【親子問題】嫡出否認の訴え・調停
嫡出子について父子関係がないことを争う方法として嫡出否認の訴え・調停があります。
嫡出否認制度について令和4年に民法等が改正され、令和6年4月1日に施行されました。
一 嫡出否認の訴え
1 嫡出否認の訴えとは
嫡出子とは婚姻関係にある夫婦から生まれた子のことです。
民法には嫡出推定規定(民法772条)がありますが、嫡出推定される場合でも嫡出否認の訴えにより父子関係を争うことができます。
改正前の民法では、夫が子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認をすることができましたが(旧民法774条、777条)、行使できる人の範囲が狭く、行使期間も短かったことから、令和4年の民法改正(令和6年4月1日施行)により嫡出否認ができる人の範囲が拡大され、父、子、母、前夫は嫡出否認ができるようになりましたし(民法774条)、行使期間も原則として3年に延びました(民法777条)。
なお、改正法は施行後に生まれた子について適用され、施行前に生まれた子については改正前の法が適用されるのが原則です。ただし、施行日である令和6年4月1日より前に生まれた子については、その子や母親は令和6年4月1日から1年間に限り嫡出否認の訴えを提起することができます。
2 父の嫡出否認権
父は嫡出否認をすることができます(民法774条1項)。
父の否認権は子又は親権を行う母に対して行使します(民法775条1項1号)。親権を行う母に対して行使しようとする場合に親権を行う母がいないときは、家庭裁判所は特別代理人を選任します(民法775条2項)。
父が子の嫡出否認の訴えを提起する場合は、子の出生を知ったときから3年以内に提起しなければなりません(民法777条1号)。
父が子の出生前に死亡した場合や出訴期間内に訴えを提起しないで死亡した場合には、子のために相続権を害される者その他父の3親等内の血族は父の死亡の日から1年以内に限り訴えを提起することができます(人事訴訟法41条1項)。また、父が訴え提起後に死亡したときは、子のために相続権を害される者その他夫の3親等内の血族は父の死亡の日から6か月以内に訴訟手続を受け継ぐことができます(人事訴訟法41条2項)。
3 子の嫡出否認権
子は嫡出否認をすることができます(民法774条1項)。
子の否認権は父に対して行使します(民法775条1項2号)
子が嫡出否認の訴えを提起する場合は、出生の時から3年以内に提起しなければなりません(民法777条2号)。
子が出生から3年以内に自ら嫡出否認の訴えを提起することは現実的に困難ですから、子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人が、子のために行使することができます(民法774条2項)。これらの人が子の否認権の出訴期間の満了前6か月以内の間にいないときは、子はこれらの人により否認権行使ができるようになった時から6か月を経過するまでの間は嫡出否認の訴えを提起することができます(民法778条の2第1項)。
また、子は、要件(①父と継続して同居した期間(同居した期間が2回以上あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回ること、②否認権の行使が父による養育の状況に照らして父の利益を著しく害する場合でないこと)を満たす場合には、21歳に達するまで嫡出否認の訴えを提起することができます(民法778条の2第2項)。この規定は、子が自らの判断で嫡出否認権を行使することができるようにするための規定ですから、親権を行う母、親権を行う養親、未成年後見人が子のために嫡出否認権を行使する場合には適用されません(民法778条の2第3項)。
4 母の嫡出否認権
母には固有の嫡出否認権があります(民法774条3項本文)。ただし、否認権行使が子の利益を害することが明らかな場合は否認権を行使することができません(民法774条3項但書)。
母の否認権は父に対して行使します(民法775条1項3号)。
母が子の嫡出否認の訴えを提起する場合は、母が子の出生のときから3年以内に提起しなければなりません(民法777条3号)。
5 前夫の嫡出否認権
女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは出生の直近の婚姻における夫の子と推定されますが(民法772条3項)、嫡出否認されたときは、その前の婚姻における夫の子と推定されます(同条4項)。
民法772条3項により子の父が定められる場合、子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた父以外の者(前夫)は、子の嫡出を否認することができます(民法774条4項本文)。ただし、否認権の行使が子の利益を害することが明らかな場合は否認権を行使することはできません(民法774条4項但書)。
また、前夫が嫡出否認権を行使したことにより新たに子の父となった場合には、子が自らの嫡出であることを否認することはできません(民法774条5項)。
前夫の否認権は父及び子又は親権を行う母に対して行使します(民法775条1項4号)。親権を行う母に対して行使しようとする場合に、親権を行う母がいないときは、家庭裁判所は特別代理人を選任します(民法775条2項)。
前夫が子の嫡出否認の訴えを提起する場合は、前夫が子の出生を知ったときから3年以内に提起しなければなりません(民法777条4号)。
ただし、子が成年に達した後は提起することができません(民法778条の2第4項)。
6 後婚の夫の子と推定される子について嫡出否認された場合
女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは、出生の直近の婚姻の夫の子と推定されますが(民法772条3項)、嫡出否認されたときは、その前の婚姻の夫の子と推定されます(民法772条4項)。
その場合に、新たに子の父と定められた者、子、母、前夫が嫡出否認をするときは、嫡出否認の裁判が確定したことを知った時から1年以内に訴えを提起しなければなりません(民法778条)。
二 嫡出否認の調停
1 調停前置主義
人事訴訟事件については調停前置主義が採用されていますので(家事事件手続法257条1項)、嫡出否認をするには訴訟提起をする前に調停を申し立てなければなりません。
2 合意に相当する審判
嫡出否認は、公益性が強く、当事者の意思だけで解決することはできませんが、当事者に争いがない場合には簡易な手続で処理することが望ましいことから、まず調停手続を行い、当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し、原因事実について争いがない場合には、家庭裁判所は事実の調査をした上で合意が正当と認めるときには合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。
調停不成立の場合や合意に相当する審判による解決ができなかった場合には、嫡出否認の訴えにより解決を図ることになります。