【離婚】財産分与請求と保全手続
離婚事件で財産分与請求をする場合に、相手方が財産を処分してしまうおそれがあるときは保全手続を利用することが考えられます。
一 財産分与請求権を被保全権利とする保全処分
保全処分には、①仮差押え、②係争物に関する保全処分、③仮の地位を定める仮処分があります。
財産分与請求権を被保全権利とする保全処分は、仮差押えの場合と係争物に関する保全処分である不動産の処分禁止の仮処分の場合があります。
1 仮差押え
仮差押えは金銭の支払を目的とする債権を保全するための保全処分です(民事保全法20条1項)。
財産分与請求権は金銭の支払によるのが原則であるため、財産分与請求権を被保全権利とする保全処分としては、仮差押えによることが多いです。
仮差押えをすることにより、その後に債務者が財産を処分しても、債権者は債務名義を取得して強制執行することができます。
2 不動産の処分禁止の仮処分
財産分与で不動産の現物分与を求める場合に、相手方に不動産を処分され、第三者に登記を移されてしまうのを防ぐために、不動産処分禁止の仮処分の申立てをすることもあります。
仮処分命令の発令により、処分禁止の登記がなされた場合(民事保全法53条1項)には、その後に債務者が不動産を処分して、第三者に登記を移したとしても、債権者が本案訴訟で不動産の現物分与が認められて登記をするときは、処分禁止の登記に抵触する処分行為は債権者に対抗できず、債権者は単独で第三者の登記を抹消請求することができます(民事保全法58条)。
二 管轄裁判所
人事訴訟を本案とする保全命令事件は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する家庭裁判所が管轄します(人事訴訟法30条1項)。
そのため、財産分与請求権を被保全権利とする保全命令の申立ての場合には、①本案での管轄裁判所(離婚訴訟の管轄裁判所)又は、②仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する家庭裁判所が管轄裁判所となります。
三 被保全権利と保全の必要性
保全事件では、被保全権利と保全の必要性を疎明する必要があります。
1 仮差押えの場合
(1)被保全権利
仮差押命令は、金銭の支払いを目的とする債権を被保全権利とするものですから(民事保全法20条1項)、金銭給付の方法による財産分与請求権が被保全権利となります。
財産分与請求をするには離婚が成立しなければならないため、①婚姻関係が破綻していること,②財産分与請求権を疎明する必要があります。
(2)保全の必要性
保全の必要性は、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに認められます(民事保全法20条1項)。
また、保全の必要性は、仮差押の対象物の種類や債務者の受ける打撃の大きさも関係します。そのため、相手方の財産として自宅不動産と預貯金がある場合、通常は預貯金よりも自宅不動産を仮差押したほうが相手方の打撃が小さいと考えられますので、自宅不動産を仮差押の対象とすることが多いです。
2 処分禁止の仮処分の場合
(1)被保全権利
現物分与の方法による財産分与請求権が被保全権利となります。
①婚姻関係が破綻していること,②財産分与請求権を疎明する必要がありますが、財産分与請求権は金銭給付が原則であるため、処分禁止の仮処分命令の申立てをする場合には対象財産について現物分与される蓋然性があることを疎明する必要があります。
(2)保全の必要性
保全の必要性は、係争物の現状の変更により債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難があるときに認められます(民事保全法23条1項)。
四 担保金
保全処分により債務者が損害を被る可能性があるため、担保金を供託する必要があります。
担保金額は基本的に目的物の価格が基準となります。不動産が目的物となる場合は、固定資産税評価額を基準とすることが多いです。
財産分与の場合には通常の民事保全の場合よりも、担保金額が低くなる傾向にありますが、不動産が対象となる場合には担保金額も高額になるため、保全の申立てをするにあたっては担保金を準備できるかどうかが問題となります。
五 離婚成立後に財産分与請求する場合
離婚成立後は離婚訴訟の提起はできないので、人事訴訟を本案とする保全処分の申立てはできません。
もっとも、離婚成立後2年以内であれば財産分与調停・審判の申立てをすることができますので、審判前の保全処分の申立てをして、仮差押や処分禁止の仮処分をすることができます(家事事件手続法157条1項4号)。
なお、人事訴訟を本案とする保全処分の申立ては訴訟提起前でもできますが、審判前の保全処分の申立てをする場合には、家庭裁判所(または高等裁判所)に調停や審判が係属していることが必要となります(家事事件手続法105条)。
申立てをするときには、申立ての趣旨及び保全処分を求める事由を明らかにし(家事事件手続法106条1項)、保全処分を求める事由を疎明しなければなりません(家事事件手続法106条2項)。
また、審判前の保全処分の場合も担保の提供が必要となります。