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【相続・遺言】不動産の遺贈と所有権移転登記
不動産が遺贈された場合に,受遺者名義に所有権移転登記手続をするには,どうすればよいでしょうか。
一 遺贈による所有権の移転
遺贈には,包括遺贈(遺産の全部または一定割合を対象とする遺贈)と特定遺贈(特定の財産を対象とする遺贈)があり,いずれも,被相続人が死亡し,遺言の効力が発生したときに,遺言の対象となる財産の所有権が受遺者に移転します。
二 登記が被相続人名義の場合
1 共同申請
(1)遺言執行者がいない場合
遺言執行者がいない場合には,受遺者を登記権利者,相続人全員を登記義務者として,所有権移転登記手続の共同申請をします。
相続人全員の申請が必要となりますので,一部の相続人の申請では登記できません。
(2)遺言執行者がいる場合
遺言執行者がいる場合には,相続人は,遺言の対象となった相続財産について,処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができませんので(民法1013条),相続人を登記義務者として所有権移転登記手続をすることができません。
そのため,所有権移転登記手続は,受遺者を登記権利者,遺言執行者を登記義務者とする受遺者と遺言執行者の共同申請で行います。
遺言執行者がいるのに,受遺者と相続人が所有権移転登記手続をした場合には,登記は無効となります。
2 所有権移転登記手続訴訟
遺言執行者または相続人全員が所有権移転登記手続の共同申請に応じない場合,受遺者は,遺言執行者または相続人全員を被告として,所有権移転登記手続訴訟を提起しなければなりません。
遺言執行者がいる場合には,遺言執行者が被告となります。遺言執行者がいる場合,相続人は被告適格を有しませんので,相続人を被告とした訴えは却下されます。
遺言執行者がいない場合には,相続人全員を被告として訴え提起します。
請求の趣旨は「被告(ら)は,原告に対し,別紙物件目録記載の不動産につき,○○年○○月○○日遺贈を原因とする所有権移転登記手続をせよ」となります。日付は被相続人が亡くなった日です。
請求認容判決が確定すれば,受遺者は,単独で所有権移転登記手続をすることができます。
三 遺贈の登記の前に相続人名義の登記がなされた場合
遺言の効力発生時に不動産の所有権は受遺者に移転しています。
また,相続人は被相続人の包括承継人であり,民法177条の「第三者」にはあたりませんので,相続人と受遺者は対抗関係にはなりません。
そのため,遺贈の登記をする前に相続人名義の登記がなされた場合には,相続登記の抹消登記手続をしてから,遺贈を原因とする所有権移転登記手続をすることができます。
遺言執行者がいる場合には,抹消登記手続については,遺言執行者は,遺言の執行に必要な行為として,登記名義人に対し抹消登記手続を求めることができます。また,受遺者は,遺言執行者がいる場合であっても,所有権に基づく妨害排除請求として,抹消登記手続を求めることができます。
また,所有権移転登記手続については,遺言執行者がいる場合には,受遺者と遺言執行者の共同申請で行います。
四 遺贈の登記の前に第三者名義の登記がなされた場合
1 遺言執行者がいない場合
受遺者に登記がなされる前に相続人が第三者に不動産を譲渡して,第三者名義の登記がなされた場合,民法177条により受遺者と第三者は対抗関係にありますので,登記のない受遺者は遺贈による不動産の取得を第三者に対抗することができません。
2 遺言執行者がいる場合
(1)相続法の改正前
遺言執行者がいる場合には,相続人は,遺言の対象となった相続財産について,処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず(改正前の民法1013条),相続人に処分権はありませんので,相続人が第三者に不動産を譲渡しても無効となります。
そのため,受遺者は,登記がなくても,遺贈による不動産の取得を第三者に対抗することができます。その場合に,受遺者名義の登記をするには,遺言執行者または受遺者が登記名義人と抹消登記手続をしてから,受遺者と遺言執行者の共同申請で遺贈を原因とする所有権移転登記手続をすることができます。
(2)相続法の改正後
相続法の改正により,民法1013条は改正されました(2019年7月1日より施行)。
改正後の民法1013条では,相続人は,遺言の対象となった相続財産について,処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず(改正後の民法1013条1項),違反した行為は無効となりますが(改正後の民法1013条2項本文),善意の第三者には対抗できませんし(民法1013条2項但書),相続人の債権者(相続債権者を含みます。)が相続財産についてその権利を行使することは妨げられません(民法1013条3項)。
そのため,第三者が善意の場合や相続人の債権者(相続債権者を含みます。)の場合には,登記のない受遺者は遺贈による不動産の取得を第三者に対抗することができません。
【相続・遺言】相続法改正 遺言執行者の権限等の改正
相続法の改正により,遺言執行者の権限等について改正されました。
改正法については2019年7月1日より施行されています。
一 遺言執行者とは
遺言の効力発生後に遺言の内容を実現する行為のことを遺言の執行といい,遺言の執行を行う人のことを遺言執行者といいます。
遺言執行者がいる場合としては,遺言で指定される場合(民法1006条)と家庭裁判所により選任される場合があります(民法1010条)。遺言執行者は相続人でもなることができますが,未成年者及び破産者は,遺言執行者となることができません(民法1009条)。
改正前は,民法1012条1項の「遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」との規定や民法1015条の「遺言執行者は,相続人の代理人とみなす。」と規定はありましたが,遺言執行者の権限や法的地位について条文上明確ではなく,判例等により解釈されてきました。
そこで,相続法の改正により,条文上,遺言執行者の権限等が明確化されました。
二 遺言執行者の法的地位
改正前の民法1015条では,「遺言執行者は,相続人の代理人とみなす。」と規定されていましたが,遺言執行者は相続人の利益のためだけに行動するわけではなく,遺言の内容を実現するため行動しますので,遺言執行者と相続人との間でトラブルになることがあります。
そこで,遺言執行者を相続人の代理人とみなすとの規定を改めて,改正後の民法1015条では「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接にその効力を生ずる。」と規定されています。
また,その一方で,民法1012条1項を「遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と改正し,遺言の内容を実現することが遺言執行者の職務であることを明確にしました。
三 遺言執行者の通知義務
改正前は,遺言執行者が通知義務を負うとの規定はありませんでしたが,相続人は遺言の内容や遺言執行者がいるかどうかについて重大な利害関係を有しますので,改正により,遺言執行者は,その任務を開始したときは,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければならなくなりました(民法1007条2項)。
なお,改正後の民法1007条2項は,施行日前に開始した相続に関し,施行日以後に遺言執行者になった場合にも適用されます(附則8条1項)。
四 遺贈の履行
改正前は,遺贈の場合の遺言執行者の権限について規定がありませんでしたが,判例等で,遺言執行者がいる場合には遺言執行者のみが遺贈を履行する義務を負うと解されてきました。
改正により,「遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができる。」と規定され(改正後の民法1012条2項。改正前の民法1012条2項は改正後は民法1012条3項となります。),遺言執行者がいる場合には遺言執行者のみが遺贈義務者になることが明文化されました。
例えば,不動産が遺贈された場合,遺言執行者がいるときは,遺言執行者が登記義務者となり,受遺者と遺言執行者の共同申請で所有権移転登記手続をします。
なお,改正後の民法1012条は,施行日前に開始した相続に関し,施行日以後に遺言執行者になった場合にも適用されます(附則8条1項)。
五 遺言執行の妨害行為の禁止
改正前の民法1013条は「遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為することができない。」と規定しておりましたが,違反した場合の効果について規定はありませんでした。判例では,違反行為は絶対的無効であると解されていましたが,取引の安全が害されるおそれがありましたので,改正により,違反行為は絶対的無効ではなく,相対的無効であると規定されました。
改正後の民法1013条では,相続人は,遺言の対象となった相続財産について,処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず(改正後の民法1013条1項),違反した行為は無効となりますが(改正後の民法1013条2項本文),善意の第三者には対抗できませんし(民法1013条2項但書),相続人の債権者(相続債権者を含みます。)が相続財産について権利を行使することは妨げられません(民法1013条3項)。
六 特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)がされた場合
1 対抗要件
改正前は,判例上,相続させる旨の遺言による権利の承継については,対抗要件の具備がなくても第三者に対抗できるとされていましたし,権利を承継した相続人の単独申請で登記ができるので,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務もないとされていました。
しかし,改正により,相続させる旨の遺言(改正後は「特定財産承継遺言」といいます。)による権利の承継についても,取引の安全の観点から,法定相続分を超える権利の承継を第三者に対抗するには対抗要件の具備が必要となりました(民法899条の2)。
そのため,特定財産承継遺言による権利の承継がされた場合に対抗要件を備えるために必要な行為をすることについても,遺言者が別段の意思表示をした場合を除いて,遺言執行者の権限に含まれることになりました(改正後の民法1014条2項,4項)。
2 預貯金債権の場合
改正前は,相続させる遺言の対象財産が預貯金債権の場合,遺言執行者が預貯金の払戻しや解約ができるかどうか規定はありませんでしたので,金融機関とトラブルになるおそれがありました。
改正により,遺言者が別段の意思表示をした場合を除き,遺言執行者は,対抗要件を備えるために必要な行為のほか,預貯金の払戻請求ができますし,預貯金債権全部が特定財産承継遺言の目的であるときには解約の申入れができることになりました(改正後の民法1014条3項,4項)。
なお,改正後の民法1014条2項から4項は,施行日前にされた遺言に係る遺言執行者の執行には適用がなく,旧法が適用されます(附則8条2項)。
七 遺言執行者の復任権
改正前は,遺言執行者は,原則として,やむを得ない事由がなければ,第三者にその任務を行わせることができないとされていましたが(改正前の民法1016条1項),遺言執行者は相続人がなることもでき,遺言執行者に十分な法律知識がない場合もありますので,専門家等の第三者に任務を行わせる必要性があります。
改正後は,遺言執行者は,遺言執行者が遺言で別段の意思表示をした場合を除き,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるようになりました(改正後の民法1016条1項)。また,第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは,遺言執行者は,相続人に対し選任・監督についての責任のみを負います(改正後の民法1016条2項)。
なお,改正後の民法1016条は,施行日前の遺言に係る遺言執行者の復任権については適用がなく,旧法が適用されます(附則8条3項)。
【相続・遺言】相続法改正 特別の寄与の制度
相続法の改正により,2019年7月1日から,特別の寄与をした被相続人の親族は,相続人に対し,金銭の支払を請求することができるようになります。
一 特別の寄与の制度
寄与分の制度では,寄与分が認められるのは相続人に限られており,相続人以外の親族が被相続人の療養看護等をしても寄与分は認められないため,不公平となる場合がありました。
そこで,公平の観点から相続法の改正により,特別の寄与の制度が創設されました。
特別の寄与の制度では,特別の寄与をした被相続人の親族(特別寄与者)は,相続開始後,相続人に対し,寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができます(民法1050条)。
二 請求権者の範囲
請求することができるのは,被相続人の親族(ただし,相続人,相続放棄をした人,欠格・廃除により相続権を失った人は除きます。)です(民法1050条1項)。
被相続人の親族以外の人が特別の寄与をしても,特別寄与料の請求はできません。
三 特別の寄与
請求することができるのは,被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合です(民法1050条1項)。
寄与分の場合と異なり,無償で労務の提供をした場合に限定されています。
四 特別寄与料
特別寄与者は寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができます(民法1050条1項)。
特別寄与料の支払については,まずは当事者間の協議で定めます。協議が調わないとき,または協議ができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができ(民法1050条2項),家庭裁判所は,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して特別寄与料の額を定めます(民法1050条3項)。
具体的な額の算定については,寄与分の場合の算定方法を参考にすることが考えられます。
また,特別寄与料の額は,被相続人が相続開始時に有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません(民法1050条4項)。
五 請求の相手方
請求の相手方は相続人です。
相続人が複数いる場合には,各相続人は,特別寄与料の額に民法900条から902条の規定により算定した当該相続人の相続分(法定相続分または指定相続分)を乗じた額を負担することになります(民法1050条4項)。
六 手続
特別寄与料の支払については,まずは当事者間の協議で定め,協議が調わないとき,または協議ができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(民法1050条2項)。
特別の寄与に関する処分は家事事件手続法別表第二の事件であり,調停手続または審判手続を行うことになります。
寄与分については遺産分割事件と併合しなければなりませんが(家事事件手続法192条,245条3項),特別の寄与に関する処分については遺産分割事件と併合することは強制されていません。
七 請求期間
特別寄与者が家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができるのは,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内,または相続開始時から1年以内です(民法1050条2項但書)。この期間は除斥期間です。
相続争いの複雑化,長期化を防止するため,権利行使期間は短期間とされています。
【相続・遺言】相続法改正 遺留分制度の改正
相続法の改正により,2019年7月1日から遺留分制度が改正されます。
改正前と改正後では,遺留分制度の内容が大きくかわります。
一 遺留分侵害額請求権
遺留分とは,被相続人の遺言や生前贈与によっても侵害されない相続人の権利のことであり,兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を有します(民法1042条)。
遺留分権利者及びその承継人は,受遺者(特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる遺言」のことです。)により財産を承継し,または相続分の指定を受けた相続人も含まれます。)または受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法1046条1項)。
この請求権を遺留分侵害額請求権といいます。
改正前は,遺留分を侵害された遺留分権利者は受遺者や受贈者に対し遺留分減殺請求をすることができました。遺留分減殺請求権の行使により,遺贈や贈与は遺留分を侵害する限度で効力を失い,目的物は遺留分権利者に帰属します。そのため,遺留分減殺請求により,遺贈や贈与された財産は遺留分権利者と受遺者や受贈者との共有となってしまいますが,財産が共有になってしまうと受遺者や受贈者の財産の利用や処分に支障が生じます。共有状態を解消するには,受遺者や受贈者が価額賠償をするか,共有物分割手続をしなければなりませんでした。
そのようなことから,改正により,遺留分が侵害されている場合には,金銭の支払を請求する権利が生じることになりました。
また,これにともない名称も遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権にかわりました。
二 遺留分額の算定
1 計算式
兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分を有します(民法1042条1項)
遺留分額は,以下の計算式で算定します(民法1042条,1043条)。
遺留分額=遺留分を算定するための財産の価額×遺留分割合=(被相続人の相続開始時の財産額+贈与額-債務額)×遺留分割合
2 遺留分割合
遺留分の割合は,①直系尊属のみが相続人であるときは,遺留分を算定するための財産の価額の3分の1,②その他の場合には,遺留分を算定するための財産の価額の2分の1
となります(民法1042条1項)。
また,遺留分権利者が複数人いる場合,各遺留分権利者の遺留分割合は,上記の割合に各自の法定相続分を乗じた割合となります(民法1042条2項)。
例えば,相続人が配偶者,長男,二男の場合で,遺言で長男が全財産を相続することになったときは,配偶者の遺留分割合は4分の1(法定相続分2分の1の2分の1),二男の遺留分割合は8分の1(法定相続分4分の1の2分の1)となります。
3 遺留分を算定するための財産の価額
(1)計算式
遺留分を算定するための財産の価額は,以下の計算式で算定します(民法1043条1項)。
遺留分を算定するための財産の価額=被相続人の相続開始時の財産額+贈与額-債務額
(2)条件付きの権利,存続期間の不確定な権利
条件付きの権利または存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価により価格が定められます(民法1043条2項)。
(3)贈与
贈与については,①相続開始前の1年間(相続人に対する贈与の場合は10年)にしたもの,または,②当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したものに限り,価額(相続人に対する贈与の場合は,婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の額に限ります。)を加算します(民法1044条1項,3項)。
改正前は,相続人に対する特別受益にとなる贈与については,贈与がなされた時期を問わず加算されていましたが,改正により,相続開始10年前のものに限られることになりました。
受贈者の行為により財産が滅失し,または価格の増減した場合は,相続開始時に原状のままであるものとみなして,贈与の価額を算定します(民法1044条2項,904条)。
負担付贈与の場合は,目的の価額から負担の価額を控除した額を贈与の額となります(民法1045条1項)。
また,不相当な対価の有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした場合には,対価を負担額とする負担付贈与とみなされます(民法1045条2項)。
三 遺留分侵害額の算定
1 計算式
遺留分侵害額は,以下の計算式により算定します(民法1046条2項)。
遺留分侵害額=遺留分額-遺留分権利者の特別受益の額-遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額+遺留分権利者が承継する相続債務の額
2 遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額
上記計算式の遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額は,「第900条から第902条まで,第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額」です(民法1046条2項2号)。
遺留分権利者の具体的相続分を前提に計算しますが,民法1046条2項2号では寄与分の規定(民法904条の2)は含まれていませんので,寄与分は考慮されません。
3 遺留分権利者が承継する相続債務の額
上記計算式の遺留分権利者が承継する相続債務の額は,「被相続人が相続開始の時において有した債務のうち,第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務…の額」です(民法1046条2項3号)。
民法899条は,各共同相続人は,その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継すると規定しておりますので,遺留分侵害額算定において加算する債務の額は,相続債務に遺留分権利者の相続分(法定相続分または指定相続分)に応じて承継する債務の額です。
四 受遺者,受贈者の負担額
1 負担額
受遺者や受贈者は,遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含みます。)や贈与の目的の価額(受遺者や受贈者が相続人の場合はその人の遺留分額を控除します。)を限度として,遺留分侵害額を負担します(民法1047条1項)。
2 受遺者や受贈者が複数人いる場合の負担の順番
受遺者や受贈者が複数人いる場合には,以下の順番で負担します。
①受遺者と受贈者がいるときは,受遺者が先に負担します(民法1047条1項1号)。
②受遺者が複数人いるときは,目的の価額の割合に応じて負担します。ただし,遺言者が遺言に別段の意思表示をしたときは,その意思に従います(民法1047条1項2号)。
③受贈者が複数人いて,贈与が同時にされたものであるときは,目的の価額の割合に応じて負担します。ただし,遺言者が遺言に別段の意思表示をしたときは,その意思に従います(民法1047条1項2号)。
④受贈者が複数人いて,贈与が同時にされたものでないときは,後の贈与の受贈者から順に前の贈与の受贈者が負担します(民法1047条1項3号)。
3 受遺者や受贈者が相続債務の弁済等をした場合
受遺者や受贈者が遺留分権利者が承継する債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務額の限度において,受遺者等は,遺留分権利者に対する意思表示により,負担する債務を消滅させることができます。この場合,遺留分権利者に対する求償権も消滅した債務額の限度で消滅します(民法1047条3項)。
4 受遺者や受贈者が無資力の場合
受遺者や受贈者の無資力によって生じた損失は遺留分権利者が負担します(民法1047条4項)。
遺留分侵害額を負担する受遺者や受贈者が無資力であっても,その分,他の受遺者や受贈者が負担するということはありません。
五 相当の期限の許与
遺留分侵害請求を受けた受遺者や受贈者が直ちに金銭の支払をすることができない場合があります。
そのようなことから,裁判所は,受遺者または受贈者の請求により,遺留分侵害請求により負担する債務の全部または一部につき相当の期限を許与することができます(民法1047条5項)。
六 遺留分侵害額請求権の行使期間
遺留分侵害額請求権は,①遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅し,②相続開始の時から10年を経過したときは,除斥期間により消滅します(民法1048条)。
遺留分請求権はその行使により金銭債権が発生する形成権ですので,遺留分侵害額請求権の行使により生じた金銭債権は,別途,消滅時効にかかります。時効期間は通常の金銭債権と同様です。
七 遺留分侵害額請求権の事前放棄
遺留分権利者は,相続開始前に,家庭裁判所の許可を得て,遺留分を放棄することができます(民法1049条1項)。
共同相続人の一人のした遺留分の放棄は,他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません(民法1049条2項)。
なお,相続開始後の遺留分の放棄には,家庭裁判所の許可はいりません。
【相続・遺言】相続法の改正 遺産分割前の遺産の処分
相続法の改正により,遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲についての規定(民法906条の2)が設けられました。この規定は2019年7月1日から施行されます。
一 遺産分割前の遺産の処分
民法906条の2第1項では「遺産の分割前に,遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人は,その全員の同意により,当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる」と規定されています。
相続開始後,遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合,共同相続人全員の同意があれば,処分された財産を遺産分割の対象とすることができるということです。
同条項は処分者を限定していませんので,共同相続人以外の第三者が処分した場合にも適用されます。例えば,第三者が遺産を処分し,共同相続人が第三者に対し損害賠償請求をすることができる場合には,共同相続人全員の同意により,第三者に対する損害賠償請求権を遺産分割の対象とすることができます。
また,同意を撤回できるとする規定はありませんので,共同相続人全員が同意し,処分された財産を遺産とみなす効果が生じた後は,同意を撤回することはできないと考えられます。ただし,同意は意思表示ですから,錯誤,詐欺,強迫等,意思表示の瑕疵・欠缺の規定の適用はあります。
二 共同相続人の一部が遺産分割前に遺産を処分した場合
民法906条の2第2項では「前項の規定にかかわらず,共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは,当該共同相続人については,同項の同意を得ることを要しない。」と規定されています。
相続開始後,遺産分割前に,共同相続人の一部の人が遺産に属する財産を処分した場合には,処分をした人以外の共同相続人全員の同意があれば,処分された財産を遺産分割の対象とすることができるということです。
共同相続人の一部が遺産分割前に遺産を処分した場合(例えば,相続開始後に共同相続人の一人が他の共同相続人に無断で遺産である預貯金を引き出した場合),改正前も共同相続人全員の同意があれば,処分された財産を遺産分割の対象とすることはできました。
しかし,財産を処分した共同相続人が反対した場合には遺産分割の対象とすることはできず,民事訴訟(損害賠償請求訴訟や不当利得返還請求訴訟)で解決しなければなりませんでした。
改正により,財産を処分した共同相続人の同意は不要となりますので,他の共同相続人全員の同意があれば,処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとして,遺産分割をすることができるようになります。
相続法の改正 遺産分割前の預貯金払戻し,仮分割の仮処分
相続法の改正により,2019年7月1日から,遺産分割前の預貯金債権の払戻請求ができるようになります。また,預貯金債権の仮分割の仮処分の要件も緩和されます。
一 預貯金債権の遺産分割
以前は,預貯金債権は一部を除いて法定相続分により当然分割されるので,遺産分割は不要であるという扱いでした。
しかし,その後,最高裁判所の平成28年12月19日の決定や平成29年4月6日の判決が出て,預貯金債権は,相続開始と同時に当然に分割されることはなく,遺産分割の対象となることとされました。
そのため,相続人が預貯金の払戻しを受けるには,共同相続人全員で同意をするか,遺産分割をしてから払戻請求をしなければなりませんが,葬儀費用の支払い等のために早期の預貯金払戻しが必要な場合には困ったことになります。
そのようなことから,相続法の改正では,遺産分割前の預貯金払戻しの制度が設けられるとともに(民法909条の2),仮分割の仮処分の要件が緩和されました(家事事件手続法200条3項)。
二 遺産分割前の預貯金債権の払戻し
相続法の改正により,遺産分割前であっても,各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち一定額については,家庭裁判所の判断を経ずに,単独で金融機関に預貯金の払戻しを請求することができます(民法909条の2)。
払戻請求できる金額は,原則として,遺産に属する預貯金債権のうち相続開始時の預貯債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額です(民法909条の2前段)。この金額は預貯金債権(口座)ごとに算定されます。
ただし,遺産分割前の預貯金の払戻しは他の共同相続人の利益を害するおそれがあることから,払戻請求できる金額には,標準的な当面の必要生活費,平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して,預貯金債権の債務者(金融機関)ごとに,法務省令で定める上限額があります(民法909条の2前段)。法務省令では上限額は150万円とされています(平成30年法務省令第29号)。
上限額は金融機関ごとの金額であり,複数の金融機関に預貯金がある場合には,それぞれの金融機関から上限額まで払戻しを受けられることになります
また,権利行使した預貯金債権については,権利行使した相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされます(民法909条の2後段)。
預貯金の払戻請求をした相続人に特別受益がある等して,払戻金額がその相続人の具体的相続分を超える場合には,払戻しを受けた相続人は,超過額について,他の共同相続人に清算しなければなりません。
三 仮分割の仮処分の要件緩和
相続法の改正前も,家事事件手続法200条2項により,預貯金債権について審判前の保全処分(仮分割の仮処分)をすることができましたが,家事事件手続法の改正で要件が緩和されました。
改正後,家庭裁判所は,①遺産分割の審判または調停の申立てがあった場合に,②相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を申立人または相手方が行使する必要があると認められるときは,③他の共同相続人の利益を害する場合でない限り,申立てにより,遺産に属する特定の預貯金の全部又は一部を申立人に仮に取得させることができます(家事事件手続法200条3項)。
相続法改正 配偶者保護 持戻し免除の意思表示の推定
相続法の改正により,2019年7月1日から,婚姻期間が20年以上の配偶者に居住用不動産を遺贈又は生前贈与した場合には,特別受益の持戻し免除の意思表示が推定されます。持戻しが免除されることにより,配偶者が遺産分割で取得できる財産が増えることになります。
一 特別受益の持戻しと持戻し免除の意思表示
1 特別受益の持戻し
共同相続人間の公平を図る観点から,共同相続人の中に被相続人から生前贈与等を受け,特別受益にあたる場合には,被相続人が持戻免除の意思表示をした場合を除き,持戻計算が行われます(民法903条)。
例えば,遺産総額が4000万円で相続人が配偶者と子2名の場合で,被相続人が配偶者に自宅(2000万円相当)を生前贈与していたときには,特別受益の持戻しにより,配偶者の具体的相続分は1000万円(計算式:(4000万円+2000万円)×2分の1-2000万円=1000万円),子の具体的相続分は,それぞれ1500万円(計算式:(4000万円+2000万円)×4分の1=1500万円)となります。
2 持戻し免除の意思表示
被相続人は持戻し免除の意思表示をすることもできます(民法903条)。
持戻し免除の意思表示をした場合には持戻し計算は行われません。
例えば,遺産総額が4000万円で相続人が配偶者と子2名の場合で,被相続人が配偶者に自宅(2000万円相当)を生前贈与するとともに,持戻し免除の意思表示をしていたときは,配偶者の具体的相続分は2000万円(計算式:4000万円×2分の1),子らの具体的相続分は1000万円(計算式:4000万円×4分の1)ずつとなります。
持戻し免除の意思表示に特別な方式はありません。また,明示の意思表示の場合のみならず,黙示の意思表示の場合もあります。
二 持戻し免除の意思表示の推定
相続法の改正により,婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは,持戻し免除の意思表示をしたものと推定されることになります(民法903条4項)。
被相続人が長年連れ添った配偶者への居住用不動産の贈与等をするのは,配偶者の貢献に報いるとともに,配偶者の老後の生活保障をするためであり,被相続人が持戻し計算をさせる意図であったとは通常考えられないからです。
居住用不動産に限定しているのは,居住用不動産が配偶者の老後の生活保障にとって重要だからですし,対象を広くすると配偶者以外の相続人への影響が大きくなるからです。
また,居住用不動産にあたるかどうかは遺贈や贈与をしたときを基準に判断するのが原則であると考えられます。
なお,推定規定ですので,被相続人は持戻しの免除をしないという意思表示をすることもできます。
また,改正規定が適用されるのは施行日(2019年7月1日)からであり,施行日前の遺贈等については適用されません(附則4条)。
【相続・遺言】相続法改正 自筆証書遺言の方式緩和
相続法の改正により,平成31年1月13日から,自筆証書遺言の方式が緩和されました。
改正前は自筆証書遺言は遺言者が全文を自書しなければなりませんでしたが,改正により,相続財産の目録について自書する必要がなくなり,パソコン等で作成した目録を添付して,自筆証書遺言を作成することができるようになりました。
一 遺言書に添付する財産目録について自書が不要
改正後の民法968条では,1項で「自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。」と規定しておりますが,2項で「前項の規定にかかわらず,自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合のおける同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については,自書することを要しない。この場合において,遺言者は,その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては,その両面)に署名し,印を押さなければならない。」と規定し,遺言書に添付する財産目録については自書を要しないとして方式を緩和しています。
改正前は財産目録を含め全文自書しなければならなかったので,不動産や預金等財産が多数ある場合には相当な負担となりましたが,改正により自筆証書遺言を作成する負担が軽減されました。
財産目録について自書を要しないことから,財産目録として,ワープロで作成したもの,遺言者以外の者が代筆したもの,不動産の登記事項証明書,預金通帳の写し等を遺言書に添付することができます。
二 自書によらない財産目録添付の方法
1 ページ毎の署名押印
自書によらない財産目録を添付するにあたっては,財産目録のページ毎(自筆によらない記載が両面にある場合は両面)に遺言者が署名押印しなければなりません(民法968条2項)。
遺言者の署名押印が必要とされるのは,遺言書の偽造や変造を防ぐためです。
2 財産目録の加除その他の変更
改正後の民法968条3項は「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。」と規定しており,自筆によらない財産目録についても加除その他の変更をすることができます(なお,改正前は加除その他の変更の規定は2項でしたが,改正後は3項になりました。)。
【相続・遺言】代襲相続
相続人となるべき被相続人の子や兄弟姉妹が相続開始前に亡くなった場合,その子が代襲相続人となります(民法887条2項,889条3項)。
一 代襲相続とは
相続人となるべき被相続人の子(または兄弟姉妹)が,相続開始以前に死亡等一定の原因により相続権を失ったときは,被相続人の孫以下の直系卑属(または兄弟姉妹の子)が相続人となることを代襲相続といいます。
代襲相続の制度は,相続人となるべき者の子の利益・期待の保護や生活保障,相続人間の公平を図ることを目的としています。
二 代襲原因
代襲相続の原因としては,①相続開始以前の死亡,②欠格,③廃除です(民法887条2項)。
相続放棄は,条文に規定されていないので,代襲原因とはなりません。
被相続人に多額の負債があり,相続人が相続放棄した場合,相続放棄した者の子は代襲相続人とはなりませんので,相続放棄の手続をする必要はありません。
三 代襲相続人
1 代襲相続人となることができる者
代襲相続人となることができるのは,①被相続人の子(民法887条2項),②被相続人の兄弟姉妹(民法889条2項)。
ただし,被相続人の子の子は被相続人の直系卑属でなければ代襲相続人になれません(民法887条2項但書)。養子の連れ子(養子縁組前に生まれた子)は,被相続人の直系卑属ではないので,代襲相続人になることはできません。
2 再代襲
被相続人の子に代襲原因があれば,その子(被相続人の孫)が代襲相続人となりますが,さらに孫に代襲原因がある場合には,その子(被相続人の曾孫)が代襲相続人となります(民法887条3項)。
兄弟姉妹についても再代襲相続があるかどうか問題となりますが,民法889条2項は民法887条2項を準用するものの,民法887条3項は準用していないので,再代襲はありません。
四 代襲相続人の法定相続分
代襲相続人の相続分は被代襲者の相続分と同じです(民法901条)。
被代襲者の代襲相続人が複数いる場合には,各代襲相続人の相続分は被代襲者の相続分を等分したものになります(民法901条,民法900条4号)。
例えば,被相続人に子A,Bがいて,Aが被相続人より先に亡くなり,Aの子C,Dが代襲相続した場合,被代襲者Aの法定相続分は2分の1ですので,代襲相続人C,Dの法定相続分は4分の1ずつとなります。
五 代襲相続人の特別受益
民法903条1項は「共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続人財産とみなし,前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定していて,これを特別受益の持戻しといいますが,代襲相続の場合はどうでしょうか。
1 被相続人が被代襲者に生前贈与した場合
代襲相続人は被代襲者が取得すべきだった相続分を取得することになりますので,被相続人が被代襲者に生前贈与した場合には,代襲相続人の特別受益となるのが原則であると解されます。
2 被相続人が代襲相続人に生前贈与した場合
代襲原因が発生した後に被相続人が代襲相続人に生前贈与した場合には,贈与の時点で代襲相続人は相続人の地位にありますので,代襲相続人の特別受益となると解されます。
これに対し,代襲原因が発生する前に被相続人が代襲相続人に生前贈与した場合には,贈与の時点では代襲相続人は相続人の地位にはないことから,特別受益にあたるかどうか見解が分かれています。原則として特別受益にはあたらないけれども,被代襲者への受益と同視できる特段の事情があれば,特別受益にあたるとする見解もあります。
六 代襲相続人の寄与分
民法904条の2第1項は「共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」と規定しておりますが,代襲相続の場合はどうでしょうか。
1 被代襲者が特別の寄与をした場合
代襲相続人は被代襲者が取得すべきだった相続分を取得することになりますので,被代襲者に特別の寄与があれば,代襲相続人に寄与分が認められるものと解されます。
2 代襲相続人が特別の寄与をした場合
代襲相続人が特別の寄与をした場合についても,代襲相続人の寄与が相続人の寄与と同視できる場合には,代襲相続人に寄与分が認められるものと解されます。
七 相続させる旨の遺言がある場合
相続させる旨の遺言とは,例えば,「○○に一切の財産を相続させる。」,「○○に□□を相続させる。」といったように,特定の相続人に遺産を相続させる旨記載された遺言のことをいいますが,その特定の相続人が相続開始以前に亡くなった場合,代襲相続人がその遺産を取得するか問題となります。例えば,相続人Aに一切の財産を相続させる旨の遺言がある場合に,相続開始以前にAが亡くなったときは,Aの代襲相続人Bが一切の財産を取得することになるのかという問題です。
この点については,通常,遺言者は,特定の相続人に遺産を取得させる意思を有していたにとどまり,遺言者が代襲者に相続させる意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り,効力が生じないものと解されております。
遺言者が,特定の相続人が先に亡くなったのであれば,その代襲相続人に相続させたい場合には,「遺言者より前または遺言者と同時に○○が死亡していた場合には,○○の子(代襲相続人)△△に□□を相続させる。」旨の予備的遺言を残しておくことが考えられます。
八 相続人の資格の重複
被相続人が自分の孫を養子とした後,被相続人より先に養子の親である被相続人の子が亡くなった場合,孫には養子として相続人の資格と代襲相続人としての資格が重複することになります。その場合,養子(孫)が,双方の相続分を取得するか問題となりまります。
この点については,肯定する見解と否定する見解がありますが,登記先例では,双方の相続分を取得すると解されております。
例えば,長男,二男がいる被相続人が二男の子(孫)を養子とした場合,肯定説によると,被相続人より先に二男が亡くなったときは,養子となった孫は,養子としての相続分3分の1と,代襲相続人としての相続分3分の1を取得することになります。
【相続・遺言】不動産の遺産分割
被相続人の遺産に不動産がある場合,不動産は共同相続人の共有(遺産共有)となります。
不動産の遺産共有状態を解消するためには遺産分割が必要となりますが,不動産の遺産分割はどのようにすればよいでしょうか。
一 遺産の特定
まず被相続人の遺産として,どのような不動産があるか調べます。
不動産を調べる方法としては,固定資産税納税通知書の明細書を確認し,そこに記載されている不動産の登記事項証明書をとって調べることが考えられます。
もっとも,固定資産税が課税されていない不動産は固定資産税納税通知書に記載されませんので,非課税不動産である私道の存在に気付かないまま,遺産分割をしてしまうおそれがあるので注意しましょう。
名寄帳には非課税の不動産も記載されていますので,非課税の不動産を見落とさないようにするには名寄帳で確認したほうがよいでしょう。
二 遺産の評価
遺産分割をするにあたって,各当事者の具体的相続分を計算するため,遺産を金銭で評価する必要があります。
また,誰がどの遺産を取得するか,代償金支払の必要性やその金額等,遺産分割の方法を決めるためにも,遺産の評価が必要となります。
1 評価の方法
遺産の評価の方法としては,当事者の合意による場合と鑑定による場合があります。
(1)当事者の合意
遺産分割は当事者の意思に基づいて行うことができますので,遺産の評価についても当事者の合意により決めることができます。
当事者の合意で,不動産の評価額を決める場合には,固定資産評価額,相続税評価額(路線価),不動産業者の査定書,私的鑑定等の資料が参考となります。
(2)鑑定
当事者で合意ができない場合は,鑑定を行うことになります。
鑑定を行う場合には,原則として裁判所に鑑定費用を予納します。その際,鑑定費用を誰が負担するか問題となります。
2 評価の基準時
基本的には,遺産分割時(現実に分割するとき)を基準時として遺産を評価しますが,寄与分や特別受益が問題となる場合には,相続開始時の評価に基づいて,具体的相続分を計算します。
もっとも,遺産の評価を2時点で行うことは煩雑であり,鑑定費用も余計にかかりますし,相続開始時からあまり時間が経過していない場合には評価額に大きな違いはないでしょうから,当事者の合意があれば,一時点で評価することもあります。
三 遺産分割の方法
1 現物分割
遺産分割は,現物分割(個々の財産をそのまま相続人に取得させる方法)が基本です。
遺産である土地が広い場合には,分筆して,現物分割することも考えられます。
2 代償分割
現物分割が基本ですが,各相続人の相続分に見合う財産があるとは限りませんので,現物分割と代償分割(相続分を超える遺産を取得した相続人が他の相続人に金銭の支払等債務を負担する方法)を併用することがよくあります。
例えば,ある相続人が不動産を取得し,他の相続人が預金を取得することにした場合に,相続分を超えて取得した側から足りない側に代償金を支払うことで調整します。
3 換価分割
不動産以外にめぼしい財産がない場合や不動産を取得する者に代償金を支払う資力がない場合には,不動産を売却して,売却代金を分割することが考えられます。
4 共有分割
現物分割,代償分割,換価分割のいずれも方法もとれない場合には,共同相続人で共有すること(共有分割)になりますが,共有状態はトラブルになる可能性がありますので,できる限り避けたほうがよいでしょう。
四 登記
遺産分割により不動産を取得した場合,不動産を取得した相続人は,所有権移転登記手続をすることになります。
1 相続登記がない場合(被相続人名義の場合)
遺産分割により,ある相続人が不動産を単独で取得したときは,その相続人は,単独で,「相続」を登記原因とする所有権移転登記の申請をすることができます(不動産登記法63条2項)。
2 相続登記がある場合(共同相続人名義の場合)
共同相続人が相続登記をした後に,遺産分割により,ある相続人がその不動産を取得したときには,取得した相続人を登記権利者,他の相続人を登記義務者として,共同で,「遺産分割」を登記原因とする所有権移転登記手続の申請をしなければなりません。
そのため,遺産分割調停や審判で,不動産を取得した相続人が単独で登記申請ができるようにするためには,単に「不動産を取得する」と定めるだけではなく,他の相続人に対し「遺産分割を原因とする共有持分の移転登記手続をせよ」と登記手続を命ずる調停条項や審判が必要となります。