【交通事故】むち打ち症(むち打ち損傷)

2019-07-30

追突事故の被害者がむち打ち症になることがありますが,その場合,被害者が損害賠償請求をするにあたって,どのようなことが問題となるのでしょうか。

 

一 むち打ち症(むち打ち損傷)とは

むち打ち症(むち打ち損傷)とは,自動車に追突された場合等,頸部に急激な外力が加わったことによる頸部の過伸展と過屈曲によって生じる症状(損傷)のことです。鞭を打ったときに鞭がしなる様子に似ていますので,むち打ち症といいます。頸椎捻挫や頸部捻挫ともいわれます。
症状として,頸部痛,頭痛,めまい,しびれ等があります。

 

二 治療関係費

1 受傷の有無,治療の必要性・相当性

むち打ち症については,軽微な追突事故でも発生する場合がありますし,他覚的所見に乏しく,自覚症状だけの場合や,症状が続き,治療が長期化する場合があります。そのため,本当に受傷したのかどうか争いになることがありますし,受傷したのだとしても,治療の必要性・相当性があるのかどうか,事故との相当因果関係の有無が争いになることがあります。
相当因果関係の有無については,①被害者の主訴の内容,②医師の診断,MRIやレントゲン等の画像や検査結果,治療の経過,③交通事故の態様(追突時の車両の速度,車両の損壊の程度等)等,様々な要素から判断されることになりますので,争いとなった場合には,損害を主張する被害者の側で,受傷の事実や治療の必要性・相当性を主張・立証しなければなりません。

治療期間についても,事故と相当因果関係のある期間の治療費が損害と認められますので,相当因果関係のある治療期間を超えて治療を受けても,治療費の全額が損害とは認められません。

 

2 症状固定

被害者は症状が完全になくなるまで治療を受け続けることができるわけではなく,治療を続けてもこれ以上の症状改善が望めない場合には,症状が固定したものとして,治療終了となり,あとは後遺障害が認定されるかどうかの問題となります。

症状固定日後の治療費は原則として損害とは認められないこと,休業損害や入通院慰謝料も症状固定日までの期間しか認められないこと,自覚症状があっても必ずしも後遺障害の等級認定がなされるわけではないことから,症状固定日がいつになるかは損害賠償額に大きく影響します。

保険会社が治療費の立替払いをしている場合,治療が長期化すると,保険会社から症状固定を主張され,治療の打ち切りを求められることがあり,治療を続ける必要があるか,症状固定とするか争いとなることがあります。

 

3 柔道整復(接骨院,整骨院),マッサージ等の施術費

むち打ち症の被害者が,柔道整復(接骨院,整骨院),マッサージ等の施術を受けることがあります。
その場合,施術が症状の改善に有効で相当であれば,施術費が損害と認められます。医師の指示がある場合には,損害と認められやすいです。

 

三 傷害慰謝料(入通院慰謝料)

他覚的所見のないむち打ち症については,軽傷であることから,通常の傷害の場合よりも慰謝料額が低くなります。
民事交通事故訴訟における損害賠償額の基準である赤い本でも,入通院慰謝料は別表Ⅰを用いて算定するのが原則ですが,他覚的所見のないむち打ち症の場合には,別表Ⅰより金額が低い別表Ⅱを用いて算定します。

 

四 後遺障害の等級認定

むち打ち症が後遺障害となる場合の等級については,①12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」,②14級9号「局部に神経症状を残すもの」があります。また,自覚症状があっても,非該当と判断されることがあります。

 

1 12級13号

12級13号の後遺障害が認定されるかどうかは,障害の存在が医学的に証明できるものであるかどうかで判断されます。
医学的に証明できる場合とは他覚的所見が存在する場合です。具体的には,症状固定時に残存する自覚症状と画像検査・神経学的検査における他覚的検査所見との間に医学的な整合性が認められる場合であり,①画像から神経圧迫の存在が考えられ,②圧迫されている神経の支配領域に知覚障害等の神経学的異常所見がある場合をいいます。

 

2 14級9号

14級9号の後遺障害が認定されるかどうかは,障害の存在が医学的に説明可能なものであるかどうかで判断されます。
医学的に説明可能な場合とは,医学的な証明まではできていないけれども,受傷の状況や治療の経過等から,症状が交通事故によるものであることが医学的に説明できる場合をいいます。

 

3 非該当

自覚症状があっても,画像上の異常がなく,神経学的異常所見もない場合には,非該当と判断されがちです。

適切な後遺障害の等級認定を受けるには,きちんと病院に通院し,画像撮影(レントゲン,CT,MRI等)や神経学的検査(ジャクソンテスト,スパーリングテスト,筋萎縮や反射の検査等)をしてもらい,後遺障害等級認定診断書に自覚症状や検査結果等について詳細な記載をしてもらうことが大切になります。

 

五 後遺症逸失利益

むち打ち症で後遺障害が認定された場合,後遺症逸失利益が損害となります。
後遺症逸失利益は「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定し,労働能力喪失期間は症状固定日から67歳までとするのが原則ですが,むち打ち症の場合には後遺症が永続するかどうか明らかではないため,労働能力喪失期間が限定される傾向にあります。
むち打ち症の後遺障害の場合,12級で10年程度,14級で5年程度に制限される場合が多いですが,期間については具体的症状に応じて判断されます。

 

六 素因減額

むち打ち症の場合,事故自体は軽微であったのに,被害者の精神的な要因や事故前からの病気により,治療が長期化したり,通常よりも症状が重くなったりすることがあります。
そのような場合,事故と損害との間の相当因果関係の有無が争いになることがあります。また,相当因果関係が認められるとしても,被害者の精神的性質(心因的要因)や疾患,既往症(身体的要因)といった被害者の素因があるために交通事故による損害が発生・拡大した場合には,加害者に損害の全部を賠償させるのは公平ではないため,民法722条の過失相殺の規定を類推適用して,損害賠償額が減額(素因減額)されることがあります。

 

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