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【離婚】財産分与と未払婚姻費用(過去の婚姻費用)
夫婦の別居後,夫婦の一方が婚姻費用を分担していなかった場合,財産分与の中で,過去の未払婚姻費用の清算をすることはできるのでしょうか。
1 過去の婚姻費用分担請求
婚姻費用分担請求は,過去にさかのぼってすることができるとされております。
いつの時点から請求できるのかということについては,要扶養状態になった時から認められることもありますが,原則は,請求時(調停,審判の申立時。申立より前に請求していたことが内容証明郵便等で証明できるのであれば,その時)からです。
そのため,婚姻費用分担請求をしたい場合には,別居後,直ぐに請求すべきです。
また,離婚調停や離婚訴訟が行われている最中であっても婚姻費用分担請求調停や審判の申立をすることができますので,離婚が成立するまでの間の婚姻費用を支払わせたい場合には,速やかに婚姻費用分担請求調停や審判の申立てをすべきです。
なお,離婚後に婚姻費用分担請求ができるかどうかについては,必ずしもできないわけではないでしょうが,通常,請求できるのは,請求時から離婚時までの婚姻費用であることからすれば,離婚後に婚姻費用分担請求しても難しい場合が多いのではないでしょうか。
2 財産分与において,未払婚姻費用の清算をすることができるのか
義務者が婚姻費用を支払わない場合,婚姻費用分担について執行受諾文言付きの公正証書,調停調書,審判書があれば,強制執行することができますので,未払婚姻費用を財産分与で清算する必要はありません。
これに対し,婚姻費用分担請求の調停成立前や審判前に離婚する場合や離婚した場合には,財産分与の中で未払婚姻費用の清算ができるか問題となります。
財産分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して定められますので(民法768条3項),当事者双方が過去に婚姻費用をどのように分担していたかも,事情の一つとして考慮されます。
判例でも,当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付も含めて財産分与の額及び方法を定めることができるとされております。
そのため,配偶者の一方が過去に婚姻費用を支払わなかった場合には,その点についても考慮して財産分与額が定められることになります。
もっとも,未払婚姻費用が財産分与において考慮されるとしても,いつの時点の分から考慮されるのか,または,算定表どおりの金額が認められるのか問題となります。
必ずしも未払婚姻費用全額が財産分与額に上乗せされるわけではありません。
そのため,婚姻費用を支払わせたい場合には,離婚前に婚姻費用分担請求調停や審判で解決しておいたほうが良いでしょう。
【離婚】親権と監護権の分離
離婚の法律相談の際,相談者の方から,「親権を相手に渡しても良いが,監護権は自分が取りたい。」あるいは「監護権は相手に渡しても良いが,親権は自分が取りたい。」と言われることがありますが,親権と監護権を分けるということはどういうことでしょうか。 親権と監護権の分離について説明します。
一 親権と監護権
1 親権
親権とは,親が未成年の子に対して有する身分上,財産上の監督,保護を内容とする権利,義務のことです。また,親権を有する者を親権者といいます。
親権の具体的な内容としては,身上監護権(民法820条から823条)と財産管理権(民法824条)があります。
父母の婚姻中は,父母が共同で親権を行使するのが原則ですが(民法818条3項),離婚する場合には,父母の一方が親権者となります(民法819条)。
2 監護権
監護権とは,未成年子の子を監督,保護する権利,義務のことです。また,監護権を有する者を監護者といいます。
父母が離婚をする場合,婚姻を取り消す場合,父が子を認知する場合に,父母は,子を監護すべき者(監護者)を協議で定めることができますし,協議が成立しない場合や協議ができない場合には,家庭裁判所が監護者を定めることができます(民法766条,民法771条,民法749条,民法788条)。監護者を指定するにあたっては,子の利益を最も優先して考慮しなければなりません(民法766条1項)。
また,父母が婚姻中の場合でも,別居しているときに,民法766条を類推適用して,監護者を指定することができると解されております。
監護者は,父母のいずれかがなることが通常ですが,父母に子を監護させることが適切でなく,父母以外の第三者が子を監護している場合には,その第三者を監護者と指定することもできると解されております。
3 親権と監護権の関係
親権の具体的内容として身上監護権があるため,親権者が子を監護するのが原則であり,親権者とは別に監護者を指定する必要は通常ありません。
もっとも,親権から監護権を分離して,親権者とは別に監護者を定めることはできます。
ただし,監護者を指定するにあたっては子の利益を最も優先して考慮しなければならないところ(民法766条1項),子を監護する者が親権者でない場合には,子を代理して財産管理を行うことができない等,子の監護に支障が生じるおそれがあるため,親権と監護権を分離することは,例外的であるといえます。
二 監護者を指定する場合
父母は協議により監護者を定めることができますが,協議が成立しない場合や協議ができない場合には,家庭裁判所に,監護者指定の調停を申し立て,調停で監護者を定めるか,審判で監護者を指定してもらうことになります。
監護者を指定する場合としては,以下のような場合があります。
1 別居している夫婦の間で,監護者を指定する場合
父母が婚姻中の場合でも,別居しているときに,父母のどちらが子を監護するかはっきりさせるために,民法766条を類推適用して,監護者を指定することができます。
婚姻中,夫婦は共同で親権を行使することになるため,双方が子を監護することになりりますが,別居した場合には,夫婦間で,子の引き渡しを求めて争いになることがあります。
そのため,別居中,夫婦のどちらが子を監護するかはっきりさせるため,監護者の指定をすることがあります。
2 離婚に際して,親権者とは別に監護者を指定する場合
離婚の際,どちらが親権者となるか夫婦で争いになり,妥協案として,親権者と監護者を分けることがあります。
しかし,離婚した父母が協力しあうことが難しい場合が多いため,親権者と監護者を分けると子の監護に支障が生じるおそれがあります。
そのため,子の利益の観点からは,親権者と監護権者を分けることは慎重であるべきでしょう。
3 離婚後に監護者を指定する場合
離婚後に親権を有しない親が子を監護している場合,子を監護する親が,自身を監護者に指定することを求めることがあります。
もっとも,親権者と監護者を分けると子の監護に支障が生じるおそれがありますので,親権者の変更で対応したほうが,子の利益に適う場合が多いと考えられます。
そのため,親権者と監護者を分けることは慎重であるべきでしょう。
三 まとめ
以上のとおり,親権と監護権を分離することはできますが,子の利益の観点からすれば,分離するかどうかについては慎重に考えるべきでしょう。
特に,離婚当事者間で争いになっている場合には,協力関係が期待できないので,なかなか分離が認められないのが実際のところです。
配偶者の不貞行為を見つけたらすぐにすべきこと
配偶者の不貞行為を見つけた際には,誰しも動揺してしまい冷静な判断ができなくなるのが通常です。そのため,最低限,以下の点については押さえておきましょう。
1 不貞行為を見つけたら,しっかりと証拠に残しておきましょう。
配偶者の不貞行為を見つけた場合には,不貞行為の証拠をとっておくことが必要です。
不貞行為をした配偶者が不貞行為をしたことを認めて謝罪している場合であっても,きちんと証拠をとっておかなければ,後で調停や訴訟となった際に,相手方が不貞行為の事実を否定することがよくあります。
ですから,配偶者が不貞行為を認めているからといって安心せず,不貞行為の証拠を確保しておくことは非常に大切です。
不貞行為の証拠としては,①配偶者が作成した不貞行為を認める旨の書面,②配偶者との会話の録音,③配偶者が不貞相手と交わした手紙やメール,④配偶者と不貞相手が入ったホテルの領収証,⑤配偶者と不貞相手が写っている写真などがあります。
また,不貞相手への慰謝料請求をすることも考え,証拠の中に,不貞相手の氏名や住所,勤務先などが分かるものがないかどうか確認し,なかった場合には,配偶者に確認して証拠に残しておきましょう。
不貞行為の証拠を確保することができた場合には,それをきちんと保管しておくことも大切です。配偶者が不貞行為の証拠を隠したり,捨てたりできないように,あなたが信頼できる親族や依頼した弁護士に預けるなどの対策が必要です。
2 離婚を考えていない場合
不貞行為をした配偶者と離婚するつもりがない場合には,不貞行為の証拠をとっておく必要はないと思われるかもしれません。
また,証拠をとっておくことで,配偶者との関係が悪くなるのではないかと心配されるかもしれません。
しかし,不貞行為の証拠をとっておかないと,不貞行為をした配偶者は,証拠がないのをいいことに,その後も隠れて不貞行為を続けるかもしれません。
また,不貞行為をした配偶者から,あなたに対し,離婚を求めてくるかもしれません。
その場合,不貞行為をした配偶者は,証拠がないのをいいことに,不貞行為の事実を否定し,あなたのせいで婚姻関係が破綻したと主張することがしばしば見られます。相手が不貞行為をしたのに,自分が悪いと責められたのでは非常にやりきれないことでしょう。不貞行為の証拠をとっていれば,相手方に離婚請求を思いとどまらせることができる場合もありますし,離婚請求してきた場合でも,あなたの権利を守ることにつながります。
したがって,離婚を考えていない場合であっても,後々のことを考えて,不貞行為の証拠をとっておくべきでしょう。
3 配偶者の財産の把握
配偶者の不貞行為が発覚した場合,夫婦が別居にいたることがよくありますが,別居すると,配偶者が何をしているのか分からなくなります。
離婚する場合には,慰謝料のほか,財産分与が問題となりますが,配偶者がどのような財産を持っているのか分からなければ,適正な財産分与を受けることができません。
別居後,相手方に財産の開示を求めても,相手方が正直に財産を開示してくれる保証がありませんので,同居期間中に,配偶者がどのような財産を持っているのか,きちんと把握しておくべきでしょう。
4 弁護士への相談
配偶者の不貞行為を見つけた際には,誰しも動揺してしまい冷静な判断ができなくなるのが通常ですが,適切な対応をしておかないときっと後悔することになるでしょう。
後悔しないよう,まずは,弁護士に相談することをお勧めいたします。
【離婚】養育費を請求しない旨の合意(養育費不請求の合意)
離婚する際に,夫婦間で養育費を請求しない旨合意することがあります。
例えば,夫が養育費の支払を拒み,離婚に応じないことから,離婚したい妻が養育費を請求しない旨合意する場合や,夫婦の双方が子の親権を主張しているため,親権がほしい側が,親権を取得するかわりに養育費を請求しない旨合意する場合があります。
しかし,そのような場合でも,離婚後,経済的に苦しくなったときには,子を養育する親は,子を養育しない親に対し,養育費を請求することはできないのでしょうか。
養育費不請求の合意については,以下のような考えがあります。
①子の扶養請求権を放棄する合意は無効
民法881条は「扶養を受ける権利は,処分することができない。」と規定しており,子の扶養請求権は放棄することはできません。
そのため,養育費不請求の合意が子の扶養請求権を放棄するものであると解される場合には,民法881条により,合意は無効であると考えられます。
②子からの扶養料請求
養育費不請求の合意を,父母の間での養育費負担の取決めであるとすれば,合意は有効であると解されますが,合意は,父母の間でなされたものであり,父母の間でのみ効力を有すると解されます。
そのため,合意の効力は子には及びませんので,子は,要扶養状態にあれば,養育費を負担しない親に対し,扶養料の請求ができると考えられます。
その場合でも,養育費不請求の合意があることは考慮されるべき事情となります。
③事情の変更がある場合
養育費不請求の合意があっても,事情の変更があれば,養育費や扶養料の請求ができます。
例えば,合意をした時点では,子を養育する親に十分な経済的能力があり,子の養育に支障がなかったけれども,その後,経済的に苦しくなり,子の養育に支障が生じた場合には,事情の変更があるといえるでしょう。
以上のとおり,養育費不請求の合意があったとしても,養育費や扶養料の請求ができないわけではありません。
請求するにあたっては,合意の相当性,親の経済的能力,子の生活状況,合意後の事情の変更等,具体的な事情を検討する必要があります。
【離婚】有責配偶者からの婚姻費用・養育費の請求
不貞行為をした有責配偶者が別居した後に婚姻費用分担請求をしてきた場合,婚姻費用を分担しなければいけないのでしょうか。
また,離婚して有責配偶者が子を養育することになった場合には,養育費を支払わなければならないのでしょうか。
1 有責配偶者からの婚姻費用分担請求
婚姻関係が破綻している場合であっても,婚姻関係が続いている以上は婚姻費用分担義務がなくなるわけではないと解されています。
もっとも,有責配偶者の婚姻費用分担請求は,権利の濫用にあたるものとして,請求が認められなかったり,減額されたりすることがあります。
どのような場合に権利濫用であると判断されるのかについては,婚姻費用分担額の算定を簡易迅速に行う必要性から,権利者(請求する側)が不貞行為をしたことが証拠上明らかである場合等,権利者に有責性があることが明白である場合に限られると解されております。
義務者(請求される側)が,権利者が勝手に出て行って別居したのだから婚姻費用は支払わないと主張することがありますが,勝手に別居したというだけでは権利の濫用にあたるとはいえませんので,義務者は婚姻費用の分担を免れることはできません。
また,権利者が有責であったとしても,子に責任はありませんから,権利者が子を監護している場合には,子の監護費用相当額については,義務者は支払を免れることはできません。婚姻費用分担額が減免されるのは,有責配偶者の分に限られます。
2 有責配偶者からの養育費請求
養育費は,子の養育のために支払われるものですから,養育費を請求する親が有責配偶者であるかどうかは,養育費の支払義務や額に影響しません。
そのため,権利者が有責配偶者であっても,義務者は養育費を支払う義務を負います。
なお,権利者が有責配偶者である場合,義務者は権利者に対し慰謝料請求をすることができることから,権利者が慰謝料を支払う代わりに,義務者との間で,慰謝料請求権と養育費請求権を相殺することを合意し,養育費の支払を減免することがありますが,子が生活に困窮することがないよう配慮すべきでしょう。
【離婚】婚姻費用(簡易算定方式と簡易算定表)
婚姻費用分担額の算定方法としては,簡易算定方式を用いる方法と簡易算定表を用いる方法があります。
表にあてはめるという分かりやすさから,簡易算定表を用いて婚姻費用分担額を算定することが多いですが,簡易算定表は標準的なケースを想定したものであり,事案によっては簡易算定表がつかえない場合があります。
その場合には,簡易算定方式を基に,婚姻費用分担額を算定することになりますので,簡易算定方式の考え方を理解しておく必要があります。
※算定方式・算定表は改訂されました(令和元年12月23日公表)。基本的な考え方は変わっておりませんが,このページの計算例などは改訂前のものですのでご注意ください。
算定方式・算定表の改訂についてはこちら→https://nagaselaw.com/【離婚】養育費・婚姻費用の算定方式・算定表の/
1 簡易算定方式
(1)簡易算定方式とは
簡易算定方式は,夫婦と子が同居していると仮定して,世帯全体の基礎収入を算定して,それを義務者(婚姻費用分担義務を負う人)の世帯と権利者(婚姻費用分担の請求をする人)の世帯に按分し,権利者世帯按分額と権利者の基礎収入の差額を義務者が分担する額とする方式です。
婚姻費用の分担は,生活保持義務(自分と同程度の生活を保障する義務)に基づくものであるため,義務者は,権利者世帯(権利者及び権利者と同居する子)が自分と同程度の生活ができるように,婚姻費用を分担します。
(2)簡易算定方式での養育費算定の基準
養育費算定の手順は以下のとおりです。
①権利者と義務者の基礎収入(収入のうち生活に充てられる分)を算定します。
給与所得者の場合,基礎収入は,総収入額から公租公課,職業費(被服費,交通費等),特別経費(住居費等)を控除した金額であり,概ね総収入の34%から42%の範囲(高額所得者ほど低い)とされております。
給与所得者の基礎収入=総収入額-公租公課-職業費-特別経費
自営業者の場合,基礎収入は,所得金額から公租公課,特別経費を控除した金額であり,概ね総所得の47%から52%の範囲(高額所得者ほど低い。)とされております。
自営業者の基礎収入=所得金額-公租公課-特別経費
②権利者と義務者の基礎収入の合計額を,権利者世帯と義務者世帯に按分します。
親の生活費の割合(生活費指数)を100,0歳から14歳の子の割合を55,15歳から19歳の子の割合を90として計算します。
権利者世帯の按分額
=(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×権利者世帯の生活費指数÷(義務者世帯の生活費指数+権利者世帯の生活費指数)
③権利者世帯の按分額から権利者の基礎収入額を控除した金額が婚姻費用分担額となります。
婚姻費用分担額=権利者世帯の按分額-権利者の基礎収入
(3)計算式
婚姻費用分担額(月額)
={(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×権利者世帯の生活費指数÷(義務者世帯の生活費指数+権利者世帯の生活費指数)-権利者の基礎収入}÷12
例えば,妻が(年収100万円の給与所得者,基礎収入38万円)が子2人(16歳と10歳)を連れて別居し,夫(年収400万円の給与所得者,基礎収入156万円)に婚姻費用の分担を請求した場合
婚姻費用分担額(月額)
={(156万円+38万円)×(100+90+55)÷(100+100+90+55)-38万円}÷12≒8万3140円
2 簡易算定表
簡易算定表は,標準的なケースについて,簡易算定方式に基づいて算定される婚姻費用を1万円または2万円の幅で表に整理したものです。
簡易算定表には,①夫婦のみ(子がいない場合),②子1人(0~14歳),③子1人(15~19歳),④子2人(第1子及び第2子0~14歳),⑤子2人(第1子15~19歳,第2子0~14歳),⑥子2人(第1子及び第2子15~19歳),⑦子3人(第1子,第2子及び第3子0~14歳),⑧子3人(第1子15~19歳,第2子及び第3子0~14歳),⑨子3人(第1子及び第2子15~19歳,第3子0~14歳),⑩子3人(第1子,第2子及び第3子15~19歳)の10種類があり,権利者が養育している子の人数や年齢があてはまる表を用います。
表の縦軸を義務者の年収(給与所得者の場合0円~2000万円,自営業者の場合0円~1409万円),横軸を権利者の年収(給与所得者の場合0円~1000万円,自営業者の場合0円~710万円)とし,縦軸の義務者の年収が表示されているところから横に延ばした線と,横軸の権利者の年収が表示されているところから縦にのばした線の交わるところの数値が婚姻費用分担額(月額)となります。
年収については,給与所得者の場合は源泉徴収票の「支払金額」であり,自営業者の場合は,確定申告書の「課税される所得金額」(ただし諸々修正されます。)です。
例えば,妻(年収100万円の給与所得者)が子2人(16歳と10歳)を連れて別居し,夫(年収400万円の給与所得者)に婚姻費用の分担を請求した場合,簡易算定表によると,婚姻費用分担額は月額8万円から10万円の範囲となります。
3 簡易算定表がつかえない場合
①簡易算定表は,子が0人から3人までの場合しかありません。
そのため,子が4人以上いる場合には,簡易算定方式により婚姻費用分担額を算定することになります。
②簡易算定表は,権利者のみが子と同居していることが前提となっております。
そのため,義務者も子と同居している場合や,義務者が前妻の子の養育費を負担している等,他に養育,扶養する者がいる場合には,どのように婚姻費用分担額を算定するか問題となります。
③簡易算定表では,給与所得者の場合と自営業者の場合しかありません。
それ以外の場合(年金収入の場合等),婚姻費用分担額をどのように算定するのか問題となります。
④簡易算定表では,収入に上限があります。
義務者の年収が算定表の上限を超える場合,婚姻費用分担額をどのように算定するか問題となります。
⑤簡易算定表では,標準的な生活費を基にしております。
例えば,教育費について,簡易算定表では,子が公立学校に通うことを前提としていますが,子が私立学校に通う等,特別な事情がある場合には,婚姻費用分担額をどのように算定するか問題となります。
また,義務者が権利者が居住する住居の住宅ローンを負担している場合に,婚姻費用分担額をどのように算定するか問題となります。
【離婚】養育費(簡易算定方式と簡易算定表)
養育費の算定方法としては,簡易算定方式を用いる方法と簡易算定表を用いる方法があります。
表にあてはめるという分かりやすさから,簡易算定表を用いて養育費を算定することが多いですが,簡易算定表は標準的なケースを想定したものであり,事案によっては簡易算定表がつかえない場合があります。
その場合には,簡易算定方式を基に,養育費を算定することになりますので,簡易算定方式の考え方を理解しておく必要があります。
※算定方式・算定表は改訂されました(令和元年12月23日公表)。基本的な考え方は変わっておりませんが,このページの計算例などは改訂前のものですのでご注意ください。
算定方式・算定表の改訂についてはこちら→https://nagaselaw.com/【離婚】養育費・婚姻費用の算定方式・算定表の/
1 簡易算定方式
(1)簡易算定方式とは
簡易算定方式は,子が義務者(子を養育していない親)と同居していると仮定した場合に子のために消費される生活費を計算し,これを義務者と権利者(子を養育している親)の収入で按分して義務者が支払うべき養育費を算定する方式です。
養育費の支払は,生活保持義務(自分と同程度の生活を保障する義務)に基づくものであるため,義務者は,子が自分と同程度の生活ができるように,権利者との間で,子の生活費を分担します。
(2)簡易算定方式での養育費算定の基準
養育費算定の手順は以下のとおりです。
①権利者と義務者の基礎収入(収入のうち生活に充てられる分)を算定します。
給与所得者の場合,基礎収入は,総収入額から公租公課,職業費(被服費,交通費等),特別経費(住居費等)を控除した金額であり,概ね総収入の34%から42%の範囲(高額所得者ほど低い)とされております。
給与所得者の基礎収入=総収入額-公租公課-職業費-特別経費
自営業者の場合,基礎収入は,所得金額から公租公課,特別経費を控除した金額であり,概ね総所得の47%から52%の範囲(高額所得者ほど低い。)とされております。
自営業者の基礎収入=所得金額-公租公課-特別経費
②義務者が子と同居していると仮定して,義務者の基礎収入を義務者の生活費と子の生活費に按分します。
親の生活費の割合(生活費指数)を100とすると,0歳から14歳の子の割合を55,15歳から19歳の子の割合を90として計算します。
子の生活費=義務者の基礎収入×子の生活費指数÷義務者と子の生活費指数
③子の生活費を義務者と権利者の基礎収入で按分します。
養育費の額=子の生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
(3)計算式
養育費(月額)
=義務者の基礎収入×子の生活費指数÷義務者と子の生活費指数
×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)÷12
例えば,10歳の子と8歳の子がいる夫婦が離婚し,母(年収100万円の給与所得者,基礎収入38万円)が子2人の親権者となり,父(年収400万円の給与所得者,基礎収入156万円)に養育費を請求した場合
養育費(月額)
=156万円×(55+55)÷(100+55+55)×156万円÷(156万円+38万円)÷12=5万4757円
2 簡易算定表
簡易算定表は,標準的なケースについて,簡易算定方式に基づいて算定される養育費を1万円または2万円の幅で表に整理したものです。
簡易算定表には,①子1人(0~14歳),②子1人(15~19歳),③子2人(第1子及び第2子0~14歳),④子2人(第1子15~19歳,第2子0~14歳),⑤子2人(第1子及び第2子15~19歳),⑥子3人(第1子,第2子及び第3子0~14歳),⑦子3人(第1子15~19歳,第2子及び第3子0~14歳),⑧子3人(第1子及び第2子15~19歳,第3子0~14歳),⑨子3人(第1子,第2子及び第3子15~19歳)の9種類があり,権利者が養育している子の人数や年齢があてはまる表を用います。
表の縦軸を義務者の年収(給与所得者の場合0円~2000万円,自営業者の場合0円~1409万円),横軸を権利者の年収(給与所得者の場合0円~1000万円,自営業者の場合0円~710万円)とし,縦軸の義務者の年収が表示されているところから横に延ばした線と,横軸の権利者の年収が表示されているところから縦にのばした線の交わるところの数値が養育費の金額(月額)となります。
年収については,給与所得者の場合は源泉徴収票の「支払金額」であり,自営業者の場合は,確定申告書の「課税される所得金額」(ただし諸々修正されます。)です。
例えば,10歳の子と8歳の子がいる夫婦が離婚し,母(年収100万円の給与所得者)が子2人を養育し,父(年収400万円の給与所得者)に養育費を請求した場合,簡易算定表によると,養育費は月額4万円から6万円の範囲となります。
3 簡易算定表がつかえない場合
①簡易算定表は,子が1人から3人までの場合しかありません。
そのため,子が4人以上いる場合には,簡易算定方式により養育費を算定することになります。
②簡易算定表は,権利者のみが子を養育していることが前提となっております。
そのため,義務者も子を養育している場合や,義務者が再婚している場合等,他に養育,扶養する者がいる場合には,どのように養育費を算定するか問題となります。
③簡易算定表では,給与所得者の場合と自営業者の場合しかありません。
それ以外の場合(年金収入の場合等),養育費をどのように算定するのか問題となります。
④簡易算定表では,収入に上限があります。
義務者の年収が算定表の上限を超える場合,養育費の額をどのように算定するか問題となります。
⑤簡易算定表では,標準的な生活費を基にしております。
例えば,教育費について,簡易算定表では,子が公立学校に通うことを前提としていますが,子が私立学校に通う等,特別な事情がある場合には,養育費をどのように算定するか問題となります。
【離婚】婚姻の無効,婚姻の取消し
婚姻が成立するには,①婚姻意思の合致,②婚姻の届出,③婚姻障害事由の不存在が要件となりますが,婚姻の成立に瑕疵がある場合には,婚姻は無効となるか,取り消されます。
一 婚姻の無効
1 無効原因
①人違いその他の事由によって当事者間に婚姻する意思がないときや,②当事者が婚姻の届出をしないとき(方式を欠くだけの場合は除きます。)は,婚姻は無効となります(民法742条)。
2 効果
無効な婚姻は,訴訟や審判を経なくても当然に無効であると解されております。ただし,戸籍の訂正には婚姻無効の判決または審判が必要です(戸籍法116条)。
また,当事者のみならず,利害関係のある者は,無効を主張することができます。
3 手続
当然無効であり,訴訟や審判をしなくても婚姻の無効を主張することができますが,戸籍の訂正をするには法的手続をとることが必要です。
婚姻の無効を確認する法的手続としては,①婚姻無効の調停を申し立て,合意に相当する審判をする場合,②婚姻無効の訴えをする場合があります。
二 婚姻の取消し
1 取消事由
婚姻の取消しは,民法の規定がある場合に限定されております(民法743条)。
(1)不適法な婚姻の取消し
①婚姻適齢(民法731条),②重婚の禁止(民法732条),③再婚禁止期間(民法733条),④近親婚の禁止(民法734条),⑤直系姻族間の婚姻の禁止(民法735条),⑥養親子などの間の婚姻の禁止(民法736条)の各規定に違反した場合には,各当事者その他の取消権者は,婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法744条)。
なお,①婚姻適齢違反の場合,③再婚禁止期間違反の場合については,期間の経過等により取消しができなくなることがあります(民法745条,民法746条)。
(2)詐欺または強迫による婚姻の取消し
詐欺または強迫によって婚姻をした者は,婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法747条1項)。
詐欺を発見後または強迫を免れた後3か月を経過した場合や追認したときは取消しができなくなります(民法747条2項)。
2 効果
婚姻の取消しは将来に向かってのみ効力を生じます(民法748条1項)。
婚姻によって財産を得た場合には,利益を返還しなければなりません(民法748条2項,3項)。
3 手続
婚姻を取り消すには,家庭裁判所に婚姻の取消しを請求しなければなりません。
婚姻を取消す法的手続としては,①婚姻の取消しの調停,②婚姻の取消しの訴えがあります。
【離婚】婚姻の要件・効果
離婚は婚姻関係の解消ですが,そもそも婚姻とはどのようなものなのでしょうか。
一 婚姻とは
婚姻とは,結婚すること,夫婦となることです。
民法では,法律上の手続を要求しており,法律婚といいます。
二 婚姻の要件
1 婚姻の意思の合致
婚姻をするには,当事者の婚姻意思の合致が必要です
婚姻意思とは,社会通念上,夫婦関係を形成しようとする意思のことです。
婚姻意思がなかった場合には,婚姻の無効原因となります(民法742条1号)
2 届出
婚姻は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,効力を生じます(民法739条1項)。
届出は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面またはこれらの者からの口頭でしなければなりません(民法739条2項)。
婚姻意思は,届出の時点で存在することが必要であり,届出の時点で婚姻意思を欠くと婚姻は無効となります。
3 その他の要件(婚姻障害事由の不存在)
以下の婚姻障害事由が存在しないことが要件となります。
(1)婚姻適齢
男性は18歳,女性は16歳にならなければ婚姻することができません(民法731条)。
(2)重婚の禁止
配偶者のある者が重ねて婚姻することはできません(民法732条)。
(3)再婚禁止期間
女性は,前婚の解消または取消しの日から6か月を経過した後でなければ再婚することができません(民法733条1項)。
女性が,前婚の解消または取消しの前から懐胎していた場合には,出産の日から前項の規定は適用されません(民法733条2項)。
*最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決は,民法733条1項の規定のうち,100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分について,憲法14条1項,憲法24条2項に違反すると判断しました。この判決を受けて,平成28年6月1日,民法733条を改正する法律が成立し,同月7日に施行されました。改正後は,①女性の再婚禁止期間が前婚の解消又は取消しの日から起算して100日となり(民法733条1項),②女性が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合又は女性が前婚の解消若しくは取消しの後に出産した場合には,再婚禁止期間の規定を適用しないこととなりました(民法733条2項)。
(4)近親婚の禁止
直系血族または三親等内の傍系血族の間(養子と養方の傍系血族の間は除きます。)では,婚姻することはできません(民法734条1項)。
特別養子縁組により養子と実方との親族関係が終了した後も同様です(民法734条2項)。
(5)直系姻族間の婚姻の禁止
直系姻族間では婚姻することはできません。離婚等により姻族関係が終了した後(民法728条)や特別養子縁組により養子と実方との親族関係が終了した後(民法817条の9)であっても同様です(民法735条)。
(6)養親子などの間の婚姻の禁止
養子もしくはその配偶者または養子の直系卑属もしくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では,離縁によって親族関係が終了した後でも婚姻をすることはできません(民法736条)。
(7)未成年者の婚姻についての父母の同意
未成年の子が婚姻するには,父母の同意がなければなりません(民法737条1項)。
父母の一方が同意しないとき,知れないとき,死亡したとき,または意思表示をしないときは,他の一方の同意だけで足ります(民法737条2項)。
三 婚姻の効果
1 同居・協力・扶助義務
夫婦は,同居し,互いに協力し扶助しなければなりません(民法752条)。
2 貞操義務
夫婦は互いに貞操義務を負います。
不貞行為は離婚原因となります(民法770条1項1号)。
3 夫婦財産制
(1)夫婦財産契約
夫婦は,婚姻の届け出前に,財産関係について契約をすることができます。
届け出までに登記をしなければ夫婦の承継人や第三者に対抗することはできません(民法756条)。
(2)法定夫婦財産制
夫婦財産契約がなかった場合,法定夫婦財産制度として以下の規定があります。
①婚姻費用分担義務
夫婦は,資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生じる費用を分担します(民法760条)。
②日常家事債務の連帯責任
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他方は,これによって生じた債務について,第三者に対して責任を負わない旨予告した場合を除き,連帯して責任を負います(民法761条)。
③夫婦間の財産の帰属
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産)となります(民法762条1項)。
夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は,共有に属するものと推定します(民法762条2項)。
4 夫婦間の契約の取消権
夫婦間でした契約は,婚姻中,いつでも夫婦の一方から取り消すことができます。ただし,第三者の権利を害することはできません(民法754条)。
5 相続権
被相続人の配偶者は常に相続人となります(民法890条)。
6 子の嫡出化
婚姻中に生まれた子は嫡出子となります。
また,認知後に婚姻した場合(婚姻準正)や婚姻後に認知した場合(認知準正)も嫡出子となります(民法789条)。
7 夫婦同姓
夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫または妻の氏を称します(民法750条)。
8 姻族関係の発生
配偶者の一方と他方配偶者の血族との関係を姻族といいます。
三親等以内の姻族は親族となります(民法725条3号)。
9 成年擬制
未成年者が婚姻したときは,成年に達したものとみなされます(民法753条)。
10 生命侵害に対する慰謝料
配偶者の生命が侵害された場合,他方の配偶者は慰謝料請求をすることができます(民法711条)。
【離婚】不貞行為の慰謝料額に影響する要素
不貞行為をされた配偶者は,不貞行為をした配偶者とその不貞相手に対して,不法行為に基づいて慰謝料請求をすることができます(民法709条)。
不貞行為の慰謝料額の算定について客観的な基準があるわけではなく,案件ごとに異なります。
基本的には,慰謝料額は,不貞行為の有責性と精神的苦痛の大きさによりますが,以下のような事情が慰謝料額に影響すると考えられています。
1 婚姻関係
(1)婚姻期間の長さ
婚姻期間が長い場合には,慰謝料額が高くなる傾向にあります。
(2)未成熟子の有無
未成熟子がいる場合には,慰謝料額が高くなる傾向にあります。
(3)当事者の資力,性別
婚姻関係破綻による影響は,通常は資力がない妻のほうが大きいため,資力のある夫が不貞行為をした場合には慰謝料額が高くなる傾向があります。
(4)不貞行為前の婚姻生活の状況
夫婦関係が円満であったにもかかわらず,不貞行為があった場合には,有責性や精神的苦痛は大きいといえます。
不貞行為前から夫婦が別居している等,夫婦関係に問題があり,そのことにつき,不貞行為をされた配偶者にも落ち度があった場合には,慰謝料額が低くなる傾向にあります。
2 不貞行為
(1)どちらが主導的な役割を果たしたのか
不貞行為は,不貞行為者両名の共同不法行為であり,不貞行為をされた者は,不貞行為者両名に対し慰謝料全額を請求できることからすれば,どちらが主導したかは不貞行為者間における負担割合の問題になるだけであり,慰謝料額には影響しないのではないかとも思われます。
しかし,一方に対してのみ慰謝料請求した場合には,主導的役割でなかったかどうかが慰謝料額に影響することがあります。
(2)不貞行為の期間,回数
不貞行為の期間が長い程,不貞行為の回数が多い程,不貞行為の有責性や不貞行為をされた配偶者の精神的苦痛が大きくなるので,慰謝料が高くなる傾向にあります。
(3)不貞行為者の関係
不貞行為をした配偶者と不貞相手が同棲している場合や,二人の間に子が生まれた場合には,不貞行為をされた者の精神的苦痛が大きくなり,慰謝料額が高くなると考えられます。
3 婚姻関係が破綻したかどうか
不貞行為により婚姻関係が破綻していない場合であっても,慰謝料請求をすることはできますが,婚姻関係がいまだ破綻しておらず,離婚や別居までに至っていない場合には,精神的苦痛は相対的に小さいと考えられ,慰謝料額が減額される方向に働きます。
4 不貞行為発覚後の当事者の対応
(1)不貞行為者の対応
不貞行為発覚後,不貞行為をした者が,不貞行為を認めて謝罪したのかどうか,不貞関係を解消する等,誠実な対応をしたのかどうかは,慰謝料額に影響します。
(2)不貞行為をされた配偶者の対応
不貞行為をされた配偶者が,怒って,不貞行為者に嫌がらせをした場合には慰謝料額に影響することがあります。
また,嫌がらせ行為が不法行為にあたる場合には,逆に不貞行為者から損害賠償請求されるおそれもあります。
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