預貯金の遺産分割

2017-08-11

これまで預貯金は一部を除いて法定相続分により当然分割されるので,遺産分割は不要であるという扱いでしたが,平成28年12月19日の最高裁判所の決定が出たことにより,今後は,預貯金についても遺産分割が必要になりました。

 

一 これまでの扱い

1 遺産分割の要否

預貯金は,可分債権であり,法定相続分の割合により当然に分割されるので,遺産分割は不要であるという扱いでした。
ただし,旧郵便局の定額郵便貯金については,預入から10年が経過して通常貯金となるまで分割払戻しができないので,遺産分割の対象となるとされていました。

 

2 遺産分割の可否

旧郵便局の定額郵便貯金を除く預貯金は遺産分割の対象ではありませんでしたが,相続人全員の合意で預貯金を遺産分割の対象とすることはできました。
例えば,相続財産が不動産と預貯金の場合に,ある相続人が不動産を取得し,他の相続人が預貯金を取得するという遺産分割をすることができました。

 

3 金融機関への払戻請求

旧郵便局の定額郵便貯金を除く預貯金は,可分債権であり,相続開始と同時に法定相続分の割合により当然に分割されるので,各相続人は金融機関に対し法定相続分の割合に相当する預貯金の払戻しを請求することができました。
金融機関が相続人全員の同意がなければ払戻請求に応じないという対応をしてきた場合には,各相続人は訴訟を提起することで,法定相続分の割合に相当する預貯金の払戻しを受けることができました。

 

二 これからの扱い

1 遺産分割の要否

①平成28年12月19日の最高裁判所の決定
普通預金,通常貯金,定期貯金について,相続開始と同時に当然に分割されることはなく,遺産分割の対象となるとされました。
②平成29年4月6日の最高裁判所の判決
定期預金,定期積金について,相続開始と同時に当然に分割されることはなく,遺産分割の対象となるとされました。
③その他の預貯金
すべての預貯金について判断されたわけではないですが,今後は,すべての預貯金について遺産分割の対象になると考えられます。

 

2 可分債権への影響

最高裁判所の決定や判決は,可分債権が遺産分割の対象となると判断したわけではありません。預貯金は,可分債権ではなく,相続人に準共有されていると解したものと思われます。
そのため,貸金債権や損害賠償請求権等の可分債権については,今後も当然分割され遺産分割の対象とはならないと解されます。

 

3 金融機関への払戻請求

預貯金について遺産分割が必要となるため,今後は,相続人全員の同意に基づき払戻請求するか,遺産分割をしてから払戻請求をしなければなりません。
一部の相続人が,金融機関に対し,法定相続分の割合の預貯金の払戻請求をすることはできなくなりました。
被相続人の預貯金から葬儀費用を支払う必要がある等,早期に預貯金の払戻しをする必要がある場合や,相続人の対立が激しい,行方不明の相続人がいる等の理由で,相続人全員の同意や遺産分割ができない場合には,相続人にとって困ったことになります。
そのような場合には,仮分割の仮処分の申立てをすることが考えられます。また,被相続人としては,遺言を作成して,預貯金を取得する人を決めておいたほうがよいでしょう。

 

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