交通事故 損害賠償請求と過失相殺

2017-06-20

 

交通事故被害者が損害賠償請求をするにあたって,過失相殺が問題となることがよくあります。

 

一 過失相殺とは

民法722条2項は「被害者に過失があったときは,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。」と規定しており,交通事故の被害者に過失がある場合には,損害額から被害者の過失割合に相当する額が控除されます。これを過失相殺といいます。

過失相殺は損害の公平な分担を図ることを目的としています。

 

例えば,被害者の損害額が1000万円であっても,被害者の過失割合が3割であった場合,被害者が加害者に損害賠償請求できるのは,1000万円から被害者の過失割合に相当する300万円(=1000万円×0.3)を控除した700万円となります。

 

二 過失相殺における「過失」とは

過失相殺は損害の公平な分担を図ることを目的としていますので,過失相殺における「過失」は,不法行為の要件となる過失と同じではなく,被害者に単なる不注意があった場合も含まれると解されております。

また,過失には,事故発生原因としての過失(被害者の運転に不注意があったこと等)と損害発生・拡大原因としての過失(被害者がヘルメットやシートベルトを着用していなかったこと等)があります。

 

三 被害者の能力

不法行為の成立には責任能力(行為の責任を弁識する能力)が必要となりますが,過失相殺は損害の公平な分担を図ることを目的としていますので,被害者に責任能力がなくても,事理弁識能力(事理を弁識する能力)があれば過失相殺されると解されております。

責任能力が認められるどうかは11歳から12歳くらいが分かれめとなりますが,それより低い年齢でも事理弁識能力は認められています。

7歳位であれば事理弁識能力があると考えられていますが,5,6歳でも事理弁識能力があるとされた裁判例があります。

 

四 被害者側の過失

被害者本人に過失がある場合だけでなく,損害の公平な分担の観点から,被害者と身分上・生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者(被害者側)に過失がある場合にも過失相殺されると解されています。

父母,配偶者,雇用関係にある被用者は「被害者側」にあたると解されていますが,配偶者であっても婚姻関係が破綻している場合や同僚,友人は「被害者側」には含まれないと解されています。

また,保母については監督義務はありますが,身分上・生活関係上一体とはいえないので「被害者側」にはあたらないと解されています。

例えば,事理弁識能力がない幼児が交通事故にあった場合,幼児の親に過失があったときには「被害者側の過失」として過失相殺されますが,幼児の保母に過失があったとしても「被害者側の過失」として過失相殺されることはありません。

 

五 過失相殺基準

過失割合は,示談の場合には当事者の合意で定め,訴訟の場合には裁判所が自由裁量で定めますが,判例タイムズの「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」や「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)等で過失割合の基準が示されており,示談や訴訟でもこれらの基準をもとに過失割合を定めることが通常です。

これらの基準では,交通事故の類型ごとに当事者の過失の基本割合を定め,修正要素があれば基本割合に加算・減算して過失割合を定めるという方式がとられております。

これらの基準によりすべての場合について過失割合が定めているというわけではありませんので,基準にない非典型的な場合については,裁判例を参考にして過失割合を主張していくことになります。

 

六 自賠責保険と過失相殺

  被害者に重過失がなければ自賠責保険では減額されません。

裁判基準では被害者の過失割合に応じて過失相殺されますが,自賠責保険では,被害者保護のため,被害者に過失があっても重過失(被害者の過失が7割以上)でない限り減額されません。

被害者の過失が大きい場合には,裁判基準で算定した賠償額よりも自賠責保険から支払われる額のほうが高くなることがあります。裁判所が被害者の過失を大きく認定することが想定される事案では,自賠責保険の支払を受けてから訴訟提起したほうがよいでしょう。

 

2 重過失減額

(1)傷害の場合

  被害者の過失が7割以上の場合,2割減額されます。

ただし,損害額が20万円未満の場合はその額とし,減額により20万円以下となる場合は20万円となります。

 

 (2)後遺障害,死亡の場合

被害者の過失が7割以上8割未満の場合,2割減額されます。

被害者の過失が8割以上9割未満の場合,3割減額されます。

被害者の過失が9割以上10割未満の場合,5割減額されます。

 

 

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