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【交通事故】物損 修理費

2017-11-24

交通事故により車両が損壊し,被害者が車両を修理した場合,被害者は修理費について損害賠償請求することが考えられますが,どのようなことが問題となるでしょうか。

 

一 どのような場合に修理費が損害と認められるのか

①技術的にも経済的にも修理ができる場合(全損ではない場合)には,②必要かつ相当な範囲で,修理費が損害と認められます。

 

1 全損ではないこと

技術的に修理ができない場合(物理的全損)や,技術的には修理できても,修理費用が車両の時価等を上回る場合(経済的全損)には全損と判断されます。
全損の場合には車両の時価額や買替費用が損害となり,修理費は損害とはなりません。

 

2 必要かつ相当な範囲であること

修理ができる場合であっても,必要かつ相当な範囲の修理費が損害と認められます。
修理費の全額が損害と認められるとは限りませんので注意しましょう。
例えば,塗装の範囲(全塗装が必要なのか,部分塗装で足りるのか)が問題となり,全塗装しても部分塗装の限度で損害と認められることがあります。
また,部品交換の必要性(部品交換が必要なのか,板金修理で足りるのか)が問題となり,部品を交換しても板金修理の限度で損害と認められることがあります。

 

二 未修理の場合でも請求できるか

車両の修理がなされていない場合であっても,現実に損傷を受けている以上,損害は既に発生しているといえます。
修理が必要な場合には,修理費相当額分,車両の価値が下落しているので,修理費相当額が損害に当たると考えられます。

 

三 所有権留保やリースの場合でも請求できるか

所有権留保されている車両やリースされている車両の場合には,車両の使用者(所有権留保付売買契約の買主,リース契約のユーザー)は所有者ではありませんが,修理費の損害賠償請求はできると考えられています。
使用者が修理をし,修理費を負担した場合には,損害賠償による代位の規定である民法422条の類推適用により,使用者は損害賠償請求権を代位取得し,損害賠償請求権を代位行使できると考えることができます。
また,未だ修理していない場合であっても,所有権留保の場合には実質的な所有権は買主にある,買主は担保価値を維持する義務がある等の理由で,リース契約の場合には使用者が修理義務を負っている等の理由で,民法709条により,使用者は修理費相当額の損害賠償請求ができると考えることができます。

 

四 修理費を損害賠償請求するにあたっての注意点

1 修理費の全額が損害と判断されるとは限りません

全損にあたる場合には車両の時価額等が損害となりますし,必要かつ相当な範囲を超える修理費は損害とは認められませんので,実際に車両の修理をしても,修理費の全額が損害と認められるとは限りません。
修理するのであれば,加害者側との間で修理の範囲,方法,金額を確認してから,修理したほうがよいでしょう。

 

2 車両の損傷状況を証拠に残しておく必要があります

加害者側が,交通事故の発生の有無,事故態様,車両の損傷箇所,修理の必要性・範囲等について争ってきている場合には,車両の損傷状況を確認する必要性がありますが,修理してしまうと車両の損傷状況が分からなくなってしまいます。
修理してから損害賠償請求する場合には,少なくとも修理前に車両の損傷個所の写真を撮影する等して損傷状況が分かるよう証拠に残しておくべきです。

 

3 代車を使用する場合

事故後,修理するまでの間に代車を使用した場合には,修理に必要な相当期間の代車使用料が損害と認められます。
相手方との交渉期間についても合理的な範囲であれば相当期間に含められますが,交渉が長引いた場合には,代車使用料の全額が損害と認められるとは限りませんので,早めに修理したほうがよいでしょう。

 

【交通事故】自賠責保険における後遺障害等級認定

2017-11-20

交通事故の被害者に後遺障害がある場合には後遺症慰謝料や後遺症逸失利益が損害となります。そのため,被害者が損害賠償請求するにあたっては後遺障害の有無や程度が問題となりますが,基本的には自賠責保険の後遺障害等級認定により後遺障害の有無や程度が判断されています。

 

一 自賠責保険における後遺障害等級認定

後遺障害とは,これ以上治療しても症状の改善が望めない状態になったとき(症状固定時)に残存する障害のことです。
自賠責保険では,後遺障害の内容に応じて1級から14級の等級が認定され,その等級に応じて保険金の支払額が異なります。

 

二 損害額算定の基準

自賠責保険の認定は自賠責保険金の支払額を定めるものであり,加害者の被害者に対する損害賠償額を定めるものではありません。
もっとも,後遺症逸失利益算定のための労働能力喪失率や後遺症慰謝料の額は基本的に自賠責保険で認定された後遺障害等級によって決まりますので,自賠責保険の後遺障害等級認定は損害額算定の根拠になっています。

 

三  労災保険の等級認定基準との関係

自賠責保険の等級認定は,原則として,労災保険の障害の等級認定基準に準じて行われていますので,自賠責保険の認定基準と労災保険の認定基準はほとんど同じです。
もっとも,交通事故が労働災害にあたる場合には,労災保険と自賠責保険のそれぞれで等級認定を受けることがありますが,認定結果が異なることがあります。一般的には自賠責保険の認定のほうが労災保険の認定よりも厳しいといわれております。

 

四 後遺障害等級認定の手続

自賠責保険の後遺障害の等級認定は,損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所により行われますが,認定が難しい事案では地区本部・本部で審査されますし,認定困難事案等の特定事案では自賠責保険審査会で審査されます。
認定を受ける方法としては,①被害者の直接請求による場合(自賠法16条)と②事前認定による場合があります。

1 被害者請求

被害者は,請求書に後遺障害診断書等の必要書類を添えて,加害者の自賠責保険会社に保険金の支払を請求をすることができ,その際に後遺障害の等級認定を受けることができます。

 

2 事前認定

加害者の任意保険会社は,一括払い(任意保険会社が自賠責保険分も一括して支払い,支払い後に自賠責保険に請求すること)をする場合に予め自賠責保険からいくら支払われるのか知るため,調査事務所に関係書類を送付して損害調査を依頼し,確認することができます。
被害者が加害者の任意保険会社に後遺障害診断書を送ると,任意保険会社は後遺障害等級の事前認定を受け,被害者に結果を知らせてくれます。

 

五 後遺障害診断書

後遺障害の等級認定を受けるには,後遺障害診断書の提出が必要となります。
事故後,被害者が通院しなければ,医師は治療の経過や残存した症状を把握できませんので,後遺障害診断書を作成してくれないことがあります。後遺障害診断書を作成してもらうためにも,事故後,被害者はきちんと通院する必要があります。
また,診断書にはできる限り詳細に記入してもらったほうが良いでしょう。

 

六 認定に不服がある場合

1 異議申立て

非該当と認定されたり,思っていたよりも等級が低く認定されたりして,後遺障害等級認定に不服がある場合には,被害者は異議申立てをすることでき,それにより認定が変更されることがあります。
異議申立ては,被害者請求の場合には自賠責保険会社に行い,事前認定の場合には任意保険会社に行います。
異議申立てをしても認定された等級が下がることはありませんし,異議申立ては何度でも行うことができますので,不服がある場合には異議申立てを検討しましょう。

 

2 自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理の申請

後遺障害等級認定に不服がある場合には,自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理の申請をすることもできます。
紛争処理機構の結論は調停という形でなされ,保険会社は調停を遵守するものとされています。
紛争処理機構への申請により不利益に変更されることはありませんし,被害者は調停に拘束されませんが,紛争処理機構の調停は自賠責保険における最終の判断となりますので,再度の申請はできません。被害者が紛争処理機構の調停に納得できない場合には訴訟で争うことになります。

 

3 民事訴訟

自賠責保険の後遺障害等級認定に納得できない場合には,被害者は損害賠償請求訴訟で自身が相当であると考える後遺障害を主張して争うことができます。
訴訟でも自賠責保険による後遺障害等級認定の結果に沿った認定がなされるのが通常ですが,裁判所は自賠責保険の認定に拘束されませんので,自賠責保険の等級認定とは異なる認定をすることもできます。
また,自賠責保険では後遺障害等級に応じた労働能力喪失が定められており,訴訟でも参考にされますが,裁判所は被害者の職業・年齢・性別,後遺障害の部位・程度,事故前後の稼働状況,収入の減収額等,具体的な事情を考慮して,自賠責保険とは異なる労働能力喪失率で後遺症逸失利益を算定することがあります。

【交通事故】弁護士費用保険(弁護士費用特約)

2017-10-20

交通事故被害にあい,加害者に損害賠償請求する場合,弁護士費用保険(弁護士費用特約)がつかえれば,弁護士との法律相談料や依頼した場合の弁護士費用を保険会社が負担してくれます。

 

一 弁護士費用保険(弁護士費用特約)とは

弁護士費用保険(弁護士費用特約)とは,被保険者が交通事故等偶然の事故により被害を被ることによって,保険金請求者が損害賠償請求をした場合に弁護士費用を負担したことによって生じた損害について,一定の限度で保険金を支払われる契約です。

自動車保険の特約として,交通事故被害者が加害者に損害賠償請求する場合に弁護士との法律相談料や弁護士に依頼した場合の弁護士費用を保険会社が負担する場合が多いですが,自動車保険の特約以外の弁護士保険もありますし,交通事故被害の場合以外にも弁護士費用を負担してくれる契約もあります。
契約の内容は保険会社や保険商品によって異なりますので,詳しくは約款をご確認ください。

日弁連と協定を締結している保険会社の場合,日弁連リーガル・アクセス・センター(LAC)や各地の弁護士会のLACを通じて,弁護士を紹介してくれます。

 

二 弁護士費用保険(弁護士費用特約)を利用することによるメリット

1 弁護士費用の負担がなくなり,弁護士に相談や依頼がしやすくなる

弁護士への法律相談料や弁護士に依頼した場合の弁護士費用が保険会社から支払われるので,弁護士費用に躊躇して弁護士に相談や依頼ができない人にとっては,弁護士に相談や依頼がしやすくなるといえます。

 

2 保険料への影響

対人賠償保険や対物賠償保険等の主契約を利用した場合には,ノンフリート等級が下がり保険料が上がりますが,弁護士保険を利用してもノンフリート等級が下がらず,保険料に影響しません。

 

3 軽微な物損事故についても弁護士に依頼することができる

修理費が10万円から20万円くらいの軽微な物損事故で,依頼者が自ら弁護士費用を負担しなければならないとすると,費用倒れに終わるおそれがありますので,弁護士に依頼することは難しいでしょう。
しかし,弁護士費用保険を利用した場合には弁護士費用が保険会社から支払われるため,軽微な物損事故についても弁護士に依頼することができます。

 

三 弁護士費用保険(弁護士費用特約)を利用する場合の注意点

1 依頼者と弁護士との間の委任契約であること

弁護士費用保険は,依頼者が弁護士に依頼した場合の弁護士費用を保険会社が負担する保険であり,弁護士に依頼するにあたっては依頼者と弁護士が委任契約を締結しなければなりません。
依頼者は,契約の当事者ですので,当事者意識をもって,弁護士と協力して,紛争の解決に向けて努力する必要があります。

また,弁護士の報酬基準と保険会社の支払基準が異なる場合には,保険会社が弁護士費用の全額を負担してくれず,依頼者の自己負担が発生する場合があるので注意しましょう。
なお,日弁連LACを利用している場合には保険金支払基準(LAC基準)があり,その基準で契約しているときには,通常,保険会社もその基準での弁護士費用の負担を認めますので,問題となることは余りないでしょう。

 

2 支払限度額

例えば,法律相談費用の限度額が1事故あたり10万円,弁護士費用の限度額が1事故当たり300万円といったように,保険会社の支払に限度額がある場合,支払限度額を超える法律相談料や弁護士費用が発生すると,超過額は相談者や依頼者の自己負担となります。

 

3  加害者から反訴された場合

交通事故事件で加害者が被害者にも過失があると主張しているケースでは,被害者が損害賠償訴訟を提起すると,加害者が損害賠償を求めて反訴提起してくることがあります。
反訴を提起された場合,反訴についての弁護士費用が発生することになりますが,弁護士費用保険は,被害者が加害者に対し損害賠償請求する場合の弁護士費用をまかなう保険ですので,反訴の弁護士費用は弁護士保険では支払われません。
そのため,反訴提起された場合,依頼者がご自身で反訴の弁護士費用を負担しなければなりませんが,主契約(対人賠償保険,対物賠償保険)をつかうことで,反訴の弁護士費用も保険会社が負担してくることがありますので,保険会社に相談してください。
なお,弁護士保険をつかってもノンフリート等級が下がらない場合であっても,主契約をつかうとノンフリート等級が下がり,保険料が上がることがありますので,注意してください。

 

四 まとめ

弁護士費用保険がある場合には,法律相談料や弁護士費用を保険会社が負担してくれますし,弁護士費用保険を利用しても保険料は上がりませんので,加害者に損害賠償請求したいときには積極的に利用したほうがよいでしょう。
もっとも,まったく費用負担がなくなるとは限りませんし,特に双方に過失があるケースでは,加害者から損害賠償請求の反訴を提起されるおそれがありますが,反訴の弁護士費用は弁護士費用保険では支払われませんので注意しましょう。

 

【交通事故】物損 全損(車両の時価・買替差額,買替費用)

2017-10-10

交通事故にあり車両が「全損」と判断された場合,被害者はどのような損害項目について損害賠償請求することができるのでしょうか。

 

一 「全損」と判断される場合

1 物理的全損

技術的に修理ができない場合には,全損と判断されます。

 

2 経済的全損

技術的に修理ができる場合であっても,修理費用が車両の時価等を上回る場合には,経済的に全損と判断されます。

修理費>車両の時価・買替差額+買替費用

 

3 車体の本質的構成部分に重大な損傷が生じ,買替が社会通念上相当な場合

物理的,経済的に修理不能である場合のほか,フレーム等車体の本質的構成部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められ,買替をすることが社会通念上相当であると認められる場合にも,全損と判断されます。

 

二 車両の時価相当額・買替差額

交通事故により全損となった場合,被害車両の時価相当額が損害となります。
また,被害車両に経済的価値がある場合には,事故時の車両の時価相当額と売却代金の差額(買替差額)が損害となります。

車両の時価は,同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の車両を中古車市場で取得するのに要する価格のことをいいます。
車両の時価は,レッドブックやイエローブック等の資料により算定するのが通常ですが,市場価格の算定が困難である場合等特段の事情がある場合には減価償却の手法を用いて算定することがあります。

また,車両が改造・改装されている場合,改造・改装が車両の価値を増加されるものであれば,改造費用や改装費用も車両の時価相当額の算定において考慮されます。

 

三 買替費用

被害車両と同種・同程度の車両を取得するのに要する費用は損害と認められます。
新車に買い替えた場合には被害車両と同種・同程度の車両を取得するのに要する費用の限度で損害と認められます。

1 買替費用に含まれるもの

①登録,車庫証明,廃車の法定費用
②登録,車庫証明,納車,廃車のディーラー報酬
③車体価格の消費税相当額
④自動車取得税
⑤被害車両の自動車重量税の未経過部分(還付された分は除く)
⑥リサイクル料金

 

2 買替費用に含まれないもの

①自動車税(還付が受けられるため)
②自賠責保険料(還付が受けられるため)
③新車購入の際の自動車重量税

 

【交通事故】物損 代車使用料

2017-10-05

物損事故にあい,車両の修理期間中または買替期間中,代車を使用した場合,レンタカー代等の代車使用料について損害賠償請求することが考えられます。

 

一 代車使用料が損害と認められる場合

1 代車を使用したこと

代車使用料が損害として認められるには,代車を使用していることが,原則となります。
事故後,修理せずに被害車両を使用している場合等,代車を使用していない場合には,代車使用料が発生しておらず,損害が発生しているとはいえないからです。
もっとも,裁判例には,加害者との間で修理の範囲等について争いがあり,証拠を残すために未修理のまま使用してきたものと認められ,現に訴訟で検証を行っており未修理にしておく必要があったと認められることから,今後修理の際に当然要するはずの代車使用料を損害として否定するのは相当ではないとして,将来分の代車使用料を損害と認めたものがあります。

 

2 代車使用の必要性

代車を使用した場合であっても,代車を使用する必要性がなければ,代車使用料は損害とは認められません。
車両の用途,代替車両の有無,代替交通機関の有無等,具体的な事情から代車を使用する必要性の有無が判断されます。
例えば,被害者が被害車両以外に車両を保有している場合には,代車使用の必要性が否定されることがあります。

 

二 代車が使用できる期間

損害として認められる代車の使用期間は,修理や買替えに必要な相当期間です。
加害者側との交渉期間についても,合理的な範囲で相当期間に含まれます。

実際に代車を使用した全期間についての代車使用料が損害と認められるわけではありませんので,被害者が相当期間を超えて代車を使用している場合には超えた分の代車使用料は被害者が負担しなければなりません。

 

三 代車の種類・グレード

代車は,原則として,被害車両と同程度の車種・グレードのものであれば認められます。
もっとも,被害車両が高級外国車の場合には,国産高級車の使用料の限度で損害と認められる傾向にあります。

【交通事故】家事従事者の休業損害

2017-08-29

専業主婦等の家事従事者が交通事故により負傷して家事ができなくなった場合,休業損害が認められるでしょうか。

 

一 家事従事者に休業損害が認められるか

家事従事者とは,家事労働に従事する人のことです。性別,年齢は問いませんので,男性であっても家事従事者にあたりますし,高齢者であっても家事従事者にあたります。また,専業主婦だけでなく,兼業主婦であっても家事従事者にあたります。

家事従事者には現実に金銭収入はありませんが,家事労働は労働社会において金銭的に評価されるものであり,他人に依頼すれば相当の対価を支払わなければならないものですから,家事労働には経済的な利益があるといえます。
そのため,負傷により家事労働ができなかった期間がある場合,その期間について財産上の損害を被ったといえますので,休業損害が認められます。

 

二  一人暮らしの場合

一人暮らしの場合でも休業損害を認めた裁判例もないわけではありませんが,「家事労働」といえるには同居の家族等他人のために家事をしていることが必要であり,一人暮らしで自分の身の回りのことをしているだけでは「家事労働」と評価されず,休業損害が認めらない場合がほとんどです。
なお,一人暮らしの人が交通事故にあって家事ができず,家政婦を雇った場合には,その家政婦の費用が損害と認められることはあります。

 

三 家事従事者の休業損害の算定方法

休業損害額は1日当たりの基礎収入額に休業期間を乗じて算定します。
家事従事者の場合,休業損害額はどのように算定するのでしょうか。

 

1 基礎収入

(1)専業主婦の場合

家事従事者の基礎収入は,通常,賃金センサス第1巻第1表の産業計,企業規模計,学歴計,女性労働者の全年齢平均の賃金額(高齢者の場合には年齢別の平均賃金)を基礎収入として,休業損害を算定します。
例えば,平成27年の賃金センサスの女性労働者の平均賃金額は372万7100円ですので,1日当たりの基礎収入は,1万0211円(=372万7100円÷365)となります。

 

(2)兼業主婦の場合

パート等外で仕事をしながら,家事をしている兼業主婦の場合には,現実の収入額と女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方の金額を基礎収入として休業損害を計算します。

 

(3)主夫(男性家事従事者)の場合

男性が家事労働を行う場合と女性が家事労働を行う場合とで経済的価値に違いがあるとはいえません。
そのため,男性の家事従事者の場合も,女性労働者の平均賃金額を基礎収入として,休業損害額を計算します。

 

(4)高齢者の場合

高齢者の家事労働は通常の主婦より労働量が少なく,経済的価値が低めに評価されることがあります。
高齢者の場合,女子労働者の全年齢平均ではなく,年齢別の平均賃金を基礎収入として休業損害を算定することがあります。また,平均賃金の何割を基礎収入として休業損害を算定することもあります。

 

2 休業期間

受傷日から治療終了日(症状固定日)までの期間のうち負傷により家事労働ができなかった期間が休業期間となります。
負傷の内容や程度が重大な場合には,受傷日から治療終了日(症状固定日)までの全期間が休業期間となることもありますが,むち打ち症等,負傷の内容や程度が重大とはいえない場合には,治療終了日(症状固定日)まで全く家事労働ができないということはないでしょうから,全期間が休業期間となるわけではありません。
家事従事者の場合には,給与所得者の休業損害証明書のように休業日数を把握する資料はありませんので,休業期間をどのように算定するかは難しい問題です。
例えば,①症状固定日までの期間の○○%,②入院期間中は100%,退院後,○か月間は○○%,その後は○○%というように,家事労働ができない割合を段階的に逓減させる等して,休業損害を計算することがあります。この割合については特段基準はありませんので,具体的な事情を基に合理的な割合を主張していくことになります。

交通事故損害賠償請求と損益相殺

2017-06-23

交通事故の被害者は,加害者や加害者側の任意保険会社から損害賠償金の支払を受けるだけでなく,自賠責保険金や労災保険の給付等損害賠償金の弁済以外の利益を受けることがあります。そのような場合,損益相殺が問題となります。

 

一 損益相殺とは

不法行為の被害者が損害を被ったのと同一の原因により利益を得た場合に,被害者が加害者に損害賠償請求をするにあたって,その利益の額を賠償額から控除することを損益相殺といいます。

条文上,損益相殺の規定はありませんが,公平の見地から認められています。

 交通事故の場合にも,被害者またはその相続人が,交通事故と同一の原因により利益を得た場合には,利益を受けた額が損害額から控除されることになります。

 

二 損益相殺の対象となる給付

1 どのような給付に損益相殺されるのか

被害者または被害者の相続人が,交通事故により利益を得たとしても,すべての場合に損益相殺されるわけではありません。

損益相殺されるのは損失と利益の同質性がある場合であり,損害の填補にあたるかどうかで判断されます。損害の填補の趣旨であると解されるものについては,損益相殺されますが,損害の填補の趣旨であると解されないものについては損益相殺されません。

 

2 損益相殺される給付

・自賠責保険金

・政府の自動車損害賠償保障事業てん補金

・健康保険

・労災保険(特別支給金を除く)

・遺族年金

・障害年金

・介護保険

・所得補償保険金

・人身傷害保険金

 

3 損益相殺されない給付

・自損事故保険金

・搭乗者傷害保険金

・生命保険金

・傷害保険金

・労災保険上の特別支給金

・香典・見舞金

 

4 将来の給付について

年金のように給付が将来にわたって続くものについては,いつまで給付されるか不確実であるため,給付が確定した分についてのみ損害額から控除されます。

 

三 控除の対象となる損害

1 損害項目

損益相殺される場合には損害額から利益の額を控除しますが,単純に損害額の合計額か控除するというわけではありません。

給付の目的や性質から,控除される損害項目が限定されることがあります。

 

2 自賠責保険

自賠責保険の給付は人身損害についての給付ですから,人身損害から控除されます。

物的損害からは控除されません。

 

3 労災保険

(1)人的損害からの控除

労災保険の給付は人身損害についての給付ですから,人身損害から控除されます。物的損害からは控除されません。

(2)給付と損害項目

労災保険の療養補償給付(療養給付)については治療関係費から,休業補償給付(休業給付)・傷病補償年金(傷病年金)・障害補償給付(障害給付)・遺族補償給付(遺族給付)については休業損害と逸失利益から,葬祭料(葬祭給付)については葬儀費用から,介護補償給付(介護給付)については介護費用から,それぞれ控除されます。労災保険には慰謝料に相当する給付はないので,慰謝料から控除はされません。

 

4 遺族年金

遺族年金は,亡くなった人の収入によって生計を維持していた遺族の生活を保障するためのものですから,逸失利益から控除されます。

控除される逸失利益は,給料収入等年金以外の収入についての逸失利益も含まれます。

 

2 誰の損害から控除されるのか

給付を受けた人の損害額から控除されます。

例えば,被害者の相続人の一部が遺族年金の給付を受けた場合,その人の損害額から控除されます。給付を受けていない相続人の損害額からは控除されません。

 

四 過失相殺がある場合

1 相殺前控除と相殺後控除

被害者に過失があり過失相殺される場合には,過失相殺と損益相殺の先後関係が問題となります。この点については,以下の2つの考え方があります。

 

①損害額から控除した後に過失相殺

損害額=(損害額-控除額)×(1-過失相殺率)

 

②損害額から過失相殺した後に控除

損害額=損害額×(1-過失相殺率)-控除額

 

2 自賠責保険・政府の自動車損害賠償事業てん補金

加害者が損害賠償金の一部を先に支払っていた場合には過失相殺後の額から既払金を控除して損害賠償額を計算しますので,損害の填補の趣旨であると解される損益相殺の場合も,過失相殺後の額から控除すると考えるのが通常であり,自賠責保険・政府の自動車損害賠償保障事業てん補金については,損害額から過失相殺した後に控除するものと解されております。

3 健康保険

健康保険からの給付については,社会保障的な性質を重視して,控除後に過失相殺にするものと解されております。

 

4 労災保険

過失相殺後に控除する最高裁判所の判例がありますが,健康保険と同様に解して,控除後に過失相殺する裁判例もあります。

また,労災保険については控除される損害項目が限定されますので,過失相殺がある場合には,給付と損害項目との対応関係に注意しましょう。

 

5 年金

健康保険同様,控除後に過失相殺する裁判例もありますが,損害の填補の側面があることから過失相殺後に控除する裁判例もあります。

 

交通事故 損害賠償請求と過失相殺

2017-06-20

 

交通事故被害者が損害賠償請求をするにあたって,過失相殺が問題となることがよくあります。

 

一 過失相殺とは

民法722条2項は「被害者に過失があったときは,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。」と規定しており,交通事故の被害者に過失がある場合には,損害額から被害者の過失割合に相当する額が控除されます。これを過失相殺といいます。

過失相殺は損害の公平な分担を図ることを目的としています。

 

例えば,被害者の損害額が1000万円であっても,被害者の過失割合が3割であった場合,被害者が加害者に損害賠償請求できるのは,1000万円から被害者の過失割合に相当する300万円(=1000万円×0.3)を控除した700万円となります。

 

二 過失相殺における「過失」とは

過失相殺は損害の公平な分担を図ることを目的としていますので,過失相殺における「過失」は,不法行為の要件となる過失と同じではなく,被害者に単なる不注意があった場合も含まれると解されております。

また,過失には,事故発生原因としての過失(被害者の運転に不注意があったこと等)と損害発生・拡大原因としての過失(被害者がヘルメットやシートベルトを着用していなかったこと等)があります。

 

三 被害者の能力

不法行為の成立には責任能力(行為の責任を弁識する能力)が必要となりますが,過失相殺は損害の公平な分担を図ることを目的としていますので,被害者に責任能力がなくても,事理弁識能力(事理を弁識する能力)があれば過失相殺されると解されております。

責任能力が認められるどうかは11歳から12歳くらいが分かれめとなりますが,それより低い年齢でも事理弁識能力は認められています。

7歳位であれば事理弁識能力があると考えられていますが,5,6歳でも事理弁識能力があるとされた裁判例があります。

 

四 被害者側の過失

被害者本人に過失がある場合だけでなく,損害の公平な分担の観点から,被害者と身分上・生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者(被害者側)に過失がある場合にも過失相殺されると解されています。

父母,配偶者,雇用関係にある被用者は「被害者側」にあたると解されていますが,配偶者であっても婚姻関係が破綻している場合や同僚,友人は「被害者側」には含まれないと解されています。

また,保母については監督義務はありますが,身分上・生活関係上一体とはいえないので「被害者側」にはあたらないと解されています。

例えば,事理弁識能力がない幼児が交通事故にあった場合,幼児の親に過失があったときには「被害者側の過失」として過失相殺されますが,幼児の保母に過失があったとしても「被害者側の過失」として過失相殺されることはありません。

 

五 過失相殺基準

過失割合は,示談の場合には当事者の合意で定め,訴訟の場合には裁判所が自由裁量で定めますが,判例タイムズの「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」や「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)等で過失割合の基準が示されており,示談や訴訟でもこれらの基準をもとに過失割合を定めることが通常です。

これらの基準では,交通事故の類型ごとに当事者の過失の基本割合を定め,修正要素があれば基本割合に加算・減算して過失割合を定めるという方式がとられております。

これらの基準によりすべての場合について過失割合が定めているというわけではありませんので,基準にない非典型的な場合については,裁判例を参考にして過失割合を主張していくことになります。

 

六 自賠責保険と過失相殺

  被害者に重過失がなければ自賠責保険では減額されません。

裁判基準では被害者の過失割合に応じて過失相殺されますが,自賠責保険では,被害者保護のため,被害者に過失があっても重過失(被害者の過失が7割以上)でない限り減額されません。

被害者の過失が大きい場合には,裁判基準で算定した賠償額よりも自賠責保険から支払われる額のほうが高くなることがあります。裁判所が被害者の過失を大きく認定することが想定される事案では,自賠責保険の支払を受けてから訴訟提起したほうがよいでしょう。

 

2 重過失減額

(1)傷害の場合

  被害者の過失が7割以上の場合,2割減額されます。

ただし,損害額が20万円未満の場合はその額とし,減額により20万円以下となる場合は20万円となります。

 

 (2)後遺障害,死亡の場合

被害者の過失が7割以上8割未満の場合,2割減額されます。

被害者の過失が8割以上9割未満の場合,3割減額されます。

被害者の過失が9割以上10割未満の場合,5割減額されます。

 

高齢者が交通事故被害にあった場合の問題点

2017-06-15

交通事故の被害者が高齢者の場合,損害賠償請求をするにあたっては,以下のような点が問題となります。

 

一 因果関係・素因減額

1 交通事故と損害との因果関係

高齢者が交通事故被害にあった場合,治療が長期化することや,軽微な事故であっても亡くなったり,重い後遺障害が残存したりすることがありますが,高齢者は加齢により生理的機能が低下していたり,既往症を抱えていることが少なからずあるため,交通事故による損害といえるのか,それとも別の原因によるものなのか,交通事故と損害との間に因果関係があるか争いとなることがあります。

因果関係がなければ損害賠償請求をすることができませんので,被害者は因果関係があることを立証しなければなりません。

 

2 素因減額

交通事故と損害との間に因果関係があったとしても,被害者の体質的な要因や心因的な要因(素因)が損害の発生・拡大に影響しており,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失する場合には,民法722条の過失相殺の規定を類推適用して損害賠償額が減額されます。これを素因減額といいます。

高齢者が交通事故被害にあった場合には素因減額が問題となることが多いですが,高齢者というだけで素因減額されるわけではありません。年をとれば,生理的機能が低下することや,骨が脆くなる等年齢相応の加齢的変性が生じることは通常のことであり,通常の場合にまで素因減額することは相当ではないからです。

素因減額されるのは,高齢者に交通事故前から年相応とはいえない疾患があり,それが損害の発生・拡大に影響し,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するといえる場合です。

 

二 逸失利益

1 後遺症逸失利益の労働能力喪失期間

高齢者に就労の蓋然性があれば,後遺症逸失利益が損害となります。

後遺症逸失利益は「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定します。

高齢者の場合,賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・男女別・年齢別平均の賃金額を基礎収入とするのが通常です。

労働能力喪失期間は,原則として症状固定日から67歳までの期間ですが,高齢者の場合は平均余命の2分の1の期間を労働能力喪失期間として逸失利益を算定します。

 

2 死亡逸失利益の就労可能年数

高齢者に就労の蓋然性があれば,死亡逸失利益が損害となります。

死亡逸失利益は「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定します。

高齢者の場合,賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・男女別・年齢別平均の賃金額を基礎収入とするのが通常です。

就労可能年数は,原則は亡くなってから67歳までの年数ですが,高齢者の場合には平均余命の2分の1の年数を就労可能年数として逸失利益を算定します。

 

3 家事従事者の逸失利益

(1)家事従事者

家事従事者についても逸失利益が認められます。

家事従事者といえるには,単に家事をしているというだけではなく,他人(家族)のために家事労働をしていることが必要です。

そのため,一人暮らしの高齢者の場合,自分のために家事をしているただけですから,原則として逸失利益は認められません(ただし,家事ができなくなったことにより家政婦を雇った場合にはその費用が損害となることがあります。)。

また,例えば,同居の家族がいても,自分のことは自分でしていた場合には,他人のために家事をしているとはいえず,逸失利益が認められないことがあります。

(2)基礎収入

家事労働について逸失利益が認められる場合,賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎収入として算定するのが通常です。

もっとも,高齢者の場合には,通常の主婦と同程度の家事労働をしているとはいえないず,通常の家事従事者より基礎収入を低くして逸失利益を算定することがあります。

 

4 年金の逸失利益性

生きていれば年金がもらえたのに,交通事故で亡くなり年金がもらえなくなった場合,年金がもらえなくなったことによる逸失利益も損害となります。

年金の逸失利益は「年金額×(1-生活費控除率)×平均余命に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定しますが,年金収入は生活費にあてることが多いと考えられるため,生活費控除率は通常より高くすることが多いです。

 

なお,全ての年金について逸失利益が認められているわけではありません。老齢年金,退職年金,障害年金(加給分は除きます。)については逸失利益が認められていますが,障害年金の加給分や遺族年金については逸失利益性が否定されています。

 

三 遺族年金の損益相殺

1 損益相殺

被害者が亡くなり,遺族が遺族年金を受給することになった場合,不法行為と同一の原因により利益を受けることになるので損益相殺され,遺族年金の受給額が損害額から控除されます。

 

2 控除される遺族年金

控除される遺族年金は,損害賠償額が確定した時点(判決の場合は,事実審の口頭弁論終結時)で支給が確定した分です。未だ受給が確定していない分については損害額から控除されません。

 

3 控除の対象となる損害

控除の対象となる損害は逸失利益(年金収入以外の逸失利益も含まれます。)だけであり,支給が確定した遺族年金の額が逸失利益の額を上回っても,他の損害(慰謝料等)から控除することはできないと解されております。

また,控除されるのは遺族年金を受給する相続人の損害額からです。遺族年金を受給しない相続人の損害額からは控除されません。

 

四 過失割合

1 過失割合の類型化

過失相割合については,判例タイムズの「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」や「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)等で類型化されております。

これらの基準では,事故の類型ごとに,「四輪車80,単車20」といったように過失の基本割合を定め,修正要素があれば基本割合に加算・減算して各当事者の過失割合を定めるという方式がとられています。

 

2 高齢者が歩行者や自転車の運転者である場合

高齢者(おおむね65歳以上)が歩行者や自転車運転者である場合には,高齢者を保護する必要性が高いことから,過失割合を減算する修正要素となっています。

 

3 高齢者が四輪車や単車の運転者である場合

高齢者が四輪車や単車の運転者である場合には,過失割合の修正要素とはされていません。四輪車や単車の運転には免許が必要であり,高齢者だからといって保護する必要性が高いとはいえないからです。

ただし,シルバーマークを付けていた場合,類型によっては修正要素として考慮されています。

 

【交通事故】物損 所有権留保の場合

2017-04-13

自動車を分割払やローンで購入した場合,代金やローンの完済するまで売主やローン会社に自動車の所有権が留保されることがあります。

その場合,自動車の買主は,代金等を完済するまで自動車の所有権を有しないことになりますが,完済前に物損事故にあったとき,買主は損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

 

一 全損の場合

全損には,物理的に修理が不能な場合(物理的全損)と,修理費が自動車の時価を上回り経済的に全損と扱われる場合(経済的全損)があり,自動車の事故時における時価相当額が損害となります(ただし,事故車両に経済的価値がある場合には,自動車の事故時における時価相当額から事故車両の売却代金を控除した差額)。

全損の場合,自動車の交換価値が滅失されたことが損害となりますので,自動車の交換価値を把握する自動車の所有者が損害賠償請求権を取得します。

そのため,買主が自動車の代金を完済していない場合には,自動車の所有権は売主にありますので,売主が損害賠償請求権を取得し,買主は損害賠償請求をすることはできないと解されます。

もっとも,事故後であっても,代金を完済すれば,買主は損害賠償請求をすることができるようになります。

 

また,経済的全損の場合,廃車せずに修理して使用を続けることもあります。その場合,買主は,修理費を負担することにはなりますが,時価相当額の範囲で損害賠償請求をすることができるものと考えられます。

 

二 修理費

買主が修理して修理費を負担した場合には,買主が修理費について損害賠償請求をすることができます。

修理していない場合でも,買主が修理費を負担する義務を負うときには,買主は修理費相当額の損害賠償請求をすることができると解されます。

 

三 代車使用料

買主が,修理期間中や買替期間中に,実際に代車を使用し,代車使用料を負担した場合には,買主は代車使用料について損害賠償請求をすることができます。

 

四 評価損

評価損は,自動車の交換価値が低下したことによる損害ですから,自動車の交換価値を把握する自動車の所有者の損害です。

そのため,代金等を完済するまでは,買主は評価損について損害賠償請求をすることはできないと解されます。

 

五 まとめ

全損や評価損のように自動車の交換価値が滅失・低下したことによる損害については,自動車の交換価値を把握する所有者の損害となるため,完済していない場合には買主が損害賠償請求することができないのが原則です(もっとも,買主の損害賠償請求を認めた裁判例もありますので,争う余地がないわけではありません。所有権留保は担保の趣旨であり,実質的な所有者は買主であると考えることもできるのではないでしょうか。)。

 

これに対し,修理費や代車料等,買主が負担するものについては,買主の損害として,損害賠償請求することができると解されます。

 

所有権留保の場合,買主と売主等との契約内容によって結論が異なる可能性がありますので,契約内容の確認をすべきでしょう。

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