【離婚】年金分割請求しないことの合意
一 事例
妻が離婚を求めて調停を申し立てました。
私は妻が年金分割請求をしないのであれば,離婚に応じようと考えております。
今のところ,妻も,私が離婚に応じるなら,年金分割請求はしないと言っていますが,後で妻の気が変わって,年金分割請求をしてくるのではないか心配です。
妻に年金分割請求しないことを約束させることはできないでしょうか。
二 合意分割の場合
年金分割をする際,3号分割の場合を除き,当事者間で,どのような割合で按分するのか定めなければなりません(上限は0.5です。)。
按分割合は,当事者の合意により定めるのが原則ですが,合意ができない場合には,家庭裁判所に申立てをし,調停または審判で按分割合を決めることになります。
審判では按分割合を0.5とされることがほとんどですが,当事者が協議や調停で合意する場合には,0.5を下回る割合とすることも可能です。
また,①相手方が年金分割請求をしないなら,離婚に応じる,②相手方が年金分割請求をしないなら,慰謝料請求をしない,③相手方が年金分割請求をしないのであれば,その分,財産上の給付をする等,当事者間で,年金分割請求をしないことを離婚の条件とすることがあります。
その場合,当事者間で裁判所に申立てをしない旨合意することはでき,家庭裁判所に申立てをして按分割合を定めなければ年金分割請求もできませんので,「請求すべき按分割合に関する処分の審判もしくは調停の申立てをしない。」という条項を入れることで,当事者間で,合意分割をしないことを取り決めることができます。
なお,年金分割請求権は公法上の請求権ですので,当事者間で清算条項を入れたとしても,それだけでは年金分割請求ができなくなるわけではありませんので,ご注意ください。詳しくは,コラム【離婚】年金分割と清算条項をご覧ください。
三 3号分割の場合
3号分割の場合には,按分割合は0.5と固定されており,当事者間で按分割合を定める必要はありません。
そのため,家庭裁判所への申立ては不要ですから,調停条項や和解条項に,家庭裁判所に申立てをしない旨の条項を入れたとしても,当事者の一方は,年金分割請求をすることができます。
そのため,当事者間で3号分割をしない旨合意したにもかかわらず,当事者の一方が合意に違反して,年金分割請求した場合には,当事者間では合意の不履行について紛争が生じる可能性はありますが,年金分割自体は有効であると考えられます。