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【相続・遺言】包括遺贈
一 包括遺贈
遺贈とは,遺言によって,遺産の全部または一部を,他者に無償で与えることをいいます。
遺贈には,特定遺贈(特定の財産を遺贈すること)と包括遺贈(遺贈の目的となる財産を特定せず,遺産の全部または一定割合を遺贈すること)があります。
また,包括遺贈には,「○○に全財産を遺贈する。」というように全部を遺贈する場合(全部包括遺贈または単独包括遺贈)と「○○に全財産の○分の○を遺贈する。」というように一定割合を遺贈する場合(一部包括遺贈または割合的包括遺贈)があります。
包括遺贈は,受遺者が相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条),特定遺贈とは効力が異なります。
そのため,遺贈が,特定遺贈と包括遺贈のどちらにあたるのか区別する必要があります。
二 包括遺贈の特徴(特定遺贈との違い)
1 相続人と同一の権利義務を有します。
包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有します(民法990条)。
そのため,包括受遺者は,遺言の効力発生時に,遺言者の一身専属権を除き,一切の権利義務を承継します。
特定遺贈では,受遺者は,被相続人の債務を承継することはありませんが,包括遺贈では,受遺者は被相続人の債務を承継します。
2 遺産分割
一部包括遺贈の場合には,受遺者は他の相続人と遺産を共有する状態になりますので,受遺者と相続人との間で遺産分割を行うことになります。
3 遺贈の承認,放棄
遺贈の承認・放棄についての民法986条,987条の規定の適用はなく,相続の承認,相続放棄の規定が適用されます。
そのため,特定遺贈の場合には,遺言者の死亡後,いつでも放棄することができますが(民法986条1項),包括遺贈の場合には,原則として相続開始を知ったときから3か月以内に放棄しなければなりません(民法915条1項)。
また,包括遺贈の場合には,単純承認のほか,限定承認をすることもできます。
三 包括遺贈と相続の違い
受遺者は,相続人と同一の権利義務を有しますが,相続人と全く同じというわけではありません。
以下のような違いがあります。
1 受遺者となることができる者
相続人は自然人に限られますが,包括受遺者は自然人に限られず,法人も包括受遺者となることができます。
2 遺留分の有無
受遺者には遺留分がありません。
そのため,特定遺贈により包括受遺者の受遺分が侵害されても,包括受遺者は特定受遺者に対し遺留分減殺請求をすることはできません。
3 遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合
遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは遺言の効力はなくなります(民法994条1項)。代襲相続の規定の適用はありません。
4 他の相続人が相続放棄した場合や他の包括受遺者が遺贈の放棄をした場合
相続人が相続放棄をした場合には,その人は初めから相続人でなかったものとみなされるので(民法939条),他の相続人の相続分が増えます。
また,包括受遺者が遺贈の放棄をした場合にも民法939条が適用されるので,相続人の相続分が増えます。
しかし,相続人が相続放棄をしたり,他の受遺者が遺贈を放棄したりしても,包括受遺者の持ち分は増えません。
5 登記
相続人は自分の法定相続分については,登記なくして第三者に対抗することができますが,包括受遺者は,包括遺贈を受けたことを登記しなければ,第三者に対抗することはできません。
また,相続人は,単独申請で登記をすることができますが,包括受遺者は,遺贈義務者(相続人または遺言執行者)と共同申請をしなければなりません。
【相続・遺言】特定遺贈
一 特定遺贈とは
遺贈とは,遺言によって,遺産の全部または一部を,他者に無償で与えることをいいます。
そして,例えば,「○○に○○の土地を遺贈する。」,「○○に○○の預金を遺贈する。」というように,特定の財産を遺贈することを,特定遺贈といいます。
特定遺贈には,特定物を遺贈の目的とする特定物遺贈と不特定物を遺贈の目的とする不特定物遺贈があります。
二 特定遺贈の効果
遺言者が死亡し,遺言の効力が発生したときに(民法985条1項),遺贈の効力が発生し,遺贈された財産について権利が受遺者に移転します(物権的効力)。
受遺者が遺贈により所有権を取得したことを第三者に対抗するためには対抗要件を具備する必要があり,不動産の遺贈の場合には,相続人または遺言執行者(遺贈義務者)が,受遺者と共同で申請して登記をします。
三 遺贈の放棄,承認
特定遺贈の受遺者は,遺贈を受けることも(承認),受けないことも(放棄)できます。
1 遺贈の放棄
受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。遺贈の放棄は,遺言者の死亡時にさかのぼって効力を生じます(民法986条2項)。
放棄によって遺贈が効力を生じないときは,遺言者が遺言に別段の意思表示をした場合を除き,受遺者が受け取るべきであったものは,相続人に帰属します(民法995条)。
2 遺贈の承認または放棄の催告
遺贈義務者その他の利害関係人は,受遺者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に遺贈を承認するか,放棄するか催告することができます。この場合に,受遺者が期間内に遺贈義務者に対し意思表示をしないときは,遺贈を承認したものとみなされます(民法987条)。
3 受遺者の相続人による遺贈の承認または放棄
受遺者が遺贈の承認または放棄をしないで死亡したときは,遺言者が遺言で別段の意思表示をした場合を除き,受遺者の相続人は自己の相続権の範囲内で,遺贈の承認または放棄をすることができます(民法988条)。
4 遺贈の承認,放棄の撤回,取消し
遺贈の承認及び放棄は,撤回することはできませんが(民法989条1項),意思表示に瑕疵があった場合等一定の場合には,取消しができます(民法989条2項,919条2項,3項)。
四 担保の請求
受遺者は,遺贈が弁済期に至らない間や,停止条件付遺贈について条件の成否が未定である間は,遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができます(民法991条)。
五 果実の取得
受遺者は,遺言者が遺言に別段の意思表示をした場合を除き,遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得します(民法992条)。
六 費用の償還請求
遺贈義務者は,遺言者の死亡後に遺贈の目的物について支出した費用の償還を請求することができます(民法993条1項,民法299条)。
果実を収取するために支出した通常の必要費は,果実の価格を超えない限度で,償還請求をすることができます(民法993条2項)。
七 相続財産に属しない権利の遺贈
遺贈の目的である権利が遺言者の死亡時に相続財産に属しなかったときは,遺贈は効力が生じません(民法996条本文)。
ただし,権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず,遺贈の目的とするものと認められる場合には,遺贈義務者は,権利を取得して受遺者に移転する義務を負いますが(民法997条1項),権利を取得できないとき,または,取得に過分の費用を要するときは,遺言者が遺言に別段の意思表示がある場合を除き,遺贈義務者は価額弁償しなければなりません(民法997条2項)。
八 不特定物の遺贈義務者の担保責任
不特定物が遺贈の目的である場合に,受遺者が第三者から追奪を受けたときは,遺贈義務者は,売り主と同じく担保責任を負います(民法998条1項)。
また,物に瑕疵があったときは,遺贈義務者は瑕疵のない物をもってこれに代えなければなりません(民法998条2項)。
九 物上代位
1 遺贈の目的物の滅失,変造,占有の喪失
遺言者が遺贈の目的物の滅失,変造,占有の喪失により第三者に対し償金を請求する権利を有するときは,その権利を遺贈の目的としたものと推定します(民法999条1項)。
2 遺贈の目的物の符合,混和
遺贈の目的物が他の物と符合または混和した場合に,遺言者が合成物または混和物の単独所有者,共有者となったときは,全部の所有権または持ち分を遺贈の目的としたものと推定します(民法999条2項)。
3 債権を遺贈の目的とした場合
債権を遺贈の目的とした場合,遺言者が弁済を受け,受け取った物が相続財産中にあるときは,その物を遺贈の目的としたものと推定します(民法1001条1項)。
金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合,相続財産中に債権額に相当する金銭がないときであっても,その金額を遺贈の目的としたものと推定します(民法1001条2項)。
十 第三者の権利の目的である財産の遺贈
遺贈の目的である物または権利が,遺言者の死亡時に第三者の権利の目的であるときは,遺言者が遺言に反対の意思表示をした場合を除き,受遺者は,遺贈義務者に対し,その権利を消滅させるよう請求することはできません(民法1000条)。
【相続・遺言】遺贈
遺言により,被相続人は自らの意思で誰に財産を承継させるか決めることができます。
そのために,民法は,①相続分の指定(民法902条),②遺産分割方法の指定(民法908条),③遺贈(民法964条)について規定しています。
ここでは,遺贈について簡単に説明させていただきます。
一 遺贈とは
遺贈とは,遺言によって,遺産の全部または一部を,他者に無償で与えることをいいます(ただし,負担付遺贈もできます。)。
遺贈には,包括遺贈(財産の全部または一定割合を遺贈すること)と特定遺贈(特定の財産を遺贈すること)があります(民法964条本文)。
遺贈は,遺言者の遺言による意思表示により効果が生じる単独行為であり,原則として遺言者が死亡したときに効力が生じます(民法985条1項 条件付遺贈,期限付遺贈もできます。)。
遺贈は,遺留分に関する規定に違反することはできませんので(民法964条但書),遺贈が相続人の遺留分を侵害する場合には,受遺者は遺留分権者から遺留分減殺請求を受けます。
二 受遺者
遺贈を受ける人のことを受遺者といいます。
相続人だけでなく,相続人以外の人も受遺者となれます。
また,自然人だけでなく,法人も受遺者となれますし,胎児も受遺者となれます(民法965条,886条)。
もっとも,相続欠格事由がある者は受遺者となることはできません(民法965条,891条)。
また,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは遺言の効力はなくなり(民法994条1項),受遺者が受け取るべきであった財産は,原則として相続人に帰属します(民法995条)。代襲はありませんので,代襲させたい場合には,受遺者が先に死亡したときには,その子に遺贈させる旨の予備的遺言をすることになります。
三 遺贈義務者
遺贈を実行する義務を負う者のことを遺贈義務者といいます。
遺贈義務者は,通常,相続人ですが,遺言執行者がいるときは遺言執行者が相続人の代理人として,遺贈を実行します。
例えば,不動産の登記をする場合には,相続人または遺言執行者が受遺者と共同で申請します。
四 特定遺贈
1 特定遺贈とは
「○○に○○の土地を遺贈する。」,「○○に○○の預貯金を遺贈する。」というように,特定の財産を遺贈することを特定遺贈といいます。
遺言が効力を生ずることにより,遺贈された財産について,受遺者に権利が移転します。
2 遺贈の放棄
受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。遺贈を放棄した場合,受遺者が受け取るべきであった財産は原則として相続人に帰属します(民法995条)。
五 包括遺贈
1 包括遺贈とは
遺産の全部または一定割合を遺贈することを包括遺贈といいます。
「○○に全財産を遺贈する。」というように全部を遺贈する場合(全部包括遺贈または単独包括遺贈)や「○○に全財産の○分の○を遺贈する。」というように一定割合を遺贈する場合(一部包括遺贈または割合的包括遺贈)があります。
2 包括遺贈の特徴
包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条),遺言の効力発生時に,遺言者の一身専属権を除き,一切の権利義務を承継します。
一部包括遺贈の場合には,受遺者は他の相続人と遺産を共有する状態になりますので,受遺者と相続人との間で遺産分割を行うことになります。
また,包括遺贈には,遺贈の承認・放棄についての民法986条,987条の規定の適用はなく,相続の承認,相続放棄の規定が適用されます。
もっとも,包括受遺者は相続人と全く同じというわけではなく,受遺者には遺留分がない,代襲相続の規定の適用がない等,相続とは違いがあります。
【相続・遺言】相続させる旨の遺言
被相続人は,遺言により,自らの意思で遺産を誰に相続させるかを決めることができます。
この点,民法では,相続分の指定(民法902条),遺産分割方法の指定(民法908条),遺贈(民法964条)について規定していますが,実務では,「○○に△△を相続させる」という内容の遺言(いわゆる「相続させる旨の遺言」)を作成することが多いです。
相続させる旨の遺言については,遺贈と遺産分割方法の指定のどちらにあたるのでしょうか。
一 相続させる旨の遺言とは
例えば,「○○に一切の財産を相続させる。」,「○○に土地を相続させる。」といったように,特定の相続人に遺産を相続させる旨記載された遺言のことを,相続させる旨の遺言といいます。
相続させる旨の遺言については,遺贈であるのか(遺言者が遺言により財産を他人に無償で与えること),遺産分割方法の指定であるのか解釈に争いがありましたが,現在では,特段の事情がない限り,分割方法の指定であると解されております。
また,相続させる旨の遺言が遺産分割方法の指定であるとした場合,遺産分割が必要かどうか問題となりますが,相続させる旨の遺言により,受益者は,特段の事情がない限り,遺言者の死亡時に,遺言により指定された財産を相続により承継するため,遺産分割は必要ないと解されております。
二 遺贈との違い
相続させる旨の遺言がなされた場合,遺贈とは以下のような違いがあります。
1 受益者
遺贈の場合,相続人以外でも,受益者(受遺者)となれます。
これに対し,相続させる旨の遺言の場合,受益者は相続人でなければなりません。
2 放棄
相続させる旨の遺言の場合は,相続放棄をしなければなりません。相続放棄の場合は期間制限があります。また,相続放棄をすると相続人の地位がなくなるため,遺言で指定された財産のみを放棄することはできません。
これに対し,遺贈の場合,包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条),相続放棄の規定が適用されますが,特定遺贈の場合,受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。
3 登記手続
遺贈の場合,受贈者と登記義務者である相続人または遺言執行者の共同申請となります。
これに対し,相続させる旨の遺言の場合は,受益相続人が単独で申請することができます。
4 農地の場合
遺贈の場合,所有権の移転には農地法3条の知事の許可が必要となります。
これに対し,相続させる旨の遺言の場合は,許可は必要ありません。
三 受益者が遺言者より先に亡くなった場合
遺贈の場合,遺言者が亡くなる以前に受遺者が死亡したときは,効力が生じません(民法944条1項)。
これに対し,被相続人の子が相続開始以前に亡くなった場合には,その子が代襲して相続人となることから(民法887条2項),相続させる旨の遺言において,遺言者が亡くなる以前に受益相続人が亡くなったときには,受益相続人の代襲相続人が相続するかどうかが問題となりますが,遺言者が,受益相続人の代襲者に相続させる意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り,効力が生じないものと解されております。
そのため,遺言者が,受益相続人が先に亡くなった場合には,その代襲相続人に相続させたいときには,「遺言者より前または遺言者と同時に○○が死亡していた場合には,○○の子(代襲相続人)に□□を相続させる。」旨の予備的遺言を残しておくことが考えられます。
【相続・遺言】相続の対象となる財産(相続財産)
民法896条は「相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし,被相続人の一身に専属したものは,この限りではない。」と規定しております。
そのため,被相続人が相続開始時に属していた権利義務は,被相続人の一身に専属するものを除いて相続人に承継され(包括承継),相続の対象となります。
また,相続財産については,相続人の共有状態になり,遺産分割が必要なものもあれば(遺産共有),相続人が相続開始時に法定相続分に応じて承継し,遺産分割が不要なものもあります(当然分割)。
これから,相続財産について簡単に説明します。
一 相続の対象となる財産(相続財産)
1 遺産分割が必要な財産(遺産共有となるもの)
相続財産のうち,相続人が共有することになる財産については,遺産分割が必要となります。
遺産分割が必要な財産については,以下のような財産があります。
(1)不動産
土地や建物等の不動産は,相続開始後は相続人の共有となり,遺産分割が必要となります。
また,所有権だけではなく,賃借権も遺産分割の対象となります。
(2)現金
現金も遺産分割の対象となります。
そのため,相続開始後,相続人の一人が被相続人の現金を保管していても,遺産分割するまでは,他の相続分は,自己の相続分に相当する現金の引渡しを請求することはできません。
(3)株式
株式は,相続開始後は共同相続人が準共有し,遺産分割が必要であると解されています。
(4)社債
社債については,相続開始後は共同相続人が準共有し,遺産分割が必要であると解されています。
(5)国債
国債については,相続開始後は共同相続人が準共有し,遺産分割が必要であると解されています。
(6)動産
貴金属,美術品,家財道具等の動産についても,相続開始後は相続人が共有し,遺産分割の対象となります。
(7)その他
投資信託については相続財産にあたりますが,遺産分割が必要かどうかは投資信託の内容によります。
ゴルフ会員権については,会員権の形態や会則の内容によっては,相続の対象となり,遺産分割が必要な場合があります。
2 遺産分割が不要な財産(当然分割されるもの)
(1)金銭債権
預貯金債権,貸金債権,損害賠償請求権等の金銭債権については,可分債権であるため,相続開始時に各相続人が相続分に応じて分割して取得します。
そのため,金銭債権については,遺産分割は不要であり,遺産分割審判の対象とはなりません(もっとも,相続人が合意すれば,遺産分割の対象とすることができます。)。
なお,旧郵便局の定額郵便貯金については,預入れから10年が経過するまでは分割払戻ができないため,相続人の共有状態となり遺産分割が必要となります。
*最高裁判所平成28年12月19日大法廷判決は,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となると判断し,判例が変更されました。
(2)債務
債務は,相続開始とともに,各相続人に相続分に応じて,当然に分割されます。
相続人間でこれとは異なる合意をすることができますが,債権者の承諾がない限り,相続人は債務を免れることはできません。
二 相続財産とならないもの
1 一身専属権(民法896条但書)
(1)扶養請求権
養育費請求権や婚姻費用分担請求権等の扶養請求権は,一身専属権であり,相続の対象とはならないと解されております。
ただし,既に請求権の内容が確定し,履行期も到来したものについては,通常の債権同様,相続の対象となると解されております。
(2)生活保護の受給権
生活保護は一身専属権であり,相続の対象とはならないと解されております
(3)ゴルフ会員権
ゴルフ会員権については,会員権の形態や会則の内容によっては,会員の地位は一身専属的であるとして相続の対象とならないことがあります。ただし,ゴルフ会員権が相続の対象とならない場合であっても,預託金返還請求権や滞納年会費支払義務などの債権債務は可分債権・可分債務として相続の対象となります。
2 相続開始時の被相続人の財産とはいえないもの
(1)受取人の固有の権利
①生命保険金
被相続人が保険契約者,被保険者であり,相続人が受取人である生命保険については,受取人である相続人の固有の権利となりますので,相続財産とはなりません。
なお,受取人が被相続人である場合等,生命保険が相続財産となる場合もあります。
②死亡退職金
支給規定から受給権者の固有の権利と解される場合には,相続財産とはなりません。
③遺族給付
遺族年金等,社会保障上,遺族に対してなされる給付は,遺族固有の権利と解され,相続財産とはなりません。
(2)葬儀費用
葬儀費用は,相続開始後に生じる債務ですから,原則として相続の対象とはなりません。
葬儀費用の負担者については,喪主が負担すべきとする見解等,様々な見解があります。
なお,相続人全員が合意すれば,葬儀費用を考慮して遺産分割をすることもできます。
(3)遺産管理費用
遺産である不動産の固定資産税や火災保険料等の費用については,相続開始後に生じるものですから,相続財産にはならず,相続人が相続分に応じて負担することになります。
なお,相続人全員が合意すれば,遺産管理費用を考慮して遺産分割をすることもできます。
(4)遺産収益
遺産から生じた果実及び収益(相続開始後の賃料,利息及び配当金等)は,相続開始後に生じるものですから,相続財産にはなりません。
そのため,相続開始後遺産分割が成立するまでの間に生じた遺産収益は,各相続人が相続分に応じて取得します。
なお,相続人全員が合意すれば,遺産分割の対象とすることもできます。
(5)遺産の代償財産
相続開始後,遺産分割までの間に,遺産を売却した場合の売却代金等,遺産の代償財産については,相続発生後に生じたものですから,相続財産とはなりません。
遺産の代償財産については,各相続人が相続分に応じて取得することになります。
なお,相続人全員の合意があれば,遺産分割の対象とすることはできます。
3 祭祀財産,遺骨
位牌,仏壇,墓等の祭祀財産は,祭祀の主催者に帰属しますので(民法897条),相続の対象とはなりません。
また,遺骨についても,祭祀の主催者に帰属すると解されており,相続の対象とはなりません。
三 まとめ
遺産分割の対象とならない金銭債権や,相続財産とはならない葬儀費用,遺産管理費用,遺産収益についても,相続人が合意すれば遺産分割の中で解決を図ることができるため,遺産分割協議や遺産分割調停をする際には,相続財産にあたるか否か,遺産分割の対象となるか否かについて,あまり意識しないことが多いのではないかと思われます。
しかし,相続人間で合意ができない場合には,相続財産にあたるか否か,遺産分割の対象となるか否かによって,とるべき手続が大きく異なりますので,ご注意ください。
【相続】相続人の範囲
遺産分割は相続人全員で行わなければなりませんので,誰が相続人か調べておかないと後で遺産分割をやり直さなければならなくなってしまうおそれがあります。
そこで,相続人の範囲について簡単に説明します。
一 相続人の範囲
1 配偶者(民法890条)
配偶者は常に相続人になります。
他に相続人がいる場合には,その者と同順位となります。
「配偶者」は法律婚の配偶者であり,内縁配偶者は含まないと解されております。
2 配偶者以外の親族は以下の順位で相続人となります。
第1順位の者がいるときは,その者が,第1順位の者がいないときは第2順位の者が,第1順位の者,第2順位の者のいずれもいないときは第3順位の者が相続人となります。
(1)第1順位 子又はその代襲相続人・再代襲相続人(民法887条)
①子
実子,養子ともに相続人になります。
②代襲相続人(孫)
被相続人の子が,相続開始以前に死亡したとき,民法891条の欠格事由に該当するとき,廃除によって相続権を失ったときは,その者の子が代襲して相続人となります(民法887条2項)。
ただし,被相続人の直系卑属でない者はこの限りではありませんので(民法887条2項但書),養子の連れ子(養子縁組前に生まれた養子の子)は代襲相続人にはなりません。他方,養子縁組後に生まれた養子の子は,被相続人の直系卑属にあたりますので,代襲相続人になることができます。
③再代襲相続人(曾孫)
子の代襲者が,相続の開始以前に死亡したとき,民法891条の欠格事由に該当するとき,廃除によって相続権を失ったときは,その者の子が代襲して相続人となります(民法887条3項)。
(2)第2順位 直系尊属(親等の異なる者の間では近い者)(民法889条1項1号)
直系尊属とは,親,祖父母等のことです。
親等の異なる者の間では,親等の近い者が先になりますので,相続開始時に親がいる場合は親が相続人になりますし,相続開始時に両親のいずれもいなければ祖父母が相続人になります。
(3)第3順位 兄弟姉妹又はその代襲相続人(民法889条1項2号,2項)
①兄弟姉妹
②代襲相続人(甥姪)
民法889条2項は,兄弟姉妹が相続人となる場合に,代襲相続についての民法887条2項を準用しておりますので,兄弟姉妹が,相続開始以前に死亡したとき,民法891条の欠格事由に該当するとき,廃除によって相続権を失ったときは,その者の子(甥姪)が代襲して相続人となります。
なお,再代襲についての民法887条3項の準用規定がないため,兄弟姉妹については再代襲はありません。
二 胎児
権利能力は出生によって発生しますので(民法3条1項),胎児については権利能力がないのが原則ですが,相続については,胎児は既に生まれたものとみなされます(民法886条1項)。
ただし,胎児が死体で生まれたときは民法886条1項は適用されません(民法886条2項)。
三 養子と実親やその血族との関係
1 普通養子縁組の場合
普通養子縁組をしても実方の父母(実親)やその血族との親族関係がなくなるわけではないので,養子は,養親やその血族の相続人となるのみならず,実親やその血族の相続人にもなります。
なお,例えば,長男の子を養子にした場合に長男が相続開始以前になくなったときには,養子が被相続人の子としての身分と長男の代襲相続人としての身分を有する等,親族を養子にした場合には,相続人としての地位を複数有することがあります。
2 特別養子縁組の場合
養子と実親やその血族との間の親族関係は特別養子縁組によって終了し(民法817条の9),養子は実親やその血族の相続人とはならないのが原則です。
四 相続の放棄をした場合
相続を放棄した者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなされます。
また,代襲相続の規定の適用もありませんので,例えば,相続人である子が相続放棄をしても,その子(被相続人の孫)が代襲相続人となるわけではありません。
【遺言】遺言書の検認
一 遺言書の検認とは
遺言書の検認とは、遺言書の保存を確実にして、検認後の偽造や変造を防止する手続であり、審判事件にあたります(家事事件手続法別表第1の103)。
また、手続について、相続人や受遺者等の利害関係人に通知されますので(家事事件手続規則115条)、相続人や受遺者等の利害関係人に対し、遺言書があることを知らせる手続でもあります。
遺言書の検認は遺言が有効か無効かどうかを判断する手続ではないので、遺言書の検認をしても、遺言として有効であると判断されるわけではなく、遺言の効力が争われることがあります。
二 検認が必要な遺言
公正証書遺言以外の遺言書には検認が必要です(民法1004条2項)。
したがって、自筆証書遺言、秘密証書遺言、一般危急時遺言、難船危急時遺言、伝染病隔離者遺言、在船者遺言については、検認が必要です。
公正証書遺言について検認が不要なのは、公証役場で原本が保管されるため、偽造・変造のおそれがないからです。
三 検認の手続
1 申立て
遺言書の保管者は相続の開始を知った後、遅滞なく、家庭裁判所に、遺言書の検認を請求しなければなりません(民法1004条1項)。
また、遺言書の保管者がなく、相続人が遺言書を発見した場合には、遺言書を発見した相続人は、遺言書を発見した後、遅滞なく、遺言書の検認を請求しなければなりません(民法1004条1項)。
管轄裁判所は、相続を開始した地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法209条1項)。相続を開始した地とは、遺言者の最後の住所地です。
なお、検認の申立ては、遺言書の保管者等の義務ですので(民法1004条1項)、家庭裁判所の許可がなければ取り下げることはできません(家事事件手続法212条)。
2 審判手続
(1)期日の通知
申立後、裁判所書記官は、申立人、相続人に対し、検認期日を通知します(家事事件手続規則115条1項)。
(2)検認期日
申立人は、検認期日に、遺言書を持参して提出します。
家庭裁判所は、遺言の方式に関する一切の事実を調査し(家事事件手続規則113条)、裁判所書記官が調書を作成します(家事事件手続法211条、家事事件手続規則114条)
検認終了後、検認済証明書が作成され、遺言書に付されます。
また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いがなければ開封できないため(民法1004条3項)、検認期日に、相続人またはその代理人の立会いのもとで開封されます(なお、相続人等に立会いの機会を与えれば足り、実際に立会いがなくても開封はできます。)。
(3)検認された旨の通知
検認後、裁判所書記官は、検認期日に立ち会わなかった相続人、受遺者その他の利害関係人(家事事件手続規則115条1項の通知を受けた者を除きます。)に、その旨を伝えます(家事事件手続規則115条2項)。
四 過料
遺言書の保管者や遺言を発見した相続人が、遺言書を提出せず、検認の手続を経ないで遺言を執行したとき、封印のある遺言書を家庭裁判所以外で開封したときは、5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。
【相続】葬儀費用は誰が負担するの?
大切な家族が亡くなるのは考えたくないことですから、家族が亡くなったときの葬儀費用を誰が負担するかをあらかじめ話し合っていないケースも少なくないでしょう。また、葬儀は、ご家族が亡くなった直後に行われるものですので、誰が負担するかきちんと話し合わずに行い、後で遺産分割のときに話し合われることもあるかもしれません。葬儀費用は安いものではないので、相続人間で誰が負担するか問題となることがよくあります。
結論からいうと、葬儀費用を誰が負担することになるかについては、民法には規定はありませんし、実務上も定まっておりません。
葬儀費用を誰が負担するかについては、以下のような様々な見解があります。
①相続人が共同で負担するとする見解
相続債務と同じように考え、相続人が法定相続分に応じて負担するという考えです。
②相続財産から負担するとする見解
民法858条の相続財産に関する費用に含まれるとする考えです。
③喪主が負担するとする見解
実質的に葬儀を主催したものが負担するとする考えです。
④慣習や条理により誰が負担するか決めるとする見解
もっとも、相続人全員が合意すれば、葬儀費用を遺産分割において清算することもできます。
そのため,遺産分割協議の際、様々な事情を考慮して誰が葬儀費用を負担するか、相続人みんなが納得できるように話し合いをするのがよいでしょう。
なお、香典がある場合には、葬儀費用の一部にあてます。余りがある場合には、どのように処理するかについても様々な見解があります。
【遺言】息子夫婦にお世話になりました。
自分が亡くなった後に家族が相続で争わないようにしたいとお考えの方が多いでしょう。そのために,日頃から家族みんなが仲良くするように心を砕くことも大切なことですが,あらかじめ争いのもとをなくしておくことも重要です。今回は,遺産分割の際によく争いになる問題と,それを解決しておくにはどうすればよいかをご紹介しますので,参考にしてください。
遺言がなく相続が開始し,相続人間で遺産分割の話し合いになったときに,よく争いになるのは,亡くなった人(被相続人)に対する貢献を相続においてどの程度考慮するかという問題です。子のひとりはよく世話をしてくれるけれど,他の子は顔を見せてくれることもほとんどない,あるいは,子はみんなよく世話をしてくれるけれど,その程度に差があるという状況ですと,将来相続になったときに争いになる可能性がありますが,心当たりはありませんか。
相続人が,生前の被相続人のために尽くしてきたという思いがあると,それを遺産分割の際に考慮してほしいと思うのは人情でしょう。
しかし,通常,遺言がないと,法定相続分に従って遺産分割が行われることになります。また,相続人の貢献を寄与分として相続分に加えることができるのは,「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」(民法904条の2第1項)に限られます。ですから,被相続人のために一生懸命世話をしたとしても,法律上寄与分として考慮されるには,相続人の世話のおかげで看護をする人を雇うための費用の支出をしなくて済んだというような事情,つまり,財産上の効果が伴うことが必要です。通常のお世話は親族として当然と考えられるためです。
また,遺言がないと,相続人でなければ相続することができませんし,寄与分を考慮されるのも相続人に限られますので,相続人以外の人が被相続人のために尽くした場合に,その貢献を考慮することができません。
そのため,例えば,長男とその妻が,身体が不自由な父を一生懸命お世話したので,父の遺産分割の際に考慮してほしいと思っても,次男などの他の相続人があくまで法定相続分に従った遺産分割をすることを主張した場合,相続人間で争いになり,最終的には長男夫婦にとって不満が残る結果となってしまいかねません。これは例えですが,実際に,このような不満をもって相談に来られる方は多くいらっしゃいます。
そのような争いを未然に防ぎ,自分のために尽くしてくれた人の労に報いるためには,遺言を作成し,相続人の貢献に応じて相続分を決め,相続人でない人に遺産を遺すという内容にしておくということが考えられます。ただし,その場合でも遺留分の問題は残ります。
遺言の作成の際には,ご相談ください。
相続放棄(相続したくない場合の手続)
一 相続放棄とは
亡くなったご家族に多額の借金があった場合、どうなるでしょうか。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するため(民法896条本文)、相続人は被相続人の積極財産のみならず、被相続人の負債も承継します。
そのため、被相続人の積極財産よりも、負債の方が多い場合には、相続人は困ったことになります。
そのような場合、相続人は、相続放棄をすることで、被相続人の負債の承継を免れることができます。
なお、被相続人に多額の負債があるけれども、相続財産を取得したいという場合には、限定承認をすることも考えられます。
限定承認とは、相続人が、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をすることです(民法922条)。
これに対し、無限に被相続人の権利義務を承継することを「単純承認」といいます(民法920条)。また、一定の事由がある場合には単純承認したものをみなされます。この場合を「法定単純承認」といいます(民法921条)。
二 相続放棄の手続
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(民法938条)。
具体的には、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述書を提出することになります(家事事件手続法201条1項、5項)。家庭裁判所は相続放棄の要件を満たしていると判断すれば、相続放棄の申述受理の審判をし、要件を満たしていなければ、申述を却下します。
三 相続放棄の効果
相続放棄をした者は、その相続に関して、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
そのため、相続放棄をした者は、被相続人の負債を承継することはありませんが、積極財産を承継することもできません。
相続放棄により初めから相続人とならなかったものとみなされることから、他の相続人が相続することになります。
同順位の相続人がいない場合には後順位の者が相続人になります(例えば、子供の全員が相続放棄した場合には、次順位の被相続人の父母などの直系尊属が相続人となります。)。
なお、相続の放棄をした者は、放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理をしなければなりません(民法940条1項)。
また、家庭裁判所に相続放棄の申述が受理されないと相続放棄したとはいえませんが、受理されたとしても、相続放棄が有効ということが確定されるわけではありません。相続放棄の申述受理後に相続放棄の有効性を巡って争われることがあります。
四 相続放棄ができなくなる場合
1 相続放棄をすることができる期間(熟慮期間)
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかをしなければなりません(民法915条1項本文)。この期間を「熟慮期間」といいます。
撤回は認められないため(民法919条1項)、単純承認又は限定承認を選択すると、原則として熟慮期間内であっても相続放棄はできなくなります。ただし、詐欺、強迫による取消等、相続の承認や放棄の取消ができる場合があります(民法919条2項、3項、4項)。
また、限定承認も放棄もしないで熟慮期間が経過すると単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。
そのため、熟慮期間を経過すると、相続放棄はできなくなってしまいます。
ただし、熟慮期間については、家庭裁判所に請求することで伸長することができます(民法915条1項但書)。
2 相続人が相続財産の全部又は一部を処分した場合(民法921条1号)
相続人が相続財産の全部又は一部を処分した場合(保存行為や民法602条の短期賃貸借の場合を除きます。)には、単純承認をしたものとみなされます。
3 相続放棄後に相続財産の隠匿等をした場合(民法921条3号)
相続人が相続の放棄をした場合であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私に費消し、又は悪意でこれを相続財産の目録に記載しなかったときは、単純承認したものとみなされます(ただし、相続放棄により相続人となった者が相続の承認をした後はこの限りではありません。)。
五 相続放棄をお考えの方へ
亡くなったご家族に多額の借金があった場合には、相続放棄をすることが考えられますが、相続放棄ができる期間には制限がありますので、相続放棄をお考えの方はお早めに手続をとることをお勧めいたします。
相続放棄をお考えのかたはご相談ください。
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