【相続・遺言】相続法改正 配偶者短期居住権

2020-06-18

相続法の改正により,令和2年4月1日から,配偶者短期居住権制度が開始します。

 

一 配偶者短期居住権とは

配偶者短期居住権とは,被相続人の配偶者が,相続開始時に遺産である建物に居住していた場合に,配偶者は,その建物(居住建物)を相続または遺贈により取得した者(居住建物取得者)に対し,相続開始後も短期間,居住建物を無償で使用することができる権利を有します。この権利のことを配偶者短期居住権といいます。

相続開始後,配偶者が直ちに住居を失ってしまうということがないよう,短期間,配偶者の居住権を確保させる制度です。

配偶者居住権の場合とは異なり,配偶者短期居住権には居住建物を収益する権利はありませんし,配偶者が配偶者短期居住権を取得しても,配偶者の具体的相続分に影響しません。

 

二 成立要件

配偶者短期居住権は,①配偶者が,被相続人の財産に属した建物に相続開始時に無償で居住していたこと,②配偶者が相続開始時に配偶者居住権を取得していないこと,③配偶者が民法891条の欠格事由または廃除により相続権を失っていないことの要件を満たす場合に成立します(民法1037条1項)。

 

三 存続期間

1 民法1037条1項1号に掲げる場合

居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合は,遺産分割により建物の帰属が確定した日または相続開始時から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで,配偶者短期居住権は存続します(民法1037条1項1号)。

 

2 民法1037条1項1号に掲げる場合以外の場合

配偶者以外に居住建物を遺贈した場合,配偶者が相続放棄した場合等,配偶者が居住建物について遺産共有持分を有しない場合,居住建物取得者は,いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができ(民法1037条3項),申入れ日から6か月を経過する日に短期居住権が消滅します(民法1037条1項2号)。

 

四 居住建物の使用等

配偶者短期居住権を有する配偶者は,居住建物(居住建物の一部のみを使用していた場合には,その部分)を無償で使用することができます(民法1037条1項)。

居住建物取得者は,第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはなりません(民法1037条2項)。

配偶者は居住建物を使用するにあたって,用法遵守義務,善管注意義務を負いますし(民法1038条1項),居住建物取得者の承諾を得ずに第三者に居住建物を使用させることはできません(民法1038条2項)。配偶者がこれらに違反した場合には,居住建物取得者が配偶者に対し,短期居住権の消滅を請求することができます(民法1038条3項)。

また,配偶者居住権の譲渡禁止の規定(民法1032条2項),居住建物の修繕等の規定(民法1033条),費用負担の規定(民法1034条)は,配偶者短期居住権に準用されます(民法1041条)。

 

五 配偶者短期居住権の消滅

1 消滅事由

配偶者短期居住権は,①存続期間が満了した場合(民法1037条1項),②居住建物取得者が配偶者短期居住権の消滅を請求した場合(民法1038条3項),③配偶者が配偶者居住権を取得した場合(民法1039条),④配偶者が死亡した場合(民法1041条,民法597条3項),⑤居住建物の全部が滅失その他の事由により使用することができなくなった場合(民法1041条,民法616条の2)等に消滅します。

 

2 居住建物の返還等

配偶者短期居住権が消滅したとき(民法1039条に規定する場合は除きます。)は,配偶者は居住建物を返還しなければなりません(民法1040条1項本文)。
ただし,配偶者が居住建物の共有持分を有する場合は,居住建物取得者は配偶者短期居住権の消滅を理由に居住建物の返還を求めることはできません(民法1040条1項但書)。

また,配偶者には,附属物の収去義務・収去権(民法1040条2項,民法599条1項,2項),原状回復義務(民法1040条2項,民法621条)があります。
損害賠償請求権や費用償還請求権がある場合には,居住建物の返還を受けたときから1年以内に請求しなければなりません(民法1041条,民法600条)。

 

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