【労働問題】退職後の競業避止義務契約と退職金返還義務

2015-10-23

会社は,従業員が退職する際,競合する事業を営んだり,競合他社に就職したりする等の競業行為を禁止し,違反した場合には,退職金の返還を約束させることがあります。

会社からすれば,自社の営業秘密やノウハウを守るため,元従業員に競業避止義務を負わせる必要があるですが,元従業員からすれば,前職での経験を生かせるので前職と同種の仕事をしたいという考えがあるため,使用者と元従業員との間で争いになることがあります。

そこで,退職後の競業避止義務契約と退職金の返還義務について簡単に説明します。

一 退職後の競業避止義務

競業避止義務とは,使用者と競業する行為をしない義務をいいます。

従業員は,在職中は,雇用契約上の付随義務として競業避止義務を負いますが,退職した後まで当然に競業避止義務を負うわけではありません。

しかし,従業員が,退職後に競業行為を行い,在職中に知り得た使用者の営業秘密を利用したり,使用者の顧客を奪ったりすれば,使用者は不利益を被りますので,使用者の立場からすれば,退職後の従業員にも競業避止義務を負わせる必要があります。

そのため,使用者は,就業規則に退職後も競業避止義務を負うと規定したり,従業員の退職時に競業避止義務契約を締結したりして,元従業員に退職後も競業避止義務を負わせようとします。

 

二 競業避止義務契約の有効性

使用者からすれば,元従業員に競業避止義務を負わせる必要がある一方で,競業避止義務は,元従業員の職業選択の自由(憲法22条1項)に対する制約となります。

そのため,競業避止義務契約は当然に効力が認められるわけではなく,内容によっては無効となります。

競業避止義務契約が有効かどうかは,①使用者の目的,②元従業員の地位,③期間,地域,職種の限定の有無,④代償措置の有無といった事情を総合的に考慮して判断されると解されております。

①使用者が営業秘密や独自のノウハウを守るために,元従業員に競業避止義務を負わせることは必要性があるといえますが,②営業秘密や独自のノウハウとは関わりの薄い従業員にまで退職後も競業避止義務を負わせることは,必要性,合理性があるとはいえないでしょう。

また,③退職後,無制限に競業避止義務を負わせることは元従業員の職業選択の自由の観点から問題がありますので,競業行為を禁止する期間,地域,職種の限定の有無や限定の範囲が有効性判断に影響します。

期間が1年以内であれば合理性があると判断されやすいですが,2年以上の場合には合理性がないと判断されるおそれがあります。

また,職種を限定せず,一般的,抽象的に競業行為を禁止することも合理性がないと判断されるおそれがあるでしょう。

さらに,④元従業員に競業避止義務を負わせることの代償措置が全くとられていない場合には有効性が否定されることが多いですし,代償措置がとられていても不十分な場合には,有効性が否定されるおそれがあります。

 

三 退職金の返還義務

競業避止義務契約では,競業避止義務に違反した場合のペナルティとして,使用者は元従業員に対し損害賠償請求することができると規定するほか,退職金の返還を請求することができると規定することがあります。

もっとも,退職金は労働の対価の後払いとしての性質もありますし,使用者に損害が生じていない場合や軽微な違反の場合にまで,退職金を返還しなければならないとすると,元従業員に酷な場合もあります。

そのため,競業避止義務に違反しても顕著な背信性がない場合には退職金の返還が認められないことがありますし,使用者が被った損害と退職金額が釣り合っていない場合には,返還額が制限されることがあります。

 

四 まとめ

以上のとおり,使用者は,元従業員に退職後も競業避止義務を負わせることはできますが,元従業員の職業選択の自由の観点から,無制限に競業避止義務を負わせることができるわけではなく,合理的な範囲に限られます。

また,元従業員が競業避止義務に違反したとしても,退職金の返還義務があるかどうか問題となります。

そのため,使用者と元従業員との間で争いになった場合には,競業避止義務契約の内容,元従業員の退職前後の仕事の内容,使用者の被った損害等を具体的に検討する必要があります。

 

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