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【交通事故】整骨院の施術費

2021-04-06

交通事故の損害賠償請求事件では、整骨院の施術費が損害と認められるかどうか争いとなることがあります。

 

交通事故の治療費は、必要・相当な治療行為であれば、損害と認められます。

整骨院の施術は、医師による治療行為ではありませんが、症状改善の効果があり、施術の必要性、相当性が認められる場合には、施術費が損害と認められます。

また、治療費と同様、整骨院の施術費も症状固定日までのものが損害と認められるのが原則です。

 

整骨院の施術を受けることについて、医師の指示や承諾がある場合には、施術費は損害と認められやすいですが、医師の指示や承諾がない場合でも、施術の必要性、相当性が認められれば、整骨院の施術費が損害と認められます。

 

施術費が損害と認められる場合であっても、必ずしも施術費の全額が損害と認められるとは限りません。施術期間が長い場合や施術費が高額な場合等、必要性、相当性に問題がある場合には施術費の一部しか損害と認められないことがありますので、注意しましょう。

 

被害者の中には、病院に通院せず、整骨院に通う方もいますが、治療の必要性は医師の判断が基本となりますし、医師でなければ診断書を作成できませんので、整骨院に通う場合であっても、病院に通院するべきでしょう。病院に通院していないと、治療の必要性の有無や症状固定日がわかりませんし、後遺症があっても、後遺障害診断書を作成してもらうことができず、損害賠償請求をするのが難しくなります。

【交通事故】遅延損害金

2020-10-20

交通事故の損害賠償請求訴訟では,遅延損害金を請求することができます。

 

一 遅延損害金の起算日

不法行為による損害賠償債務は不法行為時に発生し,不法行為時から履行遅滞になりますので,事故日からの遅延損害金の支払を請求することができます。

 

二 遅延損害金の利率

遅延損害金の利率は民事法定利率によります(民法404条)。

令和2年4月1日に改正民法が施行されたことにより,民事法定利率が変わりました。そのため,令和2年4月1日以降に発生した交通事故については,当面,年3分(3%)の割合で遅延損害金が発生します。

令和2年3月31日以前の交通事故については,改正前の民事法定利率である年5分(5%)の割合で遅延損害金を計算します。

 

三  損害の填補があった場合の遅延損害金

損害の填補があった場合,遅延損害金から充当するのか,元本から充当するのか問題となります。

 

1 自賠責保険からの支払

自賠責保険金からの支払があった場合は,まず遅延損害金に充当してから,残額を元本に充当するものと解されています。

また,自賠責保険金を元本額から控除した上で,事故日から自賠責保険金の受領日までの遅延損害金を別途請求する方法もあります。

 

2 労災保険の給付

労災保険の給付については,制度の趣旨目的に従い,特定の損害を填補するものであり,遅延損害金は填補の対象となるものではないことから,支給が著しく遅れる等特段の事情がない限り,不法行為時に損害が填補されたものとして,元本から控除され,控除される元本に対応する遅延損害金は発生しないものと解されています。

 

3 人身傷害保険

人身傷害保険は損害の元本を填補するものであり,遅延損害金を填補するものではないため,人身傷害保険の支払をした保険会社は支払時に填補した元本の請求権を代位取得し,遅延損害金の請求権は代位取得しないと解されています。

そのため,被害者は,保険金により填補された元本に対する事故日から保険金受領日までの遅延損害金を請求することができると解されています。

 

4 任意保険会社の支払

任意保険会社が治療費等を支払うことがあります。

任意保険会社の支払については,遅延損害金から充当される場合や,元本に充当し,充当される元本に対する遅延損害金は免除するとの黙示の合意が認められる場合があります。

【交通事故】死亡逸失利益

2020-09-23

交通事故により被害者が亡くなった場合には,死亡逸失利益が損害となります。

 

一 死亡逸失利益とは

死亡逸失利益とは,被害者が亡くならなければ,将来にわたって得られたであろう利益(収入)を得られなくなったことによる損害です。

 

二  死亡逸失利益の計算式

死亡逸失利益の額は,以下の計算式で算定します。

 

死亡逸失利益

=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

 

被害者が亡くなったことにより,将来にわたって得られたはずの利益(収入)を得られなくなった一方で,被害者は,生きていれば発生していた生活費の負担を免れることになりますので,死亡逸失利益を算定するにあたっては,生活費を控除します。

また,死亡逸失利益の賠償は一時金払いによることが通常であり,一時金払いの場合には,将来にわたって得られたであろう利益を現在価値に換算することになるため,中間利息を控除します。中間利息の控除の方法にはライプニッツ式(複利計算)で計算することが通常です。

 

三 基礎収入

1 給与所得者の場合

原則として,事故前の現実の収入額を基礎収入とします。

ただし,将来,現実収入額以上の収入を得られる蓋然性があれば,その金額が基礎収入となります。

また,現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても,将来,平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば,賃金センサスの平均賃金が基礎収入と認められます。

若年労働者の場合は,事故時の収入が低いので,平均賃金を用いることが多いです。

 

2 事業所得者の場合

所得税の申告所得をもとに基礎収入を算定します。

申告額と現実の収入が異なる場合,実収入を立証できれば,その金額が基礎収入となります。

現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても,将来,平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば,賃金センサスの平均賃金が基礎収入と認められます。

 

家族が事業を手伝っている場合には,所得額のうち被害者本人の寄与割合を乗じた額が基礎収入となります。

 

3 会社役員の場合

報酬額全額が基礎収入となるわけではありません。会社役員の報酬には労務対価部分と利益配当部分があり,基礎収入となるのは労務対価部分です。

 

4 年少者,学生の場合

賃金センサスの産業計,企業規模計,学歴計,男女別全年齢平均賃金額を基礎収入としますが,女子年少者の場合は,全労働者の全年齢平均賃金を基礎収入とするのが一般です。

 

大学進学が見込まれる場合には,大卒の平均賃金を基礎収入とすることもありますが,就労開始が遅れるため,就労可能年数が短くなります。

 

5 失業者の場合

事故時点で就労していなかったとしても,将来も就労しないとはいえませんので,就労する蓋然性があれば,死亡逸失利益は認められます。

基礎収入は,失業前の収入を参考としますが,失業前の収入が平均賃金以下の場合であっても,平均賃金を得られる蓋然性があれば平均賃金を基礎収入とします。

 

6 家事従事者の場合

家事労働には,現金収入はありませんが,経済的価値がありますので,家事従事者にも死亡逸失利益が認められます。

基礎収入は,賃金センサスの女性労働者の平均賃金(産業計,企業規模計,学歴計,全年齢または年齢別)を用います。男性の家事従事者の場合も女性労働者の平均賃金を用います。

 

なお,兼業主婦の場合には,平均賃金と実際の収入額を比較し,高い金額を基礎収入とすることが通常です。

 

7 年金受給者

被害者が亡くなったことにより年金を受給することができなくなった場合,死亡逸失利益が認めらるかどうかは年金の種類によります。

 

退職年金,老齢年金,障害年金等,被害者が保険料を拠出しているものについては,被害者が亡くなって受給できなくなったことについて逸失利益が認められます。

 

これに対し,障害年金の加給分や遺族年金等,被害者が保険料を拠出しておらず,社会保障的性格のものや一身専属的なものについては,被害者が亡くなって受給できなくなったとしても,逸失利益は認められません。

 

なお,遺族年金の受給により,被害者に支給が停止された年金がある場合には,支給が停止された年金について逸失利益を認める裁判例があります。

 

また,被害者が亡くなった時点で未だ年金を受給していない場合であっても,受給資格があった場合や受給資格をみたす直前であった等,年金を受給できる蓋然性が高い場合には,逸失利益性が認められると考えられます。

 

四 生活費控除率

被害者が亡くなったことにより,将来にわたって得られたはずの収入を得られなくなった一方で,被害者は,生きていれば発生していた生活費の負担を免れることになりますので,死亡逸失利益を算定するにあたっては,損益相殺により,生活費を控除します。

 

生活費の控除率については,被害者の家族構成(被害者が一家の支柱かどうか,被扶養者の人数)や性別等により異なります。

 

また,年金収入が逸失利益となる場合については,年金収入は生活費に当てられる割合が高くなるのが通常であると考えられるので,稼働収入の逸失利益の場合と比較して生活費控除率を高くする傾向があります。

 

五 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

1 就労可能年数

(1)原則

就労可能年数は,原則として症状固定日から67歳までの期間です。

 

(2)高齢者の場合

67歳以上の高齢者の場合は,平均余命の2分の1の期間が就労可能年数となります。

また,67歳未満であっても,症状固定日から67歳までの期間が平均余命の2分の1の期間より短い場合には,平均余命の2分の1の期間が就労可能年数となります。

 

ただし,年金の死亡逸失利益の場合は,年金は亡くなるまでもらえることから,平均余命で計算します。

 

(3)18歳未満の場合

被害者が18歳未満の場合には就労できる年齢ではありませんので,就労可能年数の始期は18歳となります。

そのため,被害者が18歳未満の未就労者の場合には,以下の計算式で計算します。

また,基礎収入は,賃金センサスの学歴計,全年齢の平均賃金を用いるのが通常です。

 

  死亡逸失利益

=平均賃金×(1-生活費控除率)×(67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数)

 

なお,被害者が大学進学の蓋然性がある場合には,基礎収入は賃金センサスの大学卒・全年齢の平均賃金を用いますが,就労可能年数の始期は大学卒業予定時となります。

 

2 中間利息の控除

(1)中間利息控除の利率

令和2年4月1日に施行された改正民法では,中間利息の控除についての規定が新設され(民法417条の2),将来において取得すべき利益についての損害賠償額を定める場合に利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは,損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用います(民法417条の2第1項)。

また,改正前の民事法定利率は年5%に固定されていましたが,改正により,法定利率は,当面は年3%とし,3年ごとに見直されることとなりました(民法404条)。

そのようなことから,中間利息控除をする際の利率は,令和2年4月1日以降に発生した交通事故の場合,当面,中間利息を控除する際の利率は年3%となります。

改正民法施行日前(令和2年3月31日まで)に発生した交通事故の場合は年5%で中間利息を控除します。

 

(2)中間利息控除の方法

中間利息の控除の方法には,ライプニッツ式(複利計算)とホフマン式(単利計算)がありますが,ライプニッツ式を用いることが通常です。

【交通事故】後遺症逸失利益

2020-08-31

交通事故により後遺障害を負った場合には,後遺症逸失利益が損害となります。

 

一 後遺症逸失利益とは

後遺症逸失利益とは,後遺症がなければ,将来にわたって得られたであろう利益のことであり,後遺症により,被害者の労働能力が低下し,被害者の収入が減少することによる損害です。

 

事故により仕事ができず,収入が減少したことによる損害としては,休業損害と逸失利益がありますが,休業損害は,事故時から治療終了時(症状固定時)までに発生する損害であるのに対し,後遺症逸失利益は,治療終了後(症状固定後)から将来にわたって発生する損害です。

 

二  後遺症逸失利益の計算式

後遺症逸失利益の額は,以下の計算式でします。

 

後遺症逸失利益

=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

 

後遺症逸失利益は,後遺症により,被害者の労働能力が低下し,将来にわたって被害者の収入が減少することによる損害ですが,損害賠償を請求する時点では将来いくら減収するかわかりませんので,被害者の収入(基礎収入)が労働能力の低下の割合(労働能力喪失率)に応じて減少するものと推定して,後遺症逸失利益の額を算定します。

 

また,後遺症逸失利益の賠償は一時金払いによることが通常であり,一時金払いの場合には,将来にわたって得られたであろう利益を現在価値に換算することになるため,中間利息を控除します。中間利息の控除の方法にはライプニッツ式(複利計算)で計算することが通常です。

 

なお,死亡逸失利益の場合には生活費を控除しますが,後遺症逸失利益の場合には生活費を控除しないのが原則です。

 

三 基礎収入

1 給与所得者の場合

原則として,事故前の現実の収入額を基礎収入とします。

ただし,将来,現実収入額以上の収入を得られる蓋然性があれば,その金額が基礎収入となります。

また,現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても,将来,平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば,賃金センサスの平均賃金が基礎収入と認められます。

若年労働者の場合は,事故時の収入が低いので,平均賃金を用いることが多いです。

 

2 事業所得者の場合

所得税の申告所得をもとに基礎収入を算定します。

申告額と現実の収入が異なる場合,実収入を立証できれば,その金額が基礎収入となります。

現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても,将来,平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば,賃金センサスの平均賃金が基礎収入と認められます。

 

家族が事業を手伝っている場合には,所得額のうち被害者本人の寄与割合を乗じた額が基礎収入となります。

 

3 会社役員の場合

報酬額全額が基礎収入となるわけではありません。会社役員の報酬には労務対価部分と利益配当部分があり,基礎収入となるのは労務対価部分です。

 

4 年少者,学生の場合

賃金センサスの産業計,企業規模計,学歴計,男女別全年齢平均賃金額を基礎収入としますが,女子年少者の場合は,全労働者の全年齢平均賃金を基礎収入とするのが一般です。

 

大学進学が見込まれる場合には,大卒の平均賃金を基礎収入とすることもありますが,就労開始が遅れるため,労働能力喪失期間が短くなります。

 

5 失業者の場合

事故時点で就労していなかったとしても,将来も就労しないとはいえませんので,就労する蓋然性があれば,逸失利益は認められます。

基礎収入は,失業前の収入を参考としますが,失業前の収入が平均賃金以下の場合であっても,平均賃金を得られる蓋然性があれば平均賃金を基礎収入とします。

 

6 家事従事者の場合

家事労働には,現金収入はありませんが,経済的価値がありますので,家事従事者にも後遺症逸失利益が認められます。

基礎収入は,賃金センサスの女性労働者の平均賃金(産業計,企業規模計,学歴計,全年齢または年齢別)を用います。男性の家事従事者の場合も女性労働者の平均賃金を用います。

 

なお,兼業主婦の場合には,平均賃金と実際の収入額を比較し,高い金額を基礎収入とすることが通常です。

 

四 労働能力喪失率

労働能力喪失率は,後遺症を自賠責保険の後遺障害等級表・労働能力喪失率表(1級100%,2級100%,3級100%,4級92%,5級79%,6級67%,7級56%,8級45%,9級35%,10級27%,11級20%,12級14%,13級9%,14級5%)に当てはめるのが基本です。

 

もっとも,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,事故前後の稼働状況,収入の減少等の事情から総合的に評価されますので,労働能力喪失率表どおりに労働能力喪失率が認定されるとは限りません。後遺症の仕事への影響が大きい場合には労働能力喪失表より労働能力喪失率が高くなることもありますし,後遺症の仕事への影響が小さい場合には労働能力喪失表より労働能力喪失率が低くなることがあります。

 

五 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

1 労働能力喪失期間

(1)原則

労働能力喪失期間は,原則として症状固定日から67歳までの期間です。

 

(2)高齢者の場合

67歳以上の高齢者の場合は,平均余命の2分の1の期間が労働能力喪失期間となります。

また,67歳未満であっても,症状固定日から67歳までの期間が平均余命の2分の1の期間より短い場合には,平均余命の2分の1の期間が労働能力喪失期間となります。

 

(3)18歳未満の場合

労働能力喪失期間の始期は症状固定日ですが,症状固定の時点では被害者が就労できる年齢ではないことがありますので,症状固定日が18歳未満の場合には,18歳から労働能力喪失期間が始まります。

そのため,被害者が18歳未満の未就労者の場合には,以下の計算式で計算します。

また,基礎収入は,賃金センサスの学歴計,全年齢の平均賃金を用いるのが通常です。

 

  後遺症逸失利益

=平均賃金×労働能力喪失率×(症状固定時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数)

 

なお,被害者が大学進学の蓋然性がある場合には,基礎収入は賃金センサスの大学卒・全年齢の平均賃金を用いますが,労働能力喪失期間の始期は大学卒業予定時となります。

 

(4)むち打ち症の場合

むち打ち症の場合には症状が永続するかどうか分かりませんので,後遺障害等級12級の場合で5年から10年程度,14級の場合で5年程度に制限する例が多いですが,後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断されます。

 

2 中間利息の控除

(1)中間利息控除の基準時

中間利息の控除は,事故時とする見解や症状固定時とする見解等がありますが,症状固定時を基準時とするのが通常です。

 

(2)中間利息控除の利率

令和2年4月1日に施行された改正民法では,中間利息の控除についての規定が新設され(民法417条の2),将来において取得すべき利益についての損害賠償額を定める場合に利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは,損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用います(民法417条の2第1項)。

また,改正前の民事法定利率は年5%に固定されていましたが,改正により,法定利率は,当面は年3%とし,3年ごとに見直されることとなりました(民法404条)。

そのようなことから,中間利息控除をする際の利率は,令和2年4月1日以降に発生した交通事故の場合,中間利息を控除する際の利率は年3%となります。

改正民法施行日前(令和2年3月31日まで)に発生した交通事故の場合は年5%で中間利息を控除します。

 

(3)中間利息控除の方法

中間利息の控除の方法には,ライプニッツ式(複利計算)とホフマン式(単利計算)がありますが,ライプニッツ式を用いることが通常です。

 

【交通事故】症状固定日

2020-08-04

交通事故の被害者の方は完全に治るまで治療を受けたいとお考えでしょうが,加害者に損害賠償請求できる治療費は原則として症状固定日までの治療費です。

症状固定日後に障害が残存する場合には後遺障害の問題となります。

 

一 症状固定とは

症状固定とは,治療を継続しても,それ以上症状の改善が期待できない状態のことです。症状固定後に障害が残存する場合は後遺障害の問題となります。

 

二 症状固定日の認定

治療により症状が改善できるかどうかの判断は医学的な判断が基礎となりますので,後遺障害診断書の症状固定日として記載された日が,症状固定日と認定されるのが通常です。

 

ただし,損害賠償は法的な問題であり,症状固定日も法的に判断されますので,事故態様や治療の状況等から,後遺障害診断書の記載と異なる日が症状固定日と認定されることもあります。

 

三 症状固定日が問題となる場合

1 治療関係費

治療費が損害と認められるのは,原則として症状固定日までの治療費です。

症状固定後は治療による症状の改善が見込めないので,症状固定日後の治療費は損害賠償の対象とならないのが原則です。

 

ただし,症状固定日後であっても,症状の内容や程度によっては,症状悪化を防止するためのリハビリ費用や手術の費用等が,将来治療費として損害と認められることがあります。

 

入院雑費や通院交通費等,入通院に伴って発生する費用についても,症状固定日までに発生したものが損害となるのが原則ですが,将来治療費が損害と認められる場合にはそれに伴って生じる交通費等も損害と認められることがあります。

 

2 休業損害

休業損害は症状固定日までの休業による収入の減少が損害賠償の対象となります。

症状固定日後の休業による収入の減少については後遺障害逸失利益の問題となります。

 

3 入通院慰謝料

入通院慰謝料は入通院期間をもとに算定しますが,症状固定日までの入通院期間が対象となります。

症状固定日後は後遺障害逸失利益の問題となります。

 

4 後遺障害逸失利益

労働能力喪失期間は,原則として症状固定日から67歳までの期間です。

また,中間利息の控除についても症状固定日が基準時となると解されています。

 

5 消滅時効の起算点

後遺障害が残った場合の損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,症状固定日であると解されています。

 

四 治療の打切りの問題

加害者側が被害者の治療費を支払っている場合,ある程度の期間が経過すると,加害者側から治療費の負担を終了する旨告げられることがあります。

被害者が,痛みや症状が続いており,治療の必要があると訴えたとしても,加害者側は,症状の固定を主張して,応じないということがあります。

 

被害者の中には症状固定後に痛みや症状が残っていたとしても,必ずしも後遺障害の等級認定がなされるとは限らないことから,もっと治療を続けたいと考えられる方もおられるかもしれませんが,その一方で,加害者に治療費を負担させることができず,被害者が治療費を自己負担しなければならなくなるおそれもありますので,治療を続けるかどうかは難しい問題となります。特に自由診療で治療を受けている場合には,治療費が高額となるので,より難しい問題となります。

【交通事故】民法改正(債権法改正)の影響

2020-05-14

民法の債権法が改正され,令和2年(2020年)4月1日に施行されました。民法改正により,交通事故の損害賠償請求事件にも様々な影響が生じますので,主な点について説明します。

一 消滅時効

1 時効期間

(1)民法724条

改正後の民法724条により,不法行為による損害賠償請求権は,①被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき(同条1号),②不法行為の時から20年間行使しないとき(同条2号)は,時効によって消滅します。
①については改正前と同じです。②については,改正前は除斥期間と解されてましたが,改正により時効期間となりました。

(2)民法724条の2

改正により新設された民法724条の2により,人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権については,民法724条1号の期間は3年間ではなく,5年間となります。

民法724条の2の規定は,施行の際に既に時効が完成していた場合には適用がないとされていることから(附則35条2項),施行時に未だ消滅時効が完成していない場合には適用されます。

(3)人損の時効期間

人損については,民法724条の2により,損害賠償請求権の消滅時効期間は5年に延びました。
附則35条2項により,施行日前の交通事故であっても,施行時に時効が完成していなければ,民法724条の2が適用され,時効期間は5年となります。

また,運行供用者責任(自賠法3条)についても,民法の規定が適用されますので(自賠法4条),民法724条の2が適用されます。

(4)人損以外の時効期間

民法724条の2が適用されるのは人損に限られますから,物損については民法724条1号により,3年のままです。

また,自賠責保険の被害者請求(自賠法16条1項)や仮渡金の請求(自賠法17条1項)の時効期間は,被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年ですし(自賠法19条),政府の保障事業への請求権(自賠法16条4項,17条4項,72条1項)の時効期間は,行使することができるときから3年です(自賠法75条)。
保険金請求権の時効期間については,行使することができるときから3年です(保険法95条1項)。

2 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

(1)時効の更新,時効の完成猶予

改正により,「時効の中断」と「時効の停止」の規定が見直され,「時効の更新」と「時効の完成猶予」の規定になりました。

(2)協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

民法改正により,協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度(民法151条)が新設されました。

権利についての協議を行う旨の合意が書面(電磁的記録を含みます。)でされたときは,①合意があったときから1年を経過したとき,②協議を行う期間(1年に満たないものに限ります。)を定めたときはその期間を経過したとき,③当事者の一方が他方に対し協議続行を拒絶する旨の書面(電磁的記録を含みます。)による通知をしたときから6か月を経過したときのいずれか早い時期まで,時効の完成が猶予されます(民法151条1項,4項,5項)。
猶予期間中に再度の合意をすることで,さらに時効の完成を猶予させることができますが,通算で5年を超えることはできません(民法151条2項)。
また,催告による時効完成猶予と協議を行う旨の合意による時効の完成猶予は併用することができません(民法151条3項)。

交通事故の損害賠償請求事件では,治療が長引く等の理由で解決までに時間がかかることがあります。これまでは示談交渉中に時効の完成が近づいた場合には,時効の完成を阻止するため裁判上の請求等の手段をとらなければなりませんでしたが,協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度を利用することにより,これらの手段をとる負担を避けることができるようになりました。

なお,示談交渉の内容によっては,相手方が損害賠償請求権を認めたものとして,権利の承認による時効の更新(民法152条)が認められることがあります。

二 法定利率

1 法定利率

改正前の民事法定利率は年5%に固定されていましたが,改正により,法定利率は,当面は年3%とし,3年ごとに見直されることとなりました(民法404条)。
また,適用される法定利率は,利息が生じた最初の時点の法定利率となることから(民法404条1項),一旦適用される法定利率が決まれば,その後に法定利率が変動しても,適用される利率は変動しません。

なお,改正された民法404法が適用されるのは,施行日後に利息が生じた場合です。改正法施行日前に利息が生じた場合は改正前の法定利率となります(附則15条1項)。

2 遅延損害金

改正後の民法419条1項では,金銭債務不履行の損害賠償額の利率については,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率(約定利率が法定利率を超えるときは約定利率)となると規定されています。
なお,改正後の法定利率が適用されるのは,施行日後に遅滞となった場合です。改正法の施行日前に遅滞となっている場合には,遅延損害金の法定利率は改正前の法定利率となります(附則17条3項)。

不法行為の場合は不法行為時から遅延損害金が発生するものと解されていますので,交通事故の損害賠償請求事件の遅延損害金については事故日の法定利率が適用されます。

3 中間利息の控除

(1)民法417条の2

民法改正により,中間利息の控除についての規定が新設されました(民法417条の2)。
将来において取得すべき利益についての損害賠償額を定める場合に利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは,損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用います(民法417条の2第1項)。
また,将来において負担すべき費用についての損害賠償額を定める場合に費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用います(民法417条の2第2項)。
なお,民法417条の2の規定が適用されるのは,改正法の施行日後に生じた将来において取得すべき利益または負担すべき費用についての損害賠償請求権についてです。改正法の施行日前に生じた将来において取得すべき利益または負担すべき費用についての損害賠償請求権には適用されません(附則17条2項)。

民法417条の2は,不法行為による損害賠償請求についても準用されます(民法722条)。

(2)逸失利益,将来介護費用

交通事故の場合,死亡逸失利益,後遺症逸失利益,将来介護費用の額を算定する際,中間利息の控除を行います。
改正前は年5%で中間利息を控除していましたが,改正法が適用される場合には,施行当初は年3%で中間利息を控除することになります。

例えば,交通事故被害者が年収600万円,労働能力喪失率20%,労働能力喪失期間20年の場合,年5%で中間利息を控除するときはライプニッツ係数は12.4622となり,後遺症逸失利益の額は,1495万4640円(=600万円×0.2×12.4622)となりますが,改正法が適用され,年3%で中間利息を控除するときには,ライプニッツ係数は14.8775となるため,後遺症逸失利益の額は1785万3000円(=600万円×0.2×14.8775)となります。

(3)適用される利率の基準時

適用される法定利率は損害賠償請求権が生じた時点の法定利率です(民法417条の2)。
交通事故の損害賠償請求権は事故日に発生しますので,適用される法定利率は事故日の法定利率となります。
例えば,施行日前に事故が発生し,施行日後に症状固定した場合,後遺症逸失利益は年5%で中間利息を控除して算定することになります。
なお,いつの時点の利率を適用するのかということとは別に,いつの時点から中間利息を控除するのかという問題がありますが,後遺症逸失利益の場合,症状固定日を基準時として中間利息を控除するのが通常です。

三 相殺の規定の改正の影響

改正前の民法509条では,不法行為によって生じた債権を受働債権とする相殺を一律に禁止していました。
交通事故の当事者双方が損害を被った場合,当事者双方に過失があれば,お互いに損害賠償請求権を有することになりますが,民法改正前は,損害賠償請求権を相殺することはできませんでした(ただし,当事者が合意により相殺することはできました。)。

これに対し,改正後は,不法行為によって生じた債権を受動債権とする相殺がすべて禁止されるわけではなく,①悪意による不法行為に基づく損害賠償債務,②人の生命・身体の侵害による損害賠償債務(不法行為に基づくものだけでなく,債務不履行に基づくものを含みます。)を受働債権とする相殺が禁止されることになりました(債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときを除きます。)。
そのため,改正法が適用される場合には,人損については,これまでどおり相殺が禁止されますが,物損については悪意によるものではない限り,相殺することができることになりました。

なお,改正法施行日前に債権が生じた場合,その債権を受動債権とする相殺については,改正前の民法509条が適用されますので(附則26条2項),施行日後に発生した事故について,改正法が適用されます。

四 まとめ

以上のとおり,交通事故の損害賠償請求事件では,民法改正により①人損について消滅時効期間が5年になったこと,②協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度(民法151条)が新設されたこと,③法定利率が変更され,遅延損害金,中間利息の控除額が変わったこと,④物損について相殺ができるようになったことが,改正前との大きな違いです。

【交通事故】後遺症逸失利益と減収

2019-08-28

交通事故の被害者に後遺障害が残存する場合,後遺症逸失利益が損害となりますが,被害者の収入が減少していないときであっても,後遺症逸失利益は認められるでしょうか。

 

一 後遺症逸失利益と減収

1 差額説と労働能力喪失説

後遺症逸失利益とは,後遺症がなければ将来にわたって得られたであろう利益のことです。
逸失利益についての考え方としては,差額説と労働能力喪失説があります。

差額説は,事故前後の収入の差額を損害ととらえる考え方です。差額説によると,事故後に収入の減少がなければ逸失利益はないことになります。

これに対し,労働能力喪失説は,労働能力が喪失したこと自体を損害ととらえる考え方です。労働能力喪失説によると,減収がなくても逸失利益は認められることになり,減収の有無・程度は損害額評価の資料に過ぎないことになります。

判例は差額説の立場です(最高裁判所昭和42年11月10日判決,最高裁判所昭和56年12月22日判決)。
最高裁判所昭和56年12月22日判決では,後遺症の程度が比較的軽微であって,しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められない場合には特段の事情がない限り,労働能力の喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないとされています。
もっとも,同判決では,①事故前後で収入の変更がないことが,本人が労働能力低下による収入減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因によるものであり,これらの要因がなければ収入が減少していると認められる場合,②労働能力喪失の程度が軽微であっても,本人が現在従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし,特に,昇級,昇任,転職等で不利益な取扱を受けるおそれがあると認められる場合など特段の事情がある場合には財産上の損害が認められるとされています。

したがって,後遺症逸失利益は,後遺症による減収を損害とするものですが,将来における収入の減少が問題となりますので,損害賠償請求時点で減収していなくても,それだけで逸失利益が認められないということではありません。

 

2 後遺症逸失利益の計算式

後遺症逸失利益の額は「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定します。

この計算式は一見すると労働能力喪失説を前提としているものと思われますが,差額説の立場にたっても,将来にわたる収入の減少額を直接算定することはできませんので,このような計算式で後遺症逸失利益の額を算定することになります。

労働能力喪失率については,基本的には後遺障害等級表の等級に応じた喪失率となりますが,後遺症の部位,程度,被害者の職業,年齢,性別,事故前後の稼働状況,収入の減少の程度等,具体的な事情を総合して判断されますので,必ずしも後遺障害の等級に応じた喪失率とはなりません。被害者の職業や後遺症の内容によっては収入減少への影響が小さいものとして,労働能力喪失率が等級より低く認定されることもあります。逆に収入減少への影響が大きい場合には,労働能力喪失率が等級より高く認定されることもあります。

 

二 後遺症逸失利益が認められるかどうかの考慮要素

1 業務への支障の有無

後遺症により業務に支障が生じている場合には,現在,減収していなくても,将来,減収する可能性があるといえます。
そのため,後遺症により業務に支障が生じていることは,後遺症逸失利益を認める事情となります。

 

2 本人の特別の努力の有無

被害者が後遺症に耐えながら勤務したり,後遺症により能率が落ちた分,長時間勤務したりするなど,収入が減少しないように被害者が特別の努力をしていることは,後遺症逸失利益を認める事情となります。

 

3 勤務先の特別の配慮の有無

減収していないことが勤務先の特別な配慮による場合には,特別の配慮が将来も続くとは限りませんので,将来,減収する可能性があるといえます。
そのため,勤務先の特別の配慮により減収していないことは,後遺症逸失利益を認める事情となります。

 

4 昇給,昇格等で不利益な取扱を受けるおそれの有無

後遺症により昇給,昇格等で不利益な取扱を受けることは,収入の減少につながります。
そのため,後遺症により昇給,昇格等で不利益な取扱を受けるおそれがあることは逸失利益を認める事情となります。

 

5 転職,再就職で不利益な取扱を受けるおそれの有無

被害者が転職や再就職しようとした場合,後遺症により就職できなかったり,就職できても収入が低くなったりすることがあり得ます。
そのため,被害者が転職や再就職する可能性があり,その際,後遺症により転職や再就職で不利益な取扱を受けるおそれがあることは逸失利益を認める事情となります。

 

6 後遺症の内容

外貌醜状の場合や嗅覚障害の場合など,後遺症の内容によっては,労働能力に影響はなく,後遺症逸失利益が認められるか争いとなることがあります。

外貌醜状の場合,身体機能への影響はなくても,被害者が女性や営業職であるとき等,業務に支障が生じることがありますし,今後の就職に不利益が生じるおそれがありますので,具体的な事情によっては,後遺症逸失利益が認められます。

嗅覚障害の場合,嗅覚が影響しない仕事もありますが,料理人等嗅覚が影響する仕事では業務に支障が生じますし,嗅覚障害により就ける職種が限定される等,今後の就職に影響を与えることがありますので,具体的な事情によっては,後遺症逸失利益が認められます。

【交通事故】むち打ち症(むち打ち損傷)

2019-07-30

追突事故の被害者がむち打ち症になることがありますが,その場合,被害者が損害賠償請求をするにあたって,どのようなことが問題となるのでしょうか。

 

一 むち打ち症(むち打ち損傷)とは

むち打ち症(むち打ち損傷)とは,自動車に追突された場合等,頸部に急激な外力が加わったことによる頸部の過伸展と過屈曲によって生じる症状(損傷)のことです。鞭を打ったときに鞭がしなる様子に似ていますので,むち打ち症といいます。頸椎捻挫や頸部捻挫ともいわれます。
症状として,頸部痛,頭痛,めまい,しびれ等があります。

 

二 治療関係費

1 受傷の有無,治療の必要性・相当性

むち打ち症については,軽微な追突事故でも発生する場合がありますし,他覚的所見に乏しく,自覚症状だけの場合や,症状が続き,治療が長期化する場合があります。そのため,本当に受傷したのかどうか争いになることがありますし,受傷したのだとしても,治療の必要性・相当性があるのかどうか,事故との相当因果関係の有無が争いになることがあります。
相当因果関係の有無については,①被害者の主訴の内容,②医師の診断,MRIやレントゲン等の画像や検査結果,治療の経過,③交通事故の態様(追突時の車両の速度,車両の損壊の程度等)等,様々な要素から判断されることになりますので,争いとなった場合には,損害を主張する被害者の側で,受傷の事実や治療の必要性・相当性を主張・立証しなければなりません。

治療期間についても,事故と相当因果関係のある期間の治療費が損害と認められますので,相当因果関係のある治療期間を超えて治療を受けても,治療費の全額が損害とは認められません。

 

2 症状固定

被害者は症状が完全になくなるまで治療を受け続けることができるわけではなく,治療を続けてもこれ以上の症状改善が望めない場合には,症状が固定したものとして,治療終了となり,あとは後遺障害が認定されるかどうかの問題となります。

症状固定日後の治療費は原則として損害とは認められないこと,休業損害や入通院慰謝料も症状固定日までの期間しか認められないこと,自覚症状があっても必ずしも後遺障害の等級認定がなされるわけではないことから,症状固定日がいつになるかは損害賠償額に大きく影響します。

保険会社が治療費の立替払いをしている場合,治療が長期化すると,保険会社から症状固定を主張され,治療の打ち切りを求められることがあり,治療を続ける必要があるか,症状固定とするか争いとなることがあります。

 

3 柔道整復(接骨院,整骨院),マッサージ等の施術費

むち打ち症の被害者が,柔道整復(接骨院,整骨院),マッサージ等の施術を受けることがあります。
その場合,施術が症状の改善に有効で相当であれば,施術費が損害と認められます。医師の指示がある場合には,損害と認められやすいです。

 

三 傷害慰謝料(入通院慰謝料)

他覚的所見のないむち打ち症については,軽傷であることから,通常の傷害の場合よりも慰謝料額が低くなります。
民事交通事故訴訟における損害賠償額の基準である赤い本でも,入通院慰謝料は別表Ⅰを用いて算定するのが原則ですが,他覚的所見のないむち打ち症の場合には,別表Ⅰより金額が低い別表Ⅱを用いて算定します。

 

四 後遺障害の等級認定

むち打ち症が後遺障害となる場合の等級については,①12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」,②14級9号「局部に神経症状を残すもの」があります。また,自覚症状があっても,非該当と判断されることがあります。

 

1 12級13号

12級13号の後遺障害が認定されるかどうかは,障害の存在が医学的に証明できるものであるかどうかで判断されます。
医学的に証明できる場合とは他覚的所見が存在する場合です。具体的には,症状固定時に残存する自覚症状と画像検査・神経学的検査における他覚的検査所見との間に医学的な整合性が認められる場合であり,①画像から神経圧迫の存在が考えられ,②圧迫されている神経の支配領域に知覚障害等の神経学的異常所見がある場合をいいます。

 

2 14級9号

14級9号の後遺障害が認定されるかどうかは,障害の存在が医学的に説明可能なものであるかどうかで判断されます。
医学的に説明可能な場合とは,医学的な証明まではできていないけれども,受傷の状況や治療の経過等から,症状が交通事故によるものであることが医学的に説明できる場合をいいます。

 

3 非該当

自覚症状があっても,画像上の異常がなく,神経学的異常所見もない場合には,非該当と判断されがちです。

適切な後遺障害の等級認定を受けるには,きちんと病院に通院し,画像撮影(レントゲン,CT,MRI等)や神経学的検査(ジャクソンテスト,スパーリングテスト,筋萎縮や反射の検査等)をしてもらい,後遺障害等級認定診断書に自覚症状や検査結果等について詳細な記載をしてもらうことが大切になります。

 

五 後遺症逸失利益

むち打ち症で後遺障害が認定された場合,後遺症逸失利益が損害となります。
後遺症逸失利益は「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定し,労働能力喪失期間は症状固定日から67歳までとするのが原則ですが,むち打ち症の場合には後遺症が永続するかどうか明らかではないため,労働能力喪失期間が限定される傾向にあります。
むち打ち症の後遺障害の場合,12級で10年程度,14級で5年程度に制限される場合が多いですが,期間については具体的症状に応じて判断されます。

 

六 素因減額

むち打ち症の場合,事故自体は軽微であったのに,被害者の精神的な要因や事故前からの病気により,治療が長期化したり,通常よりも症状が重くなったりすることがあります。
そのような場合,事故と損害との間の相当因果関係の有無が争いになることがあります。また,相当因果関係が認められるとしても,被害者の精神的性質(心因的要因)や疾患,既往症(身体的要因)といった被害者の素因があるために交通事故による損害が発生・拡大した場合には,加害者に損害の全部を賠償させるのは公平ではないため,民法722条の過失相殺の規定を類推適用して,損害賠償額が減額(素因減額)されることがあります。

【交通事故】ドライブレコーダーのデータ保存を忘れずに

2019-06-13

交通事故の法律相談を受けていると,相談者の方から,ドライブレコーダーを取り付けているけれども,映像が上書きされて消えてしまったと言われることがあります。

最近は,車にドライブレコーダーを取り付けている方が増えています。
交通事故の損害賠償の話合いにおいて,当事者間で事故の有無や事故態様について争いになった場合には,ドライブレコーダーの映像は非常に重要な証拠になりますので,ドライブレコーダーを取り付けておくことは交通事故への備えとなります。

しかし,取り付けただけで安心してはいけません。データの保存が重要です。

ドライブレコーダーは,走行時に,メモリーカードなどの記録媒体に映像が記録されますが,記録媒体の容量には限界がありますので,一定時間の走行でデータが上書きされてしまいます。
車が大破した大きな事故の場合には,事故後,車は走行できないので,事故時の映像が上書きされることはないでしょうが,軽微な物損事故の場合には,事故後にも車を走行させることができますので,ひとまず車で帰宅し,あとから事故時の映像データを保存しておこうとしたときには,すでに上書きされてなくなってしまっていたということがよくあります。

事故後に相手と事故状況を巡って主張が対立した場合にドライブレコーダーのデータがないと,自分の主張を立証することが非常に困難になり,解決まで時間や手間がかかったり,納得できない内容で示談せざるをえなくなったりすることになりかねません。

交通事故が起きた場合には,相手との損害賠償の話合いに備えて,記録媒体をドライブレコーダーから外すなど,データが上書きされないようにし,データを保存しておくことを忘れないでください。

【交通事故】遺族年金の損益相殺

2019-01-29

交通事故で亡くなった被害者の相続人が遺族年金を受給した場合,損害賠償額の算定にあたって遺族年金の受給額が控除されます。

 

一 遺族年金の受給による損益相殺

損益相殺とは,不法行為の被害者が,損害を被るのと同一の原因により利益を得た場合に,その利益の額を賠償すべき損害額から控除することをいいます。民法に損益相殺の規定はありませんが,公平の見地から認められています。

交通事故で亡くなった被害者の相続人が遺族年金を受給した場合には,交通事故により利益を受けたといえますので,損益相殺されることになります。

 

二 控除する遺族年金の範囲

損益相殺は損害が現実に補填されたといえる範囲に限られべきであることから,損害額から控除されるのは既に給付を受けた金額または支給を受けることが確定した金額に限られます。
未だ支給が確定していない金額については,給付を受けられるかどうか不確実ですので,控除されません。

 

三 控除される損害

損益相殺は給付と同一性のある損害について行われます。
そのため,遺族年金の受給により控除される損害は逸失利益に限られます。慰謝料等,他の損害項目からは控除されません。
また,控除される逸失利益は,年金収入の逸失利益に限らず,給与収入等他の逸失利益も含まれます。

 

四 控除される相続人の範囲

被害者の相続人の範囲と遺族年金の受給権者の範囲は異なりますので,被害者の相続人には遺族年金を受給できる人とそうでない人がいます。
遺族年金を受給した相続人の損害額から控除されますが,遺族年金を受給していない相続人の損害額からは控除されません。

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