【相続・遺言】相続法改正 遺留分制度の改正
相続法の改正により,2019年7月1日から遺留分制度が改正されます。
改正前と改正後では,遺留分制度の内容が大きくかわります。
一 遺留分侵害額請求権
遺留分とは,被相続人の遺言や生前贈与によっても侵害されない相続人の権利のことであり,兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を有します(民法1042条)。
遺留分権利者及びその承継人は,受遺者(特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる遺言」のことです。)により財産を承継し,または相続分の指定を受けた相続人も含まれます。)または受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法1046条1項)。
この請求権を遺留分侵害額請求権といいます。
改正前は,遺留分を侵害された遺留分権利者は受遺者や受贈者に対し遺留分減殺請求をすることができました。遺留分減殺請求権の行使により,遺贈や贈与は遺留分を侵害する限度で効力を失い,目的物は遺留分権利者に帰属します。そのため,遺留分減殺請求により,遺贈や贈与された財産は遺留分権利者と受遺者や受贈者との共有となってしまいますが,財産が共有になってしまうと受遺者や受贈者の財産の利用や処分に支障が生じます。共有状態を解消するには,受遺者や受贈者が価額賠償をするか,共有物分割手続をしなければなりませんでした。
そのようなことから,改正により,遺留分が侵害されている場合には,金銭の支払を請求する権利が生じることになりました。
また,これにともない名称も遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権にかわりました。
二 遺留分額の算定
1 計算式
兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分を有します(民法1042条1項)
遺留分額は,以下の計算式で算定します(民法1042条,1043条)。
遺留分額=遺留分を算定するための財産の価額×遺留分割合=(被相続人の相続開始時の財産額+贈与額-債務額)×遺留分割合
2 遺留分割合
遺留分の割合は,①直系尊属のみが相続人であるときは,遺留分を算定するための財産の価額の3分の1,②その他の場合には,遺留分を算定するための財産の価額の2分の1
となります(民法1042条1項)。
また,遺留分権利者が複数人いる場合,各遺留分権利者の遺留分割合は,上記の割合に各自の法定相続分を乗じた割合となります(民法1042条2項)。
例えば,相続人が配偶者,長男,二男の場合で,遺言で長男が全財産を相続することになったときは,配偶者の遺留分割合は4分の1(法定相続分2分の1の2分の1),二男の遺留分割合は8分の1(法定相続分4分の1の2分の1)となります。
3 遺留分を算定するための財産の価額
(1)計算式
遺留分を算定するための財産の価額は,以下の計算式で算定します(民法1043条1項)。
遺留分を算定するための財産の価額=被相続人の相続開始時の財産額+贈与額-債務額
(2)条件付きの権利,存続期間の不確定な権利
条件付きの権利または存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価により価格が定められます(民法1043条2項)。
(3)贈与
贈与については,①相続開始前の1年間(相続人に対する贈与の場合は10年)にしたもの,または,②当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したものに限り,価額(相続人に対する贈与の場合は,婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の額に限ります。)を加算します(民法1044条1項,3項)。
改正前は,相続人に対する特別受益にとなる贈与については,贈与がなされた時期を問わず加算されていましたが,改正により,相続開始10年前のものに限られることになりました。
受贈者の行為により財産が滅失し,または価格の増減した場合は,相続開始時に原状のままであるものとみなして,贈与の価額を算定します(民法1044条2項,904条)。
負担付贈与の場合は,目的の価額から負担の価額を控除した額を贈与の額となります(民法1045条1項)。
また,不相当な対価の有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした場合には,対価を負担額とする負担付贈与とみなされます(民法1045条2項)。
三 遺留分侵害額の算定
1 計算式
遺留分侵害額は,以下の計算式により算定します(民法1046条2項)。
遺留分侵害額=遺留分額-遺留分権利者の特別受益の額-遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額+遺留分権利者が承継する相続債務の額
2 遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額
上記計算式の遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額は,「第900条から第902条まで,第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額」です(民法1046条2項2号)。
遺留分権利者の具体的相続分を前提に計算しますが,民法1046条2項2号では寄与分の規定(民法904条の2)は含まれていませんので,寄与分は考慮されません。
3 遺留分権利者が承継する相続債務の額
上記計算式の遺留分権利者が承継する相続債務の額は,「被相続人が相続開始の時において有した債務のうち,第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務…の額」です(民法1046条2項3号)。
民法899条は,各共同相続人は,その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継すると規定しておりますので,遺留分侵害額算定において加算する債務の額は,相続債務に遺留分権利者の相続分(法定相続分または指定相続分)に応じて承継する債務の額です。
四 受遺者,受贈者の負担額
1 負担額
受遺者や受贈者は,遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含みます。)や贈与の目的の価額(受遺者や受贈者が相続人の場合はその人の遺留分額を控除します。)を限度として,遺留分侵害額を負担します(民法1047条1項)。
2 受遺者や受贈者が複数人いる場合の負担の順番
受遺者や受贈者が複数人いる場合には,以下の順番で負担します。
①受遺者と受贈者がいるときは,受遺者が先に負担します(民法1047条1項1号)。
②受遺者が複数人いるときは,目的の価額の割合に応じて負担します。ただし,遺言者が遺言に別段の意思表示をしたときは,その意思に従います(民法1047条1項2号)。
③受贈者が複数人いて,贈与が同時にされたものであるときは,目的の価額の割合に応じて負担します。ただし,遺言者が遺言に別段の意思表示をしたときは,その意思に従います(民法1047条1項2号)。
④受贈者が複数人いて,贈与が同時にされたものでないときは,後の贈与の受贈者から順に前の贈与の受贈者が負担します(民法1047条1項3号)。
3 受遺者や受贈者が相続債務の弁済等をした場合
受遺者や受贈者が遺留分権利者が承継する債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務額の限度において,受遺者等は,遺留分権利者に対する意思表示により,負担する債務を消滅させることができます。この場合,遺留分権利者に対する求償権も消滅した債務額の限度で消滅します(民法1047条3項)。
4 受遺者や受贈者が無資力の場合
受遺者や受贈者の無資力によって生じた損失は遺留分権利者が負担します(民法1047条4項)。
遺留分侵害額を負担する受遺者や受贈者が無資力であっても,その分,他の受遺者や受贈者が負担するということはありません。
五 相当の期限の許与
遺留分侵害請求を受けた受遺者や受贈者が直ちに金銭の支払をすることができない場合があります。
そのようなことから,裁判所は,受遺者または受贈者の請求により,遺留分侵害請求により負担する債務の全部または一部につき相当の期限を許与することができます(民法1047条5項)。
六 遺留分侵害額請求権の行使期間
遺留分侵害額請求権は,①遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅し,②相続開始の時から10年を経過したときは,除斥期間により消滅します(民法1048条)。
遺留分請求権はその行使により金銭債権が発生する形成権ですので,遺留分侵害額請求権の行使により生じた金銭債権は,別途,消滅時効にかかります。時効期間は通常の金銭債権と同様です。
七 遺留分侵害額請求権の事前放棄
遺留分権利者は,相続開始前に,家庭裁判所の許可を得て,遺留分を放棄することができます(民法1049条1項)。
共同相続人の一人のした遺留分の放棄は,他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません(民法1049条2項)。
なお,相続開始後の遺留分の放棄には,家庭裁判所の許可はいりません。