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労働者の業務外の負傷・病気(私傷病)と解雇

2017-06-29

労働者が業務外で負傷や病気をして働けなくなった場合,使用者はその労働者を解雇することができるでしょうか?

 

一 私傷病により労務を提供できなくなったことによる解雇

労働者が業務と無関係な負傷や病気により労務を提供することができなくなった場合には,業務上災害による療養中の解雇制限(労働基準法19条1項)の適用はありませんので,使用者は労働者を解雇することができます。

もっとも,解雇権濫用規制(労働契約法16条)がありますので,早期回復の見込みがあるのに解雇した場合や,休職制度があるにもかかわらず,休職させず解雇した場合には,解雇権の濫用にあたり解雇が無効となるおそれがあります。

回復の見込みがなく,就労が不可能であることが明らかである場合には,休職させずに解雇しても解雇権の濫用とはならないでしょうが,後述の傷病休職制度がある場合には,いきなり解雇するのではなく,まずは休職させたほうが,トラブルを避ける意味で無難といえます。

また,傷病休職制度がない場合であっても,同程度の期間は労働者の回復を待ったほうが無難といえます。

 

二 傷病休職

1 休職とは

休職とは,労働者に労務への従事が不能または不適当な事由がある場合に,使用者がその労働者に対し,労働契約関係は維持しつつも労務への従事を免除または禁止することをいいます。

休職制度は,法令の規定に基づくものではありませんが,就業規則や労働協約に基づいて企業がもうけているものです。

 

休職の種類には,傷病休職(業務外の傷病による欠勤の場合),事故欠勤休職(傷病以外の自己都合による欠勤の場合),起訴休職(刑事事件で起訴された場合)等があります。

 

2 傷病休職とは

業務外の傷病による長期欠勤が一定期間に及んだ場合,使用者は労働者に休職を命じることができます。

労働者が休職期間中に傷病が治癒し就労可能となれば休職は終了し復職しますが,治癒せずに休職期間満了となれば自然退職または解雇となります。

 

この制度を傷病休職といい,解雇の猶予を目的としています。

 

3 傷病期間中の賃金

傷病休職中は,労務の提供がなされていませんし,使用者の責めに帰すべき事由もないので,特段の定めがない限り賃金は支払われません。

ただし,健康保険に加入していれば傷病手当金の支給はあります。

 

4 休職期間

休職期間の長さは就業規則等の定めによりますが,勤続年数,傷病の性質,企業の規模等によって異なるのが通常です。

 

5 自然退職と解雇

休職期間が満了しても治癒しない場合には,自然退職または解雇となります。

 解雇の場合には解雇予告等の解雇規制がありますが,自然退職の場合には当然に労働契約が終了しますので解雇規制の適用はありません。

そのため,使用者の立場からすれば,自然退職にしたほうがトラブルになりにくいといえるでしょう。

 

6 治癒したといえるかどうか

休職期間が満了するまでに治癒しないと自然退職または解雇となりますので,傷病休職では「治癒」したかどうかが大きな問題となります。

治癒したといえるには,原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していなければなりませんが,職種や職務の内容によっては,軽易な労務しかできない場合であっても,配置転換で対応できるときや,徐々に従前の職務を通常程度に行えるようになるときには,治癒したものと認められることがあります。

 

  また,治癒したかどうかは医師の診断によりますので,労働者は医師の診断を受けて,治癒を証明する診断書を提出します。使用者が医師を指定してきた場合,就業規則等の定めや合理的な理由があれば,労働者は指定医の診断を受けなければなりません。労働者が医師の診断を受けることに協力しない場合には,労働者に不利に判断されることがあります。

 

7 復職後に再び欠勤した場合

休職していた労働者が,復職後しばらくして再び体調を崩し,欠勤することがあります。

  就業規則等に,復職後一定期間内に同一または類似の事由で欠勤したり,労務提供ができなくなったりした場合には,復職を取消して休職させ,復職前の休職期間と通算する旨規定されていれば,使用者は,その規定に基づいて対応することになります。

そのような規定がない場合や一定期間経過後に欠勤した場合には,使用者は,改めて休職の手続をとるか,普通解雇を検討することになります。

【労働問題】解雇予告・解雇予告手当

2016-07-13

民法では,期間の定めのない雇用契約については,各当事者はいつでも解約の申入れをすることができ,申入れの日から2週間を経過することによって終了しますが(民法627条1項),解雇により労働者が被るダメージを考慮して,解雇予告・解雇予告手当の制度が設けられております。

 

一 解雇予告・解雇予告手当とは

使用者は,労働者を解雇しようとする場合,少なくとも30日前にその予告をしなければならず,30日前に予告をしない使用者は,30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。

予告の日数については,平均賃金を支払った日数分短縮することができます(労働基準法20条2項)。

ただし,①天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合,②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には,解雇予告や解雇予告手当は必要なく,使用者は労働者を即時解雇することができますが(労働基準法20条1項但書),行政官庁(労働基準監督署長)の認定を受けることが必要となります(労働基準法20条3項,19条2項,労働基準法施行規則7条)。

 

二 解雇予告・解雇予告手当が不要である場合

以下の労働者については,解雇予告制度の適用はなく(労働基準法21条),解雇予告も解雇予告手当も必要ありません。

①日日雇い入れられる者

(1か月を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)

②2か月以内の期間を定めて使用される者

(所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)

③季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者

(所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)

④試用期間中の者

(14日を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)

 

三 労働基準法20条に違反した場合

1 罰則

労働基準法20条に違反した場合には,処罰されます(労働基準法119条)。

 

2 解雇の効力

30日前の予告または解雇予告手当の支払をしないで行われた解雇については,即時解雇としての効力は生じませんが,使用者が即時解雇に固執する趣旨ではない限り,通知後30日を経過するか,解雇予告手当の支払をしたときに,解雇の効力が生じると解されております(相対的無効説)。

【労働問題】解雇規制

2016-07-05

解雇により,労働者は職を失い,経済的に大きなダメージを受けることになりますので,労働契約法や労働基準法,その他の法律で解雇は規制されております。

解雇の規制としては,①解雇権濫用規制,②契約期間中の解雇規制,③解雇予告,④国籍,信条,社会的身分による差別的取扱いによる解雇の禁止,⑤業務上災害による療養中の解雇の禁止,⑥産前産後の休業中の解雇の禁止,⑦不当労働行為としての解雇の禁止,⑧雇用機会均等法による解雇の禁止,⑨育児介護休業法による解雇の禁止,⑩パートタイム労働法による解雇の禁止,⑪法律違反を監督機関に申告したことを理由とする解雇の禁止,⑫個別労働関係紛争解決促進法による解雇の禁止,⑬公益通報したことを理由とする解雇の禁止等があります。

 

1 解雇権濫用規制

解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効となります(労働契約法16条)。

 

2 契約期間中の解雇規制

期間の定めのある労働契約(有期労働契約)については,やむを得ない事由がある場合でなければ,契約期間が満了するまで解雇することはできません(労働契約法17条1項)。

 

3 解雇予告

使用者は,原則として,労働者を解雇しようとする場合には,30日前にその予告をするか,30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。

予告の日数は,1日について平均賃金を支払った分,日数を短縮することができます(労働基準法20条2項)。

 

4 国籍,信条,社会的身分による差別的取扱いによる解雇の禁止

使用者は,労働者の国籍,信条または社会的身分を理由として,賃金,労働時間その他の労働条件について,差別的取扱をしてはならず(労働基準法3条),労働者の国籍,信条または社会的身分を理由に解雇することは禁止されます。

 

5 業務上災害による療養中の解雇の禁止

使用者は,労働者が業務上負傷し,または疾病にかかり療養のために休業する期間とその後30日間は解雇してはなりません。ただし,使用者が打切補償(労働基準法81条)支払う場合,天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合を除きます(労働基準法19条)。

 

6 産前産後の休業中の解雇の禁止

使用者は,6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には就業させてはなりません(労働基準法65条1項)。

また,使用者は,産後8週間を経過しない女性を就業させてはなりません。ただし,産後6週間を経過し,女性が請求した場合,医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えありません(労働基準法65条2項)。

使用者は,産前産後の女性が労働基準法65条の規定により休業する期間とその後30日間は解雇してはなりません。ただし,天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合を除きます(労働基準法19条)。

 

7 不当労働行為としての解雇の禁止

使用者は,労働者が組合員であること,労働組合に加入しようとしたこと,労働組合を結成をしようとしたこと,労働組合の正当な行為をしたこと,労働委員会に申立てをしたこと等を理由に解雇してはなりません(労働組合法7条1号,4号)。

 

8 雇用機会均等法による解雇の禁止

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(雇用機会均等法)は,性別を理由として解雇することは禁止されています(6条4号)。

また,使用者は婚姻,妊娠,出産,産前産後の休業を理由として女性労働者を解雇することはできません(9条2項,3項)。妊娠中の女性労働者,出産後1年を経過しない女性労働者の解雇は原則として無効となります(9条4項)。

また,労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたことや調停の申請をしたことを理由に解雇することは禁止されています(17条2項,18条2項)。

 

9 育児介護休業法による解雇の禁止

育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児介護休業法)では,育児休業,介護休業,子の看護休暇,介護休暇,所定外労働の制限,時間外労働の制限,深夜業の制限,所定労働時間の短縮措置等の規定があり,労働者が,それらの利用の申出・請求をしたり,利用したりしたことを理由とする解雇は禁止されています(10条,16条,16条の4,16条の7,16条の9,18条の2,20条の2,23条の2)。

また,労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたことや調停の申請をしたことを理由に解雇することは禁止されています(52条の4第2項,52条の5第2項)。

 

10 パートタイム労働法による解雇の禁止

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)では,通常の労働者と同視すべき短時間労働者について,短時間労働者であることを理由として差別的取扱をしてはならず(8条1項),短時間労働者であることを理由とする解雇は禁止されています。

また,短時間労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたことや調停の申請をしたことを理由に解雇することは禁止されています(21条2項,22条2項)。

 

11 法律違反を監督機関に申告したことを理由とする解雇の禁止

労働者が,法律違反を監督機関に申告したことを理由とする解雇は禁止されています(労働基準法104条2項,最低賃金法34条2項等)。

 

12 個別労働関係紛争解決促進法による解雇の禁止

個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律では,労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたことや,あっせんの申請をしたことを理由に解雇することは禁止されています(4条3項,5条2項)。

 

13 公益通報したことを理由とする解雇の禁止

公益通報者保護法では,労働者が,同法で定める要件を満たす公益通報をした場合,公益通報したことを理由とする解雇は無効となります(3条)。

 

【労働問題】整理解雇

2016-06-30

1 整理解雇

整理解雇とは,使用者が経営不振など経営上の理由により人員削減のために行う解雇のことです。

整理解雇も普通解雇の一種ですが,労働者の責に帰すべき事由があるわけではなく,使用者の経営上の理由から行われることに特徴があります。

 

2 整理解雇の有効性

整理解雇についても,解雇権濫用規制(労働契約法16条)が適用されるため,客観的に合理的理由がなく,社会通念上相当であると認められなければ,無効となります。

整理解雇が有効かどうかは,①人員削減の必要性,②解雇回避の努力,③人選の合理性,④手続の相当性で判断されると解されています。

①から④のすべてを満たさなければ整理解雇が有効と認められないとする考え(要件説)もありますが,近時は,①から④を総合的に判断して有効性を判断すること(要素説)が多いといわれています。

例えば,人員削減の必要性が高い場合には,他の要素が不十分でも整理解雇が有効と認められることがあります。

 

(1)人員削減の必要性

整理解雇の有効性の判断にあたっては,経営不振など経営上の理由から人員削減をする必要性があるかどうかが考慮されます。

企業が倒産の危機に瀕している場合だけでなく,企業の合理化・効率化の観点から不採算事業を縮小・廃止する場合にも,人員削減の必要があるといえます。

(2)解雇回避の努力

整理解雇の有効性の判断にあたっては,使用者が解雇を回避すべき努力をしたかどうかが考慮されます。

使用者は,新規採用の削減,配転・出向,希望退職者の募集など他の手段をとり,解雇を回避するために努力する義務を負い,解雇回避の努力もせず,いきなり解雇した場合には,解雇が無効となるのが通常です。

 

(3)人選の合理性

整理解雇の有効性の判断にあたっては,誰を解雇するかの選定に合意性があるかが考慮されます。

選定が合理的であるかどうについては,①誰を解雇するかの基準(整理基準)が設けているかどうか,②基準が合理的であるかどうか,③基準が公正に適用されているかどうかが問題となります。

会社への貢献度や,整理解雇によるダメージの低さを基準として選定することは合理性があると解されています。

正社員よりも非正規労働者を先に整理解雇することも合理性があると解されております。

 

(4)手続の相当性

整理解雇の有効性の判断にあたっては,使用者が労働組合や労働者に対し,整理解雇の必要性や時期,規模,方法等につき,説明し,協議したかどうかが考慮されます。

労働協約に協議・説明義務の定めがある場合には,使用者が協議・説明をせずにした整理解雇は無効となりますし,定めがない場合であっても,信義則上,使用者には,協議・説明する義務があると解されております。

【労働問題】懲戒解雇

2016-06-27

解雇には普通解雇と懲戒解雇があります。

懲戒解雇について,説明します。

 

一 懲戒解雇とは

懲戒解雇は,懲戒処分として行われる解雇です。

懲戒処分とは,使用者が,業務命令や服務規律に違反した労働者に対し,制裁として行う不利益措置であり,懲戒解雇は,最も重い懲戒処分です。

 

なお,懲戒処分としての解雇には,懲戒解雇以外に諭旨解雇もあります。

諭旨解雇とは,労働者に退職願を提出させた上で解雇することであり(労働者に退職願を提出させ退職扱いとする場合には,諭旨退職といいます。),退職金の支払の点等で,懲戒解雇よりも軽い処分です。

 

二 普通解雇と懲戒解雇の違い

普通解雇と懲戒解雇は,いずれも使用者が労働契約を解約することではありますが,懲戒解雇は,懲戒処分である点,以下のような違いがあります。

 

①退職金規程に,懲戒解雇の場合には,退職金の全部または一部を支給しないと規定されていることがあります。

 

②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には解雇予告や解雇予告手当は必要ありません(労働基準法20条)。「労働者の責に帰すべき事由」と懲戒解雇事由は必ずしも一致するわけではありませんが,懲戒解雇する場合には,通常,解雇予告や解雇予告手当もなく即時に解雇されます。

 

③懲戒解雇の場合,使用者は,離職票の離職理由の「重責解雇(労働者の責めに期すべき重大な理由による解雇)」の欄にチェックを入れるのが通常であり,重責解雇の場合には雇用保険の給付制限があります(雇用保険法33条)。

 

三 どのような場合に懲戒解雇をすることができるのか

1 就業規則上の定めがあること

使用者が懲戒処分をするには懲戒事由や懲戒処分の種類や程度を就業規則に定めておかなければなりません。

そのため,使用者が懲戒解雇をするには,就業規則に,懲戒解雇事由や懲戒解雇の定めがあることが必要となります。

就業規則に懲戒解雇事由や懲戒解雇の定めがない場合には,使用者は労働者を懲戒解雇することはできません。

 

2 懲戒権の濫用規制,解雇権の濫用規制

懲戒解雇は,懲戒処分として行われる解雇ですので,懲戒権の規制と解雇の規制の双方の適用を受けます。

労働契約法15条は「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及びその態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると求められない場合は,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は無効とする。」と規定しており,懲戒権の濫用を規制しておりますので,懲戒解雇は同条の規制を受けます。

また,労働契約法16条は「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定しており,解雇権の濫用を規制しておりますので,懲戒解雇は同条の規制も受けます。

懲戒解雇は,普通解雇よりも労働者の不利益が大きいので,普通解雇の場合よりも,厳しく規制されます。

 

四 懲戒解雇事由に該当する場合に,普通解雇をすること

懲戒解雇は,普通解雇よりも労働者の不利益が大きいので,普通解雇の場合よりも,厳しく規制されるため,普通解雇としては有効でも,懲戒解雇としては無効とされることがあります。

そのようなことから,使用者は,懲戒解雇事由がある場合であっても,懲戒解雇ではなく,普通解雇することがあります。

懲戒解雇と普通解雇のどちらを選択するかは使用者が判断することですので,懲戒解雇事由がある場合であっても,懲戒解雇せずに,普通解雇することは,通常できます。

また,使用者が労働者を普通解雇する場合には,普通解雇として有効かどうかが問題となります。

 

五 懲戒解雇から普通解雇への転換

使用者が懲戒解雇をした後に,労働者が懲戒解雇の有効性を争い,懲戒解雇としては無効でも,普通解雇としては有効であるといえる場合には,懲戒解雇を普通解雇に転換して,普通解雇として有効であると認めてよいかという問題がありますが,懲戒解雇と普通解雇は別のものであり,労働者の地位を著しく不安定にするので,そのようなことはできないと解されております。

ただし,使用者は,労働者を懲戒解雇をした場合であっても,予備的に普通解雇をすることもできると解されておりますので,使用者が予備的に労働者を普通解雇したといえる場合には,懲戒解雇としては無効であっても,普通解雇として有効であると認められることがあります。

【労働問題】労働契約が終了する場合

2016-06-20

労働契約が終了する場合として,①解雇,②辞職,③合意解約,④定年,⑤有期労働契約における期間の満了,⑥当事者の消滅があります。どのような原因で労働契約が終了したかによって,規制の内容が異なります。以下,簡単に説明します。

 

1 解雇

解雇とは,使用者から労働契約を解約することです。

解雇には,普通解雇と懲戒解雇(懲戒処分として行われる解雇)があります。

また,経営上の必要から人員削減のために行われる整理解雇があります。

解雇は労働者の不利益が大きいことから,解雇濫用規制(労働契約16条),解雇予告・解雇予告手当(労働基準法20条)等,規制されています。

 

2 辞職

辞職とは,労働者から労働契約を解約することです。

辞職は,労働者の一方的な解約の意思表示であり,使用者に意思表示が到達した時点で効力が生じるため,到達後は撤回できません。

また,辞職には解雇の規制は及ばないため,使用者が,解雇の規制を免れようとして労働者に退職勧奨をし,辞職させようとすることがあります。

使用者が退職勧奨すること自体は問題ありませんが,執拗に退職勧奨した場合には不法行為となることがありますし,辞職の意思表示に瑕疵があるものとして無効・取消し原因となることがあります。

 

3 合意解約

合意解約とは,使用者と労働者が,合意により,労働契約を将来に向けて解約することです。

依願退職は,労働者が退職願を出し,使用者が承諾して退職するのが通常であるため,合意解約であると解されます。

退職願は合意解約の申し込みであり,使用者が承諾することで合意解約が成立するため,使用者が承諾するまでは撤回することができます。

また,合意解約には解雇の規制は及ばないため,使用者が,解雇の規制を免れようとして労働者に退職勧奨をし,労働契約を合意解約しようとすることがありますが,執拗な退職勧奨は不法行為となることがありますし,退職の意思表示の無効・取消し原因となることがあります。

 

4 定年

労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する制度を定年制といい,その年齢のことを定年といいます。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)により,原則として,定年は60歳を下回ることはできません(同法8条)。また,事業主は,65歳までの安定した雇用を確保するため,定年の引上げ,継続雇用制度,定年制の廃止のいずれかを講じなければなりません(同法9条)。

使用者が雇用継続制度を導入する場合,使用者と労働者は新たに労働契約を締結することになりますが,使用者が再雇用を拒否した場合には,解雇権濫用法理が類推適用され,再雇用が拒否できないことがあります。

 

5 有期労働契約における期間の満了

期間の定めがある労働契約(有期労働契約)は,期間の満了により終了します。

期間満了前は,やむを得ない事由がある場合でなければ解雇できません(労働契約法17条1項)。

有期労働契約については,更新されることがあります。

更新により契約期間が一定期間に達した場合,労働者の申込みにより,有期労働契約は期間の定めのない労働契約に転換されます(労働契約法18条)。

また,更新が繰り返されている場合に,使用者が更新を拒否すること(雇止め)については,従前は解雇権濫用法理を類推適用されていましたが(雇止め法理),現在は労働契約法19条により規制されています。

 

6 当事者の消滅

労働契約の当事者が死亡したときや,会社が解散して清算手続が完了し法人格がなくなったときには,労働契約は終了します。

なお,事業が承継された場合には,労働契約も承継されるか問題となります。

【労働問題】試用期間と試用期間中の解雇,本採用の拒否

2015-12-30

一 試用期間とは

使用者が労働者を正社員として本採用するかどうか決めるために,一定期間,試みに使用することを「試用」といい,その一定期間のことを「試用期間」といいます。

試用期間中の使用者と労働者の契約については,通常の場合,使用者に解約権が留保された労働契約であると解されており,使用者は,試用期間中,解約権を行使することができます(試用期間中の解雇,本採用の拒否)。

使用者からすれば,通常,雇った者に従業員としての適性がない場合であっても,容易には解雇することができないため,解約権が留保される試用期間の制度は重要であるといえます。

もっとも,労働者からすれば,試用期間中は地位が不安定となりますので,労働者の立場にも配慮しなければなりません。

二 試用期間の長さ

試用期間の長さについては,特に制限があるわけではありませんが,通常は1か月から6か月程度であり,3か月とすることが多いといわれています。

試用期間が,合理的理由がなく,長すぎる場合には,公序良俗違反となることもあり得ます。

また,試用期間は,就業規則などに定めがなければ,原則として延長することはできないと解されております。

三 解約権の行使(試用期間中の解雇,本採用の拒否)

試用期間中,使用者には労働契約の解約権が留保されていると解されておりますので,使用者は,雇った者が従業員としての適性を欠く場合には,解約権を行使することができます(試用期間中の解雇,本採用の拒否)。

もっとも,試用期間中であっても,使用者は無制限に解約権を行使することができるわけではありません。

 

1 解雇予告,解雇予告手当の規定

解雇予告や解雇予告手当の規定(労働基準法20条)は,試用期間中の労働者であっても14日を超えて引き続き使用された場合には適用されます(労働基準法21条)。

そのため,試用期間中の労働者について解約権を行使するにあたって,当該労働者が14日を超えて使用されている場合には,解雇予告をするか,解雇予告手当を支払わなければなりません。

 

2 解約権の行使に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であること

試用期間中は,通常の解雇の場合よりも,広い範囲で解約権の行使の自由が認められると解されておりますが,使用者の全くの自由というわけではなく,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当な場合のみ解約権の行使が認められると解されております。

そのため,労働者に何の問題もないにもかかわらず,単に使用者が労働者のことを気に入らないという理由だけでは解約できません。

労働者の勤務態度または勤務成績が不良であり,指導をしても,改善の見込みがない等客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当でなければ,解約はできません。

【労働問題】退職後の競業避止義務契約と退職金返還義務

2015-10-23

会社は,従業員が退職する際,競合する事業を営んだり,競合他社に就職したりする等の競業行為を禁止し,違反した場合には,退職金の返還を約束させることがあります。

会社からすれば,自社の営業秘密やノウハウを守るため,元従業員に競業避止義務を負わせる必要があるですが,元従業員からすれば,前職での経験を生かせるので前職と同種の仕事をしたいという考えがあるため,使用者と元従業員との間で争いになることがあります。

そこで,退職後の競業避止義務契約と退職金の返還義務について簡単に説明します。

一 退職後の競業避止義務

競業避止義務とは,使用者と競業する行為をしない義務をいいます。

従業員は,在職中は,雇用契約上の付随義務として競業避止義務を負いますが,退職した後まで当然に競業避止義務を負うわけではありません。

しかし,従業員が,退職後に競業行為を行い,在職中に知り得た使用者の営業秘密を利用したり,使用者の顧客を奪ったりすれば,使用者は不利益を被りますので,使用者の立場からすれば,退職後の従業員にも競業避止義務を負わせる必要があります。

そのため,使用者は,就業規則に退職後も競業避止義務を負うと規定したり,従業員の退職時に競業避止義務契約を締結したりして,元従業員に退職後も競業避止義務を負わせようとします。

 

二 競業避止義務契約の有効性

使用者からすれば,元従業員に競業避止義務を負わせる必要がある一方で,競業避止義務は,元従業員の職業選択の自由(憲法22条1項)に対する制約となります。

そのため,競業避止義務契約は当然に効力が認められるわけではなく,内容によっては無効となります。

競業避止義務契約が有効かどうかは,①使用者の目的,②元従業員の地位,③期間,地域,職種の限定の有無,④代償措置の有無といった事情を総合的に考慮して判断されると解されております。

①使用者が営業秘密や独自のノウハウを守るために,元従業員に競業避止義務を負わせることは必要性があるといえますが,②営業秘密や独自のノウハウとは関わりの薄い従業員にまで退職後も競業避止義務を負わせることは,必要性,合理性があるとはいえないでしょう。

また,③退職後,無制限に競業避止義務を負わせることは元従業員の職業選択の自由の観点から問題がありますので,競業行為を禁止する期間,地域,職種の限定の有無や限定の範囲が有効性判断に影響します。

期間が1年以内であれば合理性があると判断されやすいですが,2年以上の場合には合理性がないと判断されるおそれがあります。

また,職種を限定せず,一般的,抽象的に競業行為を禁止することも合理性がないと判断されるおそれがあるでしょう。

さらに,④元従業員に競業避止義務を負わせることの代償措置が全くとられていない場合には有効性が否定されることが多いですし,代償措置がとられていても不十分な場合には,有効性が否定されるおそれがあります。

 

三 退職金の返還義務

競業避止義務契約では,競業避止義務に違反した場合のペナルティとして,使用者は元従業員に対し損害賠償請求することができると規定するほか,退職金の返還を請求することができると規定することがあります。

もっとも,退職金は労働の対価の後払いとしての性質もありますし,使用者に損害が生じていない場合や軽微な違反の場合にまで,退職金を返還しなければならないとすると,元従業員に酷な場合もあります。

そのため,競業避止義務に違反しても顕著な背信性がない場合には退職金の返還が認められないことがありますし,使用者が被った損害と退職金額が釣り合っていない場合には,返還額が制限されることがあります。

 

四 まとめ

以上のとおり,使用者は,元従業員に退職後も競業避止義務を負わせることはできますが,元従業員の職業選択の自由の観点から,無制限に競業避止義務を負わせることができるわけではなく,合理的な範囲に限られます。

また,元従業員が競業避止義務に違反したとしても,退職金の返還義務があるかどうか問題となります。

そのため,使用者と元従業員との間で争いになった場合には,競業避止義務契約の内容,元従業員の退職前後の仕事の内容,使用者の被った損害等を具体的に検討する必要があります。

【労働問題】労働審判手続

2015-04-20

労働審判手続は、原則として3回以内の期日で終了するため紛争の迅速な解決が図れます。

その一方で、労働審判手続では、期日が限られていることから、事前の準備が非常に重要となります。当事者双方とも、第1回期日が始まるまでに、事案を把握し、主張や証拠提出の準備をほぼ終えていなければ対応できませんので、労働審判手続においては専門知識に基づく迅速な対応が不可欠です。

以下、労働審判手続について簡単に説明します。

 

一 労働審判手続とは

労働審判手続とは、個別労働関係民事紛争に関し、裁判所において、労働審判委員会が、当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決にいたらない場合には労働審判を行う手続であり、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的としています(労働審判法1条)。

二 労働審判の対象となる事件(個別労働関係民事紛争)

労働審判の対象は、「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」(個別労働関係民事紛争)です(労働審判法1条)。

解雇事件,残業代請求事件,退職金請求事件等、労働者と使用者との間の労働関係に関する民事紛争が労働審判手続の対象となります。

これに対し、集団的労使紛争、労働者間の紛争、行政事件(労災認定に対する不服申立て等)は、労働審判手続の対象とはなりません。

三 労働審判委員会

労働審判委員会は、労働審判官(地方裁判所の裁判官)1人と労働審判員(労働関係に関する専門的な知識経験を有する者 )2人で組織されます(労働審判法7条)。

四 労働審判の手続

労働審判手続は、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日において終了します(労働審判法15条2項)。

そのため、各当事者は、事前準備を十分に行うとともに、本人や関係者が期日に出席することができるようにスケジュールの調整を行うことが必要となります。

1 申立て

(1)申立書の提出

労働審判の申立ては、管轄裁判所に申立書を提出して行います(労働審判法5条2項)。

申立書には,申立ての趣旨及び理由(労働審判法5条3項2号)のほか、予想される争点、争点に関連する重要な事実、予想される争点ごとの証拠、当事者間の交渉その他の申立てに至る経緯の概要等を記載します(労働審判規則9条1項)。

(2)管轄裁判所

①相手方の住所、居所、営業所、事務所の所在地を管轄する地方裁判所

②労働者が現に就業する(または最後に就業した)事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所

③当事者が合意で定める地方裁判所

が管轄裁判所となります(労働審判法2条1項)。

なお、労働審判手続は、全ての地方裁判所で行われるわけではなく、一部の支部を除き、本庁でのみ行われています。

2 申立後から第1回期日まで

(1)答弁書の提出

相手方は、提出期限までに、答弁書を作成して提出しなければなりません。

答弁書では具体的な反論をしなければならず、民事訴訟のように「追って主張する。」ではいけません。

(2)補充書面の提出

答弁書に対する反論は労働審判期日に口頭で行いますが,補充書面を提出することもできますので(労働審判規則17条1項)、申立人は、第1回期日までに答弁書の内容を確認し、答弁書に対する反論があれば、補充書面を準備します。

3 第1回期日

労働審判委員会は、第1回期日に、争点及び証拠の整理を行い、可能な証拠調べを行います(労働審判規則21条1項)。第1回期日から本人や関係者の審尋も行われますので、本人や関係者が期日に出席できるよう予め準備しておく必要があります。

また、第1回期日から調停が試みられることや(労働審判規則22条)、審理が終結することもあります(労働審判法19条)。

4 第2回期日

やむを得ない事由がある場合を除き、主張や証拠書類の提出は第2回期日で終了します(労働審判規則27条)。

主張や証拠書類の提出が終了した後、労働審判委員会から調停案が示され、調停が行われることが通常です。

5 第3回期日

通常、第2回期日までに主張や証拠書類の提出は終了していますので、第3回期日では調停が行われます。

調停により解決できなかった場合には、審理が終結し、労働審判がなされます。

五 異議の申立て・労働審判の確定

労働審判に不服がある場合、当事者は、審判書の送達を受けた日(期日で告知を受けた場合には告知を受けた日)から2週間以内に裁判所に異議を申し立てることができます(労働審判法21条1項)。

適法な異議の申立てがあったときは、労働審判はその効力を失い(労働審判法21条2項)、申立て時に、訴えの提起があったものとみなされます(労働審判法22条1項)。

また、適法な異議の申立てがなかったときは、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を有します(労働審判法21条4項)。

 

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