【離婚】離婚訴訟(離婚裁判)

2016-11-07

ひとくちに離婚といっても,離婚する方法には,①協議離婚,②調停離婚,③審判離婚,④和解離婚,⑤認諾離婚,⑥判決離婚という具合に,たくさんの種類があり,それぞれとるべき手続が異なります。

大半の離婚では,①協議離婚の方法を選択するケースが多く,その場合には,離婚届に署名押印して役所に提出すれば離婚をすることができますが,離婚の合意ができなかったり,離婚の合意はあるが,条件面で折り合いがつかなかったりして,協議離婚ができない場合には,離婚調停をし,それでも離婚できない場合には,離婚訴訟をすることになります。

離婚訴訟では,離婚原因があり,裁判所が離婚を認めれば,一方配偶者の意思に反しても離婚をすることができます。

 

一 どのような場合に離婚訴訟をするのか

離婚協議や離婚調停で離婚することができなかった場合,離婚するためには,離婚訴訟を提起し,裁判上の離婚(判決離婚)をすることになります。

 

1 離婚原因

協議離婚や調停離婚では,当事者の合意で離婚することになりますが,裁判上の離婚では,離婚原因(民法770条)があれば,強制的に離婚が認められます。

離婚原因は,①不貞行為(1号),②悪意の遺棄(2号),③3年以上の生死不明(3号),④回復の見込みのない強度の精神病(4号),⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由(5号)の5つです(民法770条1項)。

⑤は,「婚姻を継続しがたい重大な事由」と抽象的に破綻事由を定めており,婚姻関係が破綻していれば離婚が認められることになります(破綻主義)。

①から④は⑤の例示であるとされておりますが,①から④の事由がある場合であっても,裁判所は一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができます(裁量棄却。民法770条2項)。

 

2 調停前置主義

裁判上の離婚では,裁判所が離婚を認めるかどうか判断しますが,当事者の話合いで解決できる件については,当事者の話合いで解決することが望ましいので,調停前置主義(家事事件手続法257条)がとられております。

そのため,離婚訴訟を提起する前に離婚調停の申立てをしなければならず,離婚調停の申立てをせずに,離婚訴訟を提起しても,調停に付されるのが原則です。

なお,調停をしていた場合であっても,長期間経過後に訴訟を提起した場合には,事情が変わっていることも多いので,調停に付されることがあります。

また,調停と訴訟は別個の手続ですので,調停で提出された資料が訴訟に引き継がれるわけではありません。調停で提出された資料を訴訟の証拠としたい場合には,改めて提出し直す必要があります。

 

二 離婚訴訟の手続

1 当事者

夫または妻の一方が原告となり,他方が被告となります。

なお,被告が,原告の請求を争い,自ら離婚請求や損害賠償請求,附帯処分等の申立てをしたい場合には,反訴を提起することもできます。

 

また,身分行為については,行為能力がなくても,意思能力があれば足りるとされておりますので,人事訴訟においては,行為能力や訴訟能力の制限規定については適用されませんが(人事訴訟法13条1項),必要があれば訴訟代理人が選任される制度がありますし(人事訴訟法13条2項から4項),当事者となるべき者が成年被後見人である場合には,成年後見人(成年後見人が訴訟の相手方となるときは,成年後見監督人)が原告または被告となることができます(人事訴訟法14条)

 

2 管轄裁判所

離婚訴訟の土地管轄は,夫又は妻の普通裁判籍を有する地(人事訴訟法4条1項)です。

そのため,夫又は妻の住所地(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所,日本国内に居所がないとき又は居所がないときは最後の住所)を管轄する家庭裁判所に訴えを提起することになります。

合意管轄や応訴管轄の規定の適用はありません。

 

また,移送や自庁処理されることもあります(詳しくは,離婚事件の管轄のページをご覧ください。)。

 

3 離婚訴訟の請求内容

離婚訴訟では,以下の請求をすることができます。

 

(1)離婚請求

裁判上の離婚をするには,①不貞行為(1号),②悪意の遺棄(2号),③3年以上の生死不明(3号),④回復の見込みのない強度の精神病(4号),⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由(5号)のいずれかの離婚原因がなければなりません(民法770条1項)。

そのため,離婚請求をするにあたっては,どの離婚原因にあたるのか主張しなければなりませんが,⑤が一般的な離婚事由にあたるため,⑤を主張する場合がほとんどです(①から④にあたると主張する場合でも,それらとともに⑤を主張します。)。

 

(2)附帯処分等の申立て

離婚訴訟では,①財産分与,②親権者の指定,③面会交流,④子の引渡し,⑤養育費の支払,⑥年金分割の按分割合に関する処分といった附帯処分等の申立てをすることができます(人事訴訟法32条)。

申立ては書面でしなければならず(人事訴訟規則19条1項),申立ての趣旨及び理由を記載する必要があります(人事訴訟規則19条2項)。

また,年金分割按分割合の申立てをする場合には,訴状に別紙として情報通知書を添付します(人事訴訟規則19条3項)。

 

(3)損害賠償請求

人事訴訟に係る請求と請求の原因である事実によって生じた損害賠償請求は一つの訴えですることができます(関連請求の併合。人事訴訟法17条1項)。

そのため,離婚訴訟では,離婚による慰謝料請求や離婚原因を構成する不法行為(不貞行為やDV等)に基づく慰謝料請求をすることができます。

また,不貞行為の相手方等,離婚当事者以外の第三者に対する損害賠償請求も離婚請求とあわせてすることができます。

 

4 弁論主義の制限と職権探知主義

民事訴訟では私的自治の観点から弁論主義がとられておりますが,人事訴訟では,公益性の観点から真実発見が重視され,自白や擬制自白の規定が適用されない等,弁論主義が制限されております(人事訴訟法19条1項)。

その一方,裁判所は,当事者の主張しない事実を斟酌することや,職権で証拠調べをすることができ,職権探知主義がとられています(人事訴訟法20条)。

ただし,職権探知主義がとられているとはいえ,当事者は主体的に主張・立証活動をしなければなりません。

 

5 事実の調査

附帯処分や親権者の指定について裁判をする場合には,裁判所は事実の調査を行うことができます(人事訴訟法33条)。

また,裁判所は家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができます(人事訴訟法34条)。

 

四 離婚訴訟の終了

1 判決

審理が終了すると,判決が出され,確定することで効力が生じます。

民事訴訟では判決の効力は当事者間にのみ及ぶのが原則ですが(民事訴訟法115条1項),身分関係は当事者間だけでなく,社会的に影響しますので,人事訴訟の確定判決は第三者に対しても効力を有します(対世効。人事訴訟法24条1項)。

離婚を認める判決が確定した場合には,10日以内に,離婚届に判決書謄本と判決確定証明書を添付して役所または役場に報告的届出をしなければなりません(戸籍法77条1項,63条1項)。

また,判決が確定した場合,請求または請求の原因を変更することにより主張することができた事実または反訴を提起することにより主張することができた事実に基づいて同一の身分関係についての人事訴訟を提起することはできませんが(人事訴訟法25条),離婚を認めない判決(請求棄却判決)が確定した場合でも,判決の基準時(口頭弁論終結時)後の事情に基づいて,改めて離婚請求することはできます。

 

2 訴訟上の和解

人事訴訟では,身分関係の公益性の高さから,訴訟上の和解をすることはできないのが原則ですが,離婚するかどうかは当事者の合意で決めることができるので,訴訟上の和解により離婚することができます(人事訴訟法37条1項)。

なお,和解を成立させるには当事者の出頭が必要であり,和解条項案の書面による受託(民事訴訟法264条),裁判所が定める和解条項(民事訴訟法265条)による和解はできませんし(人事訴訟法37条2項),電話会議を用いた弁論準備期日に出席しない当事者は和解することはできません(人事訴訟法37条3項,民事訴訟法170条3項,4項)。

和解離婚した場合,10日以内に,離婚届に和解調書の謄本を添付して役所または役場に報告的届出をしなければなりません(戸籍法77条1項,63条1項)。

 

3 請求の放棄

人事訴訟では,請求の放棄をすることはできないのが原則ですが,離婚するかどうかは当事者の合意で決めることができるため,離婚の訴えについては,請求の放棄をすることができます(人事訴訟法37条1項)。

 

4 請求の認諾

人事訴訟では,請求の認諾をすることはできないのが原則ですが,離婚するかどうかは当事者の合意で決めることができるため,離婚の訴えについては,附帯処分についての裁判または親権者の指定についての裁判をすることを要しない場合に限り,請求の認諾をすることができます(人事訴訟法37条1項)。

なお,請求の認諾については当事者の出頭が必要であり,請求を認諾する旨の書面を提出した者が口頭弁論期日に出頭しない場合にはその書面を陳述したものと見なすことはできませんし(人事訴訟法37条1項,民事訴訟法266条2項),電話会議を用いた弁論準備期日に出席しない当事者は請求の認諾をすることはできません(人事訴訟法37条3項,民事訴訟法170条3項,4項)。

認諾離婚した場合,10日以内に,離婚届に認諾調書の謄本を添付して役所または役場に報告的届出をしなければなりません(戸籍法77条1項,63条1項)。

 

5 訴えの取下げ

訴えは,判決が確定するまで,全部または一部を取り下げることができます(民事訴訟法261条1項),取り下げた部分について訴えは初めからなかったものとみなされます(民事訴訟法262条1項)。

ただし,相手方が,本案について準備書面の提出,弁論準備手続で申述,口頭弁論をした後は,相手方の同意がなければ取り下げることはできません(民事訴訟法261条2項)。

 

6 当事者の死亡

原告または被告の死亡により訴訟は当然終了します(人事訴訟法27条)。

 

五 まとめ

離婚訴訟(離婚裁判)では,当事者は,自分の主張が裁判所に認められるように,適切に書面で主張立証しなければなりませんが,訴訟についての知識や経験もなく,当事者だけで訴訟を追行することは容易ではありません。

離婚原因とは直接関係のない,感情的なしこりの原因となった婚姻生活の出来事を詳細に主張しても,裁判所が判断するために必要な事実とはズレてしまい,言いたいことが伝わらないことが往々にしてあります。財産分与などの附帯処分や親権者の指定,慰謝料請求についても,ポイントを押さえた適切な主張や証拠の提出をしないと不利益な判断がされてしまうおそれがあります。

また,離婚訴訟は,当事者にとって精神的な負担が大きい上に,解決までに長い期間がかかることが多く,苛酷な争いであるため,一人で抱え込むのは避けたほうがよいでしょう。

したがって,協議や調停では弁護士に依頼していなかった場合でも,離婚訴訟では,弁護士に依頼することをおすすめします。

 

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