相続法改正 配偶者保護 持戻し免除の意思表示の推定

2019-04-09

相続法の改正により,2019年7月1日から,婚姻期間が20年以上の配偶者に居住用不動産を遺贈又は生前贈与した場合には,特別受益の持戻し免除の意思表示が推定されます。持戻しが免除されることにより,配偶者が遺産分割で取得できる財産が増えることになります。

 

一 特別受益の持戻しと持戻し免除の意思表示

1 特別受益の持戻し

共同相続人間の公平を図る観点から,共同相続人の中に被相続人から生前贈与等を受け,特別受益にあたる場合には,被相続人が持戻免除の意思表示をした場合を除き,持戻計算が行われます(民法903条)。

例えば,遺産総額が4000万円で相続人が配偶者と子2名の場合で,被相続人が配偶者に自宅(2000万円相当)を生前贈与していたときには,特別受益の持戻しにより,配偶者の具体的相続分は1000万円(計算式:(4000万円+2000万円)×2分の1-2000万円=1000万円),子の具体的相続分は,それぞれ1500万円(計算式:(4000万円+2000万円)×4分の1=1500万円)となります。

 

2 持戻し免除の意思表示

被相続人は持戻し免除の意思表示をすることもできます(民法903条)。
持戻し免除の意思表示をした場合には持戻し計算は行われません。

例えば,遺産総額が4000万円で相続人が配偶者と子2名の場合で,被相続人が配偶者に自宅(2000万円相当)を生前贈与するとともに,持戻し免除の意思表示をしていたときは,配偶者の具体的相続分は2000万円(計算式:4000万円×2分の1),子らの具体的相続分は1000万円(計算式:4000万円×4分の1)ずつとなります。

持戻し免除の意思表示に特別な方式はありません。また,明示の意思表示の場合のみならず,黙示の意思表示の場合もあります。

 

二 持戻し免除の意思表示の推定

相続法の改正により,婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは,持戻し免除の意思表示をしたものと推定されることになります(民法903条4項)。

被相続人が長年連れ添った配偶者への居住用不動産の贈与等をするのは,配偶者の貢献に報いるとともに,配偶者の老後の生活保障をするためであり,被相続人が持戻し計算をさせる意図であったとは通常考えられないからです。

居住用不動産に限定しているのは,居住用不動産が配偶者の老後の生活保障にとって重要だからですし,対象を広くすると配偶者以外の相続人への影響が大きくなるからです。
また,居住用不動産にあたるかどうかは遺贈や贈与をしたときを基準に判断するのが原則であると考えられます。

なお,推定規定ですので,被相続人は持戻しの免除をしないという意思表示をすることもできます。
また,改正規定が適用されるのは施行日(2019年7月1日)からであり,施行日前の遺贈等については適用されません(附則4条)。

 

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