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【離婚】慰謝料請求と保全手続

2021-07-09

離婚事件で慰謝料請求をする場合に、相手方が財産を処分してしまうおそれがあるときは保全手続を利用することが考えられます。

 

一 慰謝料請求権を被保全権利とする保全処分

保全処分には、①仮差押え、②係争物に関する保全処分、③仮の地位を定める仮処分があります。

仮差押えは金銭の支払を目的とする債権を保全するための保全処分であり(民事保全法20条1項)、金銭債権である慰謝料請求権を保全するためには、相手方の財産の仮差押えをすることが通常です。

 

仮差押えをすることにより、その後に債務者が財産を処分しても、債権者は債務名義を取得して強制執行することができます。

 

二 管轄裁判所

損害賠償(慰謝料)請求訴訟は、民事訴訟であり、保全事件の管轄裁判所は本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所です(民事保全法12条1項)。

 

もっとも、人事訴訟の請求原因となった事実によって生じた損害賠償に関する請求は人事訴訟と併合することができます(人事訴訟法17条)。

保全事件についても、人事訴訟に係る請求とその請求原因である事実によって生じた損害賠償請求を1つの訴えですることができる場合には、損害賠償請求の保全命令の申立ては、仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する家庭裁判所にすることができます(人事訴訟法30条2項)。

 

三 被保全権利と保全の必要性

保全事件では、被保全権利と保全の必要性を疎明する必要があります。

 

1 被保全権利

慰謝料請求権があることを疎明する必要があります。

離婚事件で慰謝料請求する場合としては,離婚に伴う慰謝料請求の場合と相手方の不貞行為やDV等、離婚原因となる個々の行為についての慰謝料請求の場合があります。

 

2 保全の必要性

保全の必要性は、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生じるおそれがあるときに認められます(民事保全法20条1項)。

 

保全の必要性は、仮差押の対象物の種類や債務者の受ける打撃の大きさも関係します。相手方の財産として自宅不動産と預貯金がある場合、通常は預貯金よりも自宅不動産を仮差押したほうが相手方の打撃が小さいと考えられますので、自宅不動産を仮差押の対象とすることが多いです。

 

四 担保金

保全処分により債務者が損害を被る可能性があるため、担保金を供託する必要があります。

 

担保金額は基本的に目的物の価格が基準となります。

不動産が目的物となる場合は、固定資産税評価額を基準とすることが多いです。不動産が対象となる場合には担保金額も高額になるため、保全の申立てをするにあたっては担保金を準備できるかどうかが問題となります。

 

【離婚】財産分与請求と保全手続

2021-07-05

離婚事件で財産分与請求をする場合に、相手方が財産を処分してしまうおそれがあるときは保全手続を利用することが考えられます。

 

一 財産分与請求権を被保全権利とする保全処分

保全処分には、①仮差押え、②係争物に関する保全処分、③仮の地位を定める仮処分があります。

財産分与請求権を被保全権利とする保全処分は、仮差押えの場合と係争物に関する保全処分である不動産の処分禁止の仮処分の場合があります。

 

1 仮差押え

仮差押えは金銭の支払を目的とする債権を保全するための保全処分です(民事保全法20条1項)。

財産分与請求権は金銭の支払によるのが原則であるため、財産分与請求権を被保全権利とする保全処分としては、仮差押えによることが多いです。

 

仮差押えをすることにより、その後に債務者が財産を処分しても、債権者は債務名義を取得して強制執行することができます。

 

2 不動産の処分禁止の仮処分

財産分与で不動産の現物分与を求める場合に、相手方に不動産を処分され、第三者に登記を移されてしまうのを防ぐために、不動産処分禁止の仮処分の申立てをすることもあります。

 

仮処分命令の発令により、処分禁止の登記がなされた場合(民事保全法53条1項)には、その後に債務者が不動産を処分して、第三者に登記を移したとしても、債権者が本案訴訟で不動産の現物分与が認められて登記をするときは、処分禁止の登記に抵触する処分行為は債権者に対抗できず、債権者は単独で第三者の登記を抹消請求することができます(民事保全法58条)。

 

二 管轄裁判所

人事訴訟を本案とする保全命令事件は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する家庭裁判所が管轄します(人事訴訟法30条1項)。

 

そのため、財産分与請求権を被保全権利とする保全命令の申立ての場合には、①本案での管轄裁判所(離婚訴訟の管轄裁判所)又は、②仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する家庭裁判所が管轄裁判所となります。

 

三 被保全権利と保全の必要性

保全事件では、被保全権利と保全の必要性を疎明する必要があります。

 

1 仮差押えの場合

(1)被保全権利

仮差押命令は、金銭の支払いを目的とする債権を被保全権利とするものですから(民事保全法20条1項)、金銭給付の方法による財産分与請求権が被保全権利となります。

 

財産分与請求をするには離婚が成立しなければならないため、①婚姻関係が破綻していること,②財産分与請求権を疎明する必要があります。

 

(2)保全の必要性

保全の必要性は、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに認められます(民事保全法20条1項)。

 

また、保全の必要性は、仮差押の対象物の種類や債務者の受ける打撃の大きさも関係します。そのため、相手方の財産として自宅不動産と預貯金がある場合、通常は預貯金よりも自宅不動産を仮差押したほうが相手方の打撃が小さいと考えられますので、自宅不動産を仮差押の対象とすることが多いです。

 

2 処分禁止の仮処分の場合

(1)被保全権利

現物分与の方法による財産分与請求権が被保全権利となります。

 

①婚姻関係が破綻していること,②財産分与請求権を疎明する必要がありますが、財産分与請求権は金銭給付が原則であるため、処分禁止の仮処分命令の申立てをする場合には対象財産について現物分与される蓋然性があることを疎明する必要があります。

 

(2)保全の必要性

保全の必要性は、係争物の現状の変更により債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難があるときに認められます(民事保全法23条1項)。

 

四 担保金

保全処分により債務者が損害を被る可能性があるため、担保金を供託する必要があります。

 

担保金額は基本的に目的物の価格が基準となります。不動産が目的物となる場合は、固定資産税評価額を基準とすることが多いです。

 

財産分与の場合には通常の民事保全の場合よりも、担保金額が低くなる傾向にありますが、不動産が対象となる場合には担保金額も高額になるため、保全の申立てをするにあたっては担保金を準備できるかどうかが問題となります。

 

五 離婚成立後に財産分与請求する場合

離婚成立後は離婚訴訟の提起はできないので、人事訴訟を本案とする保全処分の申立てはできません。

もっとも、離婚成立後2年以内であれば財産分与調停・審判の申立てをすることができますので、審判前の保全処分の申立てをして、仮差押や処分禁止の仮処分をすることができます(家事事件手続法157条1項4号)。

 

なお、人事訴訟を本案とする保全処分の申立ては訴訟提起前でもできますが、審判前の保全処分の申立てをする場合には、家庭裁判所(または高等裁判所)に調停や審判が係属していることが必要となります(家事事件手続法105条)。

 

申立てをするときには、申立ての趣旨及び保全処分を求める事由を明らかにし(家事事件手続法106条1項)、保全処分を求める事由を疎明しなければなりません(家事事件手続法106条2項)。

また、審判前の保全処分の場合も担保の提供が必要となります。

【交通事故】自賠責保険の重過失減額

2021-05-31

交通事故の被害者が損害賠償請求する場合に被害者に過失があるときは,被害者の過失割合に応じて過失相殺されますが,自賠責保険では被害者に重過失がない限り,減額されません。

 

一  自賠責保険の重過失減額

自賠責保険では,被害者保護の観点から過失相殺が制限されており,被害者に重大な過失がある場合に限り,減額されます。

 

1 減額の対象

自賠責保険の支払基準で算定された損害額から減額されます。

損害額が保険金額以上となる場合には,保険金額から減額されます。

 

2 減額割合

(1)傷害にかかるもの

被害者の過失が7割未満の場合には減額されませんが,被害者の過失が7割以上ある場合には2割減額されます。

ただし,被害者の損害額が20万円以下の場合には減額されません。

 

(2)後遺障害または死亡にかかるもの

被害者の過失が7割未満の場合には減額されませんが,7割以上の場合には以下の割合で減額されます。

 

①7割以上8割未満の場合  2割

②8割以上9割未満の場合  3割

③9割以上10割未満の場合 5割

 

二 重過失減額の認定

1 損害保険料率算出機構の自賠責損害調査センターの損害調査

自賠責保険から支払われるかどうかは,損害保険料率算出機構の自賠責損害調査センターの損害調査によります。

損害保険料率算出機構の自賠責損害調査センターでは,全国に地区本部と自賠責損害調査事務所があります。損害調査は自賠責損害調査事務所で行われますが,自賠責保険(共済)から支払われないか減額される可能性がある事案等,自賠責損害調査事務所では判断が困難な事案は地区本部,本部で審査が行われます。

また,死亡事案で全く支払われないか減額される可能性がある事案等については,外部の専門家の参加する自賠責保険(共済)審査会で審査が行われます。

 

2 認定に不服がある場合

重過失減額の認定に不服がある場合は,保険会社に異議申立てをすることや,自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理申請をすることができます。

 

また,裁判所は,自賠責保険の支払基準に拘束されずに損害賠償額の算定をすることができますので,訴訟を提起して訴訟手続の中で過失割合を争うことも考えられます。

 

三 被害者に重過失がある場合に訴訟提起する場合の注意点

訴訟手続では,裁判所は自賠責保険の支払基準に拘束されずに損害賠償額の算定をすることができますが,被害者の過失割合に応じた過失相殺をします。

そのため,被害者の過失が大きい場合には,損害額自体は自賠責保険の支払基準よりも高額であっても,過失相殺により,訴訟手続で認定される損害賠償額が自賠責保険の支払額を下回ってしまうことがあります。

【交通事故】兼業主婦の休業損害

2021-05-19

会社員や個人事業主等、働いて収入を得ている人が交通事故被害にあって休業し、収入が得られなくなった場合には、交通事故の損害として、休業損害が認められます。

また、家事従事者が交通事故被害にあい、家事労働ができなくなった場合も、休業損害が認められます。

では、働いて収入を得ながら家事労働をしている兼業主婦の場合、休業損害はどのように考えるのでしょうか。

 

休業損害は「休業損害額=基礎収入額(収入日額)×休業期間(休業日数)」の計算式で算定しますので、兼業主婦の場合も、同様に算定します。

 

1 基礎収入額

会社員等働いて収入を得ている人の場合は現実の収入額が基礎収入額となります。

 

家事従事者の場合は、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎収入額とするのが通常ですが、全年齢平均ではなく、年齢別の平均賃金額を用いることもあります。

 

兼業主婦の場合、収入のある労働と家事労働をしていますが、双方の合計額が基礎収入額となるわけではなく、現実の収入額と女性労働者の平均賃金額を比較して、高い金額を基礎収入額とするのが基本です。

兼業主婦の場合には、家事労働にあてる時間を収入のある別の労働にあてているものと考えられるので、平均賃金額に現実の収入額を加算すると、労働による利益を二重に評価することになってしまうからです。

 

そのため、兼業主婦の場合、①現実の収入額が女性労働者の平均賃金額を上回る場合には、現実の収入額が基礎収入額となり、②現実の収入額が女性労働者の平均賃金額を下回る場合には平均賃金額が基礎収入額となります。

 

2 休業期間(休業日数)

休業期間(休業日数)とは、治療期間中(事故時から治療終了時または症状固定日までの間)に受傷により休業した期間(日数)のことです。

 

給与所得者の場合は、受傷により出勤できなかった期間(日数)が休業期間(休業日数)であり、休業損害証明書で把握することができます。

家事従事者の場合、受傷により家事労働ができなかった期間(日数)が休業期間(休業日数)です。受傷の程度が重い場合には治療期間の全日数が休業日数となることもありますが、そうでない場合には、回復に伴い家事労働ができるようになることから、治療期間の全日数が休業期間(休業日数)となるわけではなく、治療期間のうち一定割合(例えば、事故後、〇日間は〇%、その後〇日間は〇%というように治療期間に休業割合を乗じる)を休業期間(休業日数)として休業損害を計算します。

 

兼業主婦の場合、①現実の収入額が女性労働者の平均賃金額より高く、現実の収入額を基礎収入額とするときは、実際に仕事を休んだ期間(日数)を休業期間(休業日数)とし、②現実の収入額が女性労働者の平均賃金より低く、女性労働者の平均賃金額を基礎収入額とするときには、家事労働ができなかった期間(日数)を休業期間(休業日数)とするのが基本です。

 

3 治療期間中、仕事を休まなかった場合

治療期間中、仕事を休まなかった場合、家事労働の休業損害が発生したといえるのか争いとなることがあります。

 

現実の収入額が女性労働者の平均賃金額より高く、現実の収入額を基礎収入額とする場合、仕事を休まず、減収がない場合には、休業損害が認められないのが基本です。

 

現実の収入額が女性労働者の平均賃金額より低く、女性労働者の平均賃金額を基礎収入額とする場合には、仕事ができるのなら、家事労働もできるはずだという考えもありますが、仕事を休むことができず、無理をして出勤したという場合もありますので、仕事を休まなかったけれども、家事労働に支障があった場合には、家事労働の休業損害が否定されるわけではありません。

もっとも、治療期間中に仕事をして、現実の収入がある場合には、その点を考慮する必要がありますので、具体的な事情をもとに合理的な計算方法(現実の収入額を控除する、休業割合を調整する等)を考えて、休業損害額を主張立証していくことになります。

【交通事故】整骨院の施術費

2021-04-06

交通事故の損害賠償請求事件では、整骨院の施術費が損害と認められるかどうか争いとなることがあります。

 

交通事故の治療費は、必要・相当な治療行為であれば、損害と認められます。

整骨院の施術は、医師による治療行為ではありませんが、症状改善の効果があり、施術の必要性、相当性が認められる場合には、施術費が損害と認められます。

また、治療費と同様、整骨院の施術費も症状固定日までのものが損害と認められるのが原則です。

 

整骨院の施術を受けることについて、医師の指示や承諾がある場合には、施術費は損害と認められやすいですが、医師の指示や承諾がない場合でも、施術の必要性、相当性が認められれば、整骨院の施術費が損害と認められます。

 

施術費が損害と認められる場合であっても、必ずしも施術費の全額が損害と認められるとは限りません。施術期間が長い場合や施術費が高額な場合等、必要性、相当性に問題がある場合には施術費の一部しか損害と認められないことがありますので、注意しましょう。

 

被害者の中には、病院に通院せず、整骨院に通う方もいますが、治療の必要性は医師の判断が基本となりますし、医師でなければ診断書を作成できませんので、整骨院に通う場合であっても、病院に通院するべきでしょう。病院に通院していないと、治療の必要性の有無や症状固定日がわかりませんし、後遺症があっても、後遺障害診断書を作成してもらうことができず、損害賠償請求をするのが難しくなります。

【民法(債権法)改正】代理

2021-02-15

改正民法が令和2年4月1日に施行されたことにより、代理の規定が改正されました。

 

一 代理行為の瑕疵

1 代理行為に瑕疵があった場合

改正前の民法101条1項では「意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定されていました(旧民法101条1項)。

この規定は、意思表示の瑕疵や善意・悪意や過失の有無は代理人について判断するのが原則であるという規定ですが、適用範囲が不明確でした。

 

改正により、代理人が相手方に意思表示をした場合と相手方が代理人に意思表示した場合が区別され、適用範囲が明確になりました。

改正後の民法101条1項では「代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定され、民法101条2項「相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定されました。

 

2 特定の法律行為を委託した場合

改正前の旧民法101条2項では「特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失により知らなかった事情についても、同様とする。」と規定されておりましたが、本人の指図は不要であると解されていました。

 

改正により、「本人の指図に従って」の文言が削除され、改正後の民法101条3項では「特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。」と規定されました。

 

二 代理人の行為能力

改正前の旧民法102条では「代理人は、行為能力者であることを要しない。」と規定しておりました。

この規定は、代理人が制限行為能力者であっても、法律行為を取り消すことはできないということですが、文言上は、取消しができるのかどうか不明確でした。

また、旧民法102条では任意代理人の場合と法定代理人の場合とで区別していませんが、制限行為能力者が法定代理人になった場合にも取消しができないとすると、本人の保護が図れないおそれがありました。

 

そこで、改正後の民法102条では「制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りではない。」と規定されました。

 

また、この改正に伴い、民法13条1項(保佐人の同意を要する行為について同条10号「前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。」を追加)、民法120条1項(行為能力の制限によって取り消すことができる行為の取消権者に「他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む」こととされました。)が改正されました。

 

三 復代理

1 復代理人を選任した代理人の責任

改正前の旧民法105条1項では「代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。」と規定し、同条2項では「代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠っときは、この限りではない。」と規定されていましたが、任意代理人が復代理人を選任した場合に任意代理人の責任を軽減すべき理由がないことから、改正により、旧民法105条は削除されました。

改正後は、任意代理人が復代理人を選任した場合の代理人の責任は債務不履行の一般原則によることになります。

 

また、旧民法106条(法定代理人による復代理人の選任)は、改正後は民法105条になりました。旧民法105条が削除されたことにより,文言が一部変わりましたが,内容は同じです。

 

2 復代理人の権限等

改正前の旧民法107条2項は「復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。」と規定されていましたが、復代理人と代理人の権利義務が必ずしも同じでないことを明確にするため、改正後の民法106条2項では「復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。」と規定されました。

なお、旧民法107条1項は改正後は民法106条1項となりましたが、文言は同じです。

 

四 代理権の濫用

改正前は、代理人が代理権を濫用した場合について明文の規定がありませんでした。

改正前は、代理権が濫用された場合も代理権の範囲内の行為であることから本人に効果が帰属するのが原則ですが、民法93条但書を類推適用して、相手方が代理人の目的を知り又は知ることができた場合は代理行為の効果を否定することで、本人の保護を図っていました。

 

改正により、代理権の濫用についての規定が新設されました。改正後の民法107条では「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と規定されました。

 

五 自己契約及び双方代理等

1 自己契約及び双方代理の禁止

改正前の旧民法108条では「同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」と規定し、自己契約及び双方代理を禁止していましたが、違反した場合の効果についての規定がなく、判例上、無権代理と同様に扱われていました。

 

改正により、違反した場合の効果について規定されました。改正後の民法108条1項では「同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」と規定されました。

 

2 利益相反行為の禁止

改正前の民法では代理人と本人の利益相反についての規定はありませんでしたが、旧民法108条の規制が及ぶと解されていました。

 

改正により、利益相反行為禁止の規定が新設されました。改正後の民法108条2項では「前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない。」と規定されました。

 

六 表見代理

1 代理権授与の表示による表見代理等

改正前の民法では、表示された代理権の範囲外の行為をした場合の規定がなく、判例上、旧民法109条(代理権授与の表示による表見代理)と旧民法110条(権限外の行為の表見代理)が重畳適用されていました。

 

改正により、表示された代理権の範囲外の行為をした場合について規定されました。改正後の民法109条2項では「第三者に対して他人に代理権を与えた旨の表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。」と規定されました。

 

2 代理権消滅後の表見代理

改正前の民法112条では「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。」と規定されていましたが、改正により、「善意」の意味が明確化されました。

改正後の民法112条1項では「他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。」と規定されました。

 

また、改正前の民法では、代理権消滅後に代理権の範囲外の行為をした場合の表見代理の規定がなく、判例上、旧民法112条と旧民法110条が重畳適用されていました。

改正により、代理権消滅後に代理権の範囲外の行為をした場合について規定されました。改正後の民法112条2項では「他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。」と規定されました。

 

七 無権代理人の責任

1  民法117条1項の改正

改正前の旧民法117条1項では「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う。」と規定されていましたが、相手方が追認がなかったことを立証しなければならないのか、代理人が責任を免れるために追認があったことを立証しなければならないのか文言上明確ではありませんでした。

改正により、代理人が追認があったことの立証責任を負うことが明確になりました。改正後の民法117条1項では「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」と規定されました。

 

2 民法117条2項の改正

改正前の旧民法117条2項は「前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。」と規定していました。

 

改正により、相手方に過失がある場合であっても、無権代理人が代理権がないことを知っていたときは、無権代理人は責任を負うことが規定されました。改正後の民法117条2項は、「前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。 一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。 二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りではない。 三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。」と規定されました。

【民法(債権法)改正】意思能力・意思表示

2021-01-05

改正民法が令和2年4月1日に施行されました。改正により、意思能力の明文化や意思表示の規定の見直しがなされました。

 

一 意思能力の明文化

改正前から、意思能力がない人がした法律行為は無効であると解されていましたが、条文の規定がありませんでした。

改正により、意思能力について明文化され、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とする。」と規定されました(民法3条の2)。

 

二 意思表示の規定の見直し

改正により、心裡留保、錯誤、詐欺の規定が見直されました。

また、意思表示の効力発生時期等の規定や意思表示の受領能力の規定も改正されました。

 

1 心裡留保

(1)意思表示が無効となる場合

改正前は、心裡留保の意思表示について「相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は無効とする。」と規定していましたが(旧民法93条但書)、真意を知っている必要まではないことから、改正により「相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は無効とする。」と規定されました(民法93条1項但書)。

 

(2)第三者保護

改正前は、第三者保護規定がなく、民法94条2項を類推適用して第三者の保護を図っていました。

改正により「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」と規定され(民法93条2項)、第三者の保護が図られることになりました。

 

2 錯誤

(1)効果

改正前は、錯誤による意思表示は無効と規定されていましたが(旧民法95条)、改正により、取消事由となりました(民法95条1項)。

無効であれば誰でも主張することができるのが原則であるにもかからわず,判例上、錯誤による意思表示の無効は原則として表意者のみ主張できると解されてきたことや、詐欺による取消しの主張には期間制限があるのに(民法126条)、無効の主張には期間制限がなく、バランスを欠くことから、改正により、錯誤についても無効事由ではなく、取消事由となりました。

 

(2)表示の錯誤と動機の錯誤

改正前は「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」と規定されていましたが(旧民法95条本文)、条文上、どのような場合に意思表示の効力が否定されるのか明確ではなかったことから、改正により、要件が明確化されました。

 

改正により「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」(表示の錯誤)と「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」(動機の錯誤)に区別されました(民法95条1項1号、2号)。

 

表示の錯誤の場合は、①意思表示が錯誤に基づくものであり、②「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」は取り消すことができます(民法95条1項)。

 

動機の錯誤の場合は、①,②に加え、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」に限り取り消すことができます(民法95条1項、2項)。

 

(3)表意者に重過失がある場合

改正前は「表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することはできない。」と規定されていましたが(旧民法95条但書)、改正により、意思表示の効力を否定することができる場合が規定されました。

 

改正後も、錯誤が表意者の重大な過失のよる場合は意思表示を取り消すことができないのが原則ですが、①相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったときや、②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときは、例外的に意思表示を取り消すことができます(民法95条3項)。

 

(4)第三者保護規定

改正前は第三者保護規定がありませんでしたが、改正により第三者保護規定がおかれ、錯誤による意思表示の取消しは、「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」と規定されました(民法95条4項)。

 

3 詐欺

(1)第三者の詐欺

改正前は、相手方に対する意思表示が第三者の詐欺による場合、「相手方がその事実を知っていたときに限り」、意思表示を取り消すことができると規定されていました(旧民法96条2項)。

 

改正により、相手方が、その事実を知ることができた場合にも意思表示を取り消すことができるようになり「相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り」、意思表示を取り消すことができると規定されました(民法96条2項)。

 

(2)第三者保護規定

改正前は、詐欺による意思表示の取消しは、「善意の第三者に対抗することができない。」

と規定されており(旧民法96条3項),第三者は無過失であることが必要か問題となっていました。

 

改正により、「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」と規定され(民法96条3項)、第三者は善意・無過失であることが必要となりました。

 

4 意思表示の効力発生時期等

(1)意思表示の到達主義

旧民法97条は隔地者間の意思表示について到達主義(意思表示は到達時に効力が発生するという考え)を採用していましたが、隔地者間の意思表示に限る必要はないことから、改正により、意思表示一般について到達主義を採用することが規定されました(民法97条1項)。

 

(2)通知の到達を妨げられた場合

改正前は、相手方が意思表示の通知を受領しなかった場合、意思表示の通知が到達したといえるかどうか、明文の規定はなく、問題になっていました。

 

改正により、「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。」という規定が新設されました(民法97条2項)。

 

(3)発信後の意思能力の喪失、行為能力の制限

改正前は、「隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」と規定されていました(旧民法97条2項)。

改正により、①隔地者間の意思表示に限らず、意思表示一般の規定にするとともに、②意思無能力や制限行為能力の場合に広げ、「意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない」と改められました(民法97条3項)。

 

5 意思表示の受領能力

改正前は、意思表示の受領時に相手方が未成年者や成年被後見人であった場合は意思表示を相手方に対抗できないが、法定代理人が知った後はその限りではないと規定されていました(旧民法98条の2)。

 

改正により、意思能力の規定が設けられたことにともない、相手方が「その意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき」も意思表示を相手方に対抗することができない場合として追加されました(民法98条の2本文)。また、意思表示を対抗できる例外も追加され、「意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方」が意思表示を知った後も意思表示を対抗することができることとされました(民法98条の2但書)。

【お知らせ】令和2年年末年始の営業について

2020-12-28

今年も大変お世話になりました。当事務所の年末年始の営業についてお知らせいたします。

 

令和2年12月30日(水)から令和3年1月4日(月)まで休業いたします。

令和2年は,12月29日(火)午後6時まで営業を行います。

令和3年は,1月5日(火)午前10時より営業を行います。

 

よいお年をお迎えください。

【民法(債権法)改正】法定利率の改正

2020-12-22

改正民法が令和2年(2020年)4月1日に施行されたことにより、法定利率が変更されました。

 

一 法定利率の引下げと変動制

1 法定利率の引下げ

改正前の民法では、「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする。」と規定されており、民事法定利率は年5%に固定されていました(旧民法404条)。

しかし、年5%の利率は市中金利を大きく上回ることから、改正により、法定利率を当面は年3%に引き下げ、3年ごとに見直すことになりました(民法404条)。

 

また、改正前の商法では、商事法定利率は年6%とされていましたが(旧商法514)、民法改正により法定利率が引き下げられたことにともない、商事法定利率の規定は廃止されました。

 

2 法定利率の変動

改正後の法定利率は、当初は年3%ですが(民法404条2項)、3年を一期として,一期ごとに変動するものとされました(民法404条3項)。

 

各期の法定利率は、直近変動期(法定利率の変動があった期のうち直近のもの)の基準割合と当期の基準割合との差に相当する割合(1%未満の端数は切捨てます。)を直近変動期の法定利率に加算・減算した割合となります(民法404条4項)。

 

基準割合は、過去5年(各期の初日の属する年の6年前の1月から前々年の12月まで)の各月の短期貸付け(銀行が新たに行った貸付期間1年未満の貸付け)の平均利率の合計を60で割って計算した割合(0.1%未満の端数は切り捨てます。)です(民法404条5項)。

 

適用される法定利率は、利息が生じた最初の時点の法定利率になります(民法404条1項)。そのため、一旦適用される法定利率が決まれば、その後に法定利率が変動しても、適用される法定利率は変動しません。

 

3 改正法はいつから適用されるのか

改正後の民法404法が適用されるのは、施行日後に利息が生じた場合です。

改正法施行日前に利息が生じた場合は改正前の法定利率となります(附則15条1項)。

 

二 遅延損害金

改正後の金銭債務不履行の損害賠償額の利率は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率(約定利率が法定利率を超えるときは約定利率)になります(民法419条)。

 

なお、改正後の法定利率が適用されるのは、施行日後に遅滞となった場合です。改正法の施行日前に遅滞となっている場合は、改正前の法定利率となります(附則17条3項)。

 

三 中間利息の控除

民法改正により、中間利息の控除についての規定が新設されました(民法417条の2)。

民法417条の2は、不法行為による損害賠償請求にも準用されます(民法722条1項)。

 

民法417条の2では、①将来、取得すべき利益についての損害賠償額を定める場合に利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用いる(民法417条の2第1項)、②将来、負担すべき費用についての損害賠償額を定める場合に費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用いると規定されています(民法417条の2第2項)。

 

中間利息の控除は損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用いますので、例えば、交通事故の損害賠償請求事件で、死亡逸失利益、後遺症逸失利益、将来介護費用の額を算定する際は、交通事故時の法定利率で中間利息の控除を行います。

 

なお、民法417条の2の規定(722条1項で準用される場合を含みます。)が適用されるのは、改正法の施行日後に生じた損害賠償請求権についてです(附則17条2項)。

改正法の施行日前に生じた損害賠償請求権には適用されません(附則17条2項)。

 

【民法(債権法)改正】消滅時効制度の改正

2020-12-01

民法の債権法が改正され,令和2年4月1日に施行されました。改正により,消滅時効制度の内容が変わりました。

 

一 債権の消滅時効期間と起算点

1 原則的な債権の消滅時効期間と起算点

改正前の民法では,原則的な債権の消滅時効期間は,権利を行使することができるときから10年とされていましたが(旧民法166条1項,167条1項),改正後は,①権利を行使することができることを知った時から5年,②権利を行使することができる時から10年となり,いずれか早い方の期間の経過により時効が完成することになりました(民法166条1項)。

 

改正前は,原則的な債権の消滅時効期間のほか,職業別の短期消滅時効(旧民法170条から174条),商事消滅時効(旧商法522条)等,債権の種類によって時効期間が異なり,複雑になっていましたが,改正により,職業別の短期消滅時効や商事消滅時効が廃止され,原則的な債権の時効期間が統一されました。

また,消滅時効の起算点については,客観的起算点(権利を行使することができる時)のほか,主観的起算点(権利を行使することができることを知った時)を追加し,主観的起算点の時効期間を5年と短くしました。

 

なお,改正法が適用されるのは施行日後に生じた債権についてです。施行日前に生じた債権については旧法が適用されます(附則10条4項)。

 

2 職業別の短期消滅時効の廃止

改正前の民法では,飲食料,宿泊料は1年,弁護士の報酬は2年,医師の診療報酬は3年等,職業別の短期消滅時効がありましたが(旧民法170条から174条),改正により,廃止されました。

改正後は,原則的な債権の消滅時効期間の規定(民法166条1項)が適用されます。

 

3 定期金債権等の消滅時効

改正前の民法では,定期金債権は,①第1回の弁済期から20年間行使しないとき,②最後の弁済期から10年間行使しないときは時効により消滅すると規定されていましたが(旧民法168条1項),改正後は,①債権者が定期金の債権から生じる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することを知ったときから10年間行使しないとき,②前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないときは,時効により消滅することになりました(民法168条1項)。

 

また,改正前の民法の定期給付債権の短期消滅時効の規定(旧民法169条「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は,5年間行使しないときは,消滅する。」)は廃止されました。改正後は,原則的な債権の消滅時効の規定(民法166条1項)が適用されます。

 

4 不法行為の損害賠償請求権の消滅時効

改正前の民法724条は,「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効により消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも,同様とする。」と規定しており,「不法行為の時から20年を経過したとき」については除斥期間と解釈されていましたが,改正により,「不法行為の時から20年間行使しないとき」は,除斥期間ではなく,消滅時効期間となりました(民法724条)。

 

除斥期間の場合は,不法行為の時から20年を経過すると損害賠償請求することができなくなりますが,消滅時効期間となったことで,時効の更新や完成猶予の事由があれば,不法行為の時から20年を経過した場合であっても損害賠償請求をすることができるようになります。

 

なお,旧民法724条後段の規定は,施行時に既に期間が経過している場合に適用されますので(附則35条1項),施行時に20年が経過していない場合には改正法が適用されます。

 

5 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

改正により,人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間が長期化されました。

債務不履行による損害賠償請求権の場合は,①権利を行使することができることを知った時から5年,②権利を行使することができる時から20年です(民法166条,167条)。

不法行為による損害賠償請求の場合は,①損害及び加害者を知った時から5年,②不法行為の時から20年です(民法724条,724条の2)。

なお,民法724条の2の規定は,施行の際に既に時効が完成していた場合には適用されませんが(附則35条2項),施行時に未だ消滅時効が完成していない場合には適用されます。

 

二 時効の援用権者

消滅時効の効果が生じるには,時効期間が経過するだけでなく,時効の援用が必要となります。

改正前の民法では,「時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。」(旧民法145条)と規定されており,「当事者」の範囲が明確ではありませんでした。

改正法では,「時効は,当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。」(改正後の民法145条)と規定され,「当事者」の範囲が明らかになりました。

 

三 時効の更新,時効の完成猶予

改正前の「時効の中断」の規定(旧民法147条から157条)と「時効の停止」の規定(旧民法158条から161条)が見直され,改正後は「時効の更新」と「時効の完成猶予」の規定になりました。

なお,施行日前に時効の中断・停止事由が生じた場合は旧法が適用されます(附則10条2項)。

 

1 時効の中断事由の見直し

改正前の時効の中断には,時効が完成しないという効果と時効期間がリセットされるという効果がありましたので,改正により,時効の完成猶予と時効の更新に整理されました。

改正後の規定は以下のとおりです。

なお,施行日前に時効の中断事由が生じた場合には旧法が適用され(附則10条2項),施行日後に事由が生じた場合には改正法が適用されます。

 

(1)裁判上の請求等による時効の完成猶予,時効の更新

①裁判上の請求,②支払督促,③裁判上の和解,民事調停,家事調停,④破産手続参加,再生手続参加,更生手続参加の場合には,その事由が終了するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項)。

 

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定した場合は,時効はその事由が終了したときから新たに進行します(民法147条2項)。

 

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく終了した場合は,時効は更新されませんが,終了時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項)。

 

(2)強制執行等による時効の完成猶予,時効の更新

①強制執行,②担保権の実行,③形式競売,④財産開示手続の場合には,その事由が終了するまでの間は時効の完成が猶予され(民法148条1項),その事由が終了した場合には,終了時から時効が新たに進行します(民法148条2項)。

ただし,申立の取下げや法律の規定に従わないことによる取消しによって終了した場合には,時効は更新されませんが,終了時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法148条1項,2項)。

 

(3)仮差押え等による時効の完成猶予

①仮差押え,②仮処分の場合には,その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法149条)。

 

改正前は仮差押え等にも時効の中断の効力が認められていましたが(旧民法147条2号),改正後は,仮差押え等に時効の完成猶予の効果はあるものの,時効の更新の効果はありません。仮差押え等の後に本案訴訟が提起された場合には,裁判上の請求に当たり,裁判上の請求による時効の更新があります。

 

(4)催告による時効の完成猶予

催告があったときは,その時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。

催告による時効の完成の猶予期間中に再度の催告をしても時効の完成猶予の効力はありません(民法150条2項)。

 

(5)承認による時効の更新

時効は,権利の承認があったときは,その時から進行を始めます(民法152条1項)。

承認をするには,相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しません(民法152条2項)。

承認については,改正前の時効の中断と内容が同じです。

 

2 時効の停止事由の見直し

改正前の民法では,時効の停止事由として,①未成年者,成年被後見人,②夫婦間の権利,③相続財産,④天災等が規定されており(旧民法158条から161条),これらの事由は,改正後は時効の完成猶予事由となりました(民法158条から161条)。

また,①から③の期間は変わりませんが,④天災等については,改正前は期間が2週間だったのに対し,改正後は期間が3か月になりました(民法161条)。

 

なお,施行日前に時効の停止事由が生じた場合は旧法が適用され(附則10条2項),施行日後に事由が生じた場合には改正法が適用されます。

 

3 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

民法改正により,協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度(民法151条)が新設されました。

 

権利についての協議を行う旨の合意が書面(電磁的記録を含みます。)でされたときは,①合意があった時から1年を経過した時,②協議を行う期間(1年に満たないものに限ります。)を定めたときは,その期間を経過した時,③当事者の一方が他方に対し協議続行を拒絶する旨の書面(電磁的記録を含みます。)による通知をした時から6か月を経過した時のいずれか早い時期まで,時効の完成が猶予されます(民法151条1項,4項,5項)。

猶予期間中に再度の合意をすることで,さらに時効の完成を猶予させることができますが,通算で5年を超えることはできません(民法151条2項)。

 

また,催告による時効の完成猶予と協議を行う旨の合意による時効の完成猶予は併用することができません(民法151条3項)。

 

なお,民法151条の規定は施行日前の合意については適用されません(附則10条3項)。

 

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