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【親子問題】嫡出否認の訴え・調停
嫡出子について父子関係がないことを争う方法として嫡出否認の訴え・調停があります。
嫡出否認制度について令和4年に民法等が改正され、令和6年4月1日に施行されました。
一 嫡出否認の訴え
1 嫡出否認の訴えとは
嫡出子とは婚姻関係にある夫婦から生まれた子のことです。
民法には嫡出推定規定(民法772条)がありますが、嫡出推定される場合でも嫡出否認の訴えにより父子関係を争うことができます。
改正前の民法では、夫が子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認をすることができましたが(旧民法774条、777条)、行使できる人の範囲が狭く、行使期間も短かったことから、令和4年の民法改正(令和6年4月1日施行)により嫡出否認ができる人の範囲が拡大され、父、子、母、前夫は嫡出否認ができるようになりましたし(民法774条)、行使期間も原則として3年に延びました(民法777条)。
なお、改正法は施行後に生まれた子について適用され、施行前に生まれた子については改正前の法が適用されるのが原則です。ただし、施行日である令和6年4月1日より前に生まれた子については、その子や母親は令和6年4月1日から1年間に限り嫡出否認の訴えを提起することができます。
2 父の嫡出否認権
父は嫡出否認をすることができます(民法774条1項)。
父の否認権は子又は親権を行う母に対して行使します(民法775条1項1号)。親権を行う母に対して行使しようとする場合に親権を行う母がいないときは、家庭裁判所は特別代理人を選任します(民法775条2項)。
父が子の嫡出否認の訴えを提起する場合は、子の出生を知ったときから3年以内に提起しなければなりません(民法777条1号)。
父が子の出生前に死亡した場合や出訴期間内に訴えを提起しないで死亡した場合には、子のために相続権を害される者その他父の3親等内の血族は父の死亡の日から1年以内に限り訴えを提起することができます(人事訴訟法41条1項)。また、父が訴え提起後に死亡したときは、子のために相続権を害される者その他夫の3親等内の血族は父の死亡の日から6か月以内に訴訟手続を受け継ぐことができます(人事訴訟法41条2項)。
3 子の嫡出否認権
子は嫡出否認をすることができます(民法774条1項)。
子の否認権は父に対して行使します(民法775条1項2号)
子が嫡出否認の訴えを提起する場合は、出生の時から3年以内に提起しなければなりません(民法777条2号)。
子が出生から3年以内に自ら嫡出否認の訴えを提起することは現実的に困難ですから、子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人が、子のために行使することができます(民法774条2項)。これらの人が子の否認権の出訴期間の満了前6か月以内の間にいないときは、子はこれらの人により否認権行使ができるようになった時から6か月を経過するまでの間は嫡出否認の訴えを提起することができます(民法778条の2第1項)。
また、子は、要件(①父と継続して同居した期間(同居した期間が2回以上あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回ること、②否認権の行使が父による養育の状況に照らして父の利益を著しく害する場合でないこと)を満たす場合には、21歳に達するまで嫡出否認の訴えを提起することができます(民法778条の2第2項)。この規定は、子が自らの判断で嫡出否認権を行使することができるようにするための規定ですから、親権を行う母、親権を行う養親、未成年後見人が子のために嫡出否認権を行使する場合には適用されません(民法778条の2第3項)。
4 母の嫡出否認権
母には固有の嫡出否認権があります(民法774条3項本文)。ただし、否認権行使が子の利益を害することが明らかな場合は否認権を行使することができません(民法774条3項但書)。
母の否認権は父に対して行使します(民法775条1項3号)。
母が子の嫡出否認の訴えを提起する場合は、母が子の出生のときから3年以内に提起しなければなりません(民法777条3号)。
5 前夫の嫡出否認権
女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは出生の直近の婚姻における夫の子と推定されますが(民法772条3項)、嫡出否認されたときは、その前の婚姻における夫の子と推定されます(同条4項)。
民法772条3項により子の父が定められる場合、子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた父以外の者(前夫)は、子の嫡出を否認することができます(民法774条4項本文)。ただし、否認権の行使が子の利益を害することが明らかな場合は否認権を行使することはできません(民法774条4項但書)。
また、前夫が嫡出否認権を行使したことにより新たに子の父となった場合には、子が自らの嫡出であることを否認することはできません(民法774条5項)。
前夫の否認権は父及び子又は親権を行う母に対して行使します(民法775条1項4号)。親権を行う母に対して行使しようとする場合に、親権を行う母がいないときは、家庭裁判所は特別代理人を選任します(民法775条2項)。
前夫が子の嫡出否認の訴えを提起する場合は、前夫が子の出生を知ったときから3年以内に提起しなければなりません(民法777条4号)。
ただし、子が成年に達した後は提起することができません(民法778条の2第4項)。
6 後婚の夫の子と推定される子について嫡出否認された場合
女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは、出生の直近の婚姻の夫の子と推定されますが(民法772条3項)、嫡出否認されたときは、その前の婚姻の夫の子と推定されます(民法772条4項)。
その場合に、新たに子の父と定められた者、子、母、前夫が嫡出否認をするときは、嫡出否認の裁判が確定したことを知った時から1年以内に訴えを提起しなければなりません(民法778条)。
二 嫡出否認の調停
1 調停前置主義
人事訴訟事件については調停前置主義が採用されていますので(家事事件手続法257条1項)、嫡出否認をするには訴訟提起をする前に調停を申し立てなければなりません。
2 合意に相当する審判
嫡出否認は、公益性が強く、当事者の意思だけで解決することはできませんが、当事者に争いがない場合には簡易な手続で処理することが望ましいことから、まず調停手続を行い、当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し、原因事実について争いがない場合には、家庭裁判所は事実の調査をした上で合意が正当と認めるときには合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。
調停不成立の場合や合意に相当する審判による解決ができなかった場合には、嫡出否認の訴えにより解決を図ることになります。
【親子問題】嫡出子
嫡出子について、令和4年の民法改正により嫡出推定、嫡出否認の規定が改正され、令和6年4月1日に施行されました。
一 嫡出子とは
嫡出子とは、婚姻関係にある夫婦から生まれた子のことです。
嫡出子については、嫡出推定規定により嫡出推定される場合に父子関係が認められます。
嫡出推定される場合に父子関係を争う方法として嫡出否認制度があります。
二 嫡出推定規定
改正前の民法では、妻が婚姻中に懐胎した子が夫の子と推定されていました(旧民法772条1項)。また、婚姻成立の日から200日経過後又は婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定されていました(旧民法772条2項)。
そのため、女性が離婚してから300日以内に元夫以外の人との間の子を出産した場合、嫡出推定の規定により、戸籍上は元夫の子として扱われることになってしまうので、女性が子の出生の届出をすることができず、子が無戸籍になってしまうことがありました。
そこで、令和4年民法改正(令和6年4月1日施行)では、離婚等の日から300日以内に生まれた子であっても、その間に母親が再婚したときは、再婚後の夫の子と推定されることになりました。
改正後の民法では、以下のように嫡出推定されます。
①妻が婚姻中に懐胎した子のほか、妻が婚姻前に懐胎し、婚姻成立後に生まれた子も夫の子と推定されます(民法772条1項)。
②婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は婚姻前に懐胎したものと推定され、婚姻成立の日から200日経過後又は婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定されます(民法772条2項)。
③女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは、出生の直近の婚姻における夫の子と推定されます(民法772条3項)。その夫について嫡出否認されたときは、その前の婚姻における夫の子と推定されます(民法772条4項)。
三 嫡出否認制度
嫡出推定される場合、嫡出否認の訴えにより、父子関係を争うことができます。
改正前の民法では、夫は子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認の訴えをすることができましたが(旧民法774条、777条)、母や子が嫡出否認できない、行使期間が短いという問題がありました。
そこで、令和4年の民法改正(令和6年4月1日施行)により、嫡出否認の訴えができる人の範囲が拡大され、父のほか、子、母、前夫が嫡出否認権を行使することができることになりました(民法774条)。
また、行使期間については原則として3年に延ばされ、夫又は前夫は子の出生を知ったときから3年、子又は母は子の出生時から3年になりました(民法777条)。また、子については、一定の要件のもと、21歳に達するまで行使することができるようになりました(民法778条の2第2項)。
改正法は施行後に生まれた子について適用され、施行前に生まれた子については改正前の法が適用されるのが原則ですが、無戸籍者の救済を図るため、施行日である令和6年4月1日より前に生まれた子については、その子や母は令和6年4月1日から1年間に限り嫡出否認の訴えを提起することができます。
四 婚姻成立の日から200日以内に子が出生した場合
改正前の民法では、婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は、嫡出子の推定は受けませんでした。その場合でも、夫婦が嫡出子として届け出たときには、戸籍上は嫡出子として取り扱われましたが(推定されない嫡出子)、戸籍上、嫡出子と扱われても、嫡出推定されませんので、利害関係を有する者は、親子関係不存在確認の訴えにより、父子関係を争うことができました。
改正後は、妻が婚姻前に懐胎し、婚姻成立後に生まれた子は、夫の子と推定されますので(民法772条1項後段)、婚姻成立の日から200日以内に生まれた子も嫡出推定されます。そのため、父子関係を争う場合には、嫡出否認の訴えで争うことになります。
五 嫡出推定が重複する場合
嫡出推定が重複する場合に、父を定めることを求める訴えにより、子の父を定めることができます。
改正前の民法では、再婚禁止期間の規定(旧民法733条1項)に違反して再婚した女性が子を出産したことにより、嫡出推定が重複する場合は、父を定めることを求める訴えにより、父子関係を定めることができるとされていました(旧民法773条)。
改正により、女性の再婚禁止期間の規定が廃止されたため、再婚禁止期間の違反により嫡出推定が重複する事態は生じなくなりました。もっとも、改正後も重婚禁止の規定(民法732条)に違反して婚姻した女性が子を出産したことにより、嫡出推定が重複する場合がありますので、その場合には、父子関係を確定するため、父を定めることを求める訴えをすることができます(民法773条)。
六 推定の及ばない子
形式的には子が嫡出推定される期間に出生した場合であっても、妻が懐胎可能な時期の夫の海外赴任、服役、事実上の離婚等、夫によって懐胎することがあり得ないときは、嫡出の推定が及ばないとされています。
推定が及ばない子について、父子関係を確定するには、夫との間では親子関係不存在確認の訴えをし、血縁上の父との間では認知の手続をとることになります。
令和4年の民法改正では推定の及ばない子についての規定は設けられませんでしたが、改正後も改正前と同様、推定が及ばない事情がある場合には、嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えや認知によって父子関係を確定するものと考えられます。
七 準正嫡出子
婚姻関係にない夫婦から生まれた子は非嫡出子となりますが、認知された後に父母が婚姻した場合(婚姻準正)や父母の婚姻後に認知された場合(認知準正)、その子は嫡出子の身分を取得します(民法789条)。
【親子問題】親子法制の改正(令和4年民法等の改正)
令和4年に嫡出推定、嫡出否認制度、女性の再婚禁止期間、認知、懲戒権等、親子法制について民法等の規定が改正されました。懲戒権の規定の改正については令和4年12月16日に施行され、嫡出推定、嫡出否認制度、女性の再婚禁止期間、認知の規定の改正については令和6年4月1日に施行されました。
一 嫡出推定についての改正
改正前の民法772条では、①妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する(同条1項)、②婚姻成立の日から200日経過後又は婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定するとされていました(同条2項)。
改正前の民法では、離婚等の日から300日以内に元夫以外の人との間の子を出産した場合、嫡出推定の規定から、戸籍上、その子は元夫の子として扱われることになってしまうため、母親が子の出生の届出をすることができず、子が無戸籍になってしまうことがありました。そこで、改正により、離婚等の日から300日以内に生まれた子であっても、その間に母親が再婚したときは再婚後の夫の子と推定されることになりました。
改正後の民法772条では
①妻が婚姻中に懐胎した子、妻が婚姻前に懐胎し、婚姻成立後に生まれた子は、夫の子と推定されます(同条1項)。
②婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は婚姻前に懐胎したものと推定され(同条2項前段)、婚姻成立の日から200日経過後又は婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定されます(同条2項後段)。
③女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは、出生の直近の婚姻における夫の子と推定され(同条3項)、その夫について嫡出否認されたときは、その前の婚姻における夫の子と推定されます(同条4項)。
二 嫡出否認制度についての改正
改正前の民法では、夫は子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認をすることができました(旧民法774条、777条)。
改正前の民法では、嫡出否認は夫だけが行うことができ、母や子が嫡出否認できないという問題がありましたし、嫡出否認権を行使できる期間が短いという問題がありました。
そのため、改正により、嫡出否認ができる人の範囲が拡大され、父のほか、子、母、前夫が嫡出否認をすることができることになりました(民法774条)。
また、嫡出否認権の行使期間は原則として3年に延ばされ、夫又は前夫は子の出生を知ったときから3年、子又は母は子の出生時から3年になりました(民法777条)。子については、一定の要件のもと、21歳に達するまで行使することができるようになりました(民法778条の2第2項)。
さらに、嫡出否認された場合に、子は父であった者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わないとする規定(民法778条の3)、相続開始後に嫡出否認権が行使され新たに子と推定された者が遺産分割請求をしようとする場合、既に遺産分割等の処分がなされていたときは、価額のみによる支払請求権を有するとする規定(民法778条の4)が新設されました。
なお、改正法は施行後に生まれた子について適用され、施行前に生まれた子については改正前の法が適用されるのが原則です。ただし、無戸籍者の救済を図るため、施行日である令和6年4月1日より前に生まれた子については、その子や母親は令和6年4月1日から1年間に限り嫡出否認の訴えを提起することができます。
三 女性の再婚禁止期間の廃止
改正前の民法733条では原則として女性は前婚の解消又は取消しから100日を経過しなければ再婚することができませんでした。女性に再婚禁止期間が設けられていたのは、改正前の民法では離婚後100日以内に再婚できるとすると、前婚の解消から300日以内、後婚から200日経過後に子が出生した場合、前婚の夫と後婚の夫の嫡出推定が重複し、誰が父か定まらなくなってしまうからです。
しかし、改正により離婚後100日以内の再婚を認めても嫡出推定が重複することはありませんので、女性に再婚禁止期間を設ける必要がなくなりました。
そこで、改正により女性の再婚禁止期間は廃止されました。
四 認知についての改正
1 胎児認知についての改正
父は母の承諾を得て胎児を認知することができます(民法783条1項)。
改正法では、女性が婚姻前に懐胎した子が婚姻後に生まれた場合には夫の子と推定されることから(民法772条1項後段)、夫以外の人が胎児認知した場合、どちらの子と扱われるのか問題となります。
そのため、改正法では、胎児認知した子が出生した場合、民法772条の嫡出推定により父が定められるときは、胎児認知の効力は生じないこととされました(民法783条2項)。
2 認知無効についての改正
改正前の民法では、子、その他の利害関係人は認知無効の訴えをすることができましたし、認知無効の訴えの出訴期間に制限がありませんでしたので、嫡出否認の場合と不均衡がありました。
そこで、改正により、認知が事実に反する場合について認知無効の訴えを提起できる者は子、認知をした者(父)、母に限定されました(民法786条1項)。出訴期間は、原則として、認知をした者は認知をした時から、子又は母は認知を知った時から7年間とされました(民法786条1項)。子については、一定の要件のもと、21歳に達するまで訴えを提起することができます(民法786条2項)。
また、認知が無効となった場合、子は認知をした者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わないとする規定(民法786条4項)が新設されました。
五 懲戒権についての改正
改正前の民法822条は懲戒権について規定していましたが、懲戒権の規定は児童虐待の正当化につながりかねませんでした。
そこで、改正により、懲戒権の規定を廃止し、監護教育権が具体化、明確化されました。
【親子問題】親子関係不存在確認の訴え・調停
嫡出子(婚姻関係にある夫婦から生まれた子)について,DNA鑑定等で父子関係がないことが明らかになった場合,父子関係がないことを争うにはどうすればよいでしょうか。
推定される嫡出子の場合には嫡出否認の訴えや調停がありますが,推定されない嫡出子や推定の及ばない子の場合には親子関係不存在確認の訴えや調停があります。
一 親子関係不存在確認の訴え
1 親子関係不存在確認の訴えとは
親子関係不存在確認の訴えとは,法律上の親子関係が存在しないことについて争いがある場合に,その確認を求める訴えのことです。
法律上の実親子関係の存否を争う方法として,①推定を受ける嫡出子について父子関係が存在しないことを争う場合は,嫡出否認の訴え,②嫡出推定が重複する場合は,父を定めることを目的とする訴え,③非嫡出子について父子関係が存在することを争う場合は,認知の訴え,④非嫡出子について父子関係が存在しないことを争う場合は,認知無効の訴えや認知取消しの訴えがありますが,⑤それ以外の場合については,実親子関係の存否の確認の訴え(親子関係存在確認の訴え,親子関係不存在確認の訴え)があります。
2 親子関係不存在確認の訴えができる場合
(1)推定されない嫡出子
婚姻成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定され,夫の子と推定されます(民法772条)。
嫡出が推定される場合には,子の身分関係の法的安定性を保持する必要性があるため,実親子関係が存在しないことを争うには嫡出否認の訴えによらなければならず,親子関係不存在確認の訴えをすることはできないと解されています。
これに対し,婚姻成立の日から200日以内,婚姻の解消・取消しの日から300日経過後に出生した子については,嫡出推定されませんので,父子関係を争うため,親子関係不存在確認の訴えを提起することができます。
なお,婚姻の解消・取消し後300日以内に子が出生した場合であっても,医師が作成した「懐胎時期に関する証明書」で,推定される懐胎時期の最も早い日が婚姻の解消・取消しの日より後の日であれば,婚姻の解消・取消し後に懐胎したものと認められ,民法772条の推定が及ばなくなります。その場合,懐胎時期に関する証明書を添付して母の非嫡出子または後婚の夫の嫡出子とする届出ができます。
(2)推定の及ばない子
民法772条2項の期間内に子が出生した場合であっても,妻が子を懐胎した時期に既に夫婦が事実上の離婚をした等の事情があり,妻が夫の子を懐胎し得ないことが外観上明白なときは,推定が及びませんので,嫡出否認の訴えではなく,親子関係不存在確認の訴えにより父子関係を争うことができます。
(3)他人夫婦の嫡出子として届け出た場合
他人夫婦の嫡出子として届け出た場合,子と戸籍上の父母との親子関係が存在しないことを争うため,親子関係不存在確認の訴えを提起することができます。
3 当事者
嫡出否認の訴えは基本的に夫しかできませんが(民法774条),親子関係不存在確認の訴えは,夫だけでなく,子や妻,その他の第三者も提起できます。
4 出訴期間
嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知ったときから1年以内に提起しなければなりませんが(民法777条),親子関係不存在確認の訴えには出訴期間の制限がありません。
ただし,子が生まれてから長期間経過後に訴え提起された場合には権利の濫用と判断される可能性があります。
5 認容判決が確定した場合の効果
親子関係不存在確認の訴えの認容判決が確定した場合には,親子関係が存在しないことが確定します。
戸籍の訂正が必要な場合には,判決確定の日から1か月以内に戸籍の訂正の申請をします(戸籍法116条1項)。
6 生物学上の父子関係はないが,嫡出の推定を受ける場合
民法772条の期間内に子が出生した場合であっても,DNA鑑定等により生物学上の父子関係がないことが判明したときには嫡出推定が及ばないものとして,親子関係不存在確認の訴えができないかという問題があります。
この点について,最高裁判所平成26年7月17日判決があります。この判決では,
①夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えにより争うことはできない
②民法772条,774条から778条の規定は,法律上の父子関係と生物学上の父子関係の不一致が生じることを容認している
③民法772条2項の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦関係が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たり,親子関係不存在確認の訴えにより父子関係の存否を争うことができるが,本件ではそのような事情がないので,親子関係不存在確認の訴えは不適法であると判断されました。
また,これとは別に同日出された判決でも,「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,子が夫の下で監護されておらず,妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情」がある場合について,同様の判断がなされました。
そのため,民法772条の期間内に子が出生した場合,DNA鑑定等により生物学上の父子関係が存在しなかったとしても,それだけでは嫡出の推定が及ばなくなるわけではありませんので,父子関係が存在しないことを争うには,嫡出否認の訴えによらなければならず,親子関係不存在確認の訴えを提起することはできません。
二 親子関係不存在確認調停
1 調停前置主義
人事訴訟事件については調停前置主義が採用されているため(家事事件手続法257条1項),親子関係不存在確認の訴えを提起する前に調停を申し立てなければなりません。
2 合意に相当する審判
親子関係不存在確認調停事件については,公益性が強く,当事者の意思だけで解決することはできませんが,当事者に争いがない場合には,簡易な手続で処理することが望ましいといえます。
そのため,まず調停手続を行い,当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し,原因事実について争いがない場合には,家庭裁判所は,事実の調査をした上,合意が正当と認めるときに,合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。
調停不成立の場合や,合意に相当する審判による解決ができなかった場合には,親子関係不存在確認の訴えを提起して,解決を図ることができます。
【親子問題】父を定めることを目的とする訴え・調停
母が再婚後に子を産んだ場合,嫡出の推定が重複し,前婚の夫と後婚の夫のいずれもその子の父と推定されることがあります。
そのような場合にどちらが父であるか定める手続として,父を定めることを目的とする訴えや調停があります。
一 父を定めることを目的とする訴え
1 父を定めることを目的とする訴えとは
父を定めることを目的とする訴えとは,民法733条1項の規定(再婚禁止期間の規定)に違反して再婚した女性が出産したため,民法772条の規定により嫡出の推定を重複して受ける子について,父を定めることを求める訴えです(民法773条)。
婚姻成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は,妻が婚姻中に懐胎したものと推定され,夫の子と推定されます(民法772条)。
妻が再婚した場合,再婚禁止期間(民法733条)があるため,前婚の夫と後婚の夫とで嫡出の推定が重複することは基本的にありませんが,婚姻届が誤って受理される等して嫡出の推定が重複することがあります。
そのような場合に,前婚の夫と後婚の夫のどちらが子の父であるか定めるため,家庭裁判所に父を定めることを目的とする訴えを提起することができます。
2 当事者
(1)原告
子,母,母の配偶者または母の前配偶者が原告となります(人事訴訟法43条1項)。
(2)被告
①子または母が原告の場合,母の配偶者と母の前配偶者が共同被告(一方が死亡した後は他方のみが被告)となります(人事訴訟法43条2項1号)。
②母の配偶者が原告の場合,母の前配偶者が被告となります(人事訴訟法43条2項2号)。
③母の前配偶者が原告の場合,母の配偶者が被告となります(人事訴訟法43条2項3号)。
なお,被告となる人が死亡した時は検察官が被告となります(人事訴訟法43条2項)。
二 父を定めることを目的とする調停
1 調停前置主義
人事訴訟事件については調停前置主義が採用されているため(家事事件手続法257条1項),父を定めることを目的とする訴えを提起する前に調停を申し立てなければなりません。
2 合意に相当する審判
父を定めることを目的とする調停事件については,公益性が強く,当事者の意思だけで解決することはできませんが,当事者に争いがない場合には,簡易な手続で処理することが望ましいといえます。
そのため,まず調停手続を行い,当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し,原因事実について争いがない場合には,家庭裁判所は,事実の調査をした上,合意が正当と認めるときに,合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。
調停不成立の場合や,合意に相当する審判による解決ができなかった場合には,父を定めることを目的とする訴えを提起して,解決を図ることができます。
【相続・遺言】養子縁組と相続
養子がいる場合,相続手続はどうなるでしょうか。
一 養子縁組
養子縁組とは,親子としての血のつながりのない者の間で嫡出子と同一の法律関係を発生させる法律行為です。
養子縁組には,普通養子縁組と特別養子縁組があります。特別養子縁組は,子の利益を図るための養子縁組であり,実親やその血族との親族関係が終了する養子縁組です。普通養子縁組は,特別養子縁組以外の一般の養子縁組のことです。
養子縁組により,養子は養親の嫡出子の身分を取得しますし(民法809条),養子と養親及びその血族との間には,血族間におけるのと同一の親族関係を生じますので(民法727条),相続目的で養子縁組が行われることがあります。
民法上,養子の人数について制限はありませんが,相続税の場合では,養子縁組を利用することで不当に税額を低くすることができないようにするため,基礎控除額の計算で養子の人数を制限する等されています。
二 養子縁組による相続への影響
1 養方の相続
養子縁組により,養子は養親の嫡出子の身分を取得しますし(民法809条),養子と養親及びその血族との間には,血族間におけるのと同一の親族関係を生じます(民法727条)。
被相続人の配偶者以外の親族は①子,②直系尊属,③兄弟姉妹の順で相続人となりますので(民法887条,889条),養子縁組をした場合,①養親の相続では,養子は被相続人の子として相続人になりますし,②養子が亡くなり,直系尊属が相続人となるときは,養親が相続人になりますし,③養親の他の子がなくなり,兄弟姉妹が相続人となるときは,養子は兄弟姉妹として相続人になります。
2 代襲相続
相続開始以前に相続人の子が死亡していた場合には,その子(被相続人の孫)が代襲相続人となりますので(民法887条2項),養親の親が被相続人となる相続において,相続開始前に養親が亡くなっていた場合には養子が代襲相続人となります。
また,養子の子が代襲相続人となれるかどうかについては,代襲相続人は被相続人の直系卑属でなければなりませんので(民法887条2項但書),養子縁組前に生まれた養子の子(養子の連れ子)は代襲相続人にはなれませんが,養子縁組後に生まれた養子の子は代襲相続人になれます。
3 実方の相続
(1)普通養子縁組の場合
普通養子縁組の場合は,養子と実方の父母やその血族との親族関係がなくなるわけではありませんので,養子と実方親族との間で相続関係が生じることがあります。
(2)特別養子縁組の場合
特別養子縁組の場合には,養子と実方の父母やその血族との親族関係は終了しますので(民法817条の9本文),養子と実方親族の間で相続関係は生じません。
三 相続人の資格の重複
養子縁組をした場合には,相続人の資格が重複することがあります。
相続人の資格が重複する場合,双方の相続分を取得することができるのか問題となりますが,相続人の資格が重複するパターンは様々あり,それぞれのパターンで見解が分かれています。
1 養子にした孫が代襲相続人となった場合
被相続人が孫を養子とした後,被相続人より先に養子の実親である被相続人の子が亡くなった場合,孫には養子としての相続人の資格と代襲相続人としての資格が重複することになります。
その場合に養子(孫)が双方の相続分を取得するかについては,肯定する見解と否定する見解がありますが,登記先例では,双方の相続分を取得すると解されております。
例えば,長男,長女がいる被相続人が長男の子(孫)を養子とした場合,長男が生きているうちに相続が開始すれば,長男,長女,養子(孫)の相続分は3分の1ずつとなりますが,被相続人より先に長男が亡くなったときには,孫は,養子としての相続分3分の1と,代襲相続人としての相続分3分の1を取得することになります。
2 養子が養親の実子と婚姻した場合
養子が養親の実子と婚姻した後,その実子が亡くなり,兄弟姉妹が相続人となる場合,養子には,配偶者としての相続人の資格と兄弟姉妹としての相続人の資格が重複することになります。
その場合に養子が双方の相続分を取得するかについては,肯定する見解と否定する見解がありますが,登記先例では,配偶者としての相続分の取得のみが認められ,兄弟姉妹としての相続分の資格は認められておりません。
3 婚外子を養子とした場合
被相続人が婚外子を養子とした場合,養子縁組により婚外子が嫡出子になったものであり(民法809条),相続人の資格が重複するわけではありません。
【親子問題】普通養子縁組の離縁
一 離縁とは
離縁とは,養子縁組を解消することです。
普通養子縁組の離縁と特別養子縁組の離縁とでは,離縁ができる場合や手続が異なります。
特別養子縁組の離縁については,特別養子縁組のページで説明しますので,以下は,普通養子縁組の離縁について説明します。
二 離縁の手続
1 協議離縁
(1)協議による離縁
養子縁組の当事者は,協議で離縁をすることができます(民法811条1項)。
(2)養子が15歳未満のとき
養子が15歳未満のときは,離縁は,養親と養子の離縁後に法定代理人となるべき者との協議で行います(民法811条2項)。
養子の父母が離婚しているときは,協議または家庭裁判所の審判で,離縁後に親権者となるべき者を定めます(民法811条3項,4項)。
また,法定代理人となるべき者がいないときは,家庭裁判所は離縁後に未成年後見にとなるべき者を選任します(民法811条5項)。
(3)夫婦である養親と未成年者との離縁
養親が夫婦である場合,未成年者と離縁するには,夫婦が共に離縁しなければなりません(民法811条の2本文)。
ただし,夫婦の一方が意思表示をすることができない場合を除きます(民法811条2の但書)。
(4)離縁の届出
離縁は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,効力を生じます(民法812条で準用する民法739条1項)。
また,届出は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面またはこれらの者からの口頭でしなければなりません(民法812条で準用する民法739条2項)。
離縁の届出は,法令の規定に違反しないことが認められなければ受理されませんが(民法813条1項),違反して受理された場合であっても,離縁の効力は妨げられません(民法813条2項)。
2 調停離縁・審判離縁
離縁事件は人事訴訟の対象ですが(人事訴訟法2条3号),調停前置主義の適用があるため(家事事件手続法257条1項),訴訟提起をする前に,離縁を求める調停を申し立てます。
離縁をする旨の調停が成立した場合,調停に代わる審判が確定した場合により,離縁の効力が生じます。
調停成立または調停に代わる審判確定後,離縁の届出をします(戸籍法73条1項,63条)。
3 裁判離縁
(1)離縁原因
離縁の訴えをするにあたっては,以下の離縁事由がなければなりません(民法814条1項)。
①他の一方から悪意で遺棄されたとき(民法814条1項1号)
②他の一方の生死が3年以上明らかでないとき(民法814条1項2号)
③その他縁組みを継続し難い重大な事由があるとき(民法814条1項3号)
なお,①②の事由がある場合であっても,裁判所は,一切の事情を考慮して養子縁組の継続を相当と認めるときは,請求を棄却することができます(民法814条2項,民法770条2項)。
(2)有責当事者からの離縁請求
また,有責当事者からの離縁の請求は,原則として認められないと解されております。
(3)養親が15歳未満である場合の離縁の訴えの当事者
養子が15歳に達しない間は,養親と離縁の協議をすることができる者が,離縁の訴えの当事者となります(民法815条)。
(4)夫婦共同縁組の場合
養親が夫婦である場合,未成年者と離縁するには,夫婦が共に離縁しなければならないため(民法811条の2本文),必要的共同訴訟となります。
(5)訴えの終了
離縁の訴えは,判決によって終了するほか,訴訟上の和解,請求の放棄・認諾もできます(人事訴訟法44条,37条1項)。
三 死後離縁
養子縁組の当事者の一方が死亡した後に,生存当事者が離縁をするには,家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法811条6項)。
離縁を許可する審判が確定した後,離縁の届出をすることにより(戸籍法72条),離縁の効力が生じます。
四 離縁による慰謝料請求
相手方が有責である場合には,離縁の請求のほかに,慰謝料請求をすることが考えられます。
五 離縁の効果
1 離縁による親族関係の終了
養子とその配偶者,養子の直系卑属とその配偶者と養親及びその血族との親族関係は離縁により終了します(民法729条)。
ただし,離縁後も婚姻障害は続きます(民法736条)。
2 離縁による復氏
養子は,離縁により縁組前の氏に復します(民法816条1項本文)。
ただし,配偶者とともに養子をした養親の一方とのみ離縁した場合は除きます(民法816条1項但書)。
縁組の日から7年を経過した後に縁組前の氏に復した者は,離縁の日から3か月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離縁の際に称していた氏を称することができます(民法816条2項)。
3 祭祀供用物の承継
養子縁組によって氏を改めた者が祭祀供用物を承継した後,離縁をした場合には,当事者その他の関係人の協議で,その権利を承継すべき者を定めなければなりません(民法817条で準用する民法769条1項)。
協議が調わないとき,または協議ができないときは,家庭裁判所が定めます(民法817条で準用する民法769条2項)。
【親子問題】特別養子縁組
一 特別養子縁組とは
特別養子縁組とは,子の利益を図るための養子縁組であり,養子となる者と実父母やその血族との親族関係が終了する養子縁組です。
二 特別養子縁組の成立
1 家庭裁判所の審判
特別養子縁組は,以下の要件があるとき,養親となる者の請求により,家庭裁判所の審判により成立します(民法817条の2第1項)。
2 要件
(1)夫婦共同縁組
養親となる者は,配偶者のある者でなければならず(民法817条の3第1項),夫婦の一方は他方が養親とならないときは,養親となることができません(民法817条の3第2項本文)。
ただし,夫婦の一方が他方の嫡出子(特別養子以外の養子は除く。)の養親となる場合を除きます(民法817条の3第2項但書)。
(2)養親の年齢
25歳に達しない者は養親となることができません(民法817条の4本文)。
ただし,養親となる夫婦の一方が25歳に達していなくても,その者が20歳に達していれば養親になることはできます(民法817条の4但書)。
(3)養子の年齢
特別養子縁組の請求時に6歳に達している者は養子となることができません(民法817条の5本文)。
ただし,その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合には養子となることができます(民法817条の5但書)。
(4)父母の同意
特別養子縁組の成立には,養子となる者の父母の同意がなければなりません(民法817条の6本文)。
ただし,①父母が意思を表示することができない場合,②父母による虐待,悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は,同意は不要です(民法817条の6但書)。
(5)子の利益のための特別の必要性
父母による養子となる者の監護が著しく困難または不適当であることその他特別の事情がある場合に,子の利益のため特に必要があると認められなければなりません(民法817条の7)。
(6)試験養育期間
特別養子縁組の成立には,養親となる者が養子となる者を6か月以上の期間監護した状況を考慮しなければなりません(民法817条の8第1項)。
この期間は,特別養子縁組の請求前の監護の状況が明らかである場合を除き,請求時から起算します(民法817条の8第2項。
三 特別養子縁組の効果
特別養子縁組が成立すると,養方との関係では,普通養子縁組の場合と同様,養子は縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得する(民法809条)等の効果が生じます。
これに対し,実方との関係では,普通養子縁組の場合とは異なり,養子と実方の父母及びその血族との親族関係は終了します(民法817条の9本文)。
ただし,夫婦の一方が他方の嫡出子(特別養子以外の養子は除く。)の養親となる場合は,他方とその血族との親族関係は終了しません(民法817条の9但書)。
実方との親族関係が終了するため,養子となった者は,実方の相続をすることはありません。
もっとも,特別養子縁組によって実方との親族関係が終了しても,婚姻障害の規定は適用されます(民法734条,民法735条)。
四 特別養子縁組の離縁
1 離縁ができる場合
①養親による虐待,悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する場合で,かつ,②実父母が相当の監護をすることができる場合において,養子の利益のため特に必要があると認められるとき,家庭裁判所は,養子,実父母,検察官の請求により,離縁の審判をすることができます(民法817条の10第1項)。
それ以外の場合,離縁をすることはできません(民法817条の10第2項)。
2 離縁の効果
離縁の審判の確定により,養子と養親及びその血族との親族関係は終了します(民法729条)。
また,離縁により,実方との親族関係が回復します(民法817条の11)。
【親子問題】普通養子縁組
一 普通養子縁組とは
養子縁組とは,親子としての血のつながりのない者の間で嫡出子と同一の法律関係を発生させる法律行為です。
養子縁組には,普通養子縁組と特別養子縁組があります。
普通養子縁組とは,特別養子縁組以外の一般の養子縁組のことです。
二 普通養子縁組の要件
1 縁組の意思の合致
養子縁組をするには,養親となる者と養子となる者との間の縁組意思の合致が必要です。
縁組の意思とは,養子縁組の法的効果を享受する意思のことです。
扶養や相続を目的とする養子縁組も認められています。
2 届出
養子縁組は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,効力を生じます(民法799条で準用する民法739条1項)。
また,届出は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面またはこれらの者からの口頭でしなければなりません(民法799条で準用する民法739条2項)。
縁組の意思は,届出の時点で存在することが必要であり,届出の時点で縁組の意思を欠くと養子縁組は無効となります。
3 その他の要件
(1)養親の年齢
養親は成年者でなければなりません(民法792条)。
(2)尊属または年長者を養子とすることの禁止
尊属または年長者を養子とすることはできません(民法793条)。
(3)後見人が被後見人を養子とする縁組
後見人が被後見人を養子とする場合には家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法794条)。
(4)配偶者のある者が未成年者を養子とする縁組
配偶者のある者が未成年者を養子とする場合には,配偶者とともに養子縁組しなければなりません(民法795条本文)。
ただし,配偶者の嫡出子を養子とする場合,配偶者が意思表示ができない場合を除きます(民法795条但書)。
(5)配偶者のある者の縁組
配偶者のある者が縁組をする場合には,配偶者の同意を得なければなりません(民法796条本文)。
ただし,配偶者とともに縁組をする場合,配偶者が意思を表示することができない場合は不要です(民法796条但書)。
(6)15歳未満の者を養子とする縁組
養子となる者が15歳未満であるときは,法定代理人が代わって縁組の承諾をすることができますが(民法797条1項。「代諾養子縁組」といいます。),養子となる者の父母で監護すべきものがあるとき,または養子となる者の父母で親権を停止されているものがあるときは,その同意を得なければなりません(民法797条2項)。
(7)未成年者を養子とする縁組
未成年者を養子とする場合には,家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法798条本文)。
ただし,自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は不要です(民法798条但書)。
三 普通養子縁組の効果
1 嫡出子の身分の取得
養子は,縁組の日から,養親の嫡出子の身分を取得します(民法809条)。
2 縁組による親族関係の発生
養子と養親及びその血族との間には,養子縁組の日から,血族間におけるのと同一の親族関係を生じます(民法727条)。
なお,養子縁組前の養子の子(連れ子)と養親との間には親族関係は生じません。
3 実親との関係
普通養子縁組の場合,実親との親子関係は存続します。
そのため,養子は,養親の相続人となるのみならず,実親の相続人にもなります。
4 養子の氏
養子は,養親の氏を称します(民法810条本文)。
ただし,婚姻により氏を改めた者が,婚姻の際に定めた氏を称すべき間は除きます(民法810条但書)。
四 養子縁組の無効
1 無効原因
当事者間に縁組をする意思がないときや,当事者が縁組の届出をしないときは,養子縁組は無効となります(民法802条)。
なお,夫婦共同養子縁組の場合で,夫婦の一方に縁組をする意思がなかったときは,他方の養子縁組も原則として無効となります。
2 手続
無効な養子縁組は,訴訟や審判を経なくても当然に無効であると解されております。
養子縁組の無効を確認する法的手続としては,①養子縁組の無効を求める調停,②養子縁組の無効の訴えがあります。
五 養子縁組の取消し
1 取消事由
民法803条は,「縁組は,次条から第808条までの規定によらなければ,取り消すことができない。」と規定しており,
①養親が未成年者である場合(民法804条)←民法792条違反
②養子が尊属または年長者である場合(民法805条)←民法793条違反
③後見人と被後見人との間の無許可縁組(民法806条)←民法794条違反
④配偶者の同意がなく縁組した場合←民法796条違反
同意が詐欺・強迫による場合(民法806条の2)
⑤子の監護をすべき者の同意がなく縁組した場合←民法797条2項違反
同意が詐欺・強迫による場合(民法806条の3)
⑥養子が未成年者である場合の無許可縁組(民法807条)←民法798条違反
⑦養子縁組が詐欺または強迫によりなされた場合(民法808条)
には,取消権者は,家庭裁判所に養子縁組の取消しを請求することができます。
2 手続
養子縁組を取り消すには,家庭裁判所に養子縁組の取消しを請求しなければなりません。
養子縁組を取消す法的手続としては,①養子縁組の取消しを求める調停,②養子縁組の取消しの訴えがあります。
六 離縁
離縁とは,養子縁組を解消させることです。
離縁の手続や離縁の効果については,別に説明します。
【親子問題】非嫡出子と認知
一 非嫡出子
非嫡出子とは,婚姻関係にない男女の間に生まれた子をいいます。
子の出生によって,非嫡出子と父親の間に,法律上の親子関係が当然に発生するわけではなく,認知により,親子関係が生じます。
また,準正により,嫡出子となります。
二 認知
1 認知とは
子の出生によって,非嫡出子と父親の間に,法律上の親子関係が当然に発生するわけではなく,認知により,親子関係が生じます。
この点,民法779条は,「嫡出でない子は,その父又は母がこれを認知することができる。」と規定しておりますが,母とその非嫡出子との親子関係は,原則として母の認知をまたず,分娩の事実によって当然発生しますので,認知が問題となるのは,父親と子の間です。
2 任意認知
(1)任意認知とは
任意認知とは,父が自由意思により自分の子であることを承認することです。
(2)認知能力
認知をするには,父が未成年者または成年非後見人であっても,法定代理人を要しません(民法780条)。
(3)認知の方式
認知は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって行います(民法781条1項)。
また,認知は遺言によってもできます(民法781条2項)
(4)承諾を要する場合
①成年の子の認知
成年の子は,その承諾がなければ,認知できません(民法782条)。
②胎児の認知
父は胎児の認知をすることができますが,母の承諾を得なければなりません(民法783条1項)。
③死亡した子の認知
死亡した子でも,直系卑属がいる場合には認知ができますが,直系卑属が成年の場合には承諾を得なければなりません(民法783条2項)。
3 強制認知
(1)強制認知とは
強制認知とは,強制的に父子関係を認めさせることをいいます。
(2)認知を求める調停
調停前置主義が適用されるため,訴訟をする前に,子,その直系卑属またはこれらの者の法定代理人(民法787条本文)は,まず家庭裁判所に認知を求める調停を申し立てなければなりません(家事事件手続法257条1項)。
調停で当事者間で合意が成立すれば,家庭裁判所は合意に相当する審判をすることができ(家事事件手続法277条1項),認知の効力が生じます。
(3)認知の訴え
子,その直系卑属またはこれらの者の法定代理人は,家庭裁判所に認知の訴えを提起することができます(民法787条本文,人事訴訟法2条2号)。
認知の訴えは,父が死亡した後でも提起することができますが,父の死亡の日から3年以内に提起しなければなりません(民法787条但書)。
認知の訴えの被告は父ですが,父が死亡している場合には検察官が被告となります(人事訴訟法12条3項)。
4 認知の効果
(1)親子関係の発生(遡及効)
認知により,親子関係が生じます。
認知の効力は子の出生の時にさかのぼって生じます(民法784条本文)。
ただし,第三者が既に取得した権利を害することはできません(民法784条但書)。
(2)親子関係が発生することによって生じる効果
父の認知前は,非嫡出子は母の氏を称し(民法790条2項),母が親権者となりますが,認知後は,子は父の氏を称することができますし(民法791条1項),父が親権者となることもできます(民法819条4項)。
また,父が認知することにより,父は子を扶養する義務を負いますし,父の相続人となることができます。
なお,以前は,非嫡出子の法定相続分は嫡出子の法定相続分の2分の1とすると規定されていましたが(民法900条1項4号但書),違憲判決がでたことにより,その規定は削除されたため,現在では,非嫡出子の法定相続分と嫡出子の法定相続分は同じです。
5 認知の無効
民法786条は「子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる。」と規定しており,生物学上の親子関係がない場合や父の意思に基づかない届け出がなされた場合には,認知の無効の訴えをすることができます(人事訴訟法2条2号)。
なお,調停前置主義が適用されるため,訴訟をする前に,まず家庭裁判所に認知の無効を求める調停を申し立てなければなりません(家事事件手続法257条1項)。調停で当事者間で合意が成立すれば,家庭裁判所は合意に相当する審判をすることができ(家事事件手続法277条1項),認知無効の効力が生じます。
6 認知の取消し
人事訴訟法2条2号は,認知の取消しの訴えを人事訴訟の一つとしております(なお,調停前置主義が適用されるため,訴訟をする前に,まず家庭裁判所に認知の取消しを求める調停を申し立てなければなりません(家事事件手続法257条1項)。)。
取消事由については,条文上規定されていないため,様々な見解がありますが,認知に承諾を要する場合に(民法782条,民法783条)承諾を欠いたときは取り消すことができると解されています(ただし,無効原因になるとする見解もあります。)。
また,認知が詐欺または強迫による場合については,取消事由にあたるとする見解もありますが,民法785条が「認知をした父又は母は,その認知を取り消すことができない。」と規定しているため,認知無効の訴えによるべきであるとする見解が通説です。
三 準正
1 準正とは
準正とは,非嫡出子が父母の婚姻により嫡出子の身分を取得することです。
認知後,婚姻した場合(婚姻準正)と,婚姻後,認知した場合(認知準正)があります。
2 認知準正
父が認知した子は,父母の婚姻によって,嫡出子の身分を取得します(民法789条1項)。
3 認知準正
婚姻中父母が認知した子は,その認知の時から,嫡出子の身分を取得します(民法789条2項)。
条文上,「認知の時から」と規定されておりますが,効果は婚姻時にさかのぼるとする見解が通説です。
4 子が死亡していた場合
婚姻準正,認知準正の規定は,子が死亡していた場合にも準用されます(民法789条3項)。
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