【損害賠償請求】使用者責任

2017-04-25

ある会社の従業員が勤務中に交通事故を起こした場合,被害者は,直接の加害者である従業員だけでなく,その使用者である会社に対しても使用者責任を追及して損害賠償請求をすることができます。

 

一 民法715条の使用者責任

民法715条1項は「ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。」と規定しております。この使用者が負う責任のことを使用者責任といいます。

使用者責任については,選任・監督上のミスをした使用者の自己責任であり,立証責任を転換して,使用者に免責事由があることの立証責任を負わせる中間責任であるとする見解もありますが,一般的には,報償責任(利益を得る者は損失も負う)または危険責任(危険を支配する者は責任も負う)に基づくものであり,使用者が被用者に代わって責任を負う代位責任であると解されております。

 

二 要件

1 使用関係(事業のため他人を使用)

「事業のために他人を使用」している関係が必要です。

使用関係があるかどうかは,実質的な指揮監督関係があるかどうかで判断されます。

使用関係がある場合としては,雇用契約がある場合が典型ですが,実質的な指揮監督関係がある場合であれば,請負契約(元請人と下請人)や委任契約でも使用関係があると判断されます。

被害者保護の観点から使用関係の要件は広く解されており,実質的な指揮監督関係があれば,一時的な関係でも,営利性がなくても,違法な関係でも,契約関係がなくてもかまいません。

 

2 業務執行性

被用者の行為は「事業の執行について」なされたものでなければなりません。

(1)外形理論(外形標準理論)

「業務の執行について」なされたといえるかどうかは,使用者の事業の範囲に属し,被用者の職務の範囲内であるかで判断されますが,被用者の職務の範囲に属しないものであっても,行為の外形から観察して,被用者の職務の範囲内であるとみられる場合には事業の執行につきなされたものと判断されます(外形理論・外形標準説)。

外形理論(外形標準理論)は,被害者の外形に対する信頼を保護するものですから,被害者が被用者の職務の範囲内に属しないことを知っていた場合(悪意)や重大な過失により知らなかった場合(重過失)には,被害者の信頼を保護する必要はありませんので,「事業の執行について」なされた行為にはあたらないと解されております。

例えば,被用者から取引を持ちかけられて金銭を騙し取られた場合(取引的不法行為),被害者が,被用者の職務の範囲内だと思っていた場合には,重過失がない限り,「事業の執行について」なされたと判断されます。

 

(2)事実的不法行為の場合

交通事故や暴力行為等,事実行為による不法行為のことを,事実的不法行為といいます。

事実的不法行為の場合にも,外形理論(外形標準理論)で判断する判例はありますが,取引的不法行為の場合とは異なり,被害者が外形を信頼したかどうか問題とならず,外形理論(外形標準理論)が基準として適当ではないことがあります。

そのような場合には,加害行為が,使用者の支配領域内の危険に由来するものであるかどうか(被用者が交通事故を起こした場合),使用者の事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連性を有するかどうか(被用者が暴力行為をした場合)といった基準で,「業務の執行について」なされたといえるか判断されます。

 

3 被用者の不法行為

使用者責任は,代位責任であると解されておりますし,使用者は被用者に求償することができるので(民法715条3項),被用者が不法行為責任を負うことが前提となっております。

そのため,被用者について不法行為の要件を満たすことが必要となります。

 

4 免責事由の不存在

使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきときは使用者は責任を免れます(民法715条1項但書)。

免責事由が存在することは,責任を免れる側である使用者が立証しなければなりませんが,使用者責任は無過失責任に近いものと考えられているため,免責事由の存在は容易には認められません。

 

三 使用者の責任

1 不真正連帯債務

使用者責任の要件を満たす場合,使用者は,被害者に対し損害賠償義務を負いますが,被用者も民法709条により不法行為責任を負います。

使用者の責任と被用者の責任は,不真正連帯債務の関係にあたると解されており,被害者は,使用者と被用者のどちらに対しても,全額について損害賠償請求をすることができますが,一方が支払った場合,他方はその限度で責任を免れます。

 

2 求償

使用者が被害者に対し損害賠償義務を履行した場合,使用者は被用者に対し求償権を行使することができますが(民法715条3項),損害の公平な分担の見地から,信義則上,使用者の求償権の行使が制限され,全額は求償できないことがあります。

逆に,被用者が被害者に対し損害賠償義務を履行した場合,被用者は使用者に対し求償すること(逆求償)ができるのかどうか問題となります。被用者が使用者に求償できるとする条文はありませんが,逆求償を認めた裁判例もあります。被用者が故意に不法行為をした場合は別として,過失の場合,被用者と使用者のどちらが先に損害賠償するかによって被用者の負担が異なるのはおかしいので,事案によって逆求償は認められるべきでしょう。

 

四 代理監督者の責任

民法715条2項は「使用者に代わって事業を監督する者も,前項の責任を負う。」と規定しており,使用者に代わって事業を監督する者(代理監督者)も民法715条1項の責任を負います。

代理監督者は,客観的にみて,使用者に代わって現実に被用者を選任・監督する地位にある者のことをいい,肩書だけで判断されるわけではありません。

例えば,法人である使用者の代表取締役の場合,代表取締役という肩書があるだけでは代理監督者にはあたりませんが,現実に被用者の選任・監督をしていた場合には,代理監督者にあたります。

 

五 まとめ

直接の加害者に賠償能力がない場合であっても,使用者責任を追及することができる場合には,被害者は,加害者の使用者から損害賠償を受けることができますので,直接の加害者だけでなく,使用者に責任を追及することができる事案かどうか確認しましょう。

また,使用者からすれば,被用者が不法行為をした場合には,使用者自身も責任を追及されるおそれがありますので,被用者が問題を起こさないよう選任や監督に注意すべきですし,保険に入る等の対応をすべきでしょう。

 

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