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労働者の業務外の負傷・病気(私傷病)と解雇

2017-06-29

労働者が業務外で負傷や病気をして働けなくなった場合,使用者はその労働者を解雇することができるでしょうか?

 

一 私傷病により労務を提供できなくなったことによる解雇

労働者が業務と無関係な負傷や病気により労務を提供することができなくなった場合には,業務上災害による療養中の解雇制限(労働基準法19条1項)の適用はありませんので,使用者は労働者を解雇することができます。

もっとも,解雇権濫用規制(労働契約法16条)がありますので,早期回復の見込みがあるのに解雇した場合や,休職制度があるにもかかわらず,休職させず解雇した場合には,解雇権の濫用にあたり解雇が無効となるおそれがあります。

回復の見込みがなく,就労が不可能であることが明らかである場合には,休職させずに解雇しても解雇権の濫用とはならないでしょうが,後述の傷病休職制度がある場合には,いきなり解雇するのではなく,まずは休職させたほうが,トラブルを避ける意味で無難といえます。

また,傷病休職制度がない場合であっても,同程度の期間は労働者の回復を待ったほうが無難といえます。

 

二 傷病休職

1 休職とは

休職とは,労働者に労務への従事が不能または不適当な事由がある場合に,使用者がその労働者に対し,労働契約関係は維持しつつも労務への従事を免除または禁止することをいいます。

休職制度は,法令の規定に基づくものではありませんが,就業規則や労働協約に基づいて企業がもうけているものです。

 

休職の種類には,傷病休職(業務外の傷病による欠勤の場合),事故欠勤休職(傷病以外の自己都合による欠勤の場合),起訴休職(刑事事件で起訴された場合)等があります。

 

2 傷病休職とは

業務外の傷病による長期欠勤が一定期間に及んだ場合,使用者は労働者に休職を命じることができます。

労働者が休職期間中に傷病が治癒し就労可能となれば休職は終了し復職しますが,治癒せずに休職期間満了となれば自然退職または解雇となります。

 

この制度を傷病休職といい,解雇の猶予を目的としています。

 

3 傷病期間中の賃金

傷病休職中は,労務の提供がなされていませんし,使用者の責めに帰すべき事由もないので,特段の定めがない限り賃金は支払われません。

ただし,健康保険に加入していれば傷病手当金の支給はあります。

 

4 休職期間

休職期間の長さは就業規則等の定めによりますが,勤続年数,傷病の性質,企業の規模等によって異なるのが通常です。

 

5 自然退職と解雇

休職期間が満了しても治癒しない場合には,自然退職または解雇となります。

 解雇の場合には解雇予告等の解雇規制がありますが,自然退職の場合には当然に労働契約が終了しますので解雇規制の適用はありません。

そのため,使用者の立場からすれば,自然退職にしたほうがトラブルになりにくいといえるでしょう。

 

6 治癒したといえるかどうか

休職期間が満了するまでに治癒しないと自然退職または解雇となりますので,傷病休職では「治癒」したかどうかが大きな問題となります。

治癒したといえるには,原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していなければなりませんが,職種や職務の内容によっては,軽易な労務しかできない場合であっても,配置転換で対応できるときや,徐々に従前の職務を通常程度に行えるようになるときには,治癒したものと認められることがあります。

 

  また,治癒したかどうかは医師の診断によりますので,労働者は医師の診断を受けて,治癒を証明する診断書を提出します。使用者が医師を指定してきた場合,就業規則等の定めや合理的な理由があれば,労働者は指定医の診断を受けなければなりません。労働者が医師の診断を受けることに協力しない場合には,労働者に不利に判断されることがあります。

 

7 復職後に再び欠勤した場合

休職していた労働者が,復職後しばらくして再び体調を崩し,欠勤することがあります。

  就業規則等に,復職後一定期間内に同一または類似の事由で欠勤したり,労務提供ができなくなったりした場合には,復職を取消して休職させ,復職前の休職期間と通算する旨規定されていれば,使用者は,その規定に基づいて対応することになります。

そのような規定がない場合や一定期間経過後に欠勤した場合には,使用者は,改めて休職の手続をとるか,普通解雇を検討することになります。

借地契約にかかわるお金(地代・承諾料・立退料など)

2017-06-26

人の土地を借りると,いろいろな名目でお金がかかります。借地契約にかかわるお金の問題は,金額が大きくなることが多く,トラブルになりやすいので,よく理解しておきましょう。

 

1 借地契約を締結するとき

(1)権利金

権利金とは,土地を借りるときに借地人から地主に支払われるものです。

返還されないことが一般的ですが,どのような性質があるかは,契約によりますので,契約内容をきちんと確認しましょう。

(2)敷金

敷金とは,賃借人の賃料債務などの債務を担保するために,賃借人から賃貸人に差し入れるもので,土地の明渡までに生じた賃借人の債務が充当され,残額について賃借人に返還されます。

(3)礼金

礼金とは,契約してもらうお礼として借地人から地主に支払われるものです。契約が終了しても返還されません。

(4)保証金

保証金とは,土地を借りるときに借地人から地主に支払われるもので,契約によって,敷金としての性質,権利金ないし礼金としての性質,更新料としての性質をもつ場合があります。

 

2 土地を借りている間

(1)地代

地代とは,土地を使用収益する対価として借地人から地主に支払われるものです。

租税公課の増減,地価の上昇・低下その他の経済状況の変動により地代が不相当になった場合や,近隣類似の土地の地代に比較して地代が不相当になった場合には,地代の増減請求をすることができます(借地借家法11条)。

(2)修繕費

修繕費とは,借地人が使用収益することができる状態に維持するために必要な費用です。

地盤が緩むなどして借地人の使用に差しつかえる程度になった場合は,原則として地主が修繕費を負担しなければなりません。

(3)承諾料

承諾料とは,借地人が借地契約で禁止されていることを地主に承諾してもらう見返りとして支払うものです。

借地条件の変更の許可(借地借家法17条),借地上の建物の増改築の許可(借地借家法17条),借地契約更新後の建物の再築の許可(借地借家法18条),借地権の譲渡又は転貸の許可(借地借家法19条)等地主の許可が必要な場合に支払われます。

(4)更新料

更新料とは,契約の期間が満了して契約が更新される場合に借地人から地主に支払われるものです。

更新料の支払いが契約で定められていなければ,支払う必要がないと考えられています。

 

3 借地契約を終了するとき

(1)立退料

立退料とは,借地人に土地を立退いてもらう場合に,地主から借地人に支払われるものです。

地主が建物の所有を目的とする借地契約の更新を拒絶するには,地主自身が土地を使用することを必要とする事情のほか正当の事由ある場合でなければなりません(借地借家法6条)。正当事由を補完する要素として,立退料が支払われることがあります。

(2)建物買取請求権行使による買取代金

建物の所有を目的とする借地契約の契約期間が満了して契約の更新がない場合,借地人が地主に対して借地上の建物等を買い取ることを請求できる権利のことを,建物買取請求権といいます(借地借家法13条)。第三者が借地上の建物等を取得し地主が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しない場合は,その第三者が地主に対して建物買取請求をすることができます(借地借家法14条)。

建物買取請求権を行使すると,借地人ないし第三者と地主との間に建物等の売買契約が成立したのと同様の効果が発生し,その借地人ないし第三者は,地主に対して,建物等の売買代金請求権を取得することになります。

この代金額は,借地上の建物等の時価であるとされています。

 

交通事故損害賠償請求と損益相殺

2017-06-23

交通事故の被害者は,加害者や加害者側の任意保険会社から損害賠償金の支払を受けるだけでなく,自賠責保険金や労災保険の給付等損害賠償金の弁済以外の利益を受けることがあります。そのような場合,損益相殺が問題となります。

 

一 損益相殺とは

不法行為の被害者が損害を被ったのと同一の原因により利益を得た場合に,被害者が加害者に損害賠償請求をするにあたって,その利益の額を賠償額から控除することを損益相殺といいます。

条文上,損益相殺の規定はありませんが,公平の見地から認められています。

 交通事故の場合にも,被害者またはその相続人が,交通事故と同一の原因により利益を得た場合には,利益を受けた額が損害額から控除されることになります。

 

二 損益相殺の対象となる給付

1 どのような給付に損益相殺されるのか

被害者または被害者の相続人が,交通事故により利益を得たとしても,すべての場合に損益相殺されるわけではありません。

損益相殺されるのは損失と利益の同質性がある場合であり,損害の填補にあたるかどうかで判断されます。損害の填補の趣旨であると解されるものについては,損益相殺されますが,損害の填補の趣旨であると解されないものについては損益相殺されません。

 

2 損益相殺される給付

・自賠責保険金

・政府の自動車損害賠償保障事業てん補金

・健康保険

・労災保険(特別支給金を除く)

・遺族年金

・障害年金

・介護保険

・所得補償保険金

・人身傷害保険金

 

3 損益相殺されない給付

・自損事故保険金

・搭乗者傷害保険金

・生命保険金

・傷害保険金

・労災保険上の特別支給金

・香典・見舞金

 

4 将来の給付について

年金のように給付が将来にわたって続くものについては,いつまで給付されるか不確実であるため,給付が確定した分についてのみ損害額から控除されます。

 

三 控除の対象となる損害

1 損害項目

損益相殺される場合には損害額から利益の額を控除しますが,単純に損害額の合計額か控除するというわけではありません。

給付の目的や性質から,控除される損害項目が限定されることがあります。

 

2 自賠責保険

自賠責保険の給付は人身損害についての給付ですから,人身損害から控除されます。

物的損害からは控除されません。

 

3 労災保険

(1)人的損害からの控除

労災保険の給付は人身損害についての給付ですから,人身損害から控除されます。物的損害からは控除されません。

(2)給付と損害項目

労災保険の療養補償給付(療養給付)については治療関係費から,休業補償給付(休業給付)・傷病補償年金(傷病年金)・障害補償給付(障害給付)・遺族補償給付(遺族給付)については休業損害と逸失利益から,葬祭料(葬祭給付)については葬儀費用から,介護補償給付(介護給付)については介護費用から,それぞれ控除されます。労災保険には慰謝料に相当する給付はないので,慰謝料から控除はされません。

 

4 遺族年金

遺族年金は,亡くなった人の収入によって生計を維持していた遺族の生活を保障するためのものですから,逸失利益から控除されます。

控除される逸失利益は,給料収入等年金以外の収入についての逸失利益も含まれます。

 

2 誰の損害から控除されるのか

給付を受けた人の損害額から控除されます。

例えば,被害者の相続人の一部が遺族年金の給付を受けた場合,その人の損害額から控除されます。給付を受けていない相続人の損害額からは控除されません。

 

四 過失相殺がある場合

1 相殺前控除と相殺後控除

被害者に過失があり過失相殺される場合には,過失相殺と損益相殺の先後関係が問題となります。この点については,以下の2つの考え方があります。

 

①損害額から控除した後に過失相殺

損害額=(損害額-控除額)×(1-過失相殺率)

 

②損害額から過失相殺した後に控除

損害額=損害額×(1-過失相殺率)-控除額

 

2 自賠責保険・政府の自動車損害賠償事業てん補金

加害者が損害賠償金の一部を先に支払っていた場合には過失相殺後の額から既払金を控除して損害賠償額を計算しますので,損害の填補の趣旨であると解される損益相殺の場合も,過失相殺後の額から控除すると考えるのが通常であり,自賠責保険・政府の自動車損害賠償保障事業てん補金については,損害額から過失相殺した後に控除するものと解されております。

3 健康保険

健康保険からの給付については,社会保障的な性質を重視して,控除後に過失相殺にするものと解されております。

 

4 労災保険

過失相殺後に控除する最高裁判所の判例がありますが,健康保険と同様に解して,控除後に過失相殺する裁判例もあります。

また,労災保険については控除される損害項目が限定されますので,過失相殺がある場合には,給付と損害項目との対応関係に注意しましょう。

 

5 年金

健康保険同様,控除後に過失相殺する裁判例もありますが,損害の填補の側面があることから過失相殺後に控除する裁判例もあります。

 

私道トラブル 私道通行権

2017-06-21

私人が所有する道路のことを私道といいます。所有者以外の人が私道を通行しようとする場合には,所有者との間でトラブルになることがあります。私道トラブルにおいては,私道の通行権があるかどうかを検討しなければいけません。

 

1 私道通行権の種類

私人が所有する道路(私道)を通行する権利には,次のようなものがあります。

 

(1)所有権,共有持分権

私道の所有権者や共有持分権者は,その所有権(民法206条)や共有持分権(民法249条)に基づいて私道を通行することができます。

 

(2)袋地通行権(囲繞地通行権)

他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者は,公道に至るため,その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行することができます(民法210条1項)。

池沼,河川,水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき,又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも囲繞地を通行することができます(民法210条2項)。

これは法律上当然に発生する権利ですが,通行の場所及び方法は,通行権者のために必要であり,かつ,他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(民法211条1項)。

 

また,分割によって公道に通じない土地を生じたときは,その土地の所有者は,公道に至るため,他の分割者の所有地のみを通行することができます(民法213条1項)。

 

(3)通行地役権

他人の土地(承役地)を自己の土地(要役地)の便益に供する権利のことを,地役権といい,通行を目的とする地役権を通行地役権といいます(民法280条)。地役権者は,承役地を通行することができます。

 

(4)賃貸借契約等による通行権

私道部分の土地を借りるという契約を締結することによって,私道を通行することができます。対価を支払う場合が賃貸借契約(民法601条)であり,無償の場合が使用貸借契約(民法593条)になります。

 

(5)その他

建築基準法上の道路とされる私道についての通行の自由権,慣習上の通行権などにより,私道の通行権が認められる場合があります。

 

2 私道の通行を妨害された場合の対応

私道の通行を妨害された場合には,次のような対応をとることができます。

 

(1)通行妨害排除請求

私道の通行権者が通行を妨害された場合には,妨害者に対して,その妨害行為の排除や予防を請求することができます。

通行妨害排除請求権の内容は,通行権が認められる根拠によって異なります。

また,手続としては,訴訟のほか,通行妨害禁止の仮処分や妨害物除去の仮処分の申立をすることが考えられます。

 

(2)損害賠償請求

私道の通行権者が通行を妨害され,それによって損害をこうむった場合には,妨害者に対し,損害賠償を請求することができます(民法709条)。

交通事故 損害賠償請求と過失相殺

2017-06-20

 

交通事故被害者が損害賠償請求をするにあたって,過失相殺が問題となることがよくあります。

 

一 過失相殺とは

民法722条2項は「被害者に過失があったときは,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。」と規定しており,交通事故の被害者に過失がある場合には,損害額から被害者の過失割合に相当する額が控除されます。これを過失相殺といいます。

過失相殺は損害の公平な分担を図ることを目的としています。

 

例えば,被害者の損害額が1000万円であっても,被害者の過失割合が3割であった場合,被害者が加害者に損害賠償請求できるのは,1000万円から被害者の過失割合に相当する300万円(=1000万円×0.3)を控除した700万円となります。

 

二 過失相殺における「過失」とは

過失相殺は損害の公平な分担を図ることを目的としていますので,過失相殺における「過失」は,不法行為の要件となる過失と同じではなく,被害者に単なる不注意があった場合も含まれると解されております。

また,過失には,事故発生原因としての過失(被害者の運転に不注意があったこと等)と損害発生・拡大原因としての過失(被害者がヘルメットやシートベルトを着用していなかったこと等)があります。

 

三 被害者の能力

不法行為の成立には責任能力(行為の責任を弁識する能力)が必要となりますが,過失相殺は損害の公平な分担を図ることを目的としていますので,被害者に責任能力がなくても,事理弁識能力(事理を弁識する能力)があれば過失相殺されると解されております。

責任能力が認められるどうかは11歳から12歳くらいが分かれめとなりますが,それより低い年齢でも事理弁識能力は認められています。

7歳位であれば事理弁識能力があると考えられていますが,5,6歳でも事理弁識能力があるとされた裁判例があります。

 

四 被害者側の過失

被害者本人に過失がある場合だけでなく,損害の公平な分担の観点から,被害者と身分上・生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者(被害者側)に過失がある場合にも過失相殺されると解されています。

父母,配偶者,雇用関係にある被用者は「被害者側」にあたると解されていますが,配偶者であっても婚姻関係が破綻している場合や同僚,友人は「被害者側」には含まれないと解されています。

また,保母については監督義務はありますが,身分上・生活関係上一体とはいえないので「被害者側」にはあたらないと解されています。

例えば,事理弁識能力がない幼児が交通事故にあった場合,幼児の親に過失があったときには「被害者側の過失」として過失相殺されますが,幼児の保母に過失があったとしても「被害者側の過失」として過失相殺されることはありません。

 

五 過失相殺基準

過失割合は,示談の場合には当事者の合意で定め,訴訟の場合には裁判所が自由裁量で定めますが,判例タイムズの「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」や「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)等で過失割合の基準が示されており,示談や訴訟でもこれらの基準をもとに過失割合を定めることが通常です。

これらの基準では,交通事故の類型ごとに当事者の過失の基本割合を定め,修正要素があれば基本割合に加算・減算して過失割合を定めるという方式がとられております。

これらの基準によりすべての場合について過失割合が定めているというわけではありませんので,基準にない非典型的な場合については,裁判例を参考にして過失割合を主張していくことになります。

 

六 自賠責保険と過失相殺

  被害者に重過失がなければ自賠責保険では減額されません。

裁判基準では被害者の過失割合に応じて過失相殺されますが,自賠責保険では,被害者保護のため,被害者に過失があっても重過失(被害者の過失が7割以上)でない限り減額されません。

被害者の過失が大きい場合には,裁判基準で算定した賠償額よりも自賠責保険から支払われる額のほうが高くなることがあります。裁判所が被害者の過失を大きく認定することが想定される事案では,自賠責保険の支払を受けてから訴訟提起したほうがよいでしょう。

 

2 重過失減額

(1)傷害の場合

  被害者の過失が7割以上の場合,2割減額されます。

ただし,損害額が20万円未満の場合はその額とし,減額により20万円以下となる場合は20万円となります。

 

 (2)後遺障害,死亡の場合

被害者の過失が7割以上8割未満の場合,2割減額されます。

被害者の過失が8割以上9割未満の場合,3割減額されます。

被害者の過失が9割以上10割未満の場合,5割減額されます。

 

高齢者が交通事故被害にあった場合の問題点

2017-06-15

交通事故の被害者が高齢者の場合,損害賠償請求をするにあたっては,以下のような点が問題となります。

 

一 因果関係・素因減額

1 交通事故と損害との因果関係

高齢者が交通事故被害にあった場合,治療が長期化することや,軽微な事故であっても亡くなったり,重い後遺障害が残存したりすることがありますが,高齢者は加齢により生理的機能が低下していたり,既往症を抱えていることが少なからずあるため,交通事故による損害といえるのか,それとも別の原因によるものなのか,交通事故と損害との間に因果関係があるか争いとなることがあります。

因果関係がなければ損害賠償請求をすることができませんので,被害者は因果関係があることを立証しなければなりません。

 

2 素因減額

交通事故と損害との間に因果関係があったとしても,被害者の体質的な要因や心因的な要因(素因)が損害の発生・拡大に影響しており,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失する場合には,民法722条の過失相殺の規定を類推適用して損害賠償額が減額されます。これを素因減額といいます。

高齢者が交通事故被害にあった場合には素因減額が問題となることが多いですが,高齢者というだけで素因減額されるわけではありません。年をとれば,生理的機能が低下することや,骨が脆くなる等年齢相応の加齢的変性が生じることは通常のことであり,通常の場合にまで素因減額することは相当ではないからです。

素因減額されるのは,高齢者に交通事故前から年相応とはいえない疾患があり,それが損害の発生・拡大に影響し,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するといえる場合です。

 

二 逸失利益

1 後遺症逸失利益の労働能力喪失期間

高齢者に就労の蓋然性があれば,後遺症逸失利益が損害となります。

後遺症逸失利益は「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定します。

高齢者の場合,賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・男女別・年齢別平均の賃金額を基礎収入とするのが通常です。

労働能力喪失期間は,原則として症状固定日から67歳までの期間ですが,高齢者の場合は平均余命の2分の1の期間を労働能力喪失期間として逸失利益を算定します。

 

2 死亡逸失利益の就労可能年数

高齢者に就労の蓋然性があれば,死亡逸失利益が損害となります。

死亡逸失利益は「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定します。

高齢者の場合,賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・男女別・年齢別平均の賃金額を基礎収入とするのが通常です。

就労可能年数は,原則は亡くなってから67歳までの年数ですが,高齢者の場合には平均余命の2分の1の年数を就労可能年数として逸失利益を算定します。

 

3 家事従事者の逸失利益

(1)家事従事者

家事従事者についても逸失利益が認められます。

家事従事者といえるには,単に家事をしているというだけではなく,他人(家族)のために家事労働をしていることが必要です。

そのため,一人暮らしの高齢者の場合,自分のために家事をしているただけですから,原則として逸失利益は認められません(ただし,家事ができなくなったことにより家政婦を雇った場合にはその費用が損害となることがあります。)。

また,例えば,同居の家族がいても,自分のことは自分でしていた場合には,他人のために家事をしているとはいえず,逸失利益が認められないことがあります。

(2)基礎収入

家事労働について逸失利益が認められる場合,賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎収入として算定するのが通常です。

もっとも,高齢者の場合には,通常の主婦と同程度の家事労働をしているとはいえないず,通常の家事従事者より基礎収入を低くして逸失利益を算定することがあります。

 

4 年金の逸失利益性

生きていれば年金がもらえたのに,交通事故で亡くなり年金がもらえなくなった場合,年金がもらえなくなったことによる逸失利益も損害となります。

年金の逸失利益は「年金額×(1-生活費控除率)×平均余命に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定しますが,年金収入は生活費にあてることが多いと考えられるため,生活費控除率は通常より高くすることが多いです。

 

なお,全ての年金について逸失利益が認められているわけではありません。老齢年金,退職年金,障害年金(加給分は除きます。)については逸失利益が認められていますが,障害年金の加給分や遺族年金については逸失利益性が否定されています。

 

三 遺族年金の損益相殺

1 損益相殺

被害者が亡くなり,遺族が遺族年金を受給することになった場合,不法行為と同一の原因により利益を受けることになるので損益相殺され,遺族年金の受給額が損害額から控除されます。

 

2 控除される遺族年金

控除される遺族年金は,損害賠償額が確定した時点(判決の場合は,事実審の口頭弁論終結時)で支給が確定した分です。未だ受給が確定していない分については損害額から控除されません。

 

3 控除の対象となる損害

控除の対象となる損害は逸失利益(年金収入以外の逸失利益も含まれます。)だけであり,支給が確定した遺族年金の額が逸失利益の額を上回っても,他の損害(慰謝料等)から控除することはできないと解されております。

また,控除されるのは遺族年金を受給する相続人の損害額からです。遺族年金を受給しない相続人の損害額からは控除されません。

 

四 過失割合

1 過失割合の類型化

過失相割合については,判例タイムズの「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」や「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)等で類型化されております。

これらの基準では,事故の類型ごとに,「四輪車80,単車20」といったように過失の基本割合を定め,修正要素があれば基本割合に加算・減算して各当事者の過失割合を定めるという方式がとられています。

 

2 高齢者が歩行者や自転車の運転者である場合

高齢者(おおむね65歳以上)が歩行者や自転車運転者である場合には,高齢者を保護する必要性が高いことから,過失割合を減算する修正要素となっています。

 

3 高齢者が四輪車や単車の運転者である場合

高齢者が四輪車や単車の運転者である場合には,過失割合の修正要素とはされていません。四輪車や単車の運転には免許が必要であり,高齢者だからといって保護する必要性が高いとはいえないからです。

ただし,シルバーマークを付けていた場合,類型によっては修正要素として考慮されています。

 

借家契約にかかわるお金(家賃・敷金・更新料など)

2017-06-12

人から建物(一軒家やマンションなど)を借りると,いろいろな名目でお金がかかります。

借家契約にかかわるお金の問題は,トラブルになりやすいので,よく理解しておきましょう。

 

1 借家契約を締結するとき

(1)権利金

権利金とは,建物を借りるときに賃借人から賃貸人に支払われるものです。

どのような性質があるかは,契約によりますので,契約内容をきちんと確認しましょう。権利金は返還されないのが一般です。

 

(2)敷金

敷金とは,賃借人の賃料債務などの債務を担保するために,賃借人から賃貸人に差し入れるもので,建物の明渡までに生じた賃借人の債務が充当され,残額について賃借人に返還されます。

 

(3)礼金

礼金とは,契約してもらうお礼として賃借人から賃貸人に支払われるものです。契約が終了しても返還されません。

 

(4)保証金

保証金とは,建物を借りるときに賃借人から賃貸人に支払われるものです。契約によって,敷金としての性質,権利金ないし礼金としての性質,更新料としての性質をもつ場合があります。

 

2 建物を借りている間

(1)家賃(賃料)

家賃とは,建物を使用収益する対価として賃借人から賃貸人に支払われるものです。

 

(2)管理費・共益費

管理費・共益費とは,建物の共有部分を管理するための費用で,家賃に加えて支払うことが多いです。

 

(3)修繕費

修繕費とは,賃借人が使用収益することができる状態に維持するために必要な費用です。

建物が古くなったり傷んだりして賃借人の使用に差しつかえる程度になった場合は,原則として賃貸人が修繕費を負担しなければなりません。

 

3 借家契約を更新するとき

(1)更新料

更新料とは,契約の期間が満了して契約が更新される場合に賃借人から賃貸人に支払われるものです。

借家契約では,更新料を支払う場合がほとんどです。

 

4 建物を明渡すとき

(1)立退料

立退料とは,賃借人に建物を明渡してもらう場合に,賃貸人から賃借人に支払われるものです。

賃貸人が契約の更新を拒絶する場合や解約を申し入れる場合に正当事由を補完するものとして立退料の支払が行われることがあります(借地借家法28条)。

 

(2)原状回復費用

原状回復費用とは,借家契約が終了する際に,建物をできるだけ借りた時の状態に戻すために必要な費用です。

賃借人は,通常の使用をしていて汚れたり傷んだりしたものについては原則として負担する必要はありませんが,わざと(故意)または不注意で(過失)汚したり破損したりした場合には,原状回復費用を負担しなければなりません。通常は,敷金と相殺されます。

別居した配偶者に同居を求める方法(同居調停・審判,円満調停)

2017-06-10

夫婦の一方が家から出ていって戻ってこない場合,家庭裁判所に調停や審判の申立てをして同居を求めることができるでしょうか。

 

一  同居調停・審判

夫婦は同居し,互いに扶助,協力する義務を負いますので(民法752条),夫婦の一方が正当な理由なく別居した場合には同居義務に違反します。

 

家事事件手続法別表第2記載の事件は家庭裁判所に調停及び審判の申立てができますが,別表第2の1項「夫婦間の協力扶助に関する処分」には同居に関する処分も含まれると解されていますので,夫婦の一方が別居した場合,夫婦の他方は家庭裁判所に同居を求める調停や審判の申立てをすることができます。

 

調停で,相手方が同居に合意すれば解決しますが,相手方が同居に応じず,調停が不成立となった場合には審判に移行します(家事事件手続法272条4項)。

審判では,別居しているというだけで同居が命じられるわけではありません。婚姻関係が破綻しておらず,同居を拒否することに正当な理由がない場合には同居が命じられることがありますが,婚姻関係が破綻している場合,別居の原因が申立人にある場合,相手方の同居拒否の意思が強く翻意する可能性がない場合等には申立てが却下されます。

 

また,同居を命じる審判がなされても,相手方を強制的に同居させることはできませんので(直接強制も間接強制もできません。),相手方が任意に履行することを期待するほかありません。

なお,同居を命じる審判がなされたのに相手方が同居しない場合は,相手方の同居義務違反となり,離婚原因として考慮されることがあります。

 

二 円満調停

同居を命じる審判がなされても,相手方の意に反して強制的に同居させることができるわけではありません。また,相手方が同居を拒んでいるからといって,審判をして同居させようとするのでは,夫婦関係を悪化させることになりかねません。

本当に相手方に同居してもらいたいのであれば,相手方との関係を修復して,相手方に同居に応じてもらえるようにすべきでしょう。

そのようなことから,相手方に同居を求める場合であっても,同居の調停・審判の申立てではなく,夫婦関係調整(円満)調停の申立てをすることが多いです。

円満調停は,調停が不成立になっても審判には移行しないため,調停のみの手続ですが,家庭裁判所の関与のもと,相手方との関係を修復し,同居に応じてもらえるよう話し合いをすることができます。

【示談交渉】訴訟提起前に示談交渉をする理由

2017-06-02

法的な紛争が起こり,弁護士に依頼した場合,弁護士は,示談交渉に適しない事案でなければ,いきなり訴訟提起するのではなく,まずは示談交渉から始めることを勧めるのが通常です。

 

1 早期解決の可能性

示談交渉で解決することができれば,通常は,訴訟をするよりも早く解決できますし,費用も安くすみますので,できることなら訴訟提起をせず,示談交渉で解決したほうがよいでしょう。

 

紛争の当事者は感情的になってしまい直接交渉することは難しい場合が多いですが,紛争の当事者ではない弁護士であれば,感情的にならず,冷静に相手方と交渉することが期待できます。

また,弁護士は,法的な根拠があるかどうか,訴訟になったらどの程度請求が認められるか検討した上で交渉するのが通常であるため,妥当な落ち着きどころを見い出し,解決することが期待できます。

そのため,当事者間で直接交渉して解決できない場合であっても,弁護士が交渉することで解決できる可能性はあります。

 

2 相手方への配慮

交渉もせず,いきなり訴訟提起をすると,相手方を怒らせることがあります。

相手方の感情を害すると,訴訟で不必要に争われる,和解ができなくなる等の弊害が生じるおそれがあります。

紛争になっている以上,お互い相手に良い感情はもっていないでしょうが,紛争を解決するためには,不必要に相手方の感情を害さないよう配慮はすべきです。

そのため,示談交渉に適しない事案でない限りは,相手方への礼儀として,相手方に交渉で解決する機会を与え,交渉がまとまらなかったので,やむを得ず訴訟提起したというように手順を踏んでおいたほうが無難です。

 

3 訴訟の準備活動

事前に示談交渉をしておくことは,訴訟の準備活動としても意味があります。

 

弁護士は,依頼を受けた時点では,依頼者から話を聞き,依頼者が持っている資料を見てはいますが,相手方から話を聞いていませんし,相手方がどのような証拠を持っているか分かりませんので,事案の全体について把握できているわけではありません。

相手方の主張や証拠を見てみたら,依頼者から聞いていた話と違うということが少なくありません。

訴訟提起後に相手方の主張や証拠を見てから,主張を変えることは裁判所の心証がよくないでしょうし,かといって訴えを取り下げて訴訟をやり直すことは困難です(被告が本案について準備書面を提出し,弁論準備手続において申述をし,または口頭弁論をした後は,被告の同意を得なければ,訴えの取り下げはできません。民事訴訟法261条2項本文)。

訴訟提起前に相手方と交渉し,相手方がどのような主張をしているか把握しておけば,訴訟でどのような主張・立証をすればよいか対策を講ずることができ,訴訟提起後に主張が崩れるリスクを減らすことができます。

 

なお,示談交渉で相手方に送った書面は訴訟で証拠となりますので,不利な証拠にならないよう書面の記載には注意しましょう。例えば,訴訟での主張と矛盾していることを交渉段階で述べていた場合には訴訟での主張の信用性に影響しますので,交渉段階では不確実なことは記載しない,必要なこと以外は記載しないといった配慮が必要となります。

 

弁護士との法律相談を充実したものにするために

2017-05-30

法律相談では,弁護士は,お客様からのお話やお持ちいただいた資料をもとに,①事案を整理して,②どのような法律上の問題点があり,③どのように対応すればよいかアドバイスします。

弁護士と法律相談を充実したものにするためには,以下の点に注意しましょう。

 

1 資料を準備する

法律相談では,弁護士は相談者から話しを聞いたり,相談者が持参した資料をみたりした上で,法的なアドバイスをします。

事実経過についてメモしたものや契約書等の資料を法律相談の場に持参していただければ,弁護士は事案を正確に把握することができ,より的確なアドバイスをすることができます。

何の資料も用意せず,抽象的な話しかできなかった場合には,弁護士は,一般論でのアドバイスしかできなかったり,どういった事案か理解できず,正確なアドバイスができなかったりすることがあります。

 

また,法律相談の時間が限られている場合,弁護士に事案を説明するだけで法律相談の時間が終わってしまうこともありますし,有料法律相談の場合には時間が長くなれば相談料も増えてしまいますので,資料を用意して説明の時間を短縮することは,時間や費用の点でも意味があります。

 

2 できる限り正確に事実を伝える

弁護士は,相談者から聞いた話をもとにアドバイスします。相談者から聞いた事実が正確でない場合には,弁護士のアドバイスも不正確になるおそれがありますので,できる限り正確に事実をお伝えください。

不利な事実がある場合,その事実を弁護士に伝えるべきかどうか悩まれるかもしれませんが,不利な事実を隠して不正確なアドバイスを受けても,相談者にとって意味はないでしょう。不利な事実があっても,対応の仕方によっては何とかなる場合がありますので対応を誤らないようにするためにも,弁護士には,有利な事実だけでなく,不利な事実も伝えたほうがよいです。

また,恥ずかしい等の理由で話しにくいこともあるかもしれませんが,弁護士は,職業柄,人には話しにくいことを聞くことに慣れておりますし,守秘義務を負いますので,安心して話してください。

 

3 法律相談の時間は十分にとる

最近は,30分以内であれば法律相談料は無料とする法律事務所が増えています。

手続の説明を受けるだけの場合やシンプルな事案であれば30分以内の法律相談でも足りるかもしれません。

しかし,多少なりとも事案が複雑な場合には,相談者の話を聞いているだけで法律相談が終わってしまうことがありますし,一般的なアドバイスしかしてもらえず,事案に即した具体的なアドバイスがもらえないことがあります。また,一見すると難しい事案であっても,相談者から時間をかけて話を聴けば,いい解決法が見えてくるくることがあるかもしれません。

細かいことは弁護士に依頼してから話せばよいので,法律相談の時間を短くして法律相談料を安くしたいという考えもあるかもしれませんが,検討が不十分な段階で依頼をしてしまうと,後で思っていたのと違うということもあります。弁護士に依頼しようと考えている場合であっても,十分な時間法律相談を受けて,納得してから依頼したほうがよいでしょう。

 

また,資料が足りない場合や法律や判例の調査が必要な場合には法律相談が1回では終わらず,相談者に資料を用意してもらったり,弁護士が法律や判例を調査したりしてから再度,法律相談を行うこともあります。

 

4 当事者本人が法律相談に行く

当事者本人ではなく,家族等本人以外の方が法律相談に来られることもありますが,本人でなければ分からないことが多いですし,本人が何を望んでいるのかよく分からないため,適切なアドバイスができないことがあります。

例えば,子の離婚問題について親が心配して法律相談に来ることがありますが,離婚原因や夫婦の財産が実際のところどうなのかは当事者本人でなければ分からないですし,親が離婚を望んでいても,本人が離婚を望んでいないこともありますので,本人から話をきかなければどうにもなりません。

やむを得ない場合もあるでしょうが,できる限り当事者本人が法律相談に行ったほうがよいです。

 

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