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【お知らせ】年末年始の休みについて

2014-12-15

 

当事務所は、平成26年12月27日(土)より平成27年1月4日(日)まで、冬季休業させていただきます。

 

本年は、ながせ法律事務所の開設の年でした。

多くの方に支えていただき、こうして無事に年末を迎えることができました。

心より感謝申し上げます。

来年はさらに多くの方のお役に立てるよう、頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

なお、年末年始の休業中におきましても、ご予約のある場合には、法律相談・打ち合わせを行っております。

 

【債権回収】支払督促

2014-12-12

一 支払督促とは

支払督促とは,金銭その他の代替物または有価証券の一定数量の給付を目的とする請求権について,簡易裁判所の書記官が債権者の申立により書類審査だけで発することができる手続です。

簡易裁判所の書記官が書類審査を行うだけですので,当事者が法廷へ出頭することや立証することは必要はありません。

また,訴額(訴訟の目的の価額)にかかわらず利用できます。

支払督促に仮執行宣言が付されると,債権者は簡易迅速に債務名義を得て,強制執行することができます。

他方,債務者の利益をまもるために,債務者が異議を申し立てた場合には,通常の訴訟手続に移行します。

 

二 支払督促が利用できる場合

金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については,支払督促の申立てをすることができます(民事訴訟法382条本文)。

ただし,日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限ります(民事訴訟法382条但書)。

 

三 どこに申立てるのか

1 原則として債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます

支払督促の申立ては,債務者の普通裁判籍(個人の場合,住所,住所が知れないときは居所,日本国内に居所がないとき又は居所がないときは最後の住所地。法人の場合,主たる営業所・事務所,事務所・営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所)の所在地を管轄する簡易裁判所の書記官に対して行います(民事訴訟法383条1項)。

ただし,事務所又は営業所を有する者に対する請求でその事務所又は営業所に関するものは,当該事務所又は営業所の所在地を管轄する簡易裁判所の書記官に対しても申し立てることができますし(民事訴訟法383条2項1号),手形・小切手による金銭の支払請求及びこれに附帯する請求については,手形・小切手の支払地を管轄する簡易裁判所の書記官に対しても申し立てることができます(民事訴訟法383条2項2号)。

2 訴訟との違い

(1)訴額に制限はありません

訴訟の場合には,訴額(訴訟の目的の価額)が140万円を超えない場合は簡易裁判所が,訴額が140万円を超える場合には地方裁判所が管轄裁判所となりますが(事物管轄),支払督促の申立てには訴額の制限はないので,140万円を超える場合にも簡易裁判所の書記官に申し立てます。

ただし,債務者が異議を申立て,訴訟に移行した場合,訴額が140万円を超えるときは,地方裁判所で訴訟手続が行われることになります。

(2)特別裁判籍の規定の適用はありません

訴訟の場合,被告の住所地等普通裁判籍以外の土地にも管轄が認められますが(特別裁判籍),支払督促では,民事訴訟法383条2項の場合を除き,普通裁判籍のみです。

そのため,例えば,訴訟では,義務履行地として,原告(債権者)の住所地を管轄する裁判所で手続を行うことができる場合であっても,支払督促では債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に申し立てなければならず,債務者が異議を申し立てた場合には,債務者の住所地を管轄する裁判所で訴訟手続が行われることになります。

債務者の住所が遠方にある場合,支払督促を申立てをすると債務者の異議申立てにより,遠方の裁判所に行かなければならない事態が生じますので,債権者の住所地で訴訟提起できる場合には,はじめから支払督促ではなく,訴訟提起することを検討すべきでしょう。

四 手続の流れ

1 申立て

簡易裁判所の書記官に支払督促の申立てをします(民事訴訟法383条)。

申立ては,書面または口頭で行うことができますが,申立書を提出して行うのが一般的です。

また,電子情報処理組織による督促手続もできます(民事訴訟法397条から402条)。

申立てにあたって,書証の添付は不要ですが,手形・小切手訴訟によることを明記して支払督促の申立てをするときは,手形・小切手の写しを添付する必要があります(民事訴訟規則220条)。

 

2 裁判所書記官による支払督促の発付

支払督促の申立てが民事訴訟法382条,383条に違反するとき,申立ての趣旨から請求に理由がないことが明らかなときは申立ては却下されますが(民事訴訟法385条1項),そうでない場合には,裁判所書記官は,債務者に対する審尋をすることなく支払督促を発します(民事訴訟法386条1項)。

 

3 債務者への送達

支払督促は,債務者に送達され(民事訴訟法388条1項),債務者に送達されたときに効力が生じます(民事訴訟法388条2項)。

なお,債権者が申し出た債務者の住所,居所,営業所,事務所,就業場所がないため,送達ができない場合,書記官は債権者にその旨通知し,債権者が通知を受けた日から2月以内に他の送達すべき場所の申出をしないときは,支払督促の申立ては取り下げたものとみなされます(民事訴訟法388条3項)。

 

4 仮執行宣言

債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てをしない場合には,裁判所書記官は,債権者の申立てにより,仮執行宣言をし(民事訴訟法391条1項),仮執行宣言を支払督促に付して当事者に送達します(民事訴訟法391条2項)。

債権者が仮執行宣言の申立てができるときから30日以内に申立てをしないときは,支払督促は効力を失います(民事訴訟法392条)。

仮執行宣言を付した支払督促の送達を受けた日から2週間を経過すると,債務者は督促異議の申立てをすることができなくなります(民事訴訟法393条)。

 

5 債務者が異議の申立てをしなかった場合

仮執行宣言を付した支払督促に対し,督促異議の申立てがない場合又は申立てを却下する決定が確定したときは,支払督促は確定判決と同一の効力を有し(民事訴訟法396条),債権者は,強制執行をすることができます。

ただし,支払督促には,既判力(前の裁判の内容を争うことができなくなる効力)はありませんので,債務者は請求異議の訴えを提起し,すべての事由をもって債権者の請求を争うことができます。

 

6 債務者が異議を申し立てた場合

債務者が適法な異議の申立てをした場合には,支払督促の申立て時に簡易裁判所または地方裁判所に訴えを提起したものとみなされ(民事訴訟法395条),通常の訴訟手続に移行します。

目的の価額が140万円を超えない場合は簡易裁判所,目的の価額が140万円を超える場合は地方裁判所の訴訟手続に移行します。

【債権回収】債権を回収するにはどんな方法がありますか?

2014-12-11

債権を有していても,債務者が履行してくれないことがあります。

債権者が債務者に履行を請求しても,債務者が様々な理由を主張して履行を拒むため,債権者ご自身では解決ができず,どのように債権回収をすればよいかお悩みのことと思います。

そこで,主な債権回収方法について,簡単に説明します。

 

一 債権回収の主な方法

1 交渉による回収

はじめから訴訟提起する等,裁判所を利用して債権回収することもできますが,まずは,交渉により債権回収を図ることが多いです。

交渉により債権回収ができれば,裁判所を利用する場合よりも,早期に解決を図ることができるからです。また,交渉が成立しなかった場合であっても,交渉することにより債務者の言い分が聞けるため,後で訴訟をする際の対策を立てることもできるというメリットもあります。

交渉する場合,通常は,まず内容証明郵便で,債務者に債務の履行を求めます。

内容証明郵便で請求するのは,請求の事実(遅延損害金の起算日や時効の中断において,いつ請求したのか問題となることがあります。)や交渉の経過を証拠として残すためです。

内容証明郵便で請求を出した後,債務者が請求どおり履行すれば解決です。

また,債務者が反論してきたり,支払条件について要望を出してきた場合であっても,当事者間で交渉して合意し,債務者が合意のとおり履行してきたときには,解決となります。

2 裁判所を利用した回収

(1)民事調停

民事調停とは,民事に関する紛争についての調停手続です。

調停が成立した場合には,裁判上の和と同一の効力を有します(民事調停法16条)。

簡易な手続であるため,債権者本人が弁護士に依頼しないで解決を図ろうとする場合に利用しやすい手続であるといえます。

ただし,民事調停は当事者の話し合いによる解決方法ですので,債務者が話し合いに応じない場合には,他の方法を検討すべきでしょう。

 

(2)支払督促

支払督促とは,金銭その他の代替物または有価証券の一定数量の給付を目的とする請求権について,簡易裁判所の書記官が債権者の申立により書類審査だけで発することができる簡易迅速な手続(民事訴訟法382条以下)です。

債権者が適法な申立をした場合,債務者が異議を申し立てなければ,裁判所書記官は債権者の申立により仮執行宣言を出しますので(民事訴訟法391条1項),債権者は強制執行をして債権を回収することができます。

ただし,債務者が適法な異議を申し立てた場合には,訴訟に移行しますので(民事訴訟法395条),最初から訴訟を提起する場合よりも,かえって時間がかかることがあります。

そのため,交渉の経過等から債務者が争ってくることが予想される場合には,支払督促ではなく,最初から訴訟を提起したほうが良いといえるでしょう。

 

(3)少額訴訟

少額訴訟は,60万円以下の金銭支払の請求を目的とする簡易裁判所での特別な訴訟手続です(民事訴訟法368条1項)。

原則として1回の期日で審理を終了し(民事訴訟法370条1項),直ちに判決が言い渡されますし(民事訴訟法374条1項),証拠も即時に取り調べることができるものに限定されているため(民事訴訟法371条),迅速な解決を図ることができます。

ただし,被告が訴訟を通常の手続に移行させる旨の陳述をしたときは,通常の手続に移行します(民事訴訟法373条1項,2項)。また,判決について不服がある場合には,異議を申し立てると(民事訴訟法378条)口頭弁論終結前に戻り,通常の訴訟手続が行われます(民事訴訟法379条)。

 

(4)民事訴訟(通常訴訟)

地方裁判所または簡易裁判所に訴訟を提起し,判決または和解の成立により債権の回収を図ります。

判決が確定した場合や和解が成立した場合,債権者は債務名義を有しますので,債務者が履行しない場合であっても,強制執行をして債権を回収することができます。

訴額(訴訟の目的の価額)が140万円を超えない場合は簡易裁判所に訴訟を提起します。

訴額が140万円を超える場合には地方裁判所に訴訟を提起します。

二 債権回収でお悩みの方へ

債権回収については,法的手続をとらないと解決ができない場合があります。

また,債務者が様々な反論をしてくることがあり,その場合には債権者も法的な主張をして争わなければなりません。

そのため,ご自身で解決することができず,悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そのような場合には,弁護士に相談,依頼することをご検討ください。

 

【民事訴訟】損害賠償請求事件(名誉毀損)

2014-12-05

誹謗中傷する文書をまかれたり,インターネットのブログで誹謗中傷する記事をかかれたりして名誉を毀損された場合,被害者としてはどのような対応ができるでしょうか。

名誉毀損行為は,刑事事件の問題(名誉毀損罪(刑法230条))となりますが,損害賠償請求等,民事上の問題にもなります。

弁護士に相談や依頼するケースは,主に名誉毀損した者に対する損害賠償請求等の民事上の問題です。

そこで,名誉毀損された場合の損害賠償請求について,簡単に説明します。

 

一 名誉毀損とは

1 名誉とは

「名誉」については,以下の3つの意義があるとされております。

①内部的名誉

自己や他人の評価から離れて,客観的に人の内部に備わっている価値そのもの

②外部的名誉

人に対し社会が与える評価

③名誉感情

人が自分の価値について有している意識や感情

 

これらのうち,民事事件における「名誉」は,外部的名誉であるといわれております。

(ただし,名誉感情を害する行為がなされた場合に,事案の内容によっては不法行為が成立する余地があります。)

 

2 名誉毀損

名誉毀損とは,外部的名誉を毀損することであり,「社会的な評価を低下させること」をいいます。

事実を摘示して社会的な評価を低下させた場合(事実摘示による名誉毀損)とある事実を前提として意見又は論評を表明することにより社会的な評価を低下させた場合(意見又は論評の表明による名誉毀損)があります。

 

3 名誉毀損の判断基準

ある表現がどのような意味内容を有するか,どのように受け取られるかは,読み手や読み方によって異なりますが,名誉毀損にあたるかどうかは,一般的な読者の普通の注意と読み方を基準に判断されます。

そのため,ある表現がどのような意味内容を有しているか,一般的な読者の普通の注意や読み方を基準として解釈されますし,ある表現が人の社会的な評価を低下させるものかどうか,一般的な読者の普通の注意や読み方を基準として,判断されます。

 

4 損害

①慰謝料

社会的評価が低下したこと及びそれによる精神的苦痛

法人の場合は社会的評価が低下したことによる無形の損害

について慰謝料請求ができます。

②財産上の損害

財産上の損害がある場合(例えば,名誉毀損されたことにより取引先を失った場合)には,損害賠償請求が認められるか問題となります。

因果関係の立証ができるかどうかの問題があり,損害項目として主張するのではなく,慰謝料算定において考慮される事情となることもあります。

③弁護士費用

不法行為に基づく損害賠償訴訟では,弁護士費用が一定額認められます(概ね他の損害額の1割程度)。

 

5 名誉毀損の損害賠償請求権の要件事実

名誉毀損の損害賠償請求権は,不法行為に基づく損害賠償請求権です。

以下の①から⑤の事実がある場合に発生します。

 

① 社会的評価を低下させる事実の流布

② ①による社会的評価の低下

③ 故意または過失

④ 損害の発生及び損害額

⑤ ③と④との因果関係

 

二 名誉毀損の成立阻却事由

1 表現の自由との関係

憲法21条は表現の自由を保障しております。

そのため,人の社会的評価を低下させる表現であっても,一定の事由がある場合には,保護され,名誉毀損は成立しません。

 

2 事実の摘示による場合

(1)真実性の抗弁

事実の摘示により人の社会的評価を低下させた場合であっても,

①表現行為が,公共の利害に関する事実についてのものであったこと(事実の公共性)

②行為の目的が,もっぱら公益を図るものであったこと(目的の公益性)

③摘示された事実の重要な部分が真実であること

を行為者が主張,立証した場合には,行為者は不法行為責任を負いません。

(2)相当性の抗弁

摘示事実の重要な部分が真実であることが立証できなかったとしても,

①表現行為が,公共の利害に関する事実についてのものであったこと(事実の公共性)

②行為の目的が,もっぱら公益を図るものであったこと(目的の公益性)

③行為者が事実を真実と信ずるにつき相当の理由があったこと

を行為者が主張,立証した場合には,行為者は不法行為責任を負いません。

 

3 意見・論評の表明による場合(公正な論評の法理)

意見・論評による意見表明により人の社会的評価を低下させた場合であっても

①表現行為が,公共の利害に関する事実についてのものであったこと(事実の公共性)

②行為の目的が,もっぱら公益を図るものであったこと(目的の公益性)

③意見・論評の前提事実の重要な部分が真実であること

(又は,意見・論評の前提事実につき,行為者が真実を信ずるにつき相当の理由があったこと)

④表現内容が人身攻撃におよぶ等意見・論評としての域を逸脱したものでないこと

を行為者が主張,立証した場合には,行為者は不法行為責任を負いません。

三 インターネット上の投稿による名誉毀損の場合

インターネット上の掲示板等で名誉を毀損する投稿がなされた場合,被害を受けた人は,投稿者に対し損害賠償請求をすることができます。

その場合,誰が投稿をしたのか分かっていれば,その人に対し損害賠償請求すればよいのですが,匿名で投稿がなされた場合には,投稿をした人が誰か特定する必要があります。

そのような場合,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(いわゆる「プロバイダ責任制限法」)の発信者情報開示請求を行うことが考えられます。

発信者情報開示請求により,投稿者を特定することができれば,その者に対し損害賠償請求をすることができます。

 

【成年後見】補助開始の審判の申立て

2014-11-19

高齢で認知症になる等して,判断能力が不十分になった場合には,援助が必要となります。

そのような場合には,家庭裁判所に申立てをして補助人を選任してもらい,本人の援助をしてもらうことが考えられます。

そこで,補助をお考えの方のために,申立手続について簡単にご説明します。

 

1 補助の開始

(1)審判の申立て

補助を開始するには,家庭裁判所に補助開始の審判の申立てをします。

家庭裁判所が補助開始の審判をすると,補助が開始します(民法876条の6)。

家庭裁判所は,補助開始の審判をするときは補助人を選任します(民法876条の7第1項)。

また,補助開始の審判は,同意権付与の審判(民法17条1項),代理権付与の審判(民法876条の9第1項)とともにしなければなりませんので(民法15条3項),補助開始の審判の申立てとともに,同意権付与の審判の申立て,代理権付与の審判の申立てをしなければなりません。

(2)本人の同意

補助の場合,本人には不十分とはいえ判断能力があります。

そこで,本人の自己決定権を尊重するため,補助開始,同意権付与,代理権付与にあたっては,本人以外の者による申立ての場合,本人の同意が必要です(民法15条2項,民法17条2項,民法876条の9第2項(民法876条の4第2項を準用))。

 

2 被補助人

補助の対象となる「本人」のことを被補助人といいます(民法16条)。

補助が開始するのは,本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である」場合です(民法15条1項)。

簡単にいうと,本人の判断能力が不十分な場合です。

判断能力の有無については,審判を申し立てるにあたって提出する診断書や,申立後に行われる鑑定により判断されます。

診断にあたっては,長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式テスト,HDS-R)が用いられることがよくあります。

判断能力の程度によっては,補助ではなく,後見や保佐になることがあります。

 

3 補助人

(1)誰が補助人になるのか

補助人は家庭裁判所が選任しますが(民法876条の7第1項),補助人を選任するには,被補助人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,補助人となる者の職業及び経歴並びに被補助人との利害関係の有無(補助人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と被補助人との利害関係の有無),被補助人の意見その他一切の事情を考慮しなければならなりません(民法876条の7第2項で民法843条4項を準用)。

また,欠格事由に該当する場合には補助人になることはできません(民法876条の7第2項で民法847条を準用)。

審判の申立てをするにあたって,申立書に補助人候補者を記載することができます。

そのため,申立人が,自身を補助人候補者として,申立てをすることもできます。

ただし,誰を補助人に選任するかは裁判所が決めますので,申立人が希望する補助人候補者が補助人に選任されるとは限りません。

事案によっては,弁護士等の専門家が,補助人として選任されます。

また,法人が補助人となることもできますし(民法876条の7第2項で民法843条4項を準用),補助人が複数人選任されることもあります(民法876条の7第2項で民法843条3項を準用)。

なお,事案によっては,補助監督人が選任されることもあります(民法876条の8)。

(2)補助人の権限

補助の場合,被補助人は自ら法律行為を行うことができますが,被補助人を保護するため,補助人は,以下の権限を有します。

 

①同意権

家庭裁判所は,被補助人が特定の法律行為をするには補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができます(民法17条1項本文)。

同意が必要な事項については,民法13条1項に規定する行為(保佐の場合に保佐人の同意を要する行為)の一部に限られます(民法17条1項但書)。

本人以外の者が同意権付与の審判を申立てた場合には,本人の同意がなければなりません(民法17条2項)。

なお,補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず,同意をしないときは,家庭裁判所は,被補助人の請求により,補助人の同意に代わる許可を与えることができます(民法17条3項)。

②取消権

補助人の同意を得なければならない行為であって,同意や同意に代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができます(民法13条4項,民法120条1項)。

③代理権

補助人には当然に代理権があるわけではありませんが,家庭裁判所は特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができます(民法876条の9第1項)。

本人以外の者が代理権付与の審判を申し立てた場合には,本人の同意が必要となります(民法876条の9第2項で民法876条の4第2項を準用)。

なお,本人の居住用不動産を処分する場合には,別途,家庭裁判所の許可が必要となります(民法876条の10第1項で民法859条の3を準用)。

(3)補助人と被補助人の利益が相反する場合

補助人と被補助人の利益が相反する場合には,補助監督人がいるときは,補助監督人が被保佐人を代表し又は被保佐人がこれをすることに同意しますが(民法876条の8第2項,民法851条4号),補助監督人がいないときは,臨時補助人の選任が必要となります(民法876条の7第3項)

 

4 手続について

(1)手続の流れ

①申立権者が,管轄裁判所に,補助開始の審判の申立てをします。

申立書やその他の必要書類を提出し,手続費用を納付します。

なお,申立てをすると,裁判所の許可を得なければ取り下げることはできないので,ご注意ください。

また,補助開始の申立てとともに,同意権付与の申立てや代理権付与の審判の申立てをします。

本人以外の者が申立てをする場合には,本人の同意が必要です。

②家庭裁判所の調査や鑑定が行われます(なお,事案によっては鑑定は行われないこともあります。)。

③審判が出されます。

④補助開始の審判が確定した場合には,登記がなされます。

 

(2)申立権者

本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,検察官は申立てができます(民法15条1項)。

任意後見契約が登記されている場合は,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人も申立てができます(任意後見契約法10条2項)。

市町村長が申立できる場合もあります。

 

(3)管轄裁判所

本人の住所地の家庭裁判所です(家事手続法136条1項)。

例えば,本人が埼玉県新座市,志木市,朝霞市,和光市にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所が管轄裁判所になりますが,本人が埼玉県富士見市,ふじみ野市,三芳町にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所川越支部が管轄裁判所になります。

 

(4)手続費用

申立手数料として収入印紙,予納郵便切手,登記手数料として収入印紙が必要となります。

また,鑑定を行う場合は,鑑定費用が必要となります。

詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。

 

(5)必要書類

申立書のほか,本人や候補者の事情説明書,本人の戸籍謄本,本人の住民票又は戸籍の附票,本人の登記されていないことの証明書,診断書(成年後見用)と診断書別紙,本人の健康状態が分かる資料,財産目録,本人の収支・財産の資料(通帳の写し,遺産分割が問題となる事案では遺産目録等),候補者の戸籍謄本,候補者の住民票又は戸籍の附票,候補者が法人である場合には商業登記簿謄本,親族関係図,親族(本人の推定相続人)の同意書等を提出します。

詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。

 

(6)調査

申立人,候補者,本人の面接や,親族(推定相続人)への書面照会等の調査を行います。

予め推定相続人の同意書をとっておくと手続がスムーズに進みます。

 

(7)鑑定

本人の精神の状況が明らかな場合には行わないこともあります。

鑑定を行うかどうかは,申立時に提出した診断書の内容や推定相続人が反対しているかどうかによります。

 

(8)審判

家庭裁判所は,調査等をした上で,審判を下します。

補助開始の審判,申立てを却下する審判,いずれに対しても2週間以内に不服申立てをすることができます(家事事件手続法86条1項,家事事件手続法141条1項1号,2号)。不服申立ての期間を過ぎると審判は確定します。

 

(9)登記

補助開始の審判等の効力が生じた場合には,裁判所書記官が,登記所に対して登記の嘱託をします。

【成年後見】保佐開始の審判の申立て

2014-11-12

高齢で認知症になる等して,判断能力が著しく不十分になった場合には,援助が必要となります。

そのような場合には,家庭裁判所に申立てをして保佐人を選任してもらい,本人の援助をしてもらうことが考えられます。

そこで,保佐をお考えの方のために,申立手続について簡単にご説明します。

 

1 保佐の開始

保佐を開始するには,家庭裁判所に保佐開始の審判の申立てをします。

家庭裁判所が保佐開始の審判をすると,保佐が開始します(民法876条)。

また,保佐開始の審判がされると保佐人が選任されます(民法876条の2第1項)。

 

2 被保佐人

保佐の対象となる「本人」のことを被保佐人といいます(民法12条)。

保佐が開始するのは,本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」場合です(民法11条)。

簡単にいうと,本人の判断能力が著しく不十分な場合です。

判断能力の有無については,審判を申し立てるにあたって提出する診断書や,申立後に行われる鑑定により判断されます。

診断にあたっては,長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式テスト,HDS-R)が用いられることがよくあります。

判断能力の程度によっては,保佐ではなく,後見や補助になることがあります。

 

3 保佐人

(1)誰が保佐人になるのか

保佐人は家庭裁判所が選任しますが(民法876条の2第1項),保佐人を選任するには,被保佐人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,保佐人となる者の職業及び経歴並びに被保佐人との利害関係の有無(保佐人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と被保佐人との利害関係の有無),その他一切の事情を考慮しなければならなりません(民法876条の2第2項で民法843条4項を準用)。

また,欠格事由に該当する場合には保佐人になることはできません(民法876条の2第2項で民法847条を準用)。

審判の申立てをするにあたって,申立書に保佐人候補者を記載することができます。

そのため,申立人が,自身を保佐人候補者として,申立てをすることもできます。

ただし,誰を保佐人に選任するかは裁判所が決めますので,申立人が希望する保佐人候補者が保佐人に選任されるとは限りません。

事案によっては,弁護士等の専門家が,保佐人として選任されます。

また,法人が保佐人となることもできますし(民法876条の2第2項で民法843条4項を準用),保佐人が複数人選任されることもあります(民法876条の2第2項で民法843条3項を準用)。

なお,事案によっては,保佐監督人が選任されることもあります(民法876条の3)。

(2)保佐人の権限

保佐の場合,被保佐人は自ら法律行為を行うことができますが,被保佐人を保護するため,保佐人は,以下の権限を有します。

 

①同意権

被保佐人が金銭の貸借,不動産の売買等重要な法律行為を行うには,保佐人の同意が必要となります(民法13条1項)。

同意が必要な事項については,民法13条1項各号に規定されていますが,家庭裁判所は,それ以外の行為についても同意を得なければならない旨の審判をすることができます(民法13条2項)。

なお,保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず,同意をしないときは,家庭裁判所は,被保佐人の請求で,保佐人の同意に代わる許可を与えることができます(民法13条3項)。

②取消権

保佐人の同意を得なければならない行為であって,同意や同意に代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができます(民法13条4項,民法120条1項)。

③代理権

保佐人には当然に代理権があるわけではありませんが,家庭裁判所が特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます(民法876条の4第1項)。

本人以外の者の請求による代理権付与の審判には,本人の同意が必要となります(民法876条の4第2項)。

なお,本人の居住用不動産を処分する場合には,別途,家庭裁判所の許可が必要となります(民法876条の5第2項で民法859条の3を準用)。

 

(3)保佐人と被保佐人の利益が相反する場合

保佐人と被保佐人の利益が相反する場合には,保佐監督人がいるときは,保佐監督人が被保佐人を代表し又は被保佐人がこれをすることに同意しますが(民法876条の3第2項,民法851条4号),保佐監督人がいないときは,臨時保佐人の選任が必要となります(民法876条の2第3項)。

 

4 手続について

(1)手続の流れ

①申立権者が,管轄裁判所に,保佐開始の審判の申立てをします。

申立書やその他の必要書類を提出し,手続費用を納付します。

なお,申立てをすると,裁判所の許可を得なければ取り下げることはできないので,ご注意ください。

また,代理権の付与を求める場合には,代理権付与の審判の申立てをします。

②家庭裁判所の調査や鑑定が行われます(なお,事案によっては鑑定は行われないこともあります。)。

③審判が出されます。

④保佐開始の審判が確定した場合には,登記がなされます。

 

(2)申立権者

本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,補助人,補助監督人,検察官は申立てができます(民法11条)。

任意後見契約が登記されている場合は,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人も申立てができます(任意後見契約法10条2項)。

市町村長が申立できる場合もあります。

 

(3)管轄裁判所

本人の住所地の家庭裁判所です(家事事件手続法128条1項)。

例えば,本人が埼玉県新座市,志木市,朝霞市,和光市にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所が管轄裁判所になりますが,本人が埼玉県富士見市,ふじみ野市,三芳町にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所川越支部が管轄裁判所になります。

 

(4)手続費用

申立手数料として収入印紙,予納郵便切手,登記手数料として収入印紙が必要となります。

また,鑑定を行う場合は,鑑定費用が必要となります。

詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。

(5)必要書類

申立書のほか,本人や候補者の事情説明書,本人の戸籍謄本,本人の住民票又は戸籍の附票,本人の登記されていないことの証明書,診断書(成年後見用)と診断書別紙,本人の健康状態が分かる資料,財産目録,本人の収支,財産の資料(通帳の写し,遺産分割が問題となる事案では遺産目録等),候補者の戸籍謄本,候補者の住民票又は戸籍の附票,候補者が法人である場合には商業登記簿謄本,親族関係図,親族(本人の推定相続人)の同意書等を提出します。

詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。

 

(6)調査

申立人,候補者,本人の面接や,親族(推定相続人)への書面照会等の調査を行います。

予め推定相続人の同意書をとっておくと手続がスムーズに進みます。

また,本人以外の者が代理権付与の審判の申立てをした場合には,本人が代理権付与に同意するか確認されます。

 

(7)鑑定

本人の精神の状況が明らかな場合には行わないこともあります。

鑑定を行うかどうかは,申立時に提出した診断書の内容や推定相続人が反対しているかどうかによります。

 

(8)審判

家庭裁判所は,調査等をした上で,審判を出します。

保佐開始の審判,申立てを却下する審判,いずれに対しても2週間以内に不服申立てをすることができます(家事事件手続法86条1項,家事事件手続法132条1項1号,2号)。不服申立ての期間を過ぎると審判は確定します。

 

(9)登記

保佐開始の審判等の効力が生じた場合には,裁判所書記官が,登記所に対して登記の嘱託をします。

 

 

 

【民事訴訟】消滅時効には気をつけて

2014-11-11

債権回収や損害賠償請求において,債権の成立時から時間が経っている場合には,消滅時効が問題となることがよくあります。

消滅時効とは,一定の期間が経過すると権利が消滅してしまう制度であり,債権者からすれば債権が行使できなくなりますし,債務者からすれば債務を免れますので,消滅時効が成立するかどうかは当事者にとって,非常に重要な問題となります。

そこで,消滅時効について簡単にご説明します。

※令和2年4月1日に施行された改正民法により,消滅時効制度の内容が変わりました。このページは改正前の制度について説明しておりますのでご注意ください。

1 消滅時効とは

時効には,取得時効と消滅時効がありますが,このうち消滅時効とは,一定の期間が経過すると権利が消滅してしまう制度です。

 

時効制度は,①長期間にわたる事実状態を尊重し,法的安定性を図ること,②時の経過により,証拠が散逸し,立証が困難となることの救済,③権利の上に眠る者は保護に値しないことが根拠であるとされております。

 

2 消滅時効の対象となる権利

①債権,②債権・所有権以外の財産権です。

 

3 消滅時効の要件

消滅時効は,①時効期間の経過と,②時効の援用が要件となります。

(1)時効期間の経過

時効期間については,権利を行使することができるときから起算(民法166条1項)します。

例えば,期限がある場合には,期限が到来した時から進行を開始しますし,停止条件が付いている場合には条件が成就したときから進行を開始します。

また,消滅時効期間は,初日は不算入として計算します(民法140条)。

時効期間については,原則として,債権は10年債権・所有権以外の財産権は20年ですが(民法167条),これより短い時効期間も規定されています(民法169条から174条)。

また,不法行為の時効期間は3年(民法724条),商事債権の時効期間は5年(商法522条)と規定されている等,民法その他の法令に,時効期間に関する特別の規定がありますので注意が必要です。

(2)時効の援用

消滅時効の効果は,時効期間の経過によって発生するのではなく,当事者が時効を援用することによって生じます(民法145条)。

当事者の時効の援用が要件とされているのは,時効による利益を受けるかどうかを当事者の意思に委ねる趣旨です。

時効を援用できる「当事者」は,権利の消滅により直接利益を受けるものに限られております。

債務者のほか,保証人や物上保証人等も援用ができます。

 

4 消滅時効の効果

時効の効力は,起算日にさかのぼります(民法144条)。

つまり,債務の元本が時効により消滅した場合には,さかのぼって債務が存在しなかったことになるので,利息や遅延損害金の支払義務もなかったことになります。

 

5 時効の中断

権利が消滅しないようにするため,時効の中断の制度があります。

(1)時効の中断事由

消滅時効の中断事由として,①請求(民法147条1号,民法149条から153条),②差押,仮差押え又は仮処分(民法147条2号,民法154条,民法155条),③承認(民法147条3号,民法156条),④その他(民法290条等)があります。

①請求には,裁判上の請求(訴訟(民法149条),支払督促(民法150条),和解・調停の申立て(民法151条),破産手続参加,民事再生手続参加等(民法152条))と,催告(民法153条)があります。

催告とは,例えば,内容証明郵便で弁済しろと請求することをいいますが,催告をしても,6か月以内に,裁判上の請求や,差押え,仮差押え,仮処分をしなければ時効中断の効力は生じないので(民法153条),注意してください。

③承認は,債務者が債務の存在を認めることです。

債務者が債務の存在を認めたり,一部の返済をしたりすることが承認に当たります。, 債権者としては,後で債務者から時効を主張されたときに備えて,債務者が承認した証拠をのこしておくことが考えられます。

(2)時効中断の効果

時効中断の効果は,当事者(中断行為をした人とその相手方)とその承継人(時効の対象となる権利を譲り受けた人や相続人)との間においてのみ効力を有します。

また,時効が中断すると,中断事由が終了したときから,新たに進行を始めます(民法157条1項)。裁判上の請求によって時効が中断した場合には,裁判が確定したときから,新たに進行を始めます(民法157条2項)。なお,確定判決(裁判上の和解等確定判決と同一の効力を有するものも含む。)によって確定した権利については,短期消滅時効にかかるものであっても,時効期間は10年となります(民法174条の2第1項)。

 

6 時効の停止

未成年者や被後見人に法定代理人がいない場合等,時効の中断をすることが困難な事由があるときに,一定期間,時効の進行が停止します(民法158条から161条)。

時効の中断とは異なり,時効期間が振り出しに戻るわけではありません。時効が停止されている一定期間だけ,時効期間が延びることになります。

 

7 時効利益の放棄

時効完成前には,時効の利益を放棄することはできませんが(民法146条),時効完成後に放棄することは可能です。

また,時効完成後に債務者が債務を承認すると,時効完成を知らなかったとしても,信義則上,その債務について時効を援用することができなくなってしまいます。

なお,債務者が時効利益を放棄したとしても,その効果は保証人や物上保証人には及ばないと解されています。

また,放棄後に,新たな時効の進行が始まると解されています。

 

8 除斥期間

消滅時効に類似する制度として,除斥期間があります。

除斥期間とは,権利の行使期間であり,一定期間内に権利行使をしないと権利が消滅してしまいますが,①中断がない,②援用は不要,③権利の発生時から起算する,④権利消滅の効果は遡及しない点で消滅時効と異なります。

例えば,不法行為による損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから,3年で消滅時効にかかりますが,不法行為の時から20年を経過すると除斥期間により権利が消滅します(民法724条)。

【成年後見】後見開始の審判の申立て

2014-11-07

高齢で認知症になる等して,判断能力がなくなった場合には,ご本人で身の回りのことや財産の管理を行うことができなくなってしまいます。

そのような場合には,家庭裁判所に申立てをして成年後見人を選任してもらい,後見人に,本人の身上監護や財産管理をしてもらうことが考えられます。

そこで,成年後見をお考えの方のために,申立手続について簡単にご説明します。

 

1 後見の開始

成年後見を開始するには,家庭裁判所に成年後見開始の審判の申立てをします。

家庭裁判所が後見開始の審判をすると,後見が開始します(民法838条2号)。

後見開始の審判がされると後見人が選任されます(民法843条1項)。

 

2 被後見人

成年後見の対象となる「本人」のことを被後見人といいます。

後見開始が開始するのは,本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」場合です(民法7条)。

簡単にいうと,本人に判断能力が全くない場合です。

判断能力の有無については,審判を申し立てるにあたって提出する診断書や,申立後に行われる鑑定により判断されます。

診断にあたっては,長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式テスト,HDS-R)が用いられることがよくあります。

判断能力の程度によっては,後見ではなく,保佐や補助になることがあります。

 

3 後見人

(1)誰が後見人になるのか

後見人は家庭裁判所が選任しますが(民法843条1項),「成年後見人を選任するには,成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無),その他一切の事情を考慮しなければならない。」とされております(民法843条4項)。

また,民法847条は後見人の欠格事由を規定しており,欠格事由に該当する場合には後見人になることはできません。

審判の申立てをするにあたって,申立書に後見人候補者を記載することができます。

そのため,申立人が,自身を後見人候補者として,申立てをすることもできます。

ただし,誰を後見人に選任するかは裁判所が決めますので,申立人が希望する後見人候補者が後見人に選任されるとは限りません。

事案によっては,弁護士等の専門家が,後見人として選任されます。

また,法人が後見人となることもできますし(民法843条4項),後見人が

複数人選任されることもあります(民法843条3項)。

なお,事案によっては,後見監督人が選任されることもあります(民法849条)。

(2)後見人の職務と権限

後見人は,被後見人の身上監護及び財産管理に関する事務を行います(民法858条,859条)。

その職務を行うため,後見人は以下の権限を有します。

①代理権

後見人は,被後見人の財産に関する法律行為について代理権を有します(民法859条1項)。

ただし,以下の規定や制度があります。

ア 居住用不動産の売却等の処分をするには,家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。

イ 後見監督人がいる場合,後見人が被後見人に代わって営業をする等一定の行為をする場合には,後見監督人の同意を得なければなりません(民法864条)。

ウ 後見人と被後見人の利益が反するときは,後見監督人がいるときは,後見監督人が被後見人の代理人となりますし(民法851条4号),後見監督人がいない場合には,特別代理人の選任を請求しなければなりません(民法860条,826条)。

エ 後見制度支援信託といって,後見人が本人の財産を信託銀行等に信託し,信託銀行等が後見人に対して生活に必要な金銭を定期金として分割交付する制度があります。

②取消権

後見人は「日用品の購入その他日常生活に関する行為」を除き,被後見人のした法律行為を取り消すことができます(民法9条,民法120条1項)。

法律行為というのは,法律上の効果が生ずる行為のことで,契約などがこれに当たります。

なお,後見人は,被後見人のした法律行為を追認することもできます(民法122条)。

 

4 手続について

(1)手続の流れ

①申立権者が,管轄裁判所に,後見開始の審判の申立てをします。

申立書やその他の必要書類を提出し,手続費用を納付します。

なお,申立てをすると,裁判所の許可を得なければ取り下げることはできないので,ご注意ください。

②家庭裁判所の調査や鑑定が行われます(なお,事案によっては鑑定は行われないこともあります。)。

③審判が出されます。

④後見開始の審判が確定した場合には,後見登記がなされます。

(2)申立権者

本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人,検察官は申立てができます(民法7条)。

任意後見契約が登記されている場合は,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人も申立てができます(任意後見契約法10条2項)。

市町村長が申立できる場合もあります。

(3)管轄裁判所

本人の住所地の家庭裁判所です(家事手続法117条1項)。

例えば,本人が埼玉県新座市,志木市,朝霞市,和光市にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所が管轄裁判所になりますが,本人が埼玉県富士見市,ふじみ野市,三芳町にお住まいの場合には,さいたま家庭裁判所川越支部が管轄裁判所になります。

(4)手続費用

申立手数料として収入印紙,予納郵便切手,登記手数料として収入印紙が必要となります。

また,鑑定を行う場合は,鑑定費用が必要となります。

詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。

(5)必要書類

申立書のほか,本人や候補者の事情説明書,本人の戸籍謄本,本人の住民票又は戸籍の附票,本人の登記されていないことの証明書,診断書(成年後見用)と診断書別紙,本人の健康状態が分かる資料,財産目録,本人の収支,財産の資料(通帳の写し,遺産分割が問題となる事案では遺産目録等),候補者の戸籍謄本,候補者の住民票又は戸籍の附票,候補者が法人である場合には商業登記簿謄本,親族関係図,親族(本人の推定相続人)の同意書等を提出します。

詳しくは,各裁判所のウェブサイトでご確認ください。

(6)調査

申立人,候補者,本人の面接や,親族(推定相続人)への書面照会等の調査を行います。

予め推定相続人の同意書をとっておくと手続がスムーズに進みます。

(7)鑑定

本人の精神の状況が明らかな場合には行わないこともあります。

鑑定を行うかどうかは,申立時に提出した診断書の内容や推定相続人が反対しているかどうかによります。

(8)審判

家庭裁判所は,調査等をした上で,審判を下します。

後見開始の審判,申立てを却下する審判,いずれに対しても2週間以内に不服申立てをすることができます(家事事件手続法86条1項,123条1項1号,2号)。不服申立ての期間を過ぎると審判は確定します。

(9)成年後見の登記

後見開始の審判等の効力が生じた場合には,裁判所書記官が,登記所に対して登記の嘱託をします。

 

 

 

 

 

 

【離婚】退職金の財産分与請求はできますか?

2014-10-27

熟年離婚したいと思った妻が、まっさきに思い浮かべるのは、夫の退職金を財産分与請求したいということではないでしょうか。

とりわけ、妻が長年専業主婦をしてきた場合には、離婚後の生活の不安から、まとまった金額を受け取っておきたいと考え、夫の定年退職を待って離婚を迫るケースは多いようですが、将来もらえる退職金が財産分与の対象と認められることもあります。

退職金の財産分与額は離婚後の生活設計にも大きな影響がありますので、既に退職金が支払われた場合と将来支払われる場合にわけて、簡単に説明させていただきます。

 

一 既に退職金が支払われている場合

退職金は、労働の対価の後払としての性格があり、夫婦が協力して形成した財産であるといえますので、清算的財産分与の対象となります。

清算の対象となるのは、婚姻後別居するまでの期間(同居期間)に対応する分であり、婚姻前に働いていた期間に対応する分や、別居して夫婦の協力がない期間に対応する分については財産分与の対象になりません。

財産分与の対象額=退職金額×同居期間÷全勤務期間

そして、財産分与の対象となる退職金額のうち、財産分与請求者の寄与割合に相当する額が分与されることになります。

 

二 将来支払われる退職金の場合

将来退職金が支払われるかどうかは不確実ですが、退職金は労働の対価の後払としての性格があり、将来支払われる退職金についても夫婦が協力して形成した財産であるといえますので、支払われる蓋然性が高い場合には、財産分与の対象となります。

その場合の財産分与の対象となる退職金額の算定方法については、幾つかありますが、①別居時に自己都合退職したと仮定して、その際に支払われる退職金のうち、同居期間に対応する分を財産分与の対象とすることが多いといわれております。

財産分与の対象額=別居時に自己都合退職した場合の退職金額×同居期間÷全勤務期間

 

そして、財産分与の対象となる退職金額のうち、財産分与請求者の寄与割合に相当する額が分与されることになります。

なお、将来の退職金の財産分与対象額の計算方法としては、①のほかに、

②定年退職時に取得する退職金のうち、同居期間に対応する分から中間利息を控除したものを財産分与の対象とすること

(財産分与の対象額=定年退職した場合の退職金額×同居期間÷全勤務期間×退職時までの年数に対応するライプニッツ係数)、

③定年退職時に取得する退職金のうち、同居期間に対応する分を財産分与の対象とし、中間利息を控除する代わりに、退職した時に支払うものとすること

(財産分与の対象額=定年退職した場合の退職金額×同居期間÷全勤務期間)

等がありますが、事案によりふさわしい計算方法がとられるものと考えられます。

【刑事弁護】保釈とは

2014-10-20

1 保釈とは

保釈とは、刑事事件で起訴された人(被告人)が拘置所等で身柄拘束(勾留)されている場合に一定の保証金の納付と引き換えに被告人の身柄拘束を解く制度です。

保釈は起訴された後の制度ですので、起訴される前に保釈されることはありません。

また、保釈をするにあたっては、保釈保証金の用意が必要となります。

 

2 保釈を請求できる人

①勾留されている被告人、②弁護人、③法定代理人、④保佐人、⑤配偶者、⑥直系の親族、⑦兄弟姉妹は保釈を請求することができます(刑事訴訟法88条1項)。

 

3 保釈の手続

通常の場合、保釈の手続は以下のように進みます。

①保釈請求書と身元引受書等の添付資料を裁判所に提出します。

②裁判所は検察官に意見を聴取します(刑事訴訟法92条)。

③裁判官と面接(面接を希望する場合)

④保釈許可決定又は却下決定

⑤許可決定がでた場合には保釈保証金の納付

⑥被告人の釈放

 

4 保釈の種類には3つあります

保釈には、権利保釈、裁量保釈、義務的保釈の3つがあります。

 

(1)権利保釈

保釈請求があったときは、以下の①から⑥の場合を除いては、これを許さなければならないとされています(刑事訴訟法89条本文)。

①被告人が死刑、無期又は短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯したものであるとき

②被告人が前に死刑、無期又は長期10年を超える懲役・禁錮に当たる罪につき有罪宣告を受けたことがあるとき

③被告人が常習として長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯したものであるとき

④被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき

⑤被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者やその親族の身体・財産に害を加え、又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき

⑥被告人の氏名又は住所が分からないとき

 

権利保釈が認められない理由としてよく挙げられるのは、④や⑤です。

ですから、保釈請求する場合には、罪証隠滅のおそれがないことや、被害者等への加害行為や畏怖行為のおそれがないことを具体的に主張する必要があります。

 

(2)裁量保釈

上記の例外に当たる場合であっても、裁判所が適当と認めるときは、職権で保釈を許可することができます(刑事訴訟法90条)。

保釈の必要性や逃亡のおそれがないこと(身元引受人が存在すること等)等を主張するとともに、主張を裏付ける資料(身元引受書等)を提出します。

 

(3)義務的保釈

勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判所は、勾留を取り消さない限り、請求又は職権で保釈を許さなければならないとされています(刑事訴訟法91条1項)。

 

5 保釈保証金・保釈の条件

(1)保釈保証金

保釈をするにあたっては、保証金額が定められます(刑事訴訟法93条1項)。

保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならないとされています(刑事訴訟法93条2項)。

保釈保証金の額は事案により異なりますが、通常の執行猶予が見込まれるような事案では、200万円程度となることが多いです。

保証金の納付があった後に保釈されます(刑事訴訟法94条1項)。

なお、裁判所の許しがあれば、有価証券又は被告人以外の者の差し出した保証書を保証金の納付に代えることができます(刑事訴訟法94条3項)

(2)保釈の条件

保釈にあたっては、被告人の住居の制限、その他適当と認める条件が付されます(刑事訴訟法93条3項)。

 

6 保釈保証金が取り上げられる場合(没取)

保釈が許可されても、以下の①から⑤のうち一つでも当てはまると,検察官の請求又は職権により、保釈は取り消され、保釈保証金の全部又は一部が没取されてしまうことがあります(刑事訴訟法96条1項、2項)。

①被告人が召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき

②被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき

③被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき

④被告人が被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者やその親族の身体・財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき

⑤被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき

 

また、保釈された者が、刑の言い渡しを受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、保証金の全部または一部が没取されます(刑事訴訟法96条3項)。

 

7 裁判終了後保釈保証金が返還されます

保釈が取り消され保釈保証金が没取されることがなければ、裁判終了後、保釈保証金は返還されます(刑事訴訟規則91条)。

 

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