【交通事故】将来介護費

2018-02-26

交通事故被害者に重度の後遺障害があり,将来にわたって介護が必要な場合には,将来介護費が損害となります。

 

一 将来介護費

1 将来介護費とは

交通事故により被害者に介護を要する重度の後遺障害が残存した場合には,将来にわたり被害者の介護が必要となりますので,将来生じる介護費用も損害と認められます。
将来介護費が損害と認められる場合としては,自賠責保険後遺障害別表第1の1級(常に介護を要する後遺障害)または2級(随時介護を有する後遺障害)に該当する場合が多いですが,高次脳機能障害で介護が必要な場合等,後遺障害の内容や程度によっては,3級以下の後遺障害であっても認められることがあります。

 

2 介護費用の金額

介護費用の額は,職業付添人の場合は実費全額,近親者付添人の場合は1日8000円が目安とされていますが,後遺障害の内容や程度,介護の具体的な状況によって金額は増減します。

3 損害額の算定

将来介護費は一時金賠償方式が通常であり,損害額は被害者の平均余命までの期間にかかるであろう介護費用の額から中間利息を控除して計算します。
加害者側は,被害者が平均余命まで生存する可能性は少ないと主張して,介護を要する期間の長さを争ってくることがありますが,特別な事情がない限り,被害者は平均余命まで生存するものとして将来介護費を算定するのが通常です。

例 被害者の平均余命までの30年間,職業介護(日額2万円)をする場合
将来介護費=職業介護費(年額)×30年のライプニッツ係数
=2万円×365×15.3725=112,219,250円

また,現在は近親者介護をしている場合であっても,近親者が高齢になった場合には職業介護に切り替えることが想定されますので,近親者介護は近親者付添人が就労可能年齢である67歳になるまでとし,それ以降は職業介護によるものとして損害額を算定することが考えられます。

例 被害者の平均余命までの30年間,近親者が67歳となるまでの10年間は近親者介護(日額8000円)をし,それ以降の20年間は職業介護(日額2万円)をする場合

将来介護費=近親者介護費(年額)×10年のライプニッツ係数+職業介護費(年額)×(30年のライプニッツ係数-10年のライプニッツ係数)
=8000円×365×7.7217+2万円×365×(15.3725-7.7217)=22,547,364円+55,850,840円=78,398,204円

 

二 被害者が死亡した場合

後遺障害の逸失利益については,事故と別の原因で被害者が死亡した場合でも,事故の時点で死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り就労可能期間の認定上考慮しないと解されており(最高裁判所平成8年4月25日),死亡後の期間も損害となります(継続説)。
これに対し,交通事故被害者が事故のため介護を要する状態になった後に別の原因で死亡した場合には,死亡後の期間の介護費用を損害賠償請求することはできないと解されております(最高裁判所平成11年12月20日判決)。
逸失利益の場合と異なり介護費用の賠償は死亡時までに限定されておりますが(切断説),介護費用の賠償は被害者が現実に支出すべき費用を補填するものであり,死亡後は支出の必要がなくなるからです。

なお,将来介護費の一時金賠償を認める判決が確定した場合に,被害者が死亡したことにより,加害者が,請求異議の訴えをして将来の給付を免れたり,不当利得返還請求をして既払金の返還を求めたりすることができるかどうかは,別途問題となります。

 

三 定期金賠償方式

1 一時金賠償方式と定期金賠償方式

将来介護費の賠償は一時金賠償方式によることが通常ですが,定期金賠償方式によることもあります。
一時金賠償方式では平均余命まで生存するものとして将来介護費用を計算するため,被害者がいつまで生存するか不確実であるという問題点がありますが,定期金賠償方式では被害者が死亡するまで毎月一定額を支払うことになりますので,被害者の生存期間の不確実性は問題とならず,当事者にとって公平であるといえます。
また,定期金賠償を認める確定判決については,損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更がある場合には変更を求める訴えを提起することができますので(民事訴訟法117条),判決後に介護費用の額が不相当になった場合にも対応できます。

2 被害者が一時金賠償を求めている場合に定期金賠償とすることは許されるか

被害者が定期金賠償を求めている場合に定期金賠償を命じる判決をすることは基本的に問題ありません。
これに対し,被害者が一時金賠償を求めている場合に定期金賠償を命じる判決をすることは,処分権主義の観点や,被害者側からすれば賠償義務者の資力が将来どうなるか分からず,将来にわたって履行を受け続けることができるか不確実であるという不安があることから問題があります。
この点,最高裁判所昭和62年2月6日判決では,被害者が一時金賠償を求めている場合には,定期金賠償を命じる判決をすることは許されないとしていますので,被害者が将来介護費の一時金賠償を求めている場合に定期金賠償を命じる判決をすることは許されないと判断されることが多いといえます。
もっとも,一時金賠償方式では当事者間の公平を著しく欠く結果を招く危険がある等として,被害者が一時金賠償を求めているにもかかわらず定期金賠償を認めた裁判例(東京高裁平成25年3月14日判決)もあります。最高裁判所昭和62年2月6日判決は,民事訴訟法が改正される前のものであり,当時は民事訴訟法117条の規定はありませんでしたし,その後,介護費用の賠償は死亡時までとする最高裁判所平成11年12月20日判決が出されておりますので,今後はどのように判断されるか分かりません。

 

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