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【親子問題】父を定めることを目的とする訴え・調停

2018-06-18

母が再婚後に子を産んだ場合,嫡出の推定が重複し,前婚の夫と後婚の夫のいずれもその子の父と推定されることがあります。
そのような場合にどちらが父であるか定める手続として,父を定めることを目的とする訴えや調停があります。

 

一 父を定めることを目的とする訴え

1 父を定めることを目的とする訴えとは

父を定めることを目的とする訴えとは,民法733条1項の規定(再婚禁止期間の規定)に違反して再婚した女性が出産したため,民法772条の規定により嫡出の推定を重複して受ける子について,父を定めることを求める訴えです(民法773条)。

婚姻成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は,妻が婚姻中に懐胎したものと推定され,夫の子と推定されます(民法772条)。
妻が再婚した場合,再婚禁止期間(民法733条)があるため,前婚の夫と後婚の夫とで嫡出の推定が重複することは基本的にありませんが,婚姻届が誤って受理される等して嫡出の推定が重複することがあります。
そのような場合に,前婚の夫と後婚の夫のどちらが子の父であるか定めるため,家庭裁判所に父を定めることを目的とする訴えを提起することができます。

 

2 当事者

(1)原告

子,母,母の配偶者または母の前配偶者が原告となります(人事訴訟法43条1項)。

(2)被告

①子または母が原告の場合,母の配偶者と母の前配偶者が共同被告(一方が死亡した後は他方のみが被告)となります(人事訴訟法43条2項1号)。
②母の配偶者が原告の場合,母の前配偶者が被告となります(人事訴訟法43条2項2号)。
③母の前配偶者が原告の場合,母の配偶者が被告となります(人事訴訟法43条2項3号)。

なお,被告となる人が死亡した時は検察官が被告となります(人事訴訟法43条2項)。

 

二 父を定めることを目的とする調停

1 調停前置主義

人事訴訟事件については調停前置主義が採用されているため(家事事件手続法257条1項),父を定めることを目的とする訴えを提起する前に調停を申し立てなければなりません。

 

2 合意に相当する審判

父を定めることを目的とする調停事件については,公益性が強く,当事者の意思だけで解決することはできませんが,当事者に争いがない場合には,簡易な手続で処理することが望ましいといえます。
そのため,まず調停手続を行い,当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し,原因事実について争いがない場合には,家庭裁判所は,事実の調査をした上,合意が正当と認めるときに,合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。
調停不成立の場合や,合意に相当する審判による解決ができなかった場合には,父を定めることを目的とする訴えを提起して,解決を図ることができます。

【離婚】離婚調停と婚姻費用分担調停の同時申立て

2018-05-21

配偶者と離婚したいけれども,離婚するまでの間の生活費も負担してもらいたい場合には,離婚調停と婚姻費用分担調停の申立てを同時にすることが考えられます。

 

1 離婚調停と婚姻費用分担調停の同時申立て

離婚調停は離婚や離婚条件について話合いをするものであり,婚姻費用の分担については話合いの対象とはなりませんので(なお,未払婚姻費用は財産分与で考慮されますが,全額が認められるわけではありません),離婚するまでの間の婚姻費用分担請求をしたい場合には,離婚調停とは別に婚姻費用分担調停の申立てをしなければなりません。
また,婚姻費用分担義務は基本的に請求時から生じると解されていますので,婚姻費用分担調停の申立ては早期に行なったほうが良いです。
そのようなことから,離婚したいけれども,離婚するまでの間の生活費も負担してもらいたい場合には,離婚調停と婚姻費用分担調停を同時に申し立てることが考えられます。

 

2 婚姻関係の破綻と婚姻費用分担調停

離婚調停で婚姻関係の破綻を主張しておきながら,婚姻費用分担請求をすることは矛盾するのではないか疑問に思われるかもしれません。
しかし,請求者やその監護する子の生活保持のため,婚姻費用分担額は迅速に決める必要があるところ,婚姻関係破綻の有無が判明するまで婚姻費用分担額が決まらないとすれば婚姻費用分担額を迅速に決めることが難しくなってしまいますので,一般的に,婚姻関係が破綻していても,婚姻関係が継続する限り,婚姻費用分担義務はなくならないと解されています(ただし,有責配偶者からの婚姻費用分担請求は権利の濫用にあたるものとして否定または減額されることがあります。)。
そのため,離婚調停を申し立て,婚姻関係の破綻を主張している場合であっても,離婚するまでの間の婚姻費用分担請求をすることができますので,離婚調停と婚姻費用分担調停を同時に申立てても矛盾はありません。

 

3 手続の流れ

離婚調停と婚姻費用分担調停の申立てをする場合には,それぞれについて申立書や必要書類等を準備して,家庭裁判所に提出します。
離婚調停と婚姻費用分担調停は併合されて,同一期日に並行して進められます。
生活費の早急な確保が必要な場合や離婚や離婚条件についての話合いが長期化するおそれがある場合には,まず婚姻費用分担額を決めてから,離婚や離婚条件についての話合いを進めることになりますが,そうでない場合には,財産分与額や解決金に婚姻費用分担額を含めて解決することもあります。

【相続・遺言】遺言無効確認訴訟と遺留分減殺請求の短期消滅時効

2018-05-12

遺留分を侵害する遺言がある場合,遺留分権者は侵害者に対し遺留分減殺請求をすることができますが,遺留分減殺請求については短期消滅時効の規定があり,「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間」以内に行使しなければなりません。
遺言の効力に争いがあり,遺言無効確認訴訟を提起する場合,解決まで時間がかかりますので,遺留分減殺請求権が消滅時効にかからないか問題となります。

 

一 遺留分減殺請求の行使期間

遺留分減殺請求権の行使期間については,権利関係を早期に確定させるため,民法1042条は「減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも,同様とする。」と規定しております。
「減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った」とは,単に贈与や遺贈があったことを知ったことではなく,贈与や遺贈が遺留分を侵害し,減殺請求の対象となることを知ったことをいうものと解されています。

 

二 遺言の効力について争いがある場合

遺言の効力について争いがある場合,民法1042条の「知った時」とはいつの時点を指すのでしょうか。
この点については,遺留分を侵害する内容の遺言があっても,その遺言が無効であれば,遺留分の侵害はないことになるので,遺言が有効であることが確定した時が「知った時」にあたるのではないかとも考えられます。
しかし,最高裁判所昭和57年11月12日判決では,短期消滅時効の規定の趣旨に鑑みれば,遺留分権利者が訴訟上無効の主張をすれば,根拠のない言いがかりにすぎない場合であっても時効は進行を始めないとするのは相当でないから,被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者がその事実を認識している場合には,無効の主張について,一応,事実上・法律上の根拠があって,遺留分権利者が無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともであると首肯しうる特段の事情が認められない限り,贈与が減殺することのできるものであることを知っていたものと推認するのが相当というべきであるとされています。
そのため,遺言の効力について争っていても特段の事情がない限り時効は進行し,相続開始の事実と遺留分を侵害する内容の遺言があることを知った時から1年間の経過で遺留分減殺請求権を行使することができなくなってしまいます。

 

三 まとめ

遺言の効力について争いがある場合,遺言無効確認訴訟に敗訴した後に遺留分減殺請求をしようとしても,短期消滅時効により遺留分減殺請求が行使できないおそれがあります。
そのため,遺言の効力について争う場合には,遺言無効確認請求が認められなかったときに備えて,予備的に遺留分減殺請求をしておいたほうがよいでしょう。

【交通事故】埼玉県で自転車保険加入が義務となりました。

2018-05-09

自転車事故には自動車事故の自賠責保険のような強制保険がありませんが,いくつかの自治体では自転車保険の加入が義務とされております。
埼玉県でも「埼玉県自転車の安全な利用の促進に関する条例」が改正され,平成30年4月1日より自転車損害保険等(自転車の利用によって他人の生命または身体を害した場合の損害を填補するための保険または共済)への加入が義務化されました。

埼玉県の条例では,自転車の利用者(未成年者の場合には保護者),事業者,自転車の貸付業者は自転車保険等に加入することが義務付けられました(11条)。
また,自転車の小売業者は自転車購入者に対し,学校は児童や生徒に対し,それぞれ自転車保険等の加入の有無を確認することや,未加入時には自転車保険等に関する情報を提供することが努力義務とされました(12条)。
加入義務に違反しても罰則があるわけではありませんが,義務化されたことで,今後は自転車事故の損害賠償について保険で対処されることが増えるものと思われます。

自転車保険等には,自転車向けの保険のほか,個人賠償責任保険(個人の日常生活において損害賠償責任を負った場合の保険)やTSマーク付帯保険等がありますし,事業者については施設所有者賠償責任保険があります。個人賠償責任保険は,自動車保険,火災保険,傷害保険等の特約として付いている場合が多いので,契約内容をよく確認しましょう。

自転車保険等は自動車保険ほど補償が充実しているわけではありませんが,保険料が安いですし,万一,事故が起こったときには非常に心強いので,義務化されているか否かにかかわらず,加入しておいたほうがよいでしょう。
また,加入するにあたっては,自転車事故でも損害が高額になることがありますので,限度額が高い保険に加入したほうがよいですし,示談代行特約のある保険であれば,保険会社が被害者との交渉を代行してくれますので,示談代行特約のある保険にしたほうがよいでしょう。

【離婚】住宅ローンがある不動産の財産分与

2018-04-26

離婚する夫婦間に住宅ローンが残っている不動産がある場合,どのように財産分与するのでしょうか。

 

一 財産分与額の計算

1 清算的財産分与

財産分与請求をすることで,夫婦が婚姻中に築いた財産を清算します(清算的財産分与)。
清算的財産分与の対象となる財産は,原則として夫婦が婚姻してから別居するまでの間に取得した財産であり,積極財産から消極財産を控除します。
また,分与の割合については,夫婦は財産の形成につき同程度の貢献をしたとみて,特段の事情がない限り2分の1とされています。
そのため,清算的財産分与の財産分与額については,原則として以下のように計算します。

清算的財産分与の額=(請求者の財産+義務者の財産)÷2-請求者の財産

なお,財産分与には,扶養的要素や慰謝料的財要素もありますので,それらの観点から財産分与額が調整されることがあります。

 

2 住宅ローンのある不動産の場合

住宅ローンのある不動産については,不動産の時価から住宅ローンの残額を控除して評価すると考えられております。
例えば,夫名義の不動産(時価2000万円)があり,夫を債務者とする住宅ローンの残額が1000万円ある場合には,不動産を1000万円(=2000万円-1000万円)と評価し,夫婦の貢献を平等とすると,それぞれ500万円ずつの権利を有することになります。その場合に,離婚後も夫が住居を所有し,住宅ローンを支払い続ける場合には,夫は妻に代償金として500万円を支払うことになります。

また,オーバーローンの場合(住宅ローンの残額が不動産の時価を上回っている場合)には,その不動産は,価値がないものとして,財産分与の対象から外されます。他に資産がある場合にはその資産について財産分与が行われますが,他に資産がなければ財産分与は行われません。
オーバーローンの場合,返済した住宅ローンを財産分与の対象とすることができないか問題とされることがありますが,不動産を価値がないものとする以上,返済した住宅ローンも財産分与の対象とはならないと解されます。

なお,不動産についてはオーバーローンであっても,財産全体としてみれば消極財産よりも積極財産のほうが多い場合があります。
その場合には,不動産を含む積極財産全体から住宅ローンを含む消極財産全体を控除して当事者の財産を評価し,双方の貢献の程度によって財産分与額を算定することで,実質的に相手方に債務を負担させることが考えられます。
例えば,夫名義の財産として住宅(2000万円の価値,住宅ローンの残高2500万円)と預金1000万円があり,妻名義の財産として預金300万円がある場合,夫の財産は積極財産合計3000万円から消極財産2500万円を控除した500万円であり,妻の財産は積極財産300万円ですので,妻の寄与割合を2分の1とすると,夫から妻への財産分与額は100万円となります。

夫から妻への財産分与額=(妻の財産+夫の財産)÷2-妻の財産
={300万円+(2000万円+1000万円-2500万円)}÷2-300万円=
100万円

また,住宅ローンのある不動産以外に資産がない場合等,財産全体をみても債務のほうが多い場合に,債務を負担する側から負担しない側に対し債務の負担を命じるような財産分与ができるか問題となることがありますが,条文上明確な根拠がありませんので,難しいと考えられています。

 

二 財産分与の方法

1 住宅を売却する場合

夫婦のどちらも住宅に居住するつもりがない場合には,住宅を売却し,住宅の売却代金で住宅ローンを返済し,残金を夫婦間で分配することが考えられます。

住宅の売却代金より住宅ローンの残額が多いオーバーローンの場合,売却してもローンが残ることになります。金融機関との関係では,ローンの債務者や連帯保証人が支払うことになりますが,夫婦間ではどちらが負担するか問題となります。

 

2 住宅の名義人が居住する場合

住宅の名義人が住み続ける場合には,住宅の名義変更はせず,名義人が住宅ローンの支払を続けるとともに,相手方に代償金の支払やその他の財産を渡すことが考えられます。

相手方が住宅ローンの連帯保証人になっている場合には,相手方が連帯保証人から外すよう求めてくることが多いですが,当事者の合意だけで連帯保証を外すことはできませんので,金融機関との交渉が必要となります。

 

3 住居の非名義人が居住する場合

(1)名義人が非名義人に住宅を現物で分与する場合

財産分与は,金銭の給付が基本ですが,現物を分与することもできますので,住居の名義人が非名義人に住宅を現物で分与することもできます。
その際,住宅ローンの債務をどちらが負担するか,代償金の支払をどうするか問題となります。
なお,住宅ローンがある場合,金融機関との関係で登記名義の変更ができない場合がありますが,そのような場合には,財産分与を原因とする所有権移転の仮登記をし,住宅ローンが完済された時点で本登記をすることがあります。

 

(2)利用権を設定する場合

例えば,夫名義の住宅があり,妻は離婚後も子らとともに住宅に居住し続けることを望んでいるけれども,妻に住宅ローンや代償金を支払うだけの経済力がない場合には,住宅の名義変更はしないけれども,扶養的財産分与の観点から,当事者間で使用貸借契約や賃貸借契約を締結することが考えられます。

 

4 共有名義の場合

住宅がもともと夫婦の共有名義であり,オーバーローン等の事情で離婚後も共有のままにしておく場合や,相手方が代償金を支払うことができないので,住宅の一部のみ分与を受ける場合等,離婚後も住宅が共有名義となる場合があります。
しかし,離婚後のトラブルを避けるため,特別な事情がない限りは,できる限り離婚後の共有状態は解消したほうが良いでしょう。

【民事訴訟】簡易裁判所の民事訴訟手続

2018-04-11

訴額が140万円以下の民事訴訟の第一審は,簡易裁判所に管轄があります(裁判所法33条1項1号)。
簡易裁判所の民事訴訟は,比較的少額な事案を対象としておりますので,簡易な手続により迅速に紛争を解決するものとされております(民事訴訟法270条)。
そのため,簡易裁判所における民事訴訟の手続は,地方裁判所における手続とは異なる点があります。

 

一 訴訟代理人

1 認定司法書士の訴訟代理権

訴訟委任に基づく訴訟代理人は,地方裁判所の民事訴訟では,弁護士に限られますが(民事訴訟法54条1項本文),簡易裁判所の民事訴訟では,訴額が140万円を超えないものについては,認定司法書士にも訴訟代理権が認められています(司法書士法3条1項6号,2項から7項)。
弁論の併合,反訴等により訴額が140万円を超える場合や,地方裁判所に移送された場合には,認定司法書士の訴訟代理権は消滅します。

 

2 許可代理

簡易裁判所の民事訴訟では,簡易裁判所の許可があれば,訴訟代理人となることができます(民事訴訟法54条1項但書)。この許可はいつでも取り消すことができます(民事訴訟法54条2項)。
許可される者としては,同居の親族や会社の従業員等紛争の内容に詳しい人が考えられます。

 

二 訴え提起の簡略化

1 口頭による訴え提起

訴え提起は訴状を提出してすることが原則ですが(民事訴訟法133条1項),簡易裁判所の民事訴訟では,口頭で訴え提起をすることができます(民事訴訟法271条)。

 

2 訴え提起において明らかにすべき事項

訴状には請求の趣旨と請求の原因を記載するのが原則ですが(民事訴訟法133条2項2号),簡易裁判所の民事訴訟の訴え提起においては,請求の原因に代えて,紛争の要点を明らかにすれば足ります(民事訴訟法272条)。
請求の原因は訴訟物を特定するためのものであり,適切に記載するには法律の知識が必要となりますが,簡易裁判所では本人訴訟も多く,法的な知識がない人が訴えを提起することを容易にするものです。

 

三 移送

1 管轄違いの移送

裁判所は,管轄違いの場合には,管轄裁判所に移送しますが(民事訴訟法16条1項),簡易裁判所の管轄に属する場合には,専属管轄に属する場合は除き,地方裁判所は相当と認めるときは,申立てまたは職権で,自ら審理・裁判をすることができます(同条2項)。

 

2 簡易裁判所の裁量移送

簡易裁判所は,管轄がある場合であっても,相当と認めるときは,申立てまたは職権で地方裁判所に移送することができます(民事訴訟法18条)。裁量移送の決定をするにあたっては,当事者の意見が聴取されます(民事訴訟規則8条)。
事案が複雑等の理由で簡易裁判所の簡易・迅速な手続になじまない件については,地方裁判所で審理したほうがよいからです。

 

3 不動産訴訟の必要的移送

簡易裁判所は,不動産訴訟につき管轄があっても,被告の申立てがある場合には,被告が申立て前に本案について弁論した場合を除き,地方裁判所に移送しなければなりません(民事訴訟法19条2項)。
訴額が140万円以下の不動産訴訟については,簡易裁判所と地方裁判所の双方に管轄がありますが(裁判所法24条1項1号,33条1項1号),不動産訴訟には複雑な件が多いことから,被告が地方裁判所での審理を受けたい場合には移送が認められています。

 

4 反訴提起があった場合の移送

被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合に相手方の申立てがあるときは,簡易裁判所は,決定で本訴及び反訴を地方裁判所に移送します(民事訴訟法274条1項)。この決定に不服申立てはできません(同条2項)。

 

四 口頭弁論の簡略化

1 準備書面等の省略

簡易裁判所の民事訴訟では,口頭弁論は書面で準備することを要しませんので(民事訴訟法276条1項),準備書面等の提出は不要です。
もっとも,相手方が準備しなければ陳述することができないと認めるべき事項については,書面で準備するか,口頭弁論前に直接相手方に通知しなければならず(民事訴訟法276条2項),相手方が口頭弁論に在廷していない場合には,準備書面(相手方に送達されたものか,相手方が受領した旨を記載した書面が提出されたものに限ります。)に記載するか,口頭弁論前に直接相手方に通知しなければ,主張することができません(民事訴訟法276条3項)。

 

2 続行期日における陳述擬制

簡易裁判所の民事訴訟では,第1回口頭弁論期日のみならず,続行期日(第2回以降の期日)でも陳述擬制が認められます(民事訴訟法277条)。

 

五 尋問の簡略化

1 尋問調書作成の省略

簡易裁判所の民事訴訟では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て証人,当事者,鑑定人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に証人等の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この場合の録音テープ等は訴訟記録の一部とはなりませんので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。当事者としては,録音テープ等を複製してもらい,その反訳書面を書証として提出することになります。

 

2 書面尋問

簡易裁判所の民事訴訟では,書面尋問ができる範囲や要件が緩和されており,裁判所が相当と認めれば,証人のみならず当事者本人や鑑定人についても書面尋問をすることができますし,当事者の異議がないことは要件とはされていません(民事訴訟法278条)。

 

六 司法委員の関与

簡易裁判所の民事訴訟では,裁判所は,必要があると認めるときは,司法委員に和解の補助をさせることや,司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができます(民事訴訟法279条1項)。
また,裁判官は,必要があると認めるときは,司法委員が証人等に対し直接に問いを発することを許すことができます(民事訴訟規則172条)。

 

七 和解に代わる決定

金銭支払請求訴訟で被告が原告の請求を争わないときは,簡易裁判所は,被告の資力その他の事情を考慮して相当と認めるときは,原告の意見を聴いて,5年を超えない範囲内で支払時期の定めや分割払い等を定める決定をすることができます(民事訴訟法275条の2第1項,2項)。
当事者が決定の告知を受けた日から2週間以内に異議申立てをすれば,決定は効力を失いますが,申立てがなければ,決定は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事訴訟法275条の2第3項から5項)。

 

八 判決書の記載の簡略化

簡易裁判所の民事訴訟では,判決書に事実・理由を記載するには,請求の趣旨・原因の要旨,原因の有無,請求を排斥する理由である抗弁の要旨を表示すれば足りるとされており(民事訴訟法280条),判決書の記載が簡略化されています。

【労働問題】みなし労働時間(事業場外労働,裁量労働制)

2018-03-29

残業代請求事件では,使用者側が,みなし労働時間の主張をしてくることがあります。

 

一 みなし労働時間

労働時間は実労働時間で把握するのが原則ですが,みなし労働時間制が採用される場合には,実際の労働時間にかかわらず,一定時間,労働したものとみなされます。

例えば,みなし労働時間が8時間の場合,12時間働いても,8時間働いたものとしかみなされません。そのため,本来,12時間働いた場合には,法定労働時間である8時間を超える4時間分は時間外労働となりますが,みなし労働時間が8時間であれば,8時間働いたものとしかみなされず,使用者は時間外労働の割増賃金を支払う必要がなくなります。
みなし労働時間制が採用されると,労働者がみなし労働時間を超える時間の労働をしても,使用者はその分の割増賃金を支払わなくてよくなりますので,使用者に濫用される危険があります。
そのため,みなし労働時間制を適用するための要件を満たすかどうかは厳格に判断されます。

 

二 みなし労働時間制がとられる場合

みなし労働時間制がとられる場合として,①事業場外労働(労働基準法38条の2),②専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3),③企画業務型裁量労働制(労働基準法38条の4)があります。

 

1 事業場外労働

労働者が事業場外で労働をしており,労働時間を算定し難いときは,所定労働時間,労働したものとみなされます(労働基準法38条の2第1項本文)。ただし,業務を遂行するために所定労働時間を超えて労働することが必要な場合は,通常必要とされる時間,労働したものとみなされます(同項但書)。
事業場外労働のみなし労働時間制は,使用者が労働者の実労働時間を把握することが困難であることから例外的に認められるものです。
そのため,労働者が事業場外労働をしている場合であっても,実労働時間の把握が困難とはいえないときは,みなし労働時間制をとることはできません。

 

2 専門業務型裁量労働制

業務の性質上,その遂行方法を労働者の裁量にゆだねる必要があるため,業務遂行の手段,時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める一定の業務(対象業務)については,一定の要件のもと,みなし労働時間制をとることができます(労働基準法38条の3,労働基準法施行規則24条の2の2)。
専門職で裁量のある労働者について適用されるものです。
対象業務であっても,補助的な業務にすぎない場合や使用者の具体的な指示を受けている場合等,労働者に裁量がない場合には,みなし労働時間制をとることはできません。

 

3 企画業務型裁量労働制

事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析の業務であって,業務の性質上これを適切に遂行するには遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため,業務遂行の手段,時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしない業務(対象業務)に,対象業務を適切に遂行するための知識,経験等を有する労働者が就く場合には,一定の要件のもと,みなし労働時間制をとることができます(労働基準法38条の4,労働基準施行規則24条の2の3)。
企業の本社等の中枢部門で企画,立案,調査,分析の業務を自らの裁量で遂行するホワイトカラーの労働者について適用されるものです。
労働者の個別的な同意があることが要件となっています。また,労働者に裁量がない場合は,みなし労働時間制をとることはできません。

 

三 休日労働や深夜労働との関係

みなし労働時間は,労働時間の算定について適用されるものであり(労働基準法施行規則24条の2第1項,24条の2の2第1項,24条の2の3第2項),休日労働や深夜労働には適用されません。
そのため,みなし労働時間が適用される場合であっても,労働者が休日労働や深夜労働をすれば,使用者は割増賃金支払義務を負います。

 

四 まとめ

みなし労働時間と認められる場合には,実労働時間にかかわらず,一定の時間労働したものとみなすため,使用者が,残業代の支払を免れるため,みなし労働時間制を濫用する危険性があります。
そのため,要件を満たすかどうか厳格に判断されることになりますので,使用者側が裁量労働制等のみなし労働時間を主張してきたとしても,その主張が認められることは容易ではありません。

【交通事故】将来介護費

2018-02-26

交通事故被害者に重度の後遺障害があり,将来にわたって介護が必要な場合には,将来介護費が損害となります。

 

一 将来介護費

1 将来介護費とは

交通事故により被害者に介護を要する重度の後遺障害が残存した場合には,将来にわたり被害者の介護が必要となりますので,将来生じる介護費用も損害と認められます。
将来介護費が損害と認められる場合としては,自賠責保険後遺障害別表第1の1級(常に介護を要する後遺障害)または2級(随時介護を有する後遺障害)に該当する場合が多いですが,高次脳機能障害で介護が必要な場合等,後遺障害の内容や程度によっては,3級以下の後遺障害であっても認められることがあります。

 

2 介護費用の金額

介護費用の額は,職業付添人の場合は実費全額,近親者付添人の場合は1日8000円が目安とされていますが,後遺障害の内容や程度,介護の具体的な状況によって金額は増減します。

3 損害額の算定

将来介護費は一時金賠償方式が通常であり,損害額は被害者の平均余命までの期間にかかるであろう介護費用の額から中間利息を控除して計算します。
加害者側は,被害者が平均余命まで生存する可能性は少ないと主張して,介護を要する期間の長さを争ってくることがありますが,特別な事情がない限り,被害者は平均余命まで生存するものとして将来介護費を算定するのが通常です。

例 被害者の平均余命までの30年間,職業介護(日額2万円)をする場合
将来介護費=職業介護費(年額)×30年のライプニッツ係数
=2万円×365×15.3725=112,219,250円

また,現在は近親者介護をしている場合であっても,近親者が高齢になった場合には職業介護に切り替えることが想定されますので,近親者介護は近親者付添人が就労可能年齢である67歳になるまでとし,それ以降は職業介護によるものとして損害額を算定することが考えられます。

例 被害者の平均余命までの30年間,近親者が67歳となるまでの10年間は近親者介護(日額8000円)をし,それ以降の20年間は職業介護(日額2万円)をする場合

将来介護費=近親者介護費(年額)×10年のライプニッツ係数+職業介護費(年額)×(30年のライプニッツ係数-10年のライプニッツ係数)
=8000円×365×7.7217+2万円×365×(15.3725-7.7217)=22,547,364円+55,850,840円=78,398,204円

 

二 被害者が死亡した場合

後遺障害の逸失利益については,事故と別の原因で被害者が死亡した場合でも,事故の時点で死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り就労可能期間の認定上考慮しないと解されており(最高裁判所平成8年4月25日),死亡後の期間も損害となります(継続説)。
これに対し,交通事故被害者が事故のため介護を要する状態になった後に別の原因で死亡した場合には,死亡後の期間の介護費用を損害賠償請求することはできないと解されております(最高裁判所平成11年12月20日判決)。
逸失利益の場合と異なり介護費用の賠償は死亡時までに限定されておりますが(切断説),介護費用の賠償は被害者が現実に支出すべき費用を補填するものであり,死亡後は支出の必要がなくなるからです。

なお,将来介護費の一時金賠償を認める判決が確定した場合に,被害者が死亡したことにより,加害者が,請求異議の訴えをして将来の給付を免れたり,不当利得返還請求をして既払金の返還を求めたりすることができるかどうかは,別途問題となります。

 

三 定期金賠償方式

1 一時金賠償方式と定期金賠償方式

将来介護費の賠償は一時金賠償方式によることが通常ですが,定期金賠償方式によることもあります。
一時金賠償方式では平均余命まで生存するものとして将来介護費用を計算するため,被害者がいつまで生存するか不確実であるという問題点がありますが,定期金賠償方式では被害者が死亡するまで毎月一定額を支払うことになりますので,被害者の生存期間の不確実性は問題とならず,当事者にとって公平であるといえます。
また,定期金賠償を認める確定判決については,損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更がある場合には変更を求める訴えを提起することができますので(民事訴訟法117条),判決後に介護費用の額が不相当になった場合にも対応できます。

2 被害者が一時金賠償を求めている場合に定期金賠償とすることは許されるか

被害者が定期金賠償を求めている場合に定期金賠償を命じる判決をすることは基本的に問題ありません。
これに対し,被害者が一時金賠償を求めている場合に定期金賠償を命じる判決をすることは,処分権主義の観点や,被害者側からすれば賠償義務者の資力が将来どうなるか分からず,将来にわたって履行を受け続けることができるか不確実であるという不安があることから問題があります。
この点,最高裁判所昭和62年2月6日判決では,被害者が一時金賠償を求めている場合には,定期金賠償を命じる判決をすることは許されないとしていますので,被害者が将来介護費の一時金賠償を求めている場合に定期金賠償を命じる判決をすることは許されないと判断されることが多いといえます。
もっとも,一時金賠償方式では当事者間の公平を著しく欠く結果を招く危険がある等として,被害者が一時金賠償を求めているにもかかわらず定期金賠償を認めた裁判例(東京高裁平成25年3月14日判決)もあります。最高裁判所昭和62年2月6日判決は,民事訴訟法が改正される前のものであり,当時は民事訴訟法117条の規定はありませんでしたし,その後,介護費用の賠償は死亡時までとする最高裁判所平成11年12月20日判決が出されておりますので,今後はどのように判断されるか分かりません。

【交通事故】治療関係費

2018-02-19

交通事故で傷害を負った場合の主な損害としては,①積極損害(治療関係費,文書料その他の費用等),②休業損害,③傷害慰謝料(入通院慰謝料)がありますが,ここでは治療関係費について説明します。

 

一 治療費,入院費

治療費や入院費は原則として実費全額が損害となりますが,損害と認められるには,事故との間に相当因果関係がなければなりませんので,必要性・相当性がなければなりません。
必要性,相当性を欠く場合には損害と認められませんので,実際に治療費や入院費が発生していても,過剰診療(診療行為に医学的な必要性や合理性がない場合)や高額診療(診療報酬額が特段の事由がないにもかかわらず,通常の水準より著しく高い場合)であるとの理由で損害と認められないことがあります。

 

二   入院中の特別室使用料(個室使用料,差額ベッド代等)

入院中の特別室使用料(個室使用料,差額ベッド代等)は,医師の指示がある場合や,症状が重篤である,空室がない等特別の事情がある場合に損害と認められます。
入院中,通常の大部屋の利用でも治療が可能であるにも関わらず,被害者が好みで個室等の特別室を利用しても損害とは認められないでしょう。

 

三 医療行為以外の症状改善のための費用

整骨院,接骨院,鍼灸,マッサージの施術費,温泉療養費等,医師による医療行為以外の症状改善のための費用については,医師の指示がある場合や必要性・有効性・合理性・相当性がある場合には相当額が損害と認められます。

 

四 症状固定後の治療費

症状固定(治療しても症状が改善しない状態)後の治療費は,原則として損害とは認められません。
もっとも,症状の内容や程度,治療の内容によっては,症状の悪化を防ぐ等の必要性があれば,症状固定後のリハビリ費用等の治療費が損害と認められることがありますし,将来行われる予定の治療行為や手術の費用が損害と認められることもあります。

【交通事故】共同不法行為責任と求償

2018-02-08

交通事故の被害者が複数の加害者に対して共同不法行為責任を追求することができる場合,被害者は各加害者に損害賠償額の全額を請求することができますが,被害者に過失があるときには,過失相殺はどうなるのでしょうか。

 

一 共同不法行為責任と過失相殺

共同不法行為の場合の過失相殺の方法としては,①損害発生の原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)に基づいて過失相殺をする方法(絶対的過失相殺)と,②各行為者と被害者ごとの過失割合に応じて,それぞれ過失相殺する方法(相殺的過失相殺)があります。どちらの方法によるかは,事案ごとに検討していくことになります。

 

二 絶対的過失相殺

1 絶対的過失相殺が認められる場合

複数の加害者の過失と被害者の過失が競合する一つの交通事故において,交通事故の原因となったすべての過失割合(絶対的過失割合)を認定することができるときには,絶対的過失相殺の方法がとられます(最判平成15年7月11日)。
絶対的過失割合が認定できる場合としては,三者間で起こった交通事故など,複数当事者間に同一場所で同時に発生した交通事故が考えられます。

例えば,被害者の損害額が1000万円で,絶対的過失割合が,被害者:加害者A:加害者B=1:1:2の場合,被害者の絶対的過失割合は2割5分(=1÷(1+1+2))となり,2割5分の過失相殺がなされますので,被害者は,加害者AとBの双方に対し750万円(=1000万円×(1-0.25))の損害賠償請求をすることができます。

 

2 求償

公平の観点から,共同不法行為者の一人が被害者の損害の全部または一部を賠償した場合には,自分の負担部分を超えて支払った額について他の共同不法行為者に求償することができると解されています。
先の例では,加害者Aと加害者Bの過失割合は1:2であり,Aの負担額は250万円(=750万円×1/3)となりますので,Aが被害者に750万円を支払った場合には,AはBに500万円(=750万円-250万円)を求償することができます。

 

三 相対的過失相殺

1 相対的過失相殺が認められる場合

複数の行為について共同不法行為が成立しても,一つの事故とはいえず,絶対的過失割合が認定できない場合には,相対的過失相殺の方法がとられます。
判例では,交通事故と医療過誤が競合し共同不法行為にあたる事案について相対的過失相殺の方法が採用されています(最判平成13年3月13日)。

例えば,被害者の損害額が1000万円で,被害者と各加害者の過失割合が,被害者:加害者A=2:8,被害者:加害者B=4:6の場合,加害者Aの損害賠償債務については2割の過失相殺がされて800万円(=1000万円×(1-0.2))となるのに対し,加害者Bの損害賠償債務については4割の過失相殺がされて600万円(=1000万円×(1-0.4))となり,AとBの債務は600万円の範囲で不真正連帯債務となります。

 

2 求償

相対的過失相殺が行われる場合も,共同不法行為者の一人が不真正連帯債務となっている部分について自己の負担部分を超えて支払った場合には,他の共同不法行為者に求償することができます。
各共同不法行為者の負担割合については,被害者との過失割合の対比によるのではなく,各行為者の損害発生への寄与度によるものと思われます。
先の例で,例えば,加害者Aと加害者Bの負担割合が4:6だとした場合,Aの負担部分は240万円(=600万円×4/10)となりますので,Aが被害者に800万円(Aのみが負う部分200万円とA・Bの不真正連帯債務となる部分600万円)を支払ったときは,AはBに360万円(=600万円-240万円)を求償することができます。

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