができずに,ある日突然配偶者の一方が家を出ていってしまい,やむを得ずに別居することになることも多いでしょう。その際,特に,妻が家を出ていくときには,その後の生活の不安から,夫名義の預金口座から預金を引き出して別居するといったことがあります。

このように,配偶者の一方が夫婦共有財産を持ち出して別居した場合,別居された配偶者としてはどのようなことができるのでしょうか。

 

一 婚姻費用分担請求を拒むことができるか。

財産を持ち出して別居した配偶者(権利者)が婚姻費用分担請求をしてきた場合,請求された者(義務者)は,権利者が持ち出した夫婦共有財産を婚姻費用に充てるべきだと主張して,婚姻費用分担請求を拒むことができるのでしょうか。

この点,婚姻費用分担について規定した民法760条が「夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定していることからすれば,財産の持ち出した場合には,婚姻費用分担で考慮されるのではないかとも思われます。

しかし,共有財産の持ち出しについては,離婚する際の財産分与の場面で解決することができますし,権利者は,持ち出した財産を婚姻費用に充てなければならないとする理由はありません。

また,婚姻費用分担額の算定については簡易迅速に行うことが望ましく,一般的に婚姻費用分担額算定に用いられている簡易算定方式や簡易算定表では権利者と義務者の収入を基に婚姻費用分担額を算定するのが原則です。

そのため,別居時に財産の持ち出しがあったとしても,特別な事情がない限りは,婚姻費用分担において考慮されません。

 

二 損害賠償請求できるか

財産を持ち出された配偶者は,持ち出した配偶者に対し損害賠償請求をすることができるでしょうか。

夫婦共有財産については,財産を持ち出した人にも持ち分がありますし,夫婦共有財産の清算は離婚の際の財産分与で行いますので,配偶者による夫婦共有財産の財産持ち出し行為には,通常,違法性がなく,不法行為にはあたらないものと考えられます。

そのため,財産の持ち出しがあったとしても,損害賠償請求はできないのが原則です。

 

三 財産分与

上述のとおり,配偶者が別居時に財産を持ち出した場合には,離婚に伴う財産分与の中で解決されます。

例えば,別居時,夫婦の共有財産が500万円あり,妻が,その中から300万円を持ち出して別居した場合,清算割合を2分の1とすると,夫と妻は,250万円ずつ権利を有することになりますので,妻は夫に対し差額の50万円を支払うことになります。

 

また,財産分与の対象財産は原則として別居時の財産であるため,別居時に財産を持ち出した人が,別居後に持ち出した財産を費消して,別居時より財産を減らしたとしても,財産分与額の算定に影響しないのが原則です。

もっとも,財産分与額の算定には,当事者双方がその協力によって得た財産の額だけでなく,その他一切の事情が考慮されますので(民法768条3項),持ち出した財産を生活費に充てた場合等,事情によっては,財産分与で考慮されることがあります。

過去の未払婚姻費用がある場合には財産分与で考慮されますので,権利者が持ち出した財産を婚姻費用に充て,義務者が婚姻費用を分担しなかった場合には,財産分与額の算定において考慮されることがあります。

 

四 まとめ

以上のとおり,配偶者の一方が夫婦共有財産を持ち出して別居してしまったとしても,婚姻費用や損害賠償の問題としてではなく,離婚に伴う財産分与の中で考慮されるのが一般的です。夫婦共有財産は,夫婦の共有又は準共有であり,持ち出した側にも持分があるからです。

ただし,自分名義の財産を持ち出した場合にはあまり問題ないでしょうけれども,相手方名義の多額の財産を持ち出した場合などは,さらに関係を悪化させ,離婚条件などの話し合いがこじれる原因となることがありますので,注意が必要です。

なお,以上は,夫婦共有財産を持ち出した場合であり,他方配偶者の特有財産を持ち出して別居した場合には,持ち出された配偶者は返還請求などの法的措置をとることが考えられます。

【離婚】離婚訴訟(離婚裁判)

2016-11-07

ひとくちに離婚といっても,離婚する方法には,①協議離婚,②調停離婚,③審判離婚,④和解離婚,⑤認諾離婚,⑥判決離婚という具合に,たくさんの種類があり,それぞれとるべき手続が異なります。

大半の離婚では,①協議離婚の方法を選択するケースが多く,その場合には,離婚届に署名押印して役所に提出すれば離婚をすることができますが,離婚の合意ができなかったり,離婚の合意はあるが,条件面で折り合いがつかなかったりして,協議離婚ができない場合には,離婚調停をし,それでも離婚できない場合には,離婚訴訟をすることになります。

離婚訴訟では,離婚原因があり,裁判所が離婚を認めれば,一方配偶者の意思に反しても離婚をすることができます。

 

一 どのような場合に離婚訴訟をするのか

離婚協議や離婚調停で離婚することができなかった場合,離婚するためには,離婚訴訟を提起し,裁判上の離婚(判決離婚)をすることになります。

 

1 離婚原因

協議離婚や調停離婚では,当事者の合意で離婚することになりますが,裁判上の離婚では,離婚原因(民法770条)があれば,強制的に離婚が認められます。

離婚原因は,①不貞行為(1号),②悪意の遺棄(2号),③3年以上の生死不明(3号),④回復の見込みのない強度の精神病(4号),⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由(5号)の5つです(民法770条1項)。

⑤は,「婚姻を継続しがたい重大な事由」と抽象的に破綻事由を定めており,婚姻関係が破綻していれば離婚が認められることになります(破綻主義)。

①から④は⑤の例示であるとされておりますが,①から④の事由がある場合であっても,裁判所は一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができます(裁量棄却。民法770条2項)。

 

2 調停前置主義

裁判上の離婚では,裁判所が離婚を認めるかどうか判断しますが,当事者の話合いで解決できる件については,当事者の話合いで解決することが望ましいので,調停前置主義(家事事件手続法257条)がとられております。

そのため,離婚訴訟を提起する前に離婚調停の申立てをしなければならず,離婚調停の申立てをせずに,離婚訴訟を提起しても,調停に付されるのが原則です。

なお,調停をしていた場合であっても,長期間経過後に訴訟を提起した場合には,事情が変わっていることも多いので,調停に付されることがあります。

また,調停と訴訟は別個の手続ですので,調停で提出された資料が訴訟に引き継がれるわけではありません。調停で提出された資料を訴訟の証拠としたい場合には,改めて提出し直す必要があります。

 

二 離婚訴訟の手続

1 当事者

夫または妻の一方が原告となり,他方が被告となります。

なお,被告が,原告の請求を争い,自ら離婚請求や損害賠償請求,附帯処分等の申立てをしたい場合には,反訴を提起することもできます。

 

また,身分行為については,行為能力がなくても,意思能力があれば足りるとされておりますので,人事訴訟においては,行為能力や訴訟能力の制限規定については適用されませんが(人事訴訟法13条1項),必要があれば訴訟代理人が選任される制度がありますし(人事訴訟法13条2項から4項),当事者となるべき者が成年被後見人である場合には,成年後見人(成年後見人が訴訟の相手方となるときは,成年後見監督人)が原告または被告となることができます(人事訴訟法14条)

 

2 管轄裁判所

離婚訴訟の土地管轄は,夫又は妻の普通裁判籍を有する地(人事訴訟法4条1項)です。

そのため,夫又は妻の住所地(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所,日本国内に居所がないとき又は居所がないときは最後の住所)を管轄する家庭裁判所に訴えを提起することになります。

合意管轄や応訴管轄の規定の適用はありません。

 

また,移送や自庁処理されることもあります(詳しくは,離婚事件の管轄のページをご覧ください。)。

 

3 離婚訴訟の請求内容

離婚訴訟では,以下の請求をすることができます。

 

(1)離婚請求

裁判上の離婚をするには,①不貞行為(1号),②悪意の遺棄(2号),③3年以上の生死不明(3号),④回復の見込みのない強度の精神病(4号),⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由(5号)のいずれかの離婚原因がなければなりません(民法770条1項)。

そのため,離婚請求をするにあたっては,どの離婚原因にあたるのか主張しなければなりませんが,⑤が一般的な離婚事由にあたるため,⑤を主張する場合がほとんどです(①から④にあたると主張する場合でも,それらとともに⑤を主張します。)。

 

(2)附帯処分等の申立て

離婚訴訟では,①財産分与,②親権者の指定,③面会交流,④子の引渡し,⑤養育費の支払,⑥年金分割の按分割合に関する処分といった附帯処分等の申立てをすることができます(人事訴訟法32条)。

申立ては書面でしなければならず(人事訴訟規則19条1項),申立ての趣旨及び理由を記載する必要があります(人事訴訟規則19条2項)。

また,年金分割按分割合の申立てをする場合には,訴状に別紙として情報通知書を添付します(人事訴訟規則19条3項)。

 

(3)損害賠償請求

人事訴訟に係る請求と請求の原因である事実によって生じた損害賠償請求は一つの訴えですることができます(関連請求の併合。人事訴訟法17条1項)。

そのため,離婚訴訟では,離婚による慰謝料請求や離婚原因を構成する不法行為(不貞行為やDV等)に基づく慰謝料請求をすることができます。

また,不貞行為の相手方等,離婚当事者以外の第三者に対する損害賠償請求も離婚請求とあわせてすることができます。

 

4 弁論主義の制限と職権探知主義

民事訴訟では私的自治の観点から弁論主義がとられておりますが,人事訴訟では,公益性の観点から真実発見が重視され,自白や擬制自白の規定が適用されない等,弁論主義が制限されております(人事訴訟法19条1項)。

その一方,裁判所は,当事者の主張しない事実を斟酌することや,職権で証拠調べをすることができ,職権探知主義がとられています(人事訴訟法20条)。

ただし,職権探知主義がとられているとはいえ,当事者は主体的に主張・立証活動をしなければなりません。

 

5 事実の調査

附帯処分や親権者の指定について裁判をする場合には,裁判所は事実の調査を行うことができます(人事訴訟法33条)。

また,裁判所は家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができます(人事訴訟法34条)。

 

四 離婚訴訟の終了

1 判決

審理が終了すると,判決が出され,確定することで効力が生じます。

民事訴訟では判決の効力は当事者間にのみ及ぶのが原則ですが(民事訴訟法115条1項),身分関係は当事者間だけでなく,社会的に影響しますので,人事訴訟の確定判決は第三者に対しても効力を有します(対世効。人事訴訟法24条1項)。

離婚を認める判決が確定した場合には,10日以内に,離婚届に判決書謄本と判決確定証明書を添付して役所または役場に報告的届出をしなければなりません(戸籍法77条1項,63条1項)。

また,判決が確定した場合,請求または請求の原因を変更することにより主張することができた事実または反訴を提起することにより主張することができた事実に基づいて同一の身分関係についての人事訴訟を提起することはできませんが(人事訴訟法25条),離婚を認めない判決(請求棄却判決)が確定した場合でも,判決の基準時(口頭弁論終結時)後の事情に基づいて,改めて離婚請求することはできます。

 

2 訴訟上の和解

人事訴訟では,身分関係の公益性の高さから,訴訟上の和解をすることはできないのが原則ですが,離婚するかどうかは当事者の合意で決めることができるので,訴訟上の和解により離婚することができます(人事訴訟法37条1項)。

なお,和解を成立させるには当事者の出頭が必要であり,和解条項案の書面による受託(民事訴訟法264条),裁判所が定める和解条項(民事訴訟法265条)による和解はできませんし(人事訴訟法37条2項),電話会議を用いた弁論準備期日に出席しない当事者は和解することはできません(人事訴訟法37条3項,民事訴訟法170条3項,4項)。

和解離婚した場合,10日以内に,離婚届に和解調書の謄本を添付して役所または役場に報告的届出をしなければなりません(戸籍法77条1項,63条1項)。

 

3 請求の放棄

人事訴訟では,請求の放棄をすることはできないのが原則ですが,離婚するかどうかは当事者の合意で決めることができるため,離婚の訴えについては,請求の放棄をすることができます(人事訴訟法37条1項)。

 

4 請求の認諾

人事訴訟では,請求の認諾をすることはできないのが原則ですが,離婚するかどうかは当事者の合意で決めることができるため,離婚の訴えについては,附帯処分についての裁判または親権者の指定についての裁判をすることを要しない場合に限り,請求の認諾をすることができます(人事訴訟法37条1項)。

なお,請求の認諾については当事者の出頭が必要であり,請求を認諾する旨の書面を提出した者が口頭弁論期日に出頭しない場合にはその書面を陳述したものと見なすことはできませんし(人事訴訟法37条1項,民事訴訟法266条2項),電話会議を用いた弁論準備期日に出席しない当事者は請求の認諾をすることはできません(人事訴訟法37条3項,民事訴訟法170条3項,4項)。

認諾離婚した場合,10日以内に,離婚届に認諾調書の謄本を添付して役所または役場に報告的届出をしなければなりません(戸籍法77条1項,63条1項)。

 

5 訴えの取下げ

訴えは,判決が確定するまで,全部または一部を取り下げることができます(民事訴訟法261条1項),取り下げた部分について訴えは初めからなかったものとみなされます(民事訴訟法262条1項)。

ただし,相手方が,本案について準備書面の提出,弁論準備手続で申述,口頭弁論をした後は,相手方の同意がなければ取り下げることはできません(民事訴訟法261条2項)。

 

6 当事者の死亡

原告または被告の死亡により訴訟は当然終了します(人事訴訟法27条)。

 

五 まとめ

離婚訴訟(離婚裁判)では,当事者は,自分の主張が裁判所に認められるように,適切に書面で主張立証しなければなりませんが,訴訟についての知識や経験もなく,当事者だけで訴訟を追行することは容易ではありません。

離婚原因とは直接関係のない,感情的なしこりの原因となった婚姻生活の出来事を詳細に主張しても,裁判所が判断するために必要な事実とはズレてしまい,言いたいことが伝わらないことが往々にしてあります。財産分与などの附帯処分や親権者の指定,慰謝料請求についても,ポイントを押さえた適切な主張や証拠の提出をしないと不利益な判断がされてしまうおそれがあります。

また,離婚訴訟は,当事者にとって精神的な負担が大きい上に,解決までに長い期間がかかることが多く,苛酷な争いであるため,一人で抱え込むのは避けたほうがよいでしょう。

したがって,協議や調停では弁護士に依頼していなかった場合でも,離婚訴訟では,弁護士に依頼することをおすすめします。

【離婚】離婚調停

2016-10-28

離婚する方法には,①協議離婚,②調停離婚,③審判離婚,④和解離婚,⑤認諾離婚,⑥判決離婚があります。

離婚の大半は協議離婚ですが,協議離婚ができない場合には,離婚調停をし,それでも離婚できない場合には,離婚訴訟をすることになります。

ここでは離婚調停について説明します。

 

一 離婚調停とは

離婚について夫婦間で協議がまらない場合や協議ができない場合,家庭裁判所の手続により離婚することになりますが,調停前置主義(家事事件手続法257条)がとられているため,離婚調停の申立てをします。いきなり離婚訴訟を提起しても,調停に付されるのが通常です(家事事件手続法257条2項)。

離婚調停では,調停委員が当事者双方から事情を聴く等して,間に入って,当事者双方が,離婚するかどうかということや,離婚条件(どちらが親権者となるか,面会交流や養育費をどうするか,慰謝料や財産分与,年金分割の按分割合をどうするか等)について話し合い,合意により解決を図ることを目指します。

裁判所では,離婚調停について夫婦関係調整調停事件というで事件名が付けられますが,夫婦関係調整調停事件には離婚調停だけではなく,円満調停もありますので,区別するため,離婚調停は,夫婦関係調整(離婚)調停事件との事件名が付けられます。

 

二 離婚調停の申立て

1 当事者

夫または妻の一方が申立人として調停の申立てをし,他方が相手方となります。

 

2 管轄裁判所

相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者の合意で定める家庭裁判所(合意管轄)が管轄裁判所となります(家事事件手続法245条1項)。

なお,移送や自庁処理されることもあります(詳しくは,離婚事件の管轄のページをご覧ください。)。

 

3 申立て

申立人は,管轄裁判所に,申立書,事情説明書,戸籍謄本その他の必要書類と申立費用(収入印紙と郵便切手)を提出して,離婚調停の申立てをします(申立書や事情説明書等の書式や必要書類,申立費用については,裁判所のウェブページで調べることができます。)。

申立てにあたっては,離婚を求める以外に,親権者の指定,面会交流,養育費,財産分与,慰謝料,年金分割の分割割合を定めるといった付随的な申立てをすることができます。

なお,離婚するまでの間の婚姻費用分担請求をしたい場合には,離婚調停とは別に,婚姻費用分担調停を申し立てなければなりません。その場合,離婚調停と婚姻費用分担調停を併合して同一期日で話合いをすることができます。

 

三 離婚調停の進行

1 調停委員会等

調停は,調停委員2名(男性・女性各1名が通常です。)と裁判官(または家事調停官)の3名からなる調停委員会が手続を進めていきます。

調停委員は裁判官と評議し,その評議に基づいて調停を進めていき,裁判官は必要な場合に立ち会います。

また,事実の調査が必要な場合には,家庭裁判所の調査官が立ち会うことがあります。

 

2 本人出頭の原則

調停期日には,原則として当事者本人が出頭しなければなりません(家事事件手続法258条1項,51条2項)。

そのため,弁護士に依頼した場合であっても,本人は調停期日に出頭しなければなりません。

 

3 調停期日

第1回の調停期日では,通常,調停委員が,まず,当事者双方に対し,調停手続について説明し,その後,各当事者から個別に話を聴きながら,話合いを進めていきます。

調停委員は,当事者に対し資料の提出を求めたり,当事者の一方から聴いたことを他方に伝えて検討を促したりする等して,合意ができるかどうかを探っていきます。

調停期日は1回で終わらない場合には,次回期日を決めて,次回期日に話合いを続けます。

調停期日は,調停が終了するまで,複数回続きます。

 

四 離婚調停の終了

1 成立

離婚することや,離婚条件について,当事者間に合意が成立し,これを調書(調停調書)に記載したときは調停が成立し,調書の記載は,確定判決(家事事件手続法別表第二に掲げる事項については確定した審判)と同一の効力を有します(家事事件手続法268条1項)。

調停離婚が成立した場合には,その日に離婚したことになりますが,成立後10日以内に,調停調書謄本を添付して役所または役場に報告的届出をしなければなりません(戸籍法77条1項,63条1項)。

届け出は,原則として申立人が行いますが,申立人が10日以内に届け出を行わない場合には相手方は届け出をすることができますし(戸籍法77条1項,63条2項),調停条項で「相手方の申出により離婚する」としておけば,相手方が届け出をすることができます。

また,養育費の支払,慰謝料の支払,財産分与等の不履行があった場合には,強制執行をすることができます。

なお,当事者間で離婚については合意ができず,当面,別居を続けるという合意が成立する場合には,別居することや別居に伴う問題点について,別居調停を成立させることもあります。

 

2 調停に代わる審判

(1)調停に代わる審判をする場合

離婚調停が成立しない場合でも,家庭裁判所は,調停委員の意見を聴いた上で,相当と認めるときは,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を考慮して,職権で,事件の解決のために必要な審判(調停に代わる審判)をすることができます(家事事件手続法284条1項,2項)。また,調停に代わる審判では,当事者に対し,子の引渡しや,金銭の支払その他の財産上の給付を命じることもできます(家事事件手続法284条3項)。

調停に代わる審判をする場合としては,離婚すること自体については当事者間に争いがないけれども,離婚条件について,わずかな違いから調停が成立しない場合や,当事者の一方が頑なであったり,やる気がなかったりするために,調停が成立できない場合等が考えられます。

(2)異議申立て

調停に代わる審判について,当事者は,2週間以内に異議を申し立てることができ(家事事件手続法286条1項,2項,279条2項),適法な異議の申立てがあったときは,審判は効力を失います(家事事件手続法286条5項)。

これに対し,適法な異議の申立てがなく,審判が確定したときは,確定判決と同一の効力を有します(家事事件手続法287条)。

 

3 不成立

調停委員会は,当事者間に合意が成立する見込みがない場合や,成立した合意が相当でないと認める場合は,調停に代わる審判をしたときを除き,調停を不成立にして,調停事件を終了させることができます(家事事件手続法272条1項)。

調停が不成立になった場合,離婚したければ,離婚訴訟を提起することができます(ただし,調停不成立から長期間経過した場合には調停に付される可能性があります。)。

なお,離婚訴訟の訴状の附属書類として裁判所に提出するため,調停不成立の証明書をとっておきましょう。

 

4 取下げ

家事調停の申立ては,事件が終了するまで,その全部または一部を取り下げることができ(家事事件手続法273条1項),取り下げた部分について調停は初めからなかったものとみなされます(家事事件手続法273条2項,民事訴訟法262条1項)。

取下げには相手方の同意は必要ありません。

【離婚】協議離婚

2016-10-25

離婚する方法には,①協議離婚,②調停離婚,③審判離婚,④和解離婚,⑤認諾離婚,⑥判決離婚があります。

離婚の大半は協議離婚ですが,協議離婚ができない場合には,離婚調停をし,それでも離婚できない場合には,離婚訴訟をすることになります。

ここでは協議離婚について説明します。

 

一 協議離婚の方法

夫婦は,その協議で,離婚をすることができます(民法763条)。

協議離婚は,戸籍法の定めるところにより,届け出ることによって,その効力を生じます(民法764条,739条1項)。その届け出は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で,または,これらの者から口頭でしなければなりません(民法764条,739条2項)。

届け出は書面で行うのが一般的であり,役所や役場から離婚届の用紙をもらってきて,その用紙に必要事項を記入し,夫婦双方が署名押印し,証人2人に署名押印をしてもらい,本籍地または所在地の役所や役場に離婚届を提出します。

離婚届は,民法764条において準用する民法739条2項,民法819条1項その他の法令の規定に違反しないことが認められた後でなければ,受理されませんが(民法765条1項),違反して受理された場合であっても,離婚の効力は妨げられません(民法765条2項)。

なお,離婚届作成後,離婚意思がなくなった場合には,役所・役場に離婚届が受理される前に不受理申出をしておけば,離婚届は受理されなくなります(離婚届不受理申出制度)。

また,婚姻によって氏を改めた夫又は妻は,離婚をすると婚姻前の氏に復しますが,離婚の日から3か月以内に戸籍法の定めるところにより届け出れば,離婚の際に称していた氏を称することができます(民法767条)。

 

二 離婚以外に協議すべきこと

1 親権者の指定

父母が協議離婚をするときは,その協議で,父母の一方を親権者と定めなければなりません(民法819条1項)。

親権者を定めない場合には,離婚届が受理されませんので(民法765条1項),協議離婚自体ができないことになります。

そのため,どちらが親権者となるかで協議がまとまらない場合には,協議離婚ができないので,家庭裁判所に離婚調停の申立てをすることになります。

 

2 養育費

養育費について協議がまとまった場合には,合意書を作成しておくべきです。

その際,執行認諾文言付き公正証書にしておけば,養育費の支払がない場合には,強制執行をすることができます。

また,協議がまとまらない場合やできない場合には,家庭裁判所に養育費請求の調停や審判の申立てをして,調停や審判で養育費の額を定めることができます(なお,調停前置主義により,まずは調停をするのが原則です。)。

 

3 面会交流

子との面会交流についても協議しておくべきです。

協議がまとまらない場合には,家庭裁判所に面会交流の調停や審判の申立てをして,調停や審判で養育費の額を定めることができます(なお,調停前置主義により,まずは調停をするのが原則です。)。

 

4 慰謝料

協議離婚に至った原因が,配偶者の不貞行為等の有責行為にある場合には,慰謝料請求をすることができます。

慰謝料について協議がまとまった場合には,合意書を作成しておくべきです。

その際,執行認諾文言付き公正証書にしておけば,慰謝料の支払がない場合には,強制執行をすることができます。

また,協議がまとまらない場合やできない場合には,地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します。

 

5 財産分与

協議上の離婚をした者の一方は,相手方に対し,財産分与請求をすることができます(民法768条1項)。

財産分与について協議がまとまった場合には,合意書を作成しておくべきです。

財産分与として金銭の支払を合意した場合,執行認諾文言付き公正証書にしておけば,金銭が支払われないときに強制執行をすることができます。

また,協議がまとまらない場合やできない場合には,家庭裁判所に財産分与の調停や審判の申立てをして,調停や審判で財産分与の方法や額を定めることができます(なお,調停前置主義により,まずは調停をするのが原則です。)。

なお,財産分与の調停や審判の申立ては,離婚の時から2年以内にしなければなりません(民法768条2項)。

 

6 年金分割

離婚する場合には,年金分割請求をすることができます。

年金分割には,合意分割(当事者が合意または裁判で分割割合を定める年金分割)と3号分割(第3号被保険者である期間についての年金分割)があります。

3号分割については,年金分割請求をすれば,自動的に2分の1の割合で按分されることになるため,按分割合についての協議は不要ですが,合意分割については,按分割合について協議が必要となります。

合意分割の按分割合について協議がまとまった場合には,当事者双方(またはその代理人)が年金事務所に直接行って合意書を提出するか,公正証書を作成するか,私署証書を作成して,公証人の認証を受けます。

また,協議がまとまらない場合やできない場合には,家庭裁判所に年金分割の割合を定める調停や審判の申立てをして,調停や審判で按分割合を定めることができます(なお,調停前置主義により,まずは調停をするのが原則です。)。

なお,年金分割については,原則として離婚から2年以内に請求しなければならないので,ご注意ください。

 

三 まとめ

以上のように,協議離婚するにあたって協議すべき事項は多岐にわたります。

最低限,離婚と親権者の指定について協議がまとまれば,協議離婚することができ,それ以外の離婚条件(養育費,面会交流,慰謝料,財産分与,年金分割の按分割合)については,別途,協議や調停等により解決することもできますが,離婚後に改めて協議等をすることは手間がかかりますし,思った通りに行かず,離婚したことを後悔することもありますので,一刻も早く離婚したいというのではない限り,離婚条件について全て合意ができてから離婚すべきでしょう。

【離婚】財産分与と未払婚姻費用(過去の婚姻費用)

2016-10-17

夫婦の別居後,夫婦の一方が婚姻費用を分担していなかった場合,財産分与の中で,過去の未払婚姻費用の清算をすることはできるのでしょうか。

 

1 過去の婚姻費用分担請求

婚姻費用分担請求は,過去にさかのぼってすることができるとされております。

いつの時点から請求できるのかということについては,要扶養状態になった時から認められることもありますが,原則は,請求時(調停,審判の申立時。申立より前に請求していたことが内容証明郵便等で証明できるのであれば,その時)からです。

そのため,婚姻費用分担請求をしたい場合には,別居後,直ぐに請求すべきです。

また,離婚調停や離婚訴訟が行われている最中であっても婚姻費用分担請求調停や審判の申立をすることができますので,離婚が成立するまでの間の婚姻費用を支払わせたい場合には,速やかに婚姻費用分担請求調停や審判の申立てをすべきです。

 

なお,離婚後に婚姻費用分担請求ができるかどうかについては,必ずしもできないわけではないでしょうが,通常,請求できるのは,請求時から離婚時までの婚姻費用であることからすれば,離婚後に婚姻費用分担請求しても難しい場合が多いのではないでしょうか。

 

2 財産分与において,未払婚姻費用の清算をすることができるのか

義務者が婚姻費用を支払わない場合,婚姻費用分担について執行受諾文言付きの公正証書,調停調書,審判書があれば,強制執行することができますので,未払婚姻費用を財産分与で清算する必要はありません。

これに対し,婚姻費用分担請求の調停成立前や審判前に離婚する場合や離婚した場合には,財産分与の中で未払婚姻費用の清算ができるか問題となります。

 

財産分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して定められますので(民法768条3項),当事者双方が過去に婚姻費用をどのように分担していたかも,事情の一つとして考慮されます。

判例でも,当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付も含めて財産分与の額及び方法を定めることができるとされております。

そのため,配偶者の一方が過去に婚姻費用を支払わなかった場合には,その点についても考慮して財産分与額が定められることになります。

もっとも,未払婚姻費用が財産分与において考慮されるとしても,いつの時点の分から考慮されるのか,または,算定表どおりの金額が認められるのか問題となります。

必ずしも未払婚姻費用全額が財産分与額に上乗せされるわけではありません。

そのため,婚姻費用を支払わせたい場合には,離婚前に婚姻費用分担請求調停や審判で解決しておいたほうが良いでしょう。

【示談交渉】郵送する場合,郵便物を受け取った場合

2016-10-03

示談交渉の際,相手方に書面を郵送する場合や,相手方から郵便物を受け取った場合は,以下の点を注意しましょう。

 

一 相手方に書面を郵送する場合

相手方に書面を郵送する場合,プライバシー保護の観点から,相手方以外の人に中身が見られないよう,葉書ではなく,封書で送るのが原則です。あとで何を送ったか分からなくならないように,郵送した書面のコピーはとっておきましょう。

また,郵送の方法としては,普通郵便で送ることもありますが,後に裁判になった場合,相手方にどのような内容の書面を送ったのか証明しなければならないことがありますので,目的に応じて,郵便を使い分けます。

 

 

1 内容証明郵便

内容証明郵便は,誰が,誰に対し,いつ,どのような内容の書面を送ったのか証明する証拠となりますので,後で裁判となった時の証拠とするため,請求や主張を書面にまとめて,内容証明郵便で送ります。

また,時効の中断や契約の解除,遺留分減殺請求等,意思表示が相手方に到達したことが重要な事実となる場合には,配達証明付きの内容証明郵便を送ります。

 

なお,内容証明郵便を送る場合には以下の点を注意しましょう。

①内容証明郵便を送ると,相手方が心理的な圧力を受けることがあるため,穏やかに話を進めたい場合には,内容証明郵便ではなく,普通郵便で送ることも考えられます。

②内容証明郵便には,写真や図面等の資料を同封することはできませんので,資料を送る場合には,別途,普通郵便や書留で郵送することになります。

③相手方が内容証明郵便を受け取らない場合がありますので,内容証明郵便とあわせて,同様の書面を普通郵便または特定記録郵便で郵送することもあります。

 

2 書留郵便

書留は,手渡しされますので,相手方に対し,示談書や原本類等,重要な書類を郵送する場合には,書留で郵送します。

 

3 特定記録郵便

内容証明郵便や書留の場合,受取人が受け取らなければ,差出人に戻ってきますが,特定記録郵便の場合,郵便受けに入れるだけですので,受取人の関与がなくても,配達することができます。

また,特定記録により,配達された日時が記録されますので,郵便物が配達されたことを明らかにすることができます。

 

二 相手方から郵便物を受け取った場合

相手方から郵送された郵便物は,後で裁判になった場合の証拠となりますので,大事 にとっておくことが必要です。

その際,以下の点に注意しましょう。

 

1 原本に書き込みをしないこと

法律相談で,相談者の方から相手方から送られた書面を見せてもらった際,相手方から送られてきた書面(原本)に,相談者の方が反論等自分の主張の書き込みをしていたり,マーカーやアンダーラインを引いたりしていることが,時々あります。

しかし,相手方から送られてきた書面に書き込みをしてしまうと,誰が書いたのかわからなくなったり,元の書面の内容が分からなくなったりして,混乱や誤解を招くおそれがあります。

書き込みをする場合には,原本には書き込みをせず,書面のコピーをとって,コピーに書き込みをしましょう。

 

2 封筒は捨てないこと

相手方から送られてきた書面の封筒を捨ててしまわれる方がいますが,封筒は大切な証拠ですので,捨てないでください。

封筒がなければ,書面をどうやって入手したのか分からなくなりますが,封筒があれば,郵送されてきたことがわかりますし,封筒には,差出人の記載や郵便局の消印がありますので,何時,誰から書面が送られてきたのか分かります。

また,書面に作成者や作成日の記載がなく,作成者や作成日が分からないことがありますが,封筒があれば,差出人の記載や郵便局の消印により,書面の作成者や作成日を推測することができます。

封筒と中に入っている書面は,一体として証拠になりますので,封筒は必ずとっておきましょう。

【離婚】親権と監護権の分離

2016-09-28

離婚の法律相談の際,相談者の方から,「親権を相手に渡しても良いが,監護権は自分が取りたい。」あるいは「監護権は相手に渡しても良いが,親権は自分が取りたい。」と言われることがありますが,親権と監護権を分けるということはどういうことでしょうか。 親権と監護権の分離について説明します。

 

一 親権と監護権

1 親権

親権とは,親が未成年の子に対して有する身分上,財産上の監督,保護を内容とする権利,義務のことです。また,親権を有する者を親権者といいます。

親権の具体的な内容としては,身上監護権(民法820条から823条)と財産管理権(民法824条)があります。

父母の婚姻中は,父母が共同で親権を行使するのが原則ですが(民法818条3項),離婚する場合には,父母の一方が親権者となります(民法819条)。

 

2 監護権

監護権とは,未成年子の子を監督,保護する権利,義務のことです。また,監護権を有する者を監護者といいます。

父母が離婚をする場合,婚姻を取り消す場合,父が子を認知する場合に,父母は,子を監護すべき者(監護者)を協議で定めることができますし,協議が成立しない場合や協議ができない場合には,家庭裁判所が監護者を定めることができます(民法766条,民法771条,民法749条,民法788条)。監護者を指定するにあたっては,子の利益を最も優先して考慮しなければなりません(民法766条1項)。

また,父母が婚姻中の場合でも,別居しているときに,民法766条を類推適用して,監護者を指定することができると解されております。

監護者は,父母のいずれかがなることが通常ですが,父母に子を監護させることが適切でなく,父母以外の第三者が子を監護している場合には,その第三者を監護者と指定することもできると解されております。

 

3 親権と監護権の関係

親権の具体的内容として身上監護権があるため,親権者が子を監護するのが原則であり,親権者とは別に監護者を指定する必要は通常ありません。

もっとも,親権から監護権を分離して,親権者とは別に監護者を定めることはできます。

ただし,監護者を指定するにあたっては子の利益を最も優先して考慮しなければならないところ(民法766条1項),子を監護する者が親権者でない場合には,子を代理して財産管理を行うことができない等,子の監護に支障が生じるおそれがあるため,親権と監護権を分離することは,例外的であるといえます。

 

二 監護者を指定する場合

父母は協議により監護者を定めることができますが,協議が成立しない場合や協議ができない場合には,家庭裁判所に,監護者指定の調停を申し立て,調停で監護者を定めるか,審判で監護者を指定してもらうことになります。

監護者を指定する場合としては,以下のような場合があります。

 

1 別居している夫婦の間で,監護者を指定する場合

父母が婚姻中の場合でも,別居しているときに,父母のどちらが子を監護するかはっきりさせるために,民法766条を類推適用して,監護者を指定することができます。

婚姻中,夫婦は共同で親権を行使することになるため,双方が子を監護することになりりますが,別居した場合には,夫婦間で,子の引き渡しを求めて争いになることがあります。

そのため,別居中,夫婦のどちらが子を監護するかはっきりさせるため,監護者の指定をすることがあります。

 

2 離婚に際して,親権者とは別に監護者を指定する場合

離婚の際,どちらが親権者となるか夫婦で争いになり,妥協案として,親権者と監護者を分けることがあります。

しかし,離婚した父母が協力しあうことが難しい場合が多いため,親権者と監護者を分けると子の監護に支障が生じるおそれがあります。

そのため,子の利益の観点からは,親権者と監護権者を分けることは慎重であるべきでしょう。

 

3 離婚後に監護者を指定する場合

離婚後に親権を有しない親が子を監護している場合,子を監護する親が,自身を監護者に指定することを求めることがあります。

もっとも,親権者と監護者を分けると子の監護に支障が生じるおそれがありますので,親権者の変更で対応したほうが,子の利益に適う場合が多いと考えられます。

そのため,親権者と監護者を分けることは慎重であるべきでしょう。

 

三 まとめ

以上のとおり,親権と監護権を分離することはできますが,子の利益の観点からすれば,分離するかどうかについては慎重に考えるべきでしょう。

特に,離婚当事者間で争いになっている場合には,協力関係が期待できないので,なかなか分離が認められないのが実際のところです。

配偶者の不貞行為を見つけたらすぐにすべきこと

2016-09-21

配偶者の不貞行為を見つけた際には,誰しも動揺してしまい冷静な判断ができなくなるのが通常です。そのため,最低限,以下の点については押さえておきましょう。

 

1 不貞行為を見つけたら,しっかりと証拠に残しておきましょう。

配偶者の不貞行為を見つけた場合には,不貞行為の証拠をとっておくことが必要です。

不貞行為をした配偶者が不貞行為をしたことを認めて謝罪している場合であっても,きちんと証拠をとっておかなければ,後で調停や訴訟となった際に,相手方が不貞行為の事実を否定することがよくあります。

ですから,配偶者が不貞行為を認めているからといって安心せず,不貞行為の証拠を確保しておくことは非常に大切です。

不貞行為の証拠としては,①配偶者が作成した不貞行為を認める旨の書面,②配偶者との会話の録音,③配偶者が不貞相手と交わした手紙やメール,④配偶者と不貞相手が入ったホテルの領収証,⑤配偶者と不貞相手が写っている写真などがあります。

また,不貞相手への慰謝料請求をすることも考え,証拠の中に,不貞相手の氏名や住所,勤務先などが分かるものがないかどうか確認し,なかった場合には,配偶者に確認して証拠に残しておきましょう。

不貞行為の証拠を確保することができた場合には,それをきちんと保管しておくことも大切です。配偶者が不貞行為の証拠を隠したり,捨てたりできないように,あなたが信頼できる親族や依頼した弁護士に預けるなどの対策が必要です。

 

2 離婚を考えていない場合

不貞行為をした配偶者と離婚するつもりがない場合には,不貞行為の証拠をとっておく必要はないと思われるかもしれません。

また,証拠をとっておくことで,配偶者との関係が悪くなるのではないかと心配されるかもしれません。

しかし,不貞行為の証拠をとっておかないと,不貞行為をした配偶者は,証拠がないのをいいことに,その後も隠れて不貞行為を続けるかもしれません。

また,不貞行為をした配偶者から,あなたに対し,離婚を求めてくるかもしれません。

その場合,不貞行為をした配偶者は,証拠がないのをいいことに,不貞行為の事実を否定し,あなたのせいで婚姻関係が破綻したと主張することがしばしば見られます。相手が不貞行為をしたのに,自分が悪いと責められたのでは非常にやりきれないことでしょう。不貞行為の証拠をとっていれば,相手方に離婚請求を思いとどまらせることができる場合もありますし,離婚請求してきた場合でも,あなたの権利を守ることにつながります。

したがって,離婚を考えていない場合であっても,後々のことを考えて,不貞行為の証拠をとっておくべきでしょう。

3 配偶者の財産の把握

配偶者の不貞行為が発覚した場合,夫婦が別居にいたることがよくありますが,別居すると,配偶者が何をしているのか分からなくなります。

離婚する場合には,慰謝料のほか,財産分与が問題となりますが,配偶者がどのような財産を持っているのか分からなければ,適正な財産分与を受けることができません。

別居後,相手方に財産の開示を求めても,相手方が正直に財産を開示してくれる保証がありませんので,同居期間中に,配偶者がどのような財産を持っているのか,きちんと把握しておくべきでしょう。

 

4 弁護士への相談

配偶者の不貞行為を見つけた際には,誰しも動揺してしまい冷静な判断ができなくなるのが通常ですが,適切な対応をしておかないときっと後悔することになるでしょう。

後悔しないよう,まずは,弁護士に相談することをお勧めいたします。

【離婚】養育費を請求しない旨の合意(養育費不請求の合意)

2016-08-24

離婚する際に,夫婦間で養育費を請求しない旨合意することがあります。

例えば,夫が養育費の支払を拒み,離婚に応じないことから,離婚したい妻が養育費を請求しない旨合意する場合や,夫婦の双方が子の親権を主張しているため,親権がほしい側が,親権を取得するかわりに養育費を請求しない旨合意する場合があります。

しかし,そのような場合でも,離婚後,経済的に苦しくなったときには,子を養育する親は,子を養育しない親に対し,養育費を請求することはできないのでしょうか。

 

養育費不請求の合意については,以下のような考えがあります。

 

①子の扶養請求権を放棄する合意は無効

民法881条は「扶養を受ける権利は,処分することができない。」と規定しており,子の扶養請求権は放棄することはできません。

そのため,養育費不請求の合意が子の扶養請求権を放棄するものであると解される場合には,民法881条により,合意は無効であると考えられます。

②子からの扶養料請求

養育費不請求の合意を,父母の間での養育費負担の取決めであるとすれば,合意は有効であると解されますが,合意は,父母の間でなされたものであり,父母の間でのみ効力を有すると解されます。

そのため,合意の効力は子には及びませんので,子は,要扶養状態にあれば,養育費を負担しない親に対し,扶養料の請求ができると考えられます。

その場合でも,養育費不請求の合意があることは考慮されるべき事情となります。

 

③事情の変更がある場合

養育費不請求の合意があっても,事情の変更があれば,養育費や扶養料の請求ができます。

例えば,合意をした時点では,子を養育する親に十分な経済的能力があり,子の養育に支障がなかったけれども,その後,経済的に苦しくなり,子の養育に支障が生じた場合には,事情の変更があるといえるでしょう。

 

以上のとおり,養育費不請求の合意があったとしても,養育費や扶養料の請求ができないわけではありません。

請求するにあたっては,合意の相当性,親の経済的能力,子の生活状況,合意後の事情の変更等,具体的な事情を検討する必要があります。

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