【後見】法定後見と任意後見の関係
成年後見制度には,法定後見制度と任意後見制度がありますが,両制度の関係は以下のとおりです。
一 法定後見と任意後見の関係
任意後見では,本人は,誰を任意後見人とするか,どのような代理権を与えるかについて,本人が自らの意思で決めることができます。
そのため,本人の自己決定を尊重する観点から,法定後見が本人の利益のために特に必要であると認められる場合を除き,任意後見が法定後見に優先します。
1 法定後見開始後に任意後見契約を締結した場合
法定後見開始後であっても,本人に判断能力があれば,任意後見契約を締結し,任意後見監督人選任の申立てをすることができます。
その場合,法定後見を継続することが,本人の利益のために特に必要であると認められるときは,家庭裁判所は任意後見監督人を選任することができませんが(任意後見契約に関する法律4条1項2号),任意後見監督人が選任される場合には,家庭裁判所は,後見開始の審判等を取り消します(法4条2項)。
2 任意後見契約締結後に後見開始の審判等を申し立てた場合
任意後見契約が登記されている場合,家庭裁判所は,本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り,後見開始の審判等をすることができます(法10条1項)。
後見開始の審判等の申立ては,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人もすることができます(法10条2項)。
任意後見監督人が選任された後に,本人が後見開始の審判等を受けたときは,任意後見契約は終了します(法10条3項)。
三 本人の利益のために特に必要がある場合
本人の利益のために特に必要がある場合としては,以下のような場合が考えられます。
1 任意後見人の代理権の範囲が狭い場合
任意後見人の代理権は,任意後見契約で定められた範囲に限定されます。
また,任意後見契約の内容については変更することもできますが,本人の判断能力がない場合には,変更することもできません。
そのため,任意後見人の代理権の範囲が狭いが,代理権の範囲を変更することができず,本人の身上監護や財産管理が適切に行えない場合には,法定後見を開始することが必要となります。
2 同意権や取消権が必要な場合
任意後見人には代理権しかなく,同意権や取消権はありません。
そのため,本人のために同意権や取消権が必要な場合には,法定後見を開始する必要があります。
3 任意後見受任者が任意後見人となることに適しない場合
任意後見受任者が①未成年,②家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人,補助人,③破産者,④行方の知れない者,⑤本人に対し訴訟をし,またはした者及びその配偶者並びに直系血族,⑥不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者である場合には,家庭裁判所は,任意後見監督人を選任することができないため(法4条1項),任意後見契約の効力が生じません。
そのような場合には,本人を援助するために,法定後見を開始することが必要となります。