【離婚】養育費・婚姻費用を算定する場合の自営業者の総収入

2021-09-20

養育費や婚姻費用は標準算定方式や標準算定表を用いて算定するのが通常です。

標準算定方式では、当事者(権利者及び義務者)の総収入から生活に充てられる部分(基礎収入)を求めた上で、基礎収入額を計算式に当てはめて算定します。

また,標準算定表は、標準的なケースについて、標準算定方式に基づいて算定される婚姻費用や養育費を表に整理したものであり、当事者の総収入を表に当てはめて金額を算定します。

そのため、養育費請求事件や婚姻費用分担事件では当事者の総収入を把握することが重要となりますが、当事者が自営業者の場合,総収入はどのように算定するのでしょうか。

 

一 自営業者の総収入

給与所得者の場合、総収入は、基本的に源泉徴収票の「支払金額」や課税証明書の「給与の収入金額」の金額を指し、基礎収入は、総収入額から公租公課(所得税、住民税、社会保険料)、職業費(被服費、交通費等)、特別経費(住居費、医療費等)を控除した金額です。

 

これに対し、自営業者の場合は、事業の種類によって経費率が大きく異なるため、売上金額を総収入とすることは困難です。

そのため、自営業者の総収入は。所得税の確定申告書の「課税される所得金額」(「所得金額」から「所得から差し引かれる金額」を控除した額)を指します。

また、「課税される所得金額」は経費や社会保険料が既に控除されているため、基礎収入は、総収入から所得税、住民税。特別経費を控除した金額となります。

 

給与所得者の場合と自営業者の場合とでは、総収入の捉え方が異なるため、基礎収入割合が異なります。また,標準算定表の縦軸と横軸には給与所得者の年収と自営業者の年収がそれぞれ記載されています。

 

二 「課税される所得金額」に加算する項目

上述のとおり、自営業者の総収入は,所得税の確定申告書の「課税される所得金額」ですが、確定申告書の所得金額は税法上の観点から控除がなされたものであり、現実には支出していないのに控除されているものがあります。

そのため、「課税される所得金額」をそのまま総収入額とするのではなく、所得金額から税法上控除されているが現実には支出していない項目の金額を加算する等の修正をします。

 

1 「所得金額」の修正

確定申告書の「所得金額」は「収入金額等」から経費等を控除したものですが、現実に支出がなく,税法上の観点から控除が認められるものがあります。

「青色申告特別控除額」については、現実に支出がないので加算します。

「専従者給与(控除)の合計額」については、現実に支出がない場合がありますので、現実に支出がない場合には加算します。

 

減価償却費については、経費にはあたるものの、現実の支出はありませんが,資産取得のための借入金を返済している場合もありますので、加算すべきかどうか問題となります。

 

2 「所得から差し引かれる金額」の項目の修正

確定申告書の「所得から差し引かれる金額」の項目には、①雑損控除、②医療費控除、③社会保険料控除、④小規模企業共済等掛金控除、⑤生命保険料控除、⑥地震保険料控除、⑦寄附金控除、⑧寡婦、寡婦控除、⑨勤労学生、障害者控除、⑩配偶者(特別)控除、⑪扶養控除、⑫基礎控除があります。

 

このうち、①雑損控除、⑧寡婦、寡婦控除、⑨勤労学生、障害者控除、⑩配偶者(特別控除)、⑪扶養控除、⑫基礎控除については、現実の支出がないので、加算します。

 

②医療費控除、⑤生命保険料控除、⑥地震保険料控除については、現実の支出はありますが、基礎収入額を算定する際、標準的な額が特別経費として考慮されているので、基本的に加算します。

 

④小規模企業共済等掛金控除、⑦寄附金控除については、現実の支出はありますが、養育費や婚姻費用に優先させるべきものとはいえないので、基本的に加算すべきであると考えられています。

 

そのため、「所得から差し引かれる金額」のうち③社会保険料控除以外の項目の金額は「課税される所得金額」に加算するのが基本となります。

 

三 まとめ

以上のとおり、自営業者の総収入額は、確定申告書の「課税される所得金額」に、「青色申告特別控除額」、「専従者給与(控除)の合計額」(現実に支出がない場合)、「所得から差し引かれる金額」のうち社会保険料控除以外のもの等を加算した金額になります。

 

なお、確定申告書の内容が正しいかどうか争いとなることがありますし、自営業者は売上が安定せず、所得の変動が大きいこと等から、確定申告書があっても、総収入額が争いとなることがよくあります。

 

 

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