【民事事件】請負代金請求事件
建築工事やリフォーム工事等の請負契約で,請負人が注文者に報酬(請負代金)の支払を請求する場合には,どのようなことが問題となるのでしょうか。
一 請負契約とは
請負契約は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,その効力を生ずる契約です(民法632条)。
請負人は工事を完成させる義務を負うのに対し,注文者は報酬(請負代金)を支払う義務を負います。
二 請負代金請求するための要件
請負代金の支払は後払いが原則であり(民法633条),請負代金請求をするには,基本的に①請負契約の成立,②仕事の完成が要件となります。
なお,仕事の完成前に支払う請負代金の全部または一部を支払う旨の特約がある場合には,①請負契約の成立,②特約の成立,③特約の内容となる事実の存在が要件となります。
1 請負契約の成立
請負契約の成立を主張するにあたっては,①契約の当事者,②契約締結日,③仕事の内容,④請負代金額を特定することになります。
なお,請負代金額を定めていない場合であっても,相当な報酬額を支払う合意があれば請負契約は成立しているものと解されます。商法512条は「その営業の範囲において他人のために行為をしたときは,相当な報酬を請求することができる。」と規定しておりますので,請負人が商人である場合には同条を根拠に報酬を請求することができます。
2 仕事の完成
注文者が請負人の仕事に納得していない場合には,仕事が完成したのか,未完成なのか争いとなることがあります。
建築請負工事の場合には,請負工事が予定されていた最後の工程まで終了していれば,仕事は完成したと判断されます。最終工程まで終えていない場合には未完成になりますが,最終工程まで一応終えている場合には完成となり,補修の必要があれば瑕疵修補請求や損害賠償請求の問題になります。
三 追加工事や変更工事をした場合
工事の途中で当初の予定を変更し,追加工事や変更工事が行われることがありますが,その場合,追加の請負代金を請求することができるかどうか争いとなることがあります。
当初の契約の内容が曖昧な場合には,当初の契約内容に含まれるのか,追加・変更工事には当たるのか争いになります。
また,追加・変更工事に当たる場合であっても,追加・変更工事を行うことについて合意がなければ,請負人が追加・変更工事の代金を請求することは難しいでしょう。
これに対し,追加・変更工事を行うことについて合意がある場合には,追加・変更工事の代金についても合意していれば,その代金の支払を請求することができるでしょうし,代金について合意がないときであっても,相当額の支払を請求することができるでしょう。
四 途中で終了してしまった場合
請負代金を請求するにあたっては,仕事が完成していることが要件となりますが,仕事が未完成であっても,請負代金を請求することができる場合があります。
①工事が可分であり,完成した部分の給付について注文者に利益がある場合には,完成部分の報酬を請求することができます。
②注文者の責に帰すべき事由により履行不能となった場合には,民法536条2項(危険負担の債権者主義)により,請負人は請負代金の全額を請求することができます。
もっとも,請負人は自己の債務を免れたことによって得た利益を注文者に償還しなければなりませんので(民法536条2項但書),請負人が請負代金全額の請求をしてきたときには,注文者は償還請求権をもって請負代金請求権と対当額で相殺する旨の意思表示(相殺の抗弁)をすることができます。
五 補修が問題となる場合
仕事の目的物に瑕疵がある場合には,瑕疵が重要でなく,修補に過分の費用を要するときを除き,注文者は請負人に対し,瑕疵の修補を請求することができます(民法634条1項)。
また,注文者は,瑕疵の修補に代えて,またはその補修とともに損害賠償請求をすることができます(民法634条2項)。
そのため,仕事の目的物に瑕疵があり補修が必要となる場合には,注文者は,瑕疵修補請求権との同時履行を主張することや,損害賠償請求権との同時履行や相殺を主張して,請負代金の支払を拒むことができます。