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【相続・遺言】遺言事項
どのような遺言をするかは遺言者の自由ではありますが,どのような内容であっても,法的な効力が認められるわけではなく,民法やその他の法律により,遺言によって法的な効力が生じる事項が定められております。
民法やその他の法律により遺言によって法的な効力が生ずる事項のことを,遺言事項といいます。
遺言事項については,以下のとおりです。
一 民法による遺言事項
1 認知(民法781条2項)
民法781条2項は,「認知は,遺言によっても,することができる。」と規定しております。
2 未成年後見人,未成年後見監督人の指定(民法839条1項,848条)
民法839条1項は,「未成年者に対して最後に親権を行う者は,遺言で,未成年者後見人を指定することができる。ただし,管理権を有しない者は,この限りではない。」と規定しております。
また,民法848条は,「未成年後見人を指定することができる者は,遺言で,未成年後見監督人を指定することができる。」と規定しております。
3 相続人の廃除,廃除の取消し(民法893条,894条2項)
民法893条は,「被相続人が遺言で推定相続人を排除する意思を表示したときは,遺言執行者は,その遺言が効力を生じた後,遅滞なく,その推定相続人の排除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において,その推定相続人の排除は,被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と規定しております。
また,民法894条2項は,「前条の規定は,推定相続人の排除の取消しについて準用する。」と規定しております。
4 祭祀承継者の指定(民法897条1項)
民法897条1項は,「系譜,祭具及び墳墓の所有権は,前条の規定にかかわらず,慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし,被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは,その者が承継する。」と規定しております。
5 相続分の指定,指定の委託(民法902条1項)
民法900条は法定相続分,民法901条は代襲相続人の相続分について規定しておりますが,民法902条1項は,「被相続人は,前二条の規定に関わらず,遺言で,共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし,被相続人又は第三者は,遺留分に関する規定に違反することができない。」と規定しております。
6 特別受益者に対する持戻しの免除(民法903条3項)
民法903条1項,2項は,特別受益者に対する持戻しを規定しておりますが,同条3項は,「被相続人が前二項と異なった意思を表示したときは,その意思表示は,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で,その効力を有する。」と規定しております。
持戻しの免除の方式については定めがなく,遺言で持戻し免除をすることもできます。
7 遺産分割方法の指定,指定の委託,遺産分割の禁止(民法908条)
民法908条は,「被相続人は,遺言で,遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託し,又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて,遺産の分割を禁止することができる。」と規定しております。
8 相続人相互の担保責任の指定(民法914条)
民法911条から913条は,共同相続人間の担保責任について規定しておりますが,民法914条は,「前三条の規定は,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは,適用しない。」と規定しております。
9 遺贈(民法964条)
民法964条は,「遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし,遺留分に関する規定に違反することができない。」と規定しております。
10 遺言執行者の指定,指定の委託(民法1006条1項)
民法1006条1項は,「遺言者は,遺言で,一人又は数人の遺言執行者を指定し,又はその指定を第三者に委託することができる。」と規定しております。
11 遺言執行者の復任権(民法1016条1項)
民法1016条1項は,「遺言執行者は,やむを得ない事由がなければ,第三者にその任務を行わせることができない。ただし,遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは,この限りでない。」と規定しております。
12 遺言執行者が複数ある場合の任務の執行(民法1017条1項)
民法1017条1項は,「遺言執行者が数人ある場合には,その任務の執行は,過半数で決する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。」と規定しております。
13 遺言執行者の報酬(民法1018条1項)
民法1018条1項は,「家庭裁判所は,相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし,遺言者がその遺言に報酬を定めたときは,この限りではない。」と規定しております。
14 遺言の撤回(民法1022条)
民法1022条は,「遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と規定しております。
15 遺留分減殺方法の指定(民法1034条)
民法1034条は,「遺贈は,その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。」と規定しております。
二 民法以外の法律による遺言事項
1 一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)
遺言により,一般財団法人を設立することができます。
2 生命保険受取人の変更(保険法44条1項)
保険法44条1項は,「保険金受取人の変更は,遺言によっても,することができる。」と規定しております。
3 信託の設定(信託法2条2項2号,3条2号)
遺言により,信託を設定することができます。
【相続】自筆証書遺言の方式
自筆証書遺言は,遺言者がひとりで作成することができるため,手軽な方法であると思われるかもしれませんが,方式が厳格に定められているため,よく理解して作成しないと,遺言が無効となってしまうことがありますので,注意が必要です。
第1 自筆証書遺言の方式
自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければなりません(民法968条1項)。
遺言者の最終意思であるかどうかを明確にする必要があるため,遺言は,民法に定める方式に従わなければ無効になります(民法960条)。
※相続法の改正により,平成31年1月13日から方式が緩和され,財産目録について自書を要しないことになりました(民法968条2項)。
1 全文の自書
遺言者の真意に基づくものであることを保障するため,遺言のすべての部分を遺言者が自書する必要があります。
パソコンで作成した場合や他人が書いた場合には,自書したとはいえません。
2 日付
日付は,遺言作成時の遺言能力の有無や,内容の抵触する複数の遺言の先後(前の遺言は撤回,民法1023条)を確定するための基準として必要な要件です。
日付が特定される必要がありますので,年月の記載しかない場合には無効となりますし,「○年○月吉日」という日付の特定ができない記載は無効となります。
3 氏名
氏名は,遺言者本人の同一性が確認できる程度に記載される必要があります。
戸籍上の氏名と同一でなくても,遺言者との同一性が確認できれば,通称や雅号等でも有効と判断されることがあります。
4 押印
押印も,遺言者の同一性と真意を確認するための要件です。
使用する印章には制限がなく,認印や,指印でもよいとされています。
第2 加除変更の方式
自筆証書遺言については,遺言の偽造変造を防止するため,加除変更についても,厳格な方式を定めており,自筆証書中の加除その他の変更は,遺言者がその場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければなりません(民法968条2項)。※相続法の改正により,民法968条3項となりました。
加除変更が法律に定められた方式に従ってなされていない場合,原則として,加除変更がなされなかったものとして扱われます。
【相続・遺言】寄与分
共同相続人が被相続人の財産の維持や増加に寄与した場合には,寄与分が問題となります。
一 寄与分とは
共同相続人の中に被相続人の家業に従事したり,療養看護をする等して,被相続人の財産の維持または増加に貢献した人がいる場合に,その貢献を評価して,相続人間の公平を図るための制度が,寄与分の制度です。
寄与分については,民法904条の2第1項が「共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」と規定しております。
二 寄与分の要件
寄与分は,相続人が被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合にその貢献を評価する制度ですから,①相続人が寄与行為をしたこと,②寄与行為が特別の寄与にあたること,③被相続人の財産が維持されたことまたは増加したこと,④相続人の寄与行為と被相続人の財産の維持または増加との間に因果関係があることが要件となります。
1 相続人の寄与行為
(1)寄与行為の種類
寄与行為には,①被相続人の事業に関する労務の提供,②財産上の給付,③被相続人の療養看護,④その他(扶養,財産管理等)があります。
(2)寄与者
寄与分を主張することができるのは,相続人に限られますので,寄与行為は,寄与分を主張する相続人の行為であることが原則として必要です。
被相続人の内縁の配偶者等,相続人以外の者が寄与行為をしても,寄与分は認められません。
相続人の妻や子等,相続人以外の者の行為については,寄与分が認められないのが原則ですが,相続人の妻子を相続人の補助者とみて相続人の寄与行為と評価できる場合には,寄与分が認められることがあります。
2 特別の寄与
特別の寄与と評価できるかどうかは,
①寄与分を主張する相続人と被相続人の身分関係において通常期待される程度を超える貢献をしたかどうか(夫婦の協力扶助義務や親族の扶養義務の範囲内の行為をしただけでは,特別な寄与をしたとはいえません。),
②無償の寄与行為であったかどうか(対価が支払われた場合には,特別な寄与とはいえませんが,対価が低い場合には特別な寄与と評価されることがあります。)
③被相続人の家業や療養看護等への従事が,ある程度の期間,継続して行われたかどうか(短期間の従事では特別な寄与とはいえません。)
④寄与分を主張する者が,被相続人の家業や療養看護等に専従していたかどうか
といった観点から判断されます。
3 被相続人の財産の維持または増加
被相続人が精神的に幸せな生活を送れたとしても,財産の維持または増加がなければ,寄与分は認められません。
4 因果関係
寄与分は,被相続人の財産の維持・増加への相続人の貢献を評価するものですから,寄与行為によって被相続人の財産が維持・増加したことが要件となります。
三 寄与分の算定
1 算定方法
寄与分の算定方法については,①遺産に対する割合で定める方法,②金額で定める方法,③相続財産中の特定の財産を寄与分と定める方法があります。
寄与分を定める手続としては,共同相続人全員の協議または家庭裁判所での調停,審判があり,共同相続人全員の合意で寄与分を定めるか,家庭裁判所が,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,寄与分を定めます(民法904条の2第2項)。
2 寄与分の上限
寄与分は,被相続人が相続開始時に有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません(民法904条の2第3項)。
【相続・遺言】特別受益の持戻し
共同相続人が被相続人から遺贈や贈与を受けた場合,他の共同相続人との間で不公平にならないよう特別受益の持戻しが問題となります。
一 特別受益の持戻しとは
民法903条1項は「共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続人財産とみなし,前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定しており,これを特別受益の持戻しといいます。
特別受益の持戻しは,被相続人から遺贈または贈与を受けた相続人とそうでない相続人間の公平を図るための制度です。
例えば,遺産総額が5000万円で,相続人が子2名の場合,特別受益がないときには,各人の具体的相続分は2500万円となりますが(計算式:5000万円×2分の1=2500万円),子の1名が被相続人から1000万円の生前贈与を受けていたときには,
生前贈与を受けた子の具体的相続分は,2000万円となり(計算式:(5000万円+1000万円)×2分の1-1000万円=2000万円),もう一人の子の具体的相続分は3000万円となります(計算式:(5000万円+1000万円)×2分の1=3000万円)。
また,遺贈または贈与の価額が,相続分の価額に等しいか,またはこれを超えるときは,受遺者または受贈者は,相続分を受け取ることはできませんが(民法903条2項),特別受益の持戻しは計算上,特別受益額を加算するものにすぎず,特別受益にあたる財産自体を遺産分割の対象とするわけではないので,超過分があっても,他の共同相続人が特別受益者に超過分の返還を求めることはできません。
例えば,遺産総額が5000万円で,相続人が子2名の場合で,子の1名が被相続人から7000万円の生前贈与を受けていたときには,贈与の価額(7000万円)が相続分の価額(計算式:(5000万円+7000万円)×2分の1=6000万円)を超えているため,生前贈与を受けていた子の具体的相続分は0円となり,もう一人の子の具体的相続分は5000万円となります。
二 特別受益者
特別受益の持戻しは共同相続人間の公平を図るための制度ですので,特別受益者は,共同相続人に限られるのが原則です。
共同相続人の配偶者や子に対する遺贈や贈与は,原則として特別受益にはあたりませんが,実質的には共同相続人に対する遺贈や贈与にあたり,その相続人の特別受益にあたるとみなされることもあります。
三 特別受益の種類
特別受益にあたるのは,①遺贈,②婚姻のための贈与,③養子縁組のための贈与,④生計の資本としての贈与です(民法903条1項)。相続させる旨の遺言についても,遺贈と同様,特別受益に含まれると解されております。
贈与については,すべての贈与が特別受益にあたるわけではありませんので,特別受益にあたるのかどうか問題となりますが,遺産の前渡しと同視される程度のものであることが必要です。
ある程度まとまった価額のものであることや,扶養義務に基づく給付ではないことが,特別受益にあたるかどうかの判断要素となります。
例えば,被相続人が相続人に対し毎月数万円の援助を続けていたという場合には,扶養義務に基づく援助であり,特別受益にはあたらないものと思われます。
四 特別受益の評価の基準時
実務では,相続開始時を基準に特別受益の額を評価して,具体的相続分を計算します。
五 特別受益の主張方法
特別受益の有無や金額は,具体的相続分算定の前提問題にすぎず,それ自体を確認しても紛争解決にはなりませんので,特別受益を確認する訴えはできないと解されております。
そのため,特別受益の有無や金額を争う場合には,遺産分割調停や審判の中で争うことになります。
六 持戻しの免除
1 持戻しの免除とは
民法903条3項は「被相続人が前二項の規定と異なった意思表示をしたときは,その意思表示は,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で,その効力を有する。」と規定しており,被相続人が特別受益の持戻しを免除する旨の意思表示をした場合には,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で効力を有し,特別受益があっても,持戻しはされません。
これは,被相続人の意思を尊重する趣旨です。
2 持戻し免除の意思表示の方式
持戻し免除の意思表示に特別な方式はありません。
持戻し免除の意思表示は,贈与と同時である必要はなく,遺言ですることもできます。
また,明示の意思表示のみならず,黙示の意思表示でもできます。
【相続・遺言】相続分の放棄
一 相続分の放棄とは
相続分の放棄とは,相続人が自己の相続分を放棄することです。
相続分の放棄をすると,放棄をした者の相続分がなくなり,その分,他の相続人全員の相続分が増えます。
相続分の放棄は,相続放棄と名称は似ておりますが,異なる制度です。
相続放棄の場合,相続放棄をした者は,その相続に関し初めから相続人とならなかったものとみなされますが(民法939条),相続分の放棄の場合には,相続分の放棄をした者は,相続分がなくなるだけであり,相続人としての地位がなくなるわけではありません。
相続分の放棄をすることで,放棄をした者は,被相続人の積極財産を相続することができなくなりますが,被相続人の債権者を害さないよう被相続人の債務を免れることはないと解されております。
二 他の共同相続人の相続分への影響
相続分の放棄をすると,その分,他の相続人全員の相続分が増えます。
他の相続人の相続分が増える割合については,放棄をする者が別の意思を表示した場合を除き,一般的には,各相続人の相続分の割合に応じて増えると解されております。
例 相続人が配偶者と子2人の場合で,子の1人が相続分の放棄をしたとき
配偶者の法定相続分は2分の1,子の法定相続分は各4分の1であり,配偶者と放棄をしていない子1人の法定相続分の割合は,2:1(=2分の1:4分の1)ですので,相続分の放棄をした子の法定相続分4分の1については,その3分の2が配偶者に,3分の1が放棄をしていない子に移ります。
そのため,配偶者の相続分は3分の2(=元の法定相続分+増加分=2分の1+4分の1×3分の2=2分の1+6分の1),放棄をしていない子の相続分は3分の1(=4分の1+4分の1×3分の1=4分の1+12分の1)となります。
なお,相続放棄の場合は,相続放棄をした者は,相続人とならなかったものとみなされるため,相続人は,配偶者と放棄をしていない子の2人となり,相続分はいずれも2分の1となります。
三 相続分の放棄の手続
相続分の放棄した者は,原則として,遺産分割の当事者となる資格を失います。
そのため,遺産分割調停や遺産分割審判の申立前に相続分の放棄が判明している場合には,放棄した者を当事者から外して申し立てることができますし,申立後に放棄が判明した場合や申立後に相続分の放棄が行われた場合には,家庭裁判所は,排除の決定をすることができます(家事事件手続法43条1項,258条1項)。
【相続・遺言】相続分の譲渡
一 相続分の譲渡とは
相続分の譲渡とは,相続人が,被相続人の死亡によって承継した権利・義務を,他者に譲渡する契約のことです。
相続分の全部を譲渡することも,相続分の一部を譲渡することもできます。
また,無償で譲渡することも,有償で譲渡することもできます。
譲渡する相手方は,相続人でも,相続人以外の第三者でもかまいません。
相続分の譲渡が行われることにより,譲渡人が譲渡した相続分は譲受人に移転し,その分,譲渡人の相続分はなくなります。
積極財産のみならず消極財産も譲受人に承継されますが,債権者が害されないよう債権者との関係では,譲渡人が債務を負うものと解されております。
二 相続分譲渡の方法
相続分を譲渡するにあたっては,譲渡人,譲受人の間で,相続分譲渡証書を作成するのが一般的です。
また,相続分譲渡証書には,印鑑登録証明書を添付します。
三 相続分の譲渡人の地位
相続分の譲渡人は,原則として,遺産分割の当事者となる資格を失います。
遺産分割調停や遺産分割審判の申立前に相続分の譲渡が判明している場合には,譲渡人を当事者から外して申し立てることができますし,申立後に譲渡が判明した場合や申立後に相続分の譲渡が行われた場合には,家庭裁判所は,排除の決定をすることができます(家事事件手続法43条1項,258条1項)。
四 相続分の譲受人の地位
相続分の譲受人は相続分を有しますので,遺産分割の当事者となります。
遺産分割調停や遺産分割審判の申立前に相続分の譲渡が判明している場合には,譲受人を当事者に加えて申し立てることになりますし,申立後に譲渡が判明した場合や申立後に相続分の譲渡が行われた場合には,譲受人は手続に参加することができます(家事事件手続法41条1項,258条1項)。家庭裁判所は当事者の申立てまたは職権で,譲受人を手続に参加させることができます(家事事件手続法41条2項,258条1項)。
五 相続分の取戻権
相続人以外の第三者に対して相続分が譲渡された場合には,遺産分割に相続人でない者が加わることになりますが,他の共同相続人からすれば,相続人以外の者が遺産分割に加わることを望ましく思わないことがあります。そのような場合には,他の共同相続人は,他の相続人は,相続分の取戻権を行使することができます。
共同相続人の一人が遺産分割前に相続分を第三者に譲渡したときは,他の共同相続人は,価額,費用を償還して,相続分を譲り受けることができます(民法905条1項)。
取戻権は,1か月以内に行使しなければなりません(民法905条2項)。
【相続・遺言】遺留分の放棄
一 遺留分の放棄とは
相続の開始前に,家庭裁判所の許可を受けることで,遺留分の放棄をすることができます(民法1043条1項)。
遺留分とは,遺言によっても侵害されない相続人の権利であり,遺留分を侵害された相続人は,遺留分減殺請求をすることができます。
相続開始後に,遺留分を侵害された者が遺留分減殺請求をするかどうかは,本人の意思に委ねられておりますので,本人の意思で相続開始前に遺留分の放棄をすることもできます。
ただし,被相続人や他の相続人から,遺留分の放棄を強制されるおそれがありますので,家庭裁判所の許可がなければ,遺留分の放棄はできません。
二 遺留分の放棄の手続
1 申立て
遺留分権を有する相続人が,相続開始前に,家庭裁判所に,遺留分放棄許可の審判を申し立てます。
管轄裁判所は,被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所になります(家事事件手続法216条1項2号)。
2 審判
家庭裁判所は,遺留分の放棄が,遺留分権利者が真意に基づくものであるかのかどうか(他者から遺留分の放棄を強制されていないか等),遺留分放棄の理由に合理性,相当性があるのかどうか(遺留分の放棄の代償として,相当な財産を得ているのかどうか等)を調べた上で,遺留分の放棄を許可するか,申立てを却下するか審判します。
申立てをした者は,申立てを却下する審判に対して,即時抗告をすることができます(家事事件手続法216条2項)。
三 遺留分の放棄の効果
1 遺留分はなくなるが,相続人としての地位は残ります。
遺留分を放棄したことにより,放棄した者の遺留分はなくなりますが,相続人としての地位までなくなるわけではありません。
そのため,遺留分の放棄をしても,被相続人が遺言をしない場合には,遺留分を放棄した者も相続人として,遺産を相続することになります。
2 他の共同相続人の遺留分への影響
共同相続人の一人のした遺留分の放棄は,他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません(民法1043条2項)。
そのため,相続人の一人が遺留分を放棄したとしても,他の共同相続人の遺留分が増えるわけではありません。
四 遺留分放棄の取消し
遺留分を放棄した後に事情が変化し,遺留分放棄の状態を存続させることが,客観的に不合理・不相当と認められる場合には,遺留分放棄許可の審判を取消しができると解されております。
【相続・遺言】特別縁故者に対する相続財産の分与
被相続人に相続人がいない場合,被相続人と特別の縁故があった者(特別縁故者)は,相続財産の分与を求めることができます。
一 特別縁故者に対する相続財産の分与とは
特別縁故者に対する相続財産の分与とは,被相続人に相続人がいない場合に,被相続人と特別の縁故があった者に相続財産を取得させることです。
相続人がいない場合には相続財産の帰属主体がいないことになるため,相続財産管理人を選任し,相続財産管理人により相続財産の清算手続が行われますが,その際,被相続人と特別の縁故があった者(特別縁故者)の請求があった場合,家庭裁判所は,相当と認めるときには,特別縁故者に,清算後残存すべき相続財産の全部または一部を与えることができます(民法958条の3)。
民法958条の3には「請求」とありますが,特別縁故者に相続財産に対する請求権があるわけではありません。特別縁故者が相続財産の分与を受ける権利は,家庭裁判所の審判により形成される権利です。
二 特別縁故者とは
財産分与を請求することができるのは,
①被相続人と生計を同じくしていた者
②被相続人の療養看護に努めた者
③その他被相続人と特別の縁故があった者
です(民法958条の3)。
被相続人の葬儀をしたり,被相続人が亡くなった後に事実上財産管理をする等,被相続人が亡くなった後の縁故(いわゆる死後縁故)も,特別の縁故にあたるのかどうかは争いがあります。
なお,相続財産管理人は,相続財産の管理費用を相続財産の中から支出することができますし,葬儀費用についても,家庭裁判所から権限外行為の許可を受けることで,相続財産の中から支出することができますので,被相続人が亡くなった後に管理費用を負担した人や葬儀費用を負担した人は,相続財産管理人と交渉すべきでしょう。
三 特別縁故者に対する相続財産分与の手続の流れ
1 相続財産分与の申立
相続人捜索の公告期間満了後,3か月以内に,特別縁故者は,家庭裁判所に対し,財産分与するよう申立てをします(民法958条の3)。
管轄裁判所は,相続が開始した地を管轄する家庭裁判所になります(家事事件手続法203条3号)
2 審判
家庭裁判所は,相当と認める場合には,相続財産の全部または一部を分与する審判をします(民法958条の3)。
審判は,相続人捜索の期間の満了後3か月を経過した後になされます(家事事件手続法204条1項)。
複数人から申立てがあった場合には,手続や審判は併合して行われます(家事事件手続法204条2項)。
また,家庭裁判所は,審判をするにあたって,相続財産管理人の意見を聴かなければなりません(家事事件手続法205条)。
3 不服申立て
特別縁故者に対する相続財産の分与の審判に対しては,申立人及び相続財産管理人は即時抗告をすることができます(家事事件手続法206条1項1号)。
申立てを却下する審判に対しては,申立人が即時抗告をすることができます(家事事件手続法206条1項2号)。
なお,審判が併合された場合,申立人の一人または相続財産管理人がした即時抗告は,申立人全員に対して効力を生じます(家事事件手続法206条2項)。
4 残余財産の国庫帰属
特別縁故者に対する相続財産の分与により処分されなかった残余の相続財産は国庫に帰属します(民法959条)。
【相続・遺言】相続人の不存在
相続人がいない人が亡くなった場合,その人の財産はどうなるのでしょうか。
一 相続人の不存在
相続人がいない場合には,相続財産の帰属主体がいないことになります。
そのため,相続開始時に,相続人の存在が明らかでないときには,相続財産自体を法人と擬制した上で(民法951条),相続財産管理人が選任され(民法952条),相続財産を管理しつつ,相続人を捜し,相続人が見つからなかった場合には,相続財産を清算します。
他方,相続人がいることが明らかになったときは,相続財産法人は成立しなかったものとみなされますが,相続財産管理人が権限内でした行為の効力は妨げられません(民法955条)。
二 手続の流れ
1 相続開始時
相続開始時に,「相続人のあることが明らかでないとき」は相続財産法人が成立します(民法951条)。
なお,相続人がいない場合であっても,相続財産の全部について包括受遺者が存在する場合には,包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有することから(民法990条),「相続人のあることが明らかでないとき」にはあたらず,相続財産法人は成立しないと解されております。
2 相続財産管理人の選任・公告
(1)相続財産管理人の選任請求
相続財産法人が成立した場合,家庭裁判所は,利害関係人または検察官の請求によって,相続財産管理人を選任します(民法952条1項)。
利害関係人には,相続債権者や受遺者,特別縁故者等があたります。
(2)相続財産管理人選任の公告
相続財産管理人が選任されたときは,家庭裁判所は,遅滞なく公告し(民法952条2項),相続人が現れるのを待ちます。
3 相続債権者・受遺者に対する公告・弁済
(1)相続債権者・受遺者に対する公告
相続財産管理人選任の公告後,2か月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは,相続財産管理人は,遅滞なく,すべての相続債権者及び受遺者に対し,一定期間内(2か月以上)に請求の申出をすべき旨を公告します(民法957条1項)。
(2)相続債権者・受遺者に対する弁済
期間満了後,相続財産管理人は,まず債権者に弁済し,次いで受遺者に弁済します(民法957条2項,民法929条,民法931条)。
4 相続人捜索の公告
相続債権者・受遺者に対する公告の期間満了後,なお相続人のあることが明らかでないときには,家庭裁判所は,相続財産管理人または検察官の請求により,相続人があるならば,一定期間内(6か月以上)に権利を主張すべき旨を公告します(民法958条)。
期間内に相続人としての権利を主張する者がなかったときには,相続人,相続財産管理人に知られなかった相続債権者や受遺者は,権利行使ができなくなります(民法958条の2)。
5 特別縁故者に対する相続財産の分与(民法958条の3)
相続人捜索の公告で定めた期間満了後,3か月以内に,被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者(特別縁故者)の請求があった場合,家庭裁判所は,相当と認めるときには,特別縁故者に,清算後残存すべき相続財産の全部または一部を与えることができます(民法958条の3)。
6 国庫帰属
特別縁故者への財産分与によって処分されなかった相続財産は国庫に帰属します(民法959条)。
国庫に帰属する時期は,相続財産管理人が国庫に引き継いだときであると解されております。
【相続・遺言】負担付遺贈
一 負担付遺贈とは
遺贈は,遺言によって,遺産の全部または一部を,他者に無償で与えることですが,条件を付けること(条件付遺贈)や期限を付けること(期限付遺贈)もできますし,受遺者に一定の義務を負担させること(負担付遺贈)もできます(なお,これらが付されていない遺贈のことを単純遺贈といいます。)。
負担付遺贈は,包括遺贈,特定遺贈いずれの場合でもできます。
また,負担の内容は遺贈の目的物と関係がなくてもかまいませんし,負担の受益者に制限はなく,相続人以外の第三者でも一般公衆でも受益者になれます。
二 条件付遺贈と負担付遺贈
「○○を負担することを条件として,○○を遺贈する」という表現の場合,条件付遺贈なのか,負担付遺贈なのか問題となります。
条件付遺贈の場合,条件成就時に遺言の効力が生じるか(停止条件),効力がなくなる(解除条件)だけであり,受遺者が義務を負うわけではありません。
これに対し,負担付遺贈の場合,受遺者は一定の義務を負いますが,義務を履行するか否かに関わらず,遺言の効力が生じます。
そのため,受贈者に義務を負わせる趣旨である場合には,負担付遺贈となります。
三 受遺者の義務
負担付遺贈を受けた人は,遺贈の目的物の価額を超えない限度で,負担した義務を履行する責任を負います(民法1002条1項)。
また,負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認または遺留分減殺請求によって減少したときは,遺言者が遺言で別段の意思表示をした場合を除き,受遺者は,その減少の割合に応じて,負担した義務を免れます(民法1003条)。
四 受遺者が義務を履行しない場合
受遺者が負担した義務を履行しないときは,相続人は,相当の期間を定めて履行の催告をすることができます。期間内に履行がないときは,負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法1027条)。
五 受遺者が遺贈の放棄をした場合
受遺者が遺贈の放棄をしたときは,遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときを除き,負担の利益を受ける人は,自ら受遺者となることができます(民法1002条2項)。
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