【離婚】財産の持ち出し

2016-11-11

夫婦関係がギクシャクしてしまった場合に,夫婦できちんと話し合ってから別居することができればよいのですが,現実には,それができずに,ある日突然配偶者の一方が家を出ていってしまい,やむを得ずに別居することになることも多いでしょう。その際,特に,妻が家を出ていくときには,その後の生活の不安から,夫名義の預金口座から預金を引き出して別居するといったことがあります。

このように,配偶者の一方が夫婦共有財産を持ち出して別居した場合,別居された配偶者としてはどのようなことができるのでしょうか。

 

一 婚姻費用分担請求を拒むことができるか。

財産を持ち出して別居した配偶者(権利者)が婚姻費用分担請求をしてきた場合,請求された者(義務者)は,権利者が持ち出した夫婦共有財産を婚姻費用に充てるべきだと主張して,婚姻費用分担請求を拒むことができるのでしょうか。

この点,婚姻費用分担について規定した民法760条が「夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定していることからすれば,財産の持ち出した場合には,婚姻費用分担で考慮されるのではないかとも思われます。

しかし,共有財産の持ち出しについては,離婚する際の財産分与の場面で解決することができますし,権利者は,持ち出した財産を婚姻費用に充てなければならないとする理由はありません。

また,婚姻費用分担額の算定については簡易迅速に行うことが望ましく,一般的に婚姻費用分担額算定に用いられている簡易算定方式や簡易算定表では権利者と義務者の収入を基に婚姻費用分担額を算定するのが原則です。

そのため,別居時に財産の持ち出しがあったとしても,特別な事情がない限りは,婚姻費用分担において考慮されません。

 

二 損害賠償請求できるか

財産を持ち出された配偶者は,持ち出した配偶者に対し損害賠償請求をすることができるでしょうか。

夫婦共有財産については,財産を持ち出した人にも持ち分がありますし,夫婦共有財産の清算は離婚の際の財産分与で行いますので,配偶者による夫婦共有財産の財産持ち出し行為には,通常,違法性がなく,不法行為にはあたらないものと考えられます。

そのため,財産の持ち出しがあったとしても,損害賠償請求はできないのが原則です。

 

三 財産分与

上述のとおり,配偶者が別居時に財産を持ち出した場合には,離婚に伴う財産分与の中で解決されます。

例えば,別居時,夫婦の共有財産が500万円あり,妻が,その中から300万円を持ち出して別居した場合,清算割合を2分の1とすると,夫と妻は,250万円ずつ権利を有することになりますので,妻は夫に対し差額の50万円を支払うことになります。

 

また,財産分与の対象財産は原則として別居時の財産であるため,別居時に財産を持ち出した人が,別居後に持ち出した財産を費消して,別居時より財産を減らしたとしても,財産分与額の算定に影響しないのが原則です。

もっとも,財産分与額の算定には,当事者双方がその協力によって得た財産の額だけでなく,その他一切の事情が考慮されますので(民法768条3項),持ち出した財産を生活費に充てた場合等,事情によっては,財産分与で考慮されることがあります。

過去の未払婚姻費用がある場合には財産分与で考慮されますので,権利者が持ち出した財産を婚姻費用に充て,義務者が婚姻費用を分担しなかった場合には,財産分与額の算定において考慮されることがあります。

 

四 まとめ

以上のとおり,配偶者の一方が夫婦共有財産を持ち出して別居してしまったとしても,婚姻費用や損害賠償の問題としてではなく,離婚に伴う財産分与の中で考慮されるのが一般的です。夫婦共有財産は,夫婦の共有又は準共有であり,持ち出した側にも持分があるからです。

ただし,自分名義の財産を持ち出した場合にはあまり問題ないでしょうけれども,相手方名義の多額の財産を持ち出した場合などは,さらに関係を悪化させ,離婚条件などの話し合いがこじれる原因となることがありますので,注意が必要です。

なお,以上は,夫婦共有財産を持ち出した場合であり,他方配偶者の特有財産を持ち出して別居した場合には,持ち出された配偶者は返還請求などの法的措置をとることが考えられます。

 

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