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【離婚】面会交流(面接交渉)
一 面会交流(面接交渉)とは
面会交流(面接交渉)とは,別居中または離婚後に,子を養育・監護していない親(非監護親)が子と会ったり,手紙で文通したり,電話で話したりする等して交流することをいいます(離婚後の面会交流については,民法766条が規定しております。別居中の面会交流については民法766条が類推適用されると解されております。)。
面会交流は,非監護親の権利と考えられていますが,民法766条1項が,面会交流について定める際には,子の利益を最も優先して考慮しなければならないと規定しているように,面会交流については子の利益を第一に考えなければなりません。
二 面会交流の取決めをする手続
面会交流をするにあたっては,回数・頻度,日時,場所,方法等を決める必要があります。以下の手続があります。
1 協議
父又は母と子との面会及びその他の交流について,協議で定めることができます(民法766条1項)。
2 調停,審判
面会交流について,協議が調わないとき,または協議ができないときは,家庭裁判所が定めます(民法766条2項)。
そのため,非監護親は,面会交流を求め,家庭裁判所に調停や審判の申立てをすることができます。
3 離婚訴訟の附帯処分
離婚訴訟を提起する際,離婚訴訟の附帯処分として,面会交流を求めることも考えられます。
もっとも,非監護親としては,面会交流よりも,まず自分が親権者と指定されることを求めるでしょうから,訴え提起の段階で,附帯処分として面会交流を求めることは余りないでしょう。
三 面会交流が制限される場合
面会交流について定める際には,子の利益を最も優先して考慮しなければならないため(同条1項),子の福祉に反する場合には面会交流が制限されることがあります。
子の福祉に反する場合としては,非監護親が子を虐待するおそれがある場合,非監護親が子を連れ去るおそれがある場合,非監護親が監護親に対し暴力を振るっていたような場合(ドメスティック・バイオレンス(DV)事案)が考えられます。
これに対し,非監護親が養育費を支払わない場合については,面会交流が子の福祉に反するわけではないので,面会交流が制限されることにはならないでしょう。
また,監護親が再婚する場合であっても,面会交流が制限されるわけではありませんが,再婚家庭との関係を考慮する必要はあるでしょう。
また,面会交流が制限される場合であっても,全面的に制限するだけではなく,面会交流の回数や時間を減らす,手紙や電話で間接的に交流させる,第三者を立ち会わせる等の制限も考えられます。
四 監護親が面会交流させない場合に取りうる方法
子を養育・監護する親(監護親)が,非監護親に子と面会交流をさせない場合,非監護親としては,以下のような方法をとることが考えられます。
1 履行勧告(家事事件手続法289条)
調停や審判で決まった面会交流を監護親が拒否する場合には,非監護親は申出をして,家庭裁判所に履行勧告をしてもらうことが考えられます。
ただし,履行勧告に強制力はありません。
2 強制執行
調停や審判でき待った面会交流を監護親が拒否する場合には,非監護親は強制執行をすることが考えられます。
その際,子を強制的に連れてきて面会させること(直接強制)はできませんが,面会交流の日時や頻度,時間,子の引渡しの方法等が具体的に定められており,監護親の給付内容が特定されている場合には,履行しない監護親に一定額の金銭を支払わせること(間接強制)ができると解されております。
3 損害賠償請求
面会交流させない監護親に対し,不法行為責任に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。
4 再度の調停の申立て
再度,調停を申立てて,監護親が面会交流に応じるように面会交流の回数,日時,方法等を決め直すことも考えられます。
【離婚】婚約(婚姻予約),婚約の破棄
一 婚約(婚姻予約)
婚約(婚姻予約)とは,将来婚姻しようと約束することをいいます。
二 婚約の成立
婚約は,当事者の合意のみで成立します。
もっとも,婚約の成立が認められるには,当事者が本気で将来婚姻する意思を有していたと認められる場合でなければなりません。
単に口約束をしただけでは,睦言にすぎないとみなされて,婚約が成立したとは認められないでしょう。
婚約が成立したかどうかは,当事者が婚姻を約束したかどうかということだけではなく,交際状況,親族や友人への紹介,結納の授受,結婚へ向けての準備等,具体的客観的な事実の存在により判断されます。
三 婚約破棄
婚約したからといって婚姻が強制されるわけではありませんが,正当な事由がなく,婚約を破棄した場合には,婚約を破棄された人は,婚約を破棄した人に対し,債務不履行責任または不法行為責任の追及として,財産的損害(準備のために支出した費用等)や精神的損害(慰謝料)について損害賠償請求をすることができます。
正当な事由がない場合としては,例えば,相手方が浮気をした場合や相手方が暴行,侮辱をした場合をいいます。親が反対した,性格があわないというだけでは,正当事由がないとはいえず,損害賠償請求は難しいでしょう。
また,結納金を交付した場合には,結納金を交付した人は,結納金を受け取った人に対し,不当利得返還請求をすることも考えられます。もっとも,結納金を交付した人に,婚約解消に責任がある場合には,信義則上,返還請求が制限されることがあるでしょう。
【離婚】内縁(事実婚)と内縁の解消
一 内縁(事実婚)とは
内縁(事実婚)とは,事実上婚姻と同様の関係にあるが,婚姻届が出されていない場合をいいます。
これに対し,婚姻届が出されている場合を法律婚といいます。
内縁については,かつては婚約(婚姻の予約)と捉えられていたこともありました。
内縁も婚姻の予約も,婚姻届が出されておらず,法律上の婚姻が成立していない点では共通しておりますが,婚姻の予約は,将来婚姻しようという意思がある場合をいうのに対し,内縁の場合は,婚姻としての実体がある場合をいいますので,現在では,内縁は,婚姻に準じるものとして扱われております。
二 内縁の成立要件
1 内縁の成立要件
内縁が成立するための要件としては,以下の要件をみたす必要があります。
①当事者間に社会通念上の婚姻の意思があること
②事実上の夫婦共同生活が存在すること
2 婚姻障害事由がある場合
婚姻障害事由がある場合には,法律上婚姻が認められませんが,婚姻障害事由のうち,婚姻適齢(民法731条),再婚禁止期間(民法733条),未成年者の婚姻についての父母の同意(民法737条)の各規定に違反する場合であっても,内縁の成立が認められると解されています。
これに対し,近親婚の制限(民法734条から736条)に違反する場合(近親婚的内縁)や,重婚の禁止の規定(民法732条)に違反する場合(重婚的内縁)には,倫理的な観点から,内縁として保護されるかどうかが問題となります。
三 内縁が成立する場合の法的効果
1 内縁が成立する場合に認められる法的効果
内縁が成立する場合,婚姻に準じるものとして扱われます。
そのようなことから,婚姻に準じて,内縁の夫婦間には,同居・協力・扶助義務,貞操義務,婚姻費用分担義務等が認められると解されます。
また,社会保障の法令や借地借家法36条等,内縁配偶者を保護する規定があります。
2 内縁には認められない効果
内縁が成立したとしても,法律上の夫婦と同様に扱われるわけではありません。
①内縁が成立しても,氏は変更しない,②内縁夫婦の子は嫡出子とならない,③内縁配偶者には相続権がない等,法律婚とは違いがあります。
四 内縁の解消
1 内縁が解消する場合
内縁関係が解消する場合としては,①一方が死亡した場合,②当事者の意思による場合があります。
2 死亡による内縁の解消
内縁夫婦の一方が死亡した場合には,内縁は解消します。
その際,亡くなった者の財産について,他方の内縁配偶者は相続権を有しません。
また,離婚の財産分与の規定(民法768条)を類推適用も,判例上,否定されております。
そのため,他方に財産を遺すためには,遺言を作成しておくべきです。
もっとも,死亡による解消の場合,内縁配偶者が全く保護されないわけではありません。
内縁配偶者に遺族年金の受給権が認められる等,社会保障上,内縁配偶者は保護されています。
また,亡くなった内縁配偶者に相続人が存在しない場合には,特別縁故者による相続財産分与請求権(民法958条の3)や,借家権の承継(借地借家法36条)による保護があります。
さらに,借家権を有する内縁配偶者が亡くなり,相続人が借家権を相続した場合,他方内縁配偶者は,貸し主に対し,相続人の借家権を援用することができますし,相続人からの明渡請求を権利の濫用として拒むことができると解されております。
3 当事者の意思による場合
内縁は,当事者の合意または一方の意思により解消することができます。
その際,以下のような点が問題となります。
(1)財産分与請求
内縁を解消した場合には,離婚の財産分与の規定(民法768条)を類推適用して財産分与請求をすることができます。
(2)慰謝料請求
当事者の一方が,正当な理由がなく,一方的に内縁を解消した場合(内縁の不当破棄)には,他方は,慰謝料請求をすることができます。
また,第三者が内縁関係を破綻させた場合には,その者に対する慰謝料請求もできます。
(3)親権,養育費
内縁夫婦の子の親権者は母であり,子は母の氏を名乗ります(民法790条2項)。
父が親権者となるには,父が子を認知した後,協議または家庭裁判所の審判で,親権者を父にしなければなりませんし(民法819条4,5項),子を父の氏とするには,家庭裁判所で子の氏の変更の許可を受けなければなりません(民法791条1項)。
また,父が子を認知した場合には,子に対する扶養義務を負いますので,父に対し,養育費の請求ができす。
(4)年金分割請求
内縁配偶者であっても,3号被保険者であった期間については,年金分割請求ができます。
【離婚】W不倫(既婚者同士の不倫)と慰謝料請求
一 事例
私(X)の夫(Y)が不倫しました。不倫相手(A)も既婚者のようです。
私は,不倫が許せないので,夫の不倫相手に慰謝料を請求したいと考えています。
私は,夫と離婚しようか迷っていますが,離婚しない場合でも,不倫相手に慰謝料請求をすることはできるでしょうか。
夫によると,不倫相手の夫(B)はまだ不倫のことは知らないようです。
二 不貞行為をされたことによる慰謝料請求
1 不貞行為をした配偶者とその不倫相手に対する慰謝料請求
不貞行為をされた人(X)は,自身の配偶者(Y)とその不倫相手(A)により,共同で不法行為をされたことになりますので,自身の配偶者(Y)とその不倫相手(A)に対し慰謝料請求をすることができます。
両者の債務は不真正連帯債務となり,不貞行為をされた人(X)は不貞行為をした配偶者(Y)とその不倫相手(A)のどちらに対しても慰謝料請求をすることができますが,一方が支払った場合,その分,他方に対し請求できなくなります。
なお,詳しくは配偶者の不貞行為のページをご覧ください。
2 離婚しない場合
不貞行為をされた人(X)は,不貞行為をした配偶者(Y)と離婚しない場合であっても,配偶者の不倫相手(A)に対し慰謝料請求をすることはできます。
もっとも,一般に,不貞行為により離婚に至った場合と離婚に至らなかった場合とでは,離婚に至った場合のほうが精神的苦痛が大きいと考えられますので,離婚しない場合は離婚した場合よりも慰謝料額は低くなる傾向にあります。
また,不貞行為をした配偶者(Y)に対する慰謝料請求も考えられますが,離婚しない場合には,夫婦として経済的に一体ですので,実際に慰謝料請求することはないでしょう。
三 W不倫の場合の問題点
W不倫の場合,不倫相手の配偶者(B)に対する不法行為にもなりますので,不倫相手の配偶者(B)も,自分の配偶者(A)とその不倫相手(Y)に対し慰謝料請求をすることができます。
不貞行為をされた人(X)からすれば,配偶者(Y)と離婚する場合には,離婚により他人となるので,配偶者(Y)が不倫相手の配偶者(B)から慰謝料請求されたとしても基本的には関係ありません(ただし,YはXとB双方から慰謝料請求されるため,Yの支払能力に影響を与えることはあります。)。
これに対し,離婚しない場合には,夫婦として経済的に一体ですので,自分の配偶者(Y)が不倫相手の配偶者(B)から慰謝料請求される可能性を考え,不倫相手(A)に対し慰謝料請求をすべきかどうか慎重に検討する必要があります。
慰謝料額は具体的な事情によって異なり,双方の慰謝料額が同じになるとは限りませんので,不貞行為をされた人(X)が配偶者の不倫相手(A)から得られる慰謝料額より,配偶者(Y)が不倫相手の配偶者(B)に支払う慰謝料額の方が高くなり,夫婦全体としてみればマイナスとなることもあります(例えば,XとYが離婚せず,BとAが離婚した場合には,AがXに対して負う慰謝料額よりも,YがBに対して負う慰謝料額のほうが高くなる可能性があります)。
そのため,不倫相手の配偶者(B)が不倫に気付いていない等の理由で慰謝料請求してこない場合には,配偶者の不倫相手(A)に対し慰謝料請求をすると,不倫相手の配偶者(B)からの慰謝料請求を誘発する可能性があることから,不倫相手(A)に対し慰謝料請求することが躊躇われ,慰謝料請求に踏み切れないことがあります。
四 まとめ
事例の場合,Xは,Yと離婚しなくても,Aに対し慰謝料請求をすることはできますが,Bも,YとAの不倫に気付けば,Yに対し慰謝料請求する可能性があるため,Yと離婚しないのであれば,Aに対し慰謝料請求するかどうか慎重に検討すべきでしょう。
【離婚】離婚と氏(姓)
夫婦は,婚姻の際に夫または妻の氏のいずれかを称することになります(民法750条)。
また,夫婦が婚姻中に生まれた子(嫡出子)は父母の氏を称します(民法790条1項本文)。
では,離婚した場合,夫婦や子の氏はどうなるのでしょうか。
一 夫婦の氏
1 離婚による復氏
婚姻によって氏を改めた夫または妻は,離婚によって婚姻前の氏に戻ります(民法767条1項,771条)。
原則として,婚姻前の戸籍に編入されますが,婚姻前の戸籍が除籍されている場合や復氏する者が新戸籍の編成を申し出た場合には,新戸籍を編成します(戸籍法19条1項)。
2 婚氏続称
婚姻前の氏に復した夫または妻は,離婚の日から3か月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離婚の際に称していた氏を称することができます(民法767条2項,771条)。
この場合には,家庭裁判所の許可は不要です。
3 氏の変更の許可
3か月以内に婚氏続称の届け出をしなかったが,婚氏を称したい場合や,婚氏続称の届け出をしたが,婚姻前の氏を称したい場合には,家庭裁判所の許可を得た上で,氏の変更の届け出をしなければなりません。その際には,「やむを得ない事由」がなければなりません(戸籍法107条1項)。
なお,婚氏続称することにした者が後に婚姻前の氏へ変更を求めた場合には,「やむを得ない事由」の要件は,一般の場合よりは緩和して解釈される傾向があります。
二 子の氏
1 離婚後の子の氏
両親が離婚しても,子の氏は変更されません。
そして,父の氏を称する子は父の戸籍に入り,母の氏を称する子は母の戸籍に入るため(戸籍法18条2項),例えば,離婚により母が子の親権者となっても,子が父の氏を称している場合には,子を母の戸籍に入れることはできません(なお,母が婚氏続称をしたとしても,婚姻中の氏と婚氏続称による氏は,法的には別の氏になりますので,やはり,子を母の戸籍に入れることはできません)。
そのため,子を母の戸籍に入れるには,子の氏を母の氏に変更する必要があります。
2 氏の変更の許可
子が父または母と氏を異にする場合には,子は,家庭裁判所の許可を得て,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,父または母の氏を称することができます(民法791条1項)。
氏の変更許可の申立ては子が申立人となりますが,子が15歳未満の場合には法定代理人(親権者等)が子に代わって申し立てをすることができます(民法791条3項)。
3 子の成人後の氏の変更
氏を変更した子は,成年に達した時から1年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,従前の氏に復することができます(民法791条4項)。
この場合,子は新戸籍を編成することもできますし,従前の氏を称する親の戸籍に入籍することもできます。
【離婚】子の親権者の指定の判断基準
協議や調停において当事者間でどちらが親権者となるか合意ができなかった場合には,審判や訴訟で裁判所が親権者を指定します。
子の親権者の指定については,子の利益や福祉のために,父母のどちらが親権者としてふさわしいか判断されます。
親権者の指定は子の利益や福祉の観点から判断されますので,離婚の有責性は余り考慮されません。
判断にあたっては,子の利益や福祉の観点から,父母側の事情(監護能力,資産・収入等の経済力,居住環境,教育環境,子に対する愛情,従来の監護状況,親族の援助があるかどうか等)や子の側の事情(年齢,性別,心身の発育状況,兄弟姉妹との関係,従来の環境への適応状況,環境の変化への適応性,子の意思,父母・親族との結びつき等)を総合的に考慮されます。
具体的には,以下のような基準があるとされています。
1 母性優先の原則
子供が乳幼児のうちは,母親の監護養育に委ねることが子の福祉に合致するとの考えです。
ただし,母親が親権者として不適格な場合や父親が養育監護を継続している場合には,母親だからといって親権者になることができるとは限りません。
2 継続性の原則
養育監護している者の変更は,子を心理的に不安定にさせることになるので,現実に子を養育監護している者が優先されるという考えです。
なお,現実に子を養育監護する者を優先すると,親の間で子の奪い合いが誘発されるという問題がありますが,子を違法に奪取した場合には,親権者としての適格性に問題があると判断されることもあります。
3 子の意思の尊重
親権者の指定は子の利益の観点から判断されるため,子の意思は尊重されます。
親権者の指定の裁判をするにあたっては,15歳以上の子の意見聴取をしなければならないとされておりますが(人事訴訟法32条4項),15歳未満であっても,意思を表明する能力があれば,子の意思表明は考慮されます。
4 兄弟姉妹の不分離
幼児期の子に兄弟姉妹がいる場合には,一緒に養育すべきであり,分離すべきではないという考えです。
離婚により,兄弟姉妹が離れ離れになることは,子にとって更なる心理的な苦痛となるからです。
5 面会交流を許容しているかどうか
子が別居している親の存在を知り,良好な関係を保つことは,子の人格形成のために重要です。
そのため,子に他方の親のことを肯定的に伝えることができ,他方の親と子の面会交流を認めることができるかどうかも,親権者としての適格があるかどうかの判断の基準となります。
【離婚】子の親権者の指定
未成年の子がいる場合,婚姻中は父母である夫婦が共同して親権を行うのが原則ですが(民法818条3項),夫婦が離婚する場合には,夫婦の一方を親権者と定めなければなりません(民法819条)。
夫婦間で離婚すること自体に争いがない場合でも,親権者の指定をめぐって争いになることがよくあります。
そこで,子の親権者の指定について簡単に説明させていただきます。
一 協議離婚の場合
協議離婚とは,話合いによって離婚することをいいます。
民法819条1項は,「父母が協議上の離婚をするときは,その協議で,その一方を親権者と定めなければならない。」と定めていますので,協議離婚をする際には,親権者をどちらにするのか定めなければなりません。
話合いで親権者を決める場合には,特に決まりがあるわけではありませんが,子の立場に立って,最善の結論を導くために,父母が冷静に話し合いをすることが望まれます。
協議離婚の場,離婚届の未成年の子の氏名欄に,夫が親権を行う子,妻が親権を行う子の氏名をそれぞれ記入し,離婚届を提出することで,親権者が指定されます。
親権者が定まっていないと離婚届は受理されませんので,夫婦は協議離婚することができません。
そのため,夫婦が離婚すること自体には合意していても,親権者を誰にするか合意することができず,協議離婚自体ができないことがよくあります。
二 調停離婚の場合
夫婦間で親権に関する話し合いがまとまらなかった場合には,家庭裁判所に離婚調停を申立て,調停委員などの第三者を交えて,離婚の問題とともに親権者を誰にするかを話し合うことになります。
調停で話合いがついた場合,調停調書に離婚の合意や親権者の指定などの内容を記載すると,調停離婚が成立します。
調停はあくまで話し合いの場ですので,夫婦間の合意が前提となります。
どちらを親権者とするかについて話合いがまとまらず,離婚自体についても話合いがつかない場合には調停は不成立となります。その場合には,離婚訴訟を提起して,その附帯処分として親権者を決めることになります。
また,離婚自体については合意しているけれども,親権者について決まらない場合には,離婚について調停を成立させ,親権者の指定については,調停に代わる審判(家事事件手続法284条)がなされることもあります。
三 裁判離婚の場合
1 子の親権者指定の申立て
調停で離婚の話合いがつかなかった場合には,家庭裁判所に離婚訴訟を提起することになり,附帯処分として親権者の指定の申立てをします。
裁判所は,離婚を認める判決において,夫婦に未成年の子がいる場合には,申立てがなくても職権で親権者の指定をしなければなりませんが(民法819条2項,人事訴訟法32条3項),当事者が親権者の指定の申立てをするのが一般です。
2 審理
親権者の指定は子の利益を基準として判断されます。
そのため,有責配偶者だから親権者となることができないというわけではなく,例えば,不貞行為をした配偶者であっても親権者となることができます。
裁判所は,子の親権者を指定する場合に事実の調査をすることができ(人事訴訟法33条1項),家庭裁判所の調査官に事実の調査をさせることができます(人事訴訟法34条)。
また,15歳以上の子がいる場合には,その子の意見が聴取されます(人事訴訟法32条4項)。
3 裁判離婚の場合の子の親権者の指定
(1)判決
離婚を認容する判決がなされた場合には,あわせて親権者が指定されます。
(2)訴訟上の和解
訴訟手続中に話し合いがなされ,離婚や親権者の指定などについて,当事者に合意ができた場合には,和解により親権者を指定することができます。
(3)親権者の指定がある場合には請求の認諾はできません。
離婚訴訟では被告が請求を認諾することができますが(人事訴訟法37条1項本文),親権者の指定などの附帯処分の裁判を要する場合には請求の認諾はできません(同項但し書)。
四 まとめ
どのような方法で親権者を定める場合であっても,当事者は,子の利益が最優先であることをしっかり認識することが必要です。
相手方に対する反感から親権を主張したり,離婚条件の交渉材料として親権を主張したりするべきではありません。
親権者を定める場合に,両親の離婚によりすでに精神的に大きなダメージを受けている子を,さらに傷つけることがあってはなりません。
【離婚】養育費・婚姻費用の履行確保
一 事例
私は,先日,調停で夫と離婚しました。調停では,私が子供の親権者になること,夫が子供の養育費を支払うことが決まり,その旨調停調書に記載されました。
夫は,はじめのうちは養育費を支払ってくれていましたが,3か月ほど前から,何かと言い訳をして支払いを渋るようになりました。
子供は2人とも中学生でお金がかかりますので,私の給料だけではとても生活していけません。夫に養育費を支払わせるには,どうしたらいいでしょうか。
二 履行確保の方法
1 履行勧告
家庭裁判所の調停や審判で決まった金銭の支払いなどの義務を履行しない場合,権利者の申出により,裁判所は,義務者に対して義務の履行を勧告することができます(家事事件手続法289条)。
申出に費用はかかりませんし,簡易迅速な方法であるため,利用しやすい方法であるといえます。
ただし,義務者が勧告に従わなかった場合,義務の履行を強制することはできません。
2 履行命令
家庭裁判所の調停や審判で決まった金銭の支払いその他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った場合,権利者の申立てにより,裁判所は,義務者に対して義務の履行を命ずる審判をすることができます(家事事件手続法290条)。
義務者が正当な理由なく命令に従わないときは,10万円以下の過料に処せられます。
義務者は命令に従わなくても過料に処されるだけですので,権利者が債権を回収することができるわけではありません。
2 強制執行
(1)金銭債権の執行
地方裁判所は,権利者の申立てにより,義務者の財産(不動産,動産,債権)を差し押さえて,その財産の中から金銭債権の弁済を受けます。
養育費や婚姻費用等の金銭債権については,以下の規定があります。
①将来分の差押え
養育費や婚姻費用等の定期金債権の一部に不履行がある場合には,期限が到来していない分についても,給料その他の継続的給付にかかる債権を差し押さえることができます(民事執行法151条の2)。
②差押禁止債権の範囲
差押禁止債権について,通常は,給料等の4分の3が原則として差押禁止ですが(民事執行法152条1項),婚姻費用や養育費等の債権を請求する場合には,差押禁止部分は原則として2分の1とされています(民事執行法152条3項)。
(2)間接強制
間接強制とは,権利者の申立てにより,地方裁判所が,義務を履行しない者に対し,一定の金銭の支払いを命じることにより,義務者に心理的強制を加え,自発的に支払を促すことができます(民事執行法172条1項)。
金銭債権の場合には間接強制ができないのが原則ですが,婚姻費用や養育費については,間接強制をすることもできます(民事執行法167条の15)。
ただし,義務者に支払能力がない場合や債務を弁済することにより生活が著しく窮迫する場合には,間接強制は利用できません(民事執行法167条の15第1項但書)。
また,婚姻費用や養育費などの定期金債権の一部に不履行がある場合には,6月以内に期限が到来する分についても間接強制による強制執行を開始することができます(民事執行法167条の16)。
三 まとめ
養育費や婚姻費用の履行を確保するには,以上のような方法があります。
家庭裁判所に履行勧告をしてもらい,それで相手方が履行してくれば解決しますが,強制力がないため,相手方が従わない場合には,強制執行を検討すべきでしょう。
なお,当事者が協議して養育費や婚姻費用の支払いの合意をしただけの場合には,債務名義がないので,民事訴訟をするなどして債務名義を得た上で強制執行の手続をとることになります。
【離婚】協議離婚無効確認
一 事例
先日,妻とケンカをしてしまい,勢いで離婚届にサインをしてしまいました。
あとで冷静になって考えてみると,やはり離婚はしたくないので,妻に離婚届を出さないように言ったのですが,妻は私の言うのを聞かずに離婚届を役所に出してしまいました。
どうすればいいでしょうか。
二 離婚したくないのに,離婚届が出されてしまった場合
協議離婚の有効要件として,①法律婚を解消しようとする意思(離婚意思)の合致,②戸籍法の定めによる届出が要求されております。
①離婚意思は,届出の時点に存在することが必要であるため,離婚届を書いた後で離婚意思がなくなった場合には,届出の時点で離婚意思を欠いていることになりますから,離婚は無効となります。
しかし,離婚意思を欠いていたとしても,離婚届が役所に提出されてしまうと,離婚届は受理され,戸籍に離婚した旨記載されてしまいます。
戸籍から離婚の記載を抹消するためには,協議離婚無効確認の調停の申立てをするか,協議上の婚無効確認の訴えを提起することが必要となります。
三 協議離婚無効確認の調停申立て・合意に相当する審判
協議上の離婚の無効を確認するにあたっては,まず家庭裁判所に,協議上の離婚無効確認の調停を申し立てる必要がありますが(調停前置主義),当事者の合意だけで離婚の無効が確認できるわけではなく,合意に相当する審判を得なければなりません。
調停の結果,当事者双方が,①協議上の離婚の無効を確認する審判を受けることに合意し,②無効原因について争わない場合には,家庭裁判所は,必要な事実を調査した上で,合意を正当と認めるときは,合意に相当する審判をすることができます(家事事件手続法277条1項)。
四 協議上の離婚無効確認の訴え
相手方が離婚の無効を争ってくる場合には,調停を申し立てても合意に相当する審判を得ることはできません。
その場合には,家庭裁判所に協議上の離婚の無効確認の訴え(人事訴訟法2条1号)を提起しなければなりません。
審理の結果,家庭裁判所が,夫婦の一方または双方が,離婚届の提出時に離婚意思がなかったと判断したときには,離婚無効確認の判決がなされます。
五 まとめ
以上のように,離婚する意思がないのに,離婚届が出されてしまった場合には,協議離婚無効確認調停の申立てや協議上の離婚無効確認の訴えを提起することができますが,大変な労力が必要となりますし,離婚無効が認められるかどうかも分かりません。
そのため,離婚する意思がない場合には,離婚届を出されないようにするために,速やかに離婚届の不受理申出書を役所に提出しておくべきです。
【離婚】離婚届の不受理申出制度
1 事例
先日,夫とケンカをしてしまい,勢いで離婚届にサインをしてしまいました。
あとで冷静になって考えてみると,やはり離婚はしたくありません。
夫は離婚届をまだ役所に出していないようですが,どうしたらいいでしょうか。
2 不受理申出をします。
協議離婚の有効要件として,①法律婚を解消しようとする意思(離婚意思)の合致,②離婚の届出が要求されております。
離婚意思は届出の時点に存在することが必要であるため,離婚届を書いた後で離婚意思がなくなった場合には,届出の時点で離婚意思を欠いていることになりますから,離婚は無効となります。
しかし,離婚意思を欠いていたとしても,離婚届が役所に提出されてしまうと,離婚届は受理され,戸籍に離婚した旨記載されてしまいます。
戸籍から離婚の記載を抹消するためには,離婚無効確認の判決又は審判が必要となります。
これは大変な労力が必要となりますし,そもそも離婚無効が認められるかどうかも分かりませんので,届出がなされる前に対応することが必要となります。
このような場合に利用できる制度として,不受理申出制度があります。
本籍地又は住所地の市区町村役場に離婚届の不受理申出書を提出しておけば,相手が離婚届を提出しようとしても,離婚届は受理されません。
なお,従前は不受理届の有効期間が6カ月となっていましたが,現在では期間制限がありませんので,一度,不受理届を出しておけば,取り下げない限り離婚届が受理されることはありません。
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